大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第29話 スゥ14歳、海賊の本隊

 

 

「……来ないな、別に」

 

 海賊達への取り調べで『本隊が来る』という話を聞いてから、すでに5日。

 

 海賊どころか、海軍もまだ来ない。

 『エレナ』の町は今日も、良くも悪くもいつも通りの日常だった。

 

 まあ完全にいつも通りかって言うとそうでもなく……やっぱりここ数日間は、町の人達もかなり不安を押し殺した様子だった。

 

 努めて平常通りに振舞おうとしてはいるみたいなんだけど、ふとした拍子に海の方を見る人が多かったり、町のあちこちでため息の音が聞こえてきたり……いつ海賊が来るんだろう、海軍は間に合うんだろうか、って不安がってるのがよく分かった。

 

 無理もないだろうけどね、数日前にあった襲撃の……そのさらに数倍の規模の海賊が、この町を狙ってるかもしれないんだから。

 しかも、子分たちを捕まえられて怒り心頭の状態でだ。

 

 皆が皆、そんな不安を心の中に抱えている状況なので、私の造船所見学の案内をするのを、かえって気分転換的な感じで楽しんでいる人もむしろ多かった。

 その案内されてる私は、いつも通りはしゃいで楽しませてもらっていた。

 

 いざ海賊が襲って来た時に、一番矢面に立って戦うことになる私が、全然気にしてないというか……余裕そうにしてるのがかえってよかったのかもね。

 『この人がいれば大丈夫だ』的に思ってもらえて、少なからず安心につながったのかも。

 

 まあ、それならそれでよかったかもしれないけど……もちろん、過信しすぎはダメだよ?

 

「おうスゥちゃん、注文されてた例のアレ、試作品ができたんで、後で見て行ってくれよ?」

 

「あ、ホントですか? わかりました! ついでに上手く動くか試してみますね」

 

「ああ。しかし……言われた通り防水性のあるやつでできるだけ頑丈に作ったが……こんなもんで本当に船を動かせるのか? 流石に強度が足りないんじゃないかと思うんだが……」

 

「そこは大丈夫です。私、これでも一応、悪魔の実の能力者なんで、多分なんとかできます」

 

「ほー、そりゃ大したもんだ。なら実験も……お?」

 

 すると、職人さんが何かに気づいた様子で、私の後ろを指さす。

 

 振り返ると、こっちに向かって、見覚えのある顔の小さな男の子が走ってくるところだった。

 

「おっちゃん達! 飯の時間だから母さんが呼んで来いってさ! あと、スゥさんもよかったら一緒に食べてけって言ってた!」

 

「おう、ありがとよシュー坊! よしお前ら、休憩にして飯だ!」

 

「「「うぃーっす!」」」

 

 茶髪にくせっ毛のその少年……『シュー坊』と呼ばれた彼の頭をがしがしと乱暴になでながら、船大工の親方さん(ウォーターセブンで修行したあの人。若いのにすごい)はそう号令をかける。

 職人さん達は一斉に大移動。見張りの当番の人を残して、食堂に向かっていった。

 

 なお、私も一緒。ここ最近は、当たり前のように造船所の食堂でご馳走になっちゃってる。

 そこのおばちゃんたち曰く、『もともと大人数用に毎日作ってるから、1人分多く作るくらい全然手間でも何でもない』ってさ。ありがたい話だ。

 港町だけあって、海の幸が毎日おいしいよ。

 

「しかし、もう5日目だってのに、海賊襲って来ねえな……いや、来ねえのが一番っちゃあそうなんだけどよ」

 

「もうそろそろ海軍の船が来てもいい頃だろ。そうなりゃ安心だな」

 

 食べながらのそんな雑談。

 うん、そうなってくれたら私も楽だし助かるよ。

 

 すると、親方さんの横で一緒に食べてたシュー君が、

 

「なんだ、スゥさん戦わないの?」

 

「? そりゃあね、海軍が間に合ってくれたら、専門家の人達に任せるのが一番でしょ」

 

