大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第44話 スゥ17歳inぼったくりBAR

 

 

 というわけで! 無事にお勤めを終えてマリージョアから戻ってまいりました!

 いやー……長かったような短かったような……やっぱ長かったな。1年近くいたからな。

 

 もうずっと長いこと見ていなかった、青い海を見た時、マリージョア以外の土を踏んだ時……やっと帰ってこれたんだ、って不覚にも視界が潤んでしまった。

 

 籠の鳥、あるいはケージの中のハムスターにされて、だいぶ時間浪費しちゃった気もするが……別にまったく無駄だったわけじゃないと思いたい。

 色々な経験もできたし、出会いもあったしね。

 

 例えば、そう。

 

「それじゃ……行こうか、ステラ。この近くに私の知り合いの店があるから、まずは報告というか挨拶に行って……一緒にご飯も食べちゃお」

 

「う、うん……よろしくね、スゥ」

 

 この1年くらいずっと一緒だった、彼女とかね。

 

 

 

 さて、もうちょっと詳しく振り返って説明してみようか。

 

 ある日突然、三行半すらなく離縁を言い渡された私は、あれよあれよという間に手続きが進み……『別邸』を出ることになった。

 基本的にこの『別邸』には、私の私物と呼べるものは一切ないので、荷造りの必要はない。

 

 思えば、服も雑貨も何もかも、バノサッカ聖に与えられたものだったっけな。

 

 それらを全て返却し、代わりに……ここに来た当初、没収同然の形で預かられていた、私の本来の私物や服を返してもらい、それに着替えた。

 

 ノースリーブのカッターシャツ。

 ポケットの多いロングベスト。

 七分丈くらいのジーンズ地のズボン。

 見た目以上にものの入るウエストポーチ。

 そして、武器である仕込み番傘。

 

 久しぶりに『いつもの』服装に戻った私は、そのまま適当な『シャボンディ諸島』行の船に乗せられて、聖地を去ることになったんだけど……その直前、バノサッカ聖からお呼びがかかった。

 

 何だろうと思って行ってみると、予想外の申し出が。

 

「お前、結構面白かったからご褒美をやるえ。別邸にある好きなものを持って帰っていいえ」

 

 そんなことを言われて、驚いた。

 正直、『天竜人』と聞けば、残酷・暴虐なイメージがまずある……というか、そういうイメージしかほぼ抱かれることはないと言ってもいいだろう。

 

 だから、こんなことを言ってもらえるなんてさすがに思わなかった。

 ここ1年で『他の天竜人よりマシ』だということがわかっていた、バノサッカ聖だとしても。

 

 けど、そういえば原作でも、金やら何やらで天竜人に取り入ることに成功して権力を得る者も、珍しいけど存在するっていう設定があったっけ。

 好感度高い相手や、楽しませてくれる相手、使える相手なんかには、わりと気前良くしてくれる側面があるのかもしれない。原作ではあまり描かれなかっただけで。

 

 だけど、いきなり言われても何を持っていけばいいのか……お菓子? 服? アクセサリー?

 家具なんかはさすがにダメだろうし……

 

 というか、『何でも』とは言われたものの、何かこう、調子に乗りすぎて不興を買ったりすれば、今からでも悲惨なことになる可能性は全然残されてるから、慎重に選ばないと……でも、時間をかけすぎればそれはそれで……

 

 とか考えてた時に、ふいにバノサッカ聖が、

 

「なんなら、その召使の女でもいいえ?」

 

 そう、ステラを指さして言ったのである。

 え、マジで? そういうのもありなの?

 

 確かに、いつも屋敷の中で一緒にいたし……バノサッカ聖からしたら、奴隷なんて備品の1つみたいな感覚なんだろうけど。

 

 けど、それがありなら……着る予定もないドレスとか、特に興味がない宝石とかもらうよりも、全然有意義だ。

 お言葉に甘える形で、『じゃあステラをください!』って言った。快くOKしてもらえた。

 

 そうしてステラは、私のオマケとして、あっさりとマリージョアから解放されたのである。

 

 で、一緒にシャボンディ諸島に送ってもらい、解放され……現在に至る。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

「ごめんくださーい! シャッキーいるー?」

 

「いらっしゃ……あら、スゥちゃんじゃない。久しぶりねぇ」

 

