大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第282話 元帥クザンの憂鬱

 

 

 新マリンフォード、海軍本部内……元帥執務室。

 そこで、部屋の主であるクザンが、仕事を終えて戻ってきた部下を出迎え、労っていた。

 

「すっかりこの部屋、イートインスペースになっちまったなあ……」

 

「? 遠慮した方がよかったなら片付けさせやすが」

 

「いや、いいよ藤虎。今更だ。いつもガープさんとかセンゴクさんが茶ァ飲みに来るしな」

 

 ブツブツ言いつつも割と機嫌のよさそうな声音で、元帥・クザンは、ドレスローザから戻った大将・藤虎にそう言った。

 

 目の前の応接スペースには、厨房で作って持ってこさせたラーメン(2人分)が置かれている。いつものせんべいやおかきのようなお茶請けレベルではなく、ガッツリ食事である。

 なお、麺とトッピングの野菜は、スゥからおすそ分けでもらったものだった。

 

 時間もちょうどよく昼時なので、昼休憩も兼ねてそれをずるずると啜りながら話す2人。

 

「じゃあ、ひとまずドレスローザ付近の海賊被害は一区切りついた感じなんだな?」

 

「ええ。『天夜叉』の武器目当てで襲ってきた連中はあらかた片づけやした。付近の海軍基地の警戒網や巡回ルートの調整も終わったそうで、ひとまずあの国ももう大丈夫でしょうや」

 

「お疲れさん。おつるさんとセンゴクさんは問題なくドフラミンゴをインペルダウンに届けてくれたよ。今はレベル6に幽閉中だ。もう二度と出てはこれめえよ」

 

「……2年前のようなことがなけりゃあ、ですがね」

 

「やめてくれ縁起でもねえ……あんな大事件そうそう起こってたまるかよ。こういう言い方はなんだが、アレの発端になった連中は今もう全員娑婆にいるし、またあんなのを起こせそうな奴は牢獄の中にはいないさ」

 

「確かに……とはいえ、いつかの将来、そうならねえとも限りやせん。監獄のみなさんには、より『鉄壁』を強固なものにしてもらわにゃなりやせんね」

 

 麺をすすりながらの藤虎の言葉に、クザンは一瞬、食事の手を止める。

 

「……ああ、そうか。お前さんが『海軍大将』になってやりたいことってのは確か……」

 

「ええ……『王下七武海』という制度の、完全撤廃でごぜェやす。それが成就すれば……この間は仲良く話せたあのお嬢ちゃんとも、一転して敵同士になる……気分的には、ちと微妙ですがね」

 

「俺もあんまり考えたくねえな……お前さんの言う通り、気分的に微妙なのはもちろん、シキを含めた『金獅子海賊団』が丸ごと敵になっちまうのも面倒だし……個人としての戦闘能力も普通に強ェし……あとあのお嬢ちゃんやその部下、下手な海兵より役立ってくれてるんだよなあ」

 

「まあ、最後のに関しては……あっしも何というか、『噂通りの御仁だ』とは思いやしたけども」

 

 ドレスローザで、アリスのやらかしに対する謝罪とはいえ、宮殿をぽんとプレゼントしたり、クザンからの使い走りに等しい仕事を引き受けて動いたり、確かに海軍の役に立つ形で、フットワーク軽く動いていたのを、藤虎も知っている。

 加えて、そのドレスローザから帰る途中では、ドフラミンゴの残した武器を目当てに押しかけようとしていたならず者連中をある程度掃除して行ったという話も聞いている。本当であれば、自分達海軍がやるつもりだった仕事を、いくらか肩代わりしてもらったことになる。

 

「もし、『七武海』ってのが全員、あのお嬢ちゃんみたいな感じだったなら……いや、違うな。海賊にモラルだのなんだの求めるのがそもそも道理とは言えねえ。……むしろ、何であのお嬢ちゃんが海賊になんぞなっちまったのか、って点を嘆くべきか」

 

(ホントそれだよなあ……政府の連中、マジで余計なことをしてくれたもんだ)

 

 口には出さなかったが、スゥがそもそもなぜ海賊に、ないし賞金首になってしまったのかという点について、前元帥・センゴクに聞いて一応知っているクザンは、内心ため息をついた。

