前回の後書きの『……読みたい?』についてです。
よろしくお願いします。
ともあれ、第45話更新します。どうぞ。
「姉さま、やはり……噂は本当みたいです」
「そうか……では、スゥはもう、いないのか」
人伝い、もとい、奴隷伝いに聞いた話。
それは、彼女達3人……ハンコック、サンダーソニア、マリーゴールドの3姉妹にとって、ここマリージョアで唯一の味方と言っていい存在が、去ってしまったという話だった。
しかし……それは、死んだという話ではない。ただ単に、お役御免という形でマリージョアを出ていかされた、というものだ。
マリージョアに連れてこられた者が、ここを無事に去ることができるケースは限りなく少ない。
天竜人は、奴隷はもちろん、きちんとした身分や立場を持つ従者や護衛すらも、さも当然のように虐げ、傷つけ、手にかける。
奴隷など、彼らにここに『連れてこられた』者がたどる末路の多くは、死体となってこの世を去る、というものだ。
運が良ければ、飽きたからという理由で放逐されたりするし……奴隷市場に売り飛ばされることもある。後者ですら、ここでは『運のいい』解放のされ方だ。
今回、彼女達の知人であるスゥは、天竜人の『妻』だった身分を失う形で、半ば追放のようにマリージョアを去った。特に何も失うことなく、五体満足で。
それは、もちろん喜ぶべきことだ。無事にここを去れたという点はもちろんだし、天竜人の支配から逃れることができたという意味でも。
それは、多くの奴隷や、それに準ずる立場の者が望んでも得られない、最上の結果なのだから。
しかし、ハンコック達からすると複雑である。
もちろん、彼女達の友として、それを祝福してやりたい気持ちはあるが……同時に、気を許せる者がいなくなってしまった、取り残されてしまった、という感覚も、少なからずあった。
きっかけは、天竜人の見世物にされる形ではあるが……ともに『余興』を務めたこと。
そこで、もう長いこと目にしていなかった、『九蛇』の剣舞を共に踊り……懐かしさと嬉しさを胸のうちに抱いた。
気の許せる友になるまでに、時間は必要なかった。
それからは、奴隷という身分ゆえと仕える天竜人が違うがゆえに、頻繁にとは言わないものの……『剣舞』を通して何度も会い、一緒にいる機会が増えた。
自由時間の間に、思い出話を並べたり、ここを出たらやりたいことを語った。
そんな時間は……誰一人味方がおらず、気の休まる暇がなかったハンコック達にとっては、宝物だったと言っても過言ではない。
「円満のうちにここを去れたのであればよかった。スゥなら、上手くやっていけるだろう……元々は賞金稼ぎをやっていたそうだからな」
「それより先に『九蛇』と関わりがあったそうなのに……不思議な人生歩んでますね」
「海賊は肌に合わなかったらしいから、仕方ないんじゃないかしら」
軽口でそう話しつつも、妹2人もまた、寂しさを隠しきれていない様子だった。
(スゥは、『妻』だったからこそ、無事にこのマリージョアを『追い出される』ことができた。しかし、わらわ達は……)
『奴隷』には、あらゆる権利が存在しない。
辞めることなど許されていないし、身の安全も全く保障されていない。天竜人の気分1つで、命の危険があるような催しや余興に放り込まれ……当然のように死んでいく。
死んだ端から補充され、消耗品同然に毎度使い捨てられていく。
スゥとの『剣舞』という強み、ないし価値を失った自分達の今後も不安だが……そもそもハンコック達は……スゥの離脱という事態を前に、改めて、『自分達は一生ここから出られないのか』という問題を目の当たりにさせられていた。
誇り高き『九蛇』の戦士になるため、幼いころから鍛え上げてきた。
しかし、不覚を取って人攫いに捕まって以来、このような場所で屈辱を受け続けてきた。
多少待遇がマシになったからといって、このまま、何かの拍子に命を落とすまで、ここで飼い殺しにされることを良しとするのか。
かつては九蛇の戦士を、いや皇帝すら夢見て剣を取った身で、そんな体たらくでいいのか。
いいはずがない。そんな志の低さ、故郷の仲間達や、ここで出会った友に申し訳ない。
(かといって……首輪を外して逃げる機会など、普通に考えて訪れるはずもない。だが……もし、そのような時が、万が一にも来たとしたら……)
その時は……そのチャンス、必ずものにしてみせる。
ここを出て、また会うのだ。仲間達に。そして、友に。
そして、幼いころ夢見た栄冠を、今度こそ。
