ホールケーキアイランド本島、北の海岸。
カタクリとパルフェが戦っていたところに、突如乱入してきたアリス。
次の相手はこいつか、とカタクリが気を引き締め、構えなおそうとした……その瞬間。
「旦那様~~~♪」
今まで凛々しく、激しく戦っていた姿と声とは全然違う、全力で媚びるような猫なで声を上げて……突如、パルフェがアリスに抱き着いていた。
その目は、カタクリですら見たこともないほどに嬉しそうで、表情は甘えて蕩けたものになっている。断言するが、兄弟姉妹の誰にも、パルフェはあんな姿は見せたことはないだろう。
そのパルフェが、まるで小さな子供のように――年齢的には十分まだ子供であろうとはいえ――ああして甘えて抱き着いて……というのは、予想外どころではない、完全に想像の埒外。
今まで自分と生死をかけた戦いを繰り広げていた、本当に本人かと疑ってしまうほどの、差。
そして抱き着かれたアリスはと言えば、こちらもとろっとろに機嫌をよくして、抱き着いてきたパルフェをなでてかわいがっていた。
「無事でよかったよ~、待たせちゃってゴメンねマイハニー!」
「はい、旦那様!
「うんうん、ホントにお疲れ様ね~、超ほめちゃう! いやあ、ボクってばいいお嫁さんもらったなあ!」
「やだぁ、良妻賢母だなんてそんな言いすぎですわ! 誉めても子供くらいしかでませんわよ!」
(……俺は何を見せられているんだ? 何の話をしている……こいつら、まさか……)
今の今まで殺し合いを繰り広げていた自分が、まさかの蚊帳の外。
色々な意味で信じられない状況に、カタクリはどうにか言葉を取り戻して語り掛ける。
「パルフェ……お前、まさか……」
「ん? ああ、そういえば言っていませんでしたわね。カタクリお兄様、
「「「ええええええええええええ~~~!?」」」
愕然として言葉を失うカタクリとは対照的に、周囲で見ていた兵士達やホーミーズ達から、驚愕と悲鳴が入り混じった絶叫が響き渡った。
一方、その兵士達を蹂躙していた精鋭部隊『ディアボロ』の面々は……『あーはいはい、いつものこといつものこと』『アリスお嬢様、またかー』『今回はえらい大物釣ったっすね』という感じである。慣れ。
そんなどうしようもない空気の中……さすがというかカタクリは、どうにかシリアスな空気を取り戻しつつあった。
「……なるほど、理由はよくわかった。つまるところ『万色』……お前が俺達からパルフェを奪った犯人、ないし張本人というわけだ」
「ちょっとちょっと人聞きが悪いなあ……いやまあ、取っちゃったのは確かにそうだけど、別に悪いことした覚えはないよ? そもそもあんたらだってさんざん同じことしてきただろうし……今更やり返されたからって文句言えた立場じゃないでしょ」
「道理だな……海賊の世界で、そういう言い訳や泣き言ほど見苦しいものはない。だが……それを容認するかどうかは別問題だ。裏切者はだれであれ許さない……これもまた『ビッグ・マム海賊団』の鉄の掟。それに文句を言われる筋合いもないな?」
「それは確かにそうだね。実際、そう言う感じになると思ったから、交渉も何もなくパルフェは『抜けて』『捨てる』ことを選んでくれたんだし」
「よくもまあ説得できたものだ。それとも、それほどまでにパルフェがお前にほれ込んだか」
「それまでの全部を捨てて連いて来てくれるって言うんだもん、男としても女としても冥利に尽きるってもんだよね! そういうわけだから……きちんと奪わせてもらうよ、お義兄さん♪」
「……貴様にそう呼ばれる筋合いは……ない!」
―――ド ク ン!!
瞬間、カタクリの体から迸る『覇王色』。
直接威圧されていない、ビッグ・マム海賊団の兵士達ものけぞるほどの勢いで……その気迫に充てられ、何体かのホーミーズが命を落としてしまったほどだった。
だが、アリスはそれを涼しい顔で受け流し……どころか、
―――ド ク ン!!
