時は、少々大きく飛ぶ。
プリンに教えられたルートを進んで『ホールケーキアイランド』本島にたどり着いたルフィ達。
そこでしかし、森そのものが島への侵入を阻み、処刑する装置となっている『誘惑の森』によって道を閉ざされた上、現れた刺客2人……ブリュレと将星・クラッカーとの戦いになる。
最終的にそれを征することができたものの、その後のサンジとの邂逅では……本心を隠し心を鬼にしたサンジによって、差し伸べた手は拒絶されてしまった。
そして、その時に一方的に言い放った約束ゆえに、ルフィはひたすらその場所から動かず、サンジの帰りを待ち続け……しかしそこに、敗れたクラッカーの報復のためにビッグ・マムが放った『怒りの軍団』が襲来する。
ビッグ・マムの子供達……すなわち海賊団の幹部格や、それに匹敵する高額賞金首、ホーミーズの兵士達からなる万を超える軍勢。たった2人を相手に差し向けるには過剰どころではない数。
その先頭に立っていたのは、クラッカーと同じ『将星』の1人にして、既に1度ルフィと拳を交えている女傑……パルフェだった。
「まだ立つのかよ……どんだけしぶといんだこいつ?」
「活きのいいルーキーだな……生意気な」
降り注ぐ水あめの雨の中。スイートシティ郊外の平原。
アマンド、オペラ、モンドール、無数のチェス従兵達……すでに多くの敵を相手にしてその猛威にさらされ、しかも空腹で体力も底をつきかけているルフィは、傷だらけで肩で息をしながらも、正面に立つパルフェをにらみつける。
対するパルフェがルフィ達に向ける視線は、冷ややかなものだった。
「パルフェ……お前、なんでプリンの味方してやらねえんだよ!? 双子の姉ちゃんなんだろ?」
「何ですか、藪から棒に?」
「プリンは言ってたぞ! サンジを助けてやりたいって! サンジはまだ冒険したいから、結婚で縛り付けるのはつらいって……だから俺達に手を貸してくれたんだ! それなのにお前……」
パルフェの背後からは、『プリン様が海賊に手を?』『いやほら、それは多分罠で……』『ああ、時々出てくる黒い方の……』などと言ったざわつきが聞こえてくるが、特に気にすることもなく、パルフェははぁ、とため息をついた。
「何を言い出すかと思えば……ことここに至って泣きごとですか? ママのナワバリに本当に乗り込んできたと知った時には、多少気骨はあると思っていましたが……なんとまあ見苦しい。そんな調子でよくここまでやって来れましたわね、『麦わら』?」
「何……?」
「度胸があるんじゃなくて、単に何も考えていない、思ったこと全部口に出るだけの、まるで大きな子供じゃありませんか。よくもそれでママをぶっ飛ばすなんて言えたものですわね」
瞬間、
パルフェの姿が掻き消えて……ルフィがその身を大きく蹴飛ばされ、宙を舞っていた。
「がふぁっ!?」
「ルフィ!?」
悲痛そうなナミの声が響く中、パルフェの腕が伸びてルフィの首根っこを掴み、引き寄せる。
魚人島でやったのと同じように、間近に迫ったルフィの匂いをかいで……パルフェは、水あめの甘い匂いの向こうに、予想通りの匂いを見つけて、ルフィの状態を把握した。
「よほど燃費が悪い体のようですわね。クラッカーお兄様との戦いで、たらふくビスケットを食べたと聞いていたのに、体臭からしてもう栄養不足になり始めてる。それなのに、意地を張って何も食べずに私達を迎え撃つなんて……理解に苦しみますわ」
「うるせェ……おデは、サンジの飯以外は、食べねェ!!」
「この『
「“ゴムゴムの”……」
最後まで聞かずに、ルフィはその首を大きく伸ばし……その縮む反動を利用して、武装硬化させた額で頭突きを繰り出す。至近距離にいるからこそ、容易にはかわせない
「“かn”ぶぐふっ!?」
しかし、直撃するかと思われた瞬間、ルフィの頭は横から突然、殴られたかのように大きく揺れて勢いを殺された。
