大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第5話 スゥ、趣味を持つ

 

 

 シャクヤクさんに『九蛇海賊団』に正式に入らないか、って誘われたのが、もうすでに3か月前の話。

 わたしは……結局、船を降りることを選んだ。

 

 海賊船の皆と過ごした時間は、充実してて楽しかったし、色々ホントにお世話になった。

 

 けれど、もともと私は、海賊になりたかったわけじゃない。両親や村の皆と――それはもう叶わない望みではあるけれど――のんびり平和に暮らすことができていれば、それでよかった。

 危険で刺激的な日常が欲しかったわけじゃない。戦いの中で生きたかったわけじゃない。

 

 それに……九蛇はあくまで海賊だ。

 ワンピース世界で言う『ピースメイン』……いわゆる、悪人だけを相手に略奪を行うような、義賊というか、正義のアウトロー的な感じではない。堅気の商船や、町や村も襲う。

 

 この時期はまだ『王下七武海』への加盟もしてないから、なおさらね。政府ににらまれようがなんぼのもんじゃいって感じだから、配慮も何もなく、普通に民間への略奪とかもやっていると思う。

 

 ……私が船に乗ってる間にも、何度かそういうことあったしね。

 私はその時は、ずっと船の中で留守番してて、そういう場面を見たことはなかったけど……そういう場面を直接見てないから、あまり心も痛まなかった。

 

 そういう『海賊行為』に自分から加担したいとは思わない。思えない。

 

 その他諸々じっくり考えて、私は海賊にはならない、と決めた。

 

 シャクヤクさんはその決断を尊重してくれて、責めも何もしなかった。

 船の皆は残念がってくれたけど、無理に誘ってもいいことにはならないときちんと理解してくれていたんだろう。引き留められはしなかった。

 

 単純に、また自分達の仕事が増えることを残念がっている人は多かったけども。

 ごめんね、これからは自分で掃除も洗濯もして、あと新聞も自分で読んでね。

 

 予定通り、私はその次に寄港した町で下ろされて……その際にシャクヤクさんが、町の上役に口利きしてくれて、仕事と住処を用意してもらえた。

 何から何まで、最後までお世話になっちゃったな。

 

 

 

 そうして『九蛇海賊団』の皆と別れてから、3か月。

 

 私はこの、『九蛇』の縄張りになっている島で、平和に過ごしている。

 

 仕事は、船でやっていたのと同じような雑用がメイン。いろいろできるけど専門的なスキルがあるってほどではないので、その時その時で人手が必要なところに派遣されて手伝いをしている。

 便利屋、ないし何でも屋みたいなもんだな。

 

 家は、さすがに5歳の女の子を1人暮らしさせるのは……って難色を示されたので、下宿みたいな形でお世話になることになった。

 

 ちょうど、娘が結婚・自立して家から出ていって寂しいですっていう老夫婦がいたらしいので、その家に厄介になることになった。

 静かな老後の生活の邪魔しちゃってすいません。え、小さいころの娘を思い出す? 子供の世話をするのは好きだから何も問題ない? むしろ楽しいし幸せ?

 

 そう言ってもらえるとこちらもありがたい。

 他人行儀にされるのはむしろ嫌だっていう話だったので、おじいちゃんおばあちゃん、と呼ばせてもらって、私の方も本当の家族みたいに接させてもらっている。

 

 もちろん、仕事や家の手伝いだけじゃなく、トレーニングも相変わらず続けている。

 

 船で教わったノウハウはきちんと覚えているので、筋力や持久力なんかを鍛える基礎トレも、武器の扱いについての鍛錬も。

 継続は力なり。早いうちからきっちり鍛えておくことで、将来絶対役に立つはずだと信じて。

 

 ちなみに武器についてだけど、九蛇の船に乗っていたころ、クルーの皆に言われて、船にあるもの一通り全部の武器を使ってみた。

 その中でも一番私が得意だったのは、普通の剣だった。なんとなく、一番しっくりくる。

 

 まあ、単に不器用だから扱いが難しい武器を使うことができなかったのかもしれないけど、船に乗ってた頃、不意打ちで大人の男の海賊1人倒すことができるくらいにはなったし……合ってないってことはないんだと思う。