同じように『覇王色』で返し、押し戻す。
カタクリとアリス、2人の『覇王色』がぶつかり合ってせめぎ合い、まるで両者の中間に赤い火花の壁ができているかのような、恐ろしい光景。
その光景を見て、ビッグ・マム海賊団の兵士達や、『ディアボロ』の面々は……先ほどまでの、カタクリとパルフェの戦いに比してなお、壮絶極まりない戦いがこれから始まると理解した。
それに巻き込まれれば……自分達も無事ではすまない、ということも。
「さて、それじゃあパルフェ、今言った通りここからはボクがやるから……」
「わかりました、旦那様。ご武運をお祈りしておりますわ……
その直後、パルフェは、遠くからアリスめがけて飛んできていた何かをパシッとつかんでキャッチした。
それは、銃と違って音がしない……吹き矢。
放ったのは、遠くにある岩場に隠れてこちらを狙っていた……
「ま、まずいですフランペ様、見つかりました!」
「もぉーっ! あと少しで命中するところだったのに! 何で邪魔するのよあのバカ!」
「そりゃパルフェ様、裏切者ですし……」
「無粋な真似をしてくるあの出歯亀のガキンチョでもどうにかしときますわ」
「ん、よろしくね」
直後、パルフェは、すたこらさっさと逃げだしたフランペを追いかけて、消えたようにしか見えない速さでその場を後にした。
フランペの方も気になるカタクリだったが、目の前の少女から目を離すことがどれだけ危険であるか……それもまた、今の『覇王色』の押し相撲で理解している。
一見すると、自然体で適当に構えているようにしか見えないが……カタクリの長年の勘が、これまでで最も手ごわい……それこそ、パルフェすら比較対象として心もとないかもしれない強敵だと、警鐘をガンガンに鳴らしていた。
体内に収納していた槍『土竜』を取り出すカタクリ。
それに合わせるように、アリスも武器を取り出す。
苦手な武器がないがゆえに、毎度使う武器を変えたり、わざわざ相手から奪って使うアリスだが……やはり『金獅子海賊団』の大一番だからということなのか、手にした武器は、名実ともに彼女の『本気用』の武装だった。
(薙刀……同じ長物か)
構えは様になっている。見てくれやリーチだけを重視した武器ではない。
そう一見で見ぬきつつも、カタクリはそれで止まることもなく……槍を持った腕をモチに変え、ギュルルルル……と、高速で回転させて突き出す。
「“モチ突”!!」
「おっと……いきなりか!!」
それをアリスは、薙刀の刃でこともなげに受け止める。
ドリルのように高速回転している刃を受け止めたにもかかわらず、微塵も揺らがず……また、刃には刃こぼれ一つ見られない。
アリス自身の『覇気』もあるだろうが、それはそれとして、武器も相当名のあるものだろうとカタクリは見た。
その予想は、当たっている。
アリスの手にある薙刀は、この『2年間』の間に、とある任務中に発見して手に入れたもので……『アリスもらっちゃっていいよ』との母の許しを得て自分のものにしたものだった。
名を、『
位列は定められていないが、シキも誉めていたほどに見事なつくりの『名刀』であり……眉唾物のとある噂によれば、ある『最上大業物』の一振りと同時期に、同じ刀工によって作られた、『兄弟刀』であるとかないとか。
(もしそれが真実なら、運命的で面白いけどね……けどボクとあいつの間柄だと、『兄弟刀』ならぬ『姉弟刀』になっちゃうけど……ねっ!)
