ある程度プロットの整理ができたので、後進再開いたします。
初っ端からとんでもないことになってますが……第47話、どうぞ。
第47話 スゥ19歳、WANTED
「はぁ~……」
本日、天気は快晴、波も穏やか、風は軟風。
腹が立つくらいの好天である……私の胸の内とはまるで違って。
大きなため息をついた私は、今一度、手に持っていたあるものを見る。
それは、1枚の手配書だ。
新聞を買うと、新しく出たものがチラシよろしく挟み込まれている。賞金首の情報をそれで知ることができ、指名手配犯の顔写真と懸賞金額が記されている。
海賊であれば、大体はDEAD OR ALIVE(生死問わず)。
賞金稼ぎ
めぼしい奴の手配書は、後から確認できるように束にして保管してあるし。
……問題は、そこに書いてある内容……というか、載っている顔写真だ。
何度見ても、その内容は変わらない。変わるわけがない。
それでも……見るたびに、陰鬱な気持ちになって、ため息が、
「はぁぁあぁ~~~……」
出る。
だってさあ……
WANTED
ベネルディ・トート・スゥ
懸賞金:5500万B
「どうしてこうなったッ……!!」
手配書のど真ん中にある、写真の顔。
それは今朝、洗面台の鏡を見た時にも見た顔と、まるで同じそれだった。
どうして私がお尋ね者になぞ、なってしまっているのか。
話は……半月ほど前にさかのぼる。
☆☆☆
いつも通りと言えばそうなんだけど、私が『冒険』のためにとある島に行った時のことだ。
その『とある島』での冒険については、もうすでに無事に終わって……いやーいい経験ができたなー、とか思いながら、帰路についていた。
その途中、別な島があったので、ついでにそこに寄ったのである。船じゃなくて陸で休んだ方が疲れも取れやすいし、色々補充するために買い物もしたかったし。
その島は、取り立てて目立つところもない、普通の島だった。
観光地みたいな楽しめるところもないけど、逆に何かしら危険なことがあるわけでもない。
まあ、別に今は『冒険』を求めてたわけでもないので、それは気にならなかった。
ただ、その普通の島が、今だけはちょっと騒がしくなってて……その理由が、とある団体客が島を訪れて、宿をとっていたからだったのだ。
「ここも……満室ですか?」
「はい、申し訳ございません……ただいま、海軍の皆さまのご利用で全ての部屋が埋まってしまいまして……一般のお客様は、事前予約の方のみとなっております」
尋ね歩いた宿、3件目なんだけど……ここも満室。
むぅ……宿泊先が見つからん。海軍の人達、一体何十人、あるいは何百人?でこの町に来てるんだよ……
宿の人達からすれば、かき入れ時で嬉しい悲鳴なのかもしれないけど、通りすがりの旅行者からすれば、ちょっとそのー……一般の方への配慮が欲しかった感じが否めない。
ホントにこの町の宿屋、全部海軍で埋まっちゃってるんじゃないかと思うほどだ。
宿屋の人に文句言っても仕方ないし、そもそも商売人に筋違いだから何も言う気はないけど……
「どこの宿屋なら空いてる、とかいう情報みたいなの、ありません?」
「さすがに手前どもも、他の宿屋の状況までは……ただ、元々宿屋が多くはない町なので、もしかすると空きはどこにもないかもしれません」
「マジかー……」
「普段はそこまで立ち寄る人もいない町なので、それでも困らないのですが……」
何で今日に限って、海軍の人達がこんなに集まっちゃってるんだ……
「……わかりました。ありがとうございました……」
「はい、ご期待に沿えず申し訳ございません」
深々と頭を下げて見送ってくれる宿の女将さんに軽く会釈しつつ、宿を出る私。
これ、せっかく島に寄れたのに、船で寝なきゃいけないかもなあ……
そんな風に考えて、トホホな気分になりながら歩いていると……ちょうど、私と入れ違いで宿に入ろうとしているらしい、大柄な人とすれ違った。
ちらっと見えたけど、海兵の服を着てたから、海軍の人だろうな……ここに泊まってんのかな?
…………?
