大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第28話 スゥ14歳、用心棒?

 

 

「ちく、しょう……何で、こんな、小娘に……!」

 

 どさっ、と音を立てて倒れ込む海賊(最後の1人)。

 

 同時に、私の後ろで固唾をのんで見っていた町の人達から、ワッ、と歓声が上がる。

 

 ただ今私、町を襲いに来た海賊達を無事に返り討ちにしたところである。

 船の大きさの割に大した人数はいなかったので、港から1歩も外に出さずに全員仕留めることに成功した。

 

 気絶して動かなくなった海賊達を、町の自警団の人達が次々縛って拘束していってくれてる中、そのまとめ役っぽい初老の男性が私に話しかけてきた。

 

「いやあ驚いたよあんた、こんなに腕が立つ賞金稼ぎだったんだな! ありがとう、あんたのお陰でこの町は救われたよ」

 

「いえいえ、私もこの町が襲われると困っちゃいますからね。今さっき船の新造を依頼させてもらったばかりですし。あ、港の設備とか大丈夫でした?」

 

「今確認させてるが、大丈夫だと思うよ。もちろん、お嬢ちゃんの船も丹精込めて作らせてもらうからな!」

 

「よろしくお願いします。……じゃあ、私は疲れたんで宿に戻りたいんですが……」

 

 そう言うと、まとめ役の人――後で聞いたら、町長さんだった――は快く頷いて、『後の片づけは我々に任せてくれ』と胸を叩いて言っていた。

 そのお言葉に甘えさせてもらうことにして、私は言った通り宿に戻った。

 

 海賊達に関しては、鎖とか手錠で拘束した上で、自警団の詰め所にある牢屋にまとめてぶち込んでおくそうだ。

 同時に海軍に連絡して、後日身柄を引き取りに来てもらうんだって。

 

 なお、海賊の中に賞金首がいないかどうかは一応確認したんだけど、1人もいなかった。

 旗揚げしたばかりの無名の海賊団だったのかな? それにしちゃ、なんというか、手馴れてる感じだった気がしたけど……ちょっと気になる。

 

 ま、でもいいか。もう全員捕まえて、終わったことだ。

 

 

 

 この時の私は、この海賊の襲撃騒動は、これで終わったと思っていた。

 

 しかし、それが間違いだったと……まだ終わっていなかったのだということを知ったのは、このもう少し後のことだった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 翌日、私は……この『エレナ』の町の造船所の見学をさせてもらっていた。

 

 しかも、昨日みたいに高台から『眺める』感じじゃなくて、間近で職人さん達の作業やら何やらを見学させてもらっている。

 小さいものから巨大なものまで、色々な船が作られていくその場面を。

 

「へぇ……じゃあ全部最初に計算してから木材を切り出して、隙間なく組み上げて作るんですね。繋ぎのための部品とかも一切使わずに?」

 

「ああ。海水とか水気に多く触れる場所だからな。全くそういう例がないわけじゃないが、木造の船の場合は、金属が錆びてそこから破損が起こるような作りにするわけにはいかないだろ? だからこのへんは、職人の腕の見せ所になるんだよ」

 

「設計図通りに切って組み立てるだけ、なんて甘っちょろいこと考えてる若ェのも最近はいるんだよなあ……そういうのは下積みの期間が地味だとか何とか言ってよ。その下積みの経験なしにゃ、こんな仕事をできるようにはならないってのにさ」

 

「そうなんですね……いや、正直私もよくわかってなくて……パーツを組み立てるだけなんじゃないかなーって思ってました……大変失礼しました」

 

 事実、こうして目の前でその作業を見ている間も、『切ってるなー』『組み立ててるなー』くらいしか私の目にはわかってない。

 

 実際は、手で触った時の微妙な感触で、材木の面の感触とかを確認してるらしいけど……まるで自然体のまま、ほんの一瞬、あるいは数秒さらっとなでた程度でそんなのわかるもんなのかと。

 このまま問題なく組み上げられるか、まだ加工が足りないか……そんな一瞬で判別できている職人さん達の見事な業には、驚かされるばかりだ。

 

「はっはっは、お嬢ちゃんはいいんだよそんなの気にしなくて。しょうがないさ、船作りに関わる奴でもなきゃそれが普通だ」

 

