どうぞ。
「だからよ左大臣! 『ない』じゃ通らねえって言ってんだよ、ガオー!!」
「しかし、今回のこの騒乱は我らにとっても予想外で、防ぎようもなく……何とか大目に見てはもらえんか……」
「そんな“内乱”俺達には関係ねえ! うちの海賊旗を貸す条件は、月に10トンの『お菓子』! それがうちとあんたたちとの『協定』だろうが!」
魚人島の中心部。『おかし工場』のすぐそばで……声を荒げる1人の男を、左大臣が必死の思いでなだめていた。
しかし、その男……ライオンのような、というかライオンそのものの見た目を持つ男は、まるで聞く耳を持たず、凄みをきかせる。
凄んだ時のサングラスの奥の瞳がかわいいことを除けば、その一言一言、一挙手一投足は、左大臣と、その周囲で見守る魚人や人魚達の精神を削るのに十分なプレッシャーだった。
その男……ビッグ・マム海賊団戦闘員・ペコムズ。
さらにもう1人、その後ろに腰かけて事態を見守っている男、タマゴ男爵は、四皇『ビッグ・マム』の使者としてこの魚人島にやってきていた。ビジネスの対価である『お菓子』を受け取りに。
しかし、受け取るはずの『お菓子』が用意されておらず、双方困っていた……というのが、現在の状況である。
「落ち着けペコムズ……凄んでもお菓子を取り立てられるわけではない」
「けどよ、このまま帰るわけにはいかねえだろ? それで困るのは俺らはもちろん……それ以上にこいつらだぜ?」
「わかっているとも。だが幸い、時間が全くないわけではない……平和的に解決できれば、それに越したことはないでソワール……左大臣」
「う……うむ?」
「何やらトラブルがあった様子だが、それで『最悪の事態』を招くのは、こちらとしても不本意……手前共も、魚人島が海の藻屑と消える様など見たくはないでソワール」
丁寧な口調で物騒なことを言うタマゴ男爵。
その言葉が脅しでもなんでもない……この交渉で下手を打てば、本当に降りかかる未来でしかないと理解している左大臣は、冷や汗が止まらない。
「魚人島のお菓子は特にママのお気に入り……4日後のお茶会で食べるのを楽しみに待っているでポン。明日の朝船を出せば、まあ間に合うでソワール……パルフェ様には私からお話しするゆえ、早急に……」
「あら……
その場に響いた……先ほどまではいなかった、第三者の声。
鈴の音のように綺麗に澄んだその声を聴いて、ペコムズと、どうにか態度には出さなかったが、タマゴ男爵もどきりとする。
もちろんそれは、左大臣も同様で……状況が状況ゆえに、一層その顔に焦燥が浮かぶ。
声の主は、野次馬の魚人達が見守る前を、視線が集中するのを気にした様子もなく、すたすたと歩いてやってきた。
年の頃は、せいぜい十代中盤から後半程度に見える、若い少女だった。背丈は普通の人間と変わらないくらい。ゴシック調のドレスを肩を出して動きやすく改造したような、豪奢ながらもどこかワイルドさも覗かせる意匠の服を身に纏っている。
スタイルはよく、細身の体ながらも豊かに膨らんだバストやヒップ、反対にきゅっとしまったウエストといった体格が、服の上からでも見て分かった。
だが、何より目を引くのは……その髪の毛だった。
その明るいブロンドの髪は、長く伸びてボリュームがある……などというレベルではない。見事に整えられた、いわゆる『縦ロールヘア』を形作っていた。
しかもそれが、前に2つ、後ろに4つ。
前の2つと、後ろの4つのうち2つは、ペットボトルくらいの大きさで……残る後ろの2つは、腕を通せそうなくらいに太い。
何とも特徴的な見た目もあって、衆目を集めながら歩くその少女。
名は……シャーロット・パルフェ。
四皇『ビッグ・マム』こと、シャーロット・リンリンの娘の1人であり……ビッグ・マム海賊団の大幹部『4将星』の一角。ペコムズとタマゴ男爵の2人にとっては、上官にあたる立場である。
「これはパルフェ様……お散歩はもうよろしいのでジュール?」
「ええ、つまらないから切り上げて帰って来ましたわ。何なんですのこの国……せっかく
腕を組んで、はぁ、とため息をつきながら、いかにもむすっとして不満そうに言うパルフェ。
「せっかく仕事終わりの自分へのご褒美に、美味しいもの食べてお洋服買って豪遊するつもりで来たというのに……あーもー、つまんねーですわ~!」