 それがなくとも、スゥは血筋的に『金獅子の娘』という特大の爆弾をもともと抱えていたため、いずれは海賊になっていた可能性もなくはない。しかし、明確なきっかけであったことは確かだ。

 

「今年は『世界会議(レヴェリー)』もありやすし……復権したリク王が出席する方向で調整が進んでいると聞きやした。であれば……そこで大きく世界が動くやもしれやせん。ご本人は……恩を仇で返すことになるかもしれねえと、少々気にしてやしたが」

 

「『世界会議』に議題として『七武海の撤廃』が出るってことかい? そりゃあ、成就すれば確かに大事件だな」

 

 クザンとしても、こうも『七武海』関連の不祥事が続いている現状を鑑みれば、悪行の隠れ蓑になっているこの制度を存続させることに意義があるのかどうか、ふと考えることは何度もある。

 

『政府の狗』などと呼ばれる『七武海』だが、実際はその首に縄などついていないに等しい。

 大っぴらに政府に敵対的な行動をしないという点さえ一応守っていれば、その陰で一般の商船を襲っていたり(九蛇)、戦闘に巻き込んで多数の町を壊滅させていたり(ウィーブル)、その他様々な被害を出している。そして、それらも合わせて恩赦により不問になってしまう。

 それもあって、海賊に対しては抑止力となり得るものの、一部の市民からは『あいつらも結局は海賊だろう! 何で好き勝手させてるんだ!』と反感を買っていたりもする。

 

 政府はそれらを『必要な犠牲』として容認し、弱者・被害者の弁には耳を向けていない。

 そしてそれもまた……藤虎が『七武海は撤廃すべき』だと考える理由の1つだった。

 

「俺もまあ、どちらかと言えば藤虎よりの意見ではあるがよ……アレもないならないで大変というか、面倒なことになっちまうんだがなあ」

 

「面倒、といいやすと?」

 

「『七武海』が『七武海』じゃなくなるってことは、あのレベルの連中が、そのまま海賊として海に解き放たれるってことだ。一応とはいえついていた、政府に盾突かない、波風立てない、っていうくびきも何もかも全部引きちぎってな。『七武海』が抜けて戦力ダウンが確実な中で、海軍や政府はそれらに対応しなきゃならねえ。やるとしても入念に準備してからじゃねえと……って考えると、次の『世界会議』でそれが決定されちまうと、どう考えても時間足りねえんだよ。あと人も」

 

 時間があったところでどうにかなるような作戦が思いつくか、と言われればそれも微妙だが……という個人的な感想は、クザンは言葉にせずどうにか飲み込んだ。

 

「『天夜叉』も言ってやしたが、『三大勢力』の均衡もへったくれもなくなりやすからねえ。あっしらの仕事が忙しくなるのは、まァ仕方ねえでしょう」

 

「忙しくなっても、頑張ればなんとかなる程度で済むなら俺も頑張るが、面子が面子だからなあ……最終的に、トータルで頂上戦争2、3回分くらいの被害が出ても―――」

 

 

 ―――ぷるぷるぷる……ぷるぷるぷる……

 

 

 話している最中に、クザンのデスクの電伝虫が鳴った。

『ちょっと悪い』と手で藤虎に合図して――合図してから『そうか見えねェんだった』と思ったが、空気で察してくれるだろうと勝手に納得して――受話器を取る。

 

「もしもし、こちらクザン。どちらさんだい?」

 

『居ったか。久しぶりじゃのォ……クザン』

 

「……サカズキか……!」

 

 先程までは、軽口の雑談の中、緩めていた表情が引き締められ、目つきも心なしか真剣なものに変わる。

 執務机について椅子に座り、電伝虫に……いや、その向こう側にいるサカズキに向き直る。

 

「そう久しぶりでもねぇだろ。こないだマリージョアでの会議で会ったしな。何の用だ?」

 

 不機嫌、というわけではない。しかし、信条を大きく異にする相手ゆえにか、応対する声が自然と低くなるのをクザン自身感じていた。

 

 加えて、信条以上に立場的に、今のクザンとサカズキは言葉を交わすことや、そもそも仕事の上でかかわりを持つことがほとんどない。

 

 政府の表の顔として世界の秩序を守る『正義の軍隊』である『海軍』。

 政府の命で裏から闇から世界を監視し。時に手を下して騒乱の芽を摘む『特高』。

 