ギィン、と耳障りな音を響かせて、カタクリの『土竜』をはじくと、そのままの勢いで大きく体を翻しながら踏み込み、武装色を纏わせ、刃を黒く染めた『踊茅纏』を薙ぎ払う。
「“菊一文字”!!」
「……っ……!!」
カタクリはそれを、大きく体をそらせて回避する。
今の今までカタクリの首があったところを通過する刃。そこから『余波』で飛んでいった衝撃波が、その先の建物を真っ二つに両断し、粉砕した。
普段であれば、未来を見て、体の一部をモチに変えて回避するところだが……今、アリスがこうして攻撃して来る未来は『見えなかった』。
(未来が見えない……あるいは、俺と同じ未来を見ている? あるいは、また別な何か……いや、後回しだ! 見えなくとも正攻法で叩き潰すまで!)
(『未来視』ができる相手だとは聞いてたからね! お母さんに習った『見聞殺し』、ちゃんとできてるみたいでよかった! じゃあ後は……地力同士の真っ向勝負だ!)
お互いの獲物がまた、比類なく強力な『武装色』をまとってぶつかり合い……
―――ドォン!! バリバリバリバリ……!!
『覇王色』の衝突が起こり……戦いの火ぶたが、本格的に切って落とされた。
☆☆☆
同じ頃……洋上。
持ち主の能力と体格に見合った大きなサイズの艦の上で戦っているのは、こちらも『三人官女』と『将星』の2人……レオナとスムージー。
スムージーの体格は、船のマストのてっぺんに手が届くのではないかと思うほどに巨大化している。彼女の『シボシボの実』の能力で、クルー達や奴隷達から水分を吸収し、その分体格を巨大なものにしたからだ。
当然、体格に見合ったレベルにパワーも増している上、スピードも決して遅くはなっていない。並みの相手なら、この状態で雑に剣や足を振るうだけで、容易く蹴散らしてしまえる。
しかし、今相手をしているレオナはというと……
「くそっ……ちょこまかと!」
地面(甲板)のみならず、空中を蹴り、ネコミミ猫の手猫しっぽの小さな体で、縦横無尽に飛び回り、駆け回る。
剣で叩き割ろうとしても、手で捕まえようとしても、次の瞬間にはそこにいない。上下左右前後に、本当に飛行しているのではないかと思うほど――本当に飛んでいたところでここまで素早く動けるかどうかは謎だが――俊敏に動いてスムージーの攻撃をかわし、隙を見つけて攻撃してくる。
しかも、どうにか攻撃を当てたとしても、
―――ガギィン!!
「うわっと……こんにゃろ!」
真っ二つにするつもりで横一線に放った剣。
それは、レオナの横っ腹に吸い込まれ、確かに当たったにもかかわらず……まるで金属を斬りつけたような硬質な感触と音と共に、防がれ止まってしまった。
びっくりしたような表情になりつつも、レオナは平然と、そのままこっちに飛んできて殴りかかってくる。
その動きに揺らぎは全くなく……ダメージが通っているようにはとても見えない。
(どんなでたらめな防御力だ!? 直撃してもアザ1つできんとは……明らかに『覇気』だけではない……見たところ『動物系』のようだが、能力由来の素の頑丈さか!?)
剣が直撃しても、体術が直撃しても、一瞬硬直するかしないか。攻撃が攻撃になっていない。
そのくせ、レオナの攻撃は、しっかりとこちらに効いてしまうのだから、理不尽を嘆くのも仕方ないというものだった。
生半可な打撃なら、それこそスムージーは『武装色』で無効化できるが、レオナの『武装色』はそれを貫通して来るレベルなのに加え……
「“魚人空手”……“唐草瓦正拳”!!」
腕でガードしようとしたスムージーに対し、寸止めするように放たれた、当たらない拳。
しかし、次の瞬間、スムージーはガードした腕のみならず、その奥で守ろうとした肩や体にまで衝撃が通って叩きつけられたのを感じた。
(“魚人空手”は周囲一帯の『水』を制圧する武術! 私の『シボシボ』の能力に、最悪の相性か!!)
