大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第266話 疑惑のパンクハザード

 

 

 拒絶の冬島『パンクハザード』。

 

 『救難信号』を盗聴して『麦わらの一味』の存在をかぎつけた、海軍中将“白猟のスモーカー”率いるG-5基地の面々は、政府によって立ち入り禁止になっていて誰もいないはずの島で……1人の男と相対していた。

 

 予想外の男が出てきたことで驚き、おののいている海兵達――海賊かと思うほどガラが悪いが、一応間違いなく海兵である――の前で、臆することなく一歩前に出てスモーカーが問いかける。

 

 

「ここは政府関係者であっても『立ち入り禁止』の島だ……なぜお前がここにいる? トラファルガー・ロー」

 

「俺がどこにいて何をしていようが、俺の勝手だ……妙な因縁はつけてくれるな、白猟屋」

 

 

 “死の外科医”トラファルガー・ロー。

 かつてシャボンディ諸島を騒がせた『超新星』……今は『最悪の世代』と呼ばれる海賊の1人。

 

 若くして億越えの賞金首となったことに加え、その強さや残忍さで知られた男だが……海軍の間では、また別な理由でよく知られている男でもあった。

 

 それは、彼が……『王下七武海』の1人、『海賊文豪』スゥの直属の部下であるということ。

 

 政府および海軍に特に協力的な『七武海』として知られるスゥ。その部下として動いている以上、必然的にローと海軍との接点もまた多い。

 スゥの指示で狩った海賊の身柄を海軍の基地に届けたり、窮地に立たされている海軍に加勢して救ったり、救護の際にその医術で負傷者の手当てをすることもあった。

 

 ゆえに、彼に助けられたことで恩義を感じている者も割といるのだが……それを差し引いても、毎度『オペオペの実』の能力で、獲物である海賊の体や心臓をバラバラに解体して持ち込んでくることから、どうしても気味悪がられている男でもあった。

 こうして相対しているG-5の海兵達も『関わり合いになりたくない』と一歩引いている。

 

 そんな部下達にかまわず、スモーカーとたしぎはローに事情を話す。

『麦わらの一味』がこの島に来ている可能性があり、自分達はそれを追ってきた、と。

 

「こんな問答でお互い納得できるとは思っちゃいねえ。そこをどけ……中を見せろ」

 

「断る。ここはあくまで俺のプライベートな『別荘』だ」

 

「しかし、ここは先ほど言った通り……政府関係者であっても『立ち入り禁止』とされている島です。いくら『七武海』の傘下とは言え、不法な占拠は問題に……」

 

「お前らが捨てた島に、海賊の俺が居着いたぐらいで何の不都合がある……別に、お前らに何か損をさせてるわけじゃないだろう。ましてや『お嬢』の部下である俺が、『合法的な海賊行為』を行う一助として行う以上は、よほど度が過ぎなければ恩赦の対象であるはずだ……違うか?」

 

「! お前がここを『別荘』にしてんのは、お前の主人……『海賊文豪』の指示だってのか?」

 

 ローの言葉を聞いて、スモーカーはぴくっとわずかに反応しつつ尋ねる。

 彼にとっても何かと縁があり、『七武海』として以前に知人である女海賊の名が出た。

 

「それを直接『指示』されたわけじゃないが……そのお嬢からの任務をこなす上で必要ないし有用だからこそこうしている。でなきゃこんな暮らしづらい島にわざわざ居着いたりしない」

 

「お前がここにいることを、奴は?」

 

「もちろん知っている。……気になるなら、電伝虫で確かめてみたらどうだ、白猟屋? お前確か、お嬢とは個人的な知り合いだろう」

 

「えぇ!? そうだったんすかスモさん!?」

 

「あの、『海賊文豪』と!?」

 

「……別に、任務の外でつるむような仲じゃねえ……海賊と海兵だ」

 

 『海賊はどこまで行っても海賊』。そういう信条を持っているスモーカーだからこそ……たとえ、その『海賊』になる以前からの知人であるスゥであっても、海兵として付き合い方には一定の線を引いていた。

 『海兵』と『七武海』として協力することまでは妨げはしないが……それでも、気を許すには至らない。彼女の本質が善人であることを知っていても、だ。

 

 そして、スモーカーとスゥの関係性はともかくとして……ローの言う通り、ローがここにいる理由が、『七武海』であるスゥの任務のためということであれば、確かに不法滞在程度はまず問題にはならないだろう。

