「……やれやれ、行ったか。悪いな麦わら屋一味、騒が……」
「「「トラ男くゥゥウゥん!?」」」
ナミ、ウソップ、チョッパーと、麦わらの一味の中で戦闘能力下位3名が至近距離に詰め寄り、責めるような目つきで睨みつける。3名とも冷や汗と、そして涙がこれでもかと滲んでいた。
その理由が、今しがた唐突に起こったアリスとの会談であろうことは言うまでもない。
「ちょっと何よ今の女の子!? 『お母さん』とかなんとか言ってたけど、レオナと同じスゥの娘!?」
「お前パンクハザードで『金獅子』と敵対とかやべーことにはならないって言ってたよなァ!? なァ!? あれ嘘かコラ!? 無茶苦茶怒ってたじゃねーか!?」
「ホントに大丈夫なんだよな!? やだぞおれ、スゥとか、その部下とかと戦うの! 今のアリスってのも、笑ってたけどすげー怖かったぞ!?」
「…………落ち着け。怖がらせたのは悪かった、謝る」
鼻息がかかるほどの距離で泣きながら怒る3人の嫌な圧に負けたのか、たじろぎながらも落ち着くように言うロー。
3人の怒り(と、その他諸々の感情)はもっともであるためか、珍しく普段の露悪的な憎まれ口は使わないようだ。
どうにかある程度落ち着かせて腰かけさせた後、自分もマストの下のベンチ部分に座り直し、息を整えてから口を開いた。
「今言いかけたが、驚かせて悪かった。予想より早く俺の飼い主にかぎつけられちまったらしい。本当なら、タイミングを見てこちらから説明のための電伝虫を飛ばすつもりで、それ用の言い訳も考えてあったんだが……つくづく連絡用の奴をなくしたのが悔やまれる」
「あ、それはホントだったんですね」
「? ああ……おそらく、ヴェルゴと戦った時にな」
『連絡用の電伝虫を紛失した』というのも含めて嘘だと思っていたらしいブルック。
彼だけでなく、何名かは同じようにそう思っていたようだ。
「しかし……今のレディ、とんでもねえ気迫だったな。ありゃ『覇王色』だろ? 見た感じまだ、少女と大人の女の境目って感じの年齢だったと思うが……」
「ルフィといい、『魚人島』で見たパルフェってのといい……あぁ、それとスゥ先生もそうなんだったか。希少な才能のはずだろうに……『新世界』がいかにバケモノの巣窟かってのがわかるな」
サンジに続けてそう言ったフランキーは、言いながらちらりと横を見る。
そのアリスの『覇王色』で気絶してしまったモモの助を、ナミと錦えもんが協力して手当している――といっても気絶しているだけなので、横にする程度だが――ところだった。
「ヨホホホホ……相変わらずアリスさんの覇気は骨身に染みますねえ……私、骨しかなくて身はないんですけど。ヨホホホホ!」
「? ブルック、おめェ、アリスのこと知ってんのか?」
「ええ。私が『グラン・テゾーロ』にいたことはもう話しましたよね? スゥさんはそこの常連でしたので」
「ああ、それでか……いやでも、それなら仲良かったんじゃないのか? なんで『覇王色』受けるようなことになったんだよ?」
「あ、ハイ。スゥさんに『パンツ見せていただいてよろしいでしょうか』って聞いたら、娘さん達5人全員に袋叩きにされたうえで、割とマジな『覇王色』を至近距離で」
「何してんだよお前……」
「……むしろよく生き延びれたな」
呆れたように言うウソップとロー。
その横で、『あり?』と首をひねるルフィ。
「……? 5人? あれ、スゥの娘って3人だった気が……」
「色々あって途中で増えてたぞ。詳しくは知らねえけど」
「へー、そうなのか」
「ていうか私達、今の女の子のことよく知らないんだけど……今言ってた通り、あの子もスゥの娘なのよね?」
「ああ。あいつはアリス。お嬢のところの『三女』だ。一応賞金もかかって手配されたんだが……直後にお嬢が『七武海』になったことで撤回されて、手配書も出回らなくなったからな……知らなくても無理はないだろう」
「気になることも言ってたわね。『ひな壇最強』がどうとか……」
「あ、それも私も気になってた。『ひな壇』って何? やっぱあの子強いの?」
ロビンとナミからの問いかけを受けて、ローは少し考え……
「……まあ、そのくらいなら話しても構わないか」
「おいおい、何話そうとしてんのか知らねえけど、大丈夫かよ? 内部情報勝手に部外者に聞かせたら、また怒られるんじゃねえのか?」
「別に秘匿情報ってわけじゃあないから大丈夫だ。積極的に発信もされてねェがな。……心配しなくても、本当にやべェ情報……『知ったからには』ってなるようなことは言わねェよ」
「コエーこと言うな、そこ!」
ウソップの抗議をスルーし、ローは1つ1つ言葉を選びつつ、話し始めた。
☆☆☆