スムージーの『シボシボの実』の能力は、攻撃した相手から水分を奪い取り、それによって自分を強化したり、巨大化する能力。しかし同時に、それだけ多くの『水』をため込んでしまうということになる。
それがそのまま、相手にとっての『武器』にかわってしまいかねない“魚人空手”とは、まさに最悪の相性だった。
こちらの攻撃はろくに当たらず、当たっても効かない。
向こうの攻撃は当たれば特効の大ダメージ。
(接近させるのはまずいか……直撃しなくとも攻撃が私に届く。ならば……)
「“ジューシー”……“アロー”!!」
今度はスムージーは、手元に水を圧縮した矢を作り出し――スムージーの大きさが大きさなので、矢と言いつつ大槍レベルの大きさだが――それを勢いよくレオナめがけて発射する。
当たっても、先の剣撃同様、大したダメージにはならないかもしれないことは想定済み。牽制を兼ねた様子見のつもりの一撃だった。
が、レオナはそれを空中で体をひねってかわし……ただけではなく。
横を通り抜ける瞬間の水の矢に、そっと横から触れたかと思うと……次の瞬間、その水を全て、手のひらで吸い寄せてからめとったかのように、崩して振り回す。
「“
そのまま、回って舞うような動きから……まるで野球のピッチャーのように、大きく振りかぶって……
「“
スムージーめがけて、投げ返した。
ぎょっとしつつもスムージーはそれを剣で防御。
伝わってきた感触からして……自分が投射した時よりも強い威力で投げ返されてきていた。
(今のは……今のも“魚人空手”? いや、水流を操るとなると……“魚人柔術”か!?)
スムージーの予想は、当たってもいるが、外れてもいた。
レオナの使った武術……『
元々は、シキの人脈で手配されたコーチたちから、『魚人空手』や『魚人柔術』、さらに『六式』や『八衝拳』などを学び、片っ端から習得して行っていたレオナだが……それらを組み合わせて、自分なりに新しい武術をいつの間にか作り出していた。
それが、彼女の『故郷』の名をとった武術……『
2年間、パワーでもテクニックでも上を行くゾロやサガと渡り合うために、頑丈さ以外の『強み』を求め、レオナなりに考えて行きついた答えが、この……五体を武器とし、衝撃を操り、水を制圧し……その他諸々、様々な『強さ』を混ぜ込んだよくばり武術だった。
(これ以上火力や規模を上げようにも、これ以上の巨大化は機動力が保てない……かえってやられるがままになるだけだ。かといって守りに入ればこちらが不利……であれば!)
「これならどうだ……『ジューシースパークル』!!」
スムージーは、手から水分を放出し、圧縮した水の弾丸をレオナに向けて放つ。
それらはまるでミサイルのように、着弾と同時に大量の水を周囲にまき散らし、それらは空気よりも重い衝撃“波”となってレオナを襲う。
しかし、それもレオナには効かず、水塊もろとも蹴り砕いて無力化した。
が、スムージーにとってはそれで狙い通り。
ほんの少し、足止めと目くらましができればそれでよかった。
その間にスムージーは、さらに大量の水を湧き出させ、放出。
前方からだけではなく、上下左右全てから包み込むようにレオナに殺到させ……逃げ場のない水の牢獄を作り上げ、閉じ込める。
「能力者である以上、カナヅチは絶対の弱点だろう……溺れろ! 『ヒューマンミキサー』!!」
一瞬で後ろ側にまで回り込んだ水流が全方向から殺到し、なすすべなくレオナは飲み込まれた……
……かに思われた。
が、水を通して伝わってくる感触がおかしいことに、スムージーはすぐに気づいた。
水の牢獄は完成している。全方位隙間なく覆いつくし、後は中に閉じ込められたレオナを圧殺するだけだった。
