大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第298話 大将戦

 

 

「おれの首を獲るってえ……? ハ~ハハママママ……面白いこと言うじゃないか小娘……お前はその手の冗談は嫌いだと思ってたんだけどねえ?」

 

 おかしそうに笑いながらも、目が笑っていないビッグ・マム。

 手に持ったナポレオンの切っ先を、今しがた、不遜な物言いをして見せたスゥの方に向けて、ぎろりと睨む。

 覇気を使っているわけでもないのにその威圧感は、さすがはこの海に君臨してきた『皇帝』だと思わせるレベルのもの。そこらの木っ端海賊では、それだけで震えて動けなくなるだろうそれ。

 

 実際、直接それを向けられているわけでもないナミ達も動けなくなっていたが……しかしスゥは涼しい顔でそれを受け流し、手に持っていた傘を閉じて、武器のように手に持つ。

 

 そのしぐさが気に障ったのか、ビッグ・マムは次の瞬間、乗っているヘラと共に大きく飛び上がり、

 

「生憎と今は……お前みたいな小娘に付き合ってやる暇はないんだよ。邪魔しようってんなら……父親(シキ)より先にお前から殺してやるよォ!」

 

 横一文字に真っ二つにせんと剣を振るう。

 その威力を知っているルフィ達は、次の瞬間スゥがどうなっているかと、悪い想像が頭に浮かんでしまっていたが……次の瞬間、スゥは番傘に仕込まれていた刀を抜き放つ。

 

 もう十年来の付き合いになる、ハンコックからもらった愛刀……名刀『浮雲』。

 覇気を纏ったその刀身を抜き身の勢いで振るい、ビッグ・マムの『ナポレオン』と正面から激突させ……

 

 

 ―――ド ォ ン!!

 

 

 ぶつかり合った2人の『覇王色』。

 その衝撃で……空が、否、天が割れた。

 

 目の前にしていながらなお、目を疑ってしまう光景に、開いた口がふさがらないルフィ達。

 2年間をスゥと共にしたゾロですら、これほどの光景を見たことはなかった。天を割るほどの『覇王』2人の激突の機会などなかったのだから、ある意味当然ではあるが。

 

 そんなルフィ達が乗るサニー号が、ゆっくりと浮き上がり、その場を離れていく。

 いつの間にか船に触れていたらしいシキが、乗っているルフィ達ごと(ローその他含む)この場から持ち去ろうとしていた。

 

 しかし、それをもちろんビッグ・マムも認識していつつも……追いかけたり、止めようとはしない。

 既にその意識は、取るに足らない小僧共よりも、今たしかに目の前にいる『敵』に向いていた。

 

「あァ、まあ……いいさ。シキ達は後でどうとでもする……しかしなるほどねェ、いつのまにお前……こんだけの力を手に入れてたんだい? 数年前、初めて『お茶会』で出会った時と比べたら、まあ見違えるようじゃねェか」

 

「お褒めいただいてどうも……まあ、強くならなきゃ何もできずに奪われちゃう世の中ですからね……そりゃ必死で鍛えましたよ。今日はその集大成を披露するのに付き合ってもらいますから……ご覚悟を」

 

「ハ~ハハマママママ……かわいくねェ生意気な小娘になりやがって。余計な意地や強がりなんぞ覚えずに、大人しくモンドールとでも結婚しておけばよかったものを……一発おれの攻撃をとめたくらいで、勝てるつもりになってんじゃねェぞ!!」

 

 直後、弾かれたようにビッグ・マムとスゥは離れ、大きく、かなり大きく距離を取る。

 お互いが豆粒ほどに見えるくらいの距離にまで……離れすぎではないかと思うほどに。

 

 その理由は、すぐに明らかになった。

 

 2人の間に、突如として上空から巨大な『島』が降ってきて……海を押しのけて着水する。

 こんなことをするのは、こんな真似ができるのは誰か。2人とも一瞬でその答えに行きついた。

 

「おうスゥ、そのへんからちょうどいい大きさの島持ってきてやったから、足場にでも使え!」

 

「ありがと、パパ!」

 

 シキが用意してくれたバトルフィールドに、スゥが、そしてビッグ・マムが降り立つ。

 

 片や両脇に太陽と雷雲を従え、手に巨大な剣を持ち……片や仕込み番傘から抜き放った1本の剣と、まだその身の内に隠している様々な手札を引っ提げて……無人の島の中央で向かい合う。