『ひな壇』とは、最近『金獅子海賊団』にできた……というよりも、スゥの周辺の部下や家族を組み込んで立ち上げられた、組織であり階級のことだ。
新提督であるスゥを中心に添えて組織された、いわゆる『親衛隊』のようなものだと思えばいいだろう。
特に隠されているわけではないが、大っぴらに発表されているわけでもないため、それ自体の知名度は低い。
しかし、情報に敏い者であれば、その存在はもちろん、具体的な組織ないし階級構造などもある程度分かっていることだろう。
トップはもちろん、『金獅子海賊団』の提督であるスゥ。
直属の大幹部である、『三人官女』。
文字通り3人おり……スゥの『娘』の中でも最古参の3人、スズ、レオナ、アリスがこの地位についている。
それと同格の『側近』として、『左大臣』と『右大臣』。
『左大臣』はブルーメが、『右大臣』はビューティが就いている。
そこから一段下、上級幹部クラスとして『五人囃子』がおり、これも名前通り5人。
就いているのは、スノウ、イリス、マリアンヌ、ペローナの4人と……いるのは確かだが非公開になっており、ローも誰だか知らない残り1人。
その下に、兵隊である『
なお、提督直属の親衛隊である『ひな壇』は、それに所属している時点で、海賊団の一般の船員ないし雑兵よりも上の扱いになる。
そのため、『ひな壇』の中でも最下級の『衛士』であっても、外部と比較すると、『雑兵以上幹部以下』とでもいうような立ち位置になる。
もちろん、所属自体『相応の実力』を持っていることが前提の人事となるのだが。
そして、この『ひな壇』の大きな特徴として、主にスゥが個人的に仲がいい面々のみで構成されているという点と……所属する全員が女性である点の2つがあげられる。
『金獅子海賊団』、特に前提督のシキが重用してきた面々の中には、男ではあるが優秀で強さもあるものも数多くいた。
にも関わらず、それらを1人として選ぶことなく、女性だけで周囲を固めたことから、親衛隊と言えば聞こえはいいが、実際はスゥが個人的に選んで一緒に楽しく海賊をやっているだけの、揶揄して『お友達幹部』であるなどとよく言われている。
では、実際のところはどうなのかというと……だ。
「お嬢の趣味や交友関係が多分に重視されていることは噂通りだ。基本的にお嬢のそばにいる彼女達は、お嬢が護衛を周囲に着けつつも、居心地よく過ごせることも重視して選抜されてるからな。だがだとしても『ひな壇』はお飾りの親衛隊なんかじゃあない、れっきとした精鋭部隊だ」
「や、やっぱそうなのか……見るからにヤバそうだったもんな、さっきのアリスってのも……」
今の説明通りなら、先ほど現れたアリスは、その『ひな壇』でも最強の実力者だという。
それであれば一応、あのアリスが『ひな壇』で最も強い……つまりは他はそれ以下だということになるが、何の慰めにもなりはしない。
そもそもアリスが具体的にどれだけ強いのかもわかっていないし、そのアリスに並びかねないであろう強さの大幹部……『三人官女』はもう2人いる。
他の『左大臣』や『右大臣』、『五人囃子』とて、弱いわけではないだろう。
「基本的に『ひな壇』は、自分から積極的に動くような組織じゃない。通常のナワバリの運営や、敵対組織への対処なんかは、それ以外の通常の戦力の役目だからな。あいつらが動くのは、お嬢を含めた自分達に何かしら関わりがあることか、よほど重要な事態の時だけだ」
「今回はそれが動いた……しかも、スゥではなく『金獅子のシキ』の指示で」
「それだけ重く見られてるってことか? おめェの独断行動が」
ロビンとフランキーの指摘に、再びウソップ達の顔色が悪くなる。
「それはそうだが、同時に、すぐに粛正するようなつもりでもないってことだろう。あの分なら、アリスお嬢はもちろん大親分も、この件で俺に自由にさせる『メリット』には気づいてるだろうし……そこをミスらなければ問題ない。さっきも言ったが、せいぜいお嬢に後で説教される程度だ」
「逆に言えば……そこでミスを犯し、『金獅子海賊団』に損失を与えることが確定視されてしまった場合……トラ男君はもちろん、私達にもその『ひな壇』の怒りの矛先が向くわけね? そうなるとやはり、さっきのアリスという子が刺客にそのまま変わるのかしら」
「それに加えて、アリスお嬢の率いる軍団が、だな。『ひな壇』自体はあくまでお嬢の親衛隊だが、その大幹部である『三人官女』は、それぞれ個人的に、数百人からなる軍団を従えてる」
「ぐ、軍団……」
「それと、アリスお嬢が来てたってことは……その側近であり、ほぼほぼ常に一緒に行動している『四性獣』も動いていたと見るべきだろう……おそらくさっきもいたはずだ」
「え? いやでも、来てたのあいつだけで……誰も周りにいなかったぞ?」
