大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第254話 金獅子海賊団・ダークサイド

 

 

 一応、公の発表としては、『金獅子海賊団』は新提督スゥに代替わりし、『金獅子のシキ』は引退したとされた。

 

 その頭目であるスゥは『王下七武海』の一員。

 ゆえに、その部下達はもちろん、傘下にいる全ての海賊団も含めて、無法を働くことはない。

 

 新体制になった彼ら彼女らは、今までとは違った温和な統治を推し進めており……ありし日の『白ひげ海賊団』と同じように、力のない者達を守り、手を差し伸べ、救い上げている。

 しかも、人員しかり経済しかり、その規模は、それこそ『白ひげ海賊団』を大きく上回るレベルであり……世界政府加盟国複数ヶ国分に匹敵すると言われている。

 

 また、与えるばかりでなく、様々な事業を通じて『雇用』や『流通』を作り、貧しい国々にも富と活力を与え、搾り取るどころか成長させ豊かにしていく。

 

 ゆえに、生まれ変わった『二代目金獅子海賊団』は……市民にも人気が高く、なんなら政府以上に万民に受け入れられる存在となっていた。

 

 一方で、裏の世界や海賊界隈では……それはあくまでポーズだと見られていた。

 

 かつて、“海賊王”“白ひげ”“ビッグ・マム”としのぎを削ってこの海で暴れまわり……その頭脳から生み出す策略で多くの敵を滅ぼし、絶望と惨劇を生み出してきたのが『金獅子』だ。

 

 そんな男が、強いとはいえ、年季も何も足りていない娘に全てを譲って大人しく隠居するなどありえない。皆、そう考えていた。

 今は恐らく、準備を進め、力を蓄える……雌伏の時。いわゆる、嵐の前の静けさだろうと。

 

 そして、時が来れば……本性を現し、その名をまたこの海にとどろかせるのだろうと。

 

 市民と海賊、それぞれが持つ……相反する2つのイメージ。

 

 その2つは……どちらも当たっていた。

 

 スゥ達が慈善事業じみた『支援』や『救済』を行い、ナワバリの島々を平和に収めているのは……かつての『金獅子』の時代からすれば、正真正銘の方針転換である。

 もちろん、統治する規模を考えれば、恐怖や暴力による支配より、こっちの方がはるかに効率がいいからという打算も大いにあるが……それでも、別に無意味に弱者を虐げて楽しめるような価値観の持ち主は、少なくとも『今の』上層部……スゥの周囲にはいないのだ。

 

 スゥはもちろん、その娘達や側近も含めて、そういった国々、島々、人々への接し方は、単なる『地』であり『素』である。裏表もなにもない、思うがままのふるまいだ。

 もちろん、この先それが裏切られて彼らが絶望に突き落とされることもない。

 

 一方で、『今の平穏は、『金獅子』が本性を現すまでの隠れ蓑である』という予想もまた正しい。

 

 シキは今、スゥやその周辺もきっちり巻き込んだ上で、いくつもの計画を同時進行で進めている。

 そしてそれらはほとんどが……穏当の『お』の字も、平和の『へ』の字もないような……実に海賊らしい、騒乱を孕んだ計略だった。

 

 早ければ、あと1年以内かそこらで、それらは白日の下にさらされる。

 その時、今まで平和そのものだったナワバリの様子からは考えられないほどの勢いで、激動の時代が幕を開けるのだ。

 

 その時の訪れを、シキも含めた『事情』を知る者達のほとんど全員が、今か今かと待ちわびていた。

 待ちわびながら、しかし今日も、力を蓄え、牙を研ぎ続けるのだ。

 

 

 

 そしてその『牙』は……こんなところでも、鋭すぎるほどに研ぎ続けられていた。

 

「よォ、どうだソゥ、調子は?」

 

「あら親分さん、お疲れ様でええす。急にどうしたんですかああ?」

 

