カカオ島周辺海域にて……前方・後方からサニー号に迫る艦隊。
規模としては前方から来るそれの方が明らかに大きく、幹部も多数乗っている。さらには海賊団の旗艦『クイーン・ママ・シャンテ号』もいるため、脅威度は大きい。
しかし、昼間よりも数を増している上に、ペロスペローが乗っている後方からのタルト艦隊も、決して無視はできない存在である。
だが現在はまだ、どちらの艦隊もどうにか足止めに成功している。
前方の艦隊は、何十隻ものタルト戦艦にふさがれているが、そのせいで却って後続の船が通れない状態になっている。
その、進路をふさいでいるタルト戦艦の舵輪を、満月の光で『
一方、後方の船は……
「“キャンディメイデン”!!」
「それはもう見た! “
タルトにのって迫ってくるぺロスペローを、ルフィが迎え撃つ。
展開したキャンディの壁……無数のとげがこちらに向けて突き出されている、キャンディのアイアンメイデンを、炎を纏ったルフィの拳が打ち抜く……かと思われたが、
「っ……!? 硬っ……溶けねェ!?」
「お前が『火』を使えることくらいこっちも承知だ、だったらそれ相応の使い方ってもんがあるさ……『鉄』を混ぜれば俺のキャンディは熱にも強くなるんだよ! “キャンディソード”!!」
滲み出すキャンディに、タルトに積んで用意してきた鉄粉を即座に混ぜ、熱耐性を持たせた飴細工を作り出して攻撃するペロスペロー。
壁、剣、弓矢……行きつく暇もなく繰り出される連続攻撃に、ルフィは不安定な足場の中、どうにかかわしながら立ち回る。
「お前がクラッカーを退けたこと、一度はママから逃げおおせたこと……忌々しいが認めざるをえねえ、俺達が今のうちに消しておくべき『強敵』だとな。だからこそ油断はしねえ! 隙も見せねえし弱点は克服して、勝つべくして勝利する……年季の違いってもんを見せてやるぞ小僧!」
「そんなもん関係ねえ! 俺は、誰が相手だろうと、油断も言い訳もするつもりはねえし……負けねェよ!!」
火炎を纏い、さらに巨大な拳が叩きつけられ……ペロスペローのキャンディが溶けて砕ける。
さすがに『ギア3』レベルの破壊力に熱が加わると、即席の耐熱処理では防げないらしい。
今見て知った光景を念頭に置いたうえで、さらにペロスペローは飴細工を練り上げ、ルフィに殺到させていく。
(ママを止めることはもう不可能だ、ベッジがケーキを運んでた以上、あのケーキには確実に何かしらの罠があると見ていいが……ママの生命力なら毒だろうが何だろうが乗り越えるはず! それを信じるしかねえ……ベッジはほどなくケーキを捨てて逃げ出すだろうが、その時が貴様の最後だ。麦わらより先に地獄に落ちな……!)
ベッジが逃げた方には、迂回してカカオ島を目指していた別動隊の艦隊がいる。
前方の艦隊と同じく、ママと合流するために『万国』からかき集めた援軍であり、そこまでの数ではないが、海賊船1隻鎮める程度なら造作もないはずである。
報告用電伝虫に、応援艦隊の到着と、『ファイアタンク海賊団』壊滅の報告が届くのを心待ちにしつつ、ペロスペローは油断なくルフィに応戦する。
もっとも、戦っている最中に受話器を取ることはさすがにできない。同行しているババロアかパンナあたりに代わりに聞いてもらうことになるだろうとも思っていた。
しかし、その知らせが来ることは……ついぞなかった。
なぜなら、その艦隊は……
「ちょこまかと逃げるなミンク族共ォ!! “
艦隊に同行していたダイフクが、舵輪を破壊して艦隊の邪魔をし続けるキャロットたちを討ち取るべく、『ホヤホヤの実』の能力で『魔人』を呼び出し、薙刀を振り回して攻撃して来る。
が、身軽なキャロットたちにはひらりひらりとかわされてしまい、逆にタルト船を攻撃して両断し、被害を出してしまう始末。
それでも大威力の攻撃が乱発されてうっとうしいためか、放置できないと判断したペドロが動いた。
驚異の俊敏さでダイフクの乗る船に迫り、驚いたダイフクが魔人を即座に呼び戻し、自分めがけて突き出されたペドロの攻撃を受け止める。
「こいつは俺が抑える! キャロット、死体男爵、艦隊の足止めは任せたぞ!」