 

 次の瞬間、合図もなしに戦いは始まった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「いいのかおっさん!? スゥのこと手伝わなくて!」

 

「おっさ……聞いてた通り怖い者知らずだなおめー。まあ、別にへりくだってほしいわけじゃねえからいいけどよ」

 

 戦場を離れて飛んでいく、サニー号の甲板にて。

 今さっきまで自分達がいた方を指さして言ってくるルフィを、シキは呆れた様子で見下ろしていた。

 

 言っていることは単純で、『スゥの加勢をしなくていいのか』というもの。

 

 自分自身が拳を交えたからこそ、ルフィは“四皇”ビッグ・マムという存在の強大さをよく知っている。

 いや、まだ理解できていない部分すらあるが、それでも、強大極まりない、真正面から戦っても容易に勝てない存在だと理解している。

 

 だからこそ、スゥ1人残して自分達は逃げる、それでいいのかと。スゥが戦うのなら、自分達もそれを助けるべきではないかと、シキに問いかける。

 

 それについては、他の者達も多かれ少なかれ同じ思いだった。

 スゥが強いことはよく知っている。

 2年前の当時、空島の一件や、新聞で知った『頂上戦争』での活躍を見ても、それこそ、当時の自分達が束になっても勝てないほどの高みにいたのだろうと。

 

 2年間を経て、強くなったのは自分達だけなはずがない。ゾロや、スゥの娘達と共に、彼女自身も修行していたと聞くし、彼女もまた強くなっているのだろう。

 

 それでも、この海に君臨する『皇帝』の実力は、言葉で言い表すのも難しいほどに絶大で、予想の及ぶところですらない。

 そんな相手と戦うのなら、いくらスゥでも……そんな思いが、クルー達の頭にはあった。

 

 もちろん、その『ビッグ・マム』を相手に、果たして共同戦線を張ったとして、自分達に何がどの程度できるのだろう……という思いも、同時にあったが。

 

(海賊とは思えねえほどに良心的な連中だな……どうも、俺達が好き放題暴れてた頃と、今の時代とでは……全てではないにせよ、海賊ってもんが何を現してるのか、それが随分と違うらしい)

 

 感心半分、呆れ半分、といった様子で、はぁ、とため息をつくシキ。

 

「まぁ……うちのスゥを心配してくれるのは嬉しいが……気持ちだけ受け取っとくよガキ共。まあでもそんなに心配しなくても……というか、してくれたところで……」

 

 

 ―――ズ ド ォ オ ォ ン!!

 

 

「「「…………ッッ!? !? !?」」」

 

「今のお前さん達じゃあ……まだあそこには割り込めねェよ」

 

 

 

「“威国”ゥ!!」

 

「“亜龍・銃蜂”!!」

 

 全てを砕き穿つ衝撃波が放たれ、ビッグ・マムの眼前にあるあらゆるものが……岩も地面も、海さえも貫かれて消し飛ぶ。

 

 それを飛翔して回避し、スゥが放った衝撃波は、ビッグ・マムの眼球目掛けて突き進んだが、少し体を傾けた程度で外されてしまう。

 

 外れたと言っても顔には当たったのだが、傷一つつけること叶わず力なく霧散した。

 鉄板くらいなら打ち抜く威力ではあるのだが、その規格外の頑丈さがよくわかる光景だった。

 

 もっとも、それも予想の上でのことだったのだろう。スゥに動揺はない。

 

 そのまま懐に飛び込んで剣を振るおうとするが、ビッグ・マムをそれはさせずにナポレオンを振り抜く。刃と刃がぶつかり、轟音を響かせ火花が散る。

 そのまま二度、三度と切り結ぶ。

 

「ハ~ハハマママ!! そんな棒切れみたいな剣で、いつまでおれの剣を受けられる!?」

 

「棒切れで悪かったね……あんたのサイズからすりゃ、大体の剣や槍なんか爪楊枝かそのへんみたいな扱いでしょうよ!」

 

 身長8.8mのビッグ・マムと、それに見合ったサイズの『ナポレオン』の前では、スゥ自身も、手に持った『浮雲』も、確かにサイズ的に頼りなくは見える。

 だがそれでも、背中の翼で上下左右に飛び回って剣撃を繰り出し、怪獣相手に一歩も引かない戦いを繰り広げる。

 このサイズ差で、正面から戦いになっている。それだけでも普通に考えれば驚愕の光景。

 