「それはそれは……心中お察しするブプレ」
「しかもぉ、変なんですのよタマゴ。町に人がいないわけではないのに、そういう楽しげなお店がこぞってお休み。なのに漂う空気はどこか浮ついていて……まるで、どこかで大きなパーティでも開催されていて、そこに根こそぎ駆り出されているかのようですわ」
それを聞いて、びくっと反応しそうになるも、すんでのところでこらえる左大臣。
しかし、周囲の兵士たちの何人かや、民衆達の中にも、何か知っているのであろう反応を見せた者がいた。
「この
「はあ、それがですね……」
「お~い、お菓子工場~!」
「あら? あれは……」
「! る、ルフィ君!? なぜここに……」
☆☆☆
タイミング悪く通りがかってしまった、麦わらのルフィと、その両翼2人。
そこでまるで狙っているかのように、お菓子をたらふく食べただの、美味しかったからあるならまた食べたいだのと喋ったのを、当然ぺコムズ達が見過ごすはずもなく。
ペコムズが左大臣やルフィに『どういうことだ!?』と詰め寄る中……パルフェは、何やら悟ったようにニヤニヤと微笑みながら様子を見ていた。口を挟まず、黙ったまま……ルフィとペコムズ、それに、オロオロとどんどん挙動不審になっていく左大臣を交互に見ている。
なお、目をハートにしてパルフェを見ているサンジと、警戒心を上手く隠しながらもこちらを気にしているゾロにも気づいていたが……そちらには特段構うことはなかった。
「なぁるほど……だんだんわかってきましたわよ?」
そんなパルフェの呟きは、彼女自身以外、誰にも聞き取れないくらいの小さな声だった。
「ともかく左大臣、先ほど言った通り、明日の朝まで待とう……それまでにお菓子の用意を。それが譲歩できる限界でジュール」
「で、ですから工場内の巨大調理器具も壊れてしまい、直すには時間が必要で……納品まで少なくとも2週間は……」
「それは無理でソワール」
タマゴ男爵はそう言ってきっぱりと拒絶したのに加え、『お菓子を差し出せなかったらどうなるのか』というルフィ達の問いかけに、協定決裂の暁には、ビッグ・マム海賊団の猛者たちによって、魚人島は滅ぼされることになると告げる。
当然のように猛反発するルフィ達。おかしで国が滅んでたまるかと。この国は、むしろ今さっき助かったばかりだと。肉ならわからなくもないがと。
一部おかしな部分がなくもなかったが……そんなルフィの態度を見て、『おほほほ……』と笑い声を漏らす者が1人。
黙って事の推移を見守っていた、パルフェだった。
「何だ? 何がおかしいんだよちくわ女? ていうかすげー髪型だなお前」
「「「おい!」」」
「あらやだ、どシンプルに失礼ぶっこんできますわねこの方……まあいいですわ」
なお、初対面での『ちくわ女』呼ばわりに怒って反応したのは、タマゴ男爵とペコムズに加え、サンジもだったりする。ある意味で平常運転と言えばそうだが。
「ごめんあそばせ? あなたの言う通りあんまりにもおかしいものだから、思わず笑っちまいましたわ。話に聞いていたよりずいぶんといい子ちゃんのようですわね、“麦わらのルフィ”?」
「……おめー、誰だ? ちくわのおっさんの親戚か?」
「その奇特な呼ばれ方をしているらしい御仁がどこのどなたかは存じませんが……
それを聞いてさすがに驚くゾロとサンジ。
目の前にいきなり現れたのが『四皇』の娘だと聞けば無理もない反応だが……一方でルフィはと言うと、『へー、そうなのか』程度の反応で、驚いている様子はなかった。
むしろ、ならちょうどいいと言わんばかりに、
「じゃあおめーから『ビッグ・マム』に言えよ! 魚人島は今ちょっと大変だしお菓子はねえからもうちょっと待ってやれって。娘なら母ちゃん説得できるだろ?」
「そこらへんの親子関係と一緒にしないでくださいまし。第一何で私がそんなことをしなければならないのですか? 悪いのはあなた方なのに……ねえ、左大臣?」
「! それは……」
じろりと視線を向けての言葉に、言い返せない左大臣。
その代わりにというわけではないだろうが、ルフィが変わらず雄弁に続ける。
「悪いのはホーディ達だろ? いきなり襲ってきて町とか壊したんだから!」