 インカム型のノイズキャンセリング装置を身に着け、声を比較的常識的な範囲に抑えているソゥが、研究室に入ってきたシキに気づいてそう尋ねる。

 

「何、今ちょうど暇だから様子見に来てやったんだよ。頼んでた研究がどんな感じなのか、進捗も聞いときたかったしな」

 

「そうですかああ、じゃあちょっと待ってくださいねええ」

 

 そう言うとソゥは、研究のために動かしていた手を一旦止めた。

 そして次の瞬間……ソゥの足元から、まるでヘドロが湧き出すようなおぞましい動きで『カビ』の塊が増殖し、膨れ上がり……形を成していく。

 

 数秒後、そこには……もう1人ソゥが立っていた。

 

「……ヒュッ」

 

 反射的に胃に手をやって顔をしかめるシキ。

 在りし日のロジャーすら超えるストレスの種が、目の前で2人に増えたのだから、無理もない反応である。有能な部下だとわかっていても、体が今までに受けた被害を忘れてくれない。

 

 そんなシキに気づかず、2人のソゥの片方がもう片方に頼みごとをしていた。

 

「ちょっとここの研究の続きお願いねええ? 私は親分さんを案内して来るからああ」

 

「わかったわあああああ! まかせてえええええ!」

 

 瞬間、響き渡る凄まじい音量差の声。ひどい不意打ちにキーンってなるシキの耳。

 

(……ああ、そうか。今生み出した方はアイテムつけてねえから普通にうるせえのか)

 

「さて、それじゃ親分さん、行きましょうかああ?」

 

「ああ、うん、そうね。行くか」

 

 心にダメージになって突き刺さってくることはなるべく考えず、なるべく早く忘れる。

 ソゥと関わる時の鉄則をきちんと守って気持ちを切り替えつつ、シキはその部屋を後にした。

 

 

 ベネルディ・ソゥ。

 彼女もまた、シキにとっては『古参』の、最も信頼できる部下の1人である。

 

 色々と問題があるのは今更言うまでもないことだし、間にブランクこそあるものの、その技術力と知識は常に、『金獅子海賊団』にとって大きな力になってきた。

 

 何より彼女は、『海賊』としての自分と共に歩んできたことで……無用な情を捨て、非情に徹してことに取り組むということができる存在である。

 より砕けた、ないしシンプルな言い方をするなら……海賊として『悪いこと』をするのを許容でき……同時に、己の技術を存分に利用した『モラルハザード』を嬉々として起こすことができる……そんな器の持ち主だ。

 

 その点に限って言えば、娘であるスゥよりも明確に優れているとすら言えた。

 立場というものを考え、非情に徹するということができない……するつもりのないスゥの気質は、どちらかと言えばむしろ、かつて自分が何度もぶつかったあの男……己の自由を極め、貫き通し、ついには『海賊王』と呼ばれるまでに至った宿敵に通じるものがある。

 

 そうではないソゥはどうなのかというと……今もこうして、シキの指示のもとに、中々に極悪な内容の研究を任され、きちんと全て滞りなく進めている。

 それらの一部は、実の娘であり、表向きとはいえ海賊団トップのスゥにすら伏せられているものだった。

 今日、シキが極秘で視察しにきたのも、その類の研究成果だ。

 

「もうしわけありません親分さん、この先禁煙でお願いしまああす。煙とかそういうのに気を遣う繊細な実験設備が多いものでええ」

 

「おう」

 

 言われたとおりに、携帯灰皿(スゥの勧めで持ち始めた)に押し込んで葉巻を処分するシキ。

 

 そのまま少し歩き、いくつかの重厚な扉をくぐってたどり着いたのは……いくつもの『試験管』が並ぶ部屋だった。

 

 培養液で満たされた試験管の中には……一糸まとわぬ姿の人間が入っている。1つの試験管に、1人。眠っているようにおとなしく、水没しているのに呼吸に苦しんでいる様子はない。

 