何が起こったのかと目を丸くして見れば……なんと、パルフェの縦ロール髪の毛の1つが動いて上を向き……その筒状の中から、グミでできた拳が突き出ていた。今ルフィを殴ったのはこれだとすぐに見て分かった。
「えぇぇえ~~~!? それ、そうやって使うのかぁ!? ……って、何か前にもこんなことあったような……」
「こういう使い方もできるんです、面白いでしょ? ……ってまあいいんですのよそんなことは、そんなことよりも……」
驚くルフィの目の前で、パルフェの6つある縦ロールの房全てが上を向き、そこから拳が出現。
そしてその全てが黒く染まり、『武装色』を纏っていた。
「パルフェ流スイートアーツ……“
防御も回避も間に合わない。次の瞬間……それらが殺到し、首根っこを掴まれたままのルフィを全方位から袋叩きにする。
続いたのはものの数秒だったが、1発1発が周りに衝撃波をまき散らす威力の拳を雨あられと食らい……終わる頃には、ルフィは沈黙していた。
手も頭も、だらんと力なく垂れ、動く気配はもうない。
その光景に、ビッグ・マムの軍団は、さすがパルフェだと賞賛し湧き上がる。
反対にナミは、ガレットの能力で拘束されながら、動かなくなったルフィを見てうつむいてしまった。
「海賊なのです。自己中わがままは大いに結構。けど、それでほしいものを取りこぼし、今手元にあるものを失っていては意味などない……ましてや、仲間や周囲を盛大に巻き込んで、それら全てが考えなしの思い付き。貫き通せればそれも武勲美談になったのでしょうけど……」
ぱっ、と手を放す。
べちゃ、と、水あめで濡れた地面に、脱力したルフィの体は力なく沈んだ。目は白目をむいて、動くどころか目覚める気配もない。
「結果この様。力も結果も伴わず、口先と勢いだけで突っ走った挙句、周囲を巻き込んで自滅する……あなたみたいな男、
片付けなさい、というパルフェの指示に従い、残ったチェス従兵達がルフィとナミを拘束。
絶対に逃げられないよう、モンドールの能力で本の中に封印して護送する。
平面のページの中に押し込められていくルフィ達を見ながら、パルフェは、水あめの雨でぬれてしまった髪の毛をうっとうしそうにかき上げながら、
「……何が嫌いかって、あなたみたいなのは……取り返しのつかない失敗をして、かけがえのないものを失って……何もかも手遅れになって初めて、自分がバカだってことに気づくんですわ。この最悪の結果を招く前に、考えを改めるべきだったということに……ね」
誰にも聞こえないであろう音量でそう言って、小さくため息を一つ。
そしてそのまま、軍団を率いて『スイートシティ』へ戻っていった。
☆☆☆
それから数時間後。
ルフィとナミは『ホールケーキ城』の図書館兼牢獄に幽閉され、電伝虫越しに『ビッグ・マム』と謁見。そこで、ナミの『姉妹分』であるローラが、実の母親のビッグ・マムに、殺意レベルで憎まれていることを知る。
さらにその後、面会に来たプリンの本性を知り、オペラによってナミが拷問される瀬戸際まで行ったところで……現れたジンベエによって救出された。
その後、さらにひと騒動ふた騒動起こした末に、ルフィは窓から、ナミ達はチョッパーの手引きで『鏡世界』から、それぞれ脱出。
図書館での一件は、保身に走ったオペラによって隠蔽されることとなり(何人か怪しんでいた者はいたが)、ルフィもナミも、ブルックたちを含む他の進入者達も、全員死んだことになった。
さらに、ブルックが『ロード“
さらにそこから、たまたま覗き見てプリンの本性を知り、同時にレイジュから、『落ちこぼれ』の自分の誕生の秘密を知ったサンジとも再会・合流。
そしてジンベエの提案により、カポネ“ギャング”ベッジと、シーザーも加えた『連合軍』結成からのビッグ・マム暗殺計画へと移っていくことになる。
