大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第274話 ずれていく未来

 

 

 ドフラミンゴが七武海をやめていないこと。

 朝刊を飾ったニュースが『誤報』として片付けられてしまったこと。

 海軍大将『藤虎』が、中将級を含む兵達を率いてここに来ていること。

 

 いくつもの真実が続けざまに明らかになり、ロー達は当初予定していた作戦の失敗を悟った。

 

『グリーンビット』にて、ドフラミンゴに加えて、大将藤虎とも戦闘になったロー。

 辛くもその場から離脱することに成功したものの……シーザーの身柄はドフラミンゴに奪われたままになってしまった。

 

 しかしドフラミンゴも、『完全に』シーザーを奪還できたわけではなかった。

 

「ジョ……ドフラミンゴ待ってくれ! あいつら俺の心臓をまだ持っていやがる! それ以外の体だけ自由になっても、このままじゃ生きた心地がしねェよ!」

 

「何……? フ……周到なことだな、ロー。まだお前を逃がすわけにはいかねェようだ。まあ、どっちにしろ生かしてこの島から出す気はなかったが……」

 

 ローが逃げたであろう、ドレスローザの方角をにらみ……戦いで受けた傷をかばいながら橋を渡って走るローの姿を見つけたドフラミンゴ。

 

「お前が持ってるのか、それとも『麦わら』の船に乗せてるのか……どちらでも構わない。お前はこれから俺が殺すし、船はすでにジョーラが制圧した頃だ。ゆっくり探させてもらうとしよう」

 

「次から次へと忙しそうなこって……追いかけなさるんで?」

 

「うちの大事な『部下』の命を握られたままじゃあ、枕を高くして寝られねェんでな。あんたらは先にドレスローザへ向かうことを勧める。麦わらの一味や……逃がすつもりはないが、ローもそこへ向かうはずだからな。シーザーは俺の部下を手配して護送するから、放っておいてくれていい」

 

「では、そういたしやしょうか……やれやれ、なんとも面倒なことになってきたもんだ。まあ……海賊を追って討つのは海兵の務めではありやすがね」

 

 言い終えると同時に藤虎は自らが乗ってきた軍艦へ向かい、ドフラミンゴは雲に『糸』をかけて飛び上がり、ローを追い始めた。

 

 

 

 その追われるローは、息を整えながら足を動かし、『オペオペの実』の能力を繰り返し使いながら全速力で『ドレスローザ』へ向かっていた。

 その手には、『小電伝虫』を持っている。既に『相手』と通話がつながっていた。

 

『じゃあ取引失敗しちゃったの!? しかも、ドフラミンゴが七武海辞めてないってどういう……』

 

「話すと長くなる……後回しだ、今は時間が惜しい。お前らの方には何か追っ手は来てないか?」

 

『ええ、特に誰も……不気味なくらい平和なものよ』

 

(……? ジョーカーの話しぶりだと、てっきり船の方にも誰か刺客を送っていると見ていたが……余計な心配だったか? まあ、何もない分には助かる……今すぐ、身軽に動ける)

 

「お前ら大至急今いる場所を一旦離れろ。沖合に出るでも、島の周りを回るでもいい、とにかく急げ! 最悪の場合、ファミリーの追っ手と海軍の両方に追われることになりかねない! 最悪、さっき言った通りお前達だけで『ゾウ』に向かうのもやむなしだ!」

 

『ちょっと冗談でしょお!? 聞いてないわよこんな急展開!』

 

「ドフラミンゴやその部下は俺がなんとかする……とにかく誰にも捕まらないことだけ考えろ! お前らの船に残して来てある、シーザーの心臓さえ無事ならまだリカバリーは効く!」

 

『それ知られたら絶対狙われる奴だぞ!?』

 

『いや~~! うちの船に危険物が乗ってるぅ!』

 

「泣いても状況は改善しねェ! とにかく……っ!?」

 