 そして、その人間達は……どれも皆、同じ顔をしていた。

 

 少しでもSFに造詣がある者なら、それを聞いてすぐにこの光景の意味を悟ることができるだろう。そう……クローンである。

 この部屋は、シキの命令でソゥが研究している、クローン兵士の製造プラント……の、1つだ。

 

 見た目は問題なく人間に見えるそれらを前に、シキは問いかける。

 

「完成度はどうだ?」

 

「カタログスペック上は問題ありませええん。全個体一律に強化措置を施して、お望みの身体能力水準に仕上げてありまああす。実証実験は未実施ですが、プロトタイプでの検証では、相応の戦闘能力を有していることは確認できていますうう」

 

「そのカタログスペックと、身体能力の強化内容を具体的に説明しろ」

 

「海軍本部尉官クラスの身体能力をデフォルトで保持し、その上で『ルナーリア族』の血統因子を組み込んでタフネスをさらに強化していますうう。ただ、外見的に特異なものになるのを防ぐために一部の作用を抑えているため、強化幅は『セラフィム』ほどではありませええん。また、内臓及び神経には『プラーガ』と『カドゥ』を組み込み、身体機能と自己治癒力をさらに底上げし、戦闘行動の支障となる痛覚や一部の反射機能はやや鈍化させてありますうう」

 

「総合的な戦闘能力は、少佐か中佐くらいってことでいいか?」

 

「その認識で問題ないと思いますうう。ここからさらに強化するプランもありますが、その分コストは増しますし量産性は下がりますから、そのあたりのバランスを考えながらになりますねええ」

 

「なるほど……ま、クローンのスペックとしちゃ十分か。こいつら1体をここまで成長させるのにかかる期間は?」

 

「2日もあればああ。最速で6時間程度で実用段階まで成長させられますうう。もちろん、『ジュクジュクの実』の能力との併用必須ですけどおお。それなしだと年単位ですねええ」

 

 スノウ達が未来から持ってきた悪魔の実の中にあったものの1つ……『ジュクジュクの実』。

 それを、シキの指示により、ソゥの部下の1人であり、信頼できる研究者に食べさせていた。

 

 この実の能力者は、手で触れたものを『熟れさせる』能力を手に入れる。

 人間や動物、植物などの生物に使えば『成熟』し、見る見るうちに大きく成長する。一方で、無生物などに使った場合、熟れすぎて腐ってしまい、崩れ去る。

 

 そして、この能力の大きな特徴として……能力による成長は不可逆であることがあげられる。

 仮に、小さな子供に能力を使えば、中身が子供のまま、体だけを大人に成長させられるのだ。それも、特に副作用も何もなく、健康的な成長を遂げた姿に。

 成長した後は、ボニーの『トシトシの実』の能力と違い、もうもとの年齢に戻ることはない。

 

 これを応用し……ソゥは、本来であれば5年ほどかかるクローンの成熟を、わずか数時間から数日で可能にしていた。

 

 大人にするだけならもっと早い。それこそ、数分もあれば足りるだろう。

 それなりに時間がかかっているのは、少しずつ成長させながら、適宜投薬や改造手術を施し、細かく経過を観察しながら、小刻みに成長させていっているがゆえだ。

 

 それでも、理想の状態に仕上げたうえで、即戦力になる成人の兵士が出来上がるまで『2日』というのは、脅威的どころではない。

 

「どこかの国みたいに、クローンの軍団でも作るつもりなんですかああ?」

 

「表に出す兵士をクローン(こいつら)に挿げ替えるつもりはねえよ。別に困っちゃいねえしな。だが、裏で動かす精鋭……政府で言うCPみたいな立場の連中に、これらを使えるのは勝手がいい……安定して一定以上のスペックを持つ工作員、裏切る心配もなく、必要なら短期間で追加・補充できる。悪魔の実の能力ももちろん持たせられるんだよな?」

 