 全く違う役割を求められるがゆえに、時と場合によっては連携して任務にあたることこそあるものの、普段は全くと言っていいほど関わる機会はない。

 現場レベルでもそうなのだから、双方のトップにあたる『元帥』と『長官』はなおさらそうだった。

 

 クザンが言う『こないだの会議』も、数か月前に1度だけで……しかも、会議に出席していただけで、話した、ないし議論を交わしたわけではない。

 普段全く関わる機会が無いことも相まって、実のところ、こうして言葉を交わすのは、クザンも十分『久しぶり』だと感じていた。

 

 そのサカズキがこうして、直接元帥執務室に電伝虫をかけてきた。まず間違いなく、普通ではない何か特別な理由があってのことだと推測がつく。

 

『用件は2つある。1つは……そっちにも報告は上がっとるじゃろう。今行方不明になっておる、『王下七武海』バーソロミュー・くまの件じゃ』

 

「? もちろん聞いてるが……見つかったのか?」

 

『暴君』バーソロミュー・くま。

 頂上戦争の直前、ベガパンクによって執り行われた最後の手術で『人格』と『記憶』を喪失したため、今や政府の『人間兵器』になり果て、形だけ『七武海』にその名を残している状態。

 

 そのくまが、数週間前、シャボンディ諸島で目撃されたのを最後に、忽然と姿を消してしまっていた。

 

 天竜人達から『無敵奴隷くま』などと呼ばれ、期間を決めて各家でレンタルが行われる予定だったくまの突然の消失に、マリージョアから各方面に苦情が殺到。八つ当たりで何の関係もない奴隷や政府役人の首がいくつも飛んだ(物理的に含む)という話だ。

 

 そんな天竜人の奴隷事情はともかくとして、『人間兵器』としてのくまの消失という事実を重く見た政府は、サカズキの『特高』を含む調査機関を動かして各方面を捜索しているが、未だに発見どころか、足取りを追うことすらできていなかった。

 

 ちなみに、海軍にも『くまを捜索せよ』という指示は出ているが『そんな暇ねーよ』とクザンは流している。

 一応、各地の基地に通達はしているし、行方不明者を探す程度の注力はしているが、海賊の拿捕などの日常ある業務だけで十分忙しいので、そっちをおろそかにするつもりは毛頭なかった。

 

『まだ見つからん……が、つい先刻『五老星』サターン聖から、くまについてはもう探さんでいいとの指示が下った。海軍への捜索指示も打ち切りだそうじゃ』

 

「? 何でまた急に……行方不明になったままの『人間兵器』を放置でいいってことか?」

 

『詳しくはわしも知らん。話す気はなさそうだったけぇのう。ひとまず捜索は打ち切りとして……何か情報が新規に入った場合のみ報告せよ、とのことじゃ』

 

「了解。……んで、もう1つの方は?」

 

『“ SWORD(ソード)”を貸せ』

 

「断る」

 

 一言。

 きっぱりと、切り捨てるように、クザンは言い切った。

 

 その声音には……はっきりとした『拒絶』の意思が込められていた。

 

 しかし意外にも、サカズキの方から苛立ちが伝わってくる様子はない。長い付き合いゆえに、こうなることを既にわかっていたのかもしれない。

 あるいは、このやり取り自体がもう何度も行われたものだったのかもしれない。

 

 横でやり取りを聞いている藤虎には、そう思えた。

 

「何度も言わせるなサカズキ。お前が『特高』で、諜報部員達をどう動かして何をしようが文句はねえが、うちの海兵に同じことをさせようとするな。『SWORD(あいつら)』がマリンコードを返上してんのは、汚れ仕事をやるためじゃなく、自分の『正義』を貫くための覚悟としてだ」

 

『言葉遊びがしたくてこんなことを言うちょるわけじゃあないわい。今の世界の情勢は、これまでのやり方では不足というところまで来ておる。今回のドフラミンゴの件がいい例じゃろう……政府や海軍がもっと目を光らせておれば、こんな形で面目が潰されることもなかったじゃろうが!』

 

「どうだかな。後からなら何とでも言える……。再発防止の対策をとるのにはもちろん賛成だが、それを免罪符に『SWORD』の奴らを、犠牲や切り捨てが前提の捨て駒にする気はねえよ。そもそも、お前ご自慢の『特高』はドフラミンゴのところに潜り込めてなかったのか?」

 