 なので、今はとりあえず、武器は剣に絞って鍛えている。

 

 素振りとかの自主トレはもちろん、時々町の自警団の人達の訓練に混ぜてもらっている。

 

 最初は、『九蛇』からの預かりものとはいえ、小さすぎる女の子に武器を握らせるのを渋る大人も多かったけど、船と同じで『思ったより筋がいい』という評価をもらえてからは、ペースは考えつつも、きちんと教えて育てる方向にシフトしてくれたので助かっている。

 

 ちなみに、『覇気』はさすがに教えてもらってない。

 あれは、きちんと通常のやり方で戦えるようになった一人前の戦士が、そこからさらに長い期間……数年単位の時間をかけて学ぶものだそうだからね。

 私みたいな未熟者には、まだまだどころじゃなく早い。まずはきちんと育って、満足に戦えるようになってからだ、って言われた。

 

 『九蛇』の戦士として一人前と言える実力を身に着けたら、その時は教えてやる、って。

 

 もっとも、『九蛇』に入るの断ったわけだから、そんな機会は永遠に来なくなっちゃったけどね。

 

 

 

 あ、でも、海賊にはならないけど、『九蛇海賊団』の皆に会う機会なら、今後も多分あると思う。

 

 この町は『九蛇海賊団』の縄張りであり、遠征の際に中継地や補給場所として、九蛇の船がよく立ち寄る場所である。

 なので、数か月に1回ペースにはなるだろうけど、皆この港を訪れるので、その時に会える。

 

 そして、『きちんと鍛錬さぼってないかチェックしにくるからなー』って言われてる。

 寄港して休憩とかするついでに、たまにだけどトレーニングの面倒見てくれるってさ。仲間にはならないって言ったのに……ありがたい話だ。

 

 ……あわよくば、その時に『覇気』の扱いなんかも教えてもらえたり……さすがにないか。

 

 ともあれ、そんな感じで私は、この平和な街で――今のところ、ね。この時代、いつ何があるかわからないし――新たな生活をスタートさせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そして、月日は流れ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 九蛇の船を降りてから、早いもので5年。

 私は、今年で10歳になっていた。

 

 10歳なんてまだまだ子供ではあるけど、この世界では10歳で大人相手に無双したり、バカでかい獣とか狩ってくるような子供もいるところにはいるので、多分『それなりに体ができている年齢』という扱いになるんだろうと思う。

 

 事実、私も……自画自賛ながら、だいぶ動ける、戦えるようになってきた。

 

 この5年間の間に、自警団にも正式に所属するようになって、訓練相手の大人の男にも勝てるようになってきてたし、腕力だって真剣を振るうのに十分なくらいには鍛えられた。

 この町の大人達だけじゃなく、たまに来てくれる九蛇の皆にも、『才能ある』『強くなった』って言ってもらえたのは嬉しかったな。正式に入団しなかったことをますます残念がられた。

 

 まあ、それでもまだまだ、本職の『九蛇』の戦士達からしたら半人前だそうだけど。

 そりゃそうだ。皆、子供のころから『戦士』になるために本格的に鍛えて、時が来れば覇気だって学ぶんだから。

 

 

 5年間で変わったことは他にも色々ある。

 

 まずは……まあ当たり前だけど、私、成長しました。

 

 さっき語った戦闘能力にも直結して来る部分だけど、身長も伸びたし、筋力・体力もついた。

 

 5歳の頃からその片鱗は見えてたけど、発育はいい方みたいで、同世代の他の子たちよりも……それこそ男子と比べても、頭1つ抜け出るくらいには身長がある。

 初対面の人とかだと、『14歳くらい?』って見間違えられることが多い。

 

 それに伴って、女の子として体の方もそこそこ育ってきたので……時々、男性からそういう目線で見られることが出てきた。

 

 今までは普通に一緒に遊んでいた男の子らが、徐々に一緒に遊ぶことが少なくなったり、私のことを見る目が変わってきたなあ、と感じて、『ああ、こいつら……』ってなんとも言えない気分になったりもした。

 まあ、仕方ないことだと思うから、何も言わんけどね。私は気にしないから、見るだけなら好きにしなよ。手、出して来たら反撃するけど。

 

