「各島タルトに通達! 警戒を密にし、異変があれば即座に、『ナワバリウミウシ』の反応を待たずに本島に報告するよう伝えろ! 『金獅子』が直々に動いた以上、いつ奴の『艦隊』が押し寄せて来ても不思議じゃねえぞ!」
「『麦わら』『ファイアタンク』の追撃のための軍は一旦解体! 再編成の上、幹部を配備して防衛ラインの構築を行う!」
「予備待機している兵士及びホーミーズの従兵も全員動員だ! どんな規模の戦いになるかわからない以上、兵員はいくらいても足りんと思え!」
モンドール、ダイフク、スムージー……普段であればどっしり構えて、哀れな反逆者を大軍ですりつぶすのを楽しむのであろう面々は、真剣な表情で各々仕事にあたっていた。
これから始まるのは……当初予定していた、弱小海賊団2つの粛清ではなく、『準四皇級』とまで言われて久しい『金獅子海賊団』との戦争。さすがにそれを前にして……勝てないとは微塵も思っていないとはいえ、全く何も考えず楽観的でいられるとは思ってはいなかった。
兄弟姉妹の中には、それでも『我々『ビッグ・マム海賊団』にかなうものか』と余裕そうにしている者も多いが、立場が上になり、全体を冷静に見ることができる者ほど、真剣に対処にあたっているのがわかる。
「『麦わら』とベッジは? 場所の把握くらいはできてるか?」
「それが、ナワバリウミウシからの位置情報が入ってこず……ベッジの方は見失ってしまった様子でして。『麦わら』の方は、一時的に距離を開けられはしましたが、ペロスペロー様が同道の上で、ママご自身が追われておりますのでわかっていますが……」
「何……?」
それを聞いて、嫌な予感がモンドール達の頭をよぎる。
(ナワバリの中は、石を投げれば『ナワバリウミウシ』にあたるぐらいの警戒網だぞ? それで見失うなんてことがあるのか? 妙だな……)
「モンドール兄ちゃん! さっき帰ってきたペコムズが言ってた、『タイヨウの海賊団』が離脱して逃げた件はどうする!? そっちもどこへ行ったかわかってねえが……」
「後回しだババロア! 元締めのジンベエは『麦わら』と一緒にいるし、海賊団の方はママの怒りの飛び火を恐れてもうナワバリから逃げたか……? プラリネからも何も連絡もないのが気になるが……最悪の場合……いや、それも含めて後回しだな」
「モンドール兄さん! ヌストルテ兄さんからの通信よ!」
「! こっちに繋げガレット! ヌストルテ兄貴達はジェルマの討伐を担当してたな……」
『(ガチャ)こちらヌストルテだ。ジェルマの方は、1万の兵で完膚なきまでに叩き潰した』
「よぉし、さすがだ兄貴! しかし無茶を……クローンの製造システムまで壊しちゃいねえだろうな?」
『もちろん! それが狙いであるからして! しかし敵の抵抗も激しかったゆえ、それ以外の部分については損傷激しく、対応には時間を要する。移動など諸々人手を割きたいが……』
「ワハハハ……ジェルマをぶっ潰せたのなら問題ねえ! 俺達に目をつけられたのが運の尽きよ……だが回収やら何やらは後回しだ、それどころじゃねえからな! 『金獅子』との戦争に巻き込まれねえようにだけ注意を回しておいてくれ」
『! 承知した……『麦わら』と『ベッジ』はどうなった?』
「そっちは実は逃走を許しちまってな。まあいずれ何とかするが……忌々しいが、ひとまずは放置でいい。一応『麦わら』はママが追ってるから時間の問題だろうしな」
『承知した! ではご免!(ガチャッ)』
「これでジェルマの方はよし……と。後は……プリンが作ってる『ウエディングケーキ』の方はどうなってる?」
「厨房内に閉じこもっての作業中ゆえ、細かい進捗まではわかりませんが、順調とのご報告のみいただいております。『チョコレートシフォンケーキ』を作成する都合上、裏切者ベッジの妻であるシフォン様を動員しておりますが、監視体制は万全ゆえそれも問題ないと。万が一を考え、警備等の対応のため、オーブン様達が先ほど向かわれました!」
