大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第37話 スゥ16歳と天竜人

 

 いやもう、運が悪かったとしか言いようがない。

 

 いつもの調子でシャボンディ諸島に来ていた私は、ふらりと立ち寄ったご飯屋さんでお昼ご飯を食べた後、お勘定を済ませて外に出た。

 

 そしたら……目に見える人達が全員膝立ちの姿勢になってて、やっべえコレまさか、と思いつつ私も同じようにする。

 

 すると案の定、向こうの方を天竜人が歩いていた。

 いや、歩いてはいなかったな。例によって奴隷と思しき人(純粋な人間か、魚人とかあたりかはわからんが)の背中に乗ってた。

 

 シャボンのヘルメットをかぶり、宇宙服みたいな動きづらそうな服。『下々の者達と同じ空気を吸いたくない』という理由であんな感じらしいんだが……あんなんかえって動きづらくてストレスになるんじゃないか、っていつも思うんだが……。

 まあ、世界の貴族が着ているものなんだから、なんかすごい技術で軽く動きやすくできてるのかもしれないし。

 

 右手に自分が乗っている奴隷の首輪の鎖、左手に引き連れている奴隷の鎖を持って、周囲を大勢の黒服の護衛達に囲まれ、周囲の人々が怯えながら膝立ちで震える中を、構わず――というか、そもそも気にもしていないように見えた――悠々と歩いていた。

 

 そのままさっさと行ってくれ、と思いつつ待っていたんだが……なぜかその天竜人は、急に方向転換すると、そのまままっすぐこっちに来て……内心で『え、何? 何?』とめっちゃ焦っている私の、すぐ目の前にまで来た。

 そして、私の顔を横からじーっと見たかと思うと……一言、こう言った。

 

 

 

「よし、妻にしてやるえ」

 

 

 

(………………は?)

 

 起きたことと言えば、これが全てである。

 

 思わず平伏を忘れて顔を上げちゃったけど、幸いというか気にした様子はなく、その天竜人(名前知らん)は、そのまま踵を返してさっさと歩いていった。

 周囲の人達は、気の毒そうな目で私のことを見ていた。

 

「では、こちらへ。第27婦人として聖地へお迎えいたします」

 

 と、護衛の黒服の人の1人が私に『立て』と促してくる。

 ……え、マジで? 空耳とか気のせいとか人違いじゃなく、私?

 

「あ、あの……え? 私ですか?」

 

「はい、おめでとうございます。あなたは天竜人・バノサッカ聖に見初められ、その妻の1人となる栄誉を授かったのです。さあ、どうぞこちらへ」

 

 その黒服の口調は丁寧だったけど、実質的に『さっさという通りにしろ』って威圧されているような気分だった。

 いや、実際そうされていたんだと思う。天竜人の意向に逆らうってことは、些細なことでも大変なトラブルのもとになるから。

 

 その黒服以外にも2人ほど私が動くのを待っていたのは……抵抗したり逃げようとしたら力ずくで取り押さえる気なんだろうな、ってすぐ分かったし。

 

 ふと見れば、周囲の人達も『頼むから大人しく言う通りにしてくれ』って感じの表情になってる人が……1人や2人じゃないな。

 

 まあ、彼らを責めることはできないだろう。気分1つで平民の命を消し飛ばせるような連中が相手だ。しかも、公権力が味方に付いている以上、海賊より質が悪い。

 何もできず、ただ何事もなく過ぎ去るのを待つしかないわけだし。

 

(……あー……ダメだ、コレもう逃げられない)

 

 私は脳をフルスロットルで回転させ、これからやるべきことを考える。

 

 この場から逃げ出す、というのも一瞬考えはした。

 けど……できないことはないと思うけど『天竜人に逆らった』という特大の罪状を抱えてお尋ね者になる未来しか見えない。そうしたら、この先ずっと追われる身になるな。

 

 私個人としてもそれはきついと思うし、それ以上に……今まで関わってきた人達にまで迷惑がいくのが怖い。

 