「確かに、責任の所在のいくらかはそのならず者達……『新魚人海賊団』でしたか? その者達にあるのでしょう。ですが……それでも此度の一件は、完全にリュウグウ王家の失態ですわ」
「? 何で?」
「それを起こしてしまったこと、それがこれだけ大きな騒ぎになったことが問題だというのです。聞けばその者達……ホーディ・ジョーンズやバンダー・デッケンの存在は、ネプチューン王も前々から認知していたというではありませんか。明らかな危険因子なのは明白……にも関わらずこれを放置し、今日の日、事件が起こるまで何の対処もできていなかった。国の治安を司る立場にありながら。これが失態でなくて何だというのです?」
「しかし、リュウグウ王国の国土は広大なうえ見通しも悪く、『魚人街』まではとても王家や国軍の目が届かず……」
「その状況を改善しようともせず『仕方ないから』でよしとしていたのはあなた方の判断。密偵を送り込んで内情の把握に努めるとか、色々やれる手はあったでしょうに」
ぴしゃりと言い放って切って捨てるパルフェ。
「
「それは……」
「あなた達はそうなる前に、強権でも何でも振るって手を打たなければならなかったのですわ。幸い今回は、善意の協力者によって辛くも助けられたようですが。まあ、その結果まで悪かったとは申しませんが、だからと言って責任から逃れるべきではありませんわね?」
「責任ってなんだよさっきからおめー、しらほしの父ちゃんだって頑張ってたんだぞ!」
「国王なんだからそりゃ頑張るのはあったり前なんですわよ。頑張った上で結果を出さなきゃ意味がねーっつってんですわ」
「ワイルドさと優雅さが同居したレディだな……」
ルフィが飛ばしてきた文句にもノータイムでズバッと返すパルフェを見て、思わずといった調子でサンジがそうこぼしていた。
見ている野次馬の魚人や人魚たちも、同じようなことを思っていたりする。
それに、と続けるパルフェ。
「追求しなければいけない『責任』は……まだありそうですわねえ? 王家だけではなく……この国そのものに」
「……?」
言いながらパルフェは、ルフィの方に近づいてきて……ずいっと顔を寄せる。
普通の男なら、美女と言っていいパルフェが間近に寄ってきたことに、動揺するなり喜ぶなり、何らかの反応を見せるのだろうが、ルフィは『?』を頭の上に浮かべるだけだった。
『何してんだおめー?』とでも言いたげな、不思議そうな表情のままだ。
そんなルフィの分まで動揺しているかのように『なぜルフィに……羨ましい……』と歯ぎしりしているコックが約一名いたが、それはさておき。
そんな、もう少し近づけば唇が触れるのではないかというくらいの距離に来たパルフェは、
「……ん~……甘いお菓子の匂いがしますわ。それだけじゃない、お肉にお魚、その他高級料理……少ないけれどお酒もですか? 目一杯飲み食いしたようですわね……宴は楽しかったですか?」
「ん? ああ、すっげー楽しかったぞ! 料理もお菓子も美味かったし!」
「そうですかそうですか、それはよかったですわね~。実は
「ああ、あの貝みたいな形の奴か? 確かに美味かったな~、俺はロールケーキみたいなのとか、丸くて平べったいのとか、サクサクで挟んである奴とか、全部好きだぞ!」
「ええ、ええ! どれも美味しいですわよね~……なるほど、やっぱり食べてらしたのね、お菓子」
魚人たちが『麦わらさーん!!』という感じの顔になってしまっていたが、残念ながら、楽しそうに美味しい思い出を話すルフィの目には入らない。
そんな光景すらも『証拠』の1つとしてとらえたパルフェは、微笑を浮かべたままゆっくりと振り向き、蛇に睨まれた蛙状態の左大臣に向き直った。
「だいたいわかりました。この国は先般、ホーディ・ジョーンズを首魁とするならず者たちの蜂起による騒乱で、『おかし工場』を含む各地が被害を受けた。そしてそれは、彼らの協力によって無事に鎮圧・解決し……その勝利、ないし事件解決を祝う盛大な宴が今、開かれている。町中に大勢が集まっている気配はありませんから……場所は王城でしょうかね?」
そして、と続けるパルフェ。
「工場が被害にあった際、お菓子の在庫は全くないわけではなかったはずです。ホーディ一味がお菓子大好きで、それらを略奪していったという話もないようですし。つまり……10tには足りないなれども確かにあったはずのお菓子の在庫は……祝いの宴に出されて全て消費された。我々へ納品する予定のものだったにもかかわらず、それよりも『麦わら』を優先した、ということですわね」