 ……というか正直、そういう目で見られるのも、実害がなければ悪い気分じゃないんだよね。

 自分でいうのもなんだけど、割と美少女に育った自覚はあるし。注目されるの、割と好き。

 

 

 あと……下宿させてくれていた、おじいさんとおばあさんが亡くなりました。最近のことだ。

 

 海賊に襲われたとか、怪我や病気とかじゃなくて、天寿を全うして、だけど。

 2人とも、私がきちんと看取って、葬儀もきちんとやって弔った。今は、家の裏にある墓地に、2人で仲良く眠っている。

 

 家はそのまま私が受け継いで今も暮らしている。

 

 てっきり、こういうのって血のつながってる子供とかが相続するもんだと思ってたんだけど……他ならぬ、その娘さん夫婦から承諾もらえちゃったのだ。

 

『老いた両親を置いて家を出ていった親不孝者の身で、今更そんな図々しいことは言えない。自分達には新しい家がもうあるから、住居に困ってもいない』

『むしろ、最後まで両親と一緒にいてくれた君になら、喜んで譲りたい』

『これからもこの家を、君の手で守っていってほしい』

 

 こんな感じで。

 そんな風に言われたら、断る選択肢なんてないよね。

 

 引き続き使ってもいいって言ってもらえるのは、こちらとしてもありがたいし。もし追い出されたら、空き家を探してリフォームでもして……って思ってたから、ホント助かった。

 

 

 それからもう1つ。私的には、これが一番大きな……というか、劇的な変化だったと思う。

 

 この5年間で……私には、ちょっと、いやかなりのめりこんでいる『趣味』ができたのだ。

 

 もともと私、本……というか、活字は好きで、新聞やら本やらいっぱい読んでたんだよね。

 『九蛇』の船に乗ってた頃も、略奪品の本とか毎日読んでたし……この町で船を降りてからも、『何でも屋』として本屋で手伝いした時なんかは、お駄賃代わりに本を読ませてもらってた。

 

 もちろんお金に余裕があれば、欲しい本を自分できちんと買って、家で熟読したりもしていた。特に冒険小説とかの類は大好きで、何度も繰り返し読んでいた。

 

 そんな本好き、というより活字好きが高じて、いつしか私は、自分で本、ないし物語を書くようになっていた。

 

 頭の中で考えた物語を、自分でも形にしてみたくて……原稿用紙買って、書き綴ってみた。

 そしたらそれがまた案外面白くって、ハマった。もっともっと書きたい、って思えてきた。

 

 船に乗ってた頃、『スゥちゃん新聞』とかやってたから、元々文章作るのは割と得意だったし、好きだったんだよね。

 

 思う存分書き綴ったら、今度はそれを誰かに読んでもらいたくて……けどまあ、自分で考えた物語を他の人に読んでもらうとかって、冷静になって考えると結構度胸いるから、最初は恥ずかしくてためらいがちだったな。

 何せ、現代日本とかと違ってネットなんてものはない。『な〇う』、も『カク〇ム』も『ハー〇ルン』もない。匿名で不特定多数の人達に、そういう作品を簡単に見てもらえる世界じゃないのだ。

 

 とりあえず、その頃はまだ存命だった、おじいさんとおばあさんに最初の読者になってもらった。

 

 ……若者向けの冒険小説だから、お年寄りに読ませるにはちょっと難しかったみたいだけど、『面白いよ』って言ってくれた。嬉しかったなあ。

 絶対ひいき目入ってるし、そもそも内容理解できたかどうか微妙だったけど(失礼)。

 

 その後、何度かそういうのを繰り返して……1年前、新聞記事で見つけた、とある出版社の新人小説コンクールに応募してみた。

 そしたらそこで、なんと入賞することができたのである。

 

 グランプリとかじゃ全然なくて、『努力賞』みたいな感じの、下の方の賞だったけど、それでもすっごく嬉しかった。目に見える形で、自分が書いた作品が認めてもらえたって思って……。

 講評には、誉め言葉だけじゃなくて、厳しい意見も色々書いてあったけど、それも全然気にならなくて……むしろ、『よし、次はもっと頑張ろう!』って思えた。

 

 それからもう1つ。その『執筆』に関して、私の背中を押す出来事があった。

 

