大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第290話 希望のケーキ、絶望の戦争

 

 

「『金獅子海賊団』との全面戦争!? しかも……パルフェが裏切り!?」

 

『は、はい、そのように報告が。つきましては、ママを正気に戻して全体の指揮をとっていただくため、一刻も早くケーキを完成させてほしいとモンドール様達より……』

 

「そんなことになってたなんて……」

 

 カカオ島・ショコラタウン……『ウエディングケーキ』作成が行われている厨房。

 そこに、遅れに遅れて知らせが届いたところだった。

 

 ビッグ・マムの『食い煩い』を終息させてルフィ達を逃がす……というのが、このケーキ作りの元々の理由だった。しかしこのわずかな間に、事態はその逃走劇が些事に思えてしまうような大事に発展していた。

 ケーキの役割は、ルフィ達を逃がすことだけでなく、『万国』全体の存亡にかかっている。それ自体はある意味元からだったが、『戦争』という今の状況がそれに拍車をかける。

 

 既に不利な状況に追い詰められつつあるこの戦争に勝つためには、正真正銘『万国』の総力が必要になる。しかし、ビッグ・マムが生み出した『ホーミーズ』達の多くは、ビッグ・マムの正気の統率がなければ真価を発揮できない。

 

『このカカオ島はナワバリの外縁部! 幸い、金獅子達は別な個所から『ホールケーキアイランド』へ進軍ルートを取っていますが、別動隊がこちらに来ない保証はなく……また、ママを正気に戻すための『ケーキ』がここで作られていると知れば必ず刺客が差し向けられます! オーブン様をはじめとした幹部数名が配備される予定ではありますが……』

 

「それは頼もしいけど……引き続き厨房には入らないようにだけお願い! 集中を乱されたら、作れるものも作れなくなるわ!」

 

『は! そのようにお伝えします。ベッジの裏切りに続きパルフェ様までも……プリン様の心中をお察しします。その上で、既に全力のところ申し訳ありませんが、どうか一刻も早く……!』

 

「……わかった。報告ありがとう。作業に戻るわ」

 

 通信用の電伝虫が沈黙すると、後に残されたプリンの顔には、不安そうな色が残っていた。

 

「プリン……私が言えた義理じゃないけど、まさかパルフェが裏切るなんて……その、何といったらいいのか……」

 

「大丈夫よ、シフォン姉さん。……ショックは確かに大きいけど……」

 

 そこまで言って……ぱしん! と顔を両手で叩いて、痛みで気合を入れ直すプリン。

 

「ケーキは作るわ。どの道、ママに追われる『麦わら』さん達を逃がすには必要になるのに変わりはないし……『万国』だってこのまま放置すれば滅びかねない。『金獅子』との戦争にも関係なくね……うん、何も事情は変わってないわ」

 

「わかった……黒足、あんたもこのまま手伝ってくれる?」

 

「もちろんだ。『乗り掛かった船』だ、ここで調理をほっぽり出すような真似はしねえよ。ビッグ・マムに、最高に美味しいケーキを食わせて黙らせてやるさ!」

 

 そうしてそれぞれの作業に戻る3人。

 しかしその最中もやはり、プリンの顔色、ないし表情には、どこか影が差していた。

 

(パルフェは……昔から私とは、全然似てない姉だった。見た目も結構違ったし、性格も、強さも……『第三の目』のことだって、ママの言いつけで隠してこそいるけど、誰にバカにされても気にも留めなかったし、ひたすら自分のやりたいことだけやって、周りを振り回して……それでいて、ママの命令とか、しぶしぶ従う例外を除けば、やりたくないことは絶対にやらない人だった)

 

 手つきに迷いはないが、頭の中には、血を分けた実の……双子の姉の顔がちらつく。

 

(だから多分、今回のことも……理由はわからないけど……思い付きとか脅されてとかじゃなく、正真正銘、パルフェ自身がそうしたいと思ったから……覚悟を決めてのことなんだと思う。つまりもう、この戦争がどういう結果になっても……もうパルフェは帰ってこない。昨日までの私達には……もう、戻れない)

 

 思い出すのは、昨日……『麦わら』達にあった後に訪ねてきた、双子の姉の姿。

 

 何時も通り軽口を交わしつつ、形だけの『結婚』をからかい交じりに祝福されたあの時は、まさか、こんな未来が待ち受けているとは思わなかった。

 

 お芝居のつもりが、初めて本気で人を好きになって。

 生まれた時から一緒だった姉とたもとを分かつことになって。

 

