大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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今回から少しの間、日記形式っぽい感じでの投稿にしてみます。

特に理由とかはないんですけど。なんとなく。


第40話 スゥ16歳、マリージョア日記(1)

 

 

○月○日

 

 ここでの生活も、慣れるとそれなりに楽しめるものになってきていた。

 

 生活環境自体は快適だし、食べるものも美味しい。見たことも聞いたこともないくらいに贅沢な食事が毎度出るので、舌を楽しませてくれている。

 こと食事の時は普通に、演技でもなんでもなく笑顔になってしまう私は……なんというか、現金というか、ちょろい人間なのかもしれない。

 

 思えば、過去、海賊に捕まった時も、奴隷にされた時も、何だかんだで適応して普通に生きていくことができていたから……そういうタフさとか、鈍感力みたいなのはあるのかも。

 

 ……しかし、なんとなくだけど、この仮初の平穏もいつまで長く続くか……みたいな嫌な予感も感じている。

 その時が来るまでに、少しでもここでしかできない『経験』を、私の中に刻み込もうと思う。

 

 今見えているだけの世界なら、何度も言うけど恵まれていて普通に快適なんだ。お手伝いさんをしてくれている、奴隷のステラも含めて。

 

 見えていない部分を想像して暗くなっても仕方ない。いっそ存分に楽しませてもらおう。

 今は、まだね。

 

 

 

○月×日

 

 何日かここで生活した時に思ったことだけど、私達『妻』の服って、何かしら傾向があって選ばれてるのかな?

 

 今のところ私、毎日違う服が用意されていて、1度として同じ服を着た覚えはないんだけど……ひょっとして、1度着た服は処分されて二度と着られず、毎回新品の服を用意されて着させられてるとか?

 天竜人の金銭感覚なら、普通にありえそうだと思えてしまう。

 

 けど、ステラや、他の『妻』達に聞いてみると、どうも違うみたい。

 私と同じように、同じ服は2度着たことがない、という人もいれば、何日も同じ服、あるいは同じデザインで柄や色が違う服が続いたことがある人もいた。

 

 似合うか似合わないかで選ばれてる? その場合、バノサッカ聖がそれを判断してるのかな?

 ……案外、全部その担当に任されてるとか、単に気まぐれで決まる、みたいなのもあるような気がしてきた。

 

 ひょっとしたら、『こんな服を着たい』って希望を出せば通るのかもしれないけど、そこまで服にこだわってるわけでもないので、別にいいかと思った。

 

 相変わらずというか、薄手でセクシーな服っていう共通点は今もあるわけだから、多少なり毎日の服には、既にバノサッカ聖の意向が含まれてるんだろう。だったらそれに従っておけば、間違いはひとまずないんだと思うし。

 

 窓の外、本宅のバルコニーからニヤニヤと笑いながら、サロンで談笑している私達を見下ろしているその人を見ていると、そんな風に思えてきた。

 

 観賞用ペット扱いも、もう慣れたな。

 露出多めの服でそういう視線を向けられるのも、最初は気分は決して良くなかったし、尊厳的な意味での不安もあったけど……案外、気にならなくなるもんだ。

 

 古参の妻というか、強者の中には、視線を向けられていることを知っていて、よく見えるように足を組み替えたり、髪の毛を色っぽくかき上げたり、モデル歩きなんぞ披露する人もいる。

 ……女って、逞しいんだな。私なんてまだまだだ。

 

 

 

○月△日

 

 一緒にいる時間が長いので、他の『妻』達との交流の機会は多い。

 そのため、全員と、というわけじゃないけど、仲良くできる『妻』仲間が何人もできた。

 

 割と価値観が近い者同士で仲良くなれたみたいで、色々な話題で気が合うのも嬉しい。

 

 ここに来る前の日常とか仕事の話とか、日々の生活の悩みとか、美容とか健康の関係で情報交換とか、他愛もない内容で雑談して楽しく女子トークして過ごしている。

 

 一方で、価値観やら考え方の違いをはじめとした色々な理由で、仲良くなれない人も当然いる。

 平和に明るく、和気あいあいと過ごしている私達に対して、変にお高くとまってる高ビーな感じが見え隠れしている人達がいて……その人達はその人達でグループを作ってるみたい。

 

 そしてそのグループと私達のグループは、相容れない者達として派閥争いを繰り広げる関係に……なったりはしていない。

 

 なぜかって? そんな風にしてギスギスして、別館の中の空気悪くしてみ?