1から10まで言い当てられ、左大臣も、民衆たちも何も言えない。
一方で、ルフィ達3人は、「そうだったのか」と、聞かされた事実に納得していた。どうりで『お菓子を食べた』というルフィの言葉に、左大臣も民達も焦っていたと。
聞かれるわけにはいかない相手に聞かれてしまうがゆえの焦り、だったわけだ。
「おったまげましたわ~、度胸ありますわねえ、魚人島の方々。国を救ってくれたヒーローに喜んでほしいと思うのはまあ仕方ないとしてもですわよ? それでも手ェつけちゃいけないものってのはあるでしょうに……よくもまあよりにもよって私達『ビッグ・マム海賊団』に渡す予定のお菓子を横流しするなんて……ひょっとして喧嘩売っておいでですかしら?」
「いや、そのようなことは決して!」
「わーってますわよ、そんなつもりはなかったのでしょう? 大方、一時のテンションに身を任せた行動だったのでしょうが……そういうのは往々にして、身を滅ぼす結果になりがちだというのはご存じかしら? ネプチューン王を、国を滅ぼしたまるでダメな王様、略して『マダオ』にしたくなかったら、ちゃんと言っておきあそばせ? ……まあ……多分もう手遅れですが」
それを聞いて青ざめる左大臣。
隠しておきたかった事実を、『それを隠そうとしていた』ことまで含めて看破され……状況も印象も悪化の一途をたどっている。先ほどの会話の中で頭をよぎった『最悪の事態』が、すぐそこまで近づいてきてしまっていることが、嫌でもわかってしまう。
パルフェの後方に立つタマゴ男爵は、それを見ていて、はぁ、とため息を一つ。
そのひと息には、『これはもうダメかもしれない』という諦めが乗っているようにも見えた。
そのタマゴ男爵に、振り返ってパルフェが――こちらもどこか諦観しつつ――問いかける。
「あなたはどう思います、タマゴ?」
「状況は非常に厳しい……を通り越して、最早『残念』と言わざるを得ないでポン。せめて、納品するお菓子が、いくらかでもあればまた違ったのでしょうが……」
「ですわよねえ……協定破りに加えて、こちらを甘く見てないがしろにするような真似……これはママじゃなくてもキレてもおかしくありませんわ。ペコムズ、ママに報告は?」
「さっき、お菓子がないかもしれないって話が聞けた段階で一報入れておいた。ママに直接じゃないが、今頃はもう報告がいってると……」
―――ぷるぷるぷるぷる、ぷるぷるぷるぷる……
噂をすれば影、とでも言うべきか。
タマゴ男爵が用意していた電伝虫が着信を告げる。
おそらくビッグ・マム本人からであろう着信に、怒られるのを恐れてか、タマゴ男爵もペコムズも出ようとしない。
それを見て『しょーがねーですわね』とでも言いたげな様子になったパルフェ。
やれやれとため息をつきつつ、受話器を取―――
―――ガチャッ!
「おい! お前、ビッグ・マムか!?」
「「「!? !? !?」」」
―――取る前に、横からひったくるようにルフィが受話器を取り、声を張った。
その後はもう、見事なまでに売り言葉に買い言葉。
周囲を置き去りにして、ルフィが盛大に、電伝虫の向こうの“四皇”に喧嘩を売る。
そして気づけば、ルフィ達が持っていた……カリブーから奪い返した『財宝』に免じて、今回の魚人島の契約不履行に関しては特別に容赦し、魚人島は滅ぼさないことにする。
代わりに、滅ぼす『標的』を『麦わらの一味』に変更する。そう決まっていた。
魚人島を救ってくれた恩人に、また自分達をかばって、とてつもない大きな負担を背負わせてしまったと理解し……愕然とする魚人島の民達。
中には、ショックで涙を浮かべ、崩れ落ちる者も少なくなかった。
もっとも、ルフィ自身はそんなことは欠片も気にしていないどころか、
「お前なんかに危なくて預けられねェ! 『新世界』で、俺がお前をぶっ飛ばして……『魚人島』は俺のナワバリにするからな!」
重ねて喧嘩を売る始末。
その後、しばし訪れた沈黙が、その場にいた者達の多くにとって、どうしようもなく恐ろしいものに思えていたが……数秒の間を置いて、『ハハハハハ……』と笑い声が聞こえてきた。
