大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第42話 スゥ17歳、マリージョア日記(3)

 

 

×月◆日

 

 気が付けば、1歳年をとって17歳になっていた。

 

 こんな生活じゃ、誕生日なんて来ても祝うこともできないし……自分から今日誕生日だって言うのも恥ずかしいので、皆にも黙っていた。

 

 なのに、私のファンの先輩妻の1人が、私のプロフィールを覚えていて……しっかり朝食の席で『おめでとう』って言ってくれた。

 ……不覚にもうれしかった。

 

 残念ながら、私達には自由にできる私物なんてものはないので、プレゼントとかはないけど、便箋みたいな白紙の紙に、色紙みたいに寄せ書きしてくれた。

 大切にしよう。

 

 なくさないように、体の中にしまいたいけど……海楼石のアクセサリーが邪魔だ……。

 次に何か、外す機会が来た時まで待とうか。

 

 

 

×月?日

 

 ふと思ったんだけど、私が普段つけてるこの海楼石のアクセサリー……最近じゃいちいち気にもならなくなってきてるけど、つけてると力が抜けるものなんだよね。

 

 でも、その状態で日常生活はもちろん、簡単にとはいえ色々トレーニングとかしてるわけなんだけど……その分、負荷トレーニングみたいになって鍛えられたりしないのかな?

 昔マンガで読んだ内容で、酸素の薄い環境で心肺機能を鍛えたりとか、そういう修行法あったし。

 

 封じられてるから、もちろん能力は鍛えようもないし、どうやら覇気も使えないようなんだけど――能力者だと、覇気を使うために気合を入れた時点で力が抜けるからかな?――身体能力はさほど制限されないようだ。

 

 できるなら、そう言うのを期待して、剣術とか体力作りとかやっておきたいんだけどな……このままだと、徐々にでも鈍っていっちゃいそうだし。

 けど、あんまり激しく運動してると、バノサッカ聖の目に暑苦しく見えちゃいそうでなあ……

 

 ちょうどいい何か言い訳でもあればいいんだけど……

 

 

 

×月?日

 

 また、バノサッカ聖の『マイブーム』が来た。

 

 今度はまた変わり種。『男装の麗人』らしい。

 全員、軍服みたいな服を支給されて、それを着て1日過ごした。

 

 普段より……というか、首から上以外の露出がほぼない感じだったので、逆に慣れないというか……違和感が……。

 髪型までこだわって、短く見えるように束ねたりまとめる形にして、宝塚の男役みたいなのが館の中に大量発生して……

 

 いやでも、皆、割とかっこよくて面白かったな。

 基本的に私達、美人が集められてるから、絵にはなるんだな。

 

 ただ、バノサッカ聖的には微妙だったっぽくて、半日で終わっちゃって、午後からはまたドレスに着替えさせられたけど。

 

 

 

×月#日

 

 今日は珍しく、外に連れ出された。

 全員じゃないけど、私を含めた何人か。バノサッカ聖の散歩と、その足で他の天竜人の屋敷に遊びに行く用事の……まあ、いつもの人間インテリアである。出張版の。

 

 そしてその行った先の家で、全然うれしくない原作キャラとの邂逅を果たすことになった。

 

 その家っていうのが……かのロズワード家だったのである。

 ワンピース原作でも屈指のクズと評判のチャルロス聖と、その父ロズワード聖がお出迎えしてくれた。全然うれしくなかった。

 

 チャルロス聖はまだ5歳だったのだが、原作の面影がある醜い顔に、鼻水をたらしていた。

 性格の方も、天竜人らしい下衆なそれが出来上がりつつあるようで……人間の奴隷にまたがってぴしぴし鞭で叩いていた。

 

 いったいどんな教育してんだか……。

 

 その父であるロズワード聖は、こっちはこっちで、『最近海賊の船長の奴隷を集めているんだえ』とか何とか言って、頼んでもいないのに奴隷達を見せて自慢していた。

 確かに海賊っぽい格好の奴隷が何人も……中には何人か、私自身見たことがある奴もいた。

 

