大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第289話 決意

 

 

 場所は、ホールケーキアイランド、スイートシティ……ホールケーキ城跡地。

 

 城が倒壊してしまったがゆえに建物はないが、仮にビッグ・マム海賊団の本拠地として、モンドールを中心にタマゴ男爵、ペコムズ、コンポートらが作戦指揮を執っていた。

 

「「「ナワバリウミウシが一匹もいない~~!?」」」

 

 部下から入ってきた衝撃的な報告に、唖然とするモンドール達。

 

 普段、ナワバリの海域全体の監視のために配備されている数万匹の『ナワバリウミウシ』。

 それが、海底に1匹もいなくなっているという報告。

 

 これでは海域内を進む不審船の報告は入ってこず、逃げる船は逃げ放題、やってくる船は入り込み放題になってしまう。

 配置されている数を考えれば、手作業で除去したとは到底考えられず、しかしだからと言って、誰が何をしてこんなことになったのかもわからない。

 

「どうりで『金獅子』の艦隊がいきなり現れて沿岸部を奇襲できるわけだ……警戒網がまるで機能してねェんじゃな……」

 

「この分では、麦わらとベッジの追跡も不可能でムッシュ……」

 

「一応『麦わら』達の位置は、ペロスペロー様から送られてきてるが……放置で問題ねえんだな、モンドール様?」

 

「悔しいが、今は小物1匹にかまってる場合じゃねえ……全てが終わってからゆっくり落とし前はつけてやるが、今相手をすべきは『金獅子』だ。連中の艦隊は今どこまで攻め込まれてる?」

 

「先程第二防衛ライン陥落の知らせが……敵が制圧作業を進めている間に、第三防衛ラインまで後退して防御態勢を立て直すそうです」

 

「もうか……早いな……!」

 

「これでナワバリの島の4分の1が敵の手に落ちたことになるでボン……しかも、艦隊戦はかなり一方的にやられたとの報告がいくつも。射程外から敵の大砲で滅多打ちにされたそうだ」

 

「『金獅子』はかなり性能のいい兵器を使ってるみたいだな……ガオ」

 

「のんきに言ってる場合か! くそ……だが兵器の性能で差がついちまってるのは事実か。物量で多少埋められなくもねえが……」

 

「冷静になって一度、状況を整理し直してみようかねえ」

 

 ビッグ・マム海賊団の目的、ないし勝利条件は、攻め込んできた金獅子海賊団の撃退。

 その上で、首魁である『金獅子』や『海賊文豪』、さらに『麦わら』や『ベッジ』も討伐できればなおよし。海賊団の面子のためにもできればそうしたい。

 

 反対に敗北条件は、ビッグ・マムの死亡。ただしこれはほぼありえないとは思う。

 暴走状態にあるとはいえ、ビッグ・マムを止められる者がこの世にいるとは思えない……が、先頃海岸で互角の戦いを繰り広げていた『金獅子』を思い出すと、絶対ではない。

 

 一応、ペロスペローとタルト艦隊がついて様子を見ているが、あれ以降襲撃はないようだ。

 金獅子もおそらくは、金獅子海賊団側の拠点に戻って指揮を執っているのだろう。

 

 その他の敗北条件として、拠点の壊滅、というのもなくはないが、元々ホールケーキ城が壊滅しているのもあるため、これは結果的に『今更』ではある。

 そこにいる幹部達などの主力メンバーがやられるような事態になればその限りではないが……最悪、拠点を変えてそこで指揮をとれば戦い続けることも、海賊団そのものの運営継続も可能だ。

 

 ただそれでも、被害が大きくなればその分の損失補填にかかる金も労力も大きくなる。

 

 加えて、ナワバリ内に暮らす民の民心が離れてしまう。そのくらい別に気にもかけないが、『安全のために寿命を差し出してまで『四皇』のナワバリにいる』という部分が否定されてしまうと、今後人口減少につながる恐れもある。

 もっとも、ビッグ・マムのモットーは『来る者は拒まず、去る者は殺す』であるため、離れようとした民がこの国から出られるかどうかは微妙なところではあるが。

 

「敵の頭を潰せれば総崩れになるはず……『鏡世界(ミロワールド)』から奇襲をかけ『金獅子』を討ち取るのはどうでしょう?」

 

「いや、ダメだ。どうやらブリュレの『ミラミラの実』の能力が割れてるらしくて……対策されてやがる。『金獅子』の近くや、そもそも連中の船につながるような鏡が1枚もねえってよ」

 