 もっとも、ビッグ・マムからすれば、同じような体格で、しかしかつての自分を圧倒するほどの力を持った者達を過去に知っている。

 そしてそのうちの1人は、悪魔の実の能力すら持たずして、その力と『覇気』だけで災害級の力を発揮してみせ、挙句、全ての海賊の頂点に立ってしまった男だった。

 

 そういった者達と比べれば、目の前の小娘はまだまだかわいいものだと笑う。

 

「ママママ……知ってるよ『海賊文豪』。お前さん、熱が弱点なんだろ? ならこいつはどうだい……“天上の火(ヘブンリーフォイアー)”!!」

 

 続いてビッグ・マムは、傍らに浮いているプロメテウスを掴み、大きく膨張させながら、鈍器のように叩きつける。

 プロメテウスは炎の塊。叩きつけられれば、物理的なダメージに加えて膨大な熱を叩き込まれ、大概の物体は消し炭になってしまうだろう。

 

 ましてや、全身が紙でできていて、熱が大弱点であるスゥにとっては天敵極まりない……が、それでもスゥは慌てることなく、懐からあるものを取り出す。

 それは、くるくると巻かれた紙だった。

 

「もちろん対策はしてきてるよ……水が弱点なんでしょ!」

 

 巻紙を開いた瞬間、『エニグマ』で封じ込められていた大量の水が噴き出し、ぶつかってくるところだったプロメテウスに直撃した。

 

「ぎゃぁぁああああぁ~~~っ!? ま、また水~~~!?」

 

「あぁん!? 小癪な真似を……ヘラ!!」

 

「は~い、ママ!」

 

 ビッグ・マムの合図で、今度は雷雲のヘラが飛んできて、スゥを攻撃……するかと思いきや、剣に入り込んで宿る。バチバチと火花を散らし、電撃迸る剣がその手に完成した。

 

「“マーマ急襲(レイド)”!!」

 

 振り下ろされた雷の刃を、スゥは弾いてそらしつつ、土埃の中を突っ切って飛んで急浮上し……ビッグ・マムの顔のすぐ横に回り込む。

 しかしその背後に、

 

「さっきはよくもやったなぁ~~!! “盗まれた火(シュトーレンファイア)”!!」

 

 勢いを取り戻したプロメテウスが、火炎放射のごとく炎を吹き付ける。

 

「うわぁぁあぁああっ!?」

 

 背後から大火力の炎が直撃し、飲み込まれたスゥは、その『紙』の体を容易く燃やし尽くされてしまい、後には何も残らなかった…………などということになるはずもなく。

 

 直後、眼下の土埃の中から、息を殺して潜んでいた本物のスゥが飛び出し、急上昇してビッグ・マムに襲い掛かる。

 

「え、うそ、偽物!?」

 

「はいその通り! “ 死喪鳥(しにもどり)”!!」

 

 またしてもビッグ・マムの目をめがけて放たれるスゥの突き。

 それを先ほどと同じように、横にずれて回避するマムだが……

 

 

 ―――ピッ!

 

 

 その顔に……スゥの刃が掠ったことで、一筋、赤い線が走る。

 そこから、ごくごくわずかだが……赤い血がたらりと流れ出た。

 

「ええ!? ママが怪我!?」

 

「あいつ、ママの体に傷を……!」

 

 予想外の光景に驚くホーミーズ達。

 ビッグ・マムの肉体は、剣だろうと銃弾だろうと、軍艦の大砲だろうと効かない、かすり傷一つつかないほどの頑丈さを誇る。

 そこらの海賊程度では、そもそも彼女にダメージを与える手段がないのだ。

 

 そんなビッグ・マムの頬に刻まれた、極小ではあるが確かな『傷』。

 ホーミーズ達のみならず、ビッグ・マム自身もそれには少なからず驚いていた。

 

「なるほどねェ……さっきの一撃でもしやとは思ったが、やはり、全く戦いの舞台に立ててねェってわけじゃあないようだ……! 棒切れでも、まともに食らうのは少し危ないかもしれないねェ……!」

 

 まだまだ未熟で、彼女の知る真の怪物達には遠い小娘。

 それでもなお、わずかとはいえ危機感を抱かせるスゥを、ビッグ・マムは警戒し直し……自分の手元にあるカードの1つを切る選択をさせた。

 