途中で聞こえた気がした不穏な固有名詞はさておいて、先ほどは確かにアリス以外は誰も来ていなかったように感じていた面々が不思議そうに言う。
それこそ、一味全員分の視線が『何かの間違いじゃないか』とローに集中するが……そのローが口を開く前に、
「シュロロロロ……おめでたい奴らだ、やっぱり気づいていなかったな」
「あ? どういう意味だ?」
「お前は気づけてたってのか、ヘンテコ羊」
「誰が羊だ! あァ、気づいてたとも……確かにさっき、あのアリスお嬢様以外の部下がいたぜ……この船の上にな。まあ俺も自力で気づけたわけじゃなくて、本人達から接触があった上で『余計なことをしゃべるな』って言われてたから黙ってたんだが」
「マジかよ!? ルフィ達でも気づけてなかったってのか!?」
ルフィ、ゾロ、サンジは、二年間の修行で『見聞色』を習得しており、離れたところに敵が湧いて出た場合などでも即座にそれを察知できる。
実際、『魚人島』ではしらほしの誘拐を試みたカリブーに気づいて急行、それを制圧している。
もし本当にその、アリスの側近たちとやらが着ていたとして、その3人が気づけなかったということは……少なくとも現状、自分達にそれを察知する術はないと言っているのに等しい。
「アリスお嬢の配下は隠密行動に長けた部下が多い。特にルププの隠密は……俺も詳しくは知らないが、下手な『見聞色』じゃ至近距離でも気づけないらしい。敵対組織のアジトに単身潜入して、覇気使いの『見聞色』をかいくぐってターゲット全員の喉を搔き切ったなんて話も聞く」
「怖すぎるだろ! そんなのに目つけられたのかよ!?」
「CP9がかわいく思えてくるレベルだわ……」
「……ひょっとすると、さっきの釈明の時も、裏切りと判断された瞬間、その……ルププっていう子があなたの粛清に動いたのかもね」
「ああ……かもな。もっとも、そうでなくアリスお嬢が直接粛清に動いたとしても……正直な話、俺じゃ対処は難しかったが」
「や、やっぱ強ぇのか……?」
『ひな壇』最強、などと言われるくらいだし、強いのは当たり前だろうとは思っていた。
しかし、先ほどもちらっと話に上がったように、具体的にどれだけ強いのかわからないというのも事実だったため、恐る恐る、という感じでウソップが聞く。
相手のヴェルゴとかいう男を倒した――サンジやスモーカーが苦戦するレベルだったらしい――ことからしても、ロー自身も相当に強いというのは想像に難くない。
にもかかわらず、こうもあっさりと言うということは……
この中でそのアリスの強さを理解しているとすれば、そのロー自身と、もう1人。
「な、なあゾロ? あのアリスってそんなに強ェのか?」
部外者であるシーザーに聞こえないように、小声でこっそりとゾロにたずねるウソップ。
ゾロはこの2年間、スゥの元で修行していた。そしてその際の訓練相手は、主にスゥの『娘達』だった。つまりは、あのアリスもそこに含まれている。
2年間という長い時間、互いに切磋琢磨し続けていたのなら……なんならローよりもアリスの力については、正確かつ詳しいかも知れない。そう見たのだ。
恐らく他のクルーたちも同じようなことを考えているのだろう。程度に差はあるが、真剣な、あるいは必死な目つきでゾロの言葉を待っている。
しばし考えて、ゾロは、
「……楽には勝てねェ」
勝てないとは言わない。
しかし、楽ではない……すなわち、ゾロほどの男が『苦戦する』と明言する相手。
しかもそれが、『三人官女』のうちの1人についての評価。
多少劣るとはいえ同格があと2人いる上、そのそれぞれが『軍団』を率いている。
これは絶対に敵対するわけにはいかないと、ほぼ全員の頭に共通認識が根付いた瞬間だった。
「ところで……もう1ついいかしら、トラ男君?」
不安はいくらかあるものの、ひとまず計画通りにことを進めることにした『同盟』一同。
一路『ドレスローザ』を目指して進む中、ふと思い出したようにロビンがそう口にした。
「今回の作戦には直接関係はないかもしれないけれど、1つ気になっている噂があるの」
「? 何だ?」
「これもまあ……『金獅子海賊団』の内情に関することだから、話せないならそれで構わないわ。ただ、できれば知っておきたいと思って。実を言うと、さっきの『ひな壇』の話を聞いていた最中も気になったところがあったから聞くんだけど―――」
「―――現提督であるスゥと、裏のトップである『金獅子のシキ』が不仲だっていう噂……本当?」
前書きで書きました通り、今回の話で本章は終わりになります。
この後少々お時間をいただきまして、次章『ドレスローザ編』に入りたいと思います。
しばしお待ちくださいませ。
今後ともよろしくです。