 実に一年ぶりの再会。

 しかし、何でもないかのように自然体でシャッキーは返してくれた。

 

 見ると、時間がよかったのか、お客はちょうど1人もおらず……カウンターにレイリーが腰かけてちびちびやってるだけだった。

 そのレイリーも、私を見ると『やあ』って軽い感じで声かけてくれた。

 

 別に、劇的な再会がしたいわけじゃなかったし……こっちの方がなんか安心する。

 今までと変わりない、元通りの日常に戻ってきたんだなって、そんな感じがして。

 

 促されるまま、私も『いつも通り』にカウンターにお邪魔させてもらって、ステラも私の隣に座らせる。

 何も言わずに、シャッキーがいつもの私のお気に入りのドリンクを出してくれた。

 

 そして、いつも通りにカウンターで雑談を始める。

 

 ま、その中身はさすがに『いつも通り』とはいかなかったけどね……マリージョアから持ち帰った、大量のお土産話を披露することになったから。

 あと、もちろん……一緒に来たステラの紹介も交えて、ね。

 

 

 

「なるほど。色々と貴重な経験をしたようだな……何にせよ、無事に帰って来れてよかった」

 

「ホントにね。あの日、スゥちゃんから突然あんな手紙が届いた時はびっくりしたわよ……まあ、スゥちゃんにコレ言っても仕方ないんでしょうけどね」

 

「あははは……ご迷惑おかけしました。まあでも、レイリーの言う通り、色々貴重な経験もできたし、いい出会いもありましたから。全く無意味とか無駄な時間じゃなかったですよ? 『下々民』じゃできないような経験も色々とさせられましたし」

 

「あらあら」

 

「はっはっは、これは次に出る本にも期待できそうだな。相変わらず転んでもただでは起きないというか、何でもかんでも経験値に変えてしまうようだ」

 

 レイリーにはそんな風に笑われてしまったけど、実際そうなので何も文句は言えず。

 普通の人には経験できない……というか、あんまり経験したいとも思わないような事柄を何度も経験して、しかもそれをきっちり『経験資料』として活用してるもんな、私、毎度。

 

 海賊に襲われてさらわれて、その後売り飛ばされて奴隷にされたけど、その途中で海賊達から色々な面白い話を聞き出して知識の肥やしにしたり、

 

 その奴隷としての職場で『エリート奴隷』になるべく育てられて、その過程で色々なノウハウを学んだり、修行としても充実させて実力につなげたり、

 

 油断して人攫い集団に捕まった後、逆襲して金品強奪したかと思ったら、偶然シャッキーと再会してレイリー達と知り合うことになり、こうして稽古とかつけてもらえる仲になり、

 

 そして今回天竜人に拉致されて『妻』にされて、マリージョアに軟禁されたけど、そこで普通はできないような経験を色々として、ステラやハンコック達とも知り合うことができて……

 

「……今更だけど、何か私色々なところで捕まりすぎな気がしてきた」

 

「本当に今更ね。まあ、そのたびに得難い経験を積んで来れてるわけだから……全くの損にはなってないんじゃない?」

 

「そうですけど、そのたびに『あーこれは今度こそひどい目に遭うかなー』なんて内心覚悟決めたりしてますから、素直に『いい経験だった』とは言いたくないというか……まあ確かに、そのたびにいい経験は積めてるんですけどね?」

 

「というかもうコレ、スゥちゃんにとってのジンクスなのかしら? 囚われたり閉じ込められたりするとそこでいい経験を積めるっていう……」

 

「そうなると、海賊、奴隷、人攫い、天竜人と来ているから……次はどこだろうな? 海軍の監獄かどこぞの国の牢獄か……あるいはいっそインペルダウンかな?」

 

「だからやめてください、そんな人がどっかに閉じ込められる前提みたいな話を……特に最後の! 絶対ひどい目に遭う……っていうかもうそこまでいくとひどい目どころじゃすまないでしょ!」

 

 やだよあんな、拷問室と処刑台が立ち並ぶ海底の大監獄! 普通に死ぬじゃん! 死ななくても死にたくなるくらいひどい目に遭うじゃん!

 

 まあでも、海賊とかじゃなく堅気でやらせてもらってますから? そんなところにお世話になる未来は来ないと思うけどさあ……レイリーも人が悪いなあ。

 

 ……来ない、よね?