 懐に手をやり、取り出したのは……大量の『(ソール)』だった。

 

「それ、そうやってしまっておけんの……?」

 

「マママママ……ここに来る途中に片付けて来た、シキの部下達から引っぺがしてきた『魂』さ……ほぉら、命をあげるよ! 動き出しなお前達!」

 

 数十分前、『ジャム島』でウエディングケーキを食べて復活したビッグ・マム。

 直後にアマンドに、今の『万国』の状況を聞かされた後……すぐさま移動を始め、ホールケーキアイランド本島を目指した。その途中、『麦わらの一味』を見つけ、ついでに殺していこうと襲い掛かった……というのが先ほどのこと。

 

 しかし実はその前に、別行動していた『金獅子海賊団』の艦隊の一部と遭遇しており、それらを単独で蹴散らしている。

 その際に『ソルソルの実』の能力で奪い取った『魂』を、今、バトルフィールドになっている島中にばらまいた。

 土が、岩が、木が、花が……さらには、空の雲も、プロメテウスが燃やして上がった煙までも、そこにあったあらゆるもの達が、『擬人化』して動き出す。

 

 それらは、ビッグ・マムの合図で一斉にスゥめがけて殺到する。

 

 1体1体は大した戦闘能力は持たず、脅威ではないし、そもそも空を飛べるスゥを相手に届かないものも多い。

 実際、スゥは『いちいち相手してられるか』とばかりに飛び上がり、大半のホーミーズ達の攻撃を強引に振り切る。

 

 それでも、雲や煙、飛行能力を持つ虫など、飛べる者達が実力も何も度外して追ってきて、襲い掛かってくる。

 

 それに群がられて思うように身動きが取れないスゥに……ビッグ・マムが狙いを定める。

 

「ナポレオン! プロメテウス! ヘラ! ほぉら行くよォ!!」

 

「「「はい、ママ!」」」

 

 

「“鳴光砲(メーザーほう)”ォ!!」

 

 

 3体のホーミーズがナポレオンを中心に融合し、ビッグ・マムがそれを振り下ろした瞬間、雷、あるいは光の矢と化したヘラが射出され……パシフィスタのレーザーを軽く上回る、凄まじい威力の光線となって放たれた。

 それらは、周囲のホーミーズすら巻き込みながら、よけきれずにいるスゥめがけてまっすぐ迫り……その細く小さな体を貫く……かと思われた。

 

 しかし、その直前で……スゥと、その光線の間に、小さな何かが割り込んできた。

 

 その瞬間、ホーミーズもろともスゥを、全てを貫くかと思われた光線は……まるで岩にあたって弾ける水流のように、ばらけて霧散した。

 直前に割り込んできた『何か』に当たった、いや、『防がれた』のだとビッグ・マムは悟る。

 

 そこにいたのは……黒髪の、小さな少女だった。

 

 スゥのそれとはやや趣の違う和装に身を包み、スゥをかばうように両手を広げて立ちはだかっている。……空中なので『立って』いるわけではないが。

 

 そして、その両手はなぜか……中指と人差し指を絡めるような、奇妙な形になっていた。

 

「何だァ? 誰だい、お前、いきなり現れて……」

 

「お母さまに手出しはさせません……!」

 

「『お母さま』ァ? なんだ、お前の娘かい、海賊文豪……知らねえ顔だが、またどこぞで拾ってきたのかい?」

 

 ちょうど群がっていた全てのホーミーズを切り払ったところだったスゥに、その少女……サーヤは寄り添うように立つ(立ってはいない)。

 その2人の姿……顔かたちなどは、不思議とよく似ていた。それこそ、他の『娘』達……スズやレオナ、アリスなどよりも、よほど『血縁』と思えるような姿をしていた。

 

 スゥに今現在、血のつながった本当の意味での『娘』はいないはずだと認識していたビッグ・マムは首をひねるが、すぐに些細なことだと思い直す。

 

(しかし、こいついつの間に、どうやって現れたのか……まあいい)

 

「どうやって今のを防いだかは知らないけれど、みっともないねェ海賊文豪……誰にどれだけ加勢させようが好きにすりゃいいが、娘にかばわれるようじゃ……っ!?」

 

 その瞬間、何かに気づいたビッグ・マムが、はっとして上を見上げる。

 それとほぼ同時に……空から何十本、何百本もの『レーザー』が降り注ぎ、地上の、空中のホーミーズ達を一斉に貫いていく。

 

