『王下七武海』海賊、ドンキホーテ・ドフラミンゴ失脚。
正当な国王であるリク王政権の復活や、海軍大将・藤虎の土下座、そして闇のブローカー『ジョーカー』の喪失。
次々に報じられるそれらの大ニュースは、一夜にして世界中を駆け巡り……各方面に激震を起こした。
『ジョーカー』の失脚により、彼が一手に担っていた裏取引の全ては当然ご破算に。
悪魔の実や『SMILE』を手に入れられなくなった裏稼業の者達は悲鳴を上げ、武器の調達ができなくなった国々や武装組織は絶望し頭を抱えた。
一方で、それによって戦争・紛争が終わることを大いに喜んだ者達もまた、いた。
あるいは、とある『戦争屋』や『海賊傭兵』をはじめとした、戦える力を欲した者達によって、新たに仕事を手にした者達も……。
そんな激動の1日から、一夜明け……翌日。
現在ドレスローザは、昨日の戦いで王宮やその周辺の建物がほぼ全て壊滅状態であり、わずかに残った比較的無事な大地にテントなどの仮設の住居を立てて、家を失った者達の仮住まいとしていた。
リク王もまた、それらのテントに住んでいる1人である。『自分だけが無事な建物でぬくぬくと過ごすことなどできない』『それらは手当を必要としているケガ人や、野営に耐えられぬ子供や老人のために使え』と、頑として屋根の下に入ることをしなかった。
それに付き従う形で、自衛軍隊長のタンクをはじめとした多くのリク王軍兵士もまた、テントに身を寄せていたが……そのテントに、急報が届いた。
「リク王様、大変です! たった今、港から報告が……」
「港だと、何があった? 海賊船の類ならば、海軍が対応してくれると『藤虎』から申し出を受けているはずだが……」
「そ、それが……やってきたのは一応『海賊船』ではあるのですが、その……『王下七武海』の船でして……」
「っ……『七武海』……誰だ?」
「『海賊文豪』です! 金獅子海賊団提督……ベネルディ・トート・スゥ本人が直接来ています!」
その数十分後。
連絡を受けて、急遽、王として謁見の準備を整えたリク王は、『万が一があってはいけないので王自らが対応するのは……』という家臣達の反対を押し切り、客人を出迎えていた。
天幕に入ってきたのは、数名の女性。
いずれも美女、あるいは美少女と呼んで差し支えないレベルに見た目が整っている者ばかり。
中心に立って歩くのは、白金の髪に和装、背中に背負った番傘が特徴的な美女……『海賊文豪』スゥ。
その左右を、部下ないし側近と思しき者達が固めている。
昨日の戦いでも猛威を振るった『万色』ことアリスや、その部下のタンタルとルププ。
さらに反対側には、どういうわけかスゥに見た目が酷似した若い少女や、それよりさらに若い褐色肌の少女もいた。
平時であれば、兵士達の大半が目を奪われる美貌だったかもしれないが、さすがに今は緊張や不安、恐怖が勝ってしまう。
目の前にいるのは、この国に10年間もの間、悪夢をもたらし続けたドフラミンゴと同じ『七武海』の1人。
『海賊文豪』は一応、政府や海軍に協力的な穏健派で通ってはいるものの、海賊、そして七武海という制度そのものに不審を抱いている――ごく一部の例外を除いて、ではあるが――ドレスローザの者達からすれば、自分達側の事情や信条であることは認めつつも、大差はなかった。
一応、備えはされている。天幕内には、タンクやキュロスといったリク王の忠臣達に加え、海軍大将『藤虎』も急遽駆けつけて、王の守りについてくれている。
政府の誤った判断により、長らく王国を苦しめてしまったことへの償いの一環として。
しかし、それで不安が消えるわけではない。
横で控えているキュロスは……自身の強さゆえに、悟ってしまっていた。
この者達に……おそらく自分では勝つことはできない。『万が一』が起こってしまった場合、自らの命を盾として、その隙に王を逃がすことになるだろうと。
『藤虎』ならば応戦も可能だろうが……七武海でも屈指の実力者として知られる『海賊文豪』と『海軍大将』が戦うようなことになれば、その余波だけで周囲など簡単に壊滅してしまう。
そんな未来が来ないようにと祈りつつ待つ中で……その『海賊文豪』が、一歩前に進み出て、優雅な動作で軽く頭を下げ……口を開いた。
「本日はお忙しい中、お時間を割いていただきましてありがとうございます、ドレスローザ王国、リク・ドルド3世陛下」
「うむ……すまんな『海賊文豪』。我が国は過日の一件で、王城含めこの状態ゆえ、満足な出迎えもできん有様でな」