「ああ。それに、実際そういう船だってあるしな、小型の簡単なボートとかは、製図通りに切り出して組み立てりゃそれで終わりだし」

 

 本職の職人さん達に色々話を聞かせてもらいながら、今まで知らなかった『造船』というものについての知識を深めていく。

 もちろん、専門家になるつもりがあるわけじゃないので、そこまで専門的なことを詳しく勉強するわけじゃないけど……それでも、今まで知らなかったことをどんどん学べていってるというこの時間は、いつにもまして充実していて、楽しい。

 

 医療ドラマとか法律・裁判系のドラマとかで、一般人にはまず縁のないような難しい知識を解説されながらストーリーが進んでいくやつあるじゃん? それ、内容は難しいけど、それを聞いて理解しながら話が進んでいって、その知識が関わる形で伏線が回収されたりして……しっかり面白いのに加えて、なんか自分が頭がよくなった感じがするじゃん? 気のせいだけど(笑)。

 多分、そういう感じの楽しさだ、今。

 

「いやあ……材料づくりの工程1つ1つとっても、いくつも職人技が大活躍して作られてるもんなんですね……この調子で私の船もお願いします!」

 

「はっはっは! 任せておきなよ、最高の船を作ってやるからな」

 

「運がいいねえお嬢ちゃん。こいつは元々、ウォーターセブンの造船会社で修行してて、そこでも太鼓判を押されたくらいの腕利きなんだぜ?」

 

「え、そうなんですか?」

 

「ああ、まあな……自慢じゃねえけど腕には自信あるぜ。お嬢ちゃんの変わった注文にも、きっちり答えてや……ん?」

 

 と、話している最中に、職人さんが何かに気づいたような表情になって……私の後ろを見た。

 

 何だろう、と思って私も振り向くと……なんか、慌てた様子の男の人が1人、こっちに走ってくるところだった。

 まっすぐこっちに向かってきて……え、私のこと見てる?

 

「す……すまねえ、賞金稼ぎの姐さん! ちょっといいか?」

 

「え、何ですか? そんなに慌てて……」

 

「ちょ、ちょっと昨日の海賊のことで……詳しく説明するから、町の集会所に来てくれ!」

 

「…………?」

 

 息を切らしてそう伝えてくる、伝令役だったと思しき男の人。

 よくよく見れば、昨日の戦いの後、海賊達の後始末をお願いした自警団の1人だった。

 

 何やらただならぬ気配だけど……一体何があったんだろう?

 

 とりあえず、職人さん達に断って、見学は一時中断。言われた通り、町の中の集会所へ向かうことにした。

 ……場所がわからないから、息が整ったらこの人に案内してもらわなきゃだな。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 で、集会所に行って話を聞いたところ……

 

「海賊達の襲撃が……まだ終わってない?」

 

 聞かされたのはそんな話。

 そして、昨日の夜は喜び浮かれていた町の人達が……昨日と同じか、それ以上に不安や絶望に押し潰されそうになっているという、あんまり気分の良くない光景だった。

 

 まるでお通夜か何かじゃないかってくらいに、皆、一様にうつむいて、沈んでしまっている。

 その中でも比較的マシな状態の町長さんが、続けて話してくれた。

 

「今日になって海賊達が目を覚ましたんで、簡単に話を聞いたんだが……彼ら曰く、『自分達は偵察を兼ねた先駆けに過ぎない』のだと……」

 

 先駆け……先遣隊とかそんな感じってことか。

 どのくらいの防衛設備がある町か、どのくらいの人数ないし戦力がいれば制圧できるか……そのへんを調べつつ、可能ならそのまま蹂躙してしまう。それが、彼らの目的だった。

 

 しかし、あくまで彼らは先遣隊に過ぎず、その海賊団の『本隊』はこれから来る。

 

 本来は、自分達が連絡して『狙い目ですぜ、やりやしょう!』って感じでGoサイン出す予定だったみたいだけど、こうして捕まってしまって連絡が取れなくなった。

 しかし、それはそれで『返り討ちにされた』と判断して、自分達を奪還するため、報復も込みですぐにでもこの町を襲いに来るだろう。

 

 ……とまあ、取り調べの結果聞き出せたのはこんなところ。

 