 もともと『七武海』の持つ特権であれば十分免責の対象にできる程度のことであるし、海軍への貢献度が特に高いスゥであれば、よほどの我儘でも割と通せてしまうだろうから。

 

 スモーカーの返事を待たず、ローは締めくくりに入る。

 

「わかったら話は終わりだ、さっさと帰れ。ここにいるのは俺1人だ。文句があるならお嬢に抗議でもなんでもすればいいが……時間の無駄になるだろうからやめておくことを勧める」

 

「………………」

 

「『麦わら屋』がここに来たら、まあ……任務外だが首は取っておいてやる。暇じゃねえんだろう……さっさと―――」

 

 

 

『い~~~~や~~~~!!』

 

 

 

「「「……!?」」」

 

 ローが立ちはだかっている扉の奥から……悲鳴とも言えそうな甲高い声が聞こえてきた。

 しかもそれだけで収まらず、声はいくつも増えて聞こえて……どんどん騒がしくなっていく。どんどんこちらに近づいてきているようにも見えた。

 扉の向こうに、明らかに誰かが……いや『何か』がいるのも見え始めていた。

 

 唐突なことに、スモーカーら海兵達に加え……背後から聞こえてきたそんな声に、ローも困惑を浮かべて振り返る。

 ……振り返ったその瞬間……扉の中から、なんともよくわからなすぎる集団が飛び出してきた。

 

『麦わらの一味』。

 たぬきのようなよくわからない生物「ホワチャー!!」。

 巨大な子供達。

 子供を乗せて正座で走行してくるロボ「「「ス~~~パ~~~!!」」」。

 首だけなのに喋る謎の男。

 ※一部重複あり

 

 一気に『騒がしい』どころではなくなったその場の状況に……さすがのスモーカーやローも呆気に取られていた。

 

「……いるじゃねえか……何が1人だ……!?」

 

「ああ。いたな……今俺も驚いてるところだ」

 

 言いながら……スモーカーは十手を抜き、ローは刀を手に取る。

 ここからさらに、事態は加速していく。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 一方その頃……同じく『新世界』のスタート地点付近にある、とある島。

 

 町で一番高級なホテルの、さらに一番いい部屋に、スゥは宿をとっていた。

 

 部屋1つがそこらのへたな一戸建てよりも広い上、高級な家具がいくつも置かれている。食べ物や飲み物、その他各種サービスも含め、全てが一級品で統一されている。

 当然、値段も相応にかかるが、スゥにとっては別段痛くも痒くもない程度の出費でしかない。

 

 彼女にとっては、値段よりも何よりも、快適で落ち着ける空間で、気持ちよく『執筆』に集中できること……それこそが何よりも重要だった。

 

 もっとも、今彼女がペンを走らせているのは、小説でも雑誌記事でもなく……『七武海』として海軍に提出する報告書だが。

 本命の『執筆』は、面倒な仕事をさっさと片付けたうえでゆっくりとりかかる予定である。

 

「聞いてた以上の混雑っぷりだったな……。ありゃクザン元帥……というか海軍もいっぱいいっぱいになるわ」

 

「1か月間海底でせき止められてたルーキーたちが一斉に放流されたら、そりゃあのくらいの勢いにはなるのですよ。質はお察しでしたが……あれだけの数がいれば、『出待ち』していても取りこぼしも相応に出るのです」

 

 ソファに腰かけて、ルームサービスでとったお茶菓子をぱくつきながら話すスゥとブルーメ。

 その傍らには、ユゥが立ったまま控えていた。

 

「ユゥも座っていいよ。立ったままだと疲れるでしょ?」

 

「いえ、大丈夫ですので……どうかお気になさらず。それに、一応『仕事中』ですので」

 

 にっこりと笑ってそう言いつつも、スゥからの申し出はやんわりと辞退して立ち続けるユゥ。

 スゥはその姿に、『私と同じ顔にしては真面目だなあ』と苦笑しつつ、

 

「無理はしないでね。あ、じゃあユゥ、賞金首のリストと、ここらへんの海賊達の分布図、最新のやつ出して。たしかこないだ更新されてたと思うけど……もう持ってる?」

 

「もちろん、発刊された当日に取り寄せて『収蔵』してありますよ」

 