「とんでもございません。そのような大変な状況の中、急な来訪にもかかわらず、こうしてお時間を頂けたことに感謝しております」
これも評判通り、海賊とは思えない丁寧な言葉遣いと仕草に、少しだけ不安が薄れる気はしたものの、緊張感を保たせたまま、リク王は言葉を続ける。
「重ねてすまないが、仕事は山積みでな……あまり時間を割くわけにもいかないのだ。早速だが……仰々しい言葉のやり取りはこのくらいにして、用件を聞こう」
「かしこまりました。用件は、ですね……えーと……そのぉ……」
すると、『本題』に入ろうというところで、なぜか突如しどろもどろし始めるスゥ。
若干目が泳ぎ、口調もたどたどしいものになり……聞こえてくる『声』にも平静でないようなそれが混じり始めたことに、藤虎やキュロスのみならず、リク王も気づいて首を傾げそうになる。
スゥはさらに、ちょいちょい、と手招きして……傍らにいたアリスを、すぐ隣に呼び寄せた。
なぜかそのアリスも、そわそわして気まずそうにしている風に見えた。
そしてスゥは、アリスの頭にポンと手を置いて……意を決したように、
「ええと、この度はそのー……うちの子が……お城壊しちゃってすみませんでした―――!!」
「「「すみませんでした―――!!」」」
「「「…………は?」」」
腰を90度、直角に曲げて頭を下げた『海賊文豪』と、その娘や側近一同に、思わずきょとんとしてしまう、リク王や家臣たち、そして藤虎だった。
☆☆☆
「つまり……何か? 『海賊文豪』殿は、その……昨日の戦いで、アリス殿の攻撃のせいで王城が壊れてしまったことに対して謝罪するためにここへ来た……と?」
「他にも色々用事はあるんですが、メインの用事はそれです。この度は本当に……戦いの中でのこととはいえ、大変なご迷惑をおかけしまして……」
いやホント、マジでごめんなさいとしか言いようがないよ……。
ドレスローザにいたアリスから連絡貰った時は、ドフラミンゴぶっ飛ばすのに力を貸したまではいいとして……王城ぶっ壊したって聞かされた時は、飲んでたお茶吹き出しちゃったわ。
ドンキホーテファミリーの幹部の1人、シュガーに関しては、『ホビホビの実』の能力で、うちの海賊団の構成員も何人かやられて『おもちゃ』にされていた。
だから、確実にとらえる、あるいは消すために、アリスにこの一件は任せてたんだけど……ブチ切れたアリスがやりすぎる可能性を考えなかった……いや、考えたけどその見積もりが甘かった私のミスである。
最近アリス、『重力逆転』で島まるごとでも1つくらいなら浮かせることができて、パパと同じような戦い方ができ始めてたから……こういう大規模破壊もできるって知ってたはずなのに。
(まあでも、一応『アレ』は使わなかったみたいだし、アリスなりに加減はしたつもりなんだろうけど……それでもなあ)
結果、ドンキホーテファミリーの下っ端連中や、賞金目当てでドフラミンゴにすり寄ろうとした恩知らず達を、こちらに被害なく一掃するのに一役買いはしたものの……戦いが終わった後、王様も家来達も住む家なくなっちゃったし、ルフィ達海賊勢を匿う場所もなくなっちゃったしで、コレどうしたもんかと……
幸い、ルフィ達に関しては、国を救った英雄だからってことで、市民達が無事な家を差し出してかばってくれてるそうだけど……王様達が、自戒込みとはいえ、こんなテントで寝起きしてるって知った時はホント申し訳なさでいっぱいになった。
さっき王様が『王城含めこの状態ゆえ』って言った時も実は崩れ落ちそうだった。
不幸中の幸いだったのは、浮かせたものの高さや位置の関係で、『王の台地』の一部になってた大きなお花畑が無事だったことくらい。
上手いこと絨毯爆撃の範囲外にあったおかげで、そこだけは潰れなかったんだよね。
……もうおぼろげな原作知識だけど、あそこ確か、レベッカのお母さんのお墓あったはずだから……あそこまで潰れちゃってたらもう罪悪感でどうにかなるところだった。
おまけに……
「いや、そういうことなら気にしないでくれ。戦いの中で起こったことだ……そもそも、アリス殿のあの加勢がなければ、戦いを早期終結させることもも難しく、味方にも大きな被害が出続けていたかもしれない。この件でアリス殿を責めるつもりはないとも。謝ってくれただけで十分だ」
こんな風に言ってくれちゃうんだからホントに……かたじけねぇ、かたじけねぇよ……!