「もちろんですうう。ただ、私と違って『プラーガ』と『カドゥ』の機能は限定的なものに抑えてありますので、さすがに複数種類の能力を持たせるのは難しいですけどおお」

 

「それは別に構わん。実証実験はいつ頃実施する予定だ?」

 

「各種認知機能等をテストし、問題なければ来週を予定していますうう」

 

「結構。次行くぞ」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 その次にシキとソゥが訪れたのは……複数人の男女が楽しく過ごす、サロンのような場所だった。

 

 トランプやボードゲームなどの簡単な娯楽に興じたり、酒を棚から出して飲んだり、本を読んだり、他の者達と話したり……皆、楽しく過ごしているようだ。

 

 シキとソゥは、マジックミラーのような仕組みになっている特殊な壁越しに、その様子を眺めていた。

 彼ら彼女らの邪魔にならないように。そして、自然体でいるところを観察するために。

 

「健康状態は1日1回診断実施していますうう。今のところ、全員特に身体機能面、精神面、ともに問題は発生しておりませええん。皆、普通の人間のように、()()()()()()()()動かして過ごしていますうう」

 

 ソゥのその言い方は、まるで、目の前にいる者達が、『自分の体ではない体』を動かしているとでもいうようなそれ。

 そして……しかし、実際それはその通りだった。

 

 サロンの中にいる者達の特徴としては……皆、若く健康的な見た目であるということが上げられる。十代後半から二十代前半、といった者達がほとんどだった。中には数名、二十代後半程度に見える者や、もっと若く十代前半に見えるものもいるが。

 

 ……誰が想像できるだろう。ここにいる面々が全員、本当は……下は二十代だが、上は七十代や八十代の年齢の者達すらいるなどと。

 

 そう見えないのも当たり前である。彼ら彼女らの()()実際に若いのだから。

 

 仕組みは単純。

 先程のクローン兵士達と同じように、ソゥが、彼らの『血統因子』を元にして、クローンによるスペアの肉体を作り上げた。

 そして、ソゥの『オペオペの実』の能力で、新しい肉体に精神を移し替えたのである。

 

 彼らからすれば『若い頃の』肉体に、精神は問題なく馴染んだ。

 拒絶反応どころか違和感すら覚えることなく――多少の慣れは必要だったが――若く健康な体を手に入れ、彼ら彼女らは、過ぎ去った時間、あるいは失った時間を取り戻し、謳歌している。

 

「例えばあそこにいる緑色の髪の毛の女性、見えますかああ?」

 

「おう」

 

 部屋の隅で、何人かの男女と一緒にビリヤードに興じている、緑髪の女性。年齢は二十歳前後に見える。フレッシュさの中にも、どこか蟲惑的で男を誘うような……いや、からかって見下すような仕草や素振りが見え隠れしていた。

 

「名前はミス・オリーブ。20年以上前にインペルダウンに収監された海賊ですうう。当時の懸賞金は5000万ベリー、『頂上戦争』の時に脱獄し、そのままスゥちゃんについてここに来た囚人ないし新入りの1人ですねええ。本来は年齢は40超えてて、長期間の監獄生活で大きく衰えていたようでしたが、今はご覧のとおりですうう」

 

「若い体に乗り換えて、二度目の青春をお楽しみ中、ってところか?」

 

「本人達は『若返る手術を受けた』と思い込んでますけどねええ。私の『オペオペの実』の能力を広めるわけにはいきませんから、麻酔で眠らせてる間にちゃちゃっと入れ替えましたああ。もっとも、クローンは自我形成前のものを使いましたから、一方的に『移した』と同じですけどおお」

 

「構いやしねえよ。今の『体』にきちんと満足できてるなら、何も問題なんざねえだろうさ」

 

 ソゥの技術やその能力は、特級の秘匿事項として扱わなければならないレベルのものも多い。

 ゆえに、相手にもよるが、実際に行われている内容とは違うカバーストーリーを用意して、本人達に説明しておく、ということも普通にあった。

 これがある程度以上に信頼や実績がある者であれば、また違ってくるが。

 

