ルフィ達が再度の脱出に失敗し、全員ビッグ・マム海賊団に捕まった……かと思われたその直後に、謎の大爆発が起こり、『ホールケーキ城』そのものが傾き、崩落した。
幸い崩落の瞬間、総料理長シュトロイゼンが『ククククの実』の能力を使ったことにより、巨大な城は本物のケーキになり、海賊団全滅の危機はどうにか回避されていた。
その際、一部の参加者達……自力で能力で空を飛べるスゥや、世界政府所属の諜報部員『CP0』という裏の顔を持つステューシーなどは自力で助かっていた。
また、そのスゥから昔馴染みの縁として助けられたモルガンズも、ケーキまみれにならずに助かることができた1人。
おかげで空中の特等席から、崩れ倒れる『ホールケーキ城』の写真を撮れたと喜んでいた。
その後は、『お茶会』と『結婚式』を台無しにしたルフィ達を追撃すべくビッグ・マム海賊団が動き出すが、最悪のタイミングで『食い煩い』の発作が起こってしまい、またしても大混乱に。
ペロスペローの機転で、ビッグ・マムは麦わらの一味を追いかけていったが、『食い煩い』のビッグ・マムを放置すれば、島1つくらいなら軽く滅んでしまう。それを止めるため、プリンが――その本心に秘めた真の理由を隠した上で――ウエディングケーキを作ることに。
麦わら達の討伐と、プリンの料理の援護。『万国』を滅ぼさないための大仕事のために、ビッグ・マム海賊団はそれぞれ全力で動き始めた。
……このわずか数十分後、事態が、それどころではない大変な展開を迎えることになるなどとは……この時、まだ誰も知る由もなかった。
☆☆☆
『食い煩い』のビッグ・マムの追撃をかわしながら、どうにかサニー号のある海岸までやってきたルフィ達だったが……すでにそこには、『
しかも、サニー号はキャンディで固められて出港できず、甲板には全身を同じくキャンディでコーティングされ、窒息寸前のチョッパーとブルックが。
一刻も早く事態を打開して出港しなければと、ルフィ達は甲板に殺到し、カタクリとペロスペローという2人の強敵に挑もうとするが……その時だった。
「―――“ROOM”!!」
ブゥン、という震えるような音と共に……サニー号を丸ごと、さらに付近の海岸の一部もまとめて包めるほどの大きさの“
“それ”に見覚えがあった者達は……皆、驚いて目を見開いた。
「え、これって……」
「まさか……!?」
次の瞬間、甲板で固められていたチョッパーとブルックが、その本体だけ、キャンディの中から切り離されたように救出され、離れた場所に現れる。
中身がなくなったキャンディの『殻』だけが、寂しく甲板に取り残されていた。
「……っ!? ぷはぁ――!? た、助かった、息できる……え、おれたちどうなったんだ!?」
「ヨ、ヨホホ……さ、さすがに死ぬかと……いや私もう死んでるんですけど!」
「チョッパー、ブルック、よかった無事で……でも、今のってまさか……」
「どうなってやがる!? てめェらどうやって俺の『キャンディ・マン』から……ぬ!?」
直後、気配を感じ取ったペロスペローが振り向いて、背後から突撃して来ていたペドロを迎撃。ステッキで軽くその剣をいなしてほくそ笑む。
……が、次の瞬間、そのステッキを持っていた腕ごと、別方向から飛んできた斬撃で斬り飛ばされた。
「な……ぁっ!?」
「ぺ、ペロスペロー様ぁ!?」
斬り飛ばされて地面に落ちたペロスペローの腕を見て青ざめる兵士達。
しかしペロスペローは、その顔に苦悶の表情を浮かべるような様子はなく……
「騒ぐな!! 本当に斬られたわけじゃねえ、『能力』だ! しかし、この能力はまさか……」
そして、土埃の向こう……再び刀を振るおうとしている謎の人影をその目でとらえたペロスペローは、素早くキャンディで剣を作ると覇気を込め、直後に飛んできた何発もの斬撃を、今度は受け止めた。
キャンディの刀身も、体も、今度は斬られることはなかった。
が……横一文字に振りぬかれた刃の乱れ打ちは、覇気での防御などできなかった兵士達を、容赦なくバラバラに両断した。
それによって血が流れたり、死ぬことこそなかったものの……自力では動けず、戦闘不能に追い込まれてしまう。
「2度目はねえか……まあ、不意打ちが上手く決まっただけで良しとするしかないな」
