大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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ちょっと間に合わなかった……っ!
およそ15分遅れですが、どうにか更新します!


第301話 終戦

 

 

 すげえ大きさの水柱が眼下に見える。

 8.8m……がさらに巨大化して、そのまた巨大化した怪獣が沈んでいったんだから、運動エネルギーだけでもそうとうなもんだろうし、あのくらいの大きさにはなるか。

 

 しかしどうやらもう浮かんでは来ないらしい。『能力者』だから水に落ちれば動けなくなるのに加えて……もう『声』が聞こえない。

 つまりは、そういうことなんだろう。一応……それだけ弱っている、あるいは気絶しているだけって可能性もあるにはあるが。

 

 まあそれはいいとして……この後、私はどうすべきか。

 

 ビッグ・マムに勝ったわけで……今の私の様子は、この戦争にかかわっている皆が見ているだろう。金獅子の旗艦に生中継されているはずなのはもちろん、なんか遠くの方にルフィ達とかロー達とか……あとベッジとかの気配も感じる。

 それこそ、ビッグ・マム海賊団も見てるだろう。パパがあえて落とさずにいるホールケーキ島に作戦本部置いてるらしいし……もうちょっと遠くに感じるこの気配、アマンドだな?

 

(全力戦闘した名残かな……『見聞色』で感じる気配がやたら研ぎ澄まされてる。そのうち収まるとは思うけど……)

 

 まあいいや。それで、この後何するかだよ。

 色んな人達に見られてることを前提にして……今、私がやるべきこと……伝えるべきこと……

 戦いに勝ったわけだが、演説調に何か小難しいことをたらたら垂れ流すのはなんか違うし、簡潔に……よし決まった。

 

 ええと、懐に入れておいた小型通信機をオンにして……これで関係各所には私の声が届くはず。

 

 ばさっ、と、翼を広げる。

 エナジーウイングじゃなくて、あえて天使の翼を。せっかくなので派手に見えるように、3対6枚一気に左右に大きく広げる。見栄えいいはず。

 そこに『ピカピカの実』の能力で燐光を纏わせてさらに見栄え追加。

 

 さらに、『七星剣』を持った手を天高くつき上げて……勝利のスタンディング。

 最後にここで、一言。

 

 

(みんな)…………勝ったよ!!」

 

 

 直後、

 

 通信機越しに、こっちの耳がやられてしまいそうな大歓声がどっと聞こえてきた。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

「「「うおおおおおおお!! お嬢が……勝ったぁぁああ~~~!!」」」

 

「「「ビッグ・マムを……『四皇』を引きずり下ろしたぁ~~~!!」」」

 

 金獅子海賊団の旗艦、『ストロングライオネル号』。

 艦橋にて務めるオペレーターや航海士達は、よく訓練され、どんな状況でも冷静に作戦の遂行、自分の仕事の完遂を目指して動くことができる精鋭達であり、必要がある時でもなければ、大声でやり取りして感情をあらわにするようなことはほとんどない。

 

 しかし今日、この瞬間だけは例外だった。

 そしてそれを、誰も責めることなどできないだろう。電伝虫越しに彼らが目にしたのは……それほどの決定的な、歴史的大事件の瞬間だった。

 

 同じく艦橋に、客人としていることを許されていたモルガンズもまた、狂喜乱舞する勢いだが、同時に冷静に、今の状況を事細かにメモにまとめている。

 明日……に間に合うかどうかは微妙ではあるが、明後日か数日後かの新聞に、あるいは号外で、このビッグ・ニュースを大々的に報じるのだろう。その現場に居合わせたことによって手に入った、数々の貴重極まる取材資料を存分に盛り込んで。

 

(ひよっこだったあいつが、いつの間にか立派になりやがって……)

 

 その艦橋の中心に置かれた玉座に座り、満足そうにモニターの光景も、狂喜乱舞する部下達も、全てひっくるめて満足そうに眺めていたシキ。

 彼にとっても今日という日は、自分の勢力が、数十年君臨した『皇帝』を叩き潰した記念すべき日ではある。

 

 しかし同時に、海賊であるがゆえに相いれなかったとはいえ、かつては同じ船に乗り、物騒極まるバカ騒ぎに興じていた『悪友』が旅立った日でもあった。

 胸にこみあげてくる思いは、色々なものが混ざって複雑な味になっている気がした。

 

 それを数秒、何も言わずに、だまって胸に押しとどめていた後……シキは、声を張り上げた。

 

「よォしお前ら! 騒ぎてえ気持ちはわかるが後にしろ、まだ仕事は残ってるぞ!」

 

 大勢が上げる歓声を押しのけて余りある、大海賊の号令。艦橋が一気に静まり返り、視線がシキに集中する。

 

「見ての通り、リンリンの奴はスゥが討ち取った! 死体を確認するまでは死亡を断定はできねぇが、それは今はいい……ここから最後の後始末まで一気に畳みかける! 首魁が倒れた以上、ビッグ・マム海賊団の連中……特に幹部連中の次の一手は明白! 逃亡だ! 可能なだけの資源と戦力を持ち出してこの『万国』を脱出し、潜み隠れて再起をうかがう可能性が高い! 言うまでもねえが、そうなると面倒で厄介なことこの上ねえ!」

 

 そこまで聞いて……さすがは精鋭集団。シキの言いたいことが分かったのだろう。

 喜びに緩んでいた表情を今一度引き締め、各々席について準備を始める。

 

「これより残敵掃討に移る! ホールケーキアイランド本島周辺に展開している全戦艦は、総力を挙げて周辺海域を封鎖、一隻たりとも『ビッグ・マム』側の船を外に出すな! 魚人及び人魚、その他海中に適応している連中は潜水艇等による脱出を警戒! んで……アリス、レオナ!」

