タイトル通りと言ったら変ですが、この話で作者的にも、やり残したくなかった『大仕事』を書けました。
第304話、どうぞ。
宴から明けて翌日。
「よぉーし、用意できたか野郎どもっ!」
「「「おぉーっ!!」」」
場所は、ホールケーキアイランド本島東、港町。
元は『ビッグ・マム海賊団』及びゲスト用の正規の玄関口だったそこで、ルフィ達が『サウザンドサニー号』に乗り、出港準備を整えていた。
一晩中、思う存分宴で飲み食いして楽しんだルフィ達だが、そろそろ出発しなければならないらしい。
この後たしか、『ワノ国』に行って、仲良くなった侍達に助太刀する形で、四皇『百獣のカイドウ』に喧嘩売るんだったね。
私達は、その見送りに来ていた。
「ありがとなスゥ、色々助かった! 宴もすっげー美味かったよ!」
「食料の補充までさせてもらって、なんか悪かったなスゥちゃん」
と、ルフィとサンジが行ってくるけど、いいのいいの、と返しておく。
さすがは『万国』、食料はうなるほどあるから、いくらでも持って行ってもらっていいさ。
それに元々うちこと『金獅子海賊団』は、スズのおかげで食料自給率がとんでもないことになってて、消費しきれない勢いで、あちこちのナワバリにばらまいてたからね。そこにこの一大食糧生産地がまた手に入ったとなると……逆に使い道の選定が大変な気もする。
……前にちらっと言ってたように、安価すぎる食糧で通商破壊とかできそうな勢いだよ。
「麦わらさん達はこれから、ワノ国で『百獣のカイドウ』に喧嘩売りに行くんだよね?」
「おう。キン達も待ってるだろうし、さっさと行かないとな」
「せわしないのう、ビッグ・マムに続いてカイドウ……連続で『四皇』のアジトに殴り込みとは、色々な意味で殺人的なスケジュールじゃな。しかし、ワノ国か……」
「? どうかしたの、スズ?」
「いや、何でもない」
ふと何か考え込んでる風だったスズだけど……たぶん、彼女の生まれ故郷が『ワノ国』だからだろうな。たしか、そこにある『黒炭』っていう家が生家だとか。
とはいえ、まだ物心つかないうちに連れ出されたせいで、その『ワノ国』がどんな国なのかも、黒炭家がどんな家なのかも何も知らないから、全然帰属意識はわかないらしい。
だから正真正銘、ただ単純に『気になってるだけ』程度なんだろう。
もしかしたら、機会があれば行ってみたい程度には思ってるかもだけど……今は、というかここからしばらくは、私達もドタバタして忙しいからな。
あと、ルフィ達の船には、ドレスローザでも一緒だったメンバーに加えて……この『万国』から、新たにジンベエが仲間として加わり、乗っていくことになった。
魚人島ですでにそういう話してたけど、今回、ようやくビッグ・マムとの繋がりも切れた(というか、海賊団ごとなくなった)ので、晴れて『操舵手』として船に乗ることになったそうだ。
アラディン達『タイヨウの海賊団』も見送りに来てるな。……あの海坊主こと『ワダツミ』は、港にも入れないくらい大きいので、ちょっと隅っこの方にいるけど、表情は笑顔だ。
アラディン達同様、ジンベエ親分の新たな出発を祝えるのが嬉しいと見た。
ああそれと、麦わらの一味の追加メンバーと言えば……他にもいる。
向こうの方で、ペコムズ(号泣)やうちのエルザ(平然)と別れのあいさつをしている、ペドロとキャロットの2人はいいとして……実は今、ナミの『
ビッグ・マムが死んでもホーミーズは消えなかったので、そのままナミのしもべになった。
一応、葬儀には参加して別れは告げた上で。
私とビッグ・マムの戦いの直前には、お払い箱扱いにされてたからな……ここに残る気も特にはなかったみたいだ。
そんなことを考えつつ、ちらっと横に視線をずらす。
そこには、同じように今から出港しようとしてる、ロー達『ハートの海賊団』の船……潜水艦ポーラー・タング号が。