こんな人間のできた王様を謀略で騙して追い落とすとかドフラミンゴマジ絶許だわ。
けど、許してもらったはいいものの、それじゃこっちの気が済まないので……
「オーライオーラーイ! オーライオーラーイ……ハイストップ!」
――――ずずぅん……!!
「よし、設置完了! というわけで王様、お詫びに私達の方で、急ごしらえですけど新しい宮殿作りましたんで、間に合わせですがどうか使ってください」
「「「いやちょっと待て」」」
リク王様に許してもらった後、元『王の台地』があった場所の近くの適当な空き地を、許可貰ってさっと整地させてもらって、そこに、持ってきた宮殿をセット。一緒に作った兵士たちの宿舎とかその他主要施設もセット。
このまま住んでもらってもいいし、自前で宮殿立て直すまでの仮設住宅扱いでも扱いでもいいので自由に使ってください、ってプレゼントした。
私が紙を開いたら突然宮殿が出て来て、しかもそれをアリスが浮かせて位置を微調整して……って感じでセットしたわけだが、いきなりのことで王様たち、口をあんぐりさせてたな。まあ、無理もないけど……。
……いや、別にこれウケ狙いってわけじゃなくてね? ちゃんと真面目にお詫びの品として持ってきたんだよ? ホントに。
「リク王様! 内部を確認してきましたが……見る限りでは、細かい装飾などを除けば、かつての宮殿と寸分たがわず同じ内部構造のようです!」
「家具に関してはさすがに同じではありませんでしたが、必要なものは全て揃っているようで……しかも、武器庫や食糧庫、医薬品の保管庫などは万全の状態に用意されていました!」
「なんと……物資に加えて、内部構造も同じだと? 『海賊文豪』、いったいどうやって……」
「うちの子がドフラミンゴからかっぱらった資料の中に、このドレスローザの王城の設計図の写しがあったんですよ。それ確認して急ピッチで作らせてもらいました」
「だからといってたった1日で宮殿が作れるものなのか!?」
「そこはまあ……色々と『能力』使ったんです」
うちの『ひな壇』、ギャルディーノやマリアンヌをはじめとして、クラフト系の能力者が結構充実してるもんでね。
主な材料は、私の『紙』とギャルディーノの『ろう』。私が紙で骨組みや大枠を作って、ギャルディーノがそれをろうでコーティングした感じ。
ただしどちらも、ママ開発の特殊溶剤を混ぜ込んで作ったので、強度はもちろん耐火性も問題なし。なんなら火事に強い上に、夏涼しくて冬温かい感じに仕上がっております。
細かい所の作業は、マリアンヌ配下のアニメーター部隊や、イリス配下のホーミーズ達を総動員して仕上げ、物資の調達はスズやビューティ、ブルーメに任せた。
結果、14時間くらいで出来上がったのでこうして持ってきたわけだ。
「申し出は正直ありがたいが……これだけのものをもらっても、こちらからは何も返せるものもないのだが……」
「いや、お詫びの品なのでコレにお返ししてもらっても困りますし。好きなように使っちゃってください。お邪魔になったら電伝虫で連絡貰えれば解体・再整地しに来ますから。もちろん無料で」
「……話には聞いていたが……聞きしに勝る人のよさだな、『海賊文豪』」
ほっとしたような呆れたような様子でそう言ってくる王様。結局どうにか受け取ってもらえることになりました。
海賊からもらったものだから、手放しで喜ぶわけにもいかないし、問題ないか色々チェックしつつにさせてもらうけど、兵士達に屋根のある寝床を用意できるって安心してた。
その後改めてお詫びした上で、用事も終わったしさっさとこの国を失礼させてもらうことにした。