「わかった!」
「呼称に若干言いたいことはありますが、お任せを!」
「俺を止めるだと!? てめェが1匹でか……なめんじゃねェぞジャガー野郎!」
額に青筋を浮かべ、苛立ちを隠さないダイフクの怒気を叩きつけられながらも、ペドロは『月の獅子』の身体能力を生かし、すさまじい勢いで魔人と切り結ぶ。
その背後に、熱を体に滾らせたオーブンが迫り、ダイフクと2人がかりでペドロを圧殺しようとするが……
「性懲りもなく来たか、ペドロ……今度こそ……っ!?」
その瞬間、間一髪、オーブンは後ろに飛びのいて……乗っている船ごと切り裂く勢いで放たれた斬撃をかわした。
それを放った本人は、悠々と船に飛び乗ってきて、自分と向かい合う。
「パルフェにぶっ飛ばされたと聞いてたんだが……命を拾ったか。悪運がいいらしいな、熱野郎」
「トラファルガー・ロー……!」
ダイフクとペドロ、オーブンとロー。
この戦場のこの先にも大きく影響してくるであろう、それぞれの陣営の大戦力同士の戦いが、ここでも始まった。
船自体がうかつに動かせないこともあり、しばし膠着状態になる戦場。
前後の艦隊をそれぞれ足止めしている以上、そこで繰り広げられている戦いの行方いかんでこの先の流れが変わってくると思われ……時折飛んでくる砲撃による攻撃をそれぞれが凌ぎながら、機会をうかがっていた。
しかし、実際は必ずしもそうではなく……数で圧倒的に優位に立っているビッグ・マム海賊団側が、膠着状態を良しとせず、いくつも手を打ってくる。
舵輪が壊れて動けず、障害物になっている前方の船団を避けて、後方から艦隊が、しかも左右の2手にわかれて回り込み、サニー号に殺到しようとした。
しかし当然、ルフィ達の側もただ黙ってやられているだけのわけもない。
「すぅー……“
ルゥが龍に姿を変えて、その片方へ突貫。
大砲の攻撃をものともしない防御力と機動力で弾幕を突破し、その口から吐き出した炎の息吹でタルト船を一気に焼き滅ぼしていく。
あるいは、咆哮を雷鳴に変えたり、かまいたちを飛ばして船を切り刻んだりと、龍の力の多彩な攻撃で翻弄しつつ、たった1人で艦隊を相手に防いでみせる。
一方、もう片方から迫ってくる艦隊については、キャロットかブルックが一時そちらへ向かって応戦しようと考えたが……それよりも前に、誰も予想していなかった伏兵が現れた。
「おやぶんの邪魔する奴は……許さんのらぁ~~~!!」
「「「助太刀に来たぜ、ジンベエ船長~~!!」」
「なっ……アラディン、ワダツミ……お前達……!!」
海底から姿を現したのは、『タイヨウの海賊団』。
そこらの船なら拳や体当たりで吹き飛ばせてしまう巨躯を持つワダツミが、勢いそのままに大暴れして次々にタルト船を沈めていく。
さらに、アラディンをはじめとした魚人や人魚達が、戦いながらも海流を操作して、さらに艦隊を混乱状態に叩き落し、思い通りに進ませない。
中には近くにいた味方の船にぶつかって転覆したり、火薬類が誘爆して自滅する船も何隻も現れていた。
おまけにその中には、アラディンと『政略結婚』して妻になった、シャーロット家21女、シュモクザメの人魚・プラリネの姿すらも。
ここにきてまた、身内からの裏切者が発覚するという事態に、ペロスペローやオーブンは愕然とし、ダイフクはさらに苛立ちを募らせて悪態をついていた。
そして同時に、ナワバリウミウシの消失という異常事態の犯人が一体誰だったのか、それも今、明らかになった。ジンベエ達を逃がすために、人魚の能力でプラリネがやったのだと。
そしてそれが結果的に、彼女達も予想していなかったのであろう形で、この『戦争』を大きく引っ掻き回し、ビッグ・マム海賊団に大打撃を与えたのだと。
想定外は続く。
ペロスペロー……の、代わりに対応した、ババロアの元に入った電伝虫。
しかしそれは、待ち望んだ『援軍到着』の知らせでもなければ、『ファイアタンク海賊団壊滅』の知らせでもなかった。
受話器の向こうから聞こえてきたのは……
「おい、どういうことだレザン!?」
