大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第291話 戦争は佳境へ

 

 

 カカオ島・ショコラタウン……その中心部にある『おかし工場』にて、プリンとシフォン、31人の料理長『WCI31』、そしてサンジの手によって、ビッグ・マムを止めるための『ウエディングケーキ』作成は着々と進んでいた。

 

 その工場を、そしてケーキを守るため、4男・オーブンに加え、ノアゼット、ズコット、ハイファット、タブレットの計5人の幹部と、率いてきた1万を超える兵隊が守り、工場には誰一人邪魔者を近づけなかった。

 その最中、『シフォンに一目会わせてほしい』と押しかけて来た、彼女の実父・パウンドが海に投げ捨てられたりしたが、それ以外は特に何事もなかった。

 

 時刻が18時を回ったところで、土台となるシフォンケーキが焼き上がり、デコレーションのための生チョコレートも完成。

 後は、暴れるビッグ・マムをこの島に上陸させないため、そして同時に一刻も早く届けるため、洋上でケーキを完成させつつ移動することになり、プリン達は工場の外に出た。

 

 そこでひと悶着。もうすぐケーキが完成するという状況を祝福しつつも、裏切者であるシフォンを引きずり下ろして処刑しようとするオーブン。

 それに対して、パウンドがシフォンを守るために立ち向かったり、サンジが不可視の速さで救ったりと応戦。さらにその後オーブンが『まだ逃がさん!』とばかりに、荷台に隠れようとしたシフォンを見つけ出し、他の兄弟達も逃がすまいとそれを囲む。

 

 見殺しにするわけにもいかないが、かといって普通に助ければ正体がバレ、自分を招き入れたプリンも『反逆者』になってしまう。どうすればいいかと歯噛みするサンジだったが……

 

 救いの手は、意外なところから現れた。

 

 

 

 ―――キィィイイィィン……!!

 

 ―――ズドォォオオォン!!

 

 

 

「ぐあぁぁあっ!?」

 

「の……ノアゼット!?」

 

 何やら空を切り裂くような音がしたかと思った次の瞬間、落ちて来た、あるいは降りて来た『何か』が、まるで隕石のように、すぐそばに落下。

 不運にもそこにいた、ノアゼットに直撃。ノアゼットはすさまじい衝撃で叩き潰され、地面にめり込むこととなった。

 

 そしてそれは、不運な事故などではなかったということを、皆、すぐに理解することになる。

 土煙が晴れて……ノアゼットを踏みつぶす形で降臨し、そこに立っている『彼女』を見て。

 

「あらあらまあ、ごめんあそばせ? 兄弟喧嘩の邪魔をしてしまったかしら?」

 

「っ……貴様……パルフェ!!」

 

 落下してきたのは、隕石ではなく……今現在、シフォンと同じ『裏切者』として、シフォン以上に危険視されている少女。

 元『将星』……シャーロット・パルフェ。彼女が、既に気を失って地面にめり込んでいるノアゼットをぐりぐりと踏みつけながら、嘲笑うような目でこちらを見ている。

 

 その姿を視界にとらえた瞬間、オーブンは、襟首をつかんで台車から引きずり出そうとしていたシフォンを解放し、台車を……いや、その上に乗ったケーキを守るように立ちはだかった。

 

 視界をふさぐように前に立ち、威圧感を放つオーブンだが、パルフェはさして気にした様子もなく、『ふむふむ……』と目の前の光景を分析しているようだった。

 

「なーるーほーどー? プリンがシフォン姉さまと、カカオ島で何かをしていると聞いて、もしかしてと思って来てみたら……ビンゴですわね。それ、もしかしなくても、『ウエディングケーキ』の材料……というか、一歩手前ってところでしょう? ママの『食い煩い』を止めるために、2人で力を合わせて作っていた、ということのようですわね。……そうでしょ、プリン?」

 

「……っ……!」

 

 じろり、と。

 荷台に乗って指示を出しているプリンを……双子の妹を見て尋ねるパルフェ。

 

 まるで蛇に睨まれた蛙。何も言えないプリンに向けて、さらに続ける。

 

「あなた達にとっては、ママを正気に戻す『希望のケーキ』……でもぉ、それってつまり……それがなくなれば、ママはもう正気に戻らないんですわよねぇ?」

 

 

「“熱風拳(ヒート・デナッシ)”!!」

 