「今回の人達はただ単にクローンとの精神の移し替えを行いましたが、次回以降はさらに被験者を募って、強化したクローンへの移し替えを試す予定ですうう。死にかけの大怪我人や重病人、引退やむなしの老兵が、強化された肉体で即戦力の兵士になるかもしれませんよおお?」

 

「結構じゃねえか……そのクローンだって1日2日でできるんだろ? 経験を積んだ精神を保ったまま、体は新品に次々入れ替えて戦場に復帰できる。場合によってはより強化された肉体にアップグレードすることさえできる……傷痍退役なんてもんとは無縁の軍団が出来上がるわけだ」

 

 『海賊王』の時代からの古強者であるシキには当然、その頃から自分に付き従い、忠誠を誓っている部下が何人もいる。

 しかしその大部分は、20年という時の流れの中で大きく体や覇気を衰えさせていた。

 

 その多くは『戦えるならまだ戦いたい』『金獅子海賊団の役に立ちたい』『この大海原で思う存分暴れたい』と思っている者達だったが、残酷にもそれができないのが現実だった。

 ……それも、『これまでは』になりつつあるわけだが。

 

 もちろんそこまで条件の整った古参などでなくとも、ある程度以上の戦闘能力と忠誠心のある者であれば、資格を見定めたうえで『ある程度』強化した体を与え、『代えの利く人造の精鋭』にすることもできるだろうが。

 

 それと同時にふと思い出したように、

 

「そういや、手っ取り早く強くなるために改造手術の実験台に志願してた新入り共が結構いただろ? あいつら使って試してみたらどうだ?」

 

「そのつもりですうう。改造手術受けるのにためらいがないくらいに自分の体に愛着も何もないなら、もともと強い、新しい体を用意して、そっちを改造した上で入れ替えちゃった方が、こっちとしても簡単でいいですしいい。本人達もきっと満足しますよねええ」

 

 もともと弱い肉体を多少改造したところでお察しですしね、と付け足すソゥ。

 

「不要になった体は、一度死体になった後、強化改造してから『カゲカゲの実』の能力でゾンビにすれば再利用できますよおお? 死体ですから、生体機能とか度外視で遠慮なく改造できますしいい。そのへんの研究はドクトル・ホグバックに一日の長がありますねええ。あるいは、『プラーガ』を寄生させて、労働力にする手もあるかとおお。知能が低下するので単純作業くらいしかできないでしょうけど、生命力は高いから劣悪な環境でもへっちゃらですよおお?」

 

「後者は表沙汰にしたくねえ開拓作業なんかにはうってつけだな。後で部下に、粉塵や有毒ガスの問題で開発中止になってる鉱山や採掘場のリストでも出させるか。だがゾンビの場合は、秘匿性を考えると……モリアよりも、アリスの奴が連れ回してるあの部下……ルププってのにやらせた方がいいな。夢が広がるねえ……つくづくお前に『オペオペの実』の能力を持たせてよかったと思うぜ」

 

「持たせてっていうか私が勝手に食べたんですけどねええ」

 

「お前自分でそれ言っちゃうのか」

 

 いやまあ確かにそうなんだけどな、と心の中でセルフツッコミしつつ言うシキ。

 すると、今度はソゥの方がふと思い出したように、

 

「そういえば、他にも変わった理由で改造手術をできないか相談が上がってましたねええ」

 

「変わった理由? 戦闘能力の強化じゃなくてか?」

 

「いえ、そのついでにこっちも、みたいな感じですうう。オプションとでもいえばいいかとおお」

 

 オプションってなんだ、兵装の増設か、とか思うシキだったが、答えは予想の斜め上だった。

 

「なんか、『本当は俺、いや私、女に生まれたかったの……』って、改造するついでにいらないものを取っちゃって欲しいって相談されましてええ」

 