「進捗に問題がなきゃ構わねえが、なるべく急げと伝えろ! こうなった以上、一刻も早くママには正気に戻ってもらわなきゃならねえからな! 必要なものがあれば即時に対応、プリンの邪魔をする者は誰であれ厳罰に処すと周知徹底しろ!」
「はっ!」
次々に飛び込んでくる報告に対応し、指示を出していくモンドール達司令塔組。
吉報、凶報入り混じる中……次に飛び込んできたのは、特大の……凶報だった。
「も、モンドール様!! 第17タルトより、金獅子海賊団の艦隊出現の報告が!」
「! 来やがったかいよいよ……待て? 第17タルトだと? おいそりゃナワバリ外縁部のタルトじゃねえだろ!? なぜ先に外縁部の……その近くだと、第23タルトからの連絡がない!?」
「第23タルトは壊滅したとの報告が同時に入っています! 敵艦隊の奇襲攻撃に加え、妨害念波によって電伝虫で連絡を取ることもできなかったと……また、ここでも『ナワバリウミウシ』の警戒網に反応がなかったとのことで……!」
「くそ……どうなってやがる! 敵艦隊に対しては直ちに応戦する! 戦闘の指揮はスムージーの姉貴と……艦隊を動かしてるカスタード姉貴達に連絡を入れて指示を仰げ! それと今すぐ海底を調査しろ! さっきからナワバリウミウシが何一つ仕事をしてねえぞ、明らかにおかしい!」
「はっ、承知しました!! それともう1つ……報告の中に、数は少ないですが、敵艦隊は航空戦力を有していると! 浮遊しつつ大砲を打って一方的に攻撃してくる船が数隻あったようです!」
「ああ……そりゃあるよな『金獅子』なら! 『フワフワの実』の能力か……数が限られてるのは幸いだが、こちらからはほぼ手が出せねえ……くそ、厄介な……!」
敵が空を飛んでいるとなると、こちらからそれに対応できる人材ないし戦力はごく限られる。
能力なり『月歩』なりで、飛行能力を持つ者……その筆頭とも呼べる者がパルフェだったが、知っての通り彼女はもういない。
モンドールは頭を抱えつつも、爆撃を行ってくるらしい『飛ぶ船』に対しては、防衛に徹しつつ指揮官……カスタードやシナモン、ダイフクなどの指示を仰ぐよう伝える。
(死にかけだったはずのシキもピンピンしてやがるし……何から何までわけのわからねえことばかりじゃねえか! どんな悪夢だこりゃあ!?)
☆☆☆
「さて……同盟ないし連合軍も成立したところで、この先どう動くかについて話しておく」
場面は移ってサニー号の甲板。
対『ビッグ・マム海賊団』の同盟を結び、この戦争をともに戦うことを決めたルフィ達は、ローから今後の具体的な立ち回りについて説明を聞いていた。
「単刀直入に言う。麦わら屋達に担当してもらうのは……『囮』だ」
「「「またかよ!?」」」
つい数十分前も、そんな役割で『お茶会』で大立ち回りを演じたのを思い出し、思わずといった様子でルフィ達の声が揃う。
そのことまでは知らないローとボニーは、内心『また?』と不思議に思っていたが、時間もないのでスルーして説明を続けていく。
「お前らも知っての通り、今現在ビッグ・マムは、『食い煩い』とやらの発作で、半ば理性を失っている状態にある。パルフェから聞いた話によれば、アレを治すには、これと決めた食べたいものを口にする以外にないらしい。しかし……」
「今回のお題は『ウエディングケーキ』。これもご存じの通り、ケーキはあなた達がぶっ壊してしまいましたから、ママを正気に戻すケーキはどこにもありませんわ……今はね」
ケーキもないのにビッグ・マムがルフィ達を追ってきているのは、ペロスペローが『麦わら達が予備のケーキを盗んで逃げた』とビッグ・マムに吹き込んだから。
もちろん口から出まかせだが、ビッグ・マムはそうと信じてこちらを追いかけてきている。
そしてその間に、プリンとシフォン……そして、ひそかにサンジも協力して、ビッグ・マムを止めるためのウエディングケーキを作るべく、今まさにカカオ島で奮闘しているはずである。