 

「了解おじーちゃん! もち準備できてるよ!」

 

 少し前、スゥが『イノチノシヘン』を解除した段階で、『ひな壇』専用のスペースから艦橋に場所を移してきていた、スゥの娘達。

 その1人、アリスは、シキの声に元気よくそう返すと……手元にあった電伝虫に呼びかける。

 

「聞こえたね『四性獣』? 直ちに作戦行動開始! 『カタログ』に記載した連中を、逃げられる前に片っ端からとっ捕まえろ! 捕獲できない場合は確実に『処分』! いいね!」

 

『『『了解!!』』』

 

 同じように、レオナも別な電伝虫を使って、その先にいる自分の軍団に号令を出す。

 

「あたしらはじーちゃんの手伝いだ! 『アニマルズ』と『ウイングス』は防衛ラインを食い破って、じーちゃんの軍が『スイートシティ』に進む手助け! 『フレンズ』はあたしと合流し次第出撃するからそのまま待機! 『インセクツ』と『グリーンズ』は陸の封鎖、『フィッシャーズ』は海の封鎖に協力! 『マテリアルズ』と『ビーストウォーズ』は何かあった時のために待機!」

 

『『『rん;あろgん;えろいrんgrwんv;あ!!』』』

 

「ごめん何言ってるかわかんねーから1人ずつ喋れ!」」

 

『"アニマルズ""ウイングス"了解! 直ちに出撃します!』

 

『"フレンズ"も了解! レオナお嬢様も早く来てね!』

 

『"インセクツ""グリーンズ"も承知した! 1人たりとも逃しはせんぞ!』

 

『"フィッシャーズ"合点承知! ドタマかち割ってやるペン!』

 

『"マテリアルズ"了解。ご用命がありましたら何なりと。お待ちしております』

 

『"ビーストウォーズ"も了解しまし『変身!』『ダー!』『なんだなぁぁああ!!』『わーぉ!?』『ブゥーン!!』『オラオラァ!』『クァアァーッ!』『シャー!』『ごっつんこォオ!』……えっと、たぶん大丈夫でっす!』

 

「「「ホントか!?」」」

 

 聞いていた面々が、最後に聞こえてきた声優無法地帯に不安をあらわにするが、レオナは、

 

「ああ、大丈夫大丈夫。あそこいつもあんな感じだし」

 

「いやそれ余計ダメなのではないか……まあ、予備戦力だしいいか。ああじい様、イリスとスノウはこの後出撃でよかったんじゃよな?」

 

「ああ。レオナんとこの連中と一緒に、防衛線を食い破ってスイートシティに侵行する。能力を隠すとかそのへんはもう考えなくていい、ホーミーズも全部出して思いっきりやれ」

 

「了かーい! いやあ、ようやく思いっきり暴れられるわね!」

 

「まだまだ不安はありますが、やっていいのであれば……存分に力を振るいましょう……!」

 

 それぞれ、腰の黒刀と、背負った青龍偃月刀に手をかけてやる気十分な2人……イリスとスノウ。

 未来から来たスゥの実子である2人は、いよいよこの戦いが、表沙汰になる戦いにおける華々しいデビュー戦となる予定だった。

 

 ひとまず指示出しはこんなものか、とシキは区切りをつけて、最後に今一度、艦橋全体に声を轟かせる。

 

「変に緊張なんざしなくていい! この戦、俺達はもう勝っている! だがどうせなら、一部の隙も不安もない、完璧な勝利で終わらせたいだろう? これからやるのは100点満点の勝利を150点、200点にするための仕上げだ! 全部終わった後の宴の酒をもっと美味くするために……もう一丁気合を入れていけ!」

 

「「「はっ!!」」」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 一方、

 無限に活気づく『金獅子』サイドとは対照的に……『ビッグ・マム』側は、地獄も地獄だった。

 

 無敵だと、敗北などありえないと思っていた『ママ』が破れ、堕ちていった瞬間を……この目で見てしまった者達。

 信じられない、こんなの嘘だ、頭を抱えて嘆いても……他ならぬ自分達が、その瞬間を目撃した生き証人。

 

 認めるほかない。四皇『ビッグ・マム』は、敗けた。

『ビッグ・マム海賊団』は、もう、終わる。

 

 それを、それでもすぐには受け入れられずに、お通夜のような……いや、それすら生ぬるい絶望具合の空気の中にいた者達だったが、このままではまずいと、歯を食いしばって動き出す。

 

「……チェス従兵達に命じて、持ち出せる限りの物資をまとめさせろ。そして、仮拠点内にいる全ての兄弟姉妹を集めろ。末っ子のアナナまで、全員だ」

 

「も……モンドール兄さま?」

 

「ここはもうダメだ……可能な限りの兵力と物資を持ち出して脱出する。ブリュレに準備をさせろ……!」

 

「に、逃げるというのか、モンドール!?」

 

「捨てるのファ!? この『ホールケーキアイランド』を……『万国』を!?」

 

「私達が……『ビッグ・マム海賊団』が!?」

 

「その『ビッグ・マム海賊団』は、もう、終わりだ……『将星』全員に加え、ペロスペロー兄貴をはじめとした上級幹部も大勢……その上、ママすらやられた!」

 

 冷や汗か何かわからない汗をだらだらと垂らしながら、腹の底から絞り出すように、一言一言を口にするモンドール。

 どれもこれも、彼とて言いたくもない、認めたくもないこと。しかし、受け入れなければ前には進めない。生き残ることすら……そのための手を打つことすら難しい。

 

「俺達では到底、今まで通り海賊団をまとめ上げることはできねえ……ましてや、今まさに襲ってきてる『金獅子』の軍勢を撃退することなんてできねえ!!」

 