「まあ……欲望に正直っていうのは、海賊としては模範的な生き方、なのかもね……」

 

「? 何か言ったか、プリンちゃん?」

 

「何でもないわ、サンジ……さん。さ、急ぎましょう」

 

 気丈に笑うプリンだが、その目がわずかに潤んでいることを、サンジは見抜いていた。

 しかし、必死で本心を隠し、なにも悟られまいとしているプリンに、そのことを問い詰めるのが野暮であるということくらい、サンジは当然わかっている。

 

 何も聞かず、『ああ、頑張ろうな!』とだけ返して……自分の作業に戻った。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「モンドール様、大変です!」

 

「何だよ、もう大変だよ既に色々と!」

 

 ホールケーキ城跡地にて、参謀のような役割を担っているモンドールの元に、泡を食った様子の部下が駆け込んできた。

 

 いい知らせではないのは、その慌てようを見れば明らかだが、だからと言ってきかないわけにもいかない。

 ため息をつきつつ、モンドールは続きを急かすが……予想通りろくでもない内容だった。

 

「それが……現在ママが、『ナッツ島』を襲撃中との報告が! 『食い煩い』の勢いそのままに破壊行為が続き、ピーナッツタウンを中心に被害が拡大中!」

 

「は!? 何でママがナッツ島に……ぺロス兄と一緒に『麦わら』の船を追いかけてるはずだろ!? どうしてケーキと何の関係もねえナッツ島で暴れてんだよ!?」

 

「それが……ペロスペロー様からの報告によると、『麦わら達』の船を見失ったそうなのです。当初は、ママが起こした大津波で沈没したかと思われていたのですが、荒波に紛れてローの能力で逃れた可能性が高いと。その後、お菓子の匂いに反応したママがそのままナッツ島へ……」

 

「この大変な時に……! 大至急『麦わら』の船の居場所を探れ! 本当に海の底に沈んだなら問題ねえし、そのまま逃げるなら逃げるでこの際構わねえが……横槍でちょっかい出されんのが一番面倒だ! これ以上のトラブルはさすがにシャレにならねえぞ!」

 

 

 

 その。さらにしばらく後。

 

「モンドール様! 大変です!」

 

「だからもう大変だっての! さっきとは別件か!?」

 

「別件です!」

 

「ああそうかよ畜生、何だ!?」

 

 若干やけくそが入りながらも、モンドールは部下に報告を促す。

 

 しかし、その口から飛び出したのは、前回の凶報をはるかに上回る凶報だった。

 

「先ほど、このホールケーキアイランド近海に、突如として『金獅子海賊団』の大艦隊が出現したとの報告が! 沿岸警備にあたっていた当方の艦隊と現在交戦中とのことです!」

 

「「「は……!?」」」

 

 一瞬、聞こえてきた報告の意味が理解できず……あるいは脳が理解を拒んでしまったか、ぽかんと口を開けて唖然とする参謀役一同。

 しかし、話の内容は明らかに放置していいものではなかったため、どうにか頭を再起動させて……

 

「おい、今何て言った? このホールケーキアイランドが攻められてるだと?」

 

「はい! 現在、南岸と東岸の2カ所に艦隊が出現し、こちらの防衛艦隊と交戦中です!」

 

 聞き間違い、あるいは報告ミスという一縷の望みは否定され……モンドールの顔にどっと冷や汗が噴き出て来た。

 

「どういうことだ!? まだ第三防衛ラインが突破されたって報告も入って来てねえんだぞ!? それがもし突破されていても、まだあと1つ……最終防衛ラインには、スムージーが率いる艦隊が控えてるはずだ! それが全部、報告する暇もなくぶち抜かれたってのか!?」

 

「いえ、そうではなく……連中、第三防衛ラインを攻撃している艦隊とは別に、別動隊を用意していて……しかもそれが全て『コーティング船』! 海中を進んで、防衛ラインをすり抜けて、あるいは迂回されて……一気に内側に入り込まれました!」

 

 それを聞いて納得するも、その場にいる面々の表情には『やられた!』という色が一様に浮かんでいた。

 モンドールのみならず、レザンやコンポートといった他の兄弟姉妹達も顔をしかめる。

 

「……ナワバリウミウシがいない弊害がここでも出たか」

 

「まずいねえ……さすがに守りは固めてあったとは言え、直接ここを狙われるとは……。スムージーとダイフクの艦隊を呼び戻して対応させるかい?」

 