何もするつもりはないとはいえ、ドフラミンゴと同じ『王下七武海』が滞在してるってだけで、王様も国民達も気分的にはやや微妙だろうからね。
……ああでもその前に、もう1つ用事済まさなきゃ。
☆☆☆
そしてやってきました海軍の皆さんの拠点。
さっき王城(仮)でも会った藤虎さんをはじめ、将官クラスも他に数人そろって待ち構えていた。
……その中には、あんまりありがたくないけど一応面識ある人も1人……。
鉄仮面の向こうから、何か言いたげな目で睨んでくる(目は見えないけどわかる)、“鮫斬り”バスティーユ中将。2年前……留置場とか頂上戦争とかで色々ありましたね。
ていうか、『七武海』になってからも何度か顔合わせたけど、そのたびに微妙な顔されてたなあ……しつこいようだが、顔は見えないんだけど。
……何話したらいいのかわかんない、ってか何話してもあんまりいい雰囲気にはなりそうにないので、さっさと本題入ることに。
このメンバーの中では一番地位が高く、責任者にもなっている藤虎さんに向き直る。
そして懐から、毎度おなじみ電伝虫を取り出しまして……と。
『よう、色々大変だったみたいだな、“藤虎”。ご苦労さん』
「! ……なるほど、このお嬢さんをここによこしたのはあんたでしたか、クザン元帥」
電伝虫越しとはいえ、海軍トップの登場にぎょっとする皆さん。
そんな空気の変化を感じ取りつつも、口調を変えることなく淡々と話す藤虎さん。
「すいやせんね、報告も入れずに勝手に色々やっちまって……」
『ホントによぉ……ちょうどその時俺、『誤報』の件で五老星と会ってたんだけど、その最中に色々知らせが飛び込んでくるもんだから、びっくりしてひっくり返りそうになったぜ? お前さんの土下座なんて今朝の新聞にも載ってるしよ』
「下げられねえ頭もあれば、下げなきゃ道理が通らねえ頭ってのもあるでしょうや……我々『政府』の失態でドレスローザの皆さんにつらい思いをさせたのは事実……先にそちらに話したら、色々とまた恰好つかねえなことになるんじゃねえかと思って、好き勝手させてもらいやした」
『んなこったろうと思ったわ。ちょうど五老星に謁見して『誤報』関係の話してた時だったから、その場で嫌味言われちまったよ。……それを踏まえた上で、藤虎……俺からお前さんに言えることは、1つだけだ……』
『よくやった! お前最ッ高!!』
だらけつつも神妙な声音から一転、めっっちゃ機嫌よさそうに言い放たれたその一言。
擬態している電伝虫も、通話の向こうのクザン元帥の表情を反映してか、すごいいい笑顔に。
表情は見えていないだろうけど、聞こえてきたそんな声にしばしきょとんとしていた藤虎さんは……少しして『ぶふぅうっ!』とたまらず吹き出してしまっていた。
なお、私やアリスもちょっと笑っちゃった。
「何ですかいそりゃあ……海軍元帥が、勝手やって政府と海軍の面子潰したバカをほめてどうすんですか……フフッ!」
『いーんだよそんなもんは。俺の面子なんていくらでも潰そうが蹴っ飛ばそうがよ。道理の通らねえ形で守られたって嬉しくもねえし、だったら適宜きちんと使って、頭下げるところできちんと下げにゃあ、それこそ市民に示しがつかねえ。そこのお嬢ちゃんもそうだったろ?』
「ええ、確かに……なんだ普通の人のいいお母さんじゃねえかって正直思いましたよ。同時に納得だ……あんたがこのお嬢ちゃんをよこしたのは、こうなることを見越してですかい?」