ロー達もこれから『ワノ国』に向かうんだそうだ。元々カイドウを倒すためってことでルフィ達と同盟組んでたわけだし、ドフラミンゴの時に共闘してくれた義理を返す意味も込めて。
同時にうちの傘下からは抜ける。正直寂しいけど、きちんと義理は果たしたうえでの出港だ。笑って送り出してあげることにした。
「色々世話になったな、お嬢」
「こっちこそね。でも、食料とか物資、もっと積み込んでいかなくてよかったの? あんなぽっちで……遠慮しないでまだまだ持って行ってくれていいんだよ?」
「遠慮はしてない。ただ単に積み込み切れないだけだ。潜水艦ってのはスペースが限られててな……むしろ、長期保存のきく缶詰や瓶詰を多く入れてくれて、そこも感謝してるよ」
いえいえ、どういたしましてこのくらい。……マジで余りまくってて使い道なかったんよ。
「ここから先は……敵同士とは言わないまでも、協力はできなくなるが、まあ……達者で、とだけ言っておく」
「またいつでも遊びにおいで。ルフィ達もだけど、食料補給も含めていつでも歓迎するからね。さすがに次以降は代金はもらうけど。それと……」
さらに横に視線をずらし、
「ベッジもまあ……事前に連絡貰えれば補給くらいには応じるよ」
「へっへっへ、そいつはありがてェな。傘下に入ったわけでもねェのにいいのか?」
ファイアタンク海賊団も今から出港です。
ビッグ・マムの首は私がもらっちゃったけど、結果として歴史的な瞬間に立ち会えて、関わることもできて、99%くらいは満足のいく結果だったようだ。上機嫌そうに笑っている。
今言ったように、彼らも結局私らの傘下には入らず、このまま分かれることになった。
パパは『好都合さ。アレを傘下にするなら暗殺に警戒が必要だからな』って言って爆笑してた。本気なんだか冗談なんだか……。
「ま、入る入らないは個人の自由だし。トラブル起こさないなら、観光客的な扱いで歓迎するよ」
「冗談きついぜ。ビッグ・マムを1対1で倒すようなヤベーののナワバリでトラブルなんぞ起こしてたまるかよ。それに、俺もこれから少し忙しくなりそうでな」
「っていうと?」
「妻が、双子の妹……ローラってのに会いたがっててな。探しに行こうと思う。2年前は『スリラーバーク』にいたらしいが、さすがに今はもう居ねえだろう。情報収集から始めるつもりだ」
言いながら、シフォンの方をちらり。
シフォンは、息子のペッツ君を抱きかかえながら、ナミやプリン、パルフェと話してるところだった。『元気でね』とか『ローラに会ったらよろしく』とか話してるようだ。
そして少しその後ろには……なんか、巨人族サイズの顔面に、明らかに不釣り合いな体をした謎のおっさんが、なぜか号泣しながら立っていた。
聞いたところ、なんとこの人……パウンドさんは、シフォン(と、ローラ)のお父さんらしい。すなわち、ビッグ・マムの元・夫。
……といっても、ビッグ・マムにとって『夫』ってのはただの他人で、新しい子供を産むための協力者……ですらなく、道具程度に思ってるらしい。
なので、情らしい情はない。邪魔になったら殺すことすら普通にしてたそうだから。
なので、ビッグ・マムの子供達含めて、パウンドさんを相手にはしてなかったらしいんだが、一方でパウンドさんは、合えなかったこの20年以上の間もずっとシフォン達のことを思い続けていた。思い出の写真の入ったペンダントを片時も放さずに。
無事に再会できた上、孫にも会えた時には、嬉しさのあまり号泣してしまったそうだ。……現在進行形で今も泣いてるけども。
そしてこのまま、ベッジの船に乗って一緒にローラを探しに行くそうだ。体格はいいし力もそこそこあるから、船では雑用でも何でもやって頑張るってさ。会えるといいね、姉妹も、親子も。
ベッジも、表面上はちょっと憎まれ口強めだったけど、『妻の父なら俺にとっても義父、乗せねェわけにはいかねえ』『妻の望みは俺の望みだ』って受け入れた様子。