 言い終えるのを待たずに、ローは背後から強烈な殺気が振り下ろされるのを感じ……反射的に、後ろに向けて覇気を纏った刀を振るう。

 瞬間、糸を束ねた鞭がロー目掛けてすさまじい勢いで襲い掛かり……ローはそれをなんとか迎撃して止めた。

 

 その拍子に小電伝虫を手から取り落とし、通信は切れてしまう。

 

 攻撃の余波だけで橋の一部が崩れ落ちるほどの威力の技。

 放ったのは誰かなど確かめるまでもなくわかるが……その張本人が、ゆっくりと見せつけるようにローの眼前に降り立つ。

 

「話の相手は『麦わらの一味』の誰かか? 船の制圧にはジョーラが向かったはずだが……どうやら凌がれちまったらしいな」

 

「…………?」

 

 ふいに告げられたその言葉に、ローは頭に疑問符を浮かべる。

 今の通話で、ナミからは『サニー号の方は特に何もなく平和だった』と聞いた。しかし、ならば今ドフラミンゴが言った……襲撃をかけたはずのジョーラはどこに行ってしまったのかと。

 

 気にはなったが、余計な情報を相手に渡す必要もないと考え、口をつぐむ。代わりにとばかりに挑発するような笑みを浮かべて言う。

 

「随分と嬉しそうだな、『ジョーカー』……ガワだけの『大事な部下』が戻ってきてよかったな?」

 

「心配いらねェよ……すぐ中身(心臓)も取り戻すさ。しかし、その態度といい戦い方といい、お前さては心臓持ってねえな? となると、保管場所は『麦わらの一味』の船か、それとも別行動中の部下か……やれやれ、手間のかかる」

 

 しかしドフラミンゴはというと、ローの挑発じみた物言いに応じる気配はない。

 こちらも悪態をつくように言ってはいるが、さしてつらいとも思っていないし、何なら苛立ってすらいないように見えた。

 

 それどころか、この状況を面白がっているようにすら見えた。

 

「一度だけ言ってやる、ロー。もう無駄なことはやめろ。抵抗をやめて、大人しくシーザーの心臓を返すんだ。そうすれば……許すのは無理だが、せめて苦しませずに殺してやる」

 

「それに俺がうなずくとでも思ってるのか?」

 

「ああ、知ってるとも、うなずかねえだろうってな。だからこそ腹立たしい……が、それ以上に……哀れで、滑稽で、何とも笑えてきちまって仕方ねえんだよ……フフフ……フッフッフッフ!」

 

 笑いをこらえきれなくなった。我慢できず漏れ出してしまった。

 無知を嘲笑う感情以上に、そんな印象を受ける笑い声だった。

 

「お前は今、だいたいこんな感じのことを思っているはずだ。予定外のことが続いたが、切り札はまだこちらの手にある。まだリカバリーは効くはずだ……とな。それがおかしくてたまらねえんだよ……もうとっくにお前の望みは潰えている、いや……より正確に言えば、そもそも最初からお前の計画は破綻してんのさ」

 

「……?」

 

「おいおいまだわからねえか!? 察しが悪いな、お前らしくもねェ……今さっき、それで痛い目を見たばかりだってのによ」

 

 いいか? と前置きして話し続けるドフラミンゴ。

 その様子はどこか、相手を驚かせる衝撃の事実を、早く話して聞かせたくて、今か今かとその時を待っているような……むしろ楽しそうにその時を待っているかのようにさえ見えるもので……

 

「俺が『七武海』を辞めていないと知った時に味わっただろう? そもそもの前提条件がひっくり返ってしまうことの絶望感、って奴をな……なぁおい、ローよ……俺が何をそんなにおかしくて笑ってんのか、そんなに不思議なら教えてやるよ。ロー、お前が……」

 

 

 

「『ドンキホーテファミリー』と、『金獅子海賊団』が、敵同士だと決めつけてることさ」

 

 

 

「……は……?」

 

