「一体何がどうなってんだ……!? 『金獅子のシキ』はもうボロボロで死ぬ寸前だって話だろ!?」
「その報告は、送り込んでるスパイからでも聞いたのか? 雑な仕事をする部下を持っちまって災難だったな、飴野郎」
困惑しながらも飴の刃や鞭を振りかざして戦うペロスペローと、それをさばききって応戦するロー。その俊足を生かし、ローと連携して一撃を加えては離脱するペドロ。
一瞬の油断も許されない攻防だが、そんなペロスペローの頭からどうしても疑問と困惑が離れてはくれない。
しかし、今のローの……現在まだ『金獅子海賊団』の傘下にいるはずの男の言葉から、ペロスペローはあまり考えたくない可能性に行きついた。
(まさか……スパイの潜伏はずっとバレてたってのか!? じゃあ、シキが毒で弱ってるって話も……いや、しかしそれはスパイ以外にも複数の方法で確認した! 何にしてもここ最近のシキは、老衰か病気かで大きく衰えていたはずだ! だが……)
「おかしを食べる、邪魔を、するなァ~~~!!」
「相変わらず話通じねえなその状態のオメーはよ!? 精神年齢いくつだっつーの!」
横一文字に振りぬかれる、ビッグ・マムの『ナポレオン』。
それを真正面から受け止める、『桜十』と『木枯らし』の名刀2本。
その衝撃波……というか、飛び散った余波だけで、遠巻きに見ている従兵たちがすっ転ぶ威力。
その名を知らぬ者無き怪物『ビッグ・マム』の刃を、ああもあっさりと受け止める男の、どこが弱っているというのか。
ペロスペローには、そう自問自答するのも馬鹿らしく思えた。
(どんな手を使ったかわからねェが、一杯食わされたってわけか……いやそれはもうこの際いい! もっとやべえのは……そのシキがこうして、配下のガキ共まで引き連れてここに来てるってことは……つまり……!)
「なるほど、わかってきた……」
「何がです?」
「お前の背後関係だ、パルフェ。てっきり『麦わら』達についたのかと思っていたが、違った……お前が寝返った先は、『金獅子』か」
「ご明察……まあ、そりゃ本人がああして出てきたらわかっても当然ですけどね」
「なぜそっちについた、パルフェ? 今の地位に何か不満でもあったか? シフォンと違って、お前は別にママに冷遇されていたわけでもあるまい」
「いいえ特には、割と自由にさせてもらっていますし、かわいい妹もいる。今でも特段不満らしい不満はありませんし……家族のことを嫌いになったわけでもありませんの。……でも……」
「でも?」
「どうしても、私がほしいものがあって……それは、それだけは絶対に、『ビッグ・マム海賊団』にいては手に入らないもの。ですから、悪いとは思いましたが、裏切らせていただきました」
「そうか……海賊らしいと言えば、そうなのかもしれん。だが、ママに弓を引いた以上……お前は俺達の敵―――っ!?」
「ええ、もちろん覚悟の上で―――っ!?」
話している間も戦いを続け、拳と拳、蹴りと蹴り、時に槍やスーパーボールも飛び交わせて戦っていた2人だが……ふいに同時に『未来』を見て、慌ててその場から飛びのいた。
そして次の瞬間、
「“威国”ゥ!!」
ビッグ・マムが放った大技の流れ弾が飛んできて、危うく2人とも吹き飛ばされるところだった。
「危っぶ……ああもう、てんで周りが見えてませんわねママ! まあいつものことですが!」
「そういうお前は……そうか」
言いながら何重にも別れた足で蹴りを繰り出すカタクリだが、その全てを、視線をやることすらなく、グミのスーパーボールが撃ち抜いた。
よそ見をしているようでも、パルフェに隙はない。
自分の教えがきちんと形になっていることを喜びたいが、それが今敵に回っているという事実に、カタクリはため息をつきたい気分になりながらも、拳を握り直す。
それと同時に……奇しくも、ちょうどいまペロスペローが考えていたのと同じことを、その頭の中で考えていた。
(『金獅子』が動き出したということは、暗殺計画は既にばれている……そして本人がこうして顔を見せたということは、これから始まるのは……! しかしだとすると、今首都にいるはずのあの女もおそらくは!)