何だかんだでこの男、愛妻家+子煩悩な一面があるって今回知ったからな……意外にも。
でもそれなら、宴の時からずっと思ってたんだけど……隣に赤ちゃんいるのに堂々と喫煙してるのはいいのかね……? 海賊にこんなこと言うのは細かいことなのかもしれないけどさ。
ちなみに、そのローラからかつて『影』を奪ってスリラーバークに閉じ込めていたモリアは、今うちの海賊団の傘下にいるわけだが……さすがに行方は知らなかった。お役に立てず……。
こんな感じで『麦わらの一味』、『ハートの海賊団』、『ファイアタンク海賊団』の出航を見送るわけだが……ジャッジ達『ジェルマ66』は、もうちょっとここに滞在してからの出発になる見込みである。共同研究の関係で、色々打ち合わせあるみたいでね。
当然、この場にはいない……かと思いきや、さっき一瞬だけ、お姉さんのレイジュがサンジの見送りに来てたな。サンジも、彼女とは比較的仲いいみたいだし……聞いた話だと、ルフィが猛毒の魚を食べちゃった時にそれを救ったらしい(何してんのルフィ……)ので、麦わらの一味の覚えも悪くはないようなのだ。
……しかしさっき、そのレイジュがサンジのスーツのポケットに、何かジュースの缶みたいなものをこっそり入れてたように見えたけど……何だったんだろう?
そんな感じで別れの挨拶も済み、ルフィ達は出港していったんだが……その間際になって、図ったようなタイミングでニュース・クーが来て、新聞を落としていった。
連日新聞トップには、『ビッグ・マム海賊団』の壊滅に関するニュースが載ってたんだけど……最近は、いよいよ始まろうとしている『
シャボンディ諸島に続々と各国の王が集結し始め、聖地マリージョアに向かっているとのこと。
ただ、直前になって『ジェルマ66』は、世界政府自体から外されてしまったので、当然参加はできない。
というか、国王であるジャッジがまだここにいるし。
そのジャッジは、ちょいちょいシーザーとは衝突しつつも、共同研究自体には超ノリノリで取り組んでいるようだった。やはりというか、研究者としては、人格に問題があっても、ママの行っている研究の有用さはわかるみたいで、興味をそそられている様子。
あの分なら、また新しい兵器が生み出される未来も、そう遠くないのかも……怖いなおい。
で、新聞だが……ビビやドルトンさん、Dr.くれはなど、ルフィ達にとっても懐かしい面々が出ていて、懐かしがって読んでたんだけど……その中に手配書が挟まってた。
どうやら、ルフィ達の懸賞金がまた更新されたみたいで。
WANTED!
麦わらのルフィ
懸賞金:10億ベリー
海賊狩りのゾロ
懸賞金:5億1千万ベリー
黒足のサンジ
懸賞金:4億9600万ベリー
海侠のジンベエ
懸賞金:5億ベリー
ルフィ達『麦わらの一味』で懸賞金額が変わったのはこの4名。
ビッグ・マム海賊団との戦争で、幹部を仕留めたり船ぶった切ったりして活躍し、スポットライトが当たった人物が特に上がったみたい。
戦争自体も勝ち戦だったからな。それもあるだろう。
なお、サンジの名前表記が『ヴィンスモーク・サンジ』に変わっていたのを見て、本人ちょっと素直に喜べない感じになってた。
それに加えて、
“死の外科医”ロー
懸賞金:7億ベリー
カポネ“ギャング”ベッジ
懸賞金:4億ベリー
同じく戦争で活躍した彼らの懸賞金もアップ。
ベッジは、目立った活躍は一部だけだったから上り幅は少ないけどね。
そして、ローの懸賞金が上がってるってことは……『七武海』である私の傘下から離れたことももう知れ渡ってるってことか。モルガンズだな……全くもう。
海賊としての“箔”がまた1つついたことに喜ぶルフィ達(ロー、ナミなど一部除く)は、それらを手に意気揚々と出港していった。
……さて、見送りも済んだことだし……