「なんだ……スゥさんが戦ってるとこ、カッコよかったからまた見たかったのに」

 

「こらこら、何言ってんだシュー坊。すまねえなスゥちゃん、こいつこないだの海賊の時に、スゥちゃんが戦ってるとこ見てて、ファンになっちまったらしくて」

 

 あら、そうなんだ。

 

 小説以外で……賞金稼ぎの方にファンがつくとは。

 いや別に、嬉しくないわけじゃないけども。

 

 目をキラキラさせて『俺、大きくなったら賞金稼ぎになる!』って言ってくるシュー君を見てると、どう返したもんか対応にちょっと困ってしまう。ええと……頑張れ、って応援してもいいのかな? 私、賞金稼ぎが本業ってわけでも全然ないんだけど……

 

 それに、周りで船大工さん達が笑いながら『何言ってんだお前、こないだまで『船大工になる』って言ってただろ』って言ってるし。

 それにむきになってシュー君は言い返してるけど、やっぱり微笑ましいという感じが否めない。

 

 ふと見ると、キッチンの方でおばちゃん達も笑ってるし。本気にしてないな。

 

「だって今は『大海賊時代』なんだろ? こないだみたいな海賊がいっぱいいるなら、強くなって父さんや母さんを守れるようになった方がいいじゃないか!」

 

「はっはっは、それは立派だなシュー坊。けど、賞金稼ぎになったからって強くなれるわけじゃないし……そういうのは海兵さんとかに任せておいてもいいんだぞ?」

 

「そうそう。今度お前、弟か妹生まれるんだから、きちんといいお兄ちゃんしないとな」

 

 ……シャンクスに憧れて海賊になりたがってたルフィって、こんな感じで周囲からは見えてたのかな? まさか本気でそうはならないだろう、とか考えて。

 

 そしてシュー君、弟か妹生まれるんだ? そりゃよかったね。それで余計に色々やる気になってるのかな?

 ……というか、ってことはシュー君のお母さんが妊婦さんってことじゃん。なのに台所に立ったりしてて大丈夫なのか……?

 

 なんてことを思っていると……食堂に、さっき港に残していた、見張り担当の人の1人が駆け込んできた。……なんか、ちょっとだけあわてた様子で。

 

「スゥさん! 他の皆も……来てくれ! 海軍の船が来た!」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 海賊船よりも先に、海軍の船が到着した。

 それはつまり、私の出番が来ることなく、この騒動が決着することになった……ということを意味している。

 

 つまんなそうにしているシュー君(ちょい不謹慎)をなだめつつ、町の代表者たちと話し合いをするっていうことだったので、私もその場に同席することに。

 

 別に私、代表者どころかそもそも町の人でもないんだけど、と言ったんだけど……海賊達の引き渡しとかもあるから、だそうだ。

 ああ、まあ、海賊捕まえたのは私だもんね。一応話とか聞きたいのか。

 

 そんで、こないだも行った町の集会所で、簡単な事情聴取を兼ねた話し合い。

 その場で一緒に、海軍の人達から思わぬ話も聞けた。

 

「で、では、ここに向かっていた海賊達はもう倒したのですか!」

 

「ええ、この町に向かっている海賊船を発見して……事前の通報にあった『本隊』だとすぐにわかりましたので、交戦して叩き潰してきました。もうここを襲いに来ることはないんで、安心してください」

 

「ああ、それは……それはよかった……! この数日、皆、不安で仕方がなかったんです……」

 

 目に見えて安心した様子の村長さん達。

 それを見て、海軍の人達も機嫌よさそうにニコニコ笑っている。

 

「ではこの後は、とらえているという海賊達の引き渡しと……それと、若干の実況見分をしたいのですが、よろしいでしょうか。港で戦ったという、賞金稼ぎの方は?」

 

「あ、私ですけど」

 

「そうですか。ではお手間ですけど、少しお付き合いいただけますか?」

 

 そう言われて、海軍の人達に連れ出され……私は一旦、港に向かうことになった。

 すぐ終わるからってさ。

 

