大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第261話 『2年間』のアレコレ

 

 

 この日、魚人島は……同族である魚人の手によって滅びの危機を迎え……そして、人間の海賊の手によって救われた。

 

 ホオジロザメの魚人ホーディ・ジョーンズ率いる『新魚人海賊団』。

 彼らはかつてのアーロンのように、人間を下等種族と見下し、魚人が全ての世界の頂点に立つという野望を掲げ……クーデターとも言えるレベルの騒乱を引き起こし、リュウグウ王国国王・ネプチューンを排して魚人島を支配下に置こうとした。

 

 しかし、そこにやってきた“麦わらの一味”が、魚人島の大人物であり、かつて『頂上戦争』でともに戦った“海侠のジンベエ”と共に、その野望を打ち砕き……様々な意味で被害こそ大きかったものの、魚人島始まって以来の危機は、無事に解決され、平和な日常が戻ってきたのだった。

 

 その後、極上の料理や酒がふるまわれ、美しい人魚達の舞い踊りが披露される、祝いの大宴会が開催され……ルフィ達は『ヒーロー』ではなく『海賊』として、存分にその宴を楽しんだ。

 

 

 

 しばらく後、ルフィ達は……たらふく食べて飲んだ後の食休みとばかりに、すこし離れたところに集まって談笑していた。

 

 他愛もない雑談から始まり、今迄会うことのなかったお互いの近況など――ジンベエ含む――に話が映った頃。

 

「え、じゃあジンベエって今、『ビッグ・マム』の仲間なのか?」

 

「仲間、というにはちと違うのう……あくまで配下の海賊団の1つじゃ。魚人島を守るために旗を貸してもらう見返りの一つとして、わしの『タイヨウの海賊団』が傘下に入っておる」

 

「たしか、毎月大量の『甘いお菓子』を差し出してる、とも聞いたけど……それだけじゃなかったのね」

 

「あー、あの宴でも出てたアレか! うんまかったよなあ、びっくりしたぞ俺! 肉にも負けてなかった!」

 

「うんうん、美味しかったなー!」

 

「ははは、ルフィがそんな風に言うってことは相当だな」

 

(……あのお菓子がその『貢ぎ物』なら……皆で食べてしまったけれど、大丈夫かしら? 確か、今回の騒ぎでお菓子の工場も被害にあったと聞いたけれど)

 

 ふと不穏なことをロビンが思いついていたが、楽しい場面に水を差すのもどうかと思ったのか、何も言わなかった。

 言っても今更どうしようもないだろうと判断したのもある。

 

「あれ、でも魚人島って元々、『白ひげ海賊団』のナワバリだったんだよな? 今の『二代目白ひげ海賊団』の旗を借りようとは思わなかったのか? ルフィの兄ちゃん……エースとは、ジンベエ親分も知り合いだったんだろ? なら、快く貸してくれそうなもんだが……」

 

 と、ふと気づいたようにウソップが言った。

 それを聞いてジンベエは、

 

「もちろん考えたが……見送らせてもらった。エースさん達を信頼しとらんわけでは決してないが……主目的である『魚人島を守る』という点で考えると、な」

 

「ネームバリューの問題ね?」

 

 ロビンの指摘に、こくりとうなずくジンベエ。

 

「気を悪くするかもしれんことを承知で言うが……白ひげのおやっさんが死んで、『二代目』になった今の『白ひげ海賊団』は、世間から侮られておる。少なくとも、おやっさんが存命だった頃よりはな。繰り返すが、エースさん達の強さも気高さも、わしはよく理解しとるが……その『名』でもって島を守るという点から見た場合、より強い『名』が必要だったんじゃ」

 

「それで、同じ『四皇』であるビッグ・マムを頼ったわけか」

 

「ああ。『百獣』は話の分かる相手ではないし……『赤髪』も選択肢ではあったが、海賊組織の層の厚さでは『ビッグ・マム』の方が勝っておったからな。『手を出せない』という印象がより強い方を選ばせてもらった。他には……『金獅子』も一応選択肢ではあったな」

 

「金獅子、ってことは……スゥのところ?」

 

「あァ……今や、本人は『七武海』で、金獅子海賊団自体は『準四皇』とまで言われる規模。おまけにその裏のトップは、ゴールド・ロジャーの時代から生きる大海賊……ネームバリューは申し分ねえわな。そっちにしなかったのには理由が?」

 

「うむ。頂上戦争の後……つまりは『魚人島』がおやっさんの旗の守りを失った直後、金獅子海賊団は『代替わり』の時期で組織再編の真っ最中じゃったからな。話題性はあったが、今ほど強く、また民衆にも人気がある存在だという立ち位置を確立できておらんかったんじゃ。魚人島に必要なのは、何よりも即効性のある『力』……ゆえに、『ビッグ・マム』に決めたというわけじゃ」

 

「なるほど……虫よけが効いてくる前に蚊に食われちまったら意味ねえわな」

 