「仮にそれができたとしても、シキ自身の戦闘力はママとやり合ってみせたレベルだし、それ以外にも幹部格が周囲の守りは固めているだろう……生半可な暗殺者を送り込んだところで、返り討ちにされて終わりかとソワール」

 

「次善の策としては……プリンがケーキを完成させた後、それを使ってママを正気に戻し……ママが復活したら一気に押し返してシキを討ち取る、あるいは撃退するってところかねえ? 暴走状態のママで互角だったなら、正気を取り戻して、ゼウスとプロメテウス、それに幹部たちと協力して臨めば、何とかなるかもしれないよ。そのためには……」

 

「ケーキと、それを作るプリンをなんとしても守らねえとな。オーブンの兄貴が行ってるが……追加で何人か幹部を配備して護衛に充てる必要があるな」

 

「それまでは防衛に徹して戦線をなるべく持たせるにとどめるってこと? 艦隊戦で手っ取り早く粉砕しちゃうんじゃだめなの?」

 

「話聞いてたかジョコンド、相手側のが兵器の質が高ェ以上、同数で戦艦をぶつけたらこっちが不利なんだよ。防衛に徹すればやりようはある」

 

「我ら『ビッグ・マム海賊団』が守りに入るか……屈辱的な作戦だが、いた仕方あるまい」

 

「……むしろママが暴走して、ケーキを作ってる最中のプリン達を襲撃しないかしら」

 

「怖ェこと言うんじゃねえよアマンドの姉貴! んなことになったらいよいよ終わりだぞ……」

 

 そうは言ったが、ありえなくもない可能性であるため、同行しているペロスペローに十分注意してもらうこととし……モンドール達はさらに細かい作戦を練っていく。

 

「入ってきた情報は何でもいい、即座に共有して知らせろ! 防衛しつつ、可能であれば敵の中核戦力……幹部クラスを仕留めて攻撃の勢いを削る! 場合によっては『鏡世界(ミロワールド)』を使った奇襲も行う! 『()将星』含め幹部クラス、及び上級以上の戦闘員は、いつでも動けるように準備しておけよ!」

 

「「「はっ!」」」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 一方その頃、こちらは『金獅子海賊団』の旗艦、『ストロングライオネル号』。

 その艦橋で、シキは部下達からの報告を受け取りつつ、映像電伝虫で実際の戦場の様子を見て、機嫌よさそうに笑っていた。

 

 モニターに映った映像の中では、金獅子海賊団の戦艦が、ビッグ・マム海賊団の戦艦、および島に配置された迎撃用の砲台を、一方的に蹂躙している。

 

「ソゥが作った『マスドライバーキャノン』がいい仕事しすぎてんなコレ」

 

「ええ、何せ敵の大砲とは射程距離に3倍以上の開きがありますからね。あの『お披露目』からさらに改良を重ねた結果がこれだそうです」

 

 映像の中でビッグ・マム海賊団が撃ってくる大砲の弾は、こちらまで届くことはなく、途中で力なく海に墜落してしまっていた。

 地上の砲台はもちろん、海に出てよりこちらに近づいているタルト戦艦の大砲すら届かない。

 

 にもかかわらず、こちらの大砲は、その射程距離限界のはるか遠くから撃って……船にも、陸地の砲台にも当然のように届き、命中。爆破炎上させている。

 

 一方的過ぎて最早戦いになっていない、というのが、状況を見たシキの率直な感想だった。蹂躙、あるいはいじめである。

 

 また別なモニターでは、今度は()()()遠距離戦にシフトした後の様子が映っていた。すなわち、敵の大砲の射程距離内に入った上での戦いである。

 上手くこちらの砲撃を潜り抜けて来た幸運な艦が相手の戦い。あるいは、敵船や砲台をあらかた蹂躙し終えたうえで、仕上げのために艦隊が接近した後の戦いがそれぞれ映っている。

 

 こちらもほぼほぼ一方的だった。マスドライバーキャノンほどではないが、接近したらしたで、また別な兵器が猛威を振るっている。

 

 金獅子海賊団の船が大砲を撃つと、なぜかそこから砲弾は飛ばず……しかし次の瞬間、すさまじい威力の爆発が敵タルト艦を粉砕・炎上させて大破させた。

 こちらもソゥの発明品、超圧縮したガスを『空気の砲弾』として飛ばす、通称『ラムネ』による砲撃である。

 

 空気砲の威力だけでも並みの戦艦なら一撃で大破させられるところ、さらにその後ガスの燃焼で爆炎が起こり、さらなる爆風と高熱、そして燃焼による酸欠が敵を襲うという凶悪仕様。