 一応私、賞金稼ぎだからね。賞金首であれば……さすがに全員とはいかないけど、割とわかる。

 

 海を渡っていた頃は、さぞかしギラギラと輝いた目をして無法を働いていたんであろう彼らは……今はもうすっかり、全てを諦めて絶望したような、魂が抜け落ちたほの暗い目になっていた。

 ……海賊に同情するつもりもないんだけど……いったい普段、どんな目に遭っているのやら。

 

 もし私が、『妻』ではなく『奴隷』としてここに連れてこられていたら。

 比較的マシなバノサッカ聖でなく、他のもっとひどい……ここん家みたいな天竜人に買われてしまっていたら。

 

 そう考えると……今更ながら、背筋が寒くなる。

 

 その日は何事もなく帰ることができたんだけど……別邸に帰ってから、先輩妻達に今日のことを話したところ、めっちゃ心配された。

 

 聞けば、先輩妻達の間でも、『ロズワード家』は天竜人の中でも指折りの危険な行先として知られているらしいのだ。

 

 バノサッカ聖の付き添いとして行くわけだから、直接的な被害を受けることはほぼないんだけど……その場にいるだけでも精神を病むケースが結構あるんだって。

 あの家、平然と奴隷に対してひどい仕打ちをやってのけるから、そういうのを目の当たりにしてショックを受けるんだってさ。

 

 今日見た、チャルロス聖5歳が鞭でぴしぴし叩いてるのなんてソフトもソフトなもんで……先輩達の中には、粗相をした奴隷がその場で頭を撃ち抜かれて死ぬ瞬間を見ちゃった人もいるそうで……思い出してしまったのか、ぶるっと体を震わせてた。

 

 ……ほんと、ろくでもないなあの家……できれば二度と行きたくない。

 

 

 

×月#日

 

 いつだったかと同じように、本宅で『能力者を見世物にして遊ぼうの会』が開かれた。

 

 私を含む数人が、またインテリアとして呼ばれた。

 あ、でも私は多分、『能力者』=見世物枠としても呼ばれてたのかもしれない。

 

 集まった天竜人は、前回とほぼほぼ同じ面子だったんだけど……同じ奴隷を連れてきている者もいれば、前回とは違う奴隷を連れてきている者もいた。

 それが原因で、ちょっと途中、ヒヤッとする場面があったんだよね。

 

 しかも、私もそれに巻き込まれて……まあ一応、最終的には何事もなくその場を収めることができたからよかったけども。

 

 順を追って説明すると、だ。

 

 まず、連れてこられた奴隷の中に、またしてもハンコック達がいた。

 

 順番に奴隷が芸を披露していったんだけど……ハンコック達の番になる直前、彼女達の主らしい天竜人が、いきなりこう言い出したのだ。

 『以前と同じ蛇の踊りではつまらないえ、何か違う芸をやるえ』って。

 

 それを聞いてハンコック達は、一気に顔を青ざめさせていた。

 無理もない。そんなの用意してないだろうし……直前も直前、本番まであと1分もないくらいの時にそんな無茶ぶり言われたら、頭の中真っ白になっちゃうだろう。非常識にもほどがある。

 

 しかし、口答えなんてできるはずもないし……できないなんて言ったら、不興を買ってどんな目に遭うことになるかもわからない。

 けれど、新しい出し物のアイデアなんて、すぐに思いつくはずもなく……途方に暮れていた。

 

 その様子を私は、『アレまずいんじゃ……』なんて思いながら見てたんだけど、そしたら今度はバノサッカ聖まで『ふむ、そうだな。じゃあお前も今日は違う芸をやるえ』って言ってきた。私に。

 