 そう聞き返すと、一瞬サカズキが言葉に詰まったのがわかった。

 

 想像はつく。恐らく、送り込んだ人員は全て、件の『ホビホビの実』の能力によって玩具にされてしまっていたのだろう。帰還や報告がかなわなかったのみならず、人々の記憶から消えてしまい……その者が任務に出たことすらわからなくなっていた。

 それこそ、サカズキ本人も、部下の失敗や消失に思い至ることすらできなかったはずだ。

 

 それを考えるとその悔しさは多少察することはできるが、かといってクザンも譲る気はない。

 

「そもそも理屈だけ言えば、あいつらは元帥である俺の言うことすら聞かなくていいんだ……俺の権力や人望で『SWORD』を諜報部員として転用するのは無理ってもんだぜ。諦めろサカズキ」

 

『生ぬるいことを言っておる場合かクザン! 今後同じようなことが起これば、さらに政府の信用に傷がつく……それに都度対処するのではなく、未然に防ぐことが必要だと言うておろうが!』

 

「だからそれはお前らの仕事だって言ってんだろ! 色んな意味で強引なやり方はともかくとして……それとも何だ、今既に不安がある個所があるから、猟犬共以外の手が欲しいのか?」

 

 サカズキの『特高』が相当手広く『潜入捜査』をやっていることはクザンも聞いている。

 

 全てを把握しているわけではないが、漏れ聞いているだけでも、『新世界』のそれを含む主だった海賊団のいくつもに、『特高』は捜査員を潜り込ませており、その情報を逐一仕入れている。彼らがよこした情報を元に大口の闇取引を摘発したり、海賊団やその他の裏組織そのものを壊滅させた例も数多く存在する。

 実績があるがゆえに、その手法が相当強引であり、時にはその危険度ゆえに『捜査員』の死亡を含む事故が多発しようとも、サカズキのやり方は政府内で支持されていた。

 

 しかし一方で、クザンの言う通り、潜入に成功していない……相当に情報統制やスパイ対策が強固に行われている相手先がいるのも事実だった。

 

 何を隠そう、スゥのところ……『二代目金獅子海賊団』もその1つである。

 記憶を覗くことができるスゥに加え、離れた場所にいる会話の内容すら把握できるエネルをはじめとした、達人級の『見聞色』使いが何人も在籍している。さらに、盗聴や秘密の通信についても、ソゥをはじめとした技術チームが何重にも警戒網を張っている。

 以前、スパイによってメルヴィユそのものが危機に陥ったことがあるだけに、情報防御は鉄壁と言っていい完成度になっていた。

 

 事実、サカズキ率いる『特高』は、これまで何度も『金獅子海賊団』に人員を潜り込ませようとしていたが、どうにか末端に食い込めた者は何人かいたものの……少しでも中枢に近づこうとした直後に連絡が取れなくなった。

 しかもその後は、末端にいる者達すら含めて一斉に音信不通になった。芋づる式に排除されてしまったのだろうと推測できた。

 

 ゆえに、公式に聞いている以上の内部情報を把握することができていない。

 あの『金獅子』のこと、確実に裏で相当あくどいことをやっているだろうと確信できているが……その証拠どころか手がかりをつかむことすらできていないのが現状だ。

 

 ゆえにサカズキは、今までは『上手くいっていない』で放置せざるを得なかった、それらの組織に関する情報を何としても得るために動く。先ほどクザンに言ったように、今回のドフラミンゴの件のような失態を繰り返さないために。

 

 ……その『失態』の中身は、『守るべき市民を守れなかった、傷つけてしまった』ではなく、『正義に反する者を排除できなかった』に重きが置かれていることを、クザンも……黙って聞いている藤虎も察していた。

 

 もちろん。市民の安全を考えないわけではないだろうが、『悪』を滅ぼすためなら犠牲をいとわないのがサカズキの『徹底的な正義』だ。必要な犠牲だと思えば、バスターコール時の避難船すらも攻撃対象にするのだから、一般的な情や道徳はほぼほぼ期待できないのは明白だった。

 

 そして、その為の手駒として目を付けたのが、古巣である『海軍』に所属する海兵達。

 その中で、上官の命令を無視して動くことができ、その行動に対して、政府も海軍も責任を負う必要のない『辞表提出済み』の海兵……『SWORD』だった。

 彼らなら、普通の海兵では考えられないような手段にも出ることができ、それでいて立場の違いから、政府の諜報部員とも異なる活躍の仕方をすることができるだろうとサカズキは見ていた。