「じゃ……行こうかプリンちゃん。事前に話をしてた通り……ちょっと大仕事に付き合ってもらうね。内容は……何度も言うけど、他言無用だからね、
「わかったわ、スゥさん……案内してちょうだい」
戦争も終わった。
戦後処理も終わった。
けど、この戦争に際してやるつもりだったいくつものことのうち……最後の最後の大仕事がまだ1つ残ってる。
実のところ、コレのために、プリンちゃんを手に入れることが、戦争の目的の1つだった。
幸いにも、と言えばいいのか……自発的に協力してくれることになったけどね。
そしてやってきたのは、私達『金獅子海賊団』の旗艦『ストロングライオネル号』の中でも、最深部に位置している区画の一室。
進入困難ないくつものセキュリティが施されているため、外部に知られてはいけないことをするのにはうってつけの部屋だ。
私とプリンちゃんは、そこにやってきたわけだが……すでにそこには、何人か先に来て待っている人達がいた。
先に来ていたのは、アリス、ルププ、タンタルの3人に加え……スズ、レオナ、ママ、パルフェ。
そして……ボニーと、くま。
くまの方は、まだ意識を取り戻すには至っておらず、沈黙を保ったままだ。ママが修理&治療してくれて、肉体の方は、改造部分を含めて万全の状態に戻ってるけどね。
さて……ボニー、プリンちゃん、ママ……そして、私。
役者は揃い、準備は整った。
「じゃ……始めようか。くまを……目覚めさせるよ」
☆☆☆
現状をおさらいしておこう。
ボニーちゃんの父であるバーソロミュー・くまは、Dr.ベガパンクの手術によって、人格も記憶も失って、意思を持たない『人間兵器』にされてしまった。
その処理は脳にまで及んでいて、通常の方法ではそれらを取り戻すことはない。元通りのくまに戻ることは、もう、ない。
しかし、ママの指摘で、『外科的措置だけで記憶を失ったとは考えづらい』ことがわかり……何らかの能力の影響で、くまの人格と能力はうしなわれているのではないか、と思われた。
それなら、その能力を解除するか、あるいはさらに強力な能力で打ち消すか……そういう対症療法的な何かで、記憶を取り戻すことはできないか。そうも考えられた。
そこから私達は、検討を重ねて……1つの可能性というか、方法に行きついた。
それが……私の『パサパサの実』と、ボニーの『トシトシの実』、そして、プリンちゃんの『メモメモの実』の能力を組み合わせた治療法だ。
まず、プリンちゃんの力で、くまの中から記憶のフィルムを抜き出すわけだけど……
「……ダメだわ、スゥさん。記憶を取り出せない。いや、取り出せるけど、ここ2年間の……くまが最後の『改造』をされてからの記憶しか見つからない」
「ボニーと一緒に過ごした記憶も?」
「ないわ。それ以前の記憶が消されてるというか、抜き取られてるみたい……こんなの初めてよ」
……まあ、ここまでは想定内。
この記憶の欠落に関しては、前に読み取った時に、『エッグヘッド』にくまの記憶のデータが保管されていることがわかっている。それがコピーなのか、それともマスターデータなのかはわからないけど……それをくまに接触させる、ないし戻すことができれば、何か変わるかもしれない。
しかし、エッグヘッドは進入不可能なレベルで厳重な警備が敷かれているし、前に『七武海』の権限で立ち入りできないかって聞いたときには、武装解除の上、海楼石での拘束を条件として出された。とても立ち入るのは無理だし、そこから何かを持ち出すのも不可能だろう。
だから……別な方法でくまの記憶を手に入れる。
「よし、じゃあ……『
前にやった時と同じように、くまの体を『本』に変えて、過去の記憶を見れるようにする。
私が読み取る記憶は、くまの体そのものが覚えている記憶なので、プリンちゃんがアクセスできるメモリーとは別口だ。しかし、まぎれもなくくま自身の記憶であり、広義には同一のもの。