「まずいな……最悪、麦わらだのベッジだのを追っている場合ではなくなるかもしれん……!」
「ちょこまかとォ~~~~!!」
「おーおー、怖ェ怖ェ」
味方への被害もほぼほぼ考えず、広範囲を大火力で一気に蹴散らす技を連発するビッグ・マム。
その攻撃を全て、縦横無尽に飛び回って回避したりそらしたり……なおかつ、その流れ弾や余波を上手いこと周囲の連中に誘導して蹴散らしていくシキ。
伝説として語られるレベルの大海賊同士の戦いに、とても誰も、援護だろうと割り込めない。
先程さらっといった、ビッグ・マムの攻撃を『そらす』などという行為、並のどころか、カタクリレベルの大海賊だろうとそうそうできやしない所業なのだ。
「お前ェ~~!! ママに何してるんだァ~~!!」
そこに、森の上空から燃え盛る“太陽”が襲い掛かる。
体の中心に顔が付いた炎の塊、ホーミーズのプロメテウスが、打ち合って怯んだ隙をついてシキに襲い掛かり、その身を生かした体当たりで焼き焦がそうとする。
しかし、もとより空を飛べるシキには脅威にならず、ひらりとかわして斬撃の雨を降らせ、バラバラにする。
それ自体は脅威ではなく、武装色が込められていようが痛打にならないプロメテウスは、『ぷはーっ!』とすぐさま再生するが……その間にシキは、海面近くまで急降下し、水に触れた。
「お呼びじゃねえんだよ面白生物。すっこんでろ」
次の瞬間、大量の海水がシキの能力で巻き上がり……獅子の顔に姿を変え、プロメテウスに襲い掛かる。
「獅子脅し・
「ギャアァア~~~!?」
食らいついてきた水の獅子に、プロメテウスはそのまま体を食いちぎられたようなダメージに襲われた。体が炎でであるプロメテウスには、文字通り身を削る、ないし『消される』結果になる。
繰り返し襲ってくるその牙に押されて、たまらず後退し、体を縮めて森に逃げ込んだ。
水の獅子もさすがにその大きさと見通しの悪さから、森の中まで追うことはできず。森の木々にぶつかって爆散するように広範囲に降り注いだ。その際にも悲鳴が聞こえてきたが、それでプロメテウスが消え切ってしまったかどうかは不明である。
「……しかし、もう一匹の雷雲の方はどこへ行った? 見当たらねえな……一応備えはしてあったんだが……」
「ウエディング……ケ~~~キ~~~!!」
「……まあ、居ないなら居ないで構わねえか。アレ1人だけで十分厄介だ」
シキを放ってまた船……サニー号に突っ込もうとするビッグマムだが、シキは地面に手を触れると、そこにある土を根こそぎ奪って巨大な獅子を作る。土が奪われた後の地面には、クレーターを思わせる大きな穴が口を開けた。
そのせいで、足元の地面が奪われる形で消失したビッグ・マムは、すっ転んでその穴に落下する。
そして、持ち上がった地面……いや、海が近いからか、土というよりも砂に近いそれらを使って作った無数の獅子を、ビッグ・マムが落ちた穴の中に殺到させる。
「“獅子脅し・
「ケ~~~キ~~~!!」
そしてその時、ようやく……
「準備OK! 行くわよ皆! しっかり捕まって!」
「よォし! 野郎ども、出航だァ!!」
「“クー・ド”……“バースト”ォ~~~!!」
コーラ3樽分のエネルギー(わかりにくい)を一気に使い、サニー号が空へとびあがる。
前方から回り込んで来ていた、何十隻ものタルト戦艦を眼下にあざ笑うように、空の彼方へ飛んで消えていった。
☆☆☆
サニー号が空の彼方に消えた後……標的をみすみす取り逃がしてしまったカタクリ達は、しかしそれを悔しがっている時間もないことを悟っていた。
「カタクリ兄貴、どういう状況だ!? アマンドからは『麦わら』達が逃げたと聞いてるが、他にも色々……パルフェが裏切ったとか、『金獅子』とママが戦ったとか、わけがわからねえ情報ばかりはいってきて何が何だか……」
「全部本当だ! それよりもモンドール、大至急ぺロス兄とパルフェ以外の全幹部を呼び戻して軍隊の再編成を行うと通達しろ! 麦わらは逃げたが追わなくていい!」
「はぁ!? おいそりゃどういう……」
「説明している時間が惜しい! それと……“海賊文豪”はどこだ!?」
「どこってそこに……あ? いねェな……」
「モルガンズや他のVIP達も何人かいなくなってやがる……どういうことだ?」
(……やはり計画のうちか! モルガンズや他の連中がグルだったかはわからんし、ママが『食い煩い』になったことは偶然だろうが、それでも……!)