『ああ。元々そのお嬢ちゃんがドレスローザに行く予定だったってのもあるが……普通の真面目な海兵……特に、『緑牛』やドーベルマンみたいな、サカズキのシンパの連中には任せたくなくてな。一応そのお嬢ちゃん海賊らしいから、海兵じゃ問題行動になりそうなこと頼んでもOKなんだわ。つーわけで……頼む』
「了解、元帥殿。藤虎さん、こちらどうぞ」
「? 何ですかいこりゃあ……酒?」
収納していたそれ……4つ束ねた一升瓶のお酒を差し出す。
1本10万ベリーを超える大吟醸のお酒です。クザン元帥からポケットマネーでの差し入れ。
「元帥、あんたねえ……」
「あ、それとこっちは私からです」
どかっと音を立てて、大きなコンテナに入った野菜や果物の詰め合わせを置く。
さらに、同じコンテナをもう1つ。中身は違うけど。
「こっちは、野菜と……はて、もう1つは何でしょうかね」
「うちでとれた野菜と、もう片方が……同じく小麦で作った自家製の中華麺です。生麵なので1週間くらいで食べてほしいですけど、美味しくできたんで海兵の皆さんでどうぞ」
「……やれやれ、怒られると思って一応覚悟して身構えてたんですがね。立場ってもんもあるでしょうに、ご褒美もらうことになるとは思いやせんでしたよ。しかも、元帥と海賊から」
『仕方ねえな、生憎と俺もそこの嬢ちゃんも普通の海兵や海賊とはちっと違うらしいからな』
「そんな調子だと、おつる中将あたりにまた呆れられるんじゃねえですかい?」
『今まさにすぐそこで呆れて頭抱えてるよ。あと、隣でガープさんとセンゴクさんが爆笑してお茶飲んでる』
「相変わらず元帥執務室、海軍老人会の寄り合い所ですね」
「平和でようござんすねえ……」
もうなんか、当初のそれなりに緊迫した空気どこ行ったんだってくらいに気づけばグダグダに。
やれやれ、とため息をついて呆れつつ、藤虎さんはしかし、安心したように笑っていた。
怒られなくて済んだことに……じゃなくて、海軍にもきちんと分かってくれる人がいたことに、安心したんじゃないかな、と思った。
『さて、そんなわけでお疲れさんだ藤虎。仕事も終わったわけだし、ドフラミンゴ連れて本部に戻ってくれるか?』
「いやあ、そいつはもうちょっと待ってもらえやせんかねクザン元帥。今ちょいとドレスローザの周りが騒がしいもんで。『ジョーカー』絡みの取引がおじゃんになった海賊や裏稼業が、散発的に国に押しかけて来てるんでさあ。今は国軍の皆さんは国の復興で手一杯ですから、もうしばらくだけでもあっしらで面倒みておきてえんで」
『ああ、まあ、そりゃ確かにな……まあ、多少ならそれも構わねえけど、少なくともドフラミンゴの護送に関してはなるべく急いだほうがいいんだよなあ』
「と、言いやすと?」
「ああ、うちから提供させてもらった情報なんですけどね? 何か今、『百獣』が動きそうな気配があるんですよ、まさにそのドフラミンゴ絡みで」
「「「!?」」」
思わぬビッグネームが告げられ、程よく空気が弛緩していた室内に一気に緊張感が満ちる。
藤虎さんも、表情を引き締めて剣呑な空気になった。
「『百獣』……ですかい?」
『その情報は海軍もつかんでた。理由について、お嬢ちゃんに頼んで『金獅子』の情報網から確認できたんだが……『ジョーカー』のブローカーとしての一番のお得意様が『百獣のカイドウ』らしくてな……ちんたらしてると、ドフラミンゴの救出・奪還のために動く可能性がある』
「そいつは穏やかじゃありやせんね……この国はまだ傷だらけのボロボロだ。そんなところに『四皇』の船を来させるわけにはいかねえ」