 40近い島々を領土として有する広大な『国』、数万の兵力を抱える強大な『海賊団』。

 それらは全て、『ビッグ・マム』の名のもとに1つにまとまっていた集団ないし組織だが……その名が、力が失われてしまった今、自分達の名だけ、力だけでそれらをまとめることができるか。

 

 答えは否。

 仮に今から、金獅子海賊団が進軍せず撤退してくれたとしても、残った者達をまとめ上げることはできないだろう。それほどまでに大きく、絶対的だった『看板』が失われてしまった。

 

 無論、残った者達……コンポートやオペラ、モンドール達も弱くはないし、家族としての絆は強いものだと自負してはいるが、それでも確実に多くを『取りこぼす』。

 

 民たちは離れていく。領土は守り切れない。『ナワバリ』は海賊旗を放り捨て、傘下の海賊団も多くが離反するだろう。裏切って寝首をかこうとする者達すら出るかもしれない。

 

 ましてや、今まさに攻めてきている『金獅子海賊団』。

 自分達と違い、戦力の多くが健在である彼らの進軍をしのぐ力が、自分達にはもうない。このまま何もせず待っていれば、それこそ、力も、財も、命も、誇りも……全て奪われてしまうだろう。

 

 その前に、逃げなければならない。逃げ伸びて、その先で……可能であるならば、力を蓄えて再起を図れれば、あるいは。

 ママがいない今、それがどれだけか細く頼りない可能性かはわかっているが、それでも彼らに残された望みは、それくらいしかなかった。

 

 襲ってきた敵に背を向けて、懸命に戦った味方を、家族を見捨てて、それ以外の全てを捨てて、差し出してまで逃げ延びる。

 それが、それだけが今の自分達にできることだと、未来に可能性を繋ぐ唯一の道だと、彼ら彼女らは、屈辱をかみしめ飲み込み、苦渋の決断をした。

 

 ……しかし、モンドール達は気づいていない。

 その、彼ら曰く所の『苦渋の決断』すらも、まだ状況が見えていない、『楽観視』であったということに。

 

 

 

 その知らせは、数分後にもたらされた。

 

「モ、モンドール兄さん……大変なの……!」

 

「……何だ、一体?」

 

 震えながら何かを伝えようとする妹の1人……19女・ポワールの姿に、モンドールは、猛烈に嫌な予感がした。

 わなわなと震えるほどの、上手く声が出ないほどの動揺を見せているのもそうだが……それとは別に……

 

「おい、ポワール……ブリュレはどうした? 呼びに行ったはずだろう」

 

 ポワールには今しがた、ブリュレを連れてくるように命じたはずだからだ。

 しかし……ポワールは、1人で帰ってきた。

 

 やめろ、やめてくれ、当たらないでくれ。

 そんな、言葉にできないモンドール達の願望は……残酷にも、聞き届けられることはなく、

 

「ブリュレ姉さんがいないの……! 彼女だけじゃなく、一緒にいたはずのマーブルとミュークルも。護衛についていた兵士やチェス従兵達は、全滅してて……探しても、どこにも……ッ! ど、どうしよう……!?」

 

「…………おい……ふざけんなよ……っ!!」

 

 その、罵声にしては力なく口からこぼれた言葉は、誰に対して向けられたものだったのか。

 誰にもわからない。口走ったモンドール自身にすらわからない。

 

 ただ、その言葉は……その場にいる全員の胸の内を代表したに等しいもので……その場の空気は、より一層沈んだものに変わってしまっていた。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「おじーちゃん、報告。ルププ達から今連絡があって、最重要確保目標の1人、シャーロット・ブリュレを今捕まえたってさ。一緒に、『万国』の管理運営にかかる機密書類と、たまたま一緒にいた手長族ハーフの姉妹も2人捕まえたって」

 

「ご苦労さん。相変わらずお前んとこの連中は仕事が早くて頼りになるぜ。頭の中が年中ピンク色だとは思えねえなホント」

 

「あっはっは、イヤー照れるなあもう、そこまで言わなくても」

 

「………………」

 

 今ので純粋に褒められていると受け取って照れるこの孫に、付け加えて何か言うべきだろうか。

 シキは考えた。答えは出なかった。考えるのをやめた。

 

「そのブリュレってのを野放しにすると、『鏡世界(ミロワールド)』とかいうよくわかんねえ能力で逃げ隠れし放題になっちまうからな。攻守両面の懸念要素を排除できたのは大きい。海楼石の錠で拘束して厳重に監禁しておけ。あと、ソゥに『出番だ』って連絡入れろ」

 

「了か……おばーちゃん呼ぶの? 何で?」

 

「最近、グリーン何とかって、能力者の血統因子から『超人系』の悪魔の実の能力を再現したり、人造悪魔の実に落とし込んで複製する研究してただろ? 敵が使ったら厄介極まりねえが、味方に使い手を用意できりゃこれほど有用な能力もそうねえからな。色々試させてみようや。それに……研究材料にする上でも、あいつなら確実な無力化の方法を用意するだろ」

 

「レタス牛乳泡パワー?」

 

「……かもな」

 

 話題に出た、ソゥがメインで研究しているテーマの一つである、凶悪極まりない『生物兵器(バイオウェポン)』を思い出す2人。

 つい最近も、それを使ってある危険人物を見事に『無力化』した実績がある。

 

 

「ドレスローザから拉致ってきた……何だっけか?」

 

「シュガー?」

 

「そうそう、そいつ。アレもまあ最初は、生意気なクソガキだったのが、見事に物静かで従順な、人形みてえな有様になっちまったしな」

 

「アレに使ったのはローコストタイプだから、大人しくなったんじゃなくて自我喪失して人として死んだだけだけどね。肉体は生きてるから『ホビホビの実』の能力は一応保持してて、世界のどこかにリポップする可能性は潰せてるけど」