『聞いての通りだ、ババロア兄上……すまない、援軍は届けられそうにない。そこに着く前に……壊滅させられた……!』
苦しそうな声音で聞こえてくるのは、援軍の船団を率いる幹部として同行していたはずの、レザンの声だった。
もう間もなく、ブラウニーやジョコンドらと共に合流し、ビッグ・マムを迎えに行くはずだった弟から、聞きたくもない報告が届き、ババロアは冷や汗を流してまくしたてる。
「壊滅だと!? ふざけんな、そんなことがあってたまるか……ファイアタンク海賊団の船1隻に、十数隻からなるタルトが全部やられたとでもいうのか!?」
『違う……ベッジではない。ジェルマだ……!』
「ジェルマだと!? それこそバカな……ヌストルテの兄貴達が壊滅させたはずだろう!?」
『知らん……だが、間違いない。ジェルマの船団が、現れて……援軍は、皆、やられた……! ブラウニーも、ジョコンドも……どうなったか、もう、わからん……。そして、おそらく……まもなく、ジェルマはそちら、に……』
―――ガチャン、プツッ
「おい、レザン!? おい!! ……くそっ、マジかよ……なんてこった……!」
受話器を取り落としでもしてしまったのか、それきり何も聞こえなくなった。
そして……一連のやり取りは、すぐそこで戦っていたペロスペローも聞いていた。聞いていて、次々起こる想定外の事態に苛立ちを募らせていた。
「プラリネは裏切るし、カイドウのパチモンは出るし……何が起こってんだよこの戦争は! くそ……このまま後手後手に回り続けるのはまずい……ババロア! お前達、タルトの艦隊を率いて先に行け!」
「ぺロス兄ちゃん!? でもそれだと兄ちゃんは……」
「俺なら大丈夫だ、キャンディで足場は作れるし……ちょっといい気になったルーキーに負けやしねえよ! それよりも、これ以上状況が悪化する前にあの、麦わらの船をさっさと沈めろ! 今なら大戦力はほとんど前の方に出張ってて守りも薄い!」
「わ、わかった! いくぞお前ら!」
「あ、待てお前ら! サニー号には近づかせな……うわっ!?」
「お前の相手は俺がしてやるよ、麦わら……! 出血大サービスだ、『キャンディ・ネット』!!」
タルト艦隊を追いかけようとしたルフィの行く手を阻むように、金網状に、広範囲に作り出したキャンディの壁で行く手を阻む。
すぐに破壊されてしまうだろうし、迂回されるだけでも無力だが、少なくとも、すぐに破ることはできない。ババロア達がタルト船を動かして先に進む邪魔をすることはできない。
「こんにゃろ! こんなもんぶっ壊して……おわっ!?」
「連れねえこと言うなよ麦わら。お前の相手は俺だろう!」
ルフィが金網ならぬ飴網を破壊しようとした瞬間、ペロスペローは遠隔でキャンディを操作し、何本もの鋭い棘を出現させて串刺しにしようとする。
さらに、手元から生み出した新たな飴細工の剣を飛ばして攻撃。壁を破る隙を与えない。
その間に全速力で前に出る、ババロアとパンナが率いる船団。
砲口を構え、射程距離に入ったらすぐにでも打ち始めるつもりでいた。
それに気づいたナミ達も、大慌てで迎撃の準備に入る。
しかし、ペロスペローが言った通り、今、ほとんどの戦力は前の方の艦隊及び幹部たちへの応戦のために出払ってしまっており、特に遠距離に対応できる戦力がいない。
砲撃を防ぐだけならサンジとボニーが何とかできるだろうが、数を撃たれるとそれも厳しい。
最悪の場合、操舵を一時的にチョッパーあたりに任せて、ジンベエがサンジと一緒に出るつもりでいたが……次の瞬間、
「必殺緑星……“眠り草”!!」
「ん!? 何だ一体……ぃ……ZZZ……」
突然、どこかから何かが飛んできて、ババロアの乗る艦の甲板に命中し……そこからまき散らされた種が発芽し、いくつもの花が一瞬で咲いた。
そして、そこからあふれ出る香りを吸った全員が……ババロアも含めて……一瞬で眠りに落ちてしまった。
同じものが次々と他の船にも飛来し、命中した船の乗組員たちを次々眠らせていく。
それを目にしたナミ達は、驚いてそれが飛んできた方を見た。
「えっ!? あれって……」
「ウソップ~~~!?」