『さすがにカイドウが直接来ることはないだろうが、『大看板』の1人でも来たら、それだけで十分一国が亡ぶレベルの戦争になっちまうからな。だが、お前さんの言う通り、今のドレスローザを放っていくのも気が引けるし……』
「私でよければ、ドフラミンゴ運びますか? 船ごと空飛べますからすぐ届けられますけど」
「いや、お嬢ちゃんを信用しねえわけじゃねえですが、できればきちんとこの件は最後まで『海軍』が面倒見るべきだと思いやす。その方が市民のみなさんにも納得してもらえるでしょう」
『なら、こっちから新たに人員を出して迎えに行かせるか。『百獣』はブレーキぶっ壊れてんのが多いから、一戦交える前提で人選すべきかもな……中将じゃ力不足だし、ここは……』
『ふむ……そういうことなら私が行こう』
と、今まで聞こえてこなかった声が電伝虫の向こうから。
その声に、海軍サイドの人達の何人か……誰の声だか分かったらしく、びっくりしていた。
まあ、私にもきちんとわかったけど。
『いいんですか、センゴクさん? そりゃあんたに行ってもらえるなら助かりますけど……』
『ああ。少し気になることがあってな……しかし、表向きには引退して名誉職になった私が、単独で軍艦を動かすわけにもいかんだろう。おつるちゃん、すまんが一緒に来てくれるか?』
『やれやれ、仕方ないね……百獣の『大看板』が来る想定ならまあ、これでちょうどいいくらいではあるか。大将藤虎、それまでドフラミンゴの拘束は頼んだよ。それから……その国には『麦わら』やそのほかの海賊達がいるらしいが、その拘束はどうしたんだい?』
「あぁ、すいやせんねおつるさん。彼らに関しては、戦いが終わった後に雲隠れしちまいまして、今捜索している最中です。今は国民の皆さんも戦いの傷やら復興作業でお疲れの様子、捜索に力を貸していただくのも難しいもんで」
『……そうかい。逃がさないようにきちんと探すんだよ』
なんというか……いい意味で白々しい物言いの藤虎さんに、おつるさんも呆れてる様子なのが声音から伝わってきた。
いや、一応まじめに探してはいるんだろうけど、本当に国民に迷惑にならない範囲でにとどめてるんだろうし……その国民は、王政府まで一緒になって協力して、全力でルフィ達を隠してかばうだろうし……
『ちなみに『海賊文豪』。あんた達は七武海として『麦わら』達の捜索は?』
「あ、仕事終わったんで私もう帰りますよ? 残業はノーサンキューです。執筆の予定も立て込んでるんで、しばらく引きこもります多分」
『……だろうね』
『わっはははは!』
ルフィ達を逮捕するわけないでしょ私が……って、そんなことはおつるさん達もわかってるだろうけどね。頂上戦争の時に思いっきり一緒に戦ったわけだし。
ちなみに説明しておくと、海賊以上に政府の敵である『革命軍』のサボ達については、もうこの国にはいないので問題にはならない。アリスにそう聞いてる。
戦いの後のごたごたがまだ続いている間に、さっさと用事済ませて、ルフィへの挨拶も済ませて帰ったそうだ。保管されてた武器とか色んな書類をお土産に持って。
それに伴ってシュライヤももう帰った。作戦の協力者であるサボ達が帰ったから、もうこの国にいる理由ないからね。賞金稼ぎの仕事もするつもりないし。
そもそもシュライヤがこの国に来てたのは、テゾーロが革命軍の超大口スポンサーだからっていう縁で、作戦に協力するためだったわけだし。
はい、じゃあまあ、今回はそろそろこのへんで。
無事にグダグダというかなあなあな空気になりましたということで……解散。お疲れさまでした!
ドレスローザ編、完!