「貴様……“死の外科医”!?」
「トラ男~~~~!?」
「え~~~トラ男君!? 何でここに!?」
土埃の向こうから姿を現した彼……トラファルガー・ローに、ルフィ達は目を輝かせる。
ドレスローザを出た後、『ゾウ』まで同行したローだったが、そこで今の所属先である『金獅子海賊団』からの何かの通達が入り、その結果、ここで一旦別れることになったのだった。
ゆえに、『ゾウ』を出た後、彼が今どこで何をしているのか誰も知らなかったのだが……まさか、このホールケーキアイランドで合えるとは思っていなかった。
それどころか、絶体絶命の危機をこうして救われたことに、ルフィ達はそろって沸き立つ。
加えて実は、ペロスペローの腕を斬り飛ばし、さらにはチョッパーたちを救ったことで、ペドロが胸に秘めていたある『決意』の実行を、寸前で妨げる結果にもなっていたのだが……今のところ、それを知る者は、ペドロ当人を除いて他にはいない。
そのペドロもまた、当然『ゾウ』で面識を持っているため、突然の再会に驚いていた。
「助けられたな……礼を言う、ロー。しかし、なぜここに?」
「後で話す。今は……どう見てもくっちゃべってる時間が惜しいだろ」
暴れ続けるビッグ・マムを顎でしゃくって指し示しながら言うローに、ペドロはふっ、と短く笑って頷いた。
「違いない。なら後で聞かせてもらうとしよう……あいつを倒せば、あの船を止めているキャンディも解けるはずだ。手を貸してくれ」
「倒すのは構わねえが、それも必要ないと思うぞ? 見ろ」
と、ローが言った直後……またしても異変が起こる。
「“
サニー号を止めていたキャンディが、突然……ドロドロに溶けて崩れ落ちた。
しかも、熱で溶かされた様子ではなく……まるで、時間がたちすぎて劣化し、崩れ溶け落ちてしまったかのうような崩れ方だった。
「何だと……ぺロス兄!?」
「俺は何もしてねえよ! くそっ、お前の仕業かロー!? いったい何をしやがった」
「さァな……」
溶け落ちて海に沈んでしまったキャンディ。それにより、サニー号がフリーになった。
すぐさまもう1度固め直したいところだが、目の前のこの2人に対して隙をさらせば、その瞬間深手を負う羽目になるのは想像に難くない。
懸賞金額では自分が勝っているが、かといって油断していい相手ではないこともわかる。最悪命も持っていかれかねない。そうなればどの道キャンディは溶ける。
「大体何でテメェがここに来てる……!? テメェの所属は……」
「ウエディングケ~~~キ~~~!!」
ここでビッグマムが咆哮。それだけでびりびりと周囲の大気が震え、味方だとわかっていてもホーミーズの兵士達が震え上がる。
そしてそのまま、サニー号目掛けて突撃していく。
その勢いに、キャンディやら何やらの障害物もなくなった今、早く『クー・ド・バースト』でここを離れようとするが……
「小細工が上手く言った程度でいい気になるな……俺がいる以上、誰も出航などさせん!」
体から何本も、太いモチの腕を生やして襲い来るカタクリ。
立ちふさがろうとしたキャロットを瞬く間に叩き伏せ、モチの粘着力で床に貼り付けにして動きを封じ……そのままナミや、助かったばかりのチョッパー達に襲い掛かる。
そこにさらに、ルフィが飛び込んでくるが、カタクリは眉一つ動かさずに拳を構える。
「この船の船長は俺だ! 今から出航する、邪魔すんな!」
「勇ましいな。だが、俺を追い出すちかr―――」
その瞬間……突然カタクリの言葉が止まる。
何だ、と思ってルフィ達が見ると、先ほどまで、何が起ころうとも動じなかったカタクリが……目を見開いて冷や汗をかき、動揺している姿がそこにあった。
立ちふさがったルフィを見て……ではない。恐らくは、彼にしか見えない『未来』を見てだ。
浮かんでいるのは、『お茶会』の時の、ビッグ・マムの錯乱を前にした時と同じかそれ以上の困惑と焦燥。
「バカな……ありえん……!! なぜ……」
こちらも混乱しつつも立ちはだかろうとするルフィ……の、背後から、彼を追い抜いて、誰かが前に飛び出してきた。
「え……!? お前……」
その後ろ姿を……あまりにも見覚えのある『髪型』を見て、ルフィも驚く。
「なぜ、お前が出てくる……!? なぜお前がそこにいて、俺に拳を向けるんだ―――」