 

 誰かが何かを返すより先に、オーブンが高熱を纏った拳を振るう。

 それが見えていた、あるいは『わかっていた』かのようにさっとかわすパルフェ。かわしながらもにやにやと笑う。

 

 文字通りの『温度差』とでもいうべきか、それを睨み返すオーブンは、その怒りのこもった熱で周囲の空間に陽炎を発生させ、景色を歪ませている。

 

「プリン! さっさと港へ行って船を出せ! こいつは俺が食い止める!」

 

「オーブン兄さん!」

 

「こいつの狙いはそのケーキだ……壊されでもしたらママを止めるすべがなくなる!」

 

 オーブンの怒号に呼応するように、残る3人の兄弟達、そして連れて来た兵隊達が展開、ケーキをかばいつつパルフェを包囲するように展開する。

 もっとも、そのうちのいくらかは……裏切者とはいえ、『元将星』という怪物を相手にするという状況を前に、やはり腰が引けているように見えたが。

 

「シフォン、お前も行くならさっさと行け……この場は見逃してやる。お前よりもこいつの相手が優先だ……! それならせめて、お前はプリンと『ケーキ』を確実に守れ!」

 

「オーブンお兄ちゃん……」

 

「次に会うことがあれば、その時は間違いなく処刑する。俺は法に忠実な男だ……この国に、もうお前の居場所はない。これは、ケーキを守るための超法規的措置だと思え!」

 

 言うと同時にさらに熱を高めるオーブン。肩を並べる兄弟達や兵士達すら顔をしかめるほどに。

 

 プリンは指示を飛ばし、シフォンを乗せたまま、台車を発車させ、港を目指す。

 

 その刹那……一度だけ、ちらっとだけ、後ろを振り返り……ほんの一瞬、姉・パルフェと視線が交わった。

 にっこりと笑うその笑みの、そしてその瞳の向こうに……プリンは、先ほど顔を合わせた時に抱いた疑念が確信に変わったのを感じた。

 

(やっぱり……! 理由はわからないけど。パルフェの狙いは、最初からこの『ケーキ』じゃない……それに、私達にも、手出しするつもりはなかったみたい……!)

 

 双子の姉妹として、小さい頃はいつも一緒にいた。

 大きくなってからも、関わる機会は多かったし、他の兄弟姉妹達より、愚痴や弱音が言いやすい間柄の姉妹として、色々なことを話していた。

 間違いなく、一番近くにいる姉妹だった。

 

 だからこそプリンには、パルフェが自分達を狙っていないと、直感的にわかってしまった。

 それどころか、別れ際、ちらりと一瞬だけ後ろを振り向いた時、目が合ったその一瞬で……自分達を心配し、逃げたことに安堵するようなパルフェの目を見て、

 

(ひょっとしてパルフェ、私やシフォン姉さん、それにサンジ……さん、を助けるために……?)

 

 

 

(やっと行ってくれましたか……やれやれ、世話が焼ける姉と妹ですこと)

 

 台車が走って行った方を横目で見送りつつ、パルフェは……

 

「この裏切り者めが! ママに『将星』に抜擢までされておきながら……」

 

 

 ―――ドゴォッ!!

 

 

 最後まで聞かず、ズコットのみぞおちに鋭く拳をめり込ませる。

 一撃で綺麗に意識を刈り取られたズコットは、『こふっ…』と、肺から力なく空気が抜け出る声のような音のようなそれを耳に残しつつ、倒れ伏す。

 

「お説教を聞きに来たわけじゃありませんの」

 

 同時に、背後から、身の丈に似合わない大きさの曲刀を振りかぶってとびかかってきたタブレットに、振り向きざまに放った後ろ回し蹴りを打ち込んで、刀もろとも粉砕。

 タブレットは周りを固めていた兵士達の壁に突っ込み、それを派手に吹き飛ばしながら、自分も町の外まで吹き飛んでいった。

 

「っ……よくも弟を!」

 

「よせハイファット! 何も考えずに突っ込んで勝てる相手じゃ……」

 

 オーブンの制止もむなしく、タブレットの双子の兄、ハイファットは、手にした突撃槍を腰だめに構え、すさまじい勢いで地面を蹴る。必殺の一突きで、裏切り者のパルフェを串刺しにせんと迫るが……パルフェはそれを見て、何の脅威にも思っていないようだった。

 

 突き出された槍をあっさりとキャッチし、勢いを完全に殺す。

 その上で、もう一方の腕をゴムのように伸ばしてハイファットの胸倉をガシッとつかむと、そのまま引き寄せて……

 

 

 ―――ズドドドドドドォン!!!