 

 悪魔の実は、現役の能力者が死ぬと、世界のどこかにその能力を持った悪魔の実が再び現れる、という法則を持つ。

 

 ゆえに逆に言えば、能力者を捕らえ、生かしたまま閉じ込めておけば、その能力の実が、新たに世界のどこかに再誕(リポップ)するという可能性は潰せる。

 大監獄『インペルダウン』が、多数の能力者の囚人を、殺さず閉じ込めるだけにしているのは、この性質がその理由の1つとされている。

 

 そして、ソゥの研究の成果として、『仮に精神が死んでいても、脳機能や心肺機能を保持し、肉体が生きていれば、能力は失われずリポップも起こらない』ということが明らかになっている。

 

 そのため、ソゥの得意分野である、『寄生生物(プラーガ)』を使った肉体の支配で能力者を縛ってしまえば、能力のリポップを防ぐことができ、なおかつ能力者自身は従順な家畜(ガナード)にすることができるという一石二鳥の結果を呼び込むことができる。

 また、単に海楼石などで拘束しておくだけでは、最悪、能力者が舌を噛んだり身を投げたりして自害してしまう危険性もあるが、それも除去できる。

 

 その代わりというわけではないが、人道の『じ』の字もない、人の道を直角に外れていくレベルの行為であることは言うまでもないが……シキもアリスも、向こうから喧嘩を売ってきた敵対者に対して同情するほど優しくもない。

 

「ま、必要に応じてそれらはソゥが判断するだろ」

 

「わかった。その辺も含めて話しとくね。あ、一緒に捕まえた他2人はもらっていい?」

 

「ああ、他はいらん。好きにしろ」

 

 ひゃっほーい! とご機嫌で退室する孫を見送り、『ああいうとこは2年前……いやもっと前から変わんねえな』とため息をつくシキだった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 ブリュレが『金獅子』陣営に奪われた――その現場を見たわけではないが、護衛の全滅と、重要書類まで一緒に消えていたことからそう結論付けられた――ことにより、逃亡の要だった『鏡世界(ミロワールド)』が使えなくなってしまったビッグ・マム海賊団。

 

 いよいよとれる道がなくなり、わかりやすく窮地に立たされた彼ら彼女らは、最終的に意思統一して動くことすらできなくなり、3つに割れることになった。

 そうしなければ、結論の出ない議論で無駄に時間を浪費するばかりか、一部の部下達の離反をも招きかねない危険すらあった。『ビッグ・マム』という金看板がいなくなってしまった弊害が、早くも表れ始めていたのだ。

 

 1つ目は、ビッグ・マムの、そして兄弟姉妹達の仇である『金獅子海賊団』に対し、最後の最後まで戦うという『徹底抗戦派』。

 勝てる見込みがもうないのは理解しているが、それでもただで終わるつもりはない。少しでも敵の傷口を大きくして、1人でも多く道連れにしてみせると息巻く者達。

 

 2つ目は、『金獅子海賊団』に全面降伏して命だけは助けてもらおうという『降伏派』。

 臆病者、裏切り者と言われるのも覚悟の上で、それでも死にたくない、死ぬのが怖いという者もいる。あるいは、自分は死んでも仕方ないが、下の小さな兄弟姉妹達はどうにか見逃してほしい、その為になら……と悲痛な覚悟を決める者もいる。

 

 そして3つ目は、どうにかして包囲を突破、あるいはかいくぐり、『万国(トットランド)』の外に逃亡するという『脱出派』。

 この派閥は、その後、どこかに隠れ住んで、今までの人生を捨てて目立たずひっそりと余生を過ごそうと考える派閥と、隠れて力を蓄え再起を図るのだという派閥の、さらに2種類に分かれるのだが、今はそれを議論しなくともいいだろう。

 

 もちろん、どの派閥にも不安や難点はある。

 

 『徹底抗戦派』として戦えば、最後にはほぼ確実に死ぬことになる。戦いの中で討ち取られ戦死するか、捕虜になった後で処刑されるか……

 あるいは、捕虜になった後、死よりも苦しく、恐ろしく、屈辱的な目に遭うことも考えられる。それら全てを覚悟しなければならない。

 

 『降伏派』として敵に降れば、運が良ければ生かしてもらえるかもしれない。

 しかし、それも確実とは言えない上に、生かされたとしても、『徹底抗戦派』が捕虜になった時と同じように、苦痛や屈辱の中での生になるかもしれない。

 

 『脱出派』は、そもそも脱出に失敗すれば悲惨な末路を辿ることになるのはもちろんだが……仮に脱出できたとしても、外に果たして自分達の居場所があるかもわからない。『ビッグ・マム』という金看板を失った自分達が、味方もろくにいない外の世界で、果たして生きて行けるのか。

 他の海賊、海軍、その他様々な敵対勢力が跋扈するこの『新世界』で、やっていけるのか。

 

 結論は出なかったが……もう時間もない。

 既に金獅子海賊団の艦隊は、決死の抵抗を続けていた外縁部の決死隊を蹂躙・壊滅させ……さらに航空戦力まで持ち出して、今にもこの首都に攻め込もうとしている。

 

 結局、互いを咎めたりいさめたりする時間すら惜しいと思った彼らは、希望者のみでそれぞれの行動に移るチームを取り決めた。

 チェス従兵などの戦力は全て『徹底抗戦派』と『脱出派』に割り振った。『降伏派』には、戦力は割り振らず、あえて丸腰となって無抵抗の意思を示す形にした。

 

 

 

 そして……決行の時。

 『徹底抗戦派』と『脱出派』は、同時に出立した。

 

 作戦は単純。『徹底抗戦派』が戦って囮になっている間に、『脱出派』がどうにか包囲を突破して逃走する、というものだった。

 

 敵は『金獅子』の恐るべき艦隊だが、こちらも両派閥には、内外に名を知られた実力者達が数多くいる。

 『徹底抗戦派』が玉砕覚悟で血路を切り開けば、その間に『脱出派』の、その一部だけでも逃がすことはどうにか可能だろうと、そうでなくともそうするしかないと、覚悟を決めて……まだ夜明け前の暗い海の中を、彼ら彼女らは出港した。

 

 …………そして。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「行くぞお前達! たとえ勝てなくても、俺達の意地を見せてや―――」

 

 

 ―――ドゥン!!