 

 実際、今『SWORD』に所属している海兵の1人は、とある『四皇』の海賊団の、相当に深い所にまで潜り込むことに成功しており、定期的に情報をよこしている。

 それ相応の手間と時間をかける必要はあるだろうが、同じことを他の海賊団や闇の組織でも実行可能……それこそ、表向きクザンとスゥが関係良好な『金獅子』でもできるのではないかと。

 

 そして……最悪失敗しても『切り捨て』が可能。

 それを覚悟して『SWORD』の立場にいるのだから、問題はないだろう、と見ての思惑だったが……あくまでその『辞表の前出し』は、本人達が自分の正義に従って動くためのものだと知っているクザンは、これまで何度同じような要請があっても、頑として首を縦には振らなかった。

 

 サカズキ自身、元海兵である。クザンが言うその理屈を理解できないわけでは決してない。

 ただ、それ以上に『正義の執行』を優先すべきであり、その為に利用できるものは何でも利用すべきだし、犠牲が必要ならばそれを払うことを躊躇すべきではない。そういう考え方が何においても先に出てきてしまうがゆえだった。

 

『おどれらそんな悠長なことを言うちょるから、ドレスローザで『麦わら』やら『八宝水軍』やらが目の前にいたにも関わらず逃がすことになったのと違うか!?』

 

「話をあっちこっちに飛ばすんじゃねえよ! 取り逃がしただのなんだのの責任から逃げるつもりはねえが、今回の件とは全く別の話だろうが!」

 

『別なものか! 常にあらゆる可能性を潰していくべく徹底的にやっておれば、連中がドレスローザにいた間に一網打尽にできておったじゃろうが! 海賊という『悪』を前にして、市民への配慮だの国家の面子だのと……』

 

「政府の失態のせいでズタボロになって、それでも必死で立ち直ろうとしてる市民にそれ以上の負担を強要して自分達の尻ぬぐいをさせるような選択肢があってたまるか! そんなことしてみろ、テメェの大好きな政府の面子や信用は今度こそ地の底だ!」

 

 もしここに一般の海兵や政府の役人がいれば、電伝虫越しに怒号が飛び交う状況に顔を青くしていたことだろう。

 肩書はもちろん、その実力ゆえに大きく恐れられている2人の口論である。どういう結末になるか、気が気でないに違いない。

 

 しかし、ここから一体どうやったら双方が納得できる、あるいはなあなあでも口論が収まるのか……という、藤虎が隣で思っていた疑問は、意外な形で解消することとなった。

 

『それで世界の……むっ?』

 

 突然、電伝虫の向こうのサカズキの言葉が止まる。

 

 どうしたのかとクザンがいぶかしむ前で、しばし『……何? そうか……』というような、断片的な声だけが聞こえてくるようになった。

 どうやら、別な誰かと話しているらしい。口調から、部下、あるいは階級が下の役人のようだ。

 

 しばらくして、サカズキがようやく電伝虫の前に戻ってきたらしい。

 

『まだ途中ではあるが、今日はここまでじゃクザン、火急の用件が入った。……先の話、検討しておけ』

 

「おう、検討したぞ。却下だボケ」

 

 子供のような返し方をするクザン(注:海軍元帥)に、フン、とサカズキが不満そうに鼻を鳴らすのが聞こえてきた。

 

『貴様もせいぜい備えておくことじゃな。この先の展開によっては、多少世界が揺れるかもしれんぞ』

 

「……何? おい、何の情報が入ってきたんだ?」

 

『まだ精査中ゆえ断言はできん。が……あのババアがまた政略結婚を企んでおるようじゃ。しかも相手は、世界政府加盟国の王族……本当なら無視できん『悪』の力の誕生につながりかねん。わしは対応に動くが、万が一の場合には貴様ら海軍も早急に動けるようにしておれ』

 

 

 ―――ガチャッ

 

 

「あ、おいサカズキ! 何だそりゃ具体的に……くそっ、切りやがった。気になることだけ言って引っ込むんじゃねえよ」

 

「何やら気になる内容でしたねぇ……『ババア』そして『政略結婚』となると、話に聞いた『ビッグ・マム』のことですかい?」

 