 華やかな『観賞用ペット』を喜んでいるバノサッカ聖に知れたら、不快に思われて……そんなん全員悲惨なことになるの確実じゃん。

 

 皆それはわかってるから、せいぜい不干渉程度にとどめておくし……必要なら、表面上だけでも仲良くしている演技だってする。その方がお互いにとってプラスだから。

 

 いや、というか別に仲悪いわけじゃないんだけどね、そもそも。ただ単に話が合わないから、一緒にいてもそれほど楽しめないし会話が続かないとか。その程度のことだ。

 

 一番優先されるべきは、『妻』全体の平和、これは、全員に共通の認識だ。

 

 …………多分。

 

 あと、どのグループにも所属せず、1人でいるのが好きな妻もいる。

 この人達に関しては、こちらも交流する機会があんまりないのでよくは知らない。けど、別にお互いにとって迷惑ってわけでもないし、話さなくても困ることはないので、放っといている。

 

 会話してみたい、と思わなくもないけど……互いに気分を害する可能性があるなら、今まで通りそっとしておくのがいいと思う。

 

 

 

○月□日

 

 前にちらっと話したと思うけど、私達の屋敷は窓がやたら大きい。

 そのおかげで、バノサッカ聖の屋敷の方から私達がよく見えるわけだが……逆に、私達の方からも色々とよく見える。

 

 今日は、バノサッカ聖の屋敷に、他の天竜人が遊びに来ていたみたいで……庭でお茶会みたいなのを開いて楽しそうに談笑していた。

 

 そしてそのお客さんの天竜人は、当然のように奴隷を連れていた。

 

 男の奴隷も、女の奴隷も両方いたが……どちらもちょっと目を覆いたくなる姿だった。

 

 男の奴隷は、生傷だらけでフラフラで、いかにも日常的に虐げられているとわかる感じだった。

 上半身裸でズボンだけの姿だったので、それが余計によくわかって……脇腹に刻まれている、『天翔ける竜の蹄』の痛々しい焼き印もよく見えた。……アレ、押されるの背中だけじゃないんだな。

 しかも、苦しくて息を荒げたり汗をたらしたりすると、『うるさい』とか『見苦しい』とか言われて蹴られたり踏まれたり。

 

 女の奴隷は、ほとんど裸みたいに見える、下着のような服装で……傷らしいものは特になかったけど、心労や疲労は相当なものらしく、直立不動のままでいることができずに、前後左右に小さくふらふらと揺れていた。

 あの爆発首輪の重さすら苦痛なのかもしれない。それでも、どうにか倒れずに堪えていた。

 

 その様子を見て顔を青くしたり、体を震わせる『妻』も多かった。無理もないけど。

 いつも気丈に笑っているステラでさえ、その時は、笑顔こそ崩さなかったけど、体をこわばらせていたのを覚えてる。

 

 ああはなりたくない、私はまだ幸せだ、ここでの暮らしを保ちたい……と、どうしてもそんな風に思ってしまうのは、仕方のないことだろう。

 責めることなんてできやしない。皆、自分のことが大事なんだ。私だってそうだよ。

 

 失わないために、ここにいて、バノサッカ聖に愛される努力を、今日も明日も明後日も、私達は続けていくんだな、って思った。

 

 

 

○月▽日

 

 今日は1日中雨だったので、家の中から出ずに過ごすことになった。

 

 サロンの人口密度がちょっと高めだったので、たまには部屋で過ごそうかなと考えて……許可を取って、書庫から本を何冊か持ち帰って部屋で読んでいた。

 せっかくなので、ステラも一緒に『好きなの読みなよ』って誘って、読書の日にした。

 

 読みながら、ふと思いついたように雑談したりする。

 普段は他の妻と話す機会の方が多いけど、ステラと話すのもやっぱり楽しい。

 

 彼女、聞き上手というか……話してるこっちをいい気分にさせるのがすごく上手いんだな、って思わされた。

 部屋の中でずっと過ごしてても、全然不快な気分にならなくて、楽しく過ごすことができたし……雑談の中で、彼女の過去とかみたいなのも色々聞くことができた。

 

 ステラが奴隷に身を落としたのは、ギャンブル好きのろくでもない――ステラ自身はそんな風には言わなかったけど、そう評するしかないダメ親父だったようだ――親の借金のかたに売られてしまったかららしい。