 マジかよ、と思ったものの……幸い私の方は、こんなこともあろうかと、色々芸は考えておいたので何とか出来る。

 前回やった、斬られて『斬れてナーイ』ってやる以外にも、紙で野菜とか切ってみたり、紙吹雪を自由自在に動かして大道芸みたいにしたり……色々アイデアは、普段から温めてあるのだ。

 

 ただ、私はそれでいいとしても、やっぱハンコックがまずそうだな……と思って見てるうちに……ふと思いついたことがあった。

 可哀そうになるほどに青ざめて、冷や汗を流しているハンコック達を、そのままにしておくのもちょっとな……とは思っていたので、思い切って提案してみることにしたのだ。

 

 『ハンコック達と合同でやってもいいですか』と。

 

 お互いの主からは快くOKが出た。

 一方でハンコック達は、『え!?』とこれはこれで驚いていた。

 

 まったく交流したこともない他人が、突然自分達を巻き込んできたわけなので、どういうつもりなのかって困惑してたようだ。

 しかし説明してる時間はない(待たせてる間に機嫌が悪くなったりしたらやばい)。

 悪いが、ぶっつけ本番で行かせてもらう。

 

 能力で紙を束ねて作った剣を2本作り、1本をハンコックに渡す。

 戸惑いながらも受け取るハンコックを、広間の中央に立たせて剣を構えさせ……それに相対するように、私も剣を構える。ちょっと独特な構えと動きで。

 

 その瞬間、ハンコックがはっとした表情になった。舞台袖の妹2人も同じく。

 何かに気づいたような、それでいて『なぜ!?』と、別な理由で困惑している感じの顔だった。

 

 引っ張ってもアレなのでネタばらししてしまうと、ハンコック達が気付いたのは……私がとった剣の構えが、『九蛇』の伝統的な剣舞の演目の1つで見られるものだったからだ。

 勇敢な1人の戦士が、2体の魔物を従えた悪の戦士を戦いの末に成敗する、という内容。

 

 ずっと前……まだ私が『九蛇』の船を降りてすぐの頃だから……まだ10歳くらいの頃か。

 手遊び程度に『九蛇』の皆に習っていたそれを、どうにか記憶の奥底から引っ張り出した。

 

 動きが割と激しくて、まだ小さかったころの私にはけっこういいエクササイズになったから、ちょくちょく踊ってたんだよね。なので、かなり正確に覚えている、と思う。

 

 どうして私が九蛇の演舞を知っているのかはわからずとも、乗るしかないと思ったハンコックは……正義の戦士役を舞い始め、紙の剣で私と切り結ぶ。

 

 その途中、魔物役のマリーゴールドとサンダーソニアが入ってくる。

 この魔物役、本来は被り物とか羽根飾りで『魔物』を演出するんだけど、2人とも『ヘビヘビの実』の能力で変身していた。能力者見世物会なので、ちょうどいいだろう。

 

 結構動きの激しい、しかしさすが九蛇で伝統とされているだけあって美しいその舞を続け……まず戦いの末に、マリーゴールドがハンコックに斬られて倒れる。

 その瞬間、私の能力で紙をばさぁっ、と大量に舞わせて派手なエフェクト的に演出。

 同時にマリーゴールドが能力を解除することで体を縮め、紙吹雪に紛れて舞台袖に退散することで、倒されて消えた感じを演出。

 

 同じようにしてサンダーソニアも討伐。

 

 そして最後、私がハンコックに斬られる際は……本当に斬ってもらった。

 いや、紙の剣の一撃が入るのに合わせて体を紙にしてばらけさせて、自分から真っ二つになって……そのまま紙になって舞台袖に引っ込んだだけなんだけどね。

 

 でも、見た目的には割と派手にできたと思う。

 

 そして締めの舞をハンコックが踊って、終幕。

 私達の出し物は、今日一番評判がよかった。

 

 バノサッカ聖も、ハンコック達の主も大満足で、天竜人には珍しく素直にほめてくれた。

 

 その後、バノサッカ聖を含む天竜人達は、皆で一緒に夕食を取るために部屋を出て行き……奴隷と妻がそこに残された。食事が終わるまで待ってろってことらしい。

 