その事態の裏側で……『連合軍』でも、『ビッグ・マム海賊団』でも、はたまた『ジェルマ66』でもない……
しかし確かに、何かを企んで……動き出した者達がいた。
「用意はできてるわよ、あんた。やるんでしょ?」
「あァ、悪いな巻き込んじまって……ジンベエにも嘘をついちまった。もちろん、コトが終わったら言葉通り『魚人島』へ行くつもりではいるが……」
「シャシャシャ……水臭いこと言ってんじゃないわよ。旦那が男見せようとしてるのももちろん……今まで『魚人族』や『人魚族』の未来のために尽くしてくれた英雄の船出だもの。ここで気合入れなきゃ、あたしの方こそ女が廃るってもんだわ!」
「俺は本当にいい嫁をもらったよ。野郎ども、もうすぐ船出だ、準備は万全にしておけ……っと、ペコムズの奴にも話さないとな。悪いが、安全な場所で置き去りにさせてもらうか」
『そろそろ決行日が迫ってきてる。打ち合わせ通りによろしくね』
「ああ……任せろ。あんたらには世話になった……『最後の仕事』、恩返しのつもりで全うさせてもらうつもりだ。……偶然ではあるが、ちょっとした話を聞けてやる気になってる奴もいてな」
『そう? よくわかんないけど……うん、やる気があるのはいいことだね。期待してるよ』
「ヤハハハハ……海賊として初の大仕事が、かの『四皇』絡みとは。これは気合を入れねばなるまい。空の上でふんぞり返って『神』を名乗っているよりよほど面白そうだな」
『大丈夫だとは思うけど、油断して下手打つようなことだけは避けてくれよ?』
「わかっているとも……むしろそんな『油断』などしている暇はないさ。2年経ってもなお、目に映るもの全て新鮮で気分がこれでもかと高揚しているのだ。日常でそれなのだ……非日常極まる場に行けるとあれば、これはもう期待しか……ん? あれは……」
『? どうした、何かあったのか?』
「いや……珍しい、ないし面白いものを見つけてな」
「悪いな、お主らも色々大変な時じゃというのに、わしらの仕事につき合わせることになって」
「何言ってんだ、世話になってんのはこっちだよ。それに……今あんたらにどうにかなられるわけにはいかないんだ、お父さんとまた話せるようになるためにもな。だったら手くらいいくらでも貸すさ。今更水くさいこと言うな」
「そうか、わかった。なら存分に期待させてもらうとしよう」
「それに……」
「? それに?」
「『万国』って、どこを見ても食べ物ばっかりなんだろ? 朝から晩まで美味しいもんを食って寝て過ごせる楽園だって聞いてるぞ! そんなんお前、楽しみにするしかねーじゃん!!」
「ああ、うん、そうじゃな……いやまあ、わしも割とその辺気になってはおるんじゃが。果たしてどんなところなのか……うん、楽しみじゃ普通に」
「どうすんだよコレェ!? はぐれちまったぞ錦えもん達と!」
「仕方ねぇだろ、あんな馬鹿でけェ嵐に遭遇するなんざ想定外だ! 船のことなら心配すんな、俺が完璧に直してやる!」
「直したところでこのぼろい小船じゃな……おまけに指針もねェときた。さてどうするか……」
「幸い、彼らの話だと、『討ち入り』までは時間はあるようだし……ルフィ達も後から合流する予定だということを考えれば、大きな問題はないわ。下調べができないのは残念だけど」
「いざとなりゃぶっつけ本番、か……『四皇』相手にそりゃハードだぜ」
「ええと、荷物荷物……食料が残り少ねえな……まあ、魚でも釣ればなんとかなるか。行先の指針がないのは問題だが、他の島に行ける奴ならいくつかあるから……」
「ルフィ達と合流してあらためて入国するのがいいかも知れないわね。そうすれば何かしらの指針も手に入るかもしれないし、首尾よくサンジの救出に成功していれば、航路的には……」
「…………!」
「……? どうした、ゾロ?」
「…………スゥ」
「……うん……」
「……ありがとうよ……」
『お茶会』開始まで……あと、3時間半。