「この話の流れですげーのぶっこんで来るなお前」

 

「できればきちんと女らしく、子供を産む機能も欲しいって言われましたああ。自分で育てたいから母乳も出るようにしてほしいそうですうう」

 

「その補足いらない」

 

 なんか配下の海賊の中に、男なのに母性を追求しようとしてるのがいると聞いて地味に衝撃を受けているシキ。

 誰だろう、知りたくない。でも後日会った時にいきなり女になってたりしたらそっちの方が衝撃だ、きちんと聞いておくべきだろうか。

 

「できなくはないんですけど、クローン作る際に性別をいじるのって、健康維持その他を考えるとちょっと不安定なんですよねええ。なので、もし性転換したければ、別個にアリスちゃんあたりに相談するよう助言しようかと思ってますうう。アリスちゃん、最近『覚醒』して、他人の性別も逆転させられるようになりましたしいい。あと、部下のタンタルちゃんが『ホルホルの実』の能力者ですから、ホルモンでの性転換もさせられますしいい」

 

「ルププの方といい、あいかわらずあの孫の周辺、変な風に充実しすぎてんな……ていうかお前、そんな真剣に検討してくれてたのね。結構無駄に律儀だよな」

 

「あとそれとは逆に、女だけど男になりたいって人もいましたああ」

 

「へー、そう」

 

「女のままで男の『機能』も欲しい、っていう人もいましたねええ」

 

「へー」

 

「これまた逆に男のまま女の『機能』を希望する人も……こういうの何ていうんでしたっけ? オメガ何とかって……」

 

「何なのうちの海賊団? なんでそんないっぱい性別を超越しようとしてる輩いるの? 多様性の時代なの? 俺全然そういうの知らなかったんだけど。結構ショックよマジで」

 

「福利厚生部門で、『カマバッカ王国』への社員旅行を検討してるみたいで、結構参加希望者多いみたいですよおお?」

 

「確実に研究部門と関係ねえ話題にまでシフトしたなついに」

 

「発案者はアリスちゃんだそうですうう。あとスゥちゃんも、呆れてはいたものの、取材対象としては興味あるかもって言ってましたああ。インペルダウンでもお世話になったそうですしいい」

 

「……もうめんどくさくなってきたわ。実害がない限りは好きにさせようかな」

 

 そのままグダグダになって……シキの視察は無事(?)終了となったのだった。

 

 

 

 

 

 ―――ゲホゲホッ

 

 

 

「? どうしました親分さん、風邪ですかああ?」

 

「ああ、いや、何でもねえ……ちっとむせただけだ、大丈夫……げほっ」

 

「……その咳、音からして、喉じゃなく肺から出てますねええ。葉巻の吸いすぎではああ? お年もお年ですし、少し控えた方がいいかもしれませんよおお?」

 

「大丈夫だっつってんだろ、好きなもん吸って体に悪ィわけあるか」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 シキが去った後のラボ。

 その奥にすたすたと歩いて向かうソゥ。

 

 向かった先は……シキを連れ回していた時には、案内しなかった区画……その一室だった。

 

 中に入ると、そこには……1人の少女が待っていた。

 入院患者が着用するような、ゆったりとした病人着を身に着けて、椅子に座って……ソゥがここに来るのを待っていた。

 

「ごめんなさいねええ、急な来客があって、遅くなっちゃってええ。ええと……『ツヴァイ』ちゃんでよかったわよねええ?」

 

「……はい」

 

 元『NEO海軍』所属……“バイス・アドミラル”のアイン……ではない。

 そのさらに未来から来た、この時代で言えば、『もう1人のアイン』と言っていいであろう存在……『ツヴァイ』。

 

 『グランリブート未遂』の一件の時に、スゥ達と知り合い……事件後、しばらくの間『金獅子海賊団』でその身を保護されていた。

 そしてそのしばらく後、スゥに連れられて、ゼファーの墓にあいさつしに行った後……この世界を自分の目で見て回る、と言い残し、この時代のアインと、ビンズと共に姿を消した女性。