 ああ、あとは……本隊というだけあって、昨日攻めてきた数よりもかなり……それこそ、何倍も多い数が攻めてくるそうだ。

 

 もちろん、それが本当かどうかはわからないけど、檻の中で捕らわれていて、もうすぐ海軍に引き渡されるにも関わらず、自信たっぷりな態度を見ると、これは多分……とのこと。

 

 結果、町の人達はこんな感じになっているわけだ。

 

 そこで、と話を切り出してくる町長さん。

 

「スゥさんに頼みたいことがある。予想できてるかもしれないが……もしもその、海賊の『本隊』の襲撃が本当だった時に備えて……どうかもうしばらくここに滞在して、我々に力を貸してもらえないだろうか」

 

 まあ、そういう話だろうとは思ってたよ。

 部外者である私をこんな場所に呼ぶんだもん。造船関係か、あるいは、戦力としての私に用があると考える以外にないよね。……期間限定の用心棒みたいなもんか。

 

「それはまあ……もともと私、船ができるまではここに滞在するつもりでしたから、その間でしたら構いませんよ。ただ、ずっとは流石に無理ですよ?」

 

「ああ、それはもちろんわかっている。期間としては……通報した先の海軍基地から、昨日の海賊達を連行するための船が到着するまで……それで十分だ。この後、電伝虫で海軍にこのことを報告して、何かしらの形で対処を要請するつもりでいるからな」

 

 なるほど……つまり私は、その海軍さん達が来るまでの間、この町を守ればいいわけか。

 

「ってことは……海軍よりも、その『本隊』が来る方が早い可能性が高いんですか?」

 

「根拠が海賊達の証言だけだから何とも言えんが……本隊を呼ぶつもりなら、その日のうちに呼び寄せて合流するつもりだった、というようなことを言っていたから……下手をすれば、1日以内にここに来れるような場所だという可能性もあると見ている。対して、海軍基地はここからだと、急いでも2日かかる距離だ」

 

 場合によっては、海軍よりも海賊の方が先に来ちゃうと……なるほどね。

 

 まあどっちにしろ、今言った通り、船ができるまではここにいるつもりだったし、その間に海賊に襲われたりしたら、昨日と同じように撃退するつもりだった。

 だから……用心棒云々言っちゃったけど、そもそも何かやることが変わるわけでもない。

 

 協力します、と答えたら、町の皆さん、すごく安心した様子。あからさまに『ほっ』としたのが態度から伝わってきた。

 んー……あんまり安心されすぎて気を抜かれるのも危険なんだけどなー?

 

「ええと、一応言っておきますが……あんまりこういうこと言うのもアレだとわかりつつ言いますけど、私も全力で戦いはしますけど、必ずしもこの町を守り切れるかって言うと、絶対じゃないですからね? 当たり前ですけど、あまりに数が多かったり、私より全然強かったりすれば……」

 

「ああ、それはわかってる。戦いともなれば、あまり役には立たないかもしれないが、町の自警団の連中も手伝いはさせてもらうし……どの道、あんたにどうにかできないような相手なら、それこそこの町は最初から打つ手なんてなかった」

 

 町長さんはそう言って力強くうなずく。それに従うように、自警団の人達も。

 

 町長さんの話だと、海軍が来るのはおよそ3~4日後の見込み。

 それまでに海賊が来るかどうか……ってことだな。

 

 そして、私の船が出来上がるまでには、諸々のテスト等含めて10日から2週間くらいはかかるそうなので――これについては昨日、依頼した時点で既に言われてた――まあどう考えても巻き込まれるのは確定してるのである。余裕で。

 

(……っていうか、なんなら海軍に引き継ぎ終えた後に海賊が襲って来たとしても、その時まだ私ここにいる可能性も高いのでは……いやまあ、そうなったらその時はさすがに海軍にまかせられるでしょ。……案外、襲ってこないかもしれないしね。海軍を警戒して)

 

 さて、じゃあ後の滞在期間も……折角だし、さっきまでの続きで、造船所の見学とか色々させてもらいながら過ごさせてもらおうかな。

 

 油断はもちろんよくないけど、かといってずっと緊張しっぱなしでいてもいいことないし。

 適度に気楽に、いつも通りでいこう。

 

 

 

 

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