 言いながらユゥは、着ているレディーススーツのジャケットの前を外し、裏地が見えるように片側を横に開く。そして、内ポケットに手を入れるように、その裏地の部分に手をやる。

 しかしその手は、まるでそこに何もない空間が広がっているように……ジャケットの裏地の中に沈み込んでいった。

 

 そしてその手が再び抜き取られると、一瞬前まではなかったはずの、2冊の本、ないし冊子が握られていた。

 どちらもそれなりに大きく厚みもあり、到底ポケットに入るような大きさではない。

 

 ユゥがそれらをスゥに手渡すと、スゥはその片方をテーブルに置き、もう片方を手に持ったままパラパラとめくって中身を読み……それを参照して仕事の続きを書き始めた。

 

 手に持っているのは、海賊その他犯罪者の手配書がスクラップされた名簿。『七武海』であるスゥにとっては、獲物のリストである。

 そしてテーブルに置かれているのは、この海域でどのような海賊が出没ないし目撃されているかをまとめた資料。

 どちらも、今スゥがユゥに注文した資料である。

 

 資料として使っているのはその2つだけではなく……既にテーブルの上には、スゥが今まで読んで参照していた本がいくつも置かれている。

 それらのうち、もうすでに使い終わっているものを選んでスゥはユゥに渡すと……先ほどと同じようにユゥはジャケットの前を開き……それらの本を、裏地の中の空間にしまいこんでいく。

 

 その様子を感心したように見ているブルーメが訪ねる。

 

「いつも思うのですけど、ユゥはそれ……本とか資料を取り出す時に、毎回すぐにサッと取り出せますけど……わかんなくなったりしないのですか? 収蔵している本の数、100や200どころではないのですよね?」

 

「ご心配なく、全て把握できていますから、お求めに応じてノータイムで取り出せるようになっていますよ。わからなくなるなんてこともありません、私は『図書館』のホーミーズ……スゥお嬢様の、執筆をはじめとしたあらゆるお仕事のお手伝いをするための、『書庫兼司書』ですから」

 

 

 

 1年前、スゥへの誕生日プレゼントとして、『ホーミーズ』を送ることになった際……作家であるスゥにとって役に立つもの、ないし、必要とされるものは何か、という話になった。

 そこで行きついた結論の1つが……執筆やその前段階のアイデア構築に際して必要な、『資料』。

 本や冊子を大量に保管し、自在に取り出し、スゥが望むときに望む資料を提供できるような存在を『ホーミーズ』で作ることができれば、大いに母の役に立つのではないかと。

 

 そう考えたイリス達は、『本棚』よりも『書庫』よりも、より多くの本を貯蔵できるようにと考え……実行したのが、巨大な『図書館』を丸ごとホーミーズにすること。

 

 素材になる『図書館』を、設計段階から娘達が自分で携わって作成。

 そこに収める本も、古今東西のスゥが好きそうな本をはじめ、雑誌や各分野の専門書、『絵物語』の本、世界中の風景や自然を収めた写真集、新聞のバックナンバーや手配書のスクラップまでも、集められる限りの情報という情報、文化という文化をその巨大図書館に収蔵した。

 

 そして完成したそれを、イリスが能力でホーミーズ化。

 例によって『美少女擬人化』したわけだが……使用したのが、未来のスゥ自身の『(ソール)』だったためか……見た目が、若き日のスゥそのものになるという結果には、娘達もさすがに呆気にとられた。

 しかし、『書庫兼司書』としてのスペックは、期待通り、あるいはそれ以上のものを持っており、人格ないし性格的にも特段問題はなかったため……最後の『仕上げ』をした上で、スゥにお披露目&プレゼントとなった。

 

 以来、自宅だろうが出先だろうが、執筆中だろうが書類仕事中だろうが、必要な時に必要な資料をすぐにスゥに差し出し、さらに今もなお様々な書籍を仕入れては取り込み、どんどんと蔵書の数を増やしていき……作家としてのスゥの、大いに役に立っている。

 そのことは、娘達はもちろん……ユゥ自身にとっても喜ばしいことだった。

 

 

 

(はじめは、私にプレゼントするために作ったホーミーズで、しかも私と同じ顔とか……どう扱ったもんかと思ってたけど、今じゃすっかり、普通に仲間ないし友達として接してるもんなあ。仕事の時には、彼女が言う通りに『書庫兼司書』で、時には書類仕事とか手伝ってくれすらするし……ほんと、有能だし気立てもよくていい子だよ。私にはもったいないくらい)