 ぽかんと口を開けて固まるローを見て、ドフラミンゴはこらえきれなさそうに笑みをさらに大きくしていく。

 吹き出しことしなかったが、おかしくてたまらないという心の声が聞こえてくるような、何ともわかりやすい表情の変化だった。

 

 傍から見れば、ローがドフラミンゴに対して決定的ともいえる隙をさらしているように見えるにも関わらず……そこを突いてローを仕留める気配すらないほどだった。

 

「お前の見立てでは、両者は互いに同じ裏の市場で、利権を奪い合い食らいあう敵同士。片方がつぶれればもう片方がさらに潤う……ゆえに虎視眈々と互いを潰す機会を狙っている関係……そんな風に見えてたんだろうな。まあ、無理もねえか。表でも裏でもそれを悟られないように、特に厳重に隠して取引は行ってたからな」

 

「そんなことは……お嬢からだって一言も……!」

 

「めでたい頭のお嬢様提督は当然そんなことは知らねえよ。闇の取引だ、海賊だ何だと言われてても本質はいい子ちゃんなお飾りには、説明してやる必要もないし、そもそも聞かせたところで渋い顔をされるだけだから意味もない。だから『大親分』やその側近の信用できる連中だけを動かして秘密裏に行ってたのさ。そして、そのお嬢様の小間使いのお前も、今まで知らなかったってわけだ」

 

 指から糸の伸びる手をすっと掲げて見せるように上げるドフラミンゴ。

 それを見てはっと思い出したように構えなおすロー。

 

 しかし、戦いが再開される様子は一向にない。

 ドフラミンゴはむしろ、今までずっと喋るのを我慢していたことを聞かせたくて仕方がないという様子にすら見えた。

 

「そもそも『金獅子』と『海賊文豪』の不仲は、程度はあるとはいえ有名な話だ……そんな状態で何でもかんでも正直に話してもらえてるはずねえだろう。想定が甘いぜロー。まあ、何も波風立てずにいるならそれでもよかったんだろうが……今回は完全に裏目に出たな」

 

「確かに本質的には商売敵だし、争う理由もいくつもある間柄なのは事実だ。だがそれ以上に俺達は、互いの短所を補い合ってより大きな利益を生み出すことができ、そして実際にそうすることを選んだ……所謂ビジネスパートナーって奴でもあるのさ」

 

「『七武海』という身分に守られているという条件も似通っているがゆえに、なんならそこらの海賊や裏稼業よりも協力もしやすい。競うよりも手を組んだ方が、互いに旨味を見いだせる手札が多いんだよ、うちと『金獅子』はな。密造品、禁制品、兵器、奴隷、ドラッグ……そして、特に大きな利益を生み出すのが……お前もよく知っている『SMILE』だ」

 

「お前も知る通り、『SMILE』を生み出せるのはシーザーを擁する俺だけだが、それと相互作用的に、生まれる利益を跳ね上げる()()()が『金獅子』の手元にはあるのさ。そしてそれは、新世界の大物たちを相手にした取引を一層加速させ、お前が想像しているよりもはるかに大きな金を、悪意を、欲望を動かしている!」

 

 わかるか? と、実に嬉しそうにそう聞いて……答えは聞かずに締めくくる。

 

「俺達の持つマーケット上の利権やら何やらを餌に『金獅子』をたきつけて戦力にする、ダメでも独断行動で俺達とことを構えた点の叱責・処分を回避し、被害さえ出さなければ軽めの説教で済む……とでも思っていたんだろう。だが残念……そもそもお前の味方なんて、どこにもいなかったのさ。それがわかってねえままに、一丁前に俺を脅してくるんだからよ……笑っちまってもそりゃあ仕方ねえってもんだろう!」

 

 早口で一息に言い切って……直後、飛翔するドフラミンゴ。

 

 覇気と共に、ドフラミンゴから迸る歓喜の感情が乗ってまき散らされているようにすら思える声を響かせながら……飛翔し、再びローに襲い掛かった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 一方その頃、コリーダコロシアムの方でも状況は大きく、目まぐるしく動いていた。

