あ、昨日の『……読みたい』とは関係ない別件です。
では、第46話、どうぞ。
元通り、作家兼賞金稼ぎの生活に戻った私。
前と違うのは、1歳年をとったことと……ステラが一緒に暮らすようになったこと、くらいだ。
ステラは一応、健康で元気で、心も強い女性ではあるけど……親の借金のカタに売られてしまった彼女には、頼る身寄りもないし、1人で放り出されて生活をどうにかできるとも思えない。
奴隷としての生活の中では、食料もそれほど多くなかったはずだから(隙を見つけて私がお菓子とか分けてあげてたけど)、栄養的にも足りてたか微妙だし……体調的にも少し不安だ。
ステラは『開放してもらっただけでも十分なのに、これ以上お世話になるなんて……』って言ってたけど、マリージョアから連れ出したのは私なんだから、最低限、仕事が見つかったり、体力がきちんと戻って、彼女が独り立ちできるようになるまでは面倒見なきゃ。
彼女には今、私の『家』の家政婦さんをお願いしている。
2人で暮らすってことで、宿じゃなくて家を拠点にした方がいいと思って、思い切って借家を借りたのだ。時間の融通も利くし、宿の部屋より広いし、荷物も置いておけるから。
私がそこで、雇用主としてステラを雇ってる形。当然、お給料も適正価格で出している。
普段の家事とかは、私も一応やるけど……割とステラに任せている。
マリージョアでもそんな感じだったからね。こちらとしても、楽だし、助かってる。
特に、執筆作業中なんかは……私だとどうしてもそのへん後回し、ないしおざなりになる。
私、夢中になっちゃうと時間とか忘れるタチでさ……さっき朝ごはん食べたと思ったのに、ぶっ続けで書き続けて……気が付いたら翌日の朝ごはんの時間になってた、とか、前にあったからね。
どうりでお腹すいたと思った……いや、執筆中は空腹も疲労も眠気も忘れてたから、はっとした瞬間に全部襲って来たんだけど。
留守の間の家も任せられるから、それも助かる。
賞金稼ぎのために、時々数日家を空ける時があるんだけど、その時は来客対応とかはステラに一任してる。……流石に航海に連れて行くわけにはいかないからね。危険だし。
もっとも、その賞金稼ぎの方も……最近はそんなに行かなくてもよくなりつつある。
作家業の方がかなり順調だから、そっちの印税とかで食べていける。
私が不在の間も当然印税は発生してたんだけど、それについては、帰ってくるまでエディちゃんが管理してくれてたので、先日手続して受け取っておいた。結構な金額になってた。
その気になれば、作家業に専念しても食べていけそうだ。
けど、やっぱりインスピレーションって大事でさ……時々は外に出かけて『経験』を仕入れないと、筆の進みが鈍っちゃうんだよねえ。
そうなると、『賞金稼ぎ』の活動自体はともかくとしても……色々な島に行けるだけの力や設備、航海術なんかについては、錆びつかせず持っておきたいわけよ。
折角強くなったのに、それを手放しちゃうっていうのももったいないし……海賊との戦いは、単純に刺激になるのに加えて、『航海日誌』から間接的な『経験』を仕入れたり、思わぬお宝やらドラマを目にすることになることもあるので、ぶっちゃけやる意義があったりする。
だから、数週間から数か月に1度は、旅に出て適当な海賊を狩って、お金と経験の両方を仕入れることにしてるのだ。
もちろん、訓練も欠かしていない。
自主トレは当然として、レイリーやシャッキーのところに遊びに行くついでに鍛えてもらうのも続けている。
あと、これは意外というか予想外な話なんだが、マリージョアにいた頃、ずっと海楼石をつけて生活してたのが、ホントに負荷トレーニングみたいな感じになってたようなのだ。
なんか、前より体が軽い、ような気がする。
というか正確には、前よりうまく、効率的に体を動かせるようになったんだろうな。
アレをつけてた時、私、ずっと体がだるくて重い、力が足りてない感じがずっとしてた。
