海賊達は、もちろん全力で戦った。
持てる手段は全て使った。殺す気でやった。
剣を使った。
銃を使った。
罠を使った。
能力を使った。
そしてそれら全てを……その男の『黒腕』は打ち砕き、真っ向から沈めた。
「畜生……何で、てめえみてえな化け物が、こんなところに……」
「俺がどこにいようが俺の勝手だ。貴様らのようなクズ共をぶちのめすためなら、どこにでも行く」
元・海軍大将『黒腕のゼファー』。
全盛期よりは衰えつつある、と本人は言うが、それでも今なお、世界最高戦力の一角と言って差し支えない実力を誇る、海軍にその名を知らぬものなき英雄の1人。
彼が率いた海兵達の活躍もあり、そこらの海賊がかなうはずもなく、数隻の海賊船はあっという間に鎮圧されていた。
ゼファーは、足元に転がっている海賊……この船の船長の首をがしっとつかんで持ち上げる。
黒く染まらずとも十分すぎるその腕力。軽々と持ち上げられ、海賊は苦しそうに『ぐ……』と息を漏らした。
「さて……監獄にぶち込む前に聞かせてもらおうか。一体お前ら、どういう集団だ? 別な海賊団と連れ立って航海していたようだが、同盟組んでたにしちゃ連携の『れ』の字もねえ戦いぶりだった。おまけに……」
言いながらゼファーは、周囲を見渡す。
海賊船の甲板は、いかにもそこで激戦が起こった、とでも物語るようにボロボロになっていた。
しかし……これは、ゼファーがやったものばかりではない。
ゼファーがこの船に乗り込んだ時には、既にかなりボロボロだったのだ。
「すでに何らかの襲撃を受けて、船は半壊状態と来たもんだ……敗残兵かと思うような有様だった」
「けっ……その通りだよ、まさに、な。俺達は……戦いに負けてここに逃げてきたんだ」
「他の海賊団と小競り合いでも起こしたか」
「知るかよ、どこの船かなんて知らねえ……けど、バカみてえに強い海賊団だった……このあたりの海じゃ見たこともねえくらいに、場違いなほどに……海賊旗も、知らないマークだった」
「…………」
「その辺に浮いてるやつらも、大方そいつらに蹴散らされたんだろうさ。ほとんど何も言わずにいきなり襲い掛かってきて……」
そこで海賊は、首根っこをつかまれたままだというのに、顔を怒りにゆがめてぎりっ、と歯を食いしばって鳴らした。
何かを思い出して、その時の感情がよみがえってきたために、という風にゼファーには見えた。
「『期待外れだ』とか、『弱い奴らに用はねえ。どこへでも消えな』だと……っ! いきなり仕掛けてきておいて、あんまりじゃねえか、畜生っ……!」
「そいつは災難だったな。だがまあ、愚痴の続きは……監獄の中に持っていけ」
手に力を込めて首を強く締め、海賊を気絶させる。
後の始末を海兵達に任せ、ゼファーは今聞いた話を頭の中で思い返していく。
(いきなり襲ってきたかと思えば、興味を失って放置して去っていく……傘下に加える海賊の物色でもしているのか? それに……このあたりではマークを見たこともない、場違いな強さというのも気になる……そんな連中、この近くにいたか?)
現在地が本来の演習ルートから外れているとはいえ、事前に下調べはしてある。
自分が新兵達を引き連れて辿るルート上に、演習に支障をきたすような、危険度が高すぎる海賊の存在も、その縄張りも確認されていない。
もちろん、突然そういう連中が現れたり、海軍が把握できていなかっただけ、という可能性もあるが……
と、その時だった。
「ゼファー先生! 大変です!」
「! どうした?」
「別方向から来た海賊船が、島に接近中! もう間もなく接岸するところで……このままだと、町が危ない!」
「っ……まだ他にいたのか……! 急いで島に戻る、方向転換用意!」
☆☆☆
最初に現れた海賊達については、海軍の人達が無事にやっつけたっぽい。
海の方から聞こえてた戦闘音もすっかり聞こえなくなった(大砲の音とかくらいだけど)し、これでひとまずは大丈夫かな……とか思った矢先だった。
なんと、また別な海賊船が現れ……一直線にこっちに向かっているという。
しかも、海軍の船がいる方向とは全く別な方角から。どう考えても、海軍の船は間に合わない。島に上陸されてしまうだろう。
最低限の防衛のための戦力は残してくれたようだけど、果たしてそれで町を、島を守り抜けるかというと……
そんなわけで、私も出ることにした。
水際で戦って食い止めようと覚悟を決めつつも、海賊船1隻まるごとが相手ってことで青くなっていた海兵の皆さん。
警戒されないようにゆっくり近づいて話しかけ、『通りすがりの賞金稼ぎだ。覚えておけ』自己紹介して、一緒に戦わせてもらうことにした。