「ダメだ、それだと今防衛ライン側に展開している艦隊に対して戦線がほぼ無防備になっちまう! 第三が食い破られるのはもともと時間の問題だった……もしスムージーたちの艦隊を撤収させれば、一時的には有利になるが、その後敵艦隊が全て本島に直接殺到して手が付けられなくなる!」

 

「スムージー達は動かせない……敵の『増援』を合流させないための戦力として割り切るしかない」

 

「沿岸部には『鏡世界』で兵士を送り込むとして……敵の戦力次第では、今ある艦隊では防衛力不足かもしれないよ? ただでさえ兵器の性能で差がついてるんだ。第二防衛ラインの時みたいに、一方的に沈められたら、沿岸部が丸出しになっちまうよ」

 

「……『万国』各島に通達し、全戦力をホールケーキアイランドに集結させる。それをもって敵の艦隊を粉砕し、可能であれば防衛ラインにも援軍を送って今来ている艦隊の対応もする」

 

「待ってモンドール兄さん! それだと他の島、他の航行ルートが完全に無防備になってしまうわ! 今出てきているのが敵の全戦力だとは限らない……いや、シキ本人が出てきていない以上、まだ敵の控えの戦力が確実にいるはずよ! それも、本命と言っていいくらいのが……そんな状況で防衛に穴をあけるなんて……!」

 

「だがこの襲撃に対応できなきゃ、ホールケーキアイランドは今落ちる! 兵隊はいくらでも『鏡世界』から送り込めるが、艦隊が潰されたらそれこそ島は丸裸だ! 相手には航空戦力もいる……白兵戦で相手をするには限界があるんだよ!」

 

「他の何を切り捨てても、確実に守らなければならないものを守るしかない、ってわけだね……。私達『ビッグ・マム海賊団』が、こんな戦い方を強いられるとは……」

 

「屈辱だな……!」

 

「これが……『金獅子』……!!」

 

 重苦しい沈黙に支配される作戦本部(仮)。

 

 今までずっと、奪う側、虐げる側だった自分達が……『ビッグ・マム』の名の元に、欲しいものを全て手にしてきた自分達が、1つ、また1つとその手からこぼして失っていく。

 それがわかっていても、止めることができない。どころか、自分達の手で選んで、切り捨てることすら強要されつつある。

 

 今まで想像もしなかったみじめさと悔しさに、下唇を噛んでいる者も多くいた。

 

「それとなガレット……俺が今肝を冷やしたことはもう1つあるんだ。今回現れた奇襲艦隊……どういうルートを通ってここに来たんだと思う?」

 

「それは報告通り、コーティング船で海底を……」

 

「海底とか海中じゃねえ、ルートの話をしてんだ」

 

「……? さすがに、防衛ラインを張ってるスムージー姉さん達の真下を通過したわけじゃないわよね。でもだとすると、今戦ってる戦線に邪魔されずに通過できて……なおかつ、ナッツ島にいるペロスペロー兄さん達にも目撃されないルートは…………あっ!?」

 

「そうだ、ガレット……あいつらは恐らく、カカオ島側のルートを通って、大きく迂回してきやがったんだ。そして……カカオ島では今、プリンが『ケーキ』を作っている」

 

 それを聞いて、ガレットや他の兄弟姉妹たちも、恐ろしい可能性……あったかもしれない最悪の未来に行きついてしまう。

 

 彼ら『金獅子』の伏兵が通り道としてしか見ず、ただスルーしていったカカオ島。

 もしそこを襲撃され、プリンが作ったケーキを奪われたり、あるいは壊されてしまっていたら……

 

「おそらくあいつら、プリンがケーキを作っていることまでは知らねえんだ。だからカカオ島には目もくれずに海底を通って行った……だがもしケーキの存在がバレれば、ママを復活させるそれを必ず狙ってくる! 艦隊が相手じゃ、オーブンの兄貴達でもおそらく止められねえ!」

 

「な、なら早くそこにも防衛艦隊を配備しないと!」

 

「ダメだ! もし露骨にカカオ島の防衛だけを厚くすれば、そこに何かあるとこっちから教えちまうようなもんだ! 向こうには裏切ったパルフェがいる。シフォンとプリン……シフォンケーキとチョコレートの達人が一度に姿を消している現状から、答えに行きついちまうかもしれねえ!」

 

「でも、じゃあどうしたら!?」

 

「プリンに可能な限り速くケーキを完成させてもらい、それをさらに、完成し次第速やかにママに食べさせるしかない……プリンからケーキが完成しそうなタイミングを聞いて、どうにかしてママをその時間に合わせてカカオ島に誘導せねばならんな」