「「「ギャァァアア~~~~!?」」」

 

「何だ、何だ~~!?」

 

「ビーム!? 誰!? 何!?」

 

 一掃されていくホーミーズ達。

 その頭上……スゥとサーヤが飛んでいる、そのさらに上に……サーヤと同じ姿で、髪色が鮮やかな緑色をしている少女が飛んでいた。

 

 輪を作るように指を合わせたその手元から、シャワーのようにレーザーが噴き出し、降り注ぎ続け、広範囲のホーミーズ達を一気に片付けてしまった。

 

 その光の豪雨を潜り抜け、わずかに残ったものもいたが……その場に突如として飛来した、無数の紙吹雪によって切り刻まれ、あえなく散っていった。

 

「おい、お前ェ……なんだいそりゃあ……?」

 

「ん? ……ひっ!?」

 

 その緑髪の少女……ナナの元に、ヘラに乗って飛び上がったビッグ・マムが飛来。

 

「そいつは、黄猿の『レーザー』だろう!? なんでお前みたいな小娘がそれを使える!? 答えなァ~!」

 

 振り上げた剣を、ナナめがけて振り下ろしながらそう問いかけるビッグ・マムだが、ナナは怯えた顔を見せつつも、次の瞬間にはその眼前から消えていた。

 そして、移動した痕跡も残さずに、気づけばはるか下の方……スゥの隣にその姿はあった。

 

「ちょっとナナ、何逃げてきちゃってるんですか……いや別に回避だけならまだしも、何でお母さまの陰に隠れるようなそんな……」

 

「ご、ごめんなさいお母さま、サーヤ……いや、その、さすがにびっくりして……あと怖くて」

 

「あははは……そりゃ仕方ないね、うん。あの怪獣怖いよねナナ」

 

 先程からそこにいたナナと並んで、髪色の違う双子にしか見えない子供2人……それが、母親と一緒にいるようにしか見えない光景。

『お母さま』と呼ばれているスゥは、苦笑しながら2人の頭をなでてやっていた。普通の小さな子供にやるように。

 

(『レーザー』を使うのは、黄猿本人以外は、『パシフィスタ』のみのはず……だが、あの小娘がそうだとは思えねえし、今の移動……まさかとは思うが……)

 

「それはそうとナナ、サーヤ、あんた達がここに来たってことは……」

 

「あ、はい。そっちの任務は完了です、お母さま」

 

「この付近に展開していた『ホーミーズ』の軍団、全て片付けてまいりました」

 

 そう言ってペコリと頭を下げる2人。

 

 先程、ビッグ・マムが金獅子海賊団の艦隊の別動隊の1つを壊滅させ、『魂』を奪ったと言ったが……その際に、さっそくその『魂』をばらまいて、剣や大砲、砲弾などを擬人化させた『ホーミーズ』を作り出していた。

 ヘラに乗って飛ぶビッグ・マムほど移動が速くないそれらは、遅れてここに上陸し、先ほどのホーミーズ達と同じようにビッグ・マムに加勢しようとしていた。

 

 それを事前に察知ないし予想していたスゥは、この2人……ナナとサーヤ、それに『ひな壇』の一部の部下達に、それらの迎撃・掃討を命じていた。

 2人がこうしてここに合流してきたということは、その任務が終わったということだ。

 

「おっけー、ご苦労様2人とも。後でスノウやイリス達も誉めてあげなきゃ。じゃあ、お待ちかね……ここからは一緒に行くよ!」

 

「「はい、お母さま!」」

 

 その瞬間、勢い良く飛び上がった2人は、スゥの真上で姿を変え、『合体』し……再びスゥの目の前に降りて来た。

 そしてそこに、すっと差し出すように持ち上げられていた、スゥの手に収まる。

 

 その手にあったのは……『鞘』に入った『七星剣』だった。

 

「……何だい、そりゃあ……?」

 

 ゆっくりと下りてくるビッグ・マムが、思わずといった調子で口にするが、スゥは気にせずその剣を抜き、翡翠の刃に7つの星が輝く美しい剣を月明かりの元にさらす。

 そして、抜き去った後の『鞘』を、そのまま体の中に取り込んだ。

 

 ナナは、『七星剣』のホーミーズ。それと同時に、『ピカピカの実(未来産)』の能力者。

 