 天竜人はとにかく理不尽だから、一族郎党皆殺し的なノリで、関りがあった人達にまで被害が及ぶようなことも平気でやるだろう。悪いのは私一人、他は関係ない、というのは通じない。

 追われるのが私1人で済むならともかく……それは嫌だ。

 

 エディちゃんやモルガンズ、レイリーやシャッキー……仲のいい人たちの顔が次々浮かぶ

 ……後半の2人は全然普通にどうにでもしそうではあるけど、今まで通りこの町で隠居生活を続けていくのは不可能になるだろうし、仲良くしてるはっちゃんは全然弱いから普通に危ない。

 

 ……逃げ出すのは却下だな。覚悟を決めよう。

 

 けど、それならそれで何かしらやりようはあるはず。ただ流されるままにするだけじゃなく……大きな流れには逆らわないようにしつつ、その中で……

 

 促されるとおりに立ち上がりつつ、黒服の人に『あのー……』と話しかける。

 

「私はこれから、どこに?」

 

「バノサッカ聖はしばしこの近くを散策し、お買い物などされていかれますので、先に港にある船にご案内します」

 

「その前に、身の回りの整理とか、準備をすることはできますか?」

 

「申し訳ありませんが、万が一にもバノサッカ聖を待たせたり、こちらの旅程に差し障るようなことがあってはいけませんので、ご遠慮ください。必要なものは全て聖地にて揃えさせていただきますので、ご安心を」

 

「では、船で待っている間に、家族などに手紙を書くことは?」

 

「その程度でしたら可能かと。手渡しはかないませんが、こちらで発送の手配をいたします」

 

「わかりました、案内をお願いします。あと、船についてからで結構なので、紙とペンを」

 

「心得ました、どうぞこちらへ」

 

 

 

 そのまま私は、天竜人の船(正確には、世界政府の船か。マストに政府のマーク入ってるし)に乗せられた。

 

 ボディチェックを受けさせられ、番傘を含む武器の類は取り上げられた。

 『お預かりするだけです』とのことだけど、果たして返ってくるのやら……?

 

 その後、船室の1つに通された。高級ホテルみたいな部屋で、びっくりした。『奴隷』じゃなくて『妻』としてだから、それなりに丁重に扱われはするみたいだ。

 中には、メイドみたいなのが1人いて、『何かあれば使用人にお申しつけください』とのこと。

 

 要望通りに紙とペンが用意されてたので、2通ほど手紙を書く。

 1つは、レイリーとシャッキーに。もう1つはエディちゃんに。

 

 エディちゃんに向けた方は、普通に報告の手紙。天竜人に『妻にしてやるえ』されちゃったので、しばらく会えないし連絡も取れませんが、心配はしないでね、と。

 

 レイリーとシャッキーの方も、大体内容は同じだけど、彼らは素性が素性なので、あて先を『コーティング屋のレイさん』宛にして、怪しまれないように。内容の一部は簡単な暗号を使って、読み方を知っているシャッキー以外にはわからないようにしておいた。

 加えて、報告だけでなく、『船と積み荷の面倒をお願いします』って頼む内容も入れておいた。

 

 拠点にしてる島は、長期、ないし遠くへの航海の時には部屋を1回1回引き払ってる(そもそもアパートじゃなくて宿だし)。今回もそうしたから、こっちは何もしなくていいはず。

 

 よし、完成。

 これで……もし出すにあたって中身を検められても、問題はないはず。

 

 使用人を介して手紙を出してもらうよう手配し、その後は……やることもないので、何もせずに待っていた。

 

 数時間後(こんだけ待つなら自分で身支度できたじゃん)、天竜人……『バノサッカ聖』とかいうその人が戻ってきて、船は港を出て、シャボンディ諸島を離れていった。

 徐々に小さくなっていく島の影を見ていると、なんだか心細く感じずにはいられなかった。

 

(はー……これから私、どうなるんだろうな。)

 

 思い出すのは、まだ私が弱っちかった頃……海賊に負けて、捕まって、奴隷として売り飛ばされて……そんな頃のことだった。

 あの時は、そこそこ過酷ではあったものの、結果的に職業訓練とか戦闘訓練受けただけで終わる形になったけど。

 