 

 試合に出場したルフィと、観客としてあちこちを見て回り調べるフランキーは、ブリキのおもちゃの『片足の兵隊』や、嫌われ者の女剣闘士・レベッカとの交流を経て……このコロシアムに、いやこの国そのものに隠されていた『闇』の部分を少しずつ知っていく。

 

 今回のコロシアムの戦いは、4つに分かれたブロックで、バトルロイヤル方式の予選がそれぞれ行われる。

 そしてそこでの勝者4名が、ドンキホーテファミリーの幹部達が待ち受ける決勝戦に進んで戦い、雌雄を決する、という流れだ。

 

 今回の大会には、強力な『自然系』の悪魔の実が商品として出されているということもあり……各国から名のある参加者が殺到していた。

 その中には当然、他の有象無象の参加者を圧倒して余りある力の持ち主も少なからずいた。

 

 そういった超がつく実力者達が集まり、競い合い、蹴落とし合い……決勝戦へ進むメンバーが決まっていく。

 

 ただし、その一部は……ささいなボタンの掛け違いから、ここではないとある世界線とは、やや違う展開をたどっていたようだ。

 

 Aブロックを制したのは、今や『四皇』勢力の一角となった『黒ひげ海賊団』の古参幹部にして1番船船長、ジーザス・バージェス。

 

 Cブロックを制したのは、一切が謎に包まれた無名の剣闘士・ルーシー……もとい、ルフィ。

 

 Dブロックを制したのは、コロシアムにおいて1滴の血も流したことのない無敗の剣闘士ながら……ここドレスローザの先代国王・リク王の娘という身の上ゆえの嫌われ者、レベッカ。

 

 ……問題は、Bブロック。

 本来の歴史においてこのブロックを制するはずだったある男は、大会の商品が『メラメラの実』ではなく『ズマズマの実』だったために……特段、それを求める理由がなくなってしまう。

 ゆえに、大会に出場することはなかった。

 

 では、Bブロックを制したのは誰だったかというと……

 

 

 ☆☆☆

 

 “戦う王”エリザベロー2世と、その軍司ダガマを中心に、バトルロイヤルとは思えない形での試合運びとなっていたBブロック。

 有象無象の選手達は、その手を組んだ選手達の軍隊のような戦い方に加え、他のとびぬけた実力者達の手によって着々と数を減らしていく。

 

 足長族の格闘家『ブルーギリー』や、魚人空手の師範『百段ハック』、ドンキホーテファミリーの幹部の座を狙う男『ハイエナのベラミー』……。

 

 他にも、賞金稼ぎコンビ『アブドーラ&ジェット』や、無名ながらも強い剣闘士『リッキー』、ドレスローザ自衛軍の軍隊長『タンク・レパント』などの強者たちがいたが、残念ながら破れ、倒れている。

 

 そして、そんな中で……この試合に出場しなかった男の代わりに……というわけではないが、本来の歴史にはいなかったイレギュラーな出場者が1人。

 並みいる猛者たちを打ち倒し、闘技場で暴れ続けていた。

 

「ぐへぇあぁ!?」

 

 身の丈ほどもある巨大な金棒を手に、眼前の小さな敵を叩き潰そうとしていた、筋骨隆々の大男が……返り討ちに遭ってステージに転がる。

 それをやってのけたのは、普通の人間ほどの背丈に、どちらかと言えば細身な体躯の男だった。

 

 振り下ろされた金棒をひらりとかわして飛び上がり、大男と『縦に』すれ違う瞬間、手に持っていたスコップを振り下ろして、その後頭部に一閃。

 

 ガァン! と、鋭くも鈍い音が響く。

 かぶっていた兜が砕けて割れるほどの衝撃を脳天に叩き込まれた大男は、頭から血を流して崩れ落ち、そのまま動かなくなる。

 