 

 今となっては、ほとんど『ホーミーズ』であることを意識すらせず、ほぼほぼ一人の人間として接している。

 そのことに、誰も何も文句は言わないし、そもそも違和感も何もない。

 

 そもそもの出会いというかルーツこそ違えど、『血のつながっていない娘達』や、『未来から来た娘達』がかつてそうだったように……スゥにとって、仲間に、友達に……あるいは『家族』になるのに、なんら妨げになるものではなかったし、これからも間違いなくそうなのだから。

 

 ……と、

 

 

 ―――ぷるぷるぷる……ぷるぷるぷる……

 

 ―――ガチャッ

 

 

「はいはいー、こちら『ひな壇』所属“左大臣”ブルーメなのですよ。どちら様で?」

 

『あー、“海賊文豪”の側近のお嬢ちゃんか。こちら海軍本部のクザンだ。悪いんだが……お嬢様と変わってもらえるかい?』

 

「!? これは元帥殿……うちのお嬢様に何か御用で……って、用がなきゃかけてきませんよね」

 

「……ブルーメ、代わる。貸して」

 

 隣で聞いて『またかよ』とため息をついていたスゥ。

 横から割り込むように、ブルーメから話が回ってくる前に手を出して受話器を受け取る。

 

「……もしもしクザン元帥?」

 

『あー、ちょっと前ぶりだな“海賊文豪”。悪いんだけどちょっと頼まれてくんねえか』

 

「あのですね……今まさに私あなたの指示で、『新世界』入り口周辺のパトロールしてるとこなんですけど……短期間で二度も言いたかないですけど、ホントに人のこと便利に使いすぎじゃないですか? いい加減私怒ってもいいと……」

 

『すまん、後で必ず何か埋め合わせはする……けど割と緊急なんだ今回。聞いてくれ』

 

「……?」

 

 電伝虫ごしに聞こえてきたのは……いつになく真剣な口調。

 どうもいつものダウナーでだらけた雰囲気とは違うと察したスゥは、半ば本気でイラついていたのを一旦しまい込んで、聞く姿勢に入る。

 

『ちっと行って様子を見てきてほしい場所があんだ。お前さん今、『新世界』の入り口近くにいるっつったな。だったらそこからも近いはずだ……悪いが頼まれてほしい』

 

「場所は? それと、具体的に何をすれば?」

 

『『パンクハザード』。数時間前なんだが……スモーカーの奴が、『麦わら』を追いかけてこれから移動する旨をG-5に連絡を入れて……それっきり消息が途絶えた。麦わらとドンパチやってて本人が出られねえってんならまだわかるが、軍艦の通信室に据え置きして、緊急の連絡に備えて担当の係員が控えてるはずの電伝虫にもつながらねえ。……それだけならまだいいんだが……』

 

「他にも何か気になることが?」

 

『こないだ話した時にもちらっと触れた気がするんだが、『G-5』が担当してる海域は、もともと不自然な事件とか海難事故が多くてな。しかも、気になって詳しく調べさせたことが何度かあるんだが……その調査自体も上手くいかねえんだ。あの基地はまあ、海兵達の質もアレだから、細かい調査には向かねえのかとも思ったんだが……どうにも嫌な予感がする』

 

「…………」

 

『情けない話だが、元帥とはいえ『嫌な予感』だけで、特に何も事件が起こっていない所を、人員割いて調べるのも難しい。だが、本当にあのあたりに何かがあって……それにスモーカー達が何かの形で巻き込まれてるなら……後手に回るのはまずい気がする』

 

「だから……海軍を動かしても上手く調べられないから、海賊に頼む、ですか。全くもう……」

 

 はぁ、とスゥはため息をついて、

 

「こないだ聞いたんですけど、『海軍おかき』の新作が出たそうですね。アレ、私もそうですけど、スズとかレオナとかパパとか、うちにもファンが多いんですよ。海軍本部の売店でしか売ってないからなかなか手に入らないんですけど……アレ通販で買えるようになりませんかねえ?」

 

『あー……やれやれ、わかったよ。総務部に掛け合ってみる。あと、この件が終わったら箱で買って差し入れすっから。……よろしく頼む』

 

「大変よろしい。じゃ……急ぎますんで」

 

 

 ―――ガチャッ

 

 

 

 

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