 

 

 ついてきたのは、さっきまで司会進行みたいな感じで話してた海兵さんと、その部下と思しき人達数人ほど。

 こないだ海賊達と戦った場所にきて、簡単にその時のことを説明する。

 

「なるほど……ここでバリケードを張って、食い止めながら戦ったと?」

 

「ええ。もっとも、バリケードを作ったのは船大工の人達で、私はそれに防がれてる間に片っ端から殴り倒していっただけなんですけどね」

 

 もう何日も前のことだから、戦いの痕跡なんて残っていない。

 バリケードも、とっくに解体しちゃったし、その戦いの時に飛んだ海賊の血とか、武器の破片なんかも掃除済みだしね。

 

 説明を聞きながら、海兵さんは顎に手を当てて『なるほど』と考えているようだった。

 

「そうですか……それはお強いんですね。連中も油断してしまったのかもしれませんね。船大工達の思わぬ抵抗もそうですし……あなたのような可憐な人がまさか凄腕の賞金稼ぎとは思わなかったでしょうから」

 

「あーまあ、そうかもですね。自分で言うのもなんですけど、割とこの見た目でなめられることも多いんで」

 

「ええ、ええ、そうでしょうね……でなければ、いくらあいつらでも、あなたのような小娘に負けるわけがありませんからね。……やれ」

 

「え?」

 

 ―――ドドドドドゥン!

 

 おかしなセリフを聞いて振り向いた私が見たもの。

 それは……海兵達が私に向けて構えた銃が、一斉に火を噴いた光景だった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 港で無数の銃声が鳴り響いたのと同じ頃。

 町の中心部にある広場。

 

「ど、どういうことですか……これは、一体……」

 

「へっ……鈍い奴らだな。まだわからねえのかよ」

 

「お前達は助かってなんかいねえよ、むしろこれからまさに地獄に落ちるところだぜ、船大工共」

 

 先程まで、にこやかに笑って話し、自分達を海賊から守ってくれたと語り……安心させてくれていた、海兵達。

 それが突如として豹変し、下卑た笑みを浮かべながら、自分達市民に剣や銃を突き付けていた。

 

 さらには、引き渡すはずだった海賊達を、鍵を開けて開放し、それを止めようとした自警団員は蹴飛ばされて地面に転がった。斬りつけられて傷を負ったものまでいる。

 

 これではまるで、海兵どころか海賊……そんな風に町長が思った瞬間、耳を疑う会話がそこに聞こえてきた。

 

「す、すまねえ兄弟……面倒懸けちまったな、へへへ」

 

「本当だぜ、バカ野郎。油断したんだか何だか知らねえけど、賞金稼ぎなんかに捕まりやがって……おかげでこんな猿芝居打つ羽目になったじゃねえか」

 

「芝居……? 兄弟……? ま、まさかあんた達は……」

 

 信じられない、というような、愕然とした表情になる町長。

 その様子から、町長がようやくそれに『気づいた』ことを察したのか、海兵……だと思われていた男は、ニヤリと笑う。そして、海兵の帽子を鬱陶しそうに脱ぎ捨てた。

 

「残念だったな! 俺達は海軍なんかじゃねえよ……お待ちかねの、怖い、怖ぁい……海賊だ!」

 

 擬態をやめた男は、得意げに語った。

 自分達は海賊であり、先にとらえた海賊達が言っていた『本隊』そのものであることを。

 

 先遣隊との連絡が取れなくなったため、こうして報復もかねてやってきた彼らは、途中で海軍の船に出くわし、戦闘になったが……これを返り討ちにした。

 そしてその際、軍艦と海軍の装備一式を奪い取り……『本隊』の一部にそれを着せて、海軍に化けさせ、海軍の船に乗せた。

 

 そうすれば、島民達は海軍が来たと思い込んで騙され、簡単に自分達を懐に入れてくれる。

 