 

 焼け落ちて炎の中で崩れていくタルト艦隊。

 時折、積んでいた自前の砲弾や火薬に誘爆したのか、炎の中でさらに弾けて朽ちていく。

 

 そんな1発だけでも凶悪な砲弾が、雨あられと降り注ぎ、何も残さない勢いであった。可燃ガスのせいで、海の上に火の海が広がっている。

 ガスが燃え切るか、あるいは散ってしまえば消えるとはいえ、控えめに言って地獄絵図である。

 

「戦争序盤から大盤振る舞いですね、砲弾の在庫は大丈夫なんですか?」

 

「むしろさっさと使わねえと倉庫のスペースが空かねえレベルで在庫ありすぎるから大丈夫だ。アレ1本あたりのコストやべーくらい安いからな、調子に乗って作りすぎたわ。あと一応薬品だから使用期限あるし」

 

「たしか、スズお嬢の管理してる農地で全部の材料が揃うんですよね。植物性油脂とか可燃性粉末とか」

 

「むしろその生産のためにスズを説得するまでが大変だったわ。あくまで食うもん作りたいから、兵器の材料作りたくないってむくれられてよ……まあ最終的に、スゥ達の身の安全とか敵の排除につながるからってことで納得してくれたが」

 

 などと話しているうちに、モニターに映っている敵の防衛線が壊滅した。

 艦隊指揮官からは、敵戦力の掃討は後詰めの艦隊に任せ、自分達は進軍する連絡が入る。それに許可を出し、シキは手元に開いておいてある地図に、『陥落完了』を示す×印を描き込んだ。

 

「順調、順調……いやしかし、順調すぎる気もするな。最初、あんなにあっさり奇襲が上手くいったのも逆に不思議だったな……聞いてた話じゃ、『ナワバリウミウシ』とかいう謎生物で警戒網を張ってるって話じゃなかったか?」

 

「そういう話だったんですが……魚人部隊に見に行かせたところ、留守のようです」

 

「海洋生物が留守って何ソレ? いやまあ、助かるけどよ」

 

 パルフェ経由で提供されていた情報で、『ナワバリウミウシ』の警戒網があるため、奇襲が成功するかどうかは五分五分だった。

 一応、妨害念波発生装置などの対策を用意してはいたが……それらまとめて出番がなくなってしまっていた。

 嬉しい誤算なのは間違いないのだが、やはり気にはなる。

 

「しかし今回、何かと『嬉しい誤算』が多いな……リンリンの奴が『食い煩い』になってたのも含めて」

 

「件の『麦わら』が色々と引っ掻き回した影響のようですね。現在もビッグ・マム本人は、戦争そっちのけでなぜか麦わら達を追いかけているようです。こちらとしては好都合ですが」

 

「『同盟』の申し出は受けたんだろ? ならこっちからも戦力を提供して、そのままリンリンを引き付ける囮を任せておけ。その間にこっちも、リンリンの手足を切り落としていくとしよう」

 

 次の防衛ラインに進軍する艦隊の様子をモニターで見つつ、手元の地図と突き合わせて、想定していたよりも早いペースで攻略が進んでいるのを確認し、また機嫌をよくする。

 が……すぐにその表情を、笑みを残しつつもある程度真剣なそれに引き締めた。

 

(が、裏を返せば『嬉しい誤算』がネタ切れになった後は普通の戦争になるってことだ……敵さんもぼちぼち対応し始める頃だろう。気を引き締めていかねえとな)

 

「ちなみに親分、待機させている艦隊や予備戦力、それに残りの航空戦力も一気に投入して一息に敵本拠地まで進軍して壊滅させる……ってのはダメなんですか?」

 

「ああ、それはなしだ。一気に戦力を集中させれば、ある程度のところまでは一気に行けるだろうが、中枢まで駒を進めるにはさすがに時間がかかるし、到達できる戦力も限られる。リンリン不在に関係なく、中枢に近づくほど抵抗も激しくなるだろうからな。それでも最終的には押し切れるだろうが……その押し切るまでの間に、負けを悟った幹部勢が相当数逃げ出す。それは面倒だ」

 

「つまり、極力ここで敵の幹部勢を含めた全てを逃がさず討ち取るために……ただ勝つだけでなく最善の勝ち方をするために、あえて一気に攻めることはしないと」

 