けどその状態でも、普段通りに生活できるように、そして、体型とか体力を維持するために適度な運動をできるようにしなきゃならなかった。
それで私の体は、無意識のうちに学習し、順応していったんだろう。
より小さな力で、より少ない疲労で、パフォーマンスを保って動けるような……効率的な動きを模索して。
そして、そういう体にしみついた感覚は、純粋な身体能力だけじゃなく、覇気の方にも活きてくれたようで……レイリーからは『ブランクを感じさせないどころか、成長著しい』と言ってもらえたくらいだ。
あれかな、強い精神は強い肉体に宿る、的な……昭和の体育会系みたいなアレが実際に起こったってことなんだろうか? ……私あんまり体育会系のノリ好きじゃないんだが。
まあ、強くなったのはありがたいので、普通に喜んでおくか。
そんなある日のこと。
シャッキーの店でカウンターに突っ伏している私。
理由は、午前中ぶっ通しで行われていたレイリーとのマンツーマンの訓練で疲労が限界に達しているためです。
体力も覇気ももう残ってません。1歩も動けねえ。
「お疲れ様、スゥちゃん。はいコレ、私のおごりだから食べてって」
そう言ってシャッキーが出してくれたのは、チーズとケチャップたっぷりのピザトーストだった。わーやったー、大好物。まだアツアツですっごい美味しそう。
舌火傷しないように注意しつつかぶりつく私を、シャッキーは微笑ましい子供を見るような目で見ていた気がする。
「やれやれ、子供と言うには随分と大きい気がするがな」
「どこかの誰かさんみたいに、老け込んでも頭の中が子供のまんまなのよりはマシでしょ。全く……賭けで負けたストレス発散にスゥちゃんを訓練でいじめるとか、大人げないことして……」
「……え、今日の訓練がいつもより厳しかったのってそんな理由だったの?」
「何を言う。気分転換に少し激しく運動して汗を流しただけだとも、健全だろう」
何してんのこの冥王。圧倒的格下相手にそんな大人げない……。
というか今心読まなかった? 見聞色?
「見聞色など用いなくともわかる。……君は割と表情や態度がわかりやすいからな」
「さいですか。シャッキー、ピザトーストおかわり! チーズマシマシで!」
「はいはい。相変わらずチーズ大好きねスゥちゃんは。美味しそうに食べてくれるから、私も作り甲斐があっていいけど」
「チーズというか、子供向けの料理全般好きだな。オムライスだのカレーだの」
いいもん子供で。今だけはわんぱくで食いしん坊な子供でいい私。
あとしいて言うなら、チーズって言うか乳製品全般好きです。
「九蛇の船に乗っていた時も、スゥちゃんは皆の子供みたいなものだったからね……今でも思い出せるけど、皆面白がってかわいがってたわね」
「よくしてもらってたのはよく覚えてますよ。まあ、『九蛇』に入るのは断っちゃいましたけど」
海賊としての生き方は望まなかったのは、本心だからね。
お世話になったとは思うし、感謝もしてるけど、だからこそ本心を押し殺して海賊をやるっていうのは、彼女達に対して逆に失礼だと思ってたし。
海賊ってのは、良くも悪くも……心の底からそれをやりたいと思う奴らがやるもんなんだと思うし、それが一番いいんだと思う。
「変な話だけど、その頃の経験がその後の子育てとかに生きた船員達も多いんじゃないかしら。あの時に現役だった皆のうちの何人かは、『アマゾン・リリー』に戻って子供を産んだらしいし」
「あ、そうなんですか……私の知ってる人かな?」
その話を聞いて思い出したけど、たしか『九蛇』って、男子禁制の島だから、よっぽどの例外とかでもないと島に男は入れないんだよね。入れば即刻殺される。
そんな島で、『九蛇』の女が子供を産む場合はどうするのかというと……遠征に行った戦士がまれに子供をお腹に宿して帰ってきて、島で産む、というものだったはず。
アマゾネスらしい風習があるんだな、と、原作を読んだ時にも、船で話してるのを聞いた時にも唖然としたのを覚えています。どんな気分で『宿して』くるんだろ……?