気のせいかな? 何か今の人、見覚えがあるような気が……
☆☆☆
「やぁ、女将。今戻った」
「あら、教官さん、お疲れ様です。お散歩は楽しかったですか?」
スゥと入れ違いで入ってきた、宿の入り口が実に小さそうに思える巨漢の海兵に、宿の女将は笑顔でそう尋ねた。
短く刈り込んだ髪に浅黒い肌、メガネの向こうの鋭い目、強面の顔つきという、かなりいかつい見た目ではあるが、昨日今日のやり取りで、この海兵が典型的な『気は優しくて力持ち』な人柄だと女将は知っていた。
同時に、泊まっている海兵達の『教官』である彼は、生徒である海兵達からとても慕われているのだということも理解していた。
そのため、特に話す際に物怖じすることもなく……そんな女将の態度に、その海兵も気分よさそうに、やや武骨めな笑顔を返す。
「ここはいい町だな……静かで平和だ。あいつらにとっても、降ってわいた形とはいえ、落ち着いてすごせるいい休暇になるだろう」
「いやだねえ、こんな何もない町……ほめすぎですよ。こっちはおかげで儲けさせてもらってますから、好きなだけ居てもらっていいですけどね」
「そう言ってもらえるとありがたいが……しかし、今、出入り口ですれ違ったあの人は、ひょっとして俺達のせいで泊まれずに出ていった口か?」
少し残念そうな表情で、ちょうど宿の玄関から出てきた少女の姿を、その海兵は見ていた。
その予想が当たっているらしいということは、女将の『あー……』と、少し言いにくそうな様子から察することができた。
「女将の前で言うことじゃないかもしれんが、ちと悪いことをしてしまったか……」
「わざとそうしたわけでもないのに、気にしても仕方ないですよ、教官さん。生徒の皆さんをゆっくり、やわらかいベッドで休ませてあげたかったんでしょう?」
海兵達の『教官』である彼は、生徒達を引き連れて、中長期の演習として海に出ていた。
その途中、乗っていた艦の整備をする必要があったため、本来のスケジュールにはなかったが、一旦予定のルートを外れてこの島に訪れていた。船の整備ができるまでの数日だけだが、この町に滞在する予定だった。
その際、演習で疲れているであろう生徒達を少し休ませてやろうと、艦の部屋ではなく、町の宿に泊まれるようにしたのだが……町自体が予想よりもだいぶ小さく、宿も少なかった。
結果として、海軍の一団だけでほとんど町全体の宿屋を借り切るような状態になってしまったのである。
幸いと言っていいのか、もともとそこまで訪れる人も多くない町だったため、それで締め出されてしまうような旅人もほとんどいなかったのだが……その数少ない1人に、先ほどすれ違ってしまったというわけだ。
ばつが悪そうにがしがしと頭をかく『教官』だったが、
「あ、ゼファー先生! お帰りなさい!」
「もうすぐ昼食らしいですよ、よかったら一緒にどうですか?」
と、宿の部屋からちょうど出てきた、彼を慕う生徒達に声を掛けられる。
その、目論見通りリラックスして疲れを取れている生徒達の様子を見て、『教官』……元海軍本部大将・黒腕のゼファーは、いかつい顔を笑顔にして、生徒達のところに歩いていった。
宿をとれなかったあの少女には悪いと思いつつも、それで、せっかく疲れをいやすことができている教え子たちの時間に水を差すようなこともしたくない。
ひとまず気持ちを切り替えて、『先生』である彼は、生徒達と共に食堂に向かっていった。
彼が、たった今すれ違った少女のことについて……その少女自身も知らなかった、とある事実、ないし、奇妙な縁を知ることになるのは……もう少し後の話だった。
☆☆☆
「くそ……何だって海軍が、こんな何もない辺鄙なところに来たりするんだよ」
「よりにもよってこんな時に……取引はもう明日だぞ?」
「何、問題はないだろう。ここに来たのは偶然のようだし……まさか我々の取引をかぎつけて来たわけもない。俺達はただ、こっそり渡すものを渡して金を受け取れば、仕事はそれまでだ」
「ああ、誰もこんな、しなびた民宿で裏取引が行われるなんて思いもしないだろうしな。そのために、わざわざこんな正規の航海ルートから外れた辺境の島を選んだんだ」
「……だな。余計なことは考えずに、普通に旅行者のふりでもして、連中が来るのを待とう」
「ああ。へへっ、そう思うと今から楽しみだ……こんな紙切れが大金に変わるんだと思うと、明後日が待ち遠しいぜ……一体これが何なのかは知らねえが、お偉いさんの考えることってのはわからねえな」
「取引が終わりさえすれば、俺達は自由だ。報酬を受け取ったら、優雅にバカンスとしゃれこもう」