 

 

 至近距離、いやほぼゼロ距離で放った“愚民滅殺お嬢様砲(グミネードランチャー)”が全弾綺麗に直撃。着ていた鎧を粉々に粉砕され、血を吐きながらその場に崩れ落ちた。

 

 5人いた幹部のうち、4人が瞬く間に壊滅。

 1人残ったオーブンは、最後に残った自分にパルフェが視線をよこした瞬間、苦しいどころではない戦いになるのは承知で……背中から抜き放った巨剣を構えた。

 

 『ネツネツの実』の能力で刃を高温にしつつ……その眼光でパルフェ自身にも高熱を送り込む。

 しかし、その瞬間にパルフェは視界から消え、オーブンのすぐ横に姿を見せた。消えたように見えるほどの速さに、オーブンはギリギリなんとか反応し、突き出された拳を刃で受ける。

 

 普通の相手なら、それで逆に、攻撃した拳ないし武器の方が高熱になって取り落としてしまうが……

 

(何……っ!? これは、どういう……)

 

 確かに『ガキィン!』と防御したはずのパルフェの拳が、剣に『触れていない』光景を見て驚くオーブン。

 

 覇気使いの中でも高等技術である『触れない武装色』を使える者は、世界でも多くない。

 それどころか、その存在にすら行き当らないものがほとんどである。実際、今までパルフェがそれを使ったところを見たことがある者はいなかった。

 それこそ、妹であるプリンや、師匠であるカタクリすらも。

 

 彼女がこれを習得したのは、『万国』ですらない場所でのことだったがゆえに。

 

 それでも、この光景だけで……オーブンには、パルフェの力が、自分が認識できているよりもさらに大きいものだとわかった。わかってしまった。

 言うまでもなく、裏切られた側である自分達にとっては、凶報でしかない。

 

 それでも、敵を前にして止まることは許されない。

 それがどれだけ強い相手でも、そしてそれが実の妹でも。

 

 何より、その妹は、一切の迷いなく自分達に刃を向けてくるのだから、こちらが迷っていてはいい的になるだけである。

 

「っ……“(ヒート)”……がふっ!?」

 

「遅い」

 

 剣を振りかぶろうとした時には、その瞬間がら空きになった横腹にパルフェの蹴りが突き刺さっていた。

 

 痛みに耐えながら、剣で攻撃を防御しつついったん下がろうとし……しかしその瞬間、ボディを守ったことでがら空きになった頭に、グミのスーパーボールが飛んできた。

 

 連射されるスーパーボールに、思わず頭を片方の腕でかばってしまった瞬間、剣を持っている方の腕を打ち据えられて剣を取り落とす。

 地面に落下したその瞬間、蹴飛ばされて遠くへ飛んでいった。飛んでいった先にいた兵士たちが直撃して、衝撃と熱で悲鳴が上がっていた。

 

(反応の速さだけではない……カタクリと同じで、明らかに未来を見て……! これほどの高みに至っておきながら……!)

 

「そりゃ海賊ですもの、欲しいものを手に入れるために決まってますわ。今のまま『ビッグ・マム海賊団』にいても手に入らないものなんですの」

 

「なぜ、ママを裏切るような真似を……っっ!!」

 

 言わんとしていたことをずばり言い当てられ……どころか、先回りして答えを突きつけられ、口をつぐむオーブン。

 今のでますます『未来』を見ていることが確定的になったパルフェに、何も言うことができずにいた。言っても無駄だとわかってしまうというのもある。

 

「……お前が敵だというのなら、俺に迷いはない。俺は法を重んじる男……この『国』にあだなす者には、等しく死を与える!」

 

「明日の今頃には亡国になっているであろう国に殉じる覚悟ですか。涙ぐましいですわね」

 

 オーブンとパルフェ。それぞれが拳を構え、その拳を覇気で黒く染める。

 

 次の瞬間……兵士達が遠巻きに見守る中で、合図もなく、2人は同時に地を蹴って激突した。

 

 

 