 

 彼女が……何の因果か、こうしてここに戻ってきて……ソゥの前にいた。

 その理由は……

 

「既に聞いたことだけど、念のためにもう一度聞くわねええ? 本当に、その体を改造してしまっていいのかしらああ?」

 

「構いません。……もともとこの体は、このままじゃもう長くないですし……どの道、この先の時代を生きて……先生に代わって、この先の未来を見届けるためには……力が、命が必要ですから」

 

 ツヴァイが生きていた『未来の世界』で起こった、人間とセラフィムとの果てない戦争。

 その戦争が始まる前に、ツヴァイにとっての2人の恩人……ゼファーとスゥは、『S-アイビス』によって暗殺されてしまっていた。

 

 その後も続いた戦いの中で……ゼファーのかたき討ちのため、ツヴァイは何度も戦場を駆け抜け……しかし、重傷を負って、満足に戦うこともできなくなってしまった。

 どうにか傷はふさがったものの、長く続いた戦いで体中はボロボロ、後遺症もいくつも残り……寿命は大きく損なわれてしまった。

 

 この時代に来た時点で、そうだった。

 お世辞にも、とても戦える状態の肉体ではなかったのだ。最初から。

 

 それでもツヴァイは……この時代を生きて、ゼファーが信じ、スゥが紡いでいく未来がどんなものになるか……見届けたいと思った。

 そのためにも、まだまだ死んでなどいられないし、この世界を渡り歩くために力もいる。今はもう、失われてしまった力が。

 

「なるほどねええ……でも、それをスゥちゃんには内緒で、わざわざ遠回りに私に接触してきたのはどうしてええ?」

 

「…………なんとなく、です。あの人には……知られたくなくて」

 

 過去にあった……『NEO海軍』の一件よりもさらに前の、ツヴァイとスゥとの因縁。

 結局最後まで話すことができなかったそれを、ふと思い出し……尊敬して、感謝しているはずなのに……会いたいはずなのに、会いたくない、距離を取りたい、そんな風に考えてしまう自分に、嫌気がさしながらも……ソゥに対しても、ツヴァイはごまかした。

 

 ソゥはというと『ごまかされている』ということはわかっていたが、それをわざわざ追求しようとは思わなかった。

 

「わかった、話したくないならそれでいいわああ。じゃあ、さっそく手術を始めちゃうから、そこに寝てくれるかしらああ?」

 

「ありがとうございます。でも……本当にお礼は、何も……いいんですか?」

 

 ツヴァイからの頼みを……ソゥは、快く引き受けた。

 しかもなぜか、無償で。

 

 それは、ツヴァイの強い意志と覚悟に感銘を受けたから……ではない。

 

 このまま命の炎が尽きるのを待つばかりのツヴァイを憐れんだから……でもない。

 

 その理由は……

 

「いいのよおお、私もあなたにお礼をしたいしいい……それにどちらかというと、もうお礼は前払いでもらっちゃったようなものだからねええ」

 

「…………?」

 

 聞いてもよくわからなかったが……それ以上は何も言わず、ツヴァイはベッドに横になった。

 そして、ソゥが用意した麻酔を吸い込んで、すぐに意識が遠くなって……

 

 

 ☆☆☆

 

 

 それからわずか数分。

 無事に、ツヴァイの改造手術は終了した。まだ麻酔が効いていて、ツヴァイは目覚めていないが。

 

 その顔色はよく……不調はなさそうに見える。少なくとも、眠っている間に苦しいとかそういう症状は現れていないようだ。

 体中にあった傷や痣も、ほとんど全て消えていた。ソゥがどれだけ本気を出して『手術』を施したのかがうかがえる『出来栄え』だった。

 

 手術を終えたソゥは、また1人クローンを作り出し、まだ眠っているツヴァイを見ておいてもらえるように頼んで……1人、部屋を出た。

 

