今後これが活きてくる機会があるかどうかはわかりませんが……一応初期から決めていた設定ではあるので、出してみました。
苦手な方いたらすいません。
それと、あとがきでちょっと報告があるので、読んでいってもらえたら幸いです。
「ふむ……今回もいい出来じゃな! 食卓での母上達の笑顔が目に浮かぶようじゃ!」
スズはそう言って、うんうん、と満足げにうなずく。
その目の前には、見渡す限り、黄金色に輝く見事な稲穂が実った田んぼが広がっていた。この田でスズとその部下達が育てていた米が、収穫の時期を迎えたのである。
現在、動きやすい農民スタイルに着替えたスズをはじめ、部下達や、配下の農夫たち、さらにはその他の臨時の労働力達まで総動員での稲刈りの最中である。
『臨時』の中には、『金獅子海賊団』のナワバリ、主に貧困国などから召集した者達も含まれていた。
もちろん、奴隷として強制的に連れて来た……などというわけではなく、きちんと希望制であるし、待遇もそこらの出稼ぎより断然いい。
広大な農地で農作業を行うため、労力的には相応にきついものの、食事は1日3食出る。しかも食べ放題。さらには、味も品質も、自分達が貧困国でどうにか食べられる質の悪いものとは一線を画すレベルのそれ。
そんな好条件で、きちんと雇用期間を全うすれば、それなりの額の給料も出る。
さらに、途中で体を壊しても、放り出されるようなことはなく、きちんと医者にも見せてもらえるし、万が一途中でリタイアになってしまっても、その時点までの給料は日割り計算で出る。
どう考えても、普段の自分達の生活よりも断然好条件であり、スズの『農作業バイト』は、ほぼ全ての貧困層のナワバリで、最も人気の『出稼ぎ先』だった。
募集が始まってすぐに希望者が殺到し、1時間とかからずに定員になってしまうほどである。
とどめに、毎度スズが気前よくそのバイト達に『お土産』として大量の作物を持ち帰らせる――しかも、海賊団がやっている『食糧支援』とはまた別に――ものだから、仕事そのもののみならず、スズの評判はナワバリ全体でも屈指の人気ぶりである。
もっとも、スズからすると、単に毎度豊作すぎて全部回収するとメルヴィユの食糧庫がパンクしそうになるからおすそ分けしているだけであるし、一緒に頑張ったのだから皆にも食べて感動を分かち合いたい、という程度の、簡単で純粋な考えである。
「スズ様! 9番から16番までの田んぼの稲刈り終わりました!」
「25番から32番までもです! この後はどうしますか?」
「おお、手際がいいのう、結構、結構。稲刈りが終わったら次は稲架懸けじゃな、稲を結ってまとめて、作っておいた木枠……あそこにあるじゃろ? あれにかけて乾かすんじゃ。細かいやり方は……赤い布を腕に巻いとる者達に聞け。このバイト2回目以降の経験者じゃ」
「わかりました!」
「うむ、頑張れよ。では
「あいわかりましてございます、スズ様」
『田植えもん』と呼ばれた、人のよさそうな人相の大男……スズの直属の部下の1人であるその男は、大きくうなずいてスズを見送った。
その場からすぐに、空中を走って移動するスズ。
次の収穫現場にはすぐに到着した。そこには……
「あ、スズ! こっちこっちー!」
「おぉ、スズ殿、よくいらっしゃいましたのう」
「見てくだされ、どの野菜も立派に実りましたぞ」
そこに待っていたのは、ルウェンやリリー、パンズフライをはじめとした、何人もの巨人族達。
スズのナワバリであるこの島には、普通の島では暮らしづらい巨人族達も多く暮らしているのに加え、収穫期には他の島で暮らしている巨人族たちも応援に駆け付ける。ちょうど向こうにいる、ボビーとポーゴの漁師コンビのように。
なので今の時期は、大勢で農作業にいそしむ巨人族という、色々すごい光景が見られるのだ。
「しかし、ボビー達2人から始まって、随分と巨人族も増えたのう……わし、勝手に巨人族ってこう……珍しくてあんまりお目にかかれん種族だと思っとったんじゃが」
「世間一般で言ったらそりゃあ、ちゃんと珍しい種族だろうとも。ただまあ、ここにこうして多くの巨人族達が集まってきたのは、半ば必然だったのだろうよ」