 パルフェの乱入により、結果的にオーブンらの『粛清』あるいは『処刑』という魔の手から逃れたプリン達。

 港に到着したところで……ちょうどよくそこに、自分達の船に乗ってベッジ達がやってきた。

 サンジがいる以上、ビッグ・マム海賊団の船を使うわけにもいかないと思っていたところに、まさに渡りに船。

 

 当然、港にいる兵士達は、『裏切者』『ママを狙う暗殺者』の船だということで迎撃しようとするが、水陸両用のその『ノストラ・カステロ号』に、全員あえなく弾き飛ばされる。

 そのまま、シフォンのみならず、プリンやサンジ、他のコック達、そして肝心要の『ケーキ』と『チョコクリーム』その他を荷台ごと回収。追っ手たちをあざ笑い、そのまま港から出発した。

 

 そして、ちょうど同じ頃、

 

 

 ―――ド ッ ゴ ォ ン!!

 

 

「「「!?」」」

 

 洋上からでも聞こえるほどの轟音。

 

 サンジ達が驚いて船上から目をやると、その音がした先で……オーブンの巨躯が、きれいな放物線を描いて飛んでいくところだった。

 遠くてよく見えなかっただろうが、その顔は白目をむいており……空中にいる時点で既に意識は飛んでしまっていた。

 

 そのまま、落水。海に落ち、沈んでいく。

 

「お、オーブン様ぁ~~~!!」

 

「まずいぞ、オーブン様は能力者だ、このままでは沈んでしまう!」

 

「お助けしろ! 泳ぎが得意なものはただちに救助に移れ!」

 

 これにて幹部5人全員が倒れたこととなり、兵士達が総崩れになる中……それをやってのけたパルフェは、拳を振り抜いた姿勢を元に戻し、ふぅ、と息をついたところだった。

 

 ふと見れば、幹部5人という『頭』を失った兵士達が、健気にも逃げることなく自分を取り囲み、武器を構えている。

 自分から襲いかかる度胸のある猛者はいないようだが、それでも『希望の『ケーキ』を、そしてそれを作るプリン様を守る』という使命を果たさんとする気概は感じる。

 顔に怯えが浮かんでいるのを隠せてはいない者がほとんどではあるが、それでも大したものだとパルフェは心の中で思った。

 

 しかしそれはそれ、わざわざここから彼らの相手をするつもりもない。

 

(オーブンお兄様も含めて5人倒して……こっちの『時間稼ぎ』も十分でしょう。プリン達はもう港の外、沖へ出たようですし……ここで『引き上げて』しまって問題ないですわね。全くもう……さっさとケーキ、完成させなさいな)

 

 特に追撃するつもりもない妹に向けてそんなことを思いながら、ふぅ、とため息を1つ。

 それと同時に……

 

 

 ―― キィ―――ン……!!

 

 

 何やら耳かキーンとなるような、甲高い音がその場に聞こえ始める。

 同時に、パルフェの周囲の空気が……その縦ロールの髪の毛が震え始めたように見える。その足元に、風が吹きつけたような土埃が舞い始めた。

 

 周囲の空気がパルフェに向かって流れていく。まるで、彼女が空気を吸い上げて、全て吸い尽くそうとしているかのよう。

 それほど吸引力があるわけではなく、周りにいる兵士達が吸い寄せられるようなことはないが、それでもはっきりと『空気が流れている』のを目で、肌で感じる。そのくらいの勢い。

 

 何の音だ、何が起こるんだ、とおののく兵士達。

 そんな彼らに構わず、パルフェは上を見上げて……そして次の瞬間。

 

 

 ―――ドゥッ!!

 

 

 パルフェの縦ロール×6から、ジェットエンジンのごとく、膨大な量の空気が噴射され……彼女の体は一瞬で上空高くまで飛び上がり……そのまま、彼方へと飛んでいった。

 

「「「ええぇぇぇええええ~~~~~!?」」」

 

 目の前から一瞬でその姿が掻き消え、衝撃波すら発生する速さで空の果てに消えてしまった光景に、唖然となる兵士達。

 同時に何人かは、いきなり空から現れたのはアレによるものだと理解したが……あまりにも生身の人間とは思えないようなその飛び方にショックを受け、結局唖然として、しばらく動けないでいるのだった。

 

 そのパルフェは、眼下に『ケーキ』を乗せて海を征く船と、その甲板で作業を続けるプリンを確認しつつも……やはりというか、特にそれを狙うこともなく、さっさと退散していく。

