「あのですね……もう何回も言ってると思うんですけどね、クザン元帥? 私のことちょっと便利に使いすぎじゃないですか? 『七武海』って言ったって海賊なんですからね?」
『でもお前さんその自覚とか自負あんましねーだろ? いやまあ、実際頼りすぎって点については申し訳ないとは思うがよ……人手が足りねーのよマジで』
海軍元帥からかかってきた電伝虫。
それを通して元帥直々に聞かされる話に、執務机につきながら……私はため息をついた。電伝虫越しにクザン元帥に聞かれるであろうことにかまわず。
「だからって『七武海』に頼るのも問題でしょ……私らの立ち位置って、政府や海軍の指示で動く『戦力』じゃなくて、政府に敵対しない+海賊に対しての抑止力になる、言ってみれば『見せ札』みたいなもんでしょ? 実際、私以外の七武海なんて、ろくすっぽ言うこと聞きゃしないんだし……っていうか私そろそろ海軍の階級とかもらってもいい頃だと思うんですが。そのくらいには働いてますよね?」
『実際俺も、義務その他の付随しない名誉階級でよけりゃ授与してもいいんじゃねえかってたまに思うわ。こないだ会議で提案したら『何言ってんだいバカ』っておつるさんに怒られたけど』
何マジで提案してんのあんた。
『賛成3、棄権2、その他全員反対で却下されちまった』
「むしろ誰ですか賛成したの」
『俺、ガープさん、センゴクさん。2人とも爆笑しながらノリで手上げてた』
「あ゛―……なんか目に浮かぶ」
ガープさんはいいとして……『七武海』として時々海軍本部やマリージョア行ってたから知ってるけど、センゴクさんも元帥引退してからはっちゃけたなあ……。おつるさんが『おかきオヤジ』なんて言うくらいに。
……ってか、センゴクさん引退したはずなのに会議出てんの?
たしかあの人も『大目付』とかいう名誉職的なアレだったはず……いやでも、長年の軍務で培った信頼やら何やらがあるしな、ご意見番として呼ばれることだってあるだろう。
「ハァ……わかりましたよ。今日この後、用事1つすませれば後はしばらく暇なんで、それでよければ……ええと、何でしたっけ?」
『ちょっと『新世界』の入り口あたりの動向に気を配ってほしくてな。なんか、ここ1ヶ月くらいルーキーの海賊船が一隻も上がってこなかったのが、ここ数日急にポンポン上がってきて、近くにある海軍基地が大忙しになってんだ。その辺の事情は省くが……魚人島で色々あったらしい』
ああ……ルフィ達が魚人島でドンパチやったんだな。
確か、新魚人島海賊団とかっていうアーロンの焼き直しみたいな連中が内乱を起こして、それを助けたルフィ達がヒーロー扱いされて……しらほし姫だっけ? 美少女人魚姫と仲良くなって、宴やって送り出されて……まあ『麦わらの一味』はまずいいとして。
そんで、その魚人達に捕まってた海賊達が、解放されたぜヒャッハー! って感じで、一気に新世界へ押しかけてるんだな。その対応に海軍基地がてんてこ舞い、と。
「私もその海賊拿捕を手伝えってんです?」
『いや、さすがにそれは明確に海軍の職務だ。まあ手伝ってくれるならありがたいが……お前さんに頼みたいのは、あくまで警戒だよ。海軍が忙しくて出ずっぱりになってる間にヤベーことが起こった場合に備えてな。今のこの騒乱に乗じて、目ざといやつは動き出しかねねえからよ』
「わかりました……できる範囲でですよ? あと、何度も言って申し訳ないですけど、『七武海』もどこまで行っても海賊には変わりないんですから、あんまり頼りすぎないでくださいね。こっちも色々あって、ご期待に添えない場合もあるんですから」
『わかってるって……っていうかそれスモーカーの奴のセリフだろ。そういやお前さんアイツとも知り合いだったな』
うん、まあ……知り合いではある。
最初に会ったのはもうずいぶん前……私が新人作家で、賞金首でもなかった頃に……まだ下士官だったスモーカーさんに護衛してもらったことがあったっけな。めっちゃ懐かしい記憶。