「ああ。そのために、こっちの戦力を投入するのに最善のタイミングを待つ。その時になったら、待機させている大軍はもちろん……『あいつら』の出番も来るだろう。それまでは……敵の反撃に警戒しつつ、弱い者いじめの時間だ」

 

 

 ☆☆☆

 

 

「ウエディングケ~~~キ~~~!!」

 

「それしか言わねえじゃん……」

 

「正気じゃねえって話だからな、気にしてもしかたねえだろ」

 

 一方その頃、サニー号を追いかけるビッグ・マム。

 ペロスペローが用意した、足場として動かしていた『アメウミウシ』をホーミーズに変えてさらに速度を増した上、そのキャンディの体を生かして大波を起こして攻撃する。

 

 飲み込まれれば転覆どころではない、沈没間違いなしの大波が背後から迫るが、

 

「“ROOM”!!」

 

「“愚民滅殺お嬢様砲(グミネードランチャー)”!! 空気砲バージョン!!」

 

 大波の右半分を、ローが能力でバラバラに切り刻み、自重で崩壊させる。

 左半分は、パルフェが縦ロールから発射した、グミの弾丸……ではなく、空気砲が粉砕した。

 

 それでも、大波が崩れたことで、それなりの大きさの波が大量に発生してサニー号を襲うが……ジンベエが海流を読み、舵輪と、マストを片手で、1人で操作し、驚くべき操船技術を発揮。

 普通の船なら……いや、サニー号級の船であっても、波に遊ばれて転覆を免れない荒れ具合の海を、すいすいと進んでいく。

 

「ジンベエ親分すごーい! 1人でサニー号を手足みたいに操ってる!」

 

「こんな“操舵手”見たことない……!」

 

 無邪気に喜ぶキャロットと、あっけにとられるナミ。

 航海士であるナミは、この荒波の中で、転覆させずに船を進める……どころか、波を利用して加速すらするというジンベエの所業が、『神業』と言っていいものだとわかるが故の驚愕だった。

 

「こりゃあええ船じゃ。いい航海士もおる……操舵が良けりゃあ無敵じゃのう!」

 

「じゃあもう無敵だな! ジンベエは俺の仲間だもんな! ししし!」

 

 こちらも無邪気。ルフィは、ビッグ・マムの『お茶会』で堂々と離脱を宣言、そして『麦わらの一味』に加入することを宣言したジンベエを……新しく仲間になった『操舵手』を、誇りに思って笑っていた。

 

 笑いながらも、時折後ろのタルト戦艦から飛んでくる大砲の砲弾を撃ち落とし、あるいは『お礼(ファイア)』で打ち返していく。船を操るのはジンベエとナミの役目、それを守るのは自分達の役目だとばかりに。

 

「ケーキを……よこせぇぇえええ!!」

 

「そんなもん、この船には乗ってねえよ! ケーキが食いたけりゃ、家に帰ってもっかいコックに作ってもらえ!」

 

「その帰る家もないんですけどね、もう。倒れてケーキになっちゃいましたから」

 

「いらねえ茶々入れてんじゃねえよパルフェ! この裏切り者が!」

 

 ビッグ・マムの肩から、ツッコミを兼ねた怒号を飛ばしてくるペロスペロー。

 サニー号の船尾に陣取り、ことごとくこちらの攻撃を粉砕して船を守るパルフェを忌々しそうに睨む。

 

 その隣でビッグ・マムはしかし、パルフェのことは特段気にしておらず、

 

「嘘をつくんじゃねェよ! おれの息子がここにあると言ったんだ! もしなかったらおれは長男の命をこの手で奪わなきゃならねェ!」

 

(お、覚えてた―――!? ごまかせると思ってたのに……どこまで意識があるんだ!?)

 

 その怒号に、肩の上に載ってるペロスペローがむしろ青くなる。

 

 その様子を見ていたパルフェは、『うわー……』とでも言いたげな半目になってぼそっと、

 

「ペロスペロー兄さま、無茶しやがりまして……」

 

「うっせェぞパルフェ!」

 

 半分やけくそで、キャンディで作った巨大な剣を飛ばして降らせてくるが、全てローとルフィに迎撃され、海に落ちる。

 

「ケ~~~キ~~~!!」

 

 そして、また再び起こる大波。

 波の中にキャンディのホーミーズが入り込み、海水を巻き込んで大きく動かして『大波』にし……先ほどよりもさらに大きな波がサニー号を襲う。

 

 それを、また同じように解体しようとロー達が動くが……その直前、

 

 

 

 「“熱息(ボロブレス)”……!」

 