「そのケーキが完成するまでの間は、少なくともママは止まりません。誰のどんな言葉にも耳を貸すことなく、あなた方を、そしてこの船を追い続けるはずです。ですが、それを利用します」
「利用?」
「ビッグ・マム海賊団のボスであり、最大戦力でもあるビッグ・マム本人が正気を失って動けず、指示を出すこともできない……これは、戦争を進める上で、俺達にとって大きく有利に働く点だ。だからこのまま、なるべく長いこと『食い煩い』のマムを引っ張り回して釘付けにする」
「その間に大親分やスゥ達が、艦隊を率いて『万国』を制圧しにかかる……っていう手はずだそうだ。ビッグ・マムの今の状態がわかった後に即興で考えられた作戦だから、細かいところはその場その場で判断して動くらしいけどな」
「じゃあ、私達の役目は、ビッグ・マムを海賊団と合流も協力もさせないように引っ張り回し続ける……そういう意味での囮、ってことね?」
「めちゃくちゃ危険だぞ、それ……」
「ですが、お茶会の時の……逃げ場のない空間で全方位が敵、という状況に比べればマシではありますね。簡単ではないとはいえ、捕まらなければいいわけですから」
「なんだよ、戦争なのに、ビッグ・マムと戦うわけじゃねえのか?」
「お前ならそう言いそうだとは思っていたが……それはまだまだ先だ。ビッグ・マムが確実に動けない間に、まずはその手足になる海賊団を潰して、抵抗する力を奪う。この戦争は、ただビッグ・マムを討ち取ればいいだけの暗殺じゃない……海賊団そのものの壊滅が目的だからな」
「お礼参りにやってくる余力を残さず、完膚なきまでに叩き潰さないと安心できませんからね。仮にママだけがいなくなったとして……まあ、ビッグ・マム海賊団自体は終わりでしょうが、その後残党が集まって色々やるであろうことは想像に難くありません。復讐を含め、将来の禍根を可能な限り全て断ち切って終わらせるのがベストです」
「裏切ったとはいえ、古巣を相手に容赦ない物言いじゃのう、パルフェ」
舵を取りながら、ジンベエが皮肉交じりにそう言う。
しかしパルフェは特に気にした様子もなく、笑顔のままであっさりと返す。
「諸々承知、ないし覚悟の上で裏切って出てきましたからね。とはいえ、『裏切者』自体に嫌悪感を覚えるというのならそれも仕方ないとは思っております。多少なり義の道に外れた行いであることも事実……言い訳も正当化もしませんわ」
「いや、そういうつもりはない。わしも似たようなものじゃからな、どう理由をつけて取り繕ったところで、仁義を通せず謀反に走ったのは1つの事実じゃ」
どちらも己が譲れない目的のため、今いる『ビッグ・マム海賊団』を離れる決断をした2人。
できる限り義理を通そうとしたジンベエと、話してわかる相手ではないと最初から割り切って行動を起こしたパルフェという違いはあるが、通じるものもやはりあるようだった。
「まとめると、俺達の役目はこのまま逃げ続けてビッグ・マム本人を釘付けにすることだ。その間にお嬢や大親分の方で『戦争』は進めるそうだ」
「その言い方だと……ロー、あなたも引き続きこの船に乗っててくれるの?」
「本当か!? それなら心強いぞ!」
「相手が相手だからな、追撃も苛烈なものになると予想できる。手勢は充実させておくに限るだろう。もちろん、戦いそのものになら……」
「ルフィー! ナミー! 見えたよ、ビッグ・マム! 追ってきてる!」
と、見張り台にいるキャロットが声を張る。
その知らせに、さっそく来たか、と一同はキャロットが指し示す方……後方を一斉に見る。
そこには……海の上を歩いてこちらを追いかけてくるビッグ・マムの姿があった。
正確には、巨大なキャンディの上を歩いているため、水面を歩いているわけではないようだが……その肩の上には、そのキャンディを操っているペロスペローの姿もあった。