「恐らくな。あそこは傘下や同盟の海賊団を増やす時に、そこの船長や幹部格との間に政略結婚で血縁を結ぶのが特徴だ。しかし……相手が政府加盟国だと? 『ナワバリ』に加えるんじゃなく、傘下に取り込むってことか……国を? さすがに前代未聞だぞそりゃ……」

 

 もしも本当なら、サカズキが言い残した言葉通り、世界が多少動くかもしれない。

 海軍も無関係ではいられないはずだ。何らかの備えをしておく必要がある。

 

 しかし、海軍はそういった事実はまだ把握しておらず……調べてもすぐにわかるかどうか。電伝虫から聞こえてきた限りだと、サカズキも今さっき知ったばかりのようだった。

 であれば、概要だけでもつかむのにもそれなりに時間を要するかもしれない。急いで指示を出さなければならない……と考えたところで、ふと思いつくクザン。

 

(……そうだ。あいつなら……)

 

 そして、さっきサカズキと話したのとは別な電伝虫を取り出し、何やら操作して……

 

 

 ―――ガチャッ

 

 

「もしもし? こちら海軍元帥のクザンだが……」

 

『まーたーでーすーかー!? こっちも色々予定ってもんがあるんですけども!?』

 

「マジ悪い嬢ちゃん……今回は依頼じゃねえんだ。もし知ってたら教えてほしいことがあってよ」

 

 かけた先が誰だったのか……横で聞いていた藤虎も一瞬で察した。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「そのお茶会だったら私も呼ばれてるんで知ってますよ? 『ビッグ・マム海賊団』と、北の海(ノースブルー)の『ジェルマ王国』の政略結婚ですね」

 

『ジェルマ……『戦争屋』か。おいおい、えらい所とくっつくな……サカズキが忠告して来るのもうなずける危険度だ。で、行くのかお嬢ちゃんも?』

 

「そりゃまあ、行かなきゃやばいプレゼントが届いちゃいますからね」

 

 海軍の情報網って相当すごいみたいなこと言われてたけど……今回の『お茶会』と『結婚式』の内容までは把握できてなかったのかな? まあ、基本的に関係者にだけ通知が来る仕組みだから、無理もないのかもしれないけど。

 聞いた感じだと、赤犬……もとい、サカズキから聞かされたみたいなこと言ってたな。今あいつ政府で諜報部員の元締めやってるんだっけ? そいつらが調べたのか。

 

 私はまあ、招待客で、直接招待状届いたから普通に知ってたわけだが。

 

「そのお茶会で何かしろってのは無理ですよ? さすがに私も、『四皇』の御膝元で変なことして睨まれるのは勘弁です」

 

『わかってるよ、そこまでは求めねえ。……むしろ普段だいぶこっちの言うこと聞いてもらってるのが既に破格なんだってわかってるしな。ちなみに、誰と誰の結婚だとかは聞いてもいいか?』

 

 おっと、それ聞いちゃうか……まあでも、時間かけて調べればわかることだし、教えても別に問題あるまい。

 

「新郎がジェルマの三男で、ヴィンスモーク・サンジ。新婦がビッグ・マムの36女で、シャーロット・プリンです」

 

『そうか…………ってちょっと待て? 何か聞き覚えのある名前が出てきたんだが……』

 

「勘違いとか他人の空似じゃないですよ。新郎の方が、『麦わらの一味』のクルーの1人の『黒足』です。私もびっくりしましたけど、あの人ジェルマの王子様だったんですね」

 

 たしかクザン元帥は、まだ『大将青キジ』だった頃に、ルフィ達と戦ったことあったんだよな……勝負にならなかったレベルで一蹴してたけど。

 その時にサンジのことも見てるはずだし、ルフィの仲間として顔と名前も知ってるはずだ。

 

『おいおいマジか……この短時間にどんだけ衝撃の事実重なるんだよ。というか、『黒足』が新郎ってことは麦わらの一味は……いや、立場が『ジェルマ』ってことは、あいつらじゃなくてあくまでジェルマとして……その場合は『黒足』は……』

 

 電伝虫の向こうで何やらブツブツ粒いて頭の中を整理してるっぽいクザン元帥。

 少ししてから、めっちゃ大きいため息が聞こえて、

 