『七武海』になった後に何回か『海軍本部』で会ったけど、その時は……『悪ィ奴じゃねえのは知ってるが、海賊である以上慣れ合う気はない』『七武海だとしても、海賊はどこまで行っても海賊だ』って言ってた。原作と大体同じ感じのスタンスだったな。……20年前からか。
なお、お供のたしぎちゃんからも複雑な目で見られた。
『七武海』とはいえ海賊だからかな? クロコダイルの一件があって信じ切るのは難しいだろうし……というかそもそも、基本七武海って問題児多いしな。
クロコダイル:
水面下で色々やって国家転覆未遂
ティーチ :
加入理由からして裏アリ
ドフラミンゴ:
地位を隠れ蓑に闇のブローカー
ハンコック :
普通に海兵も石にしたり略奪したり
モリア :
海兵とかからも普通に影奪ってた
ジンベエ :
隠れて白ひげと会ってた
ミホーク :
協力はしないけど邪魔もしない
バギー :
協力はしないけど邪魔もしない
……『元』含め問題児『しか』いないわ。鷹の目とバギーが一番マシだという衝撃の事実。
一応、もう1人いるっちゃいるんだけど……あの人はまだよくわかんないんだよなあ。
くま? アレはそもそもの事情が違うからカウント除外で。
あと、たしぎちゃんの目はもしかしたら……私が最近、名刀や名剣をコレクションしてるから、それについても何か言いたかったのかもしれない。彼女、悪党に使われている刀剣を回収するのが夢らしいし。
私が持ってる『浮雲』や『七星剣』、その他、傘下やナワバリから献上されたり、娘達が誕生日にプレゼントしてくれた、それらの刀もターゲットなのかも。
『というか、そのスモーカーが一番言うこと聞かなくてあっちこっちに暴れるもんだからよぉ……今回も『麦わら』が絡んでるってわかったとたん飛んで行っちまったよ。全く、『中将』にもなったんだからもうちっと落ち着いてくれねえもんかね』
「会議の場にせんべい持参で現れて平気で居眠りする本部中将さんがいるらしいんですけどその話します?」
『やめてくれ何も言えなくなる』
電話の向こうで『そういやあの人もロジャーって聞くと飛び出して行ったっけな……』とか、昔を懐かしむように言っているのが聞こえた。
というかその人のお孫さんのせいでスモーカーさん張り切ってるんだけどね今。
『そういうわけで、少しの間だけでいいからちょっと注意して見ててくれねえか。すぐに収まるとは思うんだが……この件がなくても、スモーカーの管轄する海域は、色々と難儀なエリアでよ』
「? ……というと?」
『ここ数年、海難事故での行方不明者や海賊被害が多発していてな……特に、子供の犠牲者が多いんだ。一応、注意喚起はしてるらしいんだがな……』
「それは……痛ましい限りですね」
……なるほど、うろ覚えだけど……そんなことも『原作』であったっけな。
確か、実際には誘拐事件なんだけど、海軍基地の基地長やってる中将……ヴェルゴだったっけ? そいつがもみ消してるんだったな。胸糞悪い話だ。
そんで、その一件も次の『原作』の展開に関わってくるはず。
確か、ルフィ達の次の目的地は……パンクハザード。
原作では『暑さ寒さが半々の島』だったけど……この世界では赤犬と青キジの大喧嘩は起こってない。
ただ、全く何も起こってないかというと、それもちょっと違って……まあ、この話はいい。
しかし、そうなると……
(いよいよ、ローが動き始めることになる……だろうな)
さて、島の状態以外にも、ローが七武海じゃなかったり、ドフラミンゴ周辺のつながりだったり……色々と原作とは違っているわけだが……はたしてどう転んでいくのやら。
コレに関しては、言われるまでもなく注視していかないと、だな。
一応ではあるけど、クザン元帥からの頼みを承諾した後……少しして、部屋のドアがノックされる。
『どうぞ』と返すと、
「失礼します、スゥお嬢様」
入ってきたのは……1人の美少女。
髪の毛は、色は明るいブラウンで、癖とかはついていないストレートのロングヘア。
OLが着るビジネススーツを思わせるデザインの服。利発そうな雰囲気も相まって、まさに敏腕OLって感じに見える。
……実際に敏腕で、私の秘書みたいなことやってくれてる子なんだけどね。
そんでもって、最大の特徴として……私と同じ顔をしている。