未だ、首輪の重みをその肩の上に感じながらも……ハンコックは、その目に消えることのない強い意思の光を宿し、いつかくると信じている未来を見据えて、決意を新たにした。
そして、
スゥの話を聞き、安堵すると同時に決意を新たにしていた者が……もう1人。
「スゥさんが、マリージョアを去った……それも、ステラを連れて……!?」
彼の名は、ギルド・テゾーロ。
とある事情により、ステラ―――スゥのおつきをしていた奴隷と、決して浅からぬ関係にありながらも、2人そろって天竜人の奴隷となってしまった過去を持つ男。
離れ離れになり、自由に会うことができなくなりながらも、お互いを思う気持ちは決して変わらず……数か月前に偶然再会することができてからは、機会を見計らって、人目を忍んだ逢瀬を重ねていた。
そのたびに、ステラの普段の主となっているスゥの協力を得て、だ。
一番最初に見逃してもらう形でステラとの時間をプレゼントされてからというもの、何度もステラとの時間を作ってもらった恩が、スゥにはあった。
彼女自身と話して、直接感謝を伝えたことも、もちろん何度もある。
そして今回……また1つ、大恩ができた。
このマリージョアから、ステラを……愛する人を解放してくれたという恩だ。
もちろん、自分がステラと会えなくなってしまったのは悲しいし、寂しい。
しかし、いつ、何かの拍子に命を落としたり、そうでなくとも大きな心の傷を負いかねないこのマリージョアという場所に、ステラを置いておくよりは、スゥという信頼できる人によって連れ出してもらった方が安心できるのは確かだ。
(スゥさんは信頼できる。あの人と一緒なら、ステラは大丈夫だ……)
しかし、それで満足するつもりもテゾーロにはなかった。
ステラが心配いらなくなったのなら、今度は自分の番だ。自分とて、こんなろくでもない場所で一生を終えるつもりは毛頭ないのだから。
普通に逃げようとしても無理だ。見咎められて殺される、あるいは……死ぬよりつらい目に遭わされるだけだろう。
チャンスはいつかきっとくる。その時を絶対に逃がさないようにしなければならない。
(いや、それよりも……考えるべきは、ここから逃げた後のことだろう)
『人間屋』でステラと出会い、彼女を買うために遮二無二働き……そして、奴隷に身を落とすこととなったまでを、静かに振り返るテゾーロ。
彼女を買う際、汚い金で彼女に自由をプレゼントすることはためらわれて……そのため、悪事から足を洗って、まっとうに稼いだ金で彼女を買い取ろうとした。
しかし、買い取れる金額を目前にして、天竜人にあっさりと彼女を横からかっ攫われた。
もしもあの時、自分にもっと金があれば……彼女も自分も、こんな風につらい思いはすることはなかっただろう。
すぐにでも、彼女を買って自由にすることができたはず。
もちろん今だって、汚い金、黒い金で彼女を幸せにしようなどとは思えないし……誰かを泣かせて稼いだ金では、彼女は笑ってくれないだろう。
だがそれでも、金がなければ何もできない……金を持っている者に、持たざる者は踏みにじられるしかない。それはこの世界の、どこまでも残酷な真理でもある。
他ならぬスゥも……それに近いことを、いつか言っていた。
以前、ステラとのなれそめや昔の話を雑談の中で聞かせたことがあり……その時に、ぽつりと尋ねたことがあったのだ。
自分は間違っていたのか。汚いことをして、犯罪に走ってでも金を用意して、ステラを助けるべきだったのか……と。
長い間考えて、自分でもいまだに答えを出せていない問いを、彼女に投げかけたことがあった。
今でも、黒い金で彼女を幸せにしたいとは思えないし、幸せにできる自信がない。けれど、金がなければ彼女は間違いなく不幸になる。そこから救うことができるのは、金しかない。
そんな残酷な現実を、言葉にしたような格言だった。
「『金が世の中の全てじゃない。しかし、全てに金が必要だ』……だったか」
『いつかネタとして本に書くかもしれないから、あんまり言いふらしたりしないでね』などと茶目っ気を出して言っていたが……まったくもってその通りだと思った。
奇麗事だけで生きてはいけない。食っていけない。戦っていけない。守れない。
力が、立場が、そしてやはり金が要る。この理不尽な世の中で、己を通して、大切なものを1つ残らず守るためには……俗な考え方であっても、この世界で通用するそれらの力が要る。
それらを、決して褒められたやり方では用意できないのだとする。
だとしたら、それに背を向け、諦めてステラが……大切な人が不幸になるのを良しとするのか?