 そして、向かった先は……彼女が研究を行うラボの一角。

 そのうち、金属の加工などを行うエリアの……溶鉱炉の前。

 

 そこでソゥは、ポケットから何かを取り出した。

 

 それは、手のひらに収まるくらいの、小さな瓶だった。

 ガラスのようにも見えるが……微妙に質感が違い、もっと頑丈な素材であろうことがうかがえた。

 

 光が入らないようにだろうか、黒く塗られて中身が見えない。

 光が当たると変質してしまうような薬品・物質は意外と多いので、保管用の容器を黒塗りにするのは割とよくあることである。

 

 ポケットから取り出したそれを、しばしじっと見つめるソゥ。

 

 答えを言ってしまうと、瓶の中身は……クローン関係の研究に使用される触媒だった。

 最近ソゥが研究中に偶然できてしまったもので……その効果は、複数種類の血統因子を結合させて強化することができる、というもの。

 

 それも、現行の技術で可能な、『複数の生物』『複数の種族』の掛け合わせではなく……『複数の人物』『同一種族の複数個体』の掛け合わせである。

 理論上これを使えば、特定の個人の『血統因子』を掛け合わせることで、その長所のみを抽出し、複数融合させたキメラを生み出すことができる。

 

 極端な話……

 

 “海賊女帝”ボア・ハンコックの美貌。

 “ビッグ・マム”シャーロット・リンリンの肉体強度。

 “悪魔の子”ニコ・ロビンの頭脳。

 海軍本部“大参謀”つるの戦略眼。

 “ポイズンピンク”ヴィンスモーク・レイジュの毒耐性と、毒を操る体質。

 

 成功するかどうかはともかくとして、そういったものを掛け合わせた超人が出来上がる可能性もある……そんな代物だった。

 完全に偶然の産物としてできてしまったものであるため、これを再び作り出すことは、ソゥでも二度とできないだろう。

 

 そんな、貴重品かつ、研究における重要資材と言っていいそれを……しばしソゥは黙って見つめていた後……

 

 ぽいっ、と、溶鉱炉の中に放り込んだ。

 瓶は、たちまち燃え尽きた。中身もろとも。

 

「未来の世界で、コレが流出したのか、それとも何かの思惑で放出されて政府に渡ったのか……どっちでもいいけど、そこまでのレベルで誰にも制御できない『力』が生まれちゃうのは、さすがに私でもノーセンキューねええ」

 

 ソゥはすでに、『触媒』を使って実験を何度か行っていた。

 そのうちの何回かは成功し、抽出した血統因子の優れた点を併せ持ったキメラ型クローンが誕生したものの……同時に、ある副作用が判明していた。

 

 血統因子をより多く、より優れたものを掛け合わせるほどに……クローンの自我がより強く、より複雑になっていく傾向があったのである。

 中には、こちらの指示に素直に従わなかったり、自分の方が能力的に優れているのに、劣っている研究員達に従う必要はあるのか、など、不穏なことを考え始める個体すら誕生していた。

 

 そして……ソゥは、ツヴァイから……近い将来、『触媒』を使った血統因子の融合によって誕生したのであろう、とある人造の災厄の存在について聞いていた。

 政府の兵器として生み出されたはずが、完成前に既に強い自我を確立させ、完成と同時に人類に反旗を翻し、人類と『セラフィム』の戦争の時代の火付け役となった存在。

 

 無数の血統因子を融合させた結果として生まれたキメラ……『セラフィム・クイーン』。

 

 

「ましてや、自分の子供が死ぬ未来の……きっかけになるものなんて、ね」

 

 

 その厄災が生まれるはずの未来が……たった今、潰えた。

 燃えて溶けて跡形もなくなった、瓶の中身と共に。

 

 人知れず、1つの災厄が誕生する未来を潰したソゥは……そのままま、『さて、仕事仕事』と、元居た場所に戻り、研究を再開した。

 

 

 

 

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