しかし、重量にして数トンにもなろう、大量の水流の中心で、レオナは……一見すると、渦潮のごとき乱流にとらわれて無力に回っているように見えるが……
「……バカな……!?」
そうではない。渦の中心に……水が届いていない。
丁度、激しく書き回された水の中心が、渦上にへこんで穴のような空間ができるように……水を『つかんで』高速回転するレオナは、その周囲で水を押し止めて無事だった。
「“
能力で水に働きかけても……圧し潰せない。
回転する水は、今もうすでに……スムージーよりもレオナが『掌握』してしまっている。
「あたし、海に直接落とされても、これと同じこと沈む前にやれるんだよね……! ちょうどいいからこの水、全部武器にさせてもらうよ!」
直後、回転しながらレオナが大きく体をそらしたかと思うと、それに伴って水の牢獄が大きく歪み、崩れ……レオナの手に捕まったまま、引っ張られ、まとめ上げられる。
そしてその勢いのまま、レオナは上空高く跳躍し……回転の遠心力を利用して、不規則で読めない軌道で一気にスムージーに迫る。
切り払って撃ち落とすべく振り抜いたスムージーの剣を、大量の水を『持っている』とは思えない素早い動きでかわし……首のすぐ後ろ、延髄の位置に飛んでくる。
そして、手に持った水流全ての勢いと重さをその拳に乗せて……スムージーの延髄に振り下ろした。
「“
人体と人体が衝突した音とは思えないほど、大きく、重い、壊滅的な音が響いて……スムージーの首根っこから頭の中まで、強烈どころではない衝撃が貫いた。
声も出ないほどの、痛みが遅れてやってくるほどの衝撃の大きさに、一瞬で手足に力が入らなくなり……うつぶせに顔から倒れてしまう。ギリギリ船の甲板に収まるサイズでとどまっていたからよかったが、そうでなければ顔から海に突っ込んでしまっていただろう。
しかし、まだ全く助かってはいない。
頭に突き刺さった大きすぎる衝撃に、体が上手く動いてくれないことに危機感を覚えつつ……どうにか四つん這いにまで必死に体を起こすスムージー。
が、いつまで経っても追撃が飛んでこず……それどころか、『見聞色』でレオナの気配を感じ取れない。
だが、この状況で自分を見逃してどこかに去って行ったとは考えづらく……スムージーにはその静寂が、何とも逆に恐ろしいものに感じられた。
ふと、上を見上げる。
ついさっき、艦隊を壊滅させたエネルの雷……それが降り注いだ出元である雷雲が、頭上には広がっていたが……そこにあるものを見つけて、スムージーは目を疑った。
いなくなったと思っていたレオナは……天空高く飛び上がり、その雷雲の中にいた。
そして、コマのように高速で回転し……先ほど水流を掴んで武器にしたように、今度は『雷雲』を掴んで振り回していた。
レオナを中心に、空に渦潮が起こっているように……周囲の空から雷雲が集まってきて、レオナの手元に収束していく。
(あり、えん……!! いくら、水分を操る“魚人空手”や“魚人柔術”でも、雲を……まして雷雲を掴んで操るなど……!!)
(“ありえないなんてことはありえない”!! 無理だと思った瞬間、できることでもできなくなる!! 母ちゃんの本で死ぬほど出てきて死ぬほど読んだ!!)
雷雲の中で回転し、雷雲を手元に集め、圧縮していくレオナ。
当然、雷雲故、電撃が迸ってレオナの体をも巻き込むが……その『ネメアの獅子』の鋼の肉体を生かし、内部へのダメージにせずレオナは電撃を受け流していた。
それどころか、自分を導線代わりにして伝導させ、雷に戻して無駄な放電を防いですらいる。
(だからあたしが、あたし達『3人』が強くなるために一番大事にしたのは……『自分で自分の限界を決めないこと』! とにかくやりたいこと全部やるために、この2年間……頑張れること全部やって頑張った! そんで……やり遂げた!!)