 

 地上で、オーブンの前ではあたかも『ケーキの破壊が目的』『あの時初めてケーキの存在を知った』かのように言ってはいたが、実のところ最初からその存在も目的も……そして、プリンがそれを作っていることも知っていたパルフェは、ケーキが出来上がりつつあることも含めて予定通りとして来た道を戻っていく。

 

(プリンとシフォン姉さま、WCI31と……『黒足』の加勢も考慮して……デコレーション完了、ケーキ完成まで3~4時間といったところかしら。となれば、午後9時~10時にママが復活すると考えて……いよいよ戦争も佳境ですわね)

 

 

 ☆☆☆

 

 

「シキ様、報告です! 協力者であるシャーロット・パルフェ殿より、ケーキの完成及びビッグ・マムの復活は、おおよそ午後9時以降の見込みとのこと!」

 

「そうか。準備時間は……まァ足りるだろ。ホールケーキアイランド本島の方の戦線はどうなってる?」

 

「はっ、島の西側と北側よりそれぞれ進軍し、護衛艦隊の一部を食い破る形で突破、上陸に成功したとの報告が入っています! ただ、それ以降は双方とも難航しているようで……」

 

 本島北側は大きな港町があり、公に島の入り口として開放されている。

 それゆえに防衛設備も整っており、海上の艦隊に対する防備のみならず、白兵戦で兵隊が力を発揮できる場でもあった。

 

 入り口であると同時に重要な拠点でもあるため、敵の抵抗も激しく……さらには、将星カタクリが、数万の人間・ホーミーズが入り混じった兵隊達と共にこの戦場に投入されたこともあり、上陸した部隊は瞬く間に押し返されてしまった。

 

 加えて、各部隊の指揮を執っていた幹部格が的確に見破られてカタクリに、あるいは上級以上の戦闘員達に討ち取られてしまい、進軍を継続できない。

 現在は、沿岸部に布陣して、奥に深入りできないままに膠着状態になっている。

 

 もう1つの西側は、特に港などはなく、ビーチからすぐのところに大きな森が広がっているのだが……その森こそがかの『誘惑の森』。

 木、地面、動物、道……あらゆる場所のあらゆるものにホーミーズが潜んでおり、迷い込んできた獲物を惑わせ、無事に外に出すことがない。

 

 ただ、今はつい先刻あった、『麦わらの一味』の脱出劇が原因で、森に加えてビーチの一部にも大きな傷が刻まれているのだが、その機能そのものに大きな問題はない。

 

 故に、踏み込んだ兵士達は森そのものに阻まれて進めず、その木の陰に、枝の上に隠れて攻めてくる『ビッグ・マム海賊団』の戦士達に次々と討ち取られていく。

 この戦線にはどういうわけか、『金獅子』側に幹部級以上の海賊がほとんど確認できていないのもその理由の一つだった。

 

 北よりも奥側まで攻め入られてはいるものの、こちらもそれ以上の進軍は許していない。

 さらに奥に控えている増援部隊や、それを率いる将星・クラッカーの出番も今のところ来ていない。

 

 一見すると、ビッグ・マム海賊団の戦力集中と用兵により、水際で敵の進軍をせき止めることに成功している……ように見える。

 攻めている金獅子側からすれば、せっかく上陸成功したにもかかわらず、そこから思い通りにいかず、もどかしい状況だろうと。

 

 しかしシキは、その報告を聞いても全く気を悪くした様子はなかった。

 もともと、ホールケーキアイランド本島の攻略は、敵が大幹部級を含めた白兵戦力を集中させるがゆえに、難航すると予想できていたこと。勢いだけで押し込めるほど甘くはないだろうと、最初からわかっていた。

 

 それに加えて……色々とすでに『仕込み』もしてあった。

 

「西側はそのまま戦闘を継続しろ。無駄骨でも構わねえ、とにかく敵を休ませずに、殺し殺されの状況を維持するんだ。戦力も一定ペースで投入し続けて、絶やすな」

 

「戦力……通常の兵士に偽装した、強化クローン兵やゾンビ兵を、ですね?」

 

「そうだ。あいつらはそもそも消耗前提の戦力だから、どれだけ死んでも別に惜しくねえし……ゾンビの方はむしろ、『死んだ後』が本番だからな」

 