いきなり出てきた私に、海兵さん達もさすがにすぐには信用できない様子だったけど、猫の手も借りたい状況なのは変わらないということで、『変な真似をするなよ』と注意されたうえで参加させてもらえることに。
で、現在に至る。
「小娘1人にいつまでてこずってんだ!? さっさと殺すなり攫うなりしちまわねえか!」
「け、けど船長、あいつ只者じゃないですよ! どこにそんな力があるんだってくらいに、素早いし馬力もあって……もう何十人もやられちまってます!」
「なんなら明らかに海兵達より暴れてやがる……」
1隻だけかと思ったら、遅れて2隻目も到着して、そっちの海賊達も当然上陸してきて……明らかに残った海兵さん達だけじゃ手に余る数だった。
なので、以前『エレナ』や『ファイヤーワークス』でやったみたいに、私が一番前で大体の敵を引き付けて暴れまわり、討ち漏らして町に入ろうとしてくる奴らを海兵さん達が担当している。
打ち合わせとかしてそう決めたわけじゃないんだけど、自然にそうなった。
海兵さん達の腰が引けてて徐々に後退してそうなった気がしなくもないが、結果的に陣形として防御力が上がったので……まあ気にしないことにする。
そんなことを考えている間にも、数を頼みに海賊達は襲ってくる。
今もこうして、仲間がぶっ飛ばされている隙に、後ろから奇襲しようと剣を振りかぶって襲い掛かってきて……きっちり『見聞色』で気づいていた私の後ろ蹴りで沈められ、
それをさらに奇襲しようと横から低い姿勢でとびかかってきた奴は、体勢的に直接殴ったり蹴るのは難しいので、『“
おっと、その後ろからさらにもう1人来た。
投擲も終えたばかりで、今度こそ隙だと思ったみたいだが……
―――ガキン!
「何ぃ!?」
突然私の左手に、剣がもう1本現れて、そのサーベルを受け止めた。
そして、驚いている間に翻って襲ってきたその剣に斬られて倒れる。
もしそれをよく見る余裕があれば、その剣が『紙』でできていたことに気づけただろう。
能力で即興で作り出した剣だ。紙製でも、覇気をまとわせればそれなりの攻撃力になる。
せっかくなので、右手に番傘、左手に紙剣を持って、そのまま二刀流で暴れまわる。
……意外とやりやすいな。手数が増えるからペースも上がるし。
一刀流の時に比べて、あんまり慣れてないから動きに精彩はないけど……相手の錬度自体が低いから気にならない。十分無双できる。
ま、本気で無双したかったら、能力使って『紙剃吹雪』でも何でもすればいいんだけど……私、戦闘時は能力に頼りすぎないようにしてるから。
ただ、この『紙の剣』みたいに、面白半分とかで、思いついた形で能力を使ったりすることも結構あるんだけどね。
例えば、『エレナ』の時にやった『リアル“紙絵”』。
海軍とかサイファーポールが使う『紙絵』のメカニズムなんか知らないけど、私の体ってリアルに『紙』になるからか、それを意識すると、ホントにひらり、ひらりとかわせるんだよね。
体がぺらぺらの紙みたいに軽くなって、相手の物理攻撃の際に出る風とかで煽られるようにかわせる……のかもしれない。
相手の攻撃がそれなりに速かったり、風が出ないくらいに鋭ければ意味ないけど。
あとは、風で紙が舞い上がるみたいに、体の力を抜くとふわっと飛んだりもできる。体重そのものが変わってるんだろうか?
それとも、もともと悪魔の実の能力としてそういうことができる? ……原作で、クロコダイルとかエースとか、特に『自然系』は当然のように空飛んでたしな。原形をとどめないタイプの能力者は、そういうことができるのかも。
実際私もできるので、気分が乗ってくると、今みたいにふわふわ空を飛んで、敵の攻撃を上下左右前後にかわして翻弄しながら戦ったりする。
私の場合、どっちかっていうと『飛行』よりも『滞空』に近いか? そんなに早くは飛べないし…………ってぇ!?
(な、何だこの悪寒!?)
突然、『見聞色』に、すごい速さでこっちに突っ込んでくる、どでかい気配がひっかかって……とっさにそっちを見る。
そこには、空中を走ってものすごい勢いで近づいてくる、巨漢の海兵さんの姿が……って、待って待って待ってあの人ゼファーさんじゃないの!? 元海軍大将さん! 腕、黒いし!
どうやら、船がまだ着港する前から『月歩』使ってここまで走ってきたらしい。
心強い援軍だ。後ろの方からも海兵さん達の歓声が聞こえる。
……けど、なんか気のせいじゃなければ……すごい敵意とか殺気みたいなのこっちに向けてません!? 待って!? 私味方! 海兵じゃないけど、ちゃんと海賊と戦ってますよ!?