 どこのヒューマンショップかはわからなかったけど、オークションとかは開かれずに、数年間もそこにいたらしいので、そこまで取引が盛んじゃない、どこか辺境のショップだったのかも。

 

 そして、数年後にそこに現れた天竜人に買われてここに来たらしい。それが、今から二年ほど前のことだそう。

 

 しかもその、彼女を買った天竜人は、今の主であるバノサッカ聖とは別人らしい。

 何か月かその購入者の天竜人(聞いたことない名前だった)の元にいた後、唐突に『今日からはわちしの奴隷だえ』って、バノサッカ聖に譲渡されたそうだ。理由は今でもわからないらしい。

 

 私の専属になる前は、前の主人のところも含めて、色々な雑用等をさせられる生活だったみたいだけど、ここで私のお世話をするようになってからは、ぐっと楽になった、って笑っていた。

 仕事は楽だし、生活は快適。主(一応)である私は、自分を粗雑に扱うこともせず、友達みたいに扱ってくれて、話していて楽しいって。

 

 そんな風に言ってもらえると、私もうれしくなってしまうってものだ。

 

 私からすれば、さっきも言った通り、聞き上手でしゃべり上手、こちらをいい気分にさせてくれるステラの力でもあると思うんだけどね。

 ステラ、私より7歳も年上らしいんだけど、つい友達感覚で話したくなるくらいなんだよ。

 

 その日は1日、夜までおしゃべりして楽しく過ごし、就寝した。

 

 

 

 あと、ステラの話の中で、ちょっとだけ彼女の笑顔が曇った時があったのは少し気になった。

 

 どうもステラ、天竜人に買われることになった時に、何やらひと悶着あったみたい。

 当時仲良くしていた男の人がいて、彼女を買いとって自由にするために頑張って働いていたそうなんだけど……あとちょっとでステラを買い取れる金額になるってところで、彼女は天竜人に買われてしまった。

 

 その時、その男の人……テゾーロ、っていう名前らしいけど、彼が自分を救おうとして天竜人に歯向かってしまったせいで、彼も罪人として奴隷にされ、マリージョアに連れ帰られた。

 しかし、2人をあざ笑うかのように、別々の引き取り手に身柄をゆだねられ……その時以来、彼には会えていないし、どうしているかもわからないんだって。

 

 こんなけなげでいい娘なステラさんにも、そんな風な悲劇を味わわせてるあたり……ホント、天竜人ってのはどうしようもないな、って思ってしまった。

 

 テゾーロさんとやら、無事でいるといいんだが。

 

 

 

○月◇日

 

 『妻』達の中に、私の小説のファンだって人が結構いて、びっくりされた。

 

 いや、自分から言い出すようなことでもないから、作家やってたことって触れてなかったんだけどさ……雑談の中でぽろっとこぼしちゃったんだよね。

 そしたら、『あの小説の作者!?』『名前同じだとは思ってたけど……』って次々食いついてきて。

 

 なんか、握手会とサイン会みたいなのを開くことになっちゃって……

 

 しかも、私のいる仲良しグループだけじゃなく、別なグループや、グループに所属してない人とかからも何人か……いや、私って自分が思ってたより人気作家だったのかな? こんなにファンがいて、こんなに喜ばれるとは。

 

 お手伝いさん奴隷達まで何人か知ってたみたい。

 

 身分、ないし立場の違いからか、ちょっと遠慮がちにではあったけど、握手したり話を聞きたそうにしてたので、快く応じてあげた。

 

 ……残念ながら、ステラは知らなかったけど。

 私が有名になり始めた頃には、もうヒューマンショップに売られた後だったみたいで。

 

 そのままサロンで、『パイレーツスレイヤー』や『下町戦艦』の作成秘話とか話したり、質疑応答タイムみたいなのやってたら、あっという間に1日が終わった。

 

 これまでになく、大勢の『妻』達と楽しく話して、距離を詰めることができた日だった気がする。

 

 気が付いたら、グループの枠を飛び越えてファン同士で友情が芽生えてた人達も結構いて、消灯時間直前まで話してたみたいだったし。

 その日は皆、いつもより生き生きしてて、満足げな笑顔で部屋に戻っていっていた気がした。

 

 去り際に、『ぜひここでの経験をもとにして新作書いてくださいね!』なんて言われたりして。

 

 ……私が思ってるより、活字の力って偉大なのかもな、って思った。

 作家やっててよかった、とも。

 

 

 

 

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