「―――パルフェ!!」
ルフィの背後から飛び出してきたパルフェは、カタクリが突き出した拳を、武装硬化させた拳で真正面から受け止めた。
そして、一瞬の拮抗の後、ガギィン、と硬質な音を響かせて、互いに弾かれたように距離を取る。
困惑がまだ顔にうかんでいるカタクリに対し、パルフェの顔にうかんでいるのは……笑み。
この状況に、全く疑問も、迷いも抱いていないことが明白な、笑み。
「悪りィですわねカタクリお兄様。この方達の船出を邪魔されると、ちょっと困っちゃいますの」
「どういうことだパルフェ……!? まさかお前が……お前までもが……!?」
「ご明察……ばっちり裏切って敵に回ってますわよ」
「「「えええええええ~~~~~!?」」」
そのカミングアウトには、相対しているカタクリやルフィ達だけでなく、周囲で状況を見守っていた兵士達や、ペロスペローも大いに驚かされていた。
何せ『4将星』の1人であり、カタクリの直弟子。戦闘の実力においては、自分達にとって最も頼れる味方だったはずの存在。
それが、堂々と『裏切る』などと言い出したのだから。
一方で、ルフィ達としては……その強さをよく知っているだけに、味方になるなら頼もしい。
しかし、ルフィが2度拳を交え、2度目の時は散々に言われた末に囚われの身になってしまったという因縁も確かに存在するため、すぐさま手放しでよろこぶとか歓迎するのもためらわれる。
双方それぞれの理由で固まってしまっている中、いち早く困惑・混乱を抑え込んだのは……カタクリだった。
「……色々と聞かなきゃならねェことがある……だが、悠長に話している時間はねェ。お前がそう言うのならいいだろう……一旦とっ捕まえて牢屋に入れてから話を聞いてやる」
「さすがカタクリお兄様、判断が早いですわね。取り乱した精神もすぐに落ち着けてしまわれて……相変わらずの『完璧』さ加減、惚れ惚れしますわね」
「挑発のつもりで言っているのか? まあどうでも構わん……お前にどんな事情があろうがなかろうが、二の次だ……!!」
再び体からモチの腕を何本も伸ばすカタクリ。それら1つ1つが握った拳に変わり、さらに『武装色』で黒く染まる。
「『麦わら』! ここは私が……あなたはさっさと出港の準備をなさい!」
「お、おう、わかった! ありがとう!」
その眼前でパルフェは、ルフィを下がらせた後、縦ロールの髪を動かして上向きに……ルフィの時にそうしたのと同じように、中からグミでできた拳を出し、『武装色』で黒く染める。
次の瞬間、モチの拳とグミの拳、それぞれがすさまじい勢いでラッシュを放ち、2人のちょうど中間で、周囲に盛大に衝撃波をまき散らしながらぶつかり合った。
1秒、2秒、ラッシュは拮抗し……どちらも1歩も引かない。
((押しきれない……!))
2人同時に同じ結論に至ったためだろうか、カタクリとパルフェは直後に弾かれたように横に飛び、それぞれの多腕形態を解除して身軽になる。
そして今度はカタクリは、体内に格納していた槍『土竜』を取り出して構え……腕をモチに変えてうねらせ、槍ごと高速回転させる。
対してパルフェは、手にポコポコとグミの玉を生み出して強く握る。手の中で、パルフェの握力で変形したグミのスーパーボールは、さらに覇気を込められて黒く変色した。
「“モチ突”!!」
「普通に殺す気の一撃!? 尋問するんじゃなかったんですの……っと」
ドリルのように回転して迫るカタクリの槍を、ツッコミという名の軽口をたたきながら回避するパルフェ。
それを読んで槍がさらに追ってくるが、その瞬間パルフェの手から四方八方にスーパーボールが放たれてそこら中を跳ねまわる。
しかし、軌道を計算しつくされて放たれたそれらは、全てが別な軌道を描きつつ……最終的に全弾カタクリに向けて降り注ぐ。
しかしカタクリはその全てを見切り、体をモチに変えて回避、あるいは『土竜』ではじいて防御した。
が、それもパルフェの計算のうち。
回避と防御に割かれた一瞬の隙を狙い、パルフェは新たに生み出したグミの玉……しかし、さっきよりもかなり大きなそれを手に持つと、頭の縦ロールヘアの中にそれをぽいぽいと投げ入れた。