……否。それはありえない。
テゾーロは、心の中できっぱりと否定した。
(結局、明確な答えなどどこにもないんだ。金に綺麗も汚いもない。重要なのは、金を使う者、使われる者の行い。それに付随して動く物が何であるか、何が起こるか……)
深呼吸しながら考えをまとめる。
以前のような、何をしてでも金が欲しい。金さえあれば何でもできる、などという考えを持つつもりはなかったが……それでも、事実として、金は力だ。
金が全てではなくとも、金がなければ何もできない。金さえあれば、できることは増えるし、守れるものも増える。
いつか、再会した大切な人を守るために、あるいは、返しきれない恩を持つ人を助けるために。
「……そうだ、俺はいつか……ここを出る。出てみせる。そして……」
いつか届かなかった幸せを、今度こそ逃さずつかんでみせる。
あの日自分になかった、金の力を持って。
決意を新たにしたテゾーロは、口元にわずかに浮かんだ笑顔を消して、今はひとまず、奴隷としての生活に戻る。
主人である天竜人の命令により、テゾーロは『許可なく笑う』ことを許されていない。
いつか、こんなバカげた
☆☆☆
「せ゛ん゛ぜぇぇ゛え゛ぇっ!! よか゛っ゛た゛ぁぁ゛あ゛あ゛!!」
「おーよしよし、どうどう、落ち着けエディちゃん。私はちゃんとここにいるよ」
こうなることを予想して個室の居酒屋を予約した私、グッジョブ。
数週間ほど、レイリーとシャッキーのご厚意に甘えて鍛え直してもらった後、私はステラと一緒に、もともと拠点にしていた島に戻ってきた。実に一年ぶりに。
そして、島につく前から電伝虫で無事を伝えてあった、担当編集のエディちゃんと、こちらも1年ぶりに再会した、というわけだ。打ち合わせという形で。
仕事の話なのでステラはお留守番。
予想通り、めっちゃ心配してくれてたエディちゃん、感極まって泣きながら抱き着いてきた。おーよしよし。ちょっと背のびた?
手紙1枚だけ寄越して天竜人なんかに攫われちゃってごめんよ。でも、あのくらいしかできなかったんだよ。ホントに急だったからね。
しかし、エディちゃんはまあいいとして……
「なんでモルガンズも来てるの?」
「クワハハハ、久しぶりだってのにつれないことを言うなよスゥ、俺と君の仲だろう?」
呼んでないのに来ているこの鳥である。
エディちゃんとは別に連絡はしたんだが……こいつとの打ち合わせはまた後日にするつもりだったんだけど、なぜか今日、いきなりエディちゃんとの打ち合わせの場に現れたのだ。
エディちゃんに許可はとってるって話だったけど……いやまあ、別に私はいいけどね。エディちゃんさえよければ。
そのエディちゃんをとりあえずひとしきり泣かせた後は、きちんと落ち着かせる意味も込めて、聖地ではどんなことがあったとか、どんな『経験』をしてきたとかの報告。
心配していたエディちゃんも、実際のところはどうだったのかを聞けて、本当に何もなかったとわかって――私には何もなかったけど、ヤバい現場は結構な頻度で見てたけどね……――ひとまず安心したみたいだった。
その後は、雑談を交えながら、今後のことについてゆっくり打ち合わせ。居酒屋の美味しい料理に舌鼓を打ちながら。
マリージョアにいた約1年の間に、書きたいもののアイデアは溜まりに溜まっている。
というか、シャッキー達のところにいた時から既に書き始めてたので、もう既にいくつか書き上がっている。原稿渡すだけっていう段階だ。
そのことを話したら、エディちゃん達も驚くかな、と思っていたんだが……残念ながら逆で、驚かされたのはこっちだった。
なぜかというと、モルガンズが予想してたのである。私が既に新作を書いているだろうって。
「君は頭に思い浮かんだことをアウトプットせずにはいられない人間だ。そんな君が、色々とインスピレーションを刺激される環境下で長いこと閉じこもっていたら、そりゃ作品の構想の1つや2つや3つや4つ出来上がるだろうし、解放されたらすぐに形にせずにはいられないだろう?」
「という話を、先生がマリージョアに行っちゃった直後から聞かされてました」
きっちり理解されていたようだ、流石と言うしかない。ちょっと負けた気分……。
だったら話は早いってことで、どんなのを書いたのかを2人に話すことに。
ただ、今回書いたのは……ちょっと癖が強い作品が混じってるから、ぶっちゃけ出版できるかどうか微妙なんだよね。
最近、エディちゃんのところ、外聞を気にして尖った作品を出さないようになっちゃったし、今回のも微妙かも。
それでも書いて、完結までもう持って行ってあるのは、モルガンズの指摘通り、思いついた以上は書かずにはいられないという、物書きの性である。