……とは言いつつ、私達もこれからむしろいそがしいんだけどね……。
藤虎さん達と別れた後、秘匿回線用の電伝虫(アリスがあらかじめローに新しいのを渡してた)で、ローに今後のことについて打ち合わせをする。
「じゃあ、ローはこのまま『ゾウ』に向かうんだね?」
『ああ、色々と騒がしくしちまって済まないなお嬢。……その上で悪いんだが……相談したいことがあるんで、時間を取ってもらえるか?』
「いいよ。ひとまず部下の皆を迎えに行ってきな。私からも、あんたに頼む次の仕事について話があったところだから。……多分だけど、それが最後の仕事になると思うし」
『! ……お見通しだったか』
「もともとあんたは、ドフラミンゴへの復讐というか、恩人の本懐を遂げるために私達と協力してたわけだからね。正直言えば寂しいし、できれば残ってもらいたいとは思うけど……それが望めないなら、無理に引き留めても意味がない。きちんと送り出してあげなきゃとも思うし」
『……何から何まで協力してくれたことについては、本当に感謝してる。抜けるにあたって、最大限の仁義は通させてもらうつもりだ』
「わかった。それならちょうどいい、後で話すけど……これから待ち構えてる、『金獅子海賊団』の大仕事にあんたも参加してもらって……それをもって最後の義理にさせてもらおうかなって思ってるんだ。ひとまず、傷を癒して力を蓄えておいて。相当デカい案件になる見込みだからさ」
「そうそう。ドレスローザの一件の比じゃないくらいにね」
『おっかねえな、おい……アリスお嬢が暴れたからだいぶ楽だったとはいえ、ドレスローザだってだいぶ大変だったんだぞ』
「でもドフラミンゴ、だいたい全部『策士策に溺れる』状態だったんでしょ?」
『ああ、まあな……俺が『金獅子』と『ファミリー』のつながりを知らないはずだとか、お嬢は何も知らずに利用されてるだけだとか、最近お嬢と大親分の仲が悪いとか、勝手に色々勘違いして、こっちを侮ってくれてたよ。まあそうなるように色々と演技やら偽装はしたんだが』
「実際は、お互いにちょっかい出されない程度に裏で付き合ってる程度はしてるのは私も知ってたし、利用されてるのは承知の上で結構好き勝手にやってもらってるんだし、別にパパと私全然仲は悪くないのにね」
「そうそう。おじーちゃんとお母さん、雑に仲いいよね」
「言い回しが若干アレだけど……いや確かに、『雑に』仲いいってそのとおりかもね」
方向性とか色々違ったりするけど、適度に距離感保ちつつ、お互いの干渉されたくないところには触れず、最低限のモラルは保つようにお互いセーブし合った上で、家族仲良くしてるからね。
うん、私とパパって『雑に』仲いいわ。
ちなみにそのパパは今、ドフラミンゴの失脚で『ジョーカー』に頼ってた裏稼業人達が取引難民状態になってるから、その取り込みのために四方八方に手を伸ばして販路を爆発的に拡大させているはずだ。
こうなることはわかってたから準備は万全にしてあった。
そのおかげで、裏取引関連でかなり海が荒れるんじゃないかと思われていたけど、思ったほど混乱は大きく広がらずに、早くも下火になりつつあります。
ホント、うちのパパみたいな悪党は、騒乱をお金に変えるのが上手い。
もっとも、全部の販路をうちが引き受けるわけじゃない。私が嫌いなもの、世間受けが悪いものに関してはNo突き付けてるけどね。ドラッグとか、奴隷とか。
あ、でも奴隷はたしか犯罪者だけは扱ってたっけ。もちろん、政府とかの都合で『犯罪者にされた』ようなのじゃなくて、悪い海賊とか、普通にろくでなしな連中。
「ま、そのへんは今は置いといて……じゃあロー、詳しいことが決まったらまた連絡するから、ひとまず休暇のつもりでゆっくりしててね」
『わかった。こちらからも何かあったら連絡する。それじゃあな』
そうして電話を切って、さー私達も帰るか……って思った、その時だった。
船室の扉を開けて、「失礼します!」と、若干慌てた様子のユゥが入ってきたのは。
「? どうしたの、ユゥ?」
「スゥお嬢様、アリスお嬢様も……緊急のご連絡です。今しがた、拠点から通信が入りまして……その、大親分が……」
「「……!?」」
☆☆☆
「ハ~ハハママママ! そろそろ……手に入れる頃合いかねえ……?」
前書きで書いた通り、今話でこの章は終わりになります。
この後、プロット整理等のためにしばしお時間をいただいた上で、次回から、最終章『ホールケーキアイランド編』に入る予定です。