「確かにな。チビ人間共の住む島では、大食らいで場所も取る我らは肩身が狭いし、油断すれば人攫い屋に狙われる。生きづらさと隣り合わせだ。そこへ行くとここでの生活はまさに楽園よ」
「脅かされる不安もなく、のびのびと過ごせる。おまけに、美味い飯が腹いっぱい食える! わしらのような、争い事を好むわけではない者達にとっては、ああ、まさに楽園よなあ」
「ええ……子供達を安全に、食べ物に困らせることなく育てられるというだけで、本当にありがたいです」
「あたしもここ好きー! スズちゃんのことも好きー! 美味しいから!」
「おい、それだとスズお嬢さんが美味しいみたくなってるっての」
彼らが収穫作業を行っているのは、彼らのサイズに見合った大きさの巨大な野菜や果物だった。
彼らの故郷『エルバフ』では、木々も作物も魚も、全てが彼ら『巨人族』に見合ったように巨大である。そこから持ち出して保管していた種や苗木が、この『空島』の環境にうまく適合し、こうして収穫できるようになったのだ。
中には、ソゥの手でさらに品種改良され、収穫量が増えたり、味がよくなったものもある。
そんな風に、『巨人族が暮らせる環境』が整った島であるがゆえに、気づけばスズの元には……配下というわけではないが、労力を提供する代わりの安住を求めて、あちこちで行き場を探していた巨人族達が集まってきていた。
今では、老若男女20人を超える巨人族がそこには暮らしていた。
さらに、リリー達のように、ここには暮らしていないが、時折訪れる者達も含めれば、関わりを持っている巨人族はもっと多くなる。
「嫁と子供2人……家族4人、飢えることなく幸せに暮らせる……『戦士』になる度胸もない俺には、到底望めぬ夢だと思っていた……それがここでは……。スズお嬢、本当にありがとうよ……!」
『巨兵海賊団』や、エルバフ出身の戦士達のように、海賊上等の荒くれ者達のように、戦いに生きる者ばかりが巨人ではない。中には、争いを好まない者も当然いる。
そんな者達にとって、ここはまさに……理想の住処だったのだ。
「ええい、やめんかこそばゆい。感謝されるのは悪い気分ではないが、こんな小娘にそんな風に腰を低くするものではなかろう。一家の大黒柱として堂々と構えておかんか」
「仕方ないってスズちゃん、うちのひとは元々こんななんだから。『エルバフ』出身なのに戦士になれなくてさ。そこ行くとスズちゃんは偉いねえ……今じゃ『新世界』でも名の通ったいっぱしの海賊だって言うじゃないか。勇ましくって結構なことだよ、うちの子の嫁に欲しいくらいさ」
「? 母ちゃん何か言ったかー?」
「何でもないよ! ほら、昼飯の前にギガントカボチャの収穫終わらせちまいな!」
「わかったー!」
離れたところで、巨人族の顔ほどに大きなカボチャを収穫している、その『うちの子』に指示を飛ばしつつ、そんな風に冗談めかして言う、巨人族の女性。
冗談だろうとは皆わかっているものの、スズが強いし勇ましいという点には同意だったためか、『確かにその通りだ!』などと言って皆笑っている。
「でもねスズちゃん、ホントにあたしら皆、感謝してるんだよ。さっき誰かが言ってた通り、巨人族はどこに行っても、色んな理由で安住が難しい身の上だからねえ。特に、ろくに戦う力もない子供を連れて、家族そろって幸せになんて……『エルバフ』でもなければ夢物語同然なのさ」
「むぅ……そうなのか」
「そ。だからここは正真正銘、あたしらにとっての天国で……ここに暮らす皆は家族も同じ。もちろんスズちゃんもね! 何か困ったことがあったら言いなよ? 居場所を、何より家族を守るためなら、皆全力で力になるからさ! もちろんうちの人もケツ蹴っ飛ばしてでも働かせるよ!」
「いや、そんなことしなくたってその時ゃ俺だって頑張るよ……」
そんな夫婦漫才じみたやり取りに、がはははは、と見ている面々がおかしそうに豪快に笑う。
それを見て同じように笑っていたスズは、ふと、
(……家族、か)