この、確かに存在する『体の記憶』を相手に、プリンちゃんにもう一度能力を使ってもらうと……。
プリンちゃんは、本になっている部分に直接手を突っ込んで、かなり深くまで……それこそ、肘とか肩のあたりまで突っ込んで探っている。……絵面がすごい。
しかし、しばらくして……
「あった……っ!!」
いつも彼女が頭の中から取り出すのと同じ『記憶のフィルム』を……本の中から取り出した。
やっぱり……体の記憶も、『そこにある』ときちんと分かっていれば抜き取れるようだ。内容も……きちんと『本』の記述と一致する。
これを一旦切り離して……置いておく。
よし、じゃあこの調子で……
「頼むよプリンちゃん。大変だけど……」
「大変なのはスゥさんの方だよ……それ、『パサパサの実』の『覚醒』技なんでしょ?」
まあ、そうだけどね……でも他に方法ないから。
『
さて、じゃあそういうわけで……やるか。
くまの『体の記憶』……一生分全部、抜き取るぞ。
―――9時間後。
「「疲れた……!!」」
「お疲れ様、お母さん」
「プリンも……よくこれだけ長く頑張りましたわね」
ぶっ続けで9時間も覚醒技使い続けて、へとへとになった私。
覚醒技じゃないにしても、能力を使い続けて疲弊したプリンちゃん。
体力も限界になって2人とも、あらかじめ用意していた簡易ベッドに横になって、アリスとパルフェに介抱されてるところだ。
途中でママ特製の栄養ドリンクで何度かエネルギー補給しつつやったけど、それでも過去一……それこそ頂上戦争や、ビッグ・マムと戦った時より疲れた。
体力を底の底まで絞り出してやり切った感覚がある……もうしばらく動けん……。
「というわけで、私とプリンちゃんはしばらく休むから……皆、あとよろしく」
「わかった母ちゃん、任せろ!」
力強く返事して頷くレオナ。
そこには、この9時間の作業で私とプリンちゃんがくまの体から抜き取った、大量の『記憶のフィルム』が積み重なっている。
どのフィルムが、いつの、どんな記憶に関するものなのかは、逐一記録して、脱着可能なタグを取り付けてあるので、すぐにわかる。
が……私の『天国への扉』は、どこにどんな記憶が『本』のページとして現れるかは完全ランダムである。そこから片っ端から抜き取って並べただけなので……今、フィルムが積み重なってる順番は、いわゆる『順不同』だ。
これを今度は、時系列順に並べ直す必要がある。
タグを見ればわかるとはいえ、くまのほぼ一生分……『完全改造』されるまでの45年分の記憶だ……すごい量になった。大仕事だぞこれも。
しかし、ボニーとすっかり仲良しになった上、くまの過去についても知っているうちの娘達は、部下も含めて俄然やる気になっている。任せても大丈夫だろう。
私とプリンちゃんは、この後さらに仕事がある。皆を信じて任せて、私達は……休もう。
……ボニーもね。手伝いたそうにしてるところ悪いけど……君の出番はもっと後だよ。
―――12時間後。
……よく寝た。
起きてみると……おお、すごい、あれだけ乱雑に置かれていたフィルムが、整然と並べ直されてる。タグを見ても、きちんと年代別になってるようだ。
その代償に、娘達は……めっちゃ疲れた様子で床にひっくりかえってるけど。
意識はあるようで、レオナが『やりきったぜ……』とでもいうように、サムズアップしてきた。……本当にお疲れさん。
娘達はしばらく休ませてやるとして……さあ、また私達の仕事だ。
今度の作業は……さあ、ようやく出番だぞ。
「ボニー、お願い」
「ああ、わかった……!!」
ボニーがくまに手を触れ、『トシトシの実』の能力を発動すると……くまの肉体がどんどん小さくなっていき……最終的に、4~5歳くらいの男の子の姿にまで縮んだ。
ただし、肉体は改造された状態のままで……それごと『体の一部』として若返っている。