 その頭の丁度横に、細身の男はスタッと降り立って、土埃を払った。

 

 余裕綽々なその様子を見て観客席は大いに沸き上がり、実況も声を張り上げる。

 

『また一人、この男の前に沈んだァー! 見た目通りの身軽さと、細腕からは想像もできない力の前に何人もの猛者が討ち取られていく! これこそが『海賊処刑人』の実力なのかぁっ! その名はシュライヤ・バスクード! コロシアムにまた1つ伝説が刻まれようとしているッ!!』

 

「『グラン・テゾーロ』にも闘技場はあるから、そこで慣れてたつもりなんだが……自分が見世物になる側になると違うもんだな。なんだか注目されるのも慣れねえ……」

 

 帽子の位置を整えながら、はぁ、とため息をつくシュライヤ。

 しかし、すぐにその目を鋭く光るものに変えて……振り向きざまに手に持ったスコップを掲げるように持つ。

 

 ガァン! とまた妙に響く音を立てて、振り下ろされた拳を受け止めた。

 バネの力で増強されたその一撃を、わずかに押し込まれつつも見事に止めつつ、直後に身をひるがえして、その拳の主……ベラミーの頭目掛けて飛び回し蹴りを放つ。

 

 もう片方の腕でその蹴りは止められてしまったが、続けざまに放たれたスコップの一撃が、再び突き出されたバネの拳とぶつかり合って轟音を響かせた。

 

「懸賞金1億5千万……『ハイエナのベラミー』か」

 

「『海賊処刑人』に知られてるとはな……闘技場の外でなら獲物だったか?」

 

 アブドーラとジェットを沈めてから、次の標的をシュライヤに定めたベラミー。

 そのままシュライヤと、拳とスコップで切り結び始める。

 

 手足をバネに変え、縦横無尽に猛攻を繰り出すベラミー。

 シュライヤはその勢いに、スコップと、時に手足も使ってさばいて防ぐのに精一杯……に見えたが、その攻防の中、冷や汗を流しているのはベラミーの方だった。

 

 一切何もさせずに一方的に攻撃している……はずだというのに、その実、それらの攻撃は1発もシュライヤを捕らえることができていない。

 

 シュライヤはというと、汗一つかかずにベラミーの攻撃全てを……拳も蹴りも、不意打ちで繰り出された刃物すらも、スコップやその手足で防ぎ、撃ち落とし、あるいは回避する。

 完璧に見切って危なげなくさばききり、隙を伺い……

 

「ぐぉ……っ!?」

 

 一瞬の隙を見逃さず、強烈な一撃を叩き込む。

 唐竹割りに振り下ろしたスコップ……を囮に、横合いから叩き込んだ、『武装色』を纏った肘撃ちが顎にクリーンヒットする。

 

 盛大に脳を揺らされ……いやそうでなくとも、武装色での一撃のその衝撃だけで、相当の猛者であってもなすすべなく意識を飛ばされるであろう一撃だった。

 しかし、なんとしても汚名を返上し、ドンキホーテファミリーの幹部になってみせるという、その執念でベラミーは意識をつなぎ留め……ぎろりとシュライヤを睨み返す。

 

 シュライヤはというと、今の一撃で気絶しなかったことに感心しつつも、油断などしていないがゆえに、噛みついてくるハイエナの牙を届かせない。

 脳震盪で精細さを欠いたベラミーの拳をあっさり叩き落し、追撃で叩き込んだスコップの一撃でベラミーを頭から床にたたきつける。

 

 それでも意識を失わず、再度睨み返してくるベラミーに、とどめを刺そうとスコップの柄を握りしめるシュライヤだったが……その瞬間、空気が変わったことを感じ取って振り向き……舞台中央に目をやった。

 

 「キ~~ング…………」

 

 そこには……ブルー・ギリーをはじめとした数多くの選手達に睨まれながらも、全く怯んだ様子もなく不敵に笑う……“戦う王”が。

 丸太のように太い腕を弓のように引き絞り……今、伝家の宝刀が抜かれようとしている。

 