 あったっていうか、今まさにやってるんだけど。

 

「はいはいはーい、みんな静かにして座っててねー? 今日もお話始めるよー!」

 

「わーい、やったー!」

 

「今日はどんなお話ー?」

 

「俺、こないだ聞かせてもらった冒険する奴また聞きたい! あれ面白かったもん!」

 

「あっはっは、今日はこないだとは違うお話だよ。毎回同じじゃつまんないって子もいるからね。今日のお話は、好きな女の子のために立ち上がった勇敢な騎士様のお話だよ」

 

 簡単に説明するなら……ボランティアの読み聞かせ、みたいな感じかな。

 小さな子供達を相手に、本を読んであげたり、紙芝居を見せてあげたりするやつ。

 

 これが意外と好評で、週に2回のこの時間は、町の小さな子供たちのほとんどが集合する。

 

 この『読み聞かせ』、元々は週に1回か2回だったんだけど、子供達から『もっとやって』っていう声が毎度のように上がってて……でも、読み聞かせるためのお話が限られてたから、できなかったんだよね。

 交易品として持ち込まれる本の中に、子供向けの本は少ないから、何回かごとにまた同じのを読むことになって、子供達から『またー?』『それこないだも聞いたよー』って不満があがるから。

 

 それを何とかして解決できないかと考えて……試しに私が即興で考えたオリジナルの童話を聞かせてあげたら、これが好評で。

 子供達からはもちろん、その親御さんたちからも『ぜひまたやってくれ』って言われちゃって。

 

 結局、児童書が少ない分は、私がオリジナルの物語を考えてそこをカバーする形で、『読み聞かせ』の回数を増やすことができたのである。

 

 なお、その『オリジナル』の話の中には、私の前世に存在した童話なんかを、この世界でも通用するようにリメイクしたような内容のものもあったりするんだけど……ま、まあ、その辺はさすがに大目に見てね。

 子供向けとはいえ、週に2回の読み聞かせに使えるだけの童話を考えるのって、結構大変なのよ。

 

 そう考えると……一週間に一回、19ページの漫画を書いてくれてる週刊少年誌の作者さん達って、マジですごいな。文字じゃなくて絵描いてるんだもん、あっちは。

 

 とまあ、そんな感じで私は、今、小説や童話づくりの『執筆活動』を趣味にしているのだ。

 修行や仕事に影響がない範囲でだけど、奮発して買った高級なペンを使って、毎日楽しく原稿用紙に筆を走らせている。

 あー、ホント楽しい……マンガを描いている時の岸辺〇伴先生はこんな気分だったんだろうか?

 『僕は人に読んでもらうために漫画を描いている』って、こういう感覚なのかも。

 頭の中でくみ上げた物語を、活字で形にして、それを読んだ人が笑顔になって楽しんでくれて……って考えるだけでもうじっとしてられないというか。

 

 私、こんなに物書き好きだったのか。ひょっとして、前世は小説家とかだったりしたのかな?

 

 ええい、もうこうなったらやるだけやってやれ!

 できそうならそのまま本職にしたいけど、そうはできなくても趣味としてならずっと続けたい。

 

 皆を楽しませるような、元気づけるような物語を書きたい!

 それを多くの人に読んでもらいたい! そして楽しんで、幸せになってもらいたい!

 

 このペンをお供に、私はこれからもこの町で! この世界で! 自分なりの幸せを大事にしながら平和に過ごしていくぞーっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、さらに月日が流れ……2年後。

 私が12歳になったその年。

 

 それは、ついに起きた。

 

 

 

 

 

『俺の財宝か? 欲しけりゃくれてやる! 探せ!! この世の全てをそこに置いてきた!!!!』

 

 

 

 

 

 『海賊王』ゴールド・ロジャーの処刑。

 彼が死の間際に放った言葉がきっかけで、とうとう、『大海賊時代』が幕を開ける。

 

 そして同時に、私は知ることになる。

 

 平和なんて、油断してもしなくても……ふとしたきっかけで、簡単に、あっという間に消し飛んでしまうんだということを。

 

 とっくに知っていたはずの、残酷な事実を、改めて思い知る。

 

 

 

 

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