このへんも、例によって悪魔の力のアバウトな部分だな……今回は助かるが。
トシトシの実の能力で若返った人は、肉体は若返るが、精神や記憶は元のままだ。それは逆に言えば、この状態で記憶したことも、元に戻っても忘れないということだ。
くまは今、記憶も意識もない状態だから、それは
なお、やっている最中……ボニーがよく知る『おとうさん』の頃のくまの姿を一瞬経由したからか、泣きそうになってたけど……きちんと最後までやり遂げた。
「さて、じゃあこれから……この記憶のフィルムを、くまに、順番に付け直していくよ」
「わかった……もうひと仕事ね!」
私の『
それはつまり、あるべきところに記憶がないことを意味する。
だから、そこにあるべき記憶を再配置するために、今こうして、45年分のくまの記憶を『体』から持ってきた。
そしてプリンちゃんの能力は、切り取った記憶を再度、つなぎ合わせることもできる。
自分の記憶でなくとも、他人の記憶すら、『フィルム』を繋ぐことで植えつけることができるくらいだ。『体』の記憶でも、くまの『心』に問題なくなじんでくれるだろう。
ちなみに、『トシトシの実』の能力で肉体を若返らせたのは、差し込む記憶と近い年齢にすることで、少しでもくま自身の心身の負担を減らすためだ。
47歳の肉体に4歳とか5歳の記憶を戻して、不具合があってもいけないし。
一番古い記憶から順に、プリンちゃんがくま(4歳)の頭の中に差し込んでいく。時系列順につなぎ合わせながら。
1歳分終わると、ボニーの能力で年齢を調整し、また次の1歳分のフィルムを……という感じで続けていく。
大体はするすると入って行ってくれるけど、たまになじみが悪くて止まってしまう時があった。主に、つらい記憶や悲しい記憶、忘れたいであろう記憶なんかがそうなるようだ。
しかしその時は……
「スゥさん、お願い」
「わかった……『
再度、くまを本に変えて……そこに私が『書き込み』を行い、記憶を受け入れる補助をする。
例えば、子供だったくまが、大人達に追い回されて殴られて、逃げ出したけど連れ戻されて……っていうような場面について。
受け入れを拒んでいるくまを励ますように、『殴られてもくじけない、負けない』『連れ戻されても、今は耐えて生き続ける』とか、暗示みたいな感じで文章をつづって……どうにかその記憶を、受け入れさせる。
なお、書いている内容は、言い回しはともかく、実際にその時あったこと、結果的に正しかったことしか書いていないので、記憶の改編とか矛盾が生じる心配はない。
そのへんの適度な脚色は……『海賊文豪』の腕の見せ所だ。……まさか私の、悪魔の能力だけじゃなく、物書きとしての力が、くまを助けるために必要になるとは思わなかった……。
……でも、こんな形でなら、利用されてみるのも悪くない、かな。
しかし……
(コレ、きついな……体力的にもそうだけど、書き込む場面が場面だから……)
私が『書き込み』をしなきゃならない場面は、イコールでくまにとって受け入れがたい『つらい過去』だ。
そのあと押しをしようと思ったら当然私は、その時のくまの記憶を見て認識したうえでやらなきゃいけない+その場面に沿った励ましを考えて綴らなきゃいけない。
プリンちゃんの記憶のインプットが詰まるたびに、何度も、何度も……くまの人生のあちこちにある『つらい記憶』をほぼ全部見て行かなきゃいけないのって……メ、メンタル削れる……!!
作品によるとはいえ、私基本的にハッピーエンド大好きなんだよ……鬱展開は一部だけとか過去話ならともかく、こんな濃密な、しかもノンフィクションの話とか……きついって……。
いや、泣き言言わずにやるけどさあ! ここまできたら! 見せてやるよ『文豪』の意地!
あーもう……こうなったらちゃんと幸せになってよボニー! じゃなきゃ私(の、メンタル)が浮かばれん!