 空気が震えるような。びりびりとした緊張感。

 

 真正面にいる観客たちが、エリザベロー2世の『逸話』を思い出して客席から避難し始める。

 

 他の選手達は、それを止めるため、あるいは恐れることなくエリザベローを仕留めるために鋭く踏み込んでいく。

 

 しかし……もう、止まらない。

 当たりさえすれば『四皇』すら沈めると言われた、王の一撃が……放たれる。

 

 

 

 「パ~~~ンチ!!」

 

 

 

 振りぬかれた拳は、そこにあった空気を吹き飛ばし……放たれた衝撃波は、大砲も爆弾も、比較対象としてあまりに心もとない、暴虐的な威力をもって全てを蹂躙する。

 エリザベロー2世の目の前にあったもの、全てを粉砕して吹き飛ばした。

 

『な、なんという恐ろしい威力……これはもうリング上での生存など不可能!』

 

 実況が声を震わせて語る内容は、1つも大げさなものではなかった。

 

 大きくえぐれた舞台、モーセの奇跡のごとく割れた周囲の水面、大きな穴が開いて破壊された客席。それら全てがその規格外の威力を物語る。

 

 数秒前まで目の前にいたはずの選手達は、軒並み吹き飛ばされ……場外の堀に浮かび、あるいは沈んでしまっていた。

 ブルー・ギリーも、ベラミーも、リッキーも……襲い掛かっていた者も、既に倒れていた者も、そのどちらでもない者も……等しく舞台上での存在は許されず。

 

「ベラミー! ハック! ブルー・ギリー! 優勝候補たちもことごとく脱落! これは決まった! 『Bブロック』バトルロイヤルの勝者は、プロデンス王国からやってきた……」

 

 舞台上に残っているのは、プロデンス王国の“戦う王”ただ1人。

 ここに、Bブロックの王者が決定した……

 

 

 

 …………そう、誰もが思った時だった。

 

 

 

 ――――くるくるくる……すたっ

 

 

 

「え……?」

 

「何……っ……!?」

 

『い……いや……』

 

 観客の誰かが息をのみ……舞台上にいたエリザベロー2世が目を見開いて驚愕する。

 

 その眼前には……たった今、上空から、くるくると体を回転させながら、1人の男が舞い降りて来たところだった。

 空中で上手く体をひねって体勢を整えて、きれいに足から着地する。特によろける様子もなく、そのまま普通に2本の足で立ち上がった。

 

「ひー、危ねェ危ねェ。噂には聞いちゃいたが……えれェパンチだな、プロデンスの王様よ」

 

『な……なんとォオ!! リング上に生存者1名! 今の必殺の一撃をどうやってしのいだァ!?』

 

 数秒遅れて上空から降ってきた帽子をキャッチしてかぶり直したその男……シュライヤは、さすがに今の威力を前に平然としてはいられなかったのか、冷や汗をかいたのを袖で拭っている。

 しかし、冷や汗以外は……傷らしい傷を負った様子はない。それこそ、服にほつれの1つもできていなかった。

 

「どうやって、おれの拳を逃れた……?」

 

「さァな……悪ィが親切に説明するつもりはねえ」

 

 全身全霊で放った『キング・パンチ』は、絶大な威力を発揮した半面、決して少なくない体力をエリザベロー2世から奪っていた。息が上がり、肩が上下していることからもそれがわかる。

 

 シュライヤは笑って、手に持っていたスコップ……は、壊れてしまったようなので、その残骸を投げて捨てる。

 

(得物が壊れているということは、『キング・パンチ』は確実に奴にもヒットしたはず。なのに……仮に奴自身は耐え抜いたのだとしても、なぜああまで無傷でいられる!? 相当高く跳躍したのだとしても、衝撃波でリングアウトは免れんはず……)

 