 

「『食い煩い』のママを!? そんなの無理よ……今でさえ暴走して、ペロスペロー兄さんの言うことも聞かず、関係ないナッツ島で大暴れしてるところなのに……!」

 

「となると……危険は承知で、ケーキの方をママに届けるしかないねえ。けれど、ケーキが完成して、それを運ぶ段階で見つかってしまったら、それも厳しいねえ……」

 

「相手には航空戦力があるし、なんならパルフェも空飛べるからな……機動力が違いすぎる。おまけに向こうは、別に奪わなくても、ケーキを台無しにするだけでいい。パルフェなら、射程圏内に入りさえすれば……それこそものの1秒だ」

 

 言葉にすればするほど、状況の悪さが際立っていき、全員の顔色が悪くなる。

 が、いくら悩んだところで現実は変わらない。

 

「忌々しいが、できることは変わらねえ。オーブンの兄貴に連絡を……プリンと連携を密にして、ケーキが完成したら即、船に乗せて運び出すようにと。同時に『鏡世界』で出せる限りの護衛戦力を出してケーキを守り、最短距離でママに届ける! それと、他の動かせる……戦力じゃなくていい、偵察部隊でもなんでも使って……見失った『麦わら』の船を大至急見つけさせろ!」

 

「『麦わら』? 何で今さら……」

 

「ママはあいつらの船にケーキが乗ってると思い込んでる! もしママにそれを見つけさせれば、ちょうどいい餌になる……誘導できるかもしれねえ!」

 

「そうか! 連中をそのまま追い立てて餌にするか……あるいは、発見した船から『麦わら』達を排除し、船を乗っ取ってそれを囮にすれば!」

 

「カカオ島への誘導も可能だ! 捜索に動かせる数は多くないが……賭ける価値はある!」

 

「各島タルトに指示を! 『麦わら』の船を探せェ!」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 一方こちらは、金獅子海賊団の旗艦『ストロングライオネル号』。

 

 艦橋にいるシキは、葉巻の紫煙をくゆらせながら、電伝虫越しに報告を受け取っているところだった。

 

『こちら第11師団、ガスパーデ。今さっき、ホールケーキアイランド本島の防衛艦隊と交戦を開始した。現状は武器の性能差もあってこちらが有利に運んでいる』

 

「ご苦労。だが、そう時間をかけずに他の島々から増援が到着するはずだ。そうなったら楽にはいかねえぞ、忘れず頭に置いとけ」

 

『わかってるさ大親分。だが、完全に別のエリアからの増援なら、外輪船(パドルシップ)でも数時間はかかる……この性能差なら、今いる艦隊は……まあ、壊滅は無理だが半壊までは十分持っていけるだろうぜ』

 

「それよりも注意すべきは、敵側が『主力』を送り込んでくることだ。さすがに本土に攻め込まれて浸透されることを容認はすまい。白兵戦力なら、件の『鏡世界』でいくらでも送り込めるだろうからな……大幹部クラスが出てくる可能性も十分ある」

 

『だが……それも目的の1つ、だろ?』

 

 その言葉を聞いて、シキは機嫌よさそうに口元を吊り上げる。

 ニヤリ……という効果音が聞こえてきそうなくらい、悪役らしい、似合っている笑みだった。

 

「わかってるじゃねえか。幹部クラス……特に『将星』とやらが現れたら、無理に対応はしなくていいぞ。むしろ防衛に専念して釘付けにしろ。確認できた段階で、こちらから対応するための戦力を送る」

 

 このまま本島を制圧できればそれでもいいが、おそらくそこまでは難しいだろうとシキは見ていた。

 艦隊戦だけなら圧倒できるが、最後は必ず白兵戦になる。そうなれば、敵の大幹部クラスも出てくるだろうし、さらには無数の『ホーミーズ』も待ち構えている。

 もちろんそのための考えはあるが、そのためにも色々と準備をしなければならない。

 

「とはいえその役目は、半ば能動的な囮も同然だ。相手の能力がこちらの想定の裏をかいてくることも考えられる……指揮官のてめェは特に危険だってことは忘れるなよ」

 

『危険じゃねえ戦争があってたまるかよ。海賊にそんな配慮は野暮だぜ、大親分。鬼が出るか蛇が出るか……楽しみじゃねえか。それじゃあ、失礼する』

 

「おう、武運を祈る」

 

 通信が切れる。

 