 

「まあ、君の今後の取材活動(?)はさておいて……ステラ君、だったか」

 

「はっ、はい……!」

 

 他愛ない感じの雑談が続いていた中で、ふいに声をかけられてドキッとするステラ。

 

 彼女についての紹介はすでに済ませてある。マリージョアにいた時、ずっと私の世話を――主に命令されて、奴隷の仕事としてだけど――してくれてたこととか、それ以外でも友達同然の付き合いをしていて、仲良くしていたこととか。

 

 ステラは元々人当たりがよくて、誰にでも優しく、すぐに仲良くなれる性格だ。だから、レイリーやシャッキーとも割と早く打ち解けられていた。

 ……ただ、会話の中でぽろっと、レイリーが元・ロジャー海賊団副船長であることをばらした時には、さすがにびっくりしてたようだけど。

 

 今までのやり取りで、いい人だってことはわかってるだろうけど……それでも、ロジャー海賊団のネームバリューは、世間一般では世紀の大悪党を意味するわけだし、全然緊張するなとか、警戒心をすぐに捨てろって方が無理……というのも道理だ。

 レイリーもそれはわかってるんだろう、気にした様子はなかった。

 

「この子が色々と世話になったようでありがとう。君も、まだ若いのにつらい境遇に立たされて……大変だったな」

 

「そんな……私も、スゥにはすごく助けられてましたから。彼女のおかげで、奴隷の身分でも毎日楽しかったし……こんな風に、解放までしてもらえて……」

 

 言いながら、おそらくは無意識に……ステラは、首元を触っていた。

 

 既に、彼女の首元についていたあの『爆発首輪』は、外れている。

 私がステラをもらった時に、鍵も一緒にもらったから。シャボンディ諸島に到着して解放された後、速攻で外してあげたよ。

 彼女には似合わないって、ずっと思ってたんだ。マリージョアにいた時から。

 

 思った通り、そのままの方が全然かわいいや。

 

「ところでスゥちゃん、これからどうするつもりか決まってるの?」

 

「そうですね……やりたいことはまあ、色々ありますけど……まずは、マリージョアにいる間になまった体を鍛え直さないといけないですね。しばらくトレーニングに打ち込むつもりです」

 

 何せ、もう1年近くも戦いから離れてたからな……体も、勘も、色々と鈍ってると思う。

 筋トレとか、最低限のトレーニングは続けてたから、そこまで体力は落ちてないと思うけど……きちんと色々取り戻してからじゃないと、危なくて賞金稼ぎなんてできないだろうし。

 

 しばらくは体力づくりと鍛錬に集中。そしてその合間に……執筆業かな。

 

「そういえば、レイリーとシャッキーに頼んでた、私の船ってどうなってます?」

 

「裏にあるうちの船着き場に泊めてある。ちゃんと整備もしてあるから安心しなさい」

 

「よかった……ありがとうございます。後でちゃんとお礼しますね」

 

「礼などいらんさ、少し場所を貸して、整備は気まぐれにやっていただけだからな。それより……生活の拠点は、また元の島に移すのかね?」

 

「そのつもりです。エディちゃん……私の担当編集と打ち合わせとかするには、出版社があるあの島が一番都合がいいし……何より、平和で暮らしやすい島なので」

 

 シャボンディ諸島もいい島ではあるけど……治安がいいとは言えないし、時々天竜人が出没するのがね……今回というか、あの時も、不意打ち気味に『妻にしてやるえ』されちゃったわけだし。

 人攫いや『人間屋』が普通に横行している土地に住むのはちょっとなー……と思う。

 

 や、もちろん、そこに住んでるシャッキー達を悪く言う意図はないんだけどね?

 

「なら、どの程度鈍っているかの確認は、船で海に出る前にしておいた方がいいな。どれ、後で久しぶりに相手をしてあげよう」

 

「あら、いいわね。じゃあ、思い切って今日、お店午後お休みにしちゃおうかしら」

 

 と、なんかとんとん拍子に訓練見てくれることになった。

 いきなりではあるけど、これは正直渡りに船だ。ありがたい。頑張らせてもらおう。

 

「なんならスゥちゃん、しばらくここに泊まっていけば? 宿も決まってないみたいだし……特に急ぎの予定もないんでしょ?」

 

「え、でも……それは、正直そうできるならありがたいですけど……いいんですか?」

 