「武器がオシャカになっちまったんでな……『(コレ)』で行く。不敬罪は勘弁願うぜ王様!」

 

 握りしめたシュライヤの拳が、『武装色』を纏って黒く染まり……瞬間、その姿が消える。

 

 消えた、と思うほどの速さで踏み込んだシュライヤは、一瞬にしてエリザベロー2世の懐に潜り込んでいた。

 そして、ガードも回避も許さぬ速さで、その顔面目掛けて黒鉄色の拳は振りぬかれた。

 

 ドゴォッ!! と……スコップよりも幾分鈍く、しかし重い音を響かせて直撃したその拳は、“戦う王”の巨躯を大きく吹き飛ばした。

 空中にいる時にその意識はすでになく……脱力したまま、リング外の“海”へ落水する。

 

『決まったァ~~!! “戦う王”エリザベロー2世場外! 今やリング上には、この男ただ1人! Bブロックバトルロイヤル……勝者は、“海賊処刑人”シュライヤだぁ~~!!』

 

 大歓声の中、シュライヤは帽子の位置を整えて直しつつ……申し訳程度に、拳を突き上げて勝利のスタンディングを見せる。

 そのまま、どうにか無事だったバックヤードへの道を、危なげない足取りで歩いてリングを後にした。

 

「やれやれ……必要があったから今回は派手に目立つ舞台にも出てきたが……やっぱ俺、裏方の方が性に合ってるな。黄色い声援はガラじゃねえや。……さて、そういうわけで」

 

 そして、通路に身が隠れた頃に、その表情を……飄々としたものから、目つきの鋭いものに変えて、ぽつりと呟くように、

 

「決勝戦がまだあるから、派手に動くわけにはいかねえが……ぼちぼち本命の仕事に入るか」

 

 

 

 こうして、4人の決勝戦出場予定者が出揃ったわけだが……各々の様々な思惑が交錯することにより、事態はさらに混迷の一途をたどっていく。

 それこそ、ローやドフラミンゴといった、一連の事態を裏から掌握しているつもりだった者達の思惑すら、大きく外れる形で。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「はぁああ゛ぁぁ゛っ!? む、む……麦わらのルフィせ、せん、先輩っ! やっぱり間違いねえ、本物だべ……! 新聞読んで、この国に来ると思ってだ……あ、会え……だめだどうすっぺ、き、緊張して声かげらんねぇ……!」

 

 

 ☆☆☆

 

 

「久しぶりだな……ルフィ!」

 

「……? ………………!? !? !?(あの顔)」

 

 

 ☆☆☆

 

 

「……で、今から作戦変更ってか?」

 

『ホントごめん……あの要件人間、弟君が出てるってわかったとたんすっ飛んでっちゃった……。まあ、理にはかなってるとは思うんだけど。単純に1人、こちらの手勢を増やせるわけだし』

 

「まあ、表向き『選手』として怪しい動きができねえ俺よりは、直通でそっちと話を進めた方がいいのは納得できるがよ……しっかりしてくれよ同盟相手」

 

『ホントごめん。結果的にハックもほぼ無傷で負けることができたから、戦力に不安はないわ。……油断はできないけれどね』

 

「わかった、他の協力者たちへの連絡は頼んだ。……もうすぐ決勝だ、俺は戻る」

 

『了解。……気を付けて。上手くやってね。……あ、そうだあのバカ1発……ううん、2、3発くらいなら殴ってもいいから』

 

「……ああ、うん」

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

(……さあて、計画は順調……後はこのまま上手いこと潜り込んで調べつつ……ターゲットが目の前に現れるのを待つのみだ。色々ややこしいことになってるようだけど……ボクの邪魔はできないし、させないよ。覚悟しろ、落ちぶれチンピラ鳥)

 

 

 

 




賞品が『メラメラの実』ではないので、バルトロメオが出る理由がなくなりました。ここに来てはいるみたいですが。
代わりになぜかシュライヤが出ています。何でだろうね?

今後ともよろしくです。
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