 通称“海賊将軍”こと、ガスパーデ。

 シキの部下、ないし傘下海賊団の中で、比較的新参ながら、個人戦闘能力の高さに加え、元海軍将校という異色の経歴ゆえにか、高い集団指揮統率能力を持つ男。

 

 こういった『戦争』のような場は、彼にとってホームグラウンドと言える。

 ゆえに、大戦力を任せての切り込み隊長としての白羽の矢が立った。

 

「さて、防衛線の方にはもう援軍が来ないことが確定したわけだし……タイミングを見てさっさと食い破るとするか。ガスパーデ達が本島を制圧できれば全て事足りはするが、さすがに厳しいだろうからな……本番は恐らく、夜以降だ」

 

「ですね。その段階になれば、さすがに『将星』も動き出すはず……」

 

「出てこなければ適当に餌をまくまでだ。その段階になったら……あいつらの出番だな」

 

「ええ……お嬢達に声をかけておきます」

 

 時刻は夕暮れ時。じき、夜になる。

 夜になれば、色々と状況が変わる。

 

 戦線は刻一刻と押し込まれていき、海賊艦隊は着々と『ホールケーキアイランド』本島に近づいている。ほどなくして陥落するであろう第三防衛ラインを越えれば、もう目と鼻の先だ。

 しかしその分、抵抗も激しくなるであろうことが予想される。守る場所が少なくなれば、相手側の戦力も集中され、さらに出し惜しみもなくなるはず。

 何より、今まさに、今既に本島を責めている艦隊との合流は何としても避けようとするはず。

 

 加えて、話に()()()()()『ウエディングケーキ』も完成に近づく、あるいは完成するだろう。

 それはすなわち、現在暴走中で戦力にカウントできない、ビッグ・マムの復活を意味する。それに伴って、多くのホーミーズ達もその性能を底上げされ、敵の戦力は大幅に増すことになる。

 もちろん、そうなるかどうかはケーキの出来栄えにもよるのだろうが……何にせよその前に、できるだけ敵の手足を切り落として置く必要がある。

 

 そしてそれは、できれば……ビッグ・マムの復活の直前あたりがタイミングとしてベスト。

 あまりに早く、大きく勝ちすぎると、相手が『逃げ』に出る可能性がある。『鏡世界』を利用して逃亡されるのはもちろん、無駄に広い森林などを生かした――しかもその森林自体が生きている――ゲリラ戦などを挑まれると面倒極まりない。

 

 タイミングをうかがい……決着は、一気に。

 手早く、逃さず、残さず……謀略家として知られるシキにとっても、ここからが勝負所。

 

(ま、それならケーキを破壊しちまえば簡単なんだが……そうなった場合のリンリンがどうなるのか未知数だからな。お目当てのものが食えなくて、ストレスで死ぬようなタマじゃねえし……見境なしに暴れまわられたんじゃ後処理が大変だ。責任もって正気に戻してもらって……その後で料理させてもらうとするかね。それにその方が……言い訳もできねえ、完璧な『敗北』をたたきつけてやるには、都合がいい)

 

 そしてシキ達は……『ケーキ』の存在を把握したうえで放置していた。

 さらには、完成したからと言って手を出すつもりもない。むしろ、頼まれれば運ぶのを手伝ってもいいくらいに思いつつ、必死で隠そうとしているのであろう敵方を笑っていた。

 

「ジハハハハ……滾るねえ、年甲斐もなく……。暴れるのも楽しかったが、やっぱ俺はこうして悪だくみしてるのが一番性に合ってるかもしれねえな。ま、今回は後は、暴れる役は若ェ奴らに任せてやるとして……」

 

 ちらりと時計を見るシキ。

 時刻は午後5時半。じき、日が暮れる。気象予報担当の部下達の報告によれば、今日はよく晴れて満月が見えるとのこと。

 

 明るい月の光に照らされて、どんな光景が見られるだろうかと、ますます口元がにやけるのを止められないシキだった。

 

「絶望を与える前には希望が必要だ……舞い上がったところから突き落とされた時にこそ、絶望は大きくなり……その表情も、見ていて格別なものになる。しかし好都合なことに、今回の場合は、わざわざ事前に持ち上げてやる必要もねえ。てめェで勝手に舞い上がって浮かれきってやがる連中だからな……」

 

 

 

「あと数時間で全ての決着がつくだろう……。四皇だなんだと言われて調子に乗ってたビッグ・マム海賊団(あいつら)が、一夜にして全てを失った時……どんな顔を見せてくれるのか……あァ、今から楽しみで仕方ねェな……! ジハハハハハハハ!!」

 

 

 

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