 

 

「や、ぁ……っ(ドサッ)」

 

「「「さ、サンマルク様ぁ―――っ!?」」」

 

 幹部の1人、『エッセンス大臣』であるシャーロット・サンマルク。

 『徹底抗戦派』の1人に名を連ねていた彼が、兵達を前にして、死地へ赴くことを恐れないよう鼓舞しようと声を張り上げた瞬間……超長距離からの狙撃によって沈んだ。

 

 それと同時に、うっすらと海域全体を覆っていた『霧』の向こうで、こんな会話が交わされていた。

 

「……なあブルーメ、今撃ったあいつ、何か言おうとしてたっぽいんだけど……」

 

「その直前で二度と何も言えなくなっちゃったね。ちょっとかわいそ」

 

「ほっといても数秒後か、遅くとも数分後には同じことになってたんだから同じなのですよ。戦場で指揮官があんな風に目立ってる方が悪いのです」

 

「まあ、それもそうだけどよ」

 

「ま、すんじゃったことだし考えても仕方ないってことで。とりあえずブルーメ、ナイスショット」

 

「どうもなのですー。じゃ、ちょっとフライングしちゃいましたが……スゥ、号令お願いするのです」

 

「はいよ。全艦、攻撃開始!」

 

 

 ―――ウオォォオ―――ッ!!

 

 

「も、モンデ姉さん! い、いきなりサンマルクが……」

 

「ひ、怯んではダメよ! 敵の攻撃があることも、犠牲が出ることも覚悟の上だったはず……戦闘開始! 死を恐れず戦いなさい、お前達! 1人でも多く道連れに……」

 

 

 ―――ドゥン!!

 

 

「してゃ……」

 

「「「モンデ様ぁぁああ―――!!」」」

 

 

「……やれやれ、学習しない奴らなのです」

 

 これから『スイートシティ』に乗り込むために艦隊に同道していたスゥ。

 その際、逃げようとしている、あるいは特攻しようとしてくる者達がいると聞いて、『ついでに片付けとくか』と参戦していたが……そのスゥに出番すら来させず、狙撃の腕を振るったその側近・ブルーメの手で、早くも幹部が2名、海に散った。

 

 その銃声を合図にしたかのように始まった戦いは……大方の予想通り、一方的なものだった。

 いや、それすら生ぬるい、単なる蹂躙、とすら言っていい惨状だった。

 

 切り込み隊長を担ったのは、イリスとスノウの2人。

 

「“震撃(グラッシュ)”!!」

 

 空間を殴りつけて発生させて『地震』の衝撃波。

 大砲を乱射しながら、最大船速で……そのまま体当たりする勢いで突っ込んでくる戦艦を、飛んでくる砲弾ごと真正面から粉砕し、止める。

 

 それだけでいくつもの艦が半壊状態にまで持っていかれたところに、イリスが切り込む。

 

「はーいみんな注目! 『LIFE(寿命) or DIE()?』」

 

 イリスの声を聴いてしまった者達の体から……その恐怖と、命に執着する本能に反応して、『魂』が漏れ出してくる。

 

「へっ……えっ? はっ!?」

 

「こ、これ、ママの……な、なぜ!?」

 

 兵達はもちろん、ビッグ・マムの子供達の中にも、困惑で何もできず、また言葉がでない者が大勢出る中……イリスは愛剣から無数の蝙蝠を飛ばし、漏れ出た『魂』を刈り取って収穫していく。

 全ての『寿命』を奪われ、次々と倒れ動かなくなっていく。

 

 そして、船(あるいはその残骸)の上に動く者がなくなったところで、イリスが速やかにそこから退避し……用済みとなったそれらを、スノウや、彼女の部下のホーミーズ達が処分する。

 

 スノウの持つ『青龍偃月刀』から、レーザーのような勢いで噴射される爆炎や、電撃やカマイタチが迸り、切り刻んで焼き払う。

 あるいは、イフィジャールやプネーマと言った美少女擬人化ホーミーズ達が盛大にその力を振るって、焼き尽くしたり、大波を起こして飲み込んで片付けていった。

 

 

 

 さらに、また別な場所では、

 

「キシシシシ!! やっぱり戦争はいいな! しかも天下の『ビッグ・マム海賊団』! あっちでもこっちでも、質のいいカゲや死体が取り放題だ!」

 

「て、てめェ……ゲッコー・モリアか!」

 

「七武海を逃げ出した、元・政府の狗が……今度は金獅子に尻尾振ってやがるのかよ! あがっ!?」

 

 戦場跡から回収した死体で作ったゾンビの軍団を従え、次々に兵や、ビッグ・マムの子供達を拉致して影を切り取っていくモリア。

 それを止めようと襲い掛かった、数人の幹部。しかし、モリアの『影法師(ドッペルマン)』によって蹴散らされる。

 

 さらにまた別な者は、襲い掛かろうとした瞬間に……透明になっていたアブサロムに叩き伏せられて、そのまま抑え込まれた。

 そしてモリアに影を切り取られ、哀れな犠牲者が増える。

 

「おぅ、そいつも幹部だな、でかしたぜアブサロム」

 

「はっ。ところでモリア様、あの妙な連中……ホーミーズ達はどうするんで?」

 