目の前で仲良さそうに笑い合う巨人の4人家族を見て、そんなことを思った。
もちろん、彼女にとって家族と言えば、血縁こそないが、妹2人……と、新しく未来から来た妹(兼、姪)、そして母親であるスゥだ。他、シキやソゥもいる。
これらの面々が『自分の家族だ』と胸を張って言えるし、心から愛している。
しかし、ごくまれに……今のような光景を見た時にふと頭をよぎるのが、『自分に『血のつながった家族』はいるのだろうか』ということだった。
知識としてだけ、自分の故郷であると知っている『ワノ国』。まだ物心もついたかつかないか、という頃に国を連れ出され――しかもそれに至った経緯も何も知らない――あの『毒島』に来た。
それ以前のことを何も知らない。父や母の顔も、そもそも自分に家族がいたのかどうかすらも。
無論、こうして生まれているのだから父も母もいるにはいるのだろうが。
だから不満だとか、寂しいとか、そう言った感情は特にないが……全く気にならないというわけでもなかった。
血のつながった家族……父や母、祖父母……あるいは、兄弟姉妹。
いるのだろうか、自分にも。
(やっぱり、顔や髪色が似とるんじゃろうか。剣の腕は達者なのか、生業は何をやっとるのか……そもそも『黒炭家』って、ワノ国ではどんな立ち位置なんじゃろうな? 別段特別でもない在野の民草か、それとも、『秘伝の書』なんて作るくらいじゃし、それなりの名家なのか……)
気にはなるが、それを確かめる術はない。
祖父であるシキに聞いた話では、『ワノ国』には、『四皇』の一角である“最強生物”……『百獣のカイドウ』がナワバリとして居を構えているという。おいそれと近づける場所ではない。
(いずれほぼ確定の未来として『ビッグ・マム海賊団』との抗争を控えておる現状、それに加えて『百獣』まで相手にするなど、いくら何でも無謀じゃしの……。しかし、もし行く機会がいつか来たのなら……暇つぶしに探してみてもいいかもしれんな。『家族』……もとい、『肉親』とやら)
先ほど言ったように、寂しいとか不満があるわけではない。
しかし、母であるスゥが、『血のつながった家族』であるシキやソゥと話しているのを見て、どんな感じなんだろう、と気になってしまう時はあった。
血管の中身が半分同じ肉親……お腹を痛めて産み落としてくれた母親……。
自分にもいるのだとしたら、どんなものなのだろう、どんな風に感じるのだろう、と。
そんな機会が、この先来るのかどうか。
仮にその時になって、ワノ国の『現状』を目にしたとき、彼女はどう思い、どう動くのか。
そして、その『肉親』は見つかるのだろうか。
……まだ、誰も知らない。
☆☆☆
「おかわり!」
「ま、まだ食べるんですか!?」
「もう10杯目だよ……そんなに食って腹はちきれちゃわないのかい、レオナ?」
「大丈夫だって! このくらい消化すぐだから! な、アイサ?」
「いやあたいに同意もとめんなって……あたいは普通の食欲しかないんだから。っていうか、横で見てるだけで腹いっぱいになってきた……」
ここは、空島『スカイピア』。
その中心部にある、大地のある島『アッパーヤード』。
その中心部にある、かつての黄金都市にして……今は、『神の御膝元』『平和と友好の象徴』として知られる都市『シャンドラ』。
その一角に開かれている食堂。
スカイピアの名産となったカボチャを使った料理をメインで出しているそこで……久しぶりに『スカイピア』に遊びに来たレオナが、思う存分食事を楽しんでいた。
ここにいた頃と比べてかなりの健啖家になっていたため、周りの者達は若干、いやだいぶ、いやすごく驚いていたが。
「この調子だとこの店の食材食い尽くしちゃうんじゃないの……? あっちにいるあんたの連れやペット2匹も結構食べてるし」
ラキが呆れた表情になりながらちらっと見る先には、今回の帰省のお供として連れて来た、メイド隊のルプーとシズ、そしてペット2匹がいて……それぞれ別な料理を食べている。
メイド隊の中でも健啖家な2人に加えて、ペット達……狼2匹。