―――5時間後。
思ったより早く終わったのは幸いした。
けど……記憶の『再配置』も全部終わったにもかかわらず、くまは目覚めない。
最初の時と違って、プリンちゃんが取り出そうとすると、するっとフィルムが出てくる。すなわち、あるべきところにちゃんと記憶がある状態に戻った。
問題はないはずなのに……意識がまだ、戻らない。
「ママ、くまの状態は?」
「肉体的には問題なしよぉ。組み込まれてる改造パーツ的にもねぇ」
インカムで音量押さえてくれているママの診断結果。
「だめだった……のか?」
絶望一歩手前、って感じのボニーの声だが、ママは変わらないトーンで、
「そうとは限らないわよぉ。処置自体は問題なく終わったわけだから、しばらく待ってみるのも手だと思うわぁ。単純に、45年分の記憶の処理に脳が手間取ってるだけかもしれないしぃ」
なるほど……それもありそうだな。
なら、ひとまず能力のフル稼働で疲れてるだろうし、ボニーも――今の彼女には、待ってる時間すら落ち着かなくて苦痛かもしれなくても――休むべきだ。
何か食べ物とかを用意して……ああ、そうだ。ちょうどいい暇つぶしがあったな。
「ボニー、これ……よかったらどうぞ」
「? 何だ、それ?」
私が差し出したのは……ぱっと見は原稿用紙みたいに見える、紙の束だ。
しかし、コレの中身は……くまがボニーと離れ離れになっていた間に、彼女に向けて綴った手紙である。
記憶を見ていると、くまは何度も、何十通もボニーに手紙を出してるようだったんだけど……ボニーはくまからの手紙なんて一度も受け取ったことがないって言ってた。
……政府のことだ。どうせ、渡さず処分してたんだろう。相変わらずろくでもない……。
なのでそれ全部私が、読み取った原文そのまま書き起こしてみた。
代筆だから、くまじゃなくて私の字で悪いけど……よかったら。
そう伝えると、ボニーはしばらくぼーっとしていたけど、震える手でそれを受け取って……ソファに腰かけて、ゆっくりと1枚ずつ読み始めた。
☆☆☆
何てことない近況報告の手紙。
会えない期間が長くなるけど、寂しがっていないか心配する手紙。
ソルベ王国の友人達と仲良くな、わがままを言わないように、と言い聞かせる手紙。
治療が順調に進んでいることを喜ぶ手紙。
9歳になったことを祝う手紙。
その他色々、百通以上にも及ぶ手紙を、ボニーは1枚ずつ読んでいった。
月に10通以上。これだけの思いを、愛を、父は自分に向けてくれていたんだと……その1枚1枚から感じ取りながら、1文字も見逃すまいと目を走らせていく。
待っても待っても手紙は来なかった。
約束を守ってくれないんだと思っていた。
けれど……おそらくはスゥが言っていたように、政府が邪魔して、くまの思いをボニーに届けないようにしていたのだろう。
理由はわからない。ボニーが『会いたい』なんて我儘を言い出したら困るからだろうか。それとも理由などなく、犯罪者の気持ちなど人質に届ける必要はないと切って捨てたのか。
しかし今のボニーには、それすら含めてどうでもよかった。
ただただ今は、父からの声なきメッセージをその目で見て、聞こえない声を聴いていたかった。
気が付けばボニーの姿は、彼女本来の姿……12歳の少女のそれに戻っていた。
事情は聴いていたが、改めてそれを見て驚いているプリンやパルフェの様子にも、黙って手紙を読む彼女の様子に胸を痛めるスゥ達の様子にも、もちろん気づいていない。
そのまま数時間。
最後の手紙を読み終えたボニーは……ふらふらとした足取りで歩いて、横になって眠る、くまの隣に立った。
「手紙読んだよ、お父さん……こんなにいっぱい、書いてくれてたんだね」
当然、返事はない。
それでもかまわず、ボニーは続ける。
「約束、ちゃんと守ってくれて……ううん、それだけじゃない。私が治ったことも、9歳になったことも、ギョギョ達やババーと仲良くしてることも……ベガパンクから聞いてかな? ちゃんと知ってくれてたんだね……それも、全部、喜んでくれてて……」
「大丈夫だよ……もう、大丈夫。私の仲間は、皆いい奴だし……ババーが言ってた通りチンピラだけど……もう立派に海賊やってるんだ! 最近はスゥのところでさ、『傘下』だけど、友達みたいなもんで……遊びに行ったり、修業したり、バーベキューとかたこ焼きとか手巻き寿司とか……あ、そうそうアリスがさ、もうこのまま私もスゥの『娘』になれよとか言ってさ! 全くもー……」
