大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第34話 スゥ15歳、編集者と打ち合わせ

 

 

 『シャボンディ諸島』で思わぬ再会を果たしてから、また数日。

 無事に拠点の島に帰ってきた私は、とあるカフェにて、担当編集者のエディちゃんと待ち合わせをしていたところだった。

 

 ちょっと早くついてしまったので、待っている間に、そのへんで買った新聞を読む。

 

 ふむふむ……ほうほう……んー……

 

「……ふぅ、よかった」

 

「すいません、お待たせしまし……? スゥ先生、何で新聞読んで安心してるんですか?」

 

 お、エディちゃん来た。

 私の様子が見えてたのか、『何かいいことでも載ってました?』と聞いてくる。

 

「いや、どうやら私、指名手配はされてないみたいだなーって思って」

 

「……え、何か指名手配されるようなことやらかしたんです?」

 

「いや実はかくかくしかじかで」

 

 こないだ、賞金稼ぎやってたら人攫いの船に捕まって、でも返り討ちにして普通に帰ってきたことを話して聞かせる。

 

 なお、シャクヤクさん達に会ったことは端折った。言う必要ないからね。

 レイリーさん達、今はもう隠居生活ってことで静かに暮らしたいそうだし、他の人に知らせて騒ぎにする気は微塵もないです。

 

「色んな意味でスゴいことしてますね先生……。気を付けてくださいね、先生かわいいんだから、そりゃ無防備にしてたら人攫いも狙いますよ」

 

「まっとうに働いて稼ぐってことができないのかなー、ああいう連中は」

 

「まあ……大海賊時代、なんて言われてる世の中ですからね。楽して稼ぎたいって人はどこにでもいるってことですね……怖い時代ですよね」

 

 海賊にしろ人攫いにしろ、当然のように人の不幸を前提にして稼ごうとする連中がそこら中にいる時代だからなあ……やれやれ、迷惑な話だよ。

 ま、それを飯のタネにしてるのが私ら賞金稼ぎでもあるんだけどね。

 

 しかし、人攫いに抵抗して暴れたり、被害者になった人を助けようとしたら、助ける側が海軍に逮捕されて、人攫いの側が見て見ぬ振りされるんだから……ホント、変な世の中だよ。

 

 私も一歩間違えれば、これで犯罪者扱いされて、海賊みたいな賞金首にされちゃうかもしれなかったんだもんなあ……

 まあ今回は、割と派手に暴れはしたけど、事件にはなってないみたいでよかった。

 

「先生! 私、先生なら、たとえ海賊や賞金首になったとしてもついていきます! 地の果てまで追いかけて原稿取りに行きますから、気にせずどんどん作品書いてくださいね!」

 

「縁起でもないこと言わないでちょーだいよ、エディちゃん……」

 

 

 

 さて、世の中を嘆くのはこのくらいにして、と。

 

 作家と編集者が会うんだから、当然やることと言えば、執筆作品についての打ち合わせである。

 

 どうにか軌道修正して仕事の話を始めると、途端になぜかエディちゃんは沈んだ表情になり、

 

「そのことなんですが……すいません先生、この間もらった作品なんですけど……原稿を会議にかけたら、ボツ食らっちゃいました……」

 

「あれ、ダメだった? あー……そりゃ残念」

 

 どうやら、書籍化するかどうかのふるいに落とされてしまったようだ。

 結構いいのが書けたと思ってて、自信あったんだけどなー……エディちゃんも『すごく面白いと思います!』ってめっちゃほめてくれたし。

 

 申し訳なさそうな感じで、エディちゃんが詳しく話してくれる。

 

「おおむね内容は面白いって好評だったんですが……編集長が、政府や公権力に批判的な内容だと睨まれるから出版は難しい、って……」

 

「あー……そういう方向でか」

 

 確かに……今回渡した話、アウトローサイドが国や貴族を相手に戦ったり、倒したりして活躍する感じの話だからな。

 

 英雄の血を引く主人公が、世界を救う勇者となるべく旅に出る。

 

 しかし、その途中で訪れた大きな国の都で、『そいつは英雄じゃない、悪魔の子だ!』って謂れのない罪を着せられて、わけもわからないうちに捕まってしまう。

 幸いその後脱出することに成功したものの、そこからは追われる身となりながら、それでも仲間達と共に世界を救うために戦っていく。

 

 やがて、その国の王様や軍師こそが、悪の軍団に魂を売った諸悪の根源だったことが分かり、敵だったその国の将軍や、武闘派の王女様、他国の騎士、義侠心溢れる大泥棒などの愉快な仲間達と一緒に、世界を救うために巨大な悪に立ち向かう……

 

 とまあ、そういうお話である。ストーリーも割とわかりやすくして、子供から大人まで楽しめる作品にしたつもりだったし、人気が出たら続編が作れるように色々と考えてあったんだけどな。

 

 まあ確かに、アウトローが公権力に立ち向かう的な話になっていたのは確かだ。

 けど、黒幕は確かに国の重鎮とか貴族ではあるものの、その性根については普通に悪役で、決して国の貴族そのものが悪いとかいう内容にはしてないんだけど……それでもダメだったか。

 

 エディちゃん曰く、最近人事異動で編集長が変わってしまったらしい。

 新しく来た編集長は、そのへん頭が固いというか、保守的な感じの人で……必要以上に刺激的な内容の話を避ける傾向にあるんだそうだ。

 

 こと、今回みたいなクリミナルやアウトローな内容のものは、海軍や政府に睨まれるかもしれないからと、ここ最近の会議で軒並みボツくらってるそうだ。

 