『威勢がいいねェ、麦わら……だが、言うだけなら誰でもできる。口先と勢いだけのルーキーなんざ、この海には掃いて捨てるほどいるってもんだ。果たしてお前は、ただの身の程知らずか、それとも『新世界』に来れる器か……おれの娘が試してやろうじゃないか』
「!」
「「「……っ!?」」」
『そこにいるんだろパルフェ!? ちっと代わりな!』
ご指名とあって、今まで口を挟まず見守っていたパルフェが前に出て……まだ鼻息の荒いルフィから受話器を受け取った。
「ごきげんようママ、パルフェですわよ」
『聞いてただろ? そこにいるガキが、元気なもんで俺に喧嘩を売ってきやがってねえ……おれを倒して『魚人島』を奪うとよ。ガキの戯言なんざどうでもいいが……舐められっぱなしってのも面白くねえ。……パルフェお前、軽く遊んでやりな』
「あら、よろしいんですか? せっかく『新世界』で会う約束なんてしてらしたのに」
『ハ~ハハハマママママ!! そこで終わっちまう程度の奴なら、おれに挑むなんざ土台無理ってもんさ! まあでも、制限時間くらいは設けようかねえ。細かいことは任せるよ』
「心得ましたわ、ママ。それでは」
―――ガチャッ
受話器を置いて通話を終了しつつ、不敵な笑みを浮かべながら、パルフェはルフィ達の方に向き直る。
「聞いての通りですわ。ママの命令で、しばしあなたの『お相手』をさせていただくことになりました。よろしくて、『麦わらのルフィ』さん?」
「おう、望むところだ! 負けねえぞ俺は!」
背負っていた財宝を乱暴にドシャッ!と下ろしながら、一切怯まずパルフェの前に立ち、真正面から彼女を見据えるルフィ。
全く怖気づく様子もないその姿に感心し、面白そうに笑みを深めるパルフェ。
斜め後方に控えていたサンジが『おいルフィ、待てお前レディに……』と止めようとしていたが、ゾロがそれを抑えたうえで、自らもパルフェの気配を……その奥にある『強さ』がいかほどのものかを探っていた。
パルフェはというと、ゾロ達のそういう視線、そういう意図にも気づいていた。
「場所を移しましょうか……ここで
そう言いながらも、まるで『今すぐにでも』と言わんばかりの圧を放つパルフェ。
左大臣や民衆たちはもちろん……それを受け止めて感じ取ったゾロや、サンジですら、突如まき散らされたその気配にぎょっとしていた。
これから始まるのは、ビッグ・マム本人との戦い……の、いわば前哨戦。
あるいは前座といってもいい『お遊び』に過ぎない。ビッグ・マムの気まぐれによって決まったものだ。
しかし、それですらこれだけの気迫――しかもまだまだ全然本気ではない――を放つ相手とこれから戦うのだという事実が……ルフィにも、ゾロにもサンジにも、否応なしに理解させていた。
自分達がどんな連中に喧嘩を売ったのかを。どんな相手が目の前に今、立っているのかを。
これから自分達が行くことになる海……『新世界』のレベルが、そしてそこに君臨する『四皇』のレベルが、いったいどれほどのものなのかを……この後ルフィは、戦いを通して知ることになる。
「大変なことに……! 陛下に、それに仲間の方々に報告せねば……!」」
そして、その場を離れていくパルフェ達とルフィ達を、茫然として見送る左大臣達。
彼と彼の部下、そして一部の民衆達は……国を救ってくれた英雄が、今度はまた、さらにとんでもない相手と戦うことになってしまったと知り、愕然とする。
喧嘩を売っていた『ビッグ・マム』本人もそうだが……それ以上に、今これから相手をするという、パルフェもだ。
伊達や酔狂で四皇大幹部の地位にいるわけではない。彼女もまた、戦うことになればそれだけで絶望的な力を持つ相手だと……実際に見たことはなくとも、皆、知っていた。
「こんなことを言う資格など、我々にはないのかもしれない……だがそれでも……どうか耐えて、無茶はしないでくれルフィ君……パルフェ殿は、ホーディやデッケンなどとは、全く持って次元が違うのだ……!」
ビッグ・マム海賊団所属、大幹部……『スイート4将星』の1人。
35女、シャーロット・パルフェ。
懸賞金額―――10億9300万ベリー。
鼻息荒いルーキーに『新世界の洗礼』を与えんと、10憶越えの怪物が笑うのが……遠くに、しかし確かに見えた。