雲とは思えないほど高密度に圧縮された『雷雲』。
レオナが手にしているそれは最早、積乱雲を凝縮した大槌。
雷鳴に加え、それに付随して発生した乱気流や、超低温の
自身もきりもみ回転しながら、大量の雷雲を手に、動けずにいるスムージーめがけてすさまじい勢いで翔け降りていく。
「……っ……ぁぁあああぁああああ!!」
人生最大の危機が迫っていることを悟ったスムージーは、持てる全ての水分を剣に集中させ……余力を残さず、その一撃に全てを込めることを決断する。
動かない体が悲鳴を上げるのを無視して立ち上がり、思い切り剣を、上空のレオナめがけて振り抜いた。
「最大出力……“ジューシーセーバー”ッッ!!」
放たれた巨大な水刃は、ともすれば小さな島なら両断して沈めてしまうのではないかと思うほどの迫力だった。
重力と逆に放たれたにもかかわらず、勢いを一切緩めず、天に届いて空を割る勢いで登っていき……迫りくる小さな怨敵を真っ二つにせんと飛ぶ。
その切っ先が、レオナの拳に触れる……かと思われた、その直前。
水の刃は……レオナが纏っていた『
そして、そのことにショックを受ける時間すら与えられず……無防備に、隙だらけで甲板にたたずむ、全ての水の力を失ったスムージーに……
「“
凄まじい雷と膨大な気流を纏い背負った、レオナの輝く拳が突き刺さる。
「“
スムージーのみぞおちに、弾丸のような……いや、弾丸がかわいく見える勢いで突き刺さったレオナの拳は、次の瞬間、ミサイルでも着弾したのかと思うほどの暴風と電撃、衝撃波を周囲一帯にまき散らして炸裂し……スムージーが乗っていた船どころか、その周囲に浮いていた船十数隻を巻き込んで粉々に粉砕した。
その衝撃は、海面を砕き割り……海の水が押しのけられて、一時クレーターができるほど。
その中心にいて、直撃を受けたスムージーが無事であるはずもなく……甲板に叩きつけられ、その甲板を粉砕し、船の中の床面を次々粉砕・貫通して落ちていき……最終的に背中から海面を突き破った。
衝撃、冷気、爆風、電撃……全てを一度に叩き込まれたスムージーが、意識を保てるはずもなく……水面を突き破り、そのまま、ぴくりとも動かなくなり……沈んでいった。
拳を振り抜いて残心していたレオナだったが、はっと我に返る。
「やば、あたしも沈むこれ! 退避退避……おわっと!?」
その直後、何かにグイッと襟元を引っ張られる感触。
ふと振り返ると、そこには……
「お疲れ様、無事勝ったみたいね、レオナ伯母様!」
「あ、イリスじゃん、お疲れ。今引っ張ってくれたのって……あ、お前かーえんらえんら。ありがと」
「いえいえ、どういたしまして」
イリスと、煙のホーミーズである『えんらえんら』がいつの間にかそこに来ていた。
えんらえんらが体の一部である煙を広げ、クッションのようにそこにぽふんとレオナを乗せてくれる。『ゆっくり休んでていいですよ』ということのようだ。
実際、この戦争におけるレオナの仕事は、将星・スムージーの打倒をもって終わったため、後は後詰めとして待機していたイリス
「あ、それと今沈んでったスムージーは私が回収するね?」
「ん? 捕虜にすんの?」
「多分そうだと思うけど……なんかお父さんが欲しいんだって」
「あー、またアリスの悪い癖か……まあ、いいんじゃない?」
「よし、じゃあ……リュプチェ、オキュー、拾ってきて! あ、海楼石の首輪つけるの忘れないでね?」
「がってん承知ー!」
「それじゃ、ちゃちゃっと行ってくるわねー!」
「お願いねー! じゃあレオナ伯母様、後の処理は私達で引き受けるから……ゆっくり休んで」
「わかった、じゃ、よろしくー……さすがに疲れたし、ちょっと休むわ……」
『万国』領海、最終防衛ライン付近の戦い。
“三人官女”レオナVS“将星”スムージー
勝者……レオナ。
スムージー率いる、本島増援艦隊……壊滅。