 

 その2人を後ろから追い越すように飛来……というより、発射された、すさまじい勢いの炎が、今まさに襲い掛かろうとしていた波に直撃。

 高熱で水蒸気爆発を起こしつつ……その向こうにいる『本体』のキャンディの怪物を焼く。

 

「ぎゃぁああああ~~~! 熱い~~~!!」

 

「なっ……何だ今のはァ!?」

 

「こりゃあ……“カイドウ”の……!?」

 

 困惑するビッグ・マム達。

 否、困惑は、突如誰かが加勢してくれたルフィ達も同じだった。

 

 振り返ると、そこには……

 

「龍~~~!?」

 

「え!? モモか!?」

 

「違う、モモちゃんが変身した龍よりずっと大きいし……色が違う! 緑色の龍……誰!?」

 

 今まさに、空を飛んで現れた……緑色の東洋の『龍』。

 それを前に、その正体を悟れたのは……ルフィ達ではなく、『金獅子』陣営からの助っ人達の方だった。

 

「緑色の龍……ってことは、“ルゥ”か!」

 

「はい、母上の指示で、助太刀に来ました」

 

 聞こえてきたのは……龍のいかつい外見に似合わない、幼い少女のような声だった。

 そして次の瞬間、巨大な龍の体が一瞬にして縮み……そこには、1人の少女が残っていた。

 そのまま、すたっとサニー号の甲板に着地する。

 

 その見た目は、その場にいる皆がよく知るスゥを幼くしたような感じ。やや無表情というか表情が硬く、そのせいで印象は少し違って見えるが。

 いつも目深にかぶっているフードは外れ、褐色の肌と白い髪がよく見える。

 

 その姿を見て、ペロスペローが動揺して目を見開いた。

 

(あの特徴……まさか、『万国(トットランド)』に居ねェ『ルナーリア族』か!? いや、だが背中の炎と翼がねえな……単に白髪で褐色なだけのガキか……しかし、何だってありゃあ……)

 

「誰だおめェ? スゥにそっくりだな、黒いけど……おめェもスゥの娘なのか?」

 

「はい。一番新入りですが……ルゥと言います。以後お見知りおきを」

 

 そう言ってぺこり。お辞儀。

 

 ルフィは『知らねえ間にまた娘増えたんかー』程度に思っていたが、ナミやチョッパーといった面々は、この、スゥに『似すぎている新しい“娘”』が一体何なのかでまだ困惑しているようだ。

 レオナやアリスと言った、スゥに『似ていない娘』なら何度か見てきたが、同じ義理の娘なのに似ているのはどうしてなのか……隠し子か、それとも親戚か……考えても答えは出ない。

 

「ケ~~~キ~~~!!」

 

 波と、その中のキャンディの怪物ごと崩れ落ち、海に落ちたかと思っていたビッグ・マムだが、寸前でペロスペローがキャンディを新たに出して助けていたらしい。

 先程までと同じように、ケーキ以外目に入らない暴走状態で追いかけてくる。

 

 どうやら、『ルゥ』の素性について聞く機会はまだ来ないようだ。

 

「このまま、ビッグ・マムを引き付ける『囮』の手伝いをしてくれるってことでいいんだな?」

 

「そう言われています。ただ、一部作戦指示に変更がありましたので、それも伝えよと」

 

「変更?」

 

「お義祖父(じい)様からですが……ある程度連れ回した後は、必要に応じて撤いてしまっても構わないそうです。その場合は戦線から離れた位置で、だそうですが」

 

「撤く? ママを引きつけておかなくてもよろしいの?」

 

「何やら考えがあるご様子でした。戦線に合流されないための手段は既に用意したから、暴走状態が継続中であればそれで構わないと」

 

「そりゃそっちの方が楽だし、助かるが……まあ、状況を見てだな」

 

 逃げ続けるか、途中で撤くか。どちらにしろ簡単ではない。

 ひとまずこのまま、油断せず、ケーキを求める怪物の相手をし続けるため、ルゥも加えた面々は再び、追ってくるビッグ・マムに相対する姿勢を取った。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 部屋に入ってすぐ、『お茶会』に着ていったドレスを脱ぎ捨てる。

 

 上の下着をつけないで着るタイプのドレスだったから、トップレスのパンツ1枚になっちゃったけど、着るものはもう用意してある。

 出番が来ることはわかり切ってたから、昨日のうちに用意しておいたもの。

 

 改めて上の下着を着けてから、上の服……上半身だけの薄い肌襦袢で、体を包む。

 さらに、黒の和装の上をその上から着る。

 その後で、同じく黒の袴をはいて、紐でしっかり結んでとめる。その上からさらに、白の帯。

 仕上げに、白い羽織を着て……完成。

 

『頂上戦争』の時にも着た、パパの服装に似たデザインの一張羅。私の戦装束。

 姿見に移して全身を見てみて……うん、我ながら様になってると思う。

 

 あとは、体内に格納しておいた番傘を出して……よし、これで準備完了。いつでも行ける。

 

 まあ、私の出番はまだしばらくは来ないんだけどね?