それぞれ『シャン』と『ドラ』と名付けられたその狼2匹……『ドラ』はスカイピア生まれの雲ウルフで、『シャン』は青海生まれの軍隊ウルフである。
なお、『シャン』の方は割と最近レオナに拾われ、メルヴィユ動物王国に加わっていた。『似た感じのいるし仲良くなれるかも』という理由でここに連れてこられていた。
シズ以外はここまで空を『走って』来たのに加え、その足でアッパーヤードの中心部近くの森にあそびに行き、アイサやノラ達と遊んだ後なので、お腹が減って食が進んでいるようだ。
もっとも、スラスターで飛んできたシズも、エネルギー消費の関係でお腹は減っていたが。
「あっはっは、それならそれで構わないよ。ほかにも店はいっぱいあるからね、存分にお食べ」
「ありがとーおばちゃん! あ、そーだ、もしよかったらさ、
「こらこら、そんなこと何の相談もなしに言っちゃダメでしょ。あんたのお母さん……スゥって、青海の『海賊』とかっていうのの結構なお偉いさんなんでしょ? せめて相談しなきゃ……」
「大丈夫だと思うけどなあ。今だって、しまう倉庫がなくてどうしようかって困ってるくらいだし」
「(ごくん)まあそれでも一応相談はした方がいいっすよ、レオナお嬢様。スズお嬢様の裁量で決められる範囲のことだとは思うっすけど……」
「それはそれとして、スズお嬢様の方で使い道を決めてるかもしれないし……そもそも断りなく勝手に物事を進めるのはダメ。スゥお嬢様に怒られる」
「あーうん、それは確かにそうか……わかった、あとで聞いとこ」
「その前にこっちの人達に『おすそ分け要るかどうか』の確認もしな。いきなりどっさり野菜とか持ってこられてもそれはそれで困るでしょうが」
そんな風に、ゆるい感じで話しているレオナ達を見て、隣で食べ終わって待っているアイサはというと、なぜか感心したような表情になっていた。
「なんか……前から聞いてはいたけど、青海にいるレオナの家族って、皆すごいんだな。『海賊』で……すごく強い上に、そんな、なんか……食べ物もいっぱい作ってるんだ?」
「うん? まあ、スズのアレは趣味でやりたいようにやってるだけらしいけどな。私もまあ、メルヴィユでは色々好き放題させてもらってるし。あっちこっちで動物拾ってきたりとかさ」
ちらっと向こうにいる2匹……『シャン』と『ドラ』を見ながら言うレオナ。
拾ってきて、そしてその全員ともれなく仲良くなる力を持っている『メルヴィユ動物王国』の女王(自覚なし)。
さらに最近では、『動物』や『元動物のTABOO』とはまた別なくくりになる、イリスの作った一部の『ホーミーズ』とすら仲良くなっている。特に、動物など由来のそれとは顕著である。
ゆえにレオナは、その気になれば新世界級の海賊団1つを軽く上回る動物達の戦力を動員できる『力』を持っていたりする。
もっとも、そういう動物達もまた『友達』や『家族』としてそれらを見ているレオナに、そんなつもりは毛頭ないのだが……もしもそのレオナに危機が迫りでもすれば、メルヴィユ中の動物達が一斉に立ち上がるのであろうことは想像に難くない。
レオナがそういう性格ないし性質であることはアイサも知っていたため、今更その、自分以外の『家族』やら何やらに嫉妬したりすることもなかった。
が、不安や嫉妬はないが『興味』はあった。どんな奴らで、どんなところで、どんな風に過ごしているのだろうと。
それを察したのかどうかはわからないが、おかわりしたどんぶり(カボチャ製)を早くもまた空にしたレオナは、ふぅ、と一息つきつつ、
「なんだったらアイサ、今度うちに遊びに来るか? そういえば、私は何度もこっちに里帰りしに来てるけど、アイサが『メルヴィユ』に来たことってなかったもんな」
「え、いいの?」
「いいよもちろん。今度母ちゃんに言っとくからさ、へへへ……何だったら、メルヴィユ以外にも色々なとこ案内して見せてやるからさ! あ、ならどうせだからラキとかコニスとかノラもどう?」
「ちょっとちょっと、さすがにいきなりすぎるでしょ……てか、ノラなんか連れてったらその動物達がびっくりしちゃうんじゃないの? 気性はいいとはいえ、あんなデカい蛇なんだから」