より正確に言えば、20歳くらいの頃の私と同じ顔をしている。
名前はユゥ。実は人間ではない。
娘達が私の誕生日にプレゼントしてくれた……『ホーミーズ』だ。
さすがに人間……ではないけど、人間の女の子にしか見えないものをプレゼントされた時は度肝を抜かれたが……今となっては頼れる部下である。
で、その敏腕部下であるユゥが何の用かというと、だ。
「残念なお知らせです。本日これから予定していた、シキ最高顧問との面談ですが……体調がすぐれないため、急遽キャンセルとのことです」
「また!? もぉ……これで3回目だよ。まるで避けられてるみたいに思えてきちゃうな……いや、別に仮病とか疑ってるわけじゃないけどさ。じゃあ、事前に質問だけ送っておいたことについて……回答とかは?」
「それについても、後日改めてセッティングした面談の際に、だそうです」
「あ、そう……やれやれ」
気のせいか、頭痛がしてきた。まったく、パパときたらいつまでもいつまでものらりくらりと……はぐらかすのもいい加減にしてほしいもんだ。
この件に関しては私だって、相手がパパでもひかないぞ。
苛立ちを発散させるように、大きめのため息をついて……目頭を指圧してもみほぐしつつ立つ。
さて、と。用事があったはずだったんだけど……意図せずして『今すぐ』暇になってしまった。これなら……すぐにでも、例の海域の警戒に当たれるだろう。クザン元帥の依頼通りに。
予定を整理して……気分転換がてら、外にパトロールにでも出かけるとするかな。
(どうせ……すぐに動かなきゃいけなくなるだろうから、『その時』に備えて……ね。どう対応することになるかはわからないけど……かけつけるなら、近い方がいい。むしろ、渡りに船というか……クザン元帥の頼みは、いい理由付けになるな)
さて、ルフィ達がどのタイミングで『パンクハザード編』に突入するかわからないけど……いつ事態が動いてもいいように、準備しておかないと。
いざ始まったら……しばらく忙しくなる。
「ユゥ、用事がなくなっちゃったから、これから出かけることにする。準備お願い」
「かしこまりました。『ひな壇』から誰かお連れになりますか?」
「ブルーメに同行を頼むから声をかけて。後は、あなたとルゥがいればいいや。娘達とビューティには留守を任せる」
「かしこまりました。ただ、アリス様は先刻より出かけて留守のようですが」
「そうなの? ……まあ、そういうことなら仕方ないか。じゃ、お願いね」
☆☆☆
「すまないねえ、Dr.インディゴ……苦労をかけちまって」
「それは言わないお約束ですよ、大親分。……実際こんな小芝居やってる場合じゃないんですから、きちんと安静にしてください」
一方その頃……シキの私室にて。
予定していたよりも早く仕事を切り上げたシキは、寝室のベッドに横になって上体を起こし……Dr.インディゴと話していた。
いつにもまして覇気のない声で、時々せき込みながら。
「痛みはありますか? 息苦しさは?」
「どっちもあるが……昨日よりちときついな。ったく、『獅子』と呼ばれた俺がこのざまとは……年は取りたくねえもんだな。情けねえ限りだよ」
「私からは『ご無理なさらず』としか言えません……とりあえず、薬の強度を1段階上げましょう。症状は緩和するでしょうが、その分負担も大きくなりますが……」
「構わねえよ、身から出た錆だ……」
せき込んで乱れた呼吸を、深呼吸して整えながら……呼吸の合間に、という感じで返事をする。
あまり深く息を吸い込むと、肺が酷使されてそれはそれでせき込んでしまうため、ほどほどに。
「あァ、それと今日のスゥとの面会は?」
「お申し付け通り断っておきました。……また色々言われてしまいますね、お嬢にも……周りの連中にも」
「やれやれ、人の気も知らねえで困ったもんだぜ、あのバカ娘は……ゴホッゴホッ!」
「……もう横になりましょう。薬は後で持ってこさせます。きちんと全部飲んでくださいね」
「ガキじゃねえんだから駄々こねやしねえよ。……あァ、そうだDr.インディゴ、寝る前に確認しときたかったんだが……『ジョーカー』からは何か来たか?」