さらに、十数隻ほどではあるが、タルト軍艦を引き連れている。
「まだ距離はあるが……相手が相手だ、それで安心する気にはなれんな」
「そうじゃな。プロメテウスとゼウスがおらんのは幸いじゃ」
「油断はせずに警戒を続けろ。随伴のタルト船やペロスペローがいる以上、何かしらの手を打ってくる可能性もある。まずは……そのケーキができるまで、だ」
☆☆☆
そして……同じ頃。
『
黄金の獅子の頭を備えた、巨大な『島船』こと、金獅子海賊団の旗艦『ストロングライオネル号』。
その艦橋に……今のこの海賊団をささえるトップ2人が揃っていた。
「ただいまーパパ」
「おうお帰り……っと、お友達も一緒かい?」
「クワハハハ! こいつはとんだビッグ・ニュース! まさかかの『金獅子』の船に乗れる機会が来るとは思わなかった。こんな貴重な取材の機会をくれたこと、感謝するぜスゥ! ああ、ご挨拶が遅れましてどうも。初めまして、これお近づきのしるしに」
「あーこいつはどーもご丁寧に」
小芝居的というか寸劇というか、なんとも緊張感のないやり取り。
スゥが会場から離脱させて連れて来た『友達』ことモルガンズは、いつの間に用意してあったのか、紙袋に入った高級そうなお菓子をささっとシキに手渡す。
シキもシキで、普通に娘の友達に会った父ちゃんよろしく『どもども』と受け取っていた。
「スゥがいつも世話になってるな、まあ楽にして見物してけや。『ビッグ・マム海賊団』の最期を、特等席で拝ませてやるからよ。ああでも、わかってるとは思うが、あんまり好き勝手に動くのはなしだぜ? 一応海賊船、機密もそこそこ乗ってるからな」
「クワハハハ、こいつはおっかない。色々取材したいところではあるが、まあそれはまたにさせてもらうよ大親分。今日はどの道、この『戦争』関連の取材やら何やらで手一杯になる気がしているからな!」
伝説の大海賊に数えられる1人『金獅子』を前にしてなおいつも通りなモルガンズ。
その様子を横で見ていて、スゥは感心しつつ呆れていた。
「あ、そうだパパ、さっきそこで聞いたよ? さっそく暴れてきたんだって? しかも『ビッグ・マム』本人相手に。どうだった調子は?」
「おう、ばっちりだ。いやーでも、つい昔を思い出して、考えなしにはしゃいじまったわ。こりゃ明日明後日の筋肉痛が怖えーなー」
そう、中年のお父さんのようなことを言いつつも、ジハハハハ、と笑うシキからは、全くそんな弱さは感じられない。むしろ溢れんばかりの力強さ、若々しさすら感じる気がした。
その様子を見ていたモルガンズは、『随分聞いていた話と違うな』と内心不思議がっていた。
裏社会でも相当な情報通として知られているモルガンズは、シキが今、老衰あるいは重篤な病で長くない状態、大きく衰えた状態だと聞いていた。
直接スパイを潜り込ませていたビッグ・マムほどではないものの、それなりに正確な情報ではあったし、その情報網に自信もあったモルガンズは、目の前の光景を不思議に思っていた。もちろん、シキに病に臥せっていてほしかったというわけではないが。
☆☆☆
モルガンズのあの顔……多分だけど、パパが元気そうにしてるのが不思議なんだろうな。
こいつも情報通だし、パパの体調がかなり悪いとか、もう長くないとか、そういう話を聞いてたんだろう。
そういう噂が、表で大っぴらにではないものの、ひそかに流れてるらしいから。
うちにスパイを送り込んでいたビッグ・マム海賊団も、そういう風に聞いていて……しかし、いきなり元気なパパが飛んで行って、ビッグ・マムと戦い始めたのを見て、さぞ驚いただろう。
(まんまと引っかかってくれたようで何よりだよ。この1年くらい、パパが頑張って偽装工作した甲斐があったってもんだ)
まずもって、うちにスパイを送り込んでくるのは無意味でしかないわけで。
どれだけうまく演技して本性を隠そうが、直接記憶を読める私の『