「あァ、あいつらはいらねえ。人間って扱いにならねえからだろうな、影を切り取れねェんだ、捕らえても邪魔になるだけだからさっさと始末しちまえ」

 

「わかりました。せっかくだ……色々と試させてもらうとするか!」

 

 言いながら、口の中に光を収束させ……『パシフィスタ』と同じレーザーを口から放つアブサロム。着弾地点で爆発を起こしつつ、さらに薙ぎ払うように動かし、ホーミーズを一掃していく。

 

 どうにかそれをかいくぐって近づいてきた者達については、単純に腕力で殴り倒して物理的に粉砕したり、カマイタチで切り刻んでいく。

 たまに混じっている人間の戦闘員や幹部は、手加減して殴り倒して昏倒させたり、手のひらから電撃を放って制圧し、投げ飛ばしたり蹴飛ばしてモリアの方に飛ばし、献上していった。

 あるいは……死体にしてから部下のゾンビたちに命じて回収させる。ホグバックによる改造を経て、新たなゾンビが生まれることだろう。

 

 ソゥによって、最新鋭の兵器や、オリジナルの(ダイアル)武装を体内に組み込まれて超強化された成果を、アブサロムはいかんなく戦場で発揮していた。

 

 

 そうして、最後の最後まで戦い、『ビッグ・マム海賊団』の意地を見せてやると意気込んでかかってきた『徹底抗戦派』の者達は……わずか数分のうちに、あっけなく壊滅。

 船ごと粉砕され、何の成果もあげられずに散る……などというのはいい方で、拉致され影を奪われたり、死体を回収されたり、『魂』を奪われて命を落としたり……それぞれ違った、しかしどれも凄惨と言うほかない末路を辿って行った。

 

 

 

 一方で、その『徹底抗戦派』を合意の上で囮にして逃げ出そうとしていた『脱出派』もまた……当然というべきか、ただでは済んでいなかった。

 

「こ、こんなところで死んでたまるか……絶対に、絶対に生き延びてやるファ!!」

 

 シャーロット・オペラ。ビッグ・マムの5男にして、クリーム大臣。

 兄弟姉妹の中でも、年齢はもちろん実力においても上位にいる彼だったが、今彼は、恐怖と戦いながらどうにか船の上で構えていた。

 

 その原因は、目の前にいる1人の男と……彼がたった1人で作り上げた、惨劇というほかない光景にあった。

 

 ここは、タルト軍艦ではなく、幹部としてのオペラの乗船であり、甲板はかなり広く、兵士もその分多く乗っていた。

 それ相応に屈強な、チェス従兵を含む数百の戦力。そんなところに1人で乗り込んで来ようものなら、あっという間に数の暴力ですりつぶされるように殺されてしまうだろう。

 

 しかし……残念なことに、その男は、到底普通ではなかった。

 

「ヤハハハハ……こういうのを確か、何というんだったか……ああそうだ、『無双』だ」

 

 素肌の上に半纏のようなものを着て、黄金の槍を肩に担ぐその男……エネル。

 ものの1分足らずで作り上げた屍の山の上で、おかしそうに笑っていた。

 

 全方向から殺到する兵士達を、手に持った黄金の槍を縦横無尽に振り回して片っ端から薙ぎ払い、切り刻み、叩き潰していった。

 しかもその槍はどうやら帯電しており、攻撃に合わせて電撃がまき散らされて、直撃すれば即死か一発で昏倒、掠っただけでも黒焦げになって昏倒、あるいはショックで動きが止まってしまい、次の瞬間には真っ二つにされる……ひたすらその繰り返しだった。

 

 離れたところから銃撃で仕留めようとした者もいたが、『自然系(ロギア)』の能力による受け流しのせいでダメージは皆無だった。

 

 ならばと覇気を纏わせた攻撃を加えようとすれば、『未来視』レベルの見聞色によって1発も当たらず、かすりもせず、やはりカウンターの薙ぎ払いや、たまに放たれる遠距離の電撃で沈むことになった。

 

 その『電撃』で広範囲を薙ぎ払いでもすれば、それこそ一瞬で終わっただろうに、わざわざ効率の悪い接近戦を楽しむかのようにエネルは戦っていた。

 時には、かわせるはずの攻撃を、槍や腕でわざわざ受け止め……全く攻撃が通じず絶望する敵の体に、そこから電撃を流し込んで仕留めたりと、明らかに遊んでいる。

 

 そのことを屈辱に感じながらも……それを自力で打開するすべを、オペラ達は持たない。

 

 今まさに目の前で、オペラを一番上の兄とした5つ子の兄弟……カウンターとカデンツァが、

 

「「“クリーム”……“パンチ”!!」」

 

 前後から挟み込むように放った、覇気を纏った巨大な拳。

 しかし、あと1㎜のところまで迫っていたそれを、エネルは直前で雷化し、雷の速さで悠々と回避。むなしく空を切った拳同士が、意味もなくぶつかり合う。

 

 まさかあの距離で、あのタイミングで避けられると思っていなかった2人は驚愕するが、そんな隙を見逃してくれるはずもなく……

 

 

「5億(ボルト)……“放電(ヴァーリー)”」

 

 

 巨大な電撃が彼らの体を貫き……一瞬で、消し炭になった。

 

 同じ時に生まれた弟たちの最後を見てしまい、ますます委縮するオペラだったが、

 

「ヤハハハハ……さて、それでお前はいつかかってくるのだ? クリームの化け物」

 

「ひっ……!?」

 

 倒す相手がいなくなったエネルが、じろり、と視線を向ける。

 まるで蛇に睨まれた蛙。オペラは思わず後ずさりするが、その瞬間、後ろの方から、どさどさっ、と重いものが倒れるような音がした。

 