そこには……海の上に立って、パチンコを構えているウソップの姿が。
いや、違う……海面に立っているのではなく、その下にもぐって隠れている潜水艦の入り口から体を出しているのだ。
次の瞬間、『ハートの海賊団』の船である『ポーラータング号』が浮上し、その姿を見せる。
「あ? あれ……ローのとこの潜水艦じゃねーか。何でアレにお前んとこの狙撃手が乗ってんだ? しかも……ワノ国に先に行ったって聞いてたけど」
「いや、私も驚いてる……何でここにいるのかしら?」
「ウソップ~~! 助かった、ありがと~~~! でも何でここにいるんだ!? 錦えもん達とワノ国に行ったんじゃ……」
「いやあ、それが……話すと長くなるんだが……」
「話してる暇ねえだろ、まだ終わってねえんだからよ! どけウソップ、次は俺様の番だ!」
そんな声とともに、今度はそのウソップを押しのけるようにして、フランキーが中から姿を見せる。
そして、位置取りの関係でウソップの狙撃を当てられなかったタルト艦が数隻、抜け出てなおもサニー号を目指すのを見据えると、胸の前でポーズを決めて……
「フランキー……ラディカル~~~ビィ―――ム!!」
発射したビームで、タルト艦のどてっぱらに風穴を開けて轟沈させる。
それすらも逃れて前にすすもうとするタルト船もいたが……突如として乗組員達の体に、何本もの腕が『咲き』、関節技で次々に沈めたり……舵輪を勝手に操作して近くの船に衝突させ、転覆においこんだりして見せた。
「ぎゃああぁぁぁああ!」
「ぺ、ぺロス兄さん、助け……い、嫌ぁぁああ!!」
「マスカルポーネ! ジョスカルポーネ! お前達まで!」
「フランキーに、ロビンも……ということは……」
ナミが言いかけた直後、潜水艦の出口から勢いよく外に飛び出した人影が1つ。
手ぬぐいを巻き、和装に身を包んだその人物……ゾロは、加速して空中を走り始め……走りながら、ペロスペローと戦っているルフィに問いかける。
「おいルフィ! あの邪魔くせぇの、斬っていいんだな!」
「あ、ゾロ! おう、やれ!」
「了解!」
ただそれだけ言葉を交わすと、さらに加速し……あっという間にサニー号を追い抜いてしまう。
『ちょっとゾロ!?』『どこ行くんだー!?』『迷子になるなよー!』などと、後ろからかかる声を聴くだけ聞いてひとまず無視し――一部、修業時代のソロの悪癖を知っている若干1名の心配事が混じっていた気がしたが――前方に展開している艦隊にまで至る。
「九山八海、一世界。千集まって“小千世界”。三乗結んで斬れぬものなし……!!」
「あいつ……何をする気だ!?」
そして、漂流状態になっている『障害物』を無視して、その奥にある巨大な『歌う船』……クイーン・ママ・シャンテ号の目の前に。
その時点でゾロは、手に2本の刀を持ち、口にも刀をくわえ終えていた。
「“三刀流奥義”……!!」
射程圏内にたった1人で入ってきた愚かな敵を撃ち殺すべく、クイーン・ママ・シャンテ号に多数備わった砲台から一斉に砲弾が吐き出されるが、それら全てをあっさりかわし……ゾロは容易く、その懐に潜り込み、
「“一大・三千”……“大千・世界”!!」
まるで袈裟斬りにするように、
ビッグ・マムの巨体すら乗せて海を進める巨船『クイーン・ママ・シャンテ号』を……真っ二つに切り裂いた。
「えええぇぇぇえええ~~~!?」
「そんな、ばかな……」
「嘘だ……ママの『クイーン・ママ・シャンテ号』が……何十年も、ビッグ・マム海賊団を支えてきた船がぁ~~~!!」
「フ~~~~~ネ~~~~~!?」
普段陽気に歌っている船首が、断末魔のように叫び声をあげて……ずるりと斬れたところから崩れ落ちていく。
真っ二つになったところから、ずるりとずれるようにいくかと思いきや、その巨大さと自重のせいで、重心や強度的なバランスが崩れた結果、あちこちが崩壊を始めたようだった。
ゾロが切り裂いた傷口に沿って崩れたのは半分ほどで、そこから先は……まるで内側から、自分から自壊していくように、砕けて、ちぎれて、歪んで、崩れて……巨船は、バラバラになって、『万国』の海に散っていった。