これと見定めた獲物を食う感じで行くのか、それとも酒に酔った勢いとかで……
取材……してみたい気もするけど、すげー生々しい話になりそうだ。
というか、取材する以前にそれには女ヶ島に行かないと……あーでもそういえば、随分前に、シャッキーに『一緒に女ヶ島に行く?』って聞かれたような気も……あれどうなったんだろ?
とか私が考えていると、いつの間にかシャッキーの思い出話が始まっていた。
「それで前に一度、私の同期で子供を産んだ子に話を聞いてみたんだけど、その子が『鼻の穴からスイカかメロンをひりだしたみたいに痛かった』なんて言うもんだから、皆怖がっちゃってね。女の体はそういうのに耐えられるように出来てるんだって知識では知っててもねえ……」
あ、その例え方、この世界にもあるんだ……。出産時の激痛のイメージ、『鼻からスイカ』。
怖えーなー……やだなー……経験したくないそんなの。
私女だけど、今んとこ子供欲しいとは思ってない……どころか、結婚願望すらないしな。
いや、つい最近まで結婚(?)してたけど、あれを結婚にはカウントできないだろうし。
というか、自分が母親になるって未来が想像できんし……母親になるからには父親が必要なわけだが、それに関連する諸々も想像できんし……あんまりしたくない。今のところ。
まだまだ自由でいたい。せっかく好きなように生きていける立場も力もあるんだからさ。
「おかげで子供産むの嫌だって言う子が多くなって、かと思えば『戦士が少なくなる』って当時の島の上役達が若い戦士に子供作れって言って来たりさ。というか、もともとそのへんの知識に乏しい子が多かったから、その意味でも色々苦労して教育してた気がするわね」
……ああ、女ヶ島について気になってること、それもあった。
どうも聞いてる感じ、女ヶ島ってそういう……『男女のあれこれ』というか、もうぶっちゃけて言っちゃうと、性教育方面の知識に乏しいよね多分。
原作の中で、マーガレットとかがルフィ(気絶中)を素っ裸にして洗ってあげてる時、男のアレを見て『体からキノコが生えてる』って引っ張ってたくらいだし、それをどういう風に使うのかもわかってなかったようだし。
それも、その様子を周りで野次馬的に見てた全員がそうだった。知識があったのはニョン婆だけ。
あと、何かで見た記憶がうっすらあるんだけど……ハンコックの設定にも『子供の作り方を知らない』ってのが……彼女、原作時点で29歳だよな? さすがにいいのかそれで……?
というか、下世話な、あるいは品のない話になるんだけど……ハンコックがそういう知識がないってことは、天竜人にそういう扱いをされてたわけでもない、ってことになるのかな?
ハンコックは元・天竜人の奴隷っていう過去もあって、いわゆる『薄い本』では、その時に天竜人からあんなことやこんなことをされて……みたいな言われ方をこれでもかとされてたと思うんだけど、知識としてそういうのがないってことは……実際にはそういうのはされてない?
女としての地獄を味わったわけじゃなく、あくまで他の方向での苦痛や恥辱?
……というか、そのへんずっと疑問ではあったんだけど……天竜人って奴隷や
これも『薄い本』では鉄板のネタだけどさ、実際に考察してみると……
だってあの連中、『同じ空気を吸いたくない』とか『外の世界は不潔だから』とか、そういう理由であんな宇宙服みたいなの着たりしてんだよ?
それを、まさに『住む世界が違う存在』と定義してるであろう奴隷を相手にエロいことする気になるのかな? 欲望より先に嫌悪感とか来たりしないの?