 驚いて振り向くと、そこには、同じく自分の5つ子の兄弟である、残り2人の弟……カバレッタとガラが倒れ伏す姿が。

 そのすぐそばには、拳を振り抜いた姿勢のゲダツと、血に濡れた剣を肩に担ぐオームがいた。どちらの武器も覇気で黒く染まり、それをもって弟達を叩き潰したのだと、嫌でも分かってしまう。

 

 さらにその後方では……別な船を襲い、乗っている巨大な鳥との連携で焼き払っているシュラや、『びっくり雲』をまき散らして機雷のように船を爆散させているサトリがいた。

 

 周囲の船もほぼ壊滅状態、オペラを助けてくれる者は最早誰もいない。

 

「お、俺は“クリーム大臣”……ビッグ・マム海賊団の幹部に選ばれた男ファ! ただではやられない……せめて一矢報いてやるファ!」

 

 絶望しながらも、最後の意地を貫き通してやるとばかりに、オペラは覚悟を決めた。

 体中から怒涛のような勢いでクリームがあふれ出し、船の甲板に広がっていく。

 

「見せてやるファ! 生クリームが持つ『甘い』というちかr……」

 

 

 

「意味が解らん」

 

 

 

 ―――バリバリィッ!!

 

 

 

 電撃が一瞬でオペラの体を貫き、その口を閉ざす。

 『未来視』で彼が言うことを先読みしたエネルだったが、その結果、ないし感想が、先の呆れたような一言だった。なんだ『甘いクリームがスイートする』って。

 

 体が動かず、熱でクリームは溶け、何もできなくなってしまったオペラ。

 その眼前で、やれやれ、と呆れた様子のエネルが半纏をぬぎ、上半身裸になると……次の瞬間、能力で体内に格納していたと思しき、背中に装着された4つの太鼓が出現する。

 

 それらをエネルが『ドンドンドンドン!』と槍の柄で叩くと、先ほどまでとは比べ物にならない電撃が収束し始める。

 

 気付けば、オームもゲダツも既に船の上から退避していた。これから何が起こるか悟ったのだろう。

 

 オペラもまた、具体的に何が起こるかまではわからなかったが……このままここにいれば、タダでは済まないことはわかった。

 わかった上で……どうしようもなかった。

 

 その目の前で、雷が形を成し、巨大な……『恐竜』の姿になるのを、絶望と共に見ていることしかできなかった。

 

「12億(ボルト)……!!」

 

「た、助k……」

 

 

 

「“暴雷竜(ヴァイシュラヴァ)”!!」

 

 

 

 その巨大な(アギト)が目の前で大きく口を開いたという光景が……オペラが最後に見たものだった。

 

 

 

 エネルの放った暴虐的な放電の余波で、オペラの船が消し炭となって崩れていくのを、遠く離れた船から、カスタードは見ていた。

 

「儚い、望みだったか……死力を尽くせば、逃げ出せるかもしれぬなど……」

 

 そして彼女もまた、今にも力尽き、意識を手放しそうになっていたところだった。

 

 相手は、到底自分では勝てないほどに実力が離れている……それが、戦う前から明らかな相手だった。

 こんな戦場でも、優雅に笑う彼女の縦ロールが、まるであざ笑うかのように目の前で揺れる。

 

「カスタード姉さまにしては甘い見積もりでしたわね……上級幹部クラスの1人もいない、敗残兵の寄せ集めで、(わたくし)達の包囲を突破できるなんて本気で思いましたの?」

 

「思わなくとも他に手がなければ、そうするしかあるまい……降伏しても生き延びれる保証がない以上、どうにかして外に出なければ、ビッグ・マム海賊団は本当に終わってしまう……!」

 

「もうとっくに終わってると思いますけれどね……まあ、諦めが悪いのは一種の美徳かも知れませんが……結果が伴わないと、単に見苦しいだけですわよ?」

 

 瞬間、パルフェの姿が消えた……と思うほどの速さで動いた。

 

 カスタードはもちろん、目を放してなどいないし、気を抜いていたわけでもない。まばたきすらしていなかったが……それでも、全く見えなかった。

 そして次の瞬間、脇腹が吹き飛んだかと思うほどの衝撃に襲われ……一発で全く体が動かなくなり、その場に崩れ落ちた。

 

 崩れ落ちる間際、拳を握りしめた姿勢で、いつの間にか自分の隣に立っているパルフェを見て……苦笑する。

 

「まったく……こうも力が違いすぎると、悔しいという気すら起こらん、な……」

 

「散り際はギリギリそれっぽいこと言いますのね。あ、でも安心してくださいまし、カスタードお姉さまは殺さず捕らえることになっていますので」

 

「……? なぜ……生かす? 捕虜にして、辱めるか……そういえば、お前のところには、男も女も関係ない漁色な輩がいたな……」

 

 ビッグ・マムの旗の下で戦っていた時は、自分がまさかそんなことになるとは思いもしていなかったカスタードだったが……戦場で敗れた女戦士がどうなるか、その末路の1つとして、十分に考えられる可能性の1つではあった。

 自画自賛ながら、自分は容姿も整っている自負はあるし、そういう扱いになるのも……屈辱的ではあったが、理解はできた。

 

 ……が、その『男も女も関係ない輩』その他の思考は、そのさらに上を行っていた。

 

 

「あ、いえ、その前に……裸にしてチョコファウンテンに突っ込んで生クリームとフルーツでトッピングして、女体盛りデザートにして美味しくいただくって言ってましたわ。まあその後ちゃんと姉さま自身も美味しくいただかれるんでしょうけど」

 

 

「………………マジで?」

 

「マジですわ」

 

 上というか、斜め上。

 

「…………パルフェ」

 

「はい?」

 