新作を4つ同時に出したら、エディちゃんは大喜びで簡単に目を通したけど……やはり微妙だと思ったんだろう。『うーん……』と、眉間にしわを寄せて、悩んでいる様子だった。
「これとこれは、うちで出せると思います。読者受けもよさそうですし、むしろ歓迎されるかと。でも、残り2つは……結構、いやかなりダークな作風ですね」
「そういう作風になるようなインスピレーションを、聖地では受けた、ということかい?」
「まあ、色々と見たり聞いたりしましたんでね……詳細は想像にお任せします、ってことで」
「なるほど。であればエディ嬢、この2つ、俺が貰ってもいいかな? うちで出版できるか掛け合ってみようと思う」
「え? モルガンズさん、『うちで』って……新聞で?」
「いや、『世経』には系列の出版社が別にあって、そこでは普通の書籍を作って販売してるからね、そっちに回すつもりだ。スゥの久方ぶりの新作、それも今までにない読み味の異色作ともなれば……そこの連中も喜ぶだろう」
「いいの? ともすれば、海軍とかからあんまりいい感情されないような内容も入ってるんだけど……いや、書いといて何を言ってんだって話だけどさ」
「全く問題ないさ。直接的に政府批判をするような内容ならまだしも、十分にピカレスクロマンやブラックユーモアの枠内に収まる程度だ。このくらいでうちは二の足を踏んだりしない。なんならもうちょっと過激でもよかったくらいだ」
相変わらず怖いものないな、この鳥。
結局、新作4つは、エディちゃんに2つ、モルガンズに2つ、分けて預けることになった。
エディちゃんに渡したのは、王道・正道と呼べる内容のものを2つ。
1つは、貴族に生まれながらも、正義感溢れる志を持つ快男児の物語。事件の噂を聞きつけると、身分を隠して庶民に混じり、その真相を暴き、黒幕のところへ殴りこんでたった1人で大暴れ。
後日、引っ立てられるもしらばっくれて『証拠を見せろ』と喚きたてる悪人達に、討ち入りの日に披露した桜吹雪のタトゥーを今一度見せつけ、自分自身が証人だと突きつけ、言い逃れできなくなった悪人達に裁きを言い渡す。勧善懲悪の痛快活劇『名裁判長 桜吹雪のゴルさん』。
もう1つは、普通の平民の少女がある日突然、不思議な事件に巻き込まれる。悪い海賊が海軍に追いかけられる最中、奪った宝物をばら撒いてしまい……その中にあった悪魔の宝石を、町の人々が拾ってしまったことが原因だった。呪われた宝による様々な事件から町を守るべく、少女は海賊の宝の中にあった悪魔の実を食べ、不思議な力の能力者となって、襲い来る災いや悲しい運命を背負ったライバルの美少女、そして事件の真の黒幕に立ち向かう『魔法少女マジマジ☆リリカ』。
一方、モルガンズに渡したのは、邪道というかダークな内容のものを2つ。
1つは、権力者や悪徳商人によって大切な人を奪われ、しかし身分の差や力のなさゆえに泣き寝入りするしかない弱者に代わって、いくばくかの『頼み料』と引き換えにその恨みをはらす、闇から闇へ悪を誅するダークヒーロー『仕事人』の活躍を描く『必殺仕事人』。
もう1つは、10日5割の暴利で金を貸す闇金業者が主人公。しかし登場する様々なキャラクター達もまた、筋金入りのロクデナシばかり。金貸しと債務者の関わりや、債務者がそれぞれに抱える事情の中で生まれる喜劇、悲劇、人間ドラマなどを描いたブラック群像劇『闇金タウロスくん』。
2人共、私の復帰作ってことで気合入れて会議にかけるつもりのようで、やる気に満ち溢れた様子で帰って行った。
なお、居酒屋の支払いはモルガンズが全部持ってくれた。相変わらず気前はいい。
後日、渡した話が4つとも会議通って出版されることになったと聞いた。
エディちゃんのはともかく、モルガンズの方も通ったのか……攻めるなぁ、世経系列の出版社。
……今度、前にエディちゃんの会社で没食らった案とかも、簡単に書いて渡してみようか?
『悪魔の子』のやつと、孤児の窃盗団のやつ。喜ばれる気がする。
前回のあとがきに乗っけた『……読みたい?』に関しまして。
数多くのご意見ありがとうございます。
ただ、感想欄でお返事をもらうと規則的にまずいというご指摘をいただきました。
なので、この先もしご意見・ご要望等(賛成・反対含む)ありましたら、活動報告の方に新しい記事を乗っけておきましたので、そちらに返信する形で送ってくだされば幸いです。
(そっちなら賛成・反対はもちろん、ご意見含めて長文で乗っけていただいても全然OKなので)
なお、結局どうするかはまだ考え中です。
当初は予定してなかったんですけど、言われるとなんか気になってくる……(悩)
今後とも拙作をよろしくお願いします。破戒僧でした。