 サーヤは、『七星剣の鞘』のホーミーズ。同時に、『バリバリの実(未来産)』の能力者。

 

 

 

 遡ること1年前、イリス達がスゥにプレゼントするホーミーズを何にしようか考えていた時。

 スゥの身を守る手助けとなるもので、かつ、今の彼女に足りていないものは何かと考えた。

 それと同時にレオナが提案した、『極力消耗なしでスゥの身を守れるもの』という提案。

 

 それらを鑑みた上で、ホーミーズとしての性能そのものでそこまでの耐火ないし防御性能を持たせることは無理であるという結論に至ってしまった。

 耐火性特化なら、それこそプロメテウスやイフィジャールのような、炎のホーミーズでも作れればいいが、それだとスゥ自身にもダメージが入ってしまう。ホーミーズの炎でダメージを受けないのは、能力者本人であるイリスだけだ。

 

 検討を続けた結果、イリスたちは、『ホーミーズとしての能力ではなく、ホーミーズに悪魔の実の能力を持たせる』ことを思いついた。

 そして、未来産の悪魔の実の中から、絶対防御の防御力を誇る『バリバリの実』を選んだ。

 

 さらに、以前から『七星剣って鞘ないのちょっとかわいそうじゃね?』とレオナが言っていたことも思い出し、どうせなら……ということで、七星剣を収納する『鞘』を自分達で手作りし、それをホーミーズに変え、さらに『バリバリの実』の能力者にしてしまおうということになった。

 それであれば、スゥの愛刀の1つにして最強武器である『七星剣』とセットで常にスゥのそばにいて彼女を守ることができるし、今までなかった『鞘』ということで洒落も効いている。

 

 鞘の材料の一部に、スゥからもらった、彼女自身が作り出した『紙』を使っているため、そのまま彼女が取り込んで融合することが可能なのだ。

 

 そうして出来上がった『鞘』だが……そこに、試しに『七星剣』を収めてみた結果、予想外の事態が起こる。

 鞘に納めた『七星剣』そのものも、一緒にホーミーズになってしまったのだ。

 

 理由は全く不明だったが、おそらくは鞘と2つで1つという解釈がなされて、入れた『魂』――未来のスズの『魂』――が共有されたのだろうとイリスは見ていた。

 

 その割には、元々の『サーヤ』とは全く別の人格が発現していて驚いたが、聞けば『ナナ』は、もともと『七星剣』に宿っていた人格だという。

 そのオカルト的な要素も、この想定外の『双子のホーミーズ』が生まれた理由の1つかもしれないと、イリスは思った。

 

 そしてナナは、未来産の悪魔の実から『ピカピカの実』の力を得ることになった。

 

 その2人……ナナとサーヤが本来の姿に戻り、スゥの手に、そして体内に。

 

 次の瞬間……スゥの姿が大きく変わる。

 具体的には、背中に生えている翼が……天使のような、羽毛を思わせる(実際は紙だが)形状のそれから変化し……

 

「“エナジーウイング”……展開!」

 

 “光”で形作られた翼膜を持つ、まるでロボットアニメの産物のような『光翼』が、スゥの背中に出現した。

 

 七星剣本来の能力である『翡翠の炎』。スゥの覇気を食って燃え上がるその炎に、ナナの『ピカピカの実』の光が合わさり……翠色の炎でも、黄色の光でもなく、翡翠色の光が生まれる。

 そしてそれを、スゥは『炎』と同様に、自在に操ることができる。

 

「よし……ここからが本番だ! 行くよ!」

 

『『ハイ!』』

 

 光の翼を羽ばたかせ……否、既にはばたく必要はない。

『光』の性質によって発生可能な推進力にそのまま乗って……さすがに『光速』とまではいかないが、これまでとは比べ物にならない速さでスゥは飛んだ。

 

 翡翠色の光の軌跡を残しながら、音すら置き去りにする勢いで飛ぶその姿は、遠くから見ると……さながら流星のようだった。

 

 

 

 

 

「「スッッッ……ゲェ~~~~ッ!!」」

 

「「ロボみてェ~~~~っ!!」」

 

「「…………(しー……ん)」」

 

 遠くから見ていたルフィ達『麦わらの一味』+α……の、一部が、目をキラキラと輝かせて叫んでしまったのも……まあ……仕方なかったのかもしれない。

 

 

 

 

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