「敵同士になってしまったとはいえ、姉妹のよしみで……最後の頼みがある」

 

「何ですか?」

 

「見逃してくれ。ダメならせめてこの場で殺してくれ」

 

「あ、(わたくし)もその場に呼んでもらって楽しむメンバーに入れてもらってるので無理です。てかコレ発案したの私なので」

 

「お前かよ!? ていうかホントにお前、電伝虫で聞いてたけど色ボケになって……どれだけ見事に『万色』に染められてしまったんだ一体!?」

 

「え、やだぁそんな、聞きたいんですかカスタード姉さま? しょーがないですわねー恥ずかしいけど特別ですわよ? あ、長くなるんでここ座りますね? あれはそう、1年前くらいのことだったんですが、いつもどおりナワバリの外をふらついてた私が偶然……」

 

「え、いやいやいや違う違う違う、聞いてない何も聞いてない。待って、やめて、実の姉妹のそっち系の話聞くの思ったよりきつい……せめてコイバナの範囲ならまだいいけどお前絶対それ以上のことも話すつもりだろ!? おい、パルフェ? 聞いてるかおい、おーい!?」

 

 

 

「オペラの兄貴……カスタードの姉貴も……ちくしょう、こんな……こんなところで!」

 

 もうすでに残り少なくなってしまった戦艦。

 そのどれも、砲撃の雨あられにさらされて無事な艦は1つもない。

 

 その中の1つに隠れるように乗っている、かつてアリスが『ゴブリン亜種』と呼んだ、鍵鼻の男……モンドール。

 次々と兄弟姉妹達の乗る船が沈み、あるいは消し飛び、あるいはバラバラになって海に散っていく中……恐怖していた。

 モンドールも能力者。海に落ちてしまえば、助からない。

 

 加えて、モンドール自身の能力は、応用範囲は広いものの、戦闘力という意味で決して優れているとは言えず――彼にできる範囲では、という但し書きはつくが――この地獄のような、いや地獄そのものの戦場を突破できるだけの力はない。

 

 覚悟を決めて打って出るべきか、それとも今更ながら降参するべきか……結論が出ない。

 

 そして、迷っていた結果……彼は、それを出す機会も永遠に失った。

 

 

 ―――バキャアッ!!

 

 

「うが……ぁあっ!?」

 

 身を隠していた壁の向こうから、突如巨大な手が突き出してきて、モンドールの顔を荒々しくつかみ……壁の向こうに引っ張りぬいた。

 体中で強引に壁をぶち破らされることになり、全身が痛む中でどうにか目を開けると……そこに立っていたのは、間違いなく海賊であるにもかかわらず、軍人のようなコートに身を包んだ巨漢。

 

「ん? 見覚えのある顔だな……こいつ確か、幹部か?」

 

「ああ、そいつはモンドール。確保目標のリストに名前があるターゲットの1人だぜ、シャウ!」

 

(こいつら、確か……『海賊将軍』ガスパーデに、元政府の諜報員『海イタチ』のネロ……!)

 

 頭脳労働を担当することも多いモンドールは、金獅子サイドの要注意人物として、その2人の顔も知っていた。

 戦闘能力を含めた、その『危険度』も。

 

 そして……自分の実力では、この状況で到底、できることなどないことも。

 

 しかし、『降参』や『降伏』のコの字を言うよりも先に、ガスパーデの手がどろりと崩れて水飴状になり……モンドールの顔を覆いつくす。当然、鼻も口も塞がれてしまう。

 声を出すどころか呼吸ができなくなり、苦しさから必死で身をよじって暴れるモンドール。苦し紛れに、手に持っていた銃を何発も発砲するが、『アメアメの実』の能力者であるガスパーデにあたっても、ダメージにはならない。痛くもかゆくもないどころか、気にした様子すらなかった。

 

 そのまま、だんだんと抵抗する力も抜けていき……ぐったりして動かなくなったところで、ようやく解放され……彼らの部下により、拘束されて連れ去られていった。

 二度と日の目を拝むことのできない、暗い牢獄へ。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 『徹底抗戦派』と『脱出派』は、こうしてともに全滅した。

 

 そして『降伏派』は、防衛戦力の全てを沈黙させてスイートシティに進軍してきた金獅子海賊団の軍勢を、無抵抗で、白旗と共に迎え入れた。

 幸いにも、『二代目提督』と『最高顧問』の連名で、

 

・略奪禁止。後がめんどくせえから普通に占領して降伏した奴は丁重に扱え。

 

・ただし、だまし討ちしようとしたバカとかは除く。好きにしろ。

 

・違反したバカは厳罰に処す。ひどい時は『研究室』送りにする。

 

 という声明が出されていたため、意外にも穏便に占領は進んだ。

 なお、『特に3つ目がシャレにならないくらい怖い』『人間として死ねる未来が見えない』との声が大半を占めた。

 

 ビッグ・マム海賊団側は、降伏のための話し合いの代表者として、年長者数名に加えて、プリンが名乗りを上げた。

 後日、詳しい条件その他を通達し、必要に応じて話し合いの席を設けることとなり……ひとまずのところは、降伏者達は指定された施設で軟禁となった。

 

 こうして、『金獅子海賊団』と『ビッグ・マム海賊団』の全面戦争は……『お茶会』から約19時間後の午前5時頃、『ビッグ・マム海賊団』の残党の全面降伏、『金獅子海賊団』及びその同盟者達の勝利という結果で終わりを告げた。

 

 

 




Q.大親分はサニー号にいたのに、いつの間に旗艦に帰ってたの?

A.スゥが『イノチノシヘン』を発動したと同時に「勝ったなガハハ、よし風呂入ってくる」と言って帰っていきました。
でも誰もツッコミ一つ入れてくれなかったのでちょっと寂しそうに飛んでいきました。
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