 ともすれば、あの時よりもタチの悪い奴に捕まっちゃったわけだし……

 

 しかし、希望がないわけでもない。

 

 さっきもちらっと思ったことではあるけど、今回私は、天竜人に捕まったとはいえ……『奴隷』じゃなく『妻』だ。

 今のこの扱いを見ても、そんなに無下な扱いはされないんじゃないかな、と思う。爆発する首輪もつけられてないし、使用人や黒服達も、少なくとも見かけ上は丁寧に接してくれてる。

 

 大切にされるか、って言われたら、さすがにそれは望めないと思うけど……『奴隷』とはランクが違う扱いをされることにはなるはずだ。

 一方的に、トラウマになるようなひどい目に遭う……ということはないと思いたい。

 

 とはいえ、それも私の予想の域を出ることはない……ふむ……情報が欲しい。

 

「使用人さん、色々質問してみたいことがあるんだけど、聞いてもいいですか?」

 

「はい、私どもにこたえられることでしたら、何なりと」

 

 私の問いかけに、優雅な動作で一礼してそう答えてくるメイドさん。

 この人も奴隷とかじゃないな。多分、専門の教育を受けた、本職のメイドさんだ。

 

「私は、天竜人・バノサッカ聖の妻……の、1人になることになったのですが、天竜人の『妻』とはどういう扱い、ないし立場になるのでしょうか? 私は、『妻』としてバノサッカ聖に何を求められているのでしょう?」

 

「申し訳ありませんが、その質問にこれという答えを示すのは難しいかと。天竜人の皆さまは、それぞれ妻や奴隷に求めることは違いますので、役割も違ってまいります。ただ、しいて申し上げれば……バノサッカ聖の場合は、その御身をもって楽しませることがお勤め、でしょうか」

 

「それは、その……具体的には?」

 

「バノサッカ聖はとてもお優しい方です。元・下々のご身分の方々を妻としてお屋敷に住まわせ、豪華なお食事を食べさせ、上質な衣服で飾り立て、何一つ不自由ない暮らしをさせてくださり……妻の方々が楽しそうに、嬉しそうに交流なさるのを見ているのを何よりの喜びとしておられます」

 

「……へぇ……」

 

「幸せを与えられた妻の方々が作り出す、華やかで幸福な空間は、時折他の天竜人の方々もご覧になりにいらっしゃるとか……いずれにしても、そのご寵愛にあずかり、楽しく幸せに暮らすこと、それそのものがバノサッカ聖のお望みなのだろうと愚考致します」

 

 なるほど……聞く限りだと、愛玩用のペットって感じだな。

 スケールは違うし対象は人間だけど、ケージの中にいるハムスターや熱帯魚と同じような感じと見た。飼われて、世話をされて、そのしぐさで飼い主を楽しませるのが仕事……か。

 

 思ったよりはずっと楽そうだ。意図や意識はともかく、形だけならきちんと『人間扱い』されている……と言ってもいいと思う。

 悪い方に予想していた内容より、ずっとマシだ。

 

 というか、アレな話、『御身をもって』なんて言い方されるから、てっきり『そういう』ことかと……下世話なことを考えてしまった。

 

 まあ、実際のところどうなるのか、詳しい所は『聖地』……レッドラインの上にある『マリージョア』についてみないとわからないだろうけど、そこまで悲観することもなさそうだ。

 

(けど、だったら……)

 

 そしてここで、私の悪い癖が出た。

 

 

 

(いっそこれも、1つの『経験』として、むしろ色々と楽しんで堪能しちゃえばよくない? マリージョアで生活できる機会なんて、普通に考えて、一般人には一生ないわけだし……しようと思っても絶対にできない『経験』ができる、大チャンスに思えてきた)

 

 

 

 




今回出てきた『バノサッカ聖』は、適当に考えて適当に作ったオリジナルキャラになります。
ちょうどいいのがいなかったので。

もしかしたら今後読んでいただく中で『こんな天竜人いるかな?』って思うかもしれませんが……まあ所詮はご都合主義ということで、あんまり考えないでいただけると幸いです。
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