ヴェルゴと同じで、中枢に潜り込むまでは、ただひたすらにまじめで忠実で有能な部下を演じて……って感じでやってたみたいだけど、うちの海賊団、中枢に近いポジションに出世する際は、全員一度は私が読んで、問題ないか確認するからさ。
本人にスパイの自覚がある以上は、どうがんばっても無理なんだわ。
そんなわけでビッグ・マムのスパイもさくっと見つけたわけだが、ただ排除するんじゃなく、これを上手く利用しようと考えたんだよね。パパが。
やり方はこうだ。
まず、スパイについては、そのまま泳がせ、こいつの目的である『パパに毒を盛って時間をかけて弱らせて殺す』っていう目的については、そのまま実行させる。
もちろん、毒は事前に取り除いてる、というかすり替えてあるので、パパの口には入ってない。スパイの部屋に隠されている毒薬の瓶の中身は、ただの醤油である。
なので、パパは普通に元気はつらつなわけだが、ここであえてパパが弱ってきているように見せることで、『上手くいっている。毒でだんだん弱ってきている』という風にスパイを騙す。
それにより、その向こうにいるビッグ・マム達も騙す。パパがだんだん弱っているように思わせて、油断させる。
しかし、単に演技とか化粧で『病人』を演出するだけだと、勘づかれてしまうかもしれない。
なので、スパイたちを確実にだますため……パパは、一時的にだけど、本当に『弱って』みせることにした。
さて皆さん……『戦闘保拳』ってご存じ、あるいは覚えてるだろうか?
とあるキャラが使った技で、『気功術』とかいうものに分類される戦闘技能らしいんだが……簡単に言うと、若い時や余裕のある時に、筋力や体力と言った『戦闘力』を積み立てておくことで、病気の時や年を取った後などにそれを引き出して体を元気にできる、というもの。
ワンピース原作では、格闘家の老人キャラがこれを使って『技は熟練、肉体は全盛期』という状態を作り出していた。……その後瞬殺されてたけど。
この技を――それそのものじゃないけど、似たような系統の技を――パパも使っていたのだ。
本来は普通に元気溌剌なパパだが、その時点での体力のいくらかを『積み立て』することで、手元に残った体力が少なくなり、結果的に『弱る』。
その状態はあたかも、病気にかかったか、あるいは毒で体が弱ってしまったかのように見えていた。心肺機能にも影響出たみたいで、頻繁にゴホゴホせき込んでたしね。
それにまんまと騙されたスパイは、『シキは毒で弱っている』と報告を入れていたわけだ。
実際は、一時的に『体力』が下がってたせいで老人ムーブになってただけなのにね。
確かにというか、本当にその時は『弱って』はいたわけだけど、それでもDr.インディゴと『いつもすまないねえ』『それは言わない約束ですよ』なんて小芝居をやるくらいの余裕は全然残ってたんだからこの人。
というか、『積み立て』してる分、なんなら後から普段以上にめいっぱい元気で戦えるまであるんだから。
実際さっきビッグ・マムと戦った時、その積み立て分も使って大はしゃぎしたっぽいし。
あと、何度か素で紛らわしいそぶりというかリアクションとか見せてたこともあったな。
例えば……
例1)アリスに『早く治してね』と言われた時の独り言(第259話)
「早く治してね、か……治る病気なら、早かったんだろうけどな」
→ 自分で体力削った結果弱ってるわけだから、治るだのなんだのって話じゃない
例2)メルヴィユでベッドの上で、Dr.インディゴと薬の強度云々で話していた場面(第265話)
「とりあえず、薬の強度を1段階上げましょう。症状は緩和するでしょうが、その分負担も大きくなりますが……」
「構わねえよ、身から出た錆だ……(調子に乗って『積み立て』しすぎた)」
「あ、お嬢から罰として薬は漢方薬系のめっちゃ苦い奴使うように言われてますんで」
「やーだー! シロップみたいな甘い奴がいいー!」
「子供かおめェは!(スパァン)」
※皆も保険料は普通の生活に支障がない範囲で設定しよう!