……と言う暇もなさそうだったのと、正直あまりにもその迫力が怖すぎたので、とっさに番傘を放し、紙の剣も消して両手をあげた。『撃たないで!?』とでも言うように。
それを隙と見て、海賊達が剣を振り下ろしてきたけど、当然私の体は紙になってばらけるだけで効かない。
いやあんたら、アレ見えてないのか!? やばいの近づいてきてるんだって! いや別に海賊達を心配してやるわけじゃないけど、私に攻撃するより逃げるべきでは……
そして当のゼファーさんはというと、私が降参のポーズを取ったのを見て『ん?』という表情になり、急ブレーキ。
……急ブレーキしながらも、周りにいた海賊達はついでとばかりに鎧袖一触。黒く染まった腕で吹っ飛ばしていた。ギャグマンガでしか見たことないような放物線を描いて飛んでいく海賊達。
そして、私の様子をよく見て、
「……すまない、どうやら勘違いをしてしまっていたようだ……海賊と一緒に殴るところだった」
そう言って頭を下げてくれたけど、『いえおかまいなく』とはさすがに言えない……
いや、別に怒ってるわけじゃなくて……ただ単に何か言う余裕がない。元とはいえ、海軍大将の威圧感、怖すぎです。
覇王色でも何でもないのに、気絶しそうになった。……ちびるかと思った。
いや、でもなんで? なんでそんな、遠い位置から殺気マシマシで突っ込んでこられるくらい間違えられたの? 覇気とか使ってたから警戒されたのかな?
腰が抜けそうになった私が体勢を立て直し、傘を拾う間に、ゼファーさんはすでに周りの海賊を全滅させていた。さすが早い。
私が立ち上がったところでふと目が合い、今一度小さく会釈してから、ゼファーさんは『ここからは我々が引き継ぐ』と言って、残りの海賊達の掃討に移っていった。
去り際に『協力、感謝する』とも言ってた。
ここで軍艦も到着。相手の海賊船も巻き込んでの戦いに。
遅れてしまった分を取り戻すかのように、獅子奮迅の活躍を見せるゼファーさん達。異名の通りに腕を『武装色』で真っ黒に染め、片っ端から海賊達を殴り倒していった。
『もう出番はなさそうだな』と納得して私は引っ込むことにした。
……このまま無事に終わってくれれば一番よかったんだけど……実は、問題はここからだった。
いや、海賊の方はもうこれでホントに終わりだったんだけど……また別な、しかも超ド級の面倒ごとが、この後に待ち受けてたんだよ。
港での防衛線は海軍の人達に任せるとして……ふと私は、町の方を一応見ておくことにした。
ないとは思うけど、こっそり防衛ラインを隠れて潜り抜けた海賊とかがいると悪いな、と、ふと思いついたからだ。
大通りや裏通り、軽く見て回ってみたものの、それらしい痕跡はない。
まあ杞憂だったかな、と思った……その時だった。
「…………ん?」
ふいに、『見聞色』に……わずかに引っかかるものがあった。
何だろうと思って、その先に向かってみると……驚いたことに、その出所は、私が泊まっていた民宿だった。
嫌な予感がよぎる中、恐る恐る、扉を開け……あ、カギかかってる。
いや、そりゃそうか。そういや私がここから出ていく時に、『私が出たらちゃんとカギ閉めてくださいね』って言って出てきたもんな。万が一海賊が来ても、入れないように。
……けど、だったら何で……なんだか物騒な気配が宿の中からするんだ?
しかも、人の気配自体はさっきまでより少ない気が……え、ちょっとマジで何が起こってるの? すごく嫌な予感がするんだけど……
鍵を開けてくれるよう呼びかけようかと思ったけど、なんとなく声を出さない方がいいがして……私は、体を紙に変えてばらけさせて中に入っていった。紙になれば、ぺらぺらだから扉の隙間からでも楽に侵入できるし。
そして、するりと宿の中に入ってみると……
「……ッ!? 何、これ……?」
そこには、惨劇が広がっていた。
この民宿には、私以外にも、海兵でない客が何人か泊まっていたのを知っている。
具体的にどんな人なのかまでは知らなくとも、朝食の席で見た覚えがあるから……普通の旅行者とか、そんな感じの、特に目立つような人達でもなかったように感じた。
もちろん、この民宿のご主人やその奥さん、そして、朝食の時間を知らせてくれた子。
その全員が……血の海に沈んで、倒れ伏していた。
★★どうでもいい雑談★★
以前、知人からこんな質問を受けました。
Q.なんで毎度夜11時更新なの?
A.自分、仕事終わって大体7時とか8時なんですが、そこから書き始めて、あるいは事前に途中まで書いてたものを仕上げて更新、と考えると、どうしても夜遅い時間になるんですよね。
実際、『ヒロアカ』とか書いてた時は毎度日付変わる前後の更新だったと思います。
それに加えて、なんとなく毎日同じ時間にした方がいいかな、と考えた結果、だいたい間に合うのが11時というタイミングだな、という感じの理由です。
昨日みたいに間に合わない時もありますけど。
なので、もしかしたら今後何かあったら変えるかもです。12時とか。