「平気だよー、うちにもデカい動物なら他にもいるし、なんだったらデカい人間もいるし」
「そうなんだ……レオナの家ってすげー……」
目を輝かせるアイサを見て、レオナ自身も嬉しくなって、今からその時が楽しみになっていた。
言うまでもなく、アイサもレオナにとって大切な『家族』の1人だ。
その家族が楽しく過ごしてくれるなら、レオナにとっても嬉しいし、今自分が住んでいるメルヴィユを案内することでそうなってくれるならもっと嬉しい。
そしてもちろん、メルヴィユにいる自分の『家族』や『友達』たちと仲良くなって、お互いに楽しく過ごせて幸せになれるようなら、さらに嬉しい。
レオナにとって『家族』とは、血がつながっていようがいまいが関係ない、自分にとって大切な……幸せになってほしい、一緒に幸せになりたい全ての者のことを言うのだ。
そしてそれは、今そうして認めている者達よりも……この先の未来、さらに多く増えていくことになるのだろうし、そうなればなるほど嬉しいことだと、彼女は疑うことなく信じていた。
☆☆☆
(……家族、か……)
そして……また所変わって。
ここは、新世界にある、とある島。
人も住んでおらず、特段見るものもない、静かなだけの無人島。
そこを、アリスは1人訪れていた。
ここに来ることは、誰にも知らせていない。姉妹たちにも……スゥにも。
ただ『ちょっと出かけるね』とだけ言って家を留守にして、1人でここに来ていた。
個人的な、ある用事のために。
アリスの目の前にあるのは……墓標だった。
数mはあろう大きな薙刀が突き立てられ、風雨にさらされつつも形を保っている大きなコートと……白いひげが特徴的な衣装『
刻まれているのは……この時代を生きる者なら、誰でも知っている名前。
『エドワード・ニューゲート』
アリスよりも前に誰かが訪れたのだろうか。花束が置かれている。
くすりと笑うと、アリスは……持ってきていた花束を、黙ってその隣に置いた。
「72歳、か……そんなに生きたんだね。そりゃ、あんな貫禄あるひげが似合う男にもなるか」
ゆっくりと胡坐をかいて座りながら、そんな風に墓に語り掛けるアリス。
妙になれなれしいというか、距離が近い風なその口調は……かつて『白ひげ』が息子と呼んだ男達とも、怖いもの知らずのルフィとも、また違う何かを感じさせた。
「あの時……マリンフォードで見た時は、まだ思い出せてなかったけど。もし、あの時お前のことを思い出してたら、何か変わってたのかな……なんてね」
まるで、とても親しい誰かに語り掛けるような口調と態度。
全く接点などなかったはずのこの少女が、なぜ、親子どころか祖父と孫以上に年が離れた人物に対して、そんな風に声をかけるのか。誰かが見ていれば不思議に思ったことだろう。
「こないだ行ってきたよ……『スフィンクス』っていうんだってね、あの村。今は、エースさん達がナワバリとして面倒見てくれてるようだけど……あの、治安悪くて滅茶苦茶だった国に、よくもまあ、あんな『優しい村』を作れたもんだ。人攫いも出ない、争いも起こらない……ボクらがいた頃とは、何もかも違いすぎて……事前に話を聞いて知らなかったら、とても気づけなかったと思う」
アリスはなぜか、少し伸びて自分の目で見ることができるくらいになった、自身の金色の髪を気にするようにしながら、話す。
「もう、60年以上前のことなんだね……あそこで人攫いに遭って、ボクだけが連れ去られて……離れ離れになってから。……まあ、ボクにとっては、ほんの数年前のことなんだけど……『虹の霧』も、変ないたずらをしてくれるもんだ。再会した時には、お前は世界最強の海賊で……ボクは記憶を失っていて……お互いに気づけるはずもなくて……」
はぁ、と、少しだけ寂しそうなため息をつくと……アリスは新たに、鞄からお供え物と……ひと瓶の酒を取り出した。
「おじーちゃんから聞いたよ。安いお酒が好きだったんだって? あと、マルコさん達からも……すぐ人のお酒とか欲しがるって。みっともないなあ、もー……『オヤジ』なんだからもうちょっとさあ……いや、別にいいけどね。お前がそれでよかったなら」