「もちろん。今更変な遠慮なんてしないでいいのよ。まだまだお土産話聞きたいし」

 

「まとまった日数あった方が、稽古をつけてやりやすいしな。それに、そろそろハチが遊びに来る頃だから、会っていくといい。彼も心配していた」

 

 ああ、そうだ。はっちゃんにもきちんと挨拶しなきゃな、って思ってたんだ。

 レイリーやシャッキー同様、ここでよく、楽しくおしゃべりとかしてた仲だからな。結局、魚人島に行く前にマリージョアに連れて行かれちゃったから、

 

 マリージョアでは手紙すら出せなかったから、近況報告もできなかったもんなあ……はっちゃんもそうだけどエディも心配してくれてるだろうし、早いとこ連絡取りたい。

 エディには後で直接会うつもりだったけど……先に電伝虫かけておこう。

 

 

 

 その日からしばらく、私と、ステラも一緒にシャッキーの店でご厄介になることになり、代わりに店員として店の手伝いをした。

 

 仕事の合間に、レイリー達に稽古をつけてもらって過ごした。

 予想通り結構なまってたので、それを叩き直せる時間と機会に恵まれたのはよかったと思う。今のまま海に出てたら……雑魚程度には負けなくとも、相手次第では不覚を取っていたかも。

 

 この店で店員やってると、たまに、というかけっこう頻繁にガラの悪い客が絡んで来たりする。立地が立地だからね……。

 支払い踏み倒そうとしたり、ボディタッチしようとしてきたり。

 

 ……前者に関してはこの店の値段設定が原因でもあるだろうけど……。

 

 その時はきちんと丁寧に対応……するわけもなく、遠慮も何もせずボコボコにしている。

 店主(シャッキー)の許可は得ている。というか、彼女が一番率先してボコボコにしている。

 

 割合的には、シャッキー7、私3、くらいだ。……さすがにステラにはこれは無理。

 なので、彼女が絡まれたら代わりに私達が出てる。

 あるいは、レイリーがいれば無言でこっそり『覇王色』で意識を刈り取ってくれる。

 

 数日後には店にやってきたはっちゃんとも再会。

 天竜人に連れていかれたって相当心配してくれてたみたい。涙を流して無事を喜んでくれた。やっぱりはっちゃんって、単体なら基本的には人懐っこくて無害な魚人なんだな。

 

 その時、『どうしたんだ、手足が4本しかないぞ!? やっぱりひどいことされたのか!?』って天然ボケかましてくれたけど。

 私の手足は元々4本だってば、と、タコの魚人(手足8本)にツッコんでおいた。

 

 なお、シャッキーには雑談がてら、マリージョアに『九蛇』の女の子達……ハンコック達がいたことについても話しておいた。

 多分、遠征の時に人攫いにさらわれたんだと思う、って推測も交えて。

 

 シャッキーが現役だった頃には、まだ聞いたことない名前だったらしいから、引退後に『九蛇』の船に乗って……そしてその後に奴隷にされちゃったんだろうな。

 シャッキーもそれを聞いて、かわいそうに思っていたようだけど……残念ながら今、私達にできることはない。せめて無事を祈っておくことにした。

 

 ……たしか原作では、数年後に『フィッシャー・タイガー』を主犯としたマリージョア襲撃事件が起きて、奴隷が大量に解放される。

 その時にハンコック達も脱走するはず……その後さらにしばらくして、漂流だか放浪していたところを、ニョン婆に助けられるんだっけ? うろ覚えだなこのへん……

 

 可能なら、その時すぐ迎えに行ってあげたい。

 

 あと、できるならその時、テゾーロも助けてあげられないかな……さすがにマリージョアに迎えに行くことはできないけど、もしも自力で抜け出していれば、拾って回収するくらいは……

 ステラにも、ちゃんと再会させてあげたいしね。

 

 

 

 




というわけで、スゥは無事にマリージョアから、おまけつきで戻って来れました。
数か月軟禁されたとはいえ、天竜人にさらわれたにしては、十分『無事に』終わったと言っていい範囲でしょう。運がよかった、相手がよかった結果ですね。

……まあぶっちゃけ、わたくし破戒僧がガチで『マリージョアで天竜人にひどい目に遭わされる女の子』を書こうとしたら、ほぼ確実に年齢制限かかる話になるので……って理由もなくはないですが……


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