 彼らが警戒していたのは、先遣隊を倒したという『賞金稼ぎ』の存在。

 それを封じるためにひと芝居打ち……適当なことを言って、無力な市民達と、脅威足りうるかもしれない『賞金稼ぎ』を分断した。

 

「じゃ、じゃあ、スゥさんは……」

 

「今頃港で、俺達の仲間に殺されてる頃だろうよ!」

 

「! そんな……」

 

 無警戒なところを一斉に銃で撃たれれば、名うての賞金稼ぎだろうと簡単に死ぬ。

 無慈悲にそれを告げ、海賊達がぎゃははは、と笑い、反対に市民達の顔は絶望に染まる。

 

 数日前、いとも簡単に海賊達を叩きのめして見せた、あの少女が……もう、既にその罠にかかっているのだと聞かされて。

 もう、自分達を守ってくれる者は誰もいないのだと突きつけられて。

 

 するとそんな中から、ダッと飛び出す小さな影があった。

 

 それを見つけた海賊は、腰に差していた銃を抜いて発砲。

 弾丸は直撃はしなかったものの、足をかすめた。少年は、『うわぁ!?』と声を上げて倒れ込む。

 

「シュー坊!?」

 

 船大工の誰かが叫ぶ。他の者達も、突然走り出し……そのせいで撃たれてしまったと思しき少年に、不安がるような目を向ける。

 しかし、少年は構わず立ちあがり、なおも走り出そうとする。

 

「知らせなきゃ……スゥさんを、助けなきゃ……!」

 

「今更無駄だってんだよ、ガキ」

 

 しかし、その眼前に立ちはだかった海賊の男が、少年を蹴飛ばして地面に転がす。

 それを見て悲鳴を上げ、さらに1人の女性が飛び出してきて抱きしめた。

 

 少年の母親は、『この子に手を出さないで!』と毅然として……しかし、自らも恐怖に震えながら言い放つ。

 その態度はしかし、かえって海賊たちの嗜虐心を刺激してしまう結果となった。

 

「へぇ……けっこういい女いるじゃねえか。船長、こいつ攫っていっていいすか?」

 

「好きにしろ。ついでだ、皆殺しにしねえで、高く売れそうな奴は軽く痛めつけてさらっとけ」

 

 そんなおぞましい言葉を聞かされて、女性の顔に隠しようもない恐怖が浮かび……その女性を、海賊は舌なめずりしながら、手をかけて連れ出そうとする。

 しかし、女性の手の中から素早く抜け出した少年は、海賊の腕に噛みついた。

 

「痛っ!? っ、このガキ……!」

 

「汚い手で母さんに触るんじゃねえ!」

 

 そして、自分も震えながらも、逃げることなく母親を背にかばい、海賊の前に立ちはだかった。

 

 その様子を、町の者達は驚きや焦り、恐怖が入り混じった表情で見て……海賊達は、嘲りと共に笑って見物していた。

 そのすぐ後には、見ていた者達の大半が恐れ、あるいは期待していた展開になる。

 

「この……そんなに死にたきゃ、今すぐ殺してやるよ!」

 

 思わぬ抵抗に腹を立てた海賊は、歯形の残る腕と、それをやった少年を苛立ちながら交互に見て……直後、腰に差していたサーベルを抜き放つ。

 そして、少年めがけて勢いよく振り下ろした。怒りそのままに……殺すつもりで。

 

 迫りくる死を前に、動けない少年。

 『やめて!』と悲鳴を上げる母親。

 『やめてくれ!』『逃げろ!』声を張り上げる市民達。

 

 それら一切が聞き届けられることはなく、無情にも凶刃は振り下ろされ……

 

 

 

 ―――ガキン!

 

 

 

「……え……?」

 

 その間に差し込まれた、1本の番傘に受け止められた。

 

「ちょっと無謀で無茶だけど……でも、カッコよかったぞ、お兄ちゃん♪」

 

 そう言って、その傘の持ち主である少女……スゥは、母親を守ろうと漢を見せた少年に、にっこりと笑いかけた。

 

 

 

 

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