例3)せき込んで胸元を赤く染めていたシキ(第281話)
「お、親分……大丈夫ですか!? そんなに一気にかき込むからむせるんですよ……」
「ウゥ……だ、大丈夫だインディゴ、このくらいでガタガタ騒ぐんじゃねえ……(ミートソーススパゲッティ食べながら)……」
赤く染まった胸元を見て、
「はっ……何じゃこりゃあああ!? 血!?」
「新鮮なトマトの赤だよっ!(スパァン!)」
「「ハイッ!!」」
例4)同じく281話。
「さっさと帰ってこい、スゥ……俺は、お前に……話さなきゃ、いけねえことが……ゴホゴホッ!」
コレどういう意味だったかというと、こんなやり取りが別な時にあってさ。
「おいスゥ! お前俺が冷蔵庫に入れといたどら焼き食っただろ!?」
「いや知らないよ……ちゃんと名前書いといたの? でないとフリーのお菓子は9割方レオナかボニーに食われるからね……って言っておいたじゃん。……私も結構やられてるし」
「くそ、あのバカ孫と悪ガキの仕業か……見てろこんにゃろ、今度会った時、黒蜜飴だって言って騙してサルミアッキ食わせてやる」
「しょーもない仕返ししないのコラ、大海賊」
例5)「ありがとうよ……」のシーン(第284話)
「…………スゥ」
「……うん……」
「……ありがとうよ……これで俺の勝ちだァ―――っはっはっは! オラ国士無双ォ!」
「あぁーやっぱりぃ―――!! 嫌な予感はしたんだよなあもー……やっぱその牌切らなきゃよかった……」
「ヤハハハハ……これでお嬢が最下位決定か、見事に読みが外れたな。修行が足りんぞ」
「お母さんって頭いいのにこういうゲーム系の読み合い割と弱いよねー」
「ほっといてよ……あーもうつまんない、疲れたし私抜ける」
「はいはいお疲れー。じゃあ代わりに……ねースズ、レオナ、暇でしょ? どっちか入らない?」
「やだよ。あたしじゃ絶対勝てねーもん」
「同じくじゃ。遊びでも負け戦とわかってるところに飛び込みたくはないな」
「やる前からそんなことを言うものではないぞ、スズお嬢にレオナお嬢。普通のゲームなのだから軽い気持ちで参加すればよいだろう」
「未来視レベルの『見聞色』と、それ対策の『見聞殺し』が飛び交う戦場を、軽い気持ちで普通にやるゲームとは言わんと思うんじゃが」
「せめて覇気使うの禁止してくれたら考えるよ。てか何だよ覇気使用前提のボードゲームって? そもそもおかしいだろ……」
……とまあ、こんな感じで普通に元気というか、いたっていつも通りだったよこの人。
むしろ、今日のこの『戦争』を乗り越えて、その後の時代を生きて好き放題やる気満々である。あと30年くらいは死にそうにないって。結構なことだけども。
……っと、そうだよ今から戦争だった。いやあ、私らの日常って妙に緊張感そぎ落としてくるようなイベントというか思い出多いんだもんなあ……うっかり回想シーンも挟めないや。
さて……それじゃ、さっさと諸々の準備に入らないとね。