この数分で見聞きした事柄を手掛かりに、次々とカタクリの頭の中で推測が組み上がっていき……しかしそれに伴って、『危機感』もまた急激に膨れ上がっていく。
数分前、サニー号が『クー・ド・バースト』で空の彼方に逃亡した後のこと。
戦っていたローやパルフェもいつの間にかいなくなり、さらには『金獅子』も、こちらをあざ笑うかのように空を飛んで姿を消した。
あとに残されたビッグ・マムは『麦わら』達を追おうとしたが、どういうわけかゼウスもプロメテウスもその場にいない。
プロメテウスは先ほど、シキとの戦いで痛打を与えられていたためだとしても、ゼウスがいないのはなぜだろうか。考えたが答えは出ない。
ビッグ・マムを放っておくわけにもいかないため、キャンディで足場を作る役目も兼ねてペロスペローが、いくらかのタルト戦艦と共についていくこととし、カタクリ達は首都に戻ったのだ。
これから起こるであろう戦い……否、『戦争』に備えるために。
カタクリは頭を切り替え、先ほど言ったのと同じことを改めて声に出して響かせる。
「総員聞け! 理由はこれから説明するが、現時刻をもって『麦わらの一味』及び『ファイアタンク海賊団』への追撃任務を一時凍結する! その後、幹部の配置を含めて軍隊を再編成! これより我々は……『金獅子海賊団』との戦争に突入する!!」
「「「ええぇぇぇえええ~~~~~!?」」」
☆☆☆
一方その頃、こちらは……サウザンドサニー号の甲板。
「助かったのはよかったけど……コレ一体どういう状況!?」
乗り込んで逃走する予定だった人数よりも、だいぶ乗っている数が増えている光景を見て、ナミは思わずといった様子で叫んでいた。
甲板にいるのは、ナミ自身に加え、ルフィ、チョッパー、ブルック、キャロット、ペドロ……それにジンベエ。ここまではいい。
それに加えて、『ゾウ』で別れたばかりのローや、敵だったはずのパルフェ。そして……会ったことのない、知らない女が1人。
彼ら彼女らの加勢で助かりはしたものの、一息つける状況になって途端に違和感に耐え切れなくなったらしい。
「それに、もう1人……なんか空飛んでるおじいさんもいたわよね!? 見間違いじゃなければ、あれって……新聞で見た……」
「ああ。『金獅子のシキ』その人……俺のところの『大親分』で、お嬢の父親だ」
「あれ、スゥの父ちゃんなのか!? 全然似てねえな……けど、すげー強かったな。ビッグ・マムとやり合ってたぞ」
「元は今の『四皇』と並び称される大海賊だったと聞いてはいますが……いやはや、とんでもない強さでしたね……私、見ているだけで肝が冷える思いでした。肝、ないんですけど。ヨホホ」
実際に拳を交えたからこそその強さを知っている、四皇『ビッグ・マム』。
それと真っ向から戦っていたということがどれほどすさまじいことなのか、ルフィはもちろん、見ていただけのナミ達にもよくわかっていた。
あの絶望的な状況から逃げ出せたのは、『金獅子のシキ』を含めた、彼らの加勢のおかげであることは間違いない。
それには感謝しつつも、ナミは『まだ聞かなきゃいけないことがある』と言いたげに、平然とベンチに座っているパルフェに向き直り、
「あ、先回りして言わせていただきますけど、私があなた達を助けたのは、ママ達を裏切って『金獅子』についたからですわよ? 理由はノーコメントですけれど」
「裏切ったの!? 『ビッグ・マム』のこと!?」
「大幹部の裏切りなど、大問題どころではないだろうな……」
しれっと告げられたその一言に、キャロットもペドロも唖然としつつそうこぼす。
知りたかったことを聞けたのはいいが、それはそれとして、ナミやルフィ達は微妙な表情である。彼女には『魚人島』に加え、ここ『ホールケーキアイランド』でも痛い目にあわされているのだから、ある意味当然だが。
それに加えて、敵とはいえ『仲間を裏切った』という部分に少々気持ち悪さを覚えている者も何人かいるようだった。
「色々と言いたいことはおありでしょうが、
「味方に……って、どういうこと? この先って?」
「これからあたし達と一緒に、『ビッグ・マム海賊団』と戦うつもりはあるのか、って意味さ」
ナミの問いに答えたのは、最後に残った、彼女達が名前を知らない少女だった。
「何だよ、お前ら私のこと知らねーの? 一応、『麦わら』やローと同じ『最悪の世代』って呼ばれてんのに……」
「言っただろ、過度な期待はしないでおけと。さっさと自己紹介しろ」
「ちぇ……あたしはボニー。海賊で……一応、スゥの仲間だよ」
「スゥの……ってことは、おめーも『金ぴか』なんか?」
「『金獅子』な。一応、ひな壇のメンバーの1人だ。非公開だけどな」
微妙に緊張感に欠けるやり取りの中、舵輪を操りながらジンベエが今度は尋ねる。
「傘下であるお前さん達に加えて、『金獅子』本人がここに来たということは……これから始まるのは、『戦争』か?」
「あら、さすがに察しがいいですわねジンベエ。その通りですわ」