「……いえ、何も。至っていつも通りです」
「……そうか。そろそろだと、思うんだがな」
その言葉を最後に、シキは布団に身を倒し……目を閉じた。
ゆっくりとその胸が上下し、きちんと呼吸音も規則正しく聞こえているのを確認すると……Dr.インディゴは、今は『病室』といっても過言ではないその部屋を後にした。
☆☆☆
魚人島でパルフェとの戦いを経た後、ルフィ達は、しらほし達の見送りを受けて魚人島を出立。
途中、色々ありつつも……無事に海上に浮上し、『新世界』にその歩みを進めた。
それから間もなくして、『麦わらの一味』は次なる冒険の舞台に進むことになる。
海上で受けた『救難信号』に従い、上陸したその島の名は……『パンクハザード』。
しかし、本来の歴史において彼らが上陸するはずだった島とは、少し様子が異なっており……
「寒みィ~~~ッ!! 何じゃこの島はァ!?」
「冬島、なのかしら……ここ。それにしても……ちょっとコレは、風が強いわね」
島に近づくにつれて分かったのは、その島が、強烈な冷気に覆われている、雪と氷の島だということだった。
遠目に見てもわかるくらいに、島全体が雪と氷におおわれているのに加え……その島の内側から外縁に向かって絶えず強風が吹き荒れている。降り注ぐ雪をからめとり、地面に積もった雪を巻き上げて、強烈なブリザードと化していた。
さらに、島の周囲には大小の流氷が浮いており、強風で起こる海流に乗って、近づく船に半ば襲い掛かってくるような形。船底に当たれば、ものによっては座礁や沈没の危険すらある。
しかし、それで諦めるルフィ達ではなかった。
流氷をよけながら限界まで近づいた後、ナミの技で雲の道を作り、それを通って『探索組』が島に進入。
一方、サニー号残留組は接岸できそうな場所を探し、『救難信号』を発していた何者かを助けた後に『探索組』と合流して島を脱出する、という作戦をとった。
なお、当然ではあるが、極寒の島に入るということで……ルフィ達探索組は皆、防寒具をきちんと装備した上で出かけている。
「よし……じゃ、私達も移動しましょ。このままここにいたらいつか流氷にぶつかっちゃうわ」
「サニー号なら流氷なんぞに負けやしねえ……とはいえ、無駄に傷を作らせるのも気分良くはねえか。しかし、こんな大量の流氷とは……船つけられるところなんぞあるのか?」
「島自体に人がいるんですから、どこかには使える港がある……と思いたいですね。とはいえ、骨身に染みる寒さです……いや私骨だけで身はないんですけど! ヨホホホホ!」
「おれは平気だけど……確かに、ドラム王国より風も寒さも厳しそうだな。それに……なんかこの島、風が中から外に吹いてくるし、流氷は多いし……まるで『近づくな』って言ってるみたいだな」
「確かに……だがまあ、何せ『新世界』だ、そういう島もあるってこったろ」
サニー号に残った面々は、ルフィ達『探索組』の乗る『ミニメリー2号』が見えなくなったタイミングで動き始め……流氷の間を縫って動き、時に邪魔な氷を砕いたりしながら進んでいく。
ちなみに……これは、彼ら彼女らは知りえないことではあるが……この『パンクハザード』が極寒の島になったのは、今からおよそ1年前からだった。
それ以前のパンクハザードは、毒で腐って死に絶えた地面が広がっている、荒野の島だった。
そこで起こったとある戦い――あるいは稽古、または葬送――からしばらくして……この島は、雪と氷に覆われた島になった。
ただの冬島ではなく、風も、雪も、海流も流氷も、全てがまるで『この島に近づくな』『この地を荒らすな』とでもいうような……拒絶の極寒に守られた島。
……この島が雪と氷の島になる以前に起こった、最後の戦い。
そこで散った……1人の男。
この島にその墓があるわけではないが……最後の戦いの舞台となったここもまた、彼を慕う者達からすれば、ある種特別な意味を持つ場所。
そこを荒らすな、と……冷気が守っているように、感じる者もいるという。主に、海兵に。
繰り返すが、海賊であり、その事情も特に知らないルフィ達にとっては……縁も特にない、知る由もない話である。