『なるほど……ジェルマの家庭の事情までは知らねえが、『黒足』については麦わらの一味とは縁を切らせて、ジェルマの一員としてビッグ・マム海賊団との縁作りに使うってハラか。でもこれ……あのガキ絶対納得しねえっていうか、何かやらかすだろ……』

 

「あ、やっぱそう思います?」

 

『ニコ・ロビンの時に、世界政府に宣戦布告した奴だぞ? 相手が『四皇』だろうが、それでブレーキ踏むとは思えねえ……価値観の方向性だけ違うけど、もしこれがガープさんだったら、相手が誰だろうが確実にやるからな』

 

「素晴らしい説得力ですね」

 

『お前さんは何も干渉する気はねえのかい? 確か『麦わら』とも仲よかったよな?』

 

「さすがに相手が相手ですからね……でもそれ以上に、『四皇』相手だとわかって何かするのなら、それはルフィの海賊としての決断ですから、そこに水を差すつもりはないですよ。その結果としてどうなろうが、ルフィは覚悟の上でしょうし。何も考えてないように見えて、割とそのへんしっかりしてますからね」

 

『つくづくガープさんにそっくりだな……頭痛くなってくるわ。普通に考えたら、ルーキー1人が『四皇』相手に何もできるはずがねえけど……あのガキなら何かやらかしそうな気がするから怖ェ』

 

 確かにね……。私もそこまでは原作読めなかったから、実際のとこ『原作時空』ではどうなったのか知らないけど……何かは確実にやっただろうね。

 現に、アリスの部下のエルザちゃん経由で、サンジを取り返しに『万国(トットランド)』に潜入――という名の殴り込みになる可能性大――するつもりだって聞いたし。

 

 もちろん、そのへんの余計な情報までは教えることはなく……その他、こまごまとしたことを話してから、クザン元帥との通話は終わった。

 どうやら元帥、『四皇』と『加盟国』が、それも悪名高い『ジェルマ』がくっつくってことで、色々と心配みたいだな。自分から何か行動を起こすことはないだろうけど、色々と警戒はする必要はある……とか思ってるのかも。

 

 ……サカズキはどうするんだろ? 動くのかな? でも相手『四皇』だしな……。

 時々聞く『三大勢力の均衡』ってやつを考えると、政府もさすがに『四皇』相手だと下手には動けないはずだ。

 

『三大勢力』は、『海軍本部』『王下七武海』『四皇』であり、これら3つがそれぞれの立場から睨みを聞かせているから、『偉大なる航路』は海賊達にとって『海賊の墓場』と呼ばれるくらい危険な環境になっている。

 ある者は正義のため、ある者は利益のため、ある者は欲望や、あるいは仁義や面子のために海賊を狩る。

 

 けど、その『三大勢力』同士の力関係がどうなっているかというと……

『海軍本部』VS『王下七武海』VS『四皇』……では、決してない。

 

 多分だけど一番的確なのは、

『海軍本部』&『王下七武海』VS『四皇1』VS『四皇2』VS『四皇3』VS『四皇4』

 コレだと思う。

 

 完全に正確ではないだろうけどね。『鷹の目』とか、個人で四皇クラスだって言われる(確かシャンクスと互角のはず)奴もいるし、うちだって勢力的には『準四皇級』とか言われて久しいし。

 

 聞いた話じゃ、目の前で四皇の海賊団が好き勝手略奪やら何やらしていようが、海軍は『政府の許可がなければ交戦できない』らしい。

 四皇の逆鱗に触れれば、それすなわち傘下を巻き込んだ戦争を意味する。

 

 極端な話、『頂上戦争』みたいなことになるわけだ。

 アレも、ホームに誘い込んで作戦建てて罠を張って、さらに戦力もこれでもかってくらいに集中して、どうにか『白ひげ海賊団』と勝負になった……って感じだったもんね。

 ……この世界では、私らが暴れて色々食い破ったけど。白ひげは死んだけど、エース生き残ったし。

 

 そら、四皇そのものをアンタッチャブル扱いにするのも無理ないだろうと思う。今回も多分……政府も海軍も静観するんだろうな。

 ビッグ・マム海賊団の勢力拡大につながる婚姻だってこともわかってて……かつ、ルフィがそこに飛び込んで何かやらかすかもしれない、ともわかってて。

 

 

 

「……まあ、今回何かやらかす予定なのは……ルフィだけじゃないんだけどね……」

 

 

 

 

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