 その時間を利用して、ハンコック達と話した。

 3人は、まず危ない所を助けてもらったお礼を言ってきて……その後、雑談の中で『なぜ九蛇の演目を知っていたのじゃ?』という話になった。

 

 特に隠すことでもないので、『以前九蛇の船に助けてもらってお世話になったことがあって、その時に習った』と教えた。

 前の九蛇の船長……すなわち、アマゾン・リリーの皇帝とも知り合いだと知って驚いてた。

 

 その後も、お互いの主が戻ってくるまで軽く雑談して、割と仲良くなれたと思う。

 向こうも、久しぶりに九蛇の話ができて、いい気分転換になったみたいだった。

 

 ……食事をとれずにずっと待たされてる間の空腹を紛らわすのにもちょうどよかった。

 

 そんな感じで、思いがけずゴルゴン三姉妹と仲良くなれた1日だった。

 

 

 

×月$日

 

 こないだの剣舞、バノサッカ聖は予想以上に喜んでくれていたらしい。

 『褒美だえ』って言って、別邸に高級なお菓子を山ほど差し入れしてくれた。普通にうれしい。

 

 先輩妻達や、お手伝いの奴隷達も喜んでいた。もちろん、ステラも。

 

 さすが超大金持ち、気に入った相手に対しては気前いいんだな。

 

 それに風の噂では、ハンコック達も前回の出し物について、主のみならず色んな天竜人から褒められて、ご褒美をもらったらしい。具体的に何だったのかはわかんないけど。

 

 ただ、私自身もバノサッカ聖のお気に入りになったみたいで、インテリアとして呼ばれる頻度が増えた気がする。

 その時何かやらされるか、あるいはいつも通り立ったままでいるかは、その時々で違うみたいだけど。

 

 屋敷から出て気分転換できるのはいいけど……こないだのロズワード家みたいに、やばいものを見る機会も増えそうで、若干怖い……かも。

 

 

 

×月%日

 

 ……予感的中。

 ひっっっっどいものを見せられた。

 

 いつも通りインテリアとしてバノサッカ聖についていったんだけど……着いた先の天竜人の家で、余興として狂った見世物が繰り広げられていた。

 

 巨大なプールの上に浮かぶ、いくつもの狭い浮島。

 その上に載った奴隷達が、バランスを取りながらお互いを突き落とし合って、最後の一人になるまで戦うっていうサバイバル合戦。

 

 現代日本でも、テレビのバラエティー番組とかでありそうな演目だ。

 

 違うのは……こっちのは参加者達が武器として真剣やら何やらを使っていて……どつき合いどころか、普通に殺し合いだったこと。

 そして、プールの中に無数の、腹をすかせたピラニアが放されていたことだった。

 

 剣なんか使って殺し合いしてりゃ、必然的に血が流れてぼたぼた水に落ちる。

 そして、ピラニアは血の匂いに興奮する性質を持ち……また、獲物が血を流しているのを目印に食らいついてくる。

 

 負けてプールに落ちた奴隷がどうなるかなんて、説明するまでもないだろう。というか、説明したくないし思い出したくもない……。

 

 R18-G確実、パニック映画も真っ青のやばい映像をライブで見る羽目になった、とだけ。

 

 ……どうしてアレを笑いながら彼らは見ていられるんだって、本気でこいつらの精神構造がわからなくなった。

 

 幸いと言っていいのか、神経は太巻きだし、賞金稼ぎなんてやってれば血も死体も見慣れてるようなもんだから、食欲なくなったりとかはしなかったけど……気分はずっと悪かったよ、今日。

 

 ご飯の後は部屋に戻って、ステラに愚痴聞いてもらいながら、もう休んだ。

 

 

 

 




原作のチャルロス聖、2年前時点であの顔で22歳なんですよね……

マリージョア編はたぶん次あたりでラスト……だと思います。
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