そも、原作でも天竜人がそういうエロい目で他の人を見てたシーンとかなかったと思うし。残虐で非人道的、道徳ゼロなシーンはいくらでもあったけど、R18を匂わせる行動はなかった気が……。
……エロい格好をした美女を鎖で引き回してたりはしたけど、せいぜいその程度だ。
シャボンディ諸島の時も、ナミやロビンを相手に『剝製にしてやるえ』とか言ってたし。あんな美女2人を前にして、選択肢にもそういうエロ方面が出てこないってことは……
いやでも、美人を拉致同然に『妻』にしてたんだからそういう感性はあるのかもしれんし……徹底的に消毒洗浄とかしたうえであればそういうのもアリなのかもしれないし……
……てか、ただ単に週刊少年誌に掲載されるうえでの問題かもしれんけど。
結局私が知ってるマリージョア、ないし天竜人の実態も『バノサッカ聖』が連れ出してくれた範囲内だけだし……もしかしたら他の天竜人の家では、それこそ『薄い本』な内容のアレコレが地下室かどこかで展開されてたりしたのかも……
……と、思考に没入してしまってる間にも、シャッキーの話は続いていた。
「とまあそんな感じで、年によっては子供を産むのを避ける子も多くて……かと思えば、いつの間にか子供ができてて、本人も周囲もそれが発覚して驚いて、なんてこともあったわね。中でも一番驚いたのは……遠征中に船の上で出産した子がいたことだったかしら」
「え、何ですかそれ……その人、身重で海賊やってたの?」
「そりゃすごい話だな……誰も止めなかったのか? 妊娠したのなら、遠征には出ずに島で安静にしていた方がよさそうなものだが」
「それが、誰も気づかなかったのよ、その子が妊娠してるって。お腹が大きくならなかったから。個人差があって、人によっては妊娠してもお腹が大きくならなかったりするって聞いたことない? その子もそうだったみたいでね、ある日突然、船の上でお腹が痛いってうずくまったと思ったら、すぐ後に破水して、そのまま船医が赤ちゃん取り上げてさあ」
「うっわあ……ものすごい修羅場だったでしょ」
「ええ、そりゃもう。設備なんて何も揃ってないから、大急ぎで皆お湯沸かしたりハサミ用意したりでてんてこまい。まあ、今となっては笑い話だけどね」
そう言ってけらけらと笑うシャッキー。聞いてるだけですごい場面だな……さぞ大変だっただろう。けど、中々ない、おもしろい経験だな、まさに。
「本人も妊娠してるなんて欠片も気づいてなかったから、その直前まで普通にお酒も飲んで煙草も吸ってたし……いやホント、青天の霹靂そのものだったわよ、船全体にとって」
「それはまた……まあ、気づいていなかったのなら責めることもできんだろうが」
「ですね……それに、そういう人ってたまにいるみたいですね。実は、私の母もそうだったみたいなんですよ」
「え、スゥちゃんのお母さんも?」
「はい。……まあ、もちろん私自身が覚えてるわけじゃないんですけどね?」
生まれる前だからね。そりゃ見て覚えてるはずもない(笑)。
ただ昔、父の書斎にあったアルバムをこっそり見た時にね。
父と母が並んで楽しそうに映ってる写真が何枚もあって、昔から仲よかったんだなー、って思って見てたんだけど、その時にふと思ったことがあったんだよね。
私の誕生日の近くなった、ないし直前くらいに撮られた写真が何枚かあったんだけど、その時のお母さん、おなかが大きくなってなかったのだ。
それについて聞いたら、『お腹が大きくならなかっただけよ』って教えられたのである。
あと、黙って書斎に入って勝手にアルバムを見たことは、お父さんにめっちゃ怒られました。
……あの写真もアルバムももう、焼けてなくなっちゃったんだよね……思い出すと、ちょっと寂しい気分になってしまった。
あの頃の、お母さん達のことを思い出せるものと言えば、私自身の記憶を除けば、家にしまってある2人の指輪と、今もこうして肌身離さず身に着けている、片耳だけのイヤリングくらいだ。
どちらもあの日、形見として持ち出したもの。イヤリングは大人用だから、昔は私の耳にはちょっと大きかったんだけど……今となってはサイズ的にもちょうどよくなった。
……あーでも、最近私、鏡の前に立って自分の姿を見ると……成長してお母さんに少し似てきたかな? と思わなくもないような、でもなんかそうでもないような……
プラチナブロンドの髪とか、ふんわりな髪質は似てる気がするんだけど、お母さんもうちょっと目つきが穏やかというかたれ目気味だったような気が……まあ、そのくらいは別に誤差か。
親子だからって、瓜二つになるような似方して育つとは限らんしね。
次回から新章の予定ですが、次の更新までにちょっとだけお休みいただく予定です。
プロットの見直しとか、リアルの仕事の都合とかで。
今しばしお待ちください。
今後ともよろしくお願いします。