「それだと……今考えてる話も通らなそうかな?」

 

「どんな話ですか?」

 

「生まれつき親に見放された孤児達が、生きるために犯罪に手を染めながらも力強く生きていく、って感じの話。泥棒とかそういうのは、堅気じゃなくて悪人だけを相手にやって、いずれは裏社会を牛耳る巨悪を打倒して、奪い取った黒い金で弱者を救う、的な感じで」

 

 ストーリーの中で、実際にこの世界で今もどこかで起こっている、貧困や格差社会、子供達への虐待やネグレクトなんかを問題提起したりして、そういうのを人々に知ってもらえるきっかけになるような作品になるかな、って思ってたんだけど。

 

 あと、『この作品に出てくる犯罪の手口や、その予防策は全て実在するものです。ぜひ参考にして防犯にお役立てください』とか注釈で書いたりしてさ。

 

「あー……確実にアウトでしょうね……私的には、面白そうだし、書いてもらいたいなって思いますけど……。うちの出版社、割と自由で刺激的な内容の本も出すのが売りだったんだけどなあ……」

 

 はぁ、とため息をつくエディちゃん。

 

「それと先生、言いづらいんですけど……」

 

「? 何?」

 

「その会議で……というか、ほぼほぼ編集長からの意見として出てきたんですけど……作家さん達には、できれば今後、海軍や政府を英雄的に持ち上げるような、イメージアップにつながるような話を書いてもらう方向で……っていう話が出まして」

 

「え~……」

 

 それは……いくら何でも露骨というか……あんまりじゃないの?

 その『編集長』の考えてることが見えて透けるような感じだよ。ただ単ににらまれないってだけじゃなくて、そういう公権力サイドに気に入られようとして方向性を定めてないか?

 

 私は『書きたいものを楽しく書く』がほぼ信条みたいな感じの作家なので……そういう指図は受けたくないというか……『これを書け』って言われてテーマを定めて話を作るのが苦手だ。

 無理やりに書いたとしても、いい作品が出来上がる気がしないし……途中で苦痛になってエタる……もとい、辞めちゃうと思う。

 

 相当なプロ意識でも持ってない限り、熱意とかやる気ってのは、物書きにとってめちゃくちゃ重要な要素だよ。

 今書いてるその話を、自分でどれだけ好きになれるか。執筆に向かう『熱』をどれだけ燃やし続けられるか。作品の質はもちろん、続くかどうかすらそこに左右される。

 

 読者の感想とかファンレター的なのは、そこに響いてくる燃料なんだよな。私の作品がこれだけ人に読んでもらえてる、こんなに人を幸せにしてる、って実感できるから。

 

 まあもちろん、そういう方向で面白そうな話でも思いついたりすれば、そういう内容の物語を私自身の意思で考えて書くことだってあるだろうけどさ?

 

「私としても、先生には書きたいものをのびのび書いてもらいたいと思ってます。絶対そっちの方がいい作品ができると思いますし、そういう先生が書いた作品が私は好きです!」

 

「ありがと、エディちゃん。まあ……ひとまず今日持ってきた案はボツとして……色々考えてみようかな。その編集長のお眼鏡にかないつつ、私も楽しんでかけるような題材が何かないか……あんまり思いつかなそうなら、あちこち取材に行って探すのもいいかもね」

 

「今度はさらわれないでくださいね?」

 

「はいはい」

 

 もう奴隷はこりごりだよ。

 いやでも、いっそ奴隷を題材に作品を作ってみるのも……1つの手か?

 

 貴族出身の冒険家達が乗る船の中で、1人だけ身分が低い出身であることから、奴隷扱いされて過酷な労働や戦闘に従事する日々を送る主人公。

 しかしある時、仲間に見捨てられて船を下ろされてしまう。

 

 だが長いこと過酷な環境下で生きてきた彼は、貴族の令息達やその私兵達をはるかにしのぐ力を手に入れていた。

 それこそ、戦いの場に現れれば、瞬く間に海賊やら悪の軍勢を倒し、英雄とまで言われるであろうほどの力を。

 

 そんな自覚など全くなかった主人公だが、貴族の令息たちというお荷物がいなくなったことで、自分の力を存分に発揮できるようになる。

 その活躍は瞬く間に国中に広がり、その力を認められて地位や仲間にも恵まれ、奴隷だった昔が嘘のようなサクセスストーリーを……

 

 ……奴隷階級に変な希望を持たせて助長させる、とか言われてボツ食らいそうだなー……

 割と面白いと思うんだけど……そんな風に色々考慮して物語を考えなきゃいけないとは。

 

 せっかく、夢を活字で見えるようにする職業をやらせてもらってんのに、窮屈なもんだよ。

 

「……もし、先生が今の会社を耐え切れないほど窮屈だって思うなら……移籍するっていう手も、あるにはあると思いますよ?」

 

「え゛っ!? い、いやいやいや……エディちゃんそんなこと言っちゃダメでしょ。仮にもエディちゃん、今いる出版社の社員なんだから、その会社の不利益になるようなこと……」

 

「大丈夫ですよ! 先生が移るなら、私も一緒に移りますから! さっき言ったじゃないですか、地の果てまで追いかけていくって!」

 

「えー……さらっと覚悟決まりすぎだよ、エディちゃん」

 

 熱意があって頼もしいけど、ちょっと暴走気味で怖いとこあるなあ、うちの編集。

 

 

 

 

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