「でも、もし今だったら『金獅子』の旗を借りるのもアリだったんじゃねえか? 今フランキーが言ってたように、『準四皇』なんて言われるまでになったわけだしよ」

 

「そうかもしれんな。じゃが、もう済んでしまったことじゃ。『代わりが見つかったからもうお前の旗はいらん』などと言えるわけもないしの」

 

 

 

 その後も、世間話のような情報交換は続いていく。

 

 途中、『船長』であるにも関わらず、あまりに情報に疎い……どころか興味を示さず、聞こうともしないルフィにジンベエが呆れる場面があったりもした。

 しかし、そんなルフィでも興味を示した話題も、中にはあった。

 

「え!? じゃあ、青キジが新しい『限界』になったのか!?」

 

「『元帥』な、『元帥』」

 

「海軍で一番偉い人のことよ。つまりあいつ、私達と戦った時よりもっと偉くなったの」

 

「へー」

 

「……ってか、お前やっぱりコレ知らなかったんだな」

 

「やれやれ……レイリーも酷なことをする。何もそこまで徹底して世情と切り離さんでもよかったろうに」

 

 『頂上戦争』の後、当時現役だったセンゴク元帥が引退を表明。

 その後を引き継ぐ形で、大将『青キジ』ことクザンが新元帥の座に就いた。

 

 他にも、大きなものから小さなものまで、この2年間で起こった海軍関係の人事の話題は尽きないが……中でも、クザンの元帥就任と同じレベルで世間を驚かせた出来事があった。

 

 大将『赤犬』こと、サカズキの離脱である。

 

 直接戦うことはなかったルフィだが――まだ『覇気』を使えなかったその頃のルフィでは、仮に相対しても戦いにはならなかっただろうが――頂上戦争でその姿を見ていた。

 その威圧感から、青キジ、黄猿と同じく、あの頃の自分では勝てない相手だったということもわかっていた。

 

「赤犬……あいつ、海軍やめたのか!?」

 

「ああ。しかし、奴が掲げる『正義』を捨てたわけではない……より大きな『正義』の力と立場を求め、『移った』んじゃ」

 

 『頂上戦争』において、エースとスゥに敗れ、倒れたサカズキ。

 深手を負ったのに加えて、スゥが叩き込んだマゼランの猛毒が体中に回り、解毒も不可能な中……何週間もの間、生死の境をさまよい続け……最終的に、その驚異的な生命力によって、奇跡的に一命をとりとめた。

 

 しかし、その代償は大きかった。

 何週間もの間寝たきりだったことで衰えた体に加え、治癒こそしたものの、致死の猛毒は後遺症という形で深々とその爪痕をサカズキの体中に残していったのだ。

 

 筋力は落ち、スタミナも瞬発力も衰えた。体は全く思うように動かない。退院直後は、革靴にすら重みを感じる始末だった。

 内臓も弱ったのだろう。呼吸は浅く弱くなり、少し激しい運動をすると息が上がる。食べられる量も少なくなった。

 視力や聴力さえ削れてしまい……最早サカズキの目には、世界の全てが、『頂上戦争』以前のそれとは全く別物に見えてしまっていた。

 

 もちろん、サカズキ自身、それを良しとはしなかった。

 優秀な医者にかかり、治療を受け、強力な薬を使い、死に物狂いでリハビリを、そして復帰のための訓練をこなした。

 

 しかし……完全には元通りにはならなかった。

 内臓、骨、筋肉、神経……それらに刻まれた不可逆の損傷が、サカズキに元通りの力を取り戻すことを許さなかった。

 

 『マグマグの実』の強力な能力こそ健在ではあるが、それ以外の部分……地力では、最早自分に『海軍大将』として、正義の最高戦力であり続けるだけの力はない。

 そう悟ったサカズキは……自ら『大将』の地位を辞した。

 

 問題はその後だった。

 サカズキの『徹底的な正義』という姿勢を評価し、負傷さえなければ次の『元帥』に推薦していたであろう政府は、大将を辞したサカズキに声をかけ……迎え入れた。

 サカズキもまた、今までの自分にはなかった『力』を……今まで振るってきたものとは違う形で使うことができる、そしてより強くふるうことができる『力』を求め、その手を取った。

 

「海兵をやめて、世界政府の役人になったってことか……」

 

「それって、CP9みたいな?」

 

「その元締めじゃ。奴は今、政府直下の全諜報機関及び全捜査機関を動かす立場におる。全CPを含む、政府直下の特別高等捜査機関……通称『特高』の『長官』。それが今のサカズキじゃ」

 

 世界政府直下、特別高等捜査機関……通称『特高』。

 この2年間の間に、政府内の組織再編によって新設された組織であり……簡単に説明すれば、表も裏も問わず、海軍以上に苛烈に、容赦なく、正義の権力と武力を振るう集団である。