「「「戦争!?」」」
ルフィ達が驚いて聞き返す前で、パルフェとローが簡単に、かみ砕いて説明を始める。
「詳細は省きますけれど、元をたどると、私達『ビッグ・マム海賊団』の方から『金獅子海賊団』にちょっかいをかけてましてね? それを理由に『やってやんよコラァ!』ってなって開戦に至ったわけですわ」
「端折りすぎじゃない!? 全然中身がわかんないんだけど!」
「いや、実際そこまで話すことが多くないだけなんだ。まあ、売られた喧嘩を買うことになった……くらいに理解できてればそれでいい。この戦争は、麦わら屋……というか、黒足屋の一件の有無に関係なく、近々やる予定してたことなんだが、例によってお前らがまた変な騒ぎを起こしてくれてたんで、便乗させてもらうことにした」
結果としてだいぶこちらに有利な形で始められそうだ、と軽く笑うロー。
真正面からの戦争となれば、双方極めて大きな被害を覚悟しなければならないだろう。『ビッグ・マム海賊団』も、首魁であるビッグ・マムの指揮の元、一丸となって襲ってくるに違いない。
しかし今、『お茶会』及び『結婚式』で起こった騒動が原因で、ビッグ・マム海賊団は混乱状態。普段であれば完璧と言っていい防備が、いくつも不調を起こしている状態。
加えて、ビッグ・マム本人は『食い煩い』の発作により正気ではなく、海賊団を率いて戦うどころか、まともに意思疎通もできず、『ウエディングケーキ』を求めて暴走中。
最悪、味方をも巻き込んで被害を出しかねない、災害と化している。
この状況を作り出せたのは、間違いなくルフィ達のおかげである。
もちろん、彼らが狙って作り出したものは、そのうちのごくごく一部であり、『食い煩い』を含めて偶然に引き起こされたものも数多いだろう。
それは承知しつつも、感謝のしるしと……もう1つ、『提案』を行うために、ルフィ達をこうして助けた、ということらしい。
その『提案』とは……
「まあ、予想はついてるだろうが……手を組まないか、ってことだな」
「手を、って、まさか……!」
「今言った通り、俺達……『金獅子海賊団』及びその傘下の海賊団は、『ビッグ・マム海賊団』との全面戦争を開始する。麦わら屋、お前も一緒にどうだ? 『百獣』より順番が先になっちまうが……ここで協力して、『四皇』を引きずり降ろさねえか?」
「よし、やろう!」
「「「早っ!!」」」
即答だった。
一度経験済みのローや、ルフィの性格をよくわかっているナミあたりはそれほど驚かなかったものの、パルフェやボニーといったルフィ耐性がまだない、あるいは高くない面々は、『マジかこいつ』とでも言いたげな目になっていた。
『提案』が通ったことはまあ喜ばしいが、それはそれとして、何も考えずに返事をしたのではないかとちょっと不安、というような。
「まあ……こうなるとは思ってたわ。ルフィだもんね」
「ビッグ・マムから逃げ出すときも、むしろ逃げる方が不本意そうにしてましたからね……」
「いいのかナミ、こんな提案飲んじゃって? せっかく逃げられたのに、戦うのかあいつらと!?」
「言い出したら聞かないわよルフィは。どのみちサンジ君を、ケーキができた後に回収しなきゃいけないからね……それに、別に私達が先陣切って戦うようなことにはならないわよ。ね、そうでしょ……トラ男君?」
ナミがそう聞くと、ローはため息をつきつつこくりとうなずいて、
「理解してくれてるやつがいて助かる。まあその通りだ、全面戦争とは言うが、何も考えずに兵と兵をぶつけ合わせて削り合うだけが戦じゃないからな。色々と考えというか作戦があるから、それにそって動くことになる」
「え、何だよ……ビッグ・マムと戦わねえのか?」
「戦うつもりでいたのか、お前……」
「お腹いっぱいで特段焦ってない状態でも、素でこんな感じなんですわねあなた……」
「そういう奴だと事前に言ったろ。まあ、こちらの作戦なんかはきちんとこれから説明するから、よく聞いておけよ。……しかしその前に、黒足屋がいないのはなぜだ? お嬢から、奪還して一緒に逃走していったと聞いていたんだが……そういや、ケーキがどうとか言ってたな?」
「そうね、それについてもこっちから説明しておかなくちゃ」
「その話は私とローで聞きましょう。ボニーは悪いけれど、スゥお義母様に電伝虫で『同盟成立』の報告をお願いできますか? もうそろそろ、大親分共々、『ストロングライオネル号』に帰還した頃でしょうし」
「おう、わかった!」
そうして、共闘を決めたルフィ達とロー達は、これから始まる……かつての『頂上戦争』をも超えるかもしれない規模の戦争を前に、事前に入念に、やるべきことを確認していくのだった。
絶望的な逃走劇になるはずだったこの先1日……それが『戦争』に変わり、あくる朝、どんな運命が彼ら、彼女らを待ち受けているのか……まだ、誰も知らない。
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