さらにグラスを2つ取り出す。
1つはアリスに合ったサイズの、少し小さめのグラス。もう1つは、明らかに大きなグラス。ジョッキと見間違いそうなサイズだ。
瓶に入った酒を注ぐと、2つのグラスにちょうど全部入れたところで空になった。大きなグラスと小さなグラスに、それぞれ9:1くらいの量だが。
大きなグラスをそのまま墓に備え、アリス自身は小さなグラスをもって……キン、と音を立てて2つを合わせる。乾杯するように。
あるいは……献杯、かもしれないが。
くいっ、と、アリスはその安酒を一気に飲み干して、
「似てない姉弟だったよね、ボクら。ボクは体が小さいのに、お前は全然でっかくて、力も強くてさ。へらへらしてたボクと違って、お前は気難しくてちょっと堅物っぽくて……ねえ、もしかしてお前、ボクのこと反面教師とかにしてた? ……いや、別にそれでもいいけどね、今更だし」
「でも……似てる部分もあったんだねえ。……家族が欲しい、家族が大好きだ、って。お互いに、たった1人の肉親と離れ離れになっちゃったから、そういう風に思うようになったのかなあ? ……これも別にどっちでもいいか」
「エースさん達は今でも、お前のことを父親だと胸を張って言ってるってさ。あの世で見て呆れてるのかな、それとも誇らしいのかな? よかったね、ニューゲート。そんな風に思ってくれる……いい『家族』ができて。……まあ、色々と思い残すことはあっただろうけど……それでもある意味、お前はきちんと満足して逝けたのかな……?」
「ボクにもね、家族ができたんだ。血がつながってなくても関係ない、母親と姉妹が……あ、でも最近未来から、一応血がつながってる家族も来たんだよ? あはは、意味わかんないよね!」
「……でも、まだまだ足りない。ボク、欲張りなんだ……もっともっと欲しい。だから、まだまだボク、増やしていくつもりなんだ。もっともっと、何人も何十人も……愛する人も、その人との愛の結晶も。血がつながってる家族も、つながってない家族も……!」
「まあ……まだ何十年も先の未来になりそうだけど……いつかボクがそっちに行ったら、色々お土産話とか、自慢話とか聞かせてあげる。んでもって、その頃にはきっと……ボクやお前と血縁のある子供達が、この海に一杯に広がってると思うよ。にひひひ、その時を楽しみに待っててね! 色んな意味で!」
その後も、軽い口調で色々と一方的に――墓石が相手なのだからある意味当然ではあるが――その後、すっくと立ちあがる。
最初と変わらない、いつくしむような優しい目を、大海賊『白ひげ』の墓に向けて、笑い、
「じゃ、ボクこれで行くよ。……そういやお前、名前が長いとかなんとか言って、姉の名前ひとつ覚えてくれなくて……略して呼んでたね、最後まで。自分の方が名前長いくせにさ。アレも結局、わざとだったのか天然だったのか……まあいいや。……またね、ニューゲート」
最後に呆れたようにそう言って……アリスは、墓標に背を向けて歩き去った。
墓前に残された花束のうち、アリスが備えたそれの中には……よく見ると、手書きの簡単なメッセージカードが入っていた。
書かれていたのは、ごく簡単な……3行ばかりのメッセージ。
―――55歳年上の弟へ
―――お疲れ様。ゆっくり休んでね。家族はボクがきっちり増やしとくからさ!
―――あなたの姉、エドワード・アルセリスより
それでは、前書きで言った報告について。
作者はジャンプ漫画は単行本派、かつ電子書籍派なのですが、つい先日最新109巻をようやく読みました。
くまさん……(涙)あの牛野郎マジでタヒね……。
作者個人の感想はともかくとして……その最新刊の中で出てきた内容で、一部、今後のプロットにシャレにならん矛盾が出てきてしまいまして……しばらく時間をいただいてもっかい手直ししたいと思います。
その間は単に筆休めするか、あるいは息抜き的に他のを書くかするかもしれませんが、気長にお待ちいただければ幸いです。
今後とも『大文豪に私はなる!』をよろしくお願いします。