「北側の戦場はいかがなさいましょう?」

 

「カタクリが相手じゃ生半可な増援は瞬殺される。敵兵も多いしな……かといって『あいつら』を投入するにはまだ早い……ここは、こっちも新兵器のテストをさせてもらうか。新型人間兵器部隊『ディアボロ』を動かせ。それと……パルフェもだ」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 そこから、さらにしばらく後。

 

 とある海上。

 

「ハ~ハハマママママ!! 見つけたよォ、『麦わら』ァ~~!! ケーキを……よこしなァ~~!!」

 

 夜もとっぷりと更け始めたくらいの時間になって、ついにビッグ・マムがサニー号を発見。

 ペロスペローと、タルト艦隊と共にそれを追いかける。

 

「ロー! 見つかっちゃったよ!? しかもなんか船もさっきより増えてる!」

 

「かまうな! このままカカオ島へ向かい、黒足屋と合流する! アレには黒足屋が作ったケーキを食わせる予定だったんだろ? ならむしろ好都合だ、追いつかれないようにだけ注意していけばいい!」

 

「なんだ、ケーキ食べに行くのか? そういや俺もそろそろ腹減ったな……俺も食っていいか?」

 

「それ食ったらまだ私達マムに追われることになるでしょうがバカ!」

 

「ていうかさっきあたしが分けてやった食料食い尽くしただろうがお前! まだ足りねェって(ぐぅぅぅうう……)……いやあたしも腹減ったなぼちぼち……」

 

「(くぅぅ……)……私もお腹空いたかも」

 

「おい気をつけろ。こいつら油断するとルフィと同じ側に行くぞ」

 

 そして、それを追いかけるビッグ・マム……の、帽子に乗っているペロスペローもまた、長時間の追跡で多少なりとも疲労がたまっているようだった。

 もっとも、彼の疲労の大部分は実のところ、精神的なもので、しかも理由は……

 

(ちくしょう、ようやく見つかった……ここに来るまでにどれだけが犠牲になっちまったと思ってやがる……ママの『食い煩い』をここまで長く止められなかったのなんざ初めてだ。覚悟はしていたが、ここまでのことになるとは!)

 

 麦わらの一味の船が行方不明になった後、ビッグ・マムはその空腹ゆえか、その場から感じ取れた香ばしい、美味しそうなにおいを追いかけて『ナッツ島』に向かい、破壊の限りを尽くした。

 自分で食らいついておきながら『これじゃねー!』『これもちがーう!』『ケーキはどこだぁー!?』と……。

 

 すぐ近くでペロスペローが『ここにはねェって!』と繰り返しても、この島を収めるアマンドがやめるよう懇願しても……結局、『ピーナッツタウン』が壊滅するまで終わらなかった。

 今、住民達は、住処をはじめとしたあらゆるインフラも失い、おかしの残骸が散らばり、わずかに無事な家が残るだけの町で、哀しみと悔しさ、絶望と怒りの中でうずくまっている。

 

 そんなことが、合計4つもの島で起こった。

 ナッツ島を滅ぼした後、すぐ海に飛び出し、そのまま匂いを頼りに別な島へ乗り込んで破壊……を繰り返した。

 

 そのたびに『くんくん』と鼻を鳴らし……まるで、何かに誘われるように、導かれるように次々に島を移って……破壊の限りを尽くしていた。

 

 これが本来の世界であれば、ナッツ島を破壊していた途中で、鏡世界を飛び出したルフィとブリュレが現れて、それを追いかけていったせいで、そこまでの被害にはならなかったのだが(それでも壊滅的ではあったが)……それがなく、ただ満たされぬ苛立ちのままに、本能のままに暴れ続けた結果がこれである。

 

(これ以上の被害はまずい……幸いあいつら、カカオ島に向かって逃げていやがる。モンドールからはそろそろ『ケーキ』も出来上がる頃だと聞いている……このまま進んでママにケーキを食わせて、さっさと正気に戻ってもらわねェと!)

 

 なお、このしばらく後……モンドールからの報告で、希望のケーキがベッジの船に乗っていると聞き、『信用できねェじゃねえか!』とまた頭を悩ませることになる。

 

 

 

 





特にそういうつもりはなかったんですが、書いてみたら、なんかオーブンがツンデレっぽくなってて『あれ?』ってなりました。
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