そしてその直後、縦ロール全てが……今度はその筒口をカタクリに向けて、ガシャン、と効果音が付きそうな動きで『構える』。
その姿はまるで……6つ並んだ大砲の砲門。
「“
そしてその『砲門』から、すさまじい勢いでグミの砲弾が発射される。
カタクリはそれを、慌てず落ち着いて体を……被弾する個所をモチに変えて効率よく回避。
直撃すればそれなりの痛打になったかもしれない砲弾は、すり抜けるようにして飛んでいき……着弾した先の地面や森の木々(ホーミーズ含)を、大砲の弾などよりもよほど盛大に吹き飛ばし、6つの大きなクレーターを大地に作った。
……が、
「ぐぉ……っ!?」
全て回避した……と思った矢先に、カタクリの全身を、爆風のような巨大な衝撃が襲った。
『未来視』でも見切れなかった不意の一撃に、踏ん張りがきかずに大きく吹き飛ばされ、船から落下するカタクリ。
咄嗟に伸ばしたモチの腕も、追撃で放ったパルフェのグミの砲弾が今度はヒットし、吹き飛ばされて叩き落されてしまう。
反対方向にも腕を伸ばし、海に落下することこそ回避したが、まんまとサニー号から降ろされてしまった。
パルフェはそのまま船の淵に仁王立ちし、また来るなら来てみろ、とでも言いたげな様子である。
「ナミ、準備まだか!?」
「もうちょっと! ええと、コレをここにセットして……」
「よこせぇええ! ウエディングケ~~キ~~!!」
しかしその時、ビッグ・マムが『食い煩い』の状態のまま、手に持った剣形態の『ナポレオン』を大きく振りかぶるのが向こうに見えた。
あの位置から『威国』……“巨人族の槍”を放てば、船などひとたまりもないだろう。カタクリは次の瞬間の『未来』で、麦わらの一味の船がバラバラになっている光景を確信していた。
……しかし、見えた未来はまたしても予想外甚だしいもの。
「バカな……!? なぜ、奴が……!?」
愕然とするカタクリの顔色を見て、パルフェはパルフェで何かを理解した様子。
隙は見せないようにしつつ、自分も横目で、剣を振りかぶるビッグ・マムを見る。
ルフィ達の出港準備は間に合わず、その剣が振り抜かれるかと思われた……その時。
「獅子・
上空から無数の斬撃が降り注ぎ……雪崩のようにビッグ・マムを飲み込んだ。
振りぬかれるはずだった剣を止めたばかりか、その下の地面を抉る。そうしてできた大きな溝のようなくぼみに足を取られ、ビッグ・マムはすっ転んで尻もちをつき、そのまま後ろにひっくり返った。
「誰だぁぁああ!? おれの邪魔をする奴はぁ~~~!?」
しかし、すぐに起き上がる。
ダメージらしいダメージはないように見えたが……よく見るといくつか小さな切り傷があちこちにできてしまっていた。
「ママが……怪我だと!? “あの状態”で受けたわけでもねェのに……」
驚くペロスペローは、その斬撃が飛んできた方に視線をやる。
そしてそこで……信じられないものを見た。
「バカな……!? なぜ、奴が……!? ありえねェ!」
奇しくも、数秒前のカタクリと同じ言葉を、ペロスペローは呟いていた。
そのくらい、同じ感想を抱いてもおかしくないような光景が、そこに広がっていた。
見た先にあったのは、よく晴れ渡った空。
式が上手く行きさえしていれば、『お日柄のいい』結婚式日和とでも言えそうな、そんな穏やかでよく晴れたいい天気の空だ。
そんな空に……
手には鋭く光る2本の名刀。
その身を包むは、黒の和装に黄色と橙色の羽織を組み合わせた装束。
両足の膝から下が黄金の義足になり、太陽の光を反射してきらめいている。
そして何よりも特徴的な……頭に刺さった舵輪。
「ジハハハハハハハ!! 久々にあったと思ったら、『発作』の真っ最中とはなァ! その持病も変わらずか……あまり家族に迷惑なんぞかけてやるなや、リンリンよぉ!?」
「シキィィイ~~~~~!?」
元・海賊艦隊提督の『大親分』にして、現・二代目金獅子海賊団が『最高顧問』。
海賊王の時代からの生き残りであり……目の前にいる怪物『ビッグ・マム』とも同列と称され、幾度もしのぎを削り合った大海賊。
その名を……『金獅子のシキ』。
数年かけた計略によって、余命いくばくもない状態に陥っているはずの男が……景気よく葉巻の煙をふかし、いたって元気そうに大笑いしながら、空を舞っていた。