「お父さん、ずっと私のこと心配してくれてたよね……大丈夫だよ。私……ちゃんと治って、10歳になって……今も、元気にやってるよ。これからも、もちろん、ずっと……」
「…………でもね……」
「お父さんがいなくても……大丈夫、って意味じゃ、ないよ……!」
一生懸命笑おうとしている。
心配させちゃいけないから、しっかりしなきゃいけないから。
くまを……自分の自我が消えた後、ボニーは大丈夫だろうかと、ずっと思ってくれていた父親を……安心させてやらなきゃいけないから。
しかし大失敗して、口だけ笑って涙も鼻水もぽろぽろこぼれていて。
「昔みたいに、また一緒にピザ食べようよ……海であったこととか、色々話して聞かせてよ……私も、お土産話いっぱいするから……! 言いたいことも、聞きたいことも、やりたいことも、いっぱいあるんだよ……! 海賊だもん、我慢なんかしたくないよ……!!」
それらを拭くこともせず、できず……ボニーはただ、心のうちを言葉にし続けて……
「黄猿とか、ベガパンクとか、びっくりさせてやろうよ! 親子で一緒に行ってさ……コニーのババーにも、また2人そろって会いたいし。ギョギョ達とまたみんな、みーんな一緒に、食べて、騒いで…………昔、みたいに、っ……」
「だから、お父さん……!」
「お願いっ!」
「目を、開け―――」
……その瞬間。
ボニーと……くまの、目が、合った。
☆☆☆
「「「……え?」」」
ごめん、思わず声が出ちゃったのは許して。
そのくらいびっくりした。私も……娘達や、プリンちゃんやパルフェも。
声上げてないのは、ママとボニーだけだった。
ママはあれで、割と動じないというか、動揺を表に出さないのも得意なタチだからいいとして……ボニーは、今目の前で起こってることを飲み込めてない感じだな。
無理もない、突然……本当に突然……
……くまが、目を開けた。
肉体の反射とかそういうので、勝手に目が開いてしまったとか……あるいは、『パシフィスタ』として起動して目を開けただけだとか、そういうのではない。
だって……『声』が聞こえる。
目の前にいる、くまの……くま自身の『声』が……見聞色を通して、確かに聞こえる。
それはつまり、確かな『意思』があるってことで……
フリーズしているに等しいボニーの前で、くまは、ゆっくりとその大きな手を持ち上げて……
「……ここが天国なのか、地獄なのかはわからんが……随分と気が利いてるじゃないか」
優しく、本当にやさしく……その頭をなでた。
そして……
「一目、見ることもできなかった、ボニーの姿……幻か何かでも、嬉しいな。あぁ……無事に10歳になったんだな……おめでとう、ボニー……!」
感情のない『人間兵器』には、絶対に不可能だと断言できる……優しい笑顔を浮かべた。
その眼のふちに、きらりと一滴、涙まで浮かべて。
その瞬間……ショックで止まっていたボニーの涙が、また流れ始めて……
けど、その顔は……
「10歳じゃないよ……もう12歳だよ……! お父さんの……
涙まみれ、鼻水まみれでも……それでもなお、晴れわたるような……最高の笑顔になっていた。
……ごめん。ここから先は……何が起こったか、よく見えなくて……わからないんだ。
だって、目の前が……ぐにゃぐにゃに歪んで、滲んで……
こんな、こんな場面、目の前で、ノンフィクションで……!!
年取るとさぁ! 涙もろくなるんだよ!
空気読めないのはごめんだから、今は黙って……声かけるのは後にさせてもらうよ。後でゆっくり……皆でお祝いしようね。
おめでとう……本当に、よかったね、ボニー……!
というわけで……やっと、やっとこの話書けました……思いついてからが長かった。
ボニーとくまの関係は色々デリケートというか、今後本誌原作でどんな設定や展開が明らかになるかわからなくて、もしかしたら後から矛盾とか出てくるんじゃないかとか怖いんですが……もしそうなったら許して。
この世界では、無事、くまは戻ってきましたということで。
2024年もありがとうございました。
来年もどうぞ拙作をよろしくお願いします!
……もう終わるけど!
皆さまよいお年を! 破戒僧でした!