 再編時に、『0』を除くすべての『サイファーポール』もここに組み込まれ、『諜報部門』として組織の一部となった。

 

 その『長官』として、ある意味海軍にいた時以上の金看板を手にしたサカズキは、より過激に、より容赦なく、より『徹底的』に正義の凶刃を振りかざしている……と、ジンベエは語る。

 

 政府の暗部は、元より人には言えないようなことも平気でこなして『正義』を行い、人の命すら『正義』の名のもとに平然と奪う方針だった。

 

 サカズキの就任後は、そういった各方面への介入や摘発、そして断罪はより苛烈で容赦ないものとなり、海賊や革命勢力を一切の躊躇なく、犠牲をいとわず殲滅し続けている。

 もちろんその『犠牲』は、兵や諜報部員のみならず、市民であることも決して少なくはない。

 

 それまでの『サイファーポール』同様、闇に隠れて黒い正義を執行するのに加え、日の当たる表の領域でさえ、その力は躊躇なく振るわれている。

 まるで、サカズキの掲げる『徹底的な正義』を形にしたかのように。

 

 また、その容赦のなさは、手段を択ばぬやり方は、見える範囲だけでなく『闇』の中にも及んでおり……いくつもの国や地域、組織の中に、サカズキの息がかかった工作員が潜んでいて、ほんの少しでも政府の意に反し、『正義』に反する者がいれば、即座に牙をむくという。

 どこにいても、どんな立場の誰でも、それに怯えなければならない。

 

「元帥クザンの率いる海軍……サカズキが手綱を握っている政府の猟犬達……2年間の時を経て、政府はより大きな『正義の軍団』を作り上げた。その力は、大きく荒れ狂いつつある『新世界』を生きる海賊達ですら震え上がらせるほどのものじゃ……これから『新世界』に入るというのなら、決してお前さん達にとっても、他人事ではないぞ……!」

 

 半ば脅すような重々しい声音と口調で言うジンベエ。

 ナミやウソップ、チョッパーは思わずそれにたじろぐも……それとは逆に、『望むところだ』とやる気を出す者もいるのがこの一味である。

 

 特に、船長であるルフィと、一味随一の好戦的な性格を持つゾロは、それを聞いて、こらえきれなかったのだろうとわかるほどの、まさに『望むところだ』と言わんばかりの笑みが顔に浮かんでいた。

 

「『海賊王』になるんだ、そんなもんにビビッてられねえ。『四皇』だろうが『海軍大将』だろうが……全部ぶっ飛ばして進めるくらいじゃなきゃな!」

 

 にぃっ!と笑みを浮かべて言ったルフィの言葉に、嘘はもちろん、欠片の虚勢もなかった。本気で本心から言っている言葉だったのだろう。

 もちろんそれは、ルフィという人物が、良くも悪くもそういう奴だと知っている一味の面々も、同様に分かっていることだった。

 

 

 

 ……しかし、そんなルフィや、仲間達でも……さすがに読めなかったことだろう。

 

 その『四皇』と関わる機会が、いつかの未来どころか、すぐそこまで来ていて……そしてそこで、ルフィが盛大に喧嘩を売る騒ぎになってしまうなどと。

 

 そしてそこで、口先でぶつかるのみにとどまらず……『四皇』本人とは言わずとも、その部下と……ぶつかることになるなどと。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 リュウグウ王国・王城。

 そのとある一角にて。

 

「工場に『ビッグ・マム』の使いが!? なんと……よりにもよって今来たか……」

 

「今月収める菓子はありません……ホーディ一味に荒らされ、在庫に被害が出たのに加え、機材も破損しており……無事だった菓子は、皆が『麦わらの一味』に食べてほしいと、全て宴に……」

 

 一難去ってまた一難。

 ナマズの人魚である左大臣は、兵士の一人が持ってきた“凶報”に、冷や汗を浮かべていた。

 

 せっかく今さっき、『新魚人海賊団の蜂起』という大事件が解決し、その祝いの宴が開かれていたというのに……またしても、国が滅びかねない一大事が舞い込んできた。

 しかも、相手を考えると……今回の事件よりもさらに状況が悪いとすら言える事態である。

 

「皆の気持ちもわかる、わかるが……困ったことになった……。果たして言い訳が立つかどうか……なんとか話してはみるが……それで、来たのは誰だ?」

 

「……そ、それが……」

 

 話の通じる者ならいいが、と願いつつ、兵士に尋ねる左大臣。

 しかし、聞かれた兵士は……気まずそうに、言いづらそうに口をもごもごとさせるばかり。中々話そうとしなかった。

 

 その姿により一層不安になる左大臣の前で、少し経ってようやく兵士が口を開いた。

 

「いらしたのは、タマゴ男爵とぺコムズ氏……それと、もうお一方―――」

 

 

 

「―――『4将星』のお1人、シャーロット・パルフェ殿です……!」

 

 

 

 

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