 

 

 

 そして、部屋を出ると……そこには、

 

「お疲れ様、お母さん。……まあこれからむしろ疲れるんだけどね」

 

「よく似合っておる。準備万端のようじゃの」

 

「あたし達もいつでも行けるぞ!」

 

 スズ、レオナ、アリス……最初に私の『娘』になってくれた3人が待っていた。

 彼女達の方も、準備万端のようだ。

 

 スズは、私と同じく和装。たすきをかけて、お役人ないし討ち入りスタイル。

 

 レオナは、シャンディアの民族衣装風の装束を、より動きやすく改造した戦闘服。

 

 アリスは、私と同じ黒ベースの和装……を、くのいち仕様に動きやすくした装束。

 

 全体的に、彼女達も『頂上戦争』の時と同じようなスタイルでまとまっている。

 この2年間で、背丈はもちろん、実力も大きく伸びてるけどね。

 

 そんな娘達を、私は何も言わず……ぎゅっと両腕で抱き寄せて、抱きしめる。

 突然のことにちょっとびっくりした風だったけど、3人とも抵抗せず受け入れてくれた。

 

 そのまましばし3人の感触というか、暖かい体温を味わう。

 

「……よし」

 

 愛娘パワー補給完了。3人を解放する。

 

 ……思えば、彼女達が私の『娘』になってくれたあの時も……こんな風に、感極まって3人まとめて抱きしめたんだったな。

 

 あの時の私は……3人が、今は一緒でも、いつか必ず別れる存在だと思って接してた。

 けど、3人ともそんなことは全然望んでなくて……本当に私の『娘』になりたい、ずっと一緒にいたい、って言ってくれて……それがすごく嬉しくて。

 

 むしろ私の方こそ、絶対彼女達を放さないと決めた。

 

 血のつながりなんかなくても、私をこうして慕ってくれて、母と呼んでくれるこの3人を、絶対幸せにするし、絶対一緒に幸せになる。って……あの時誓ったんだ。

 

 もちろん、私と彼女達だけの幸せでいいはずもなく……パパやママ、ビューティにブルーメ、新しく『娘』になった、スノウやイリス、ユゥ、ナナ、サーヤ、ルゥ……他にも、ボニーやらマリアンヌやら……家族もそれ以外も、仲のいい皆で幸せになりたい。ずっと思って生きている。

 

 そしてしかし……私達の幸せな未来を壊そうとする敵が今、私達の前に立ちはだかってる。

 

 ビッグ・マムという名の暴君は、自分に都合のいい形で、私や私の家族、私の仲間達が大切にしているものを奪い去って利用するつもりでいる。そのために政略結婚を持ち掛けてくるわ、スパイを送り込んでパパを殺そうとするわ……

 今回のお茶会だって、結婚式とは名ばかりで、ジェルマを皆殺しにして奪うつもりだったし。

 

 そして、一度そのたくらみを防いだところで、決して諦めない。

 

 あらゆる種族を集めた『万国』。シーザーが無茶ぶりされてる『巨人化薬』。『来るもの拒まず、去る者は殺す』という基本方針……どれもこれも、ビッグ・マムが絶対に、自分の理想(ほしいもの)を諦めないがゆえの……。

 

 ビッグ・マムが私を、私達を欲する限り……終わりは来ない。平和も安息も訪れない。ビッグ・マムとその家族にとって都合のいい『食い物』にするために、私達はこの先ずっと狙われ続ける。

 あの人型ゴジラは、あまりにも……私が私らしく人生を生きることに、都合が悪い。

 

 ……だから、

 

 

「スズ」

 

「うむ」

 

 

「レオナ」

 

「おう!」

 

 

「アリス」

 

「ん!」

 

 

 全てを守るために、私は……私が……!

 

 

 

 

 

「…………勝つよ……私達の、未来のために!」

 

 

 

 

 

 この手で、『ビッグ・マム』を……討つ。

 

 

 

 

 

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