大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第50話 スゥ19歳とサイファーポール

 

 

 遡ること、数十秒前。

 

 彼らは、この島で行われる『取引』のため、売人達が待つ宿の部屋を訪れていた。

 

 厳重に戸締りがされている表の玄関ではなく、あらかじめ売人達がカギを開けておいた窓から入った。

 するりと入ってきたスーツ姿の男たちを見て、部屋にいた者達は一瞬面食らったが、すぐに調子を取り直して、彼らが欲しているものを取り出す。

 

「ほら、コレがお望みの品だろ? さっさと確認してくれ」

 

「……ふむ、確かに。これについては、君達は何なのか知っているのかね?」

 

「いや、何も聞かされてない。見ても何もわからなかったしな」

 

「そうか……嘘ではないようだが……まあでも、万が一ということもある。念のため、君達もきちんと消しておいた方がいいだろうな」

 

「……は?」

 

 まるで、天気の話でもするかのように、自然にそんな言葉が、代表者のようにふるまっている男の口から出て来て、一瞬、売人の男達は面食らう。

 そして、その一瞬が致命的だった。

 

 

 ―――ドドドドッ!!

 

 

「が、っ……!?」

 

 その一瞬の間に、一緒に入ってきていた仲間達も含めて、男達が……まるで銃撃のように、自らの指を売人達に突き立てる。

 

 売人達には、何が起こったのかわからなかった。

 武器など何も持っていなかったがために、警戒が緩んでいたのかもしれないが……次の瞬間には、彼らの指が自分達の体を貫いていたのだ。わけもわからないままに、仲間の大半は一瞬で死んだ。

 

 彼ら……『サイファーポール』は、政府が絡んだとある裏取引のために、この場所を訪れた。

 

 非合法の品を主に取り扱う売人が、『空白の100年』や『歴史の本文』といった、禁じられた研究に関する情報、ないし研究資料を取り扱っているという情報を得て、それに興味がある体で接触し……人の目に触れないよう、回収するために。

 そして同時に、それについて『何か』を知った可能性のある、売人達の口封じも。

 

 最初から生きて返すつもりなどなかったのだ。所詮は裏社会の住人、いなくなっても誰も責めるものなどいないし、いたとしても政府の力の前では口をつぐむしかなくなる。

 

 ただ、彼らにとって誤算だったのは……売人達のうち何人かが、予想していた以上に頑丈だったこと。

 

「この……ふざけやがって!」

 

「!」

 

 急所を貫いたはずなのに即死せず、売人は懐から取り出した銃を諜報部員達に向け、発砲する。

 響く銃声。飛び出す鉛玉。

 

「“鉄塊”」

 

 しかし、一瞬にして全身に力を籠め、肉体を『鉄』の強度にした彼らには、銃弾は通用しない。

 驚愕に目を見開いた売人は、次の瞬間、握り拳を首筋に叩きつけられ……首の骨を砕き割られて、今度こそ絶命する。

 

 が、それとは別な売人の仲間が、机を蹴飛ばして視界をふさいだ後、部屋の扉を蹴破って外に出ていってしまう。

 

 

「な、なんだ!? 銃声!?」

 

「お、お客さん!? 何かあったのかい!?」

 

「ま、まさか海賊……」

 

「ハァ……全く、面倒な」

 

「申し訳ありません、詰めが甘かったです」

 

「いや、構わんさ。むしろ……海賊の仕業に見せかけるなら、犠牲者はそれなりに多い方がいいだろう。万が一にも目撃者を出すわけにもいかないしな」

 

 何でもないことのように言いながら、普通の神経を持つものが聞けば耳を疑うようなことを、淡々と、諜報部員のまとめ役らしき男は指示していく。

 

「宿の中にいる人間はすべて殺しておこう。気配からしてそんなに多くはなさそうだ。勇敢にも海賊に立ち向かい、相打ちになって死亡。その際にタバコの火か何かが引火して宿は焼損……これでいくか。痕跡も消せるし、後始末が楽だ」

 

「了解。では、5分以内に」

 

 

 

 宿の中にいた人間は10人に満たなかったが、女子供も問わず、彼らはその全てを手にかけた。

 

 万に一つも目撃者を逃がさないため、あるいは、他に仲間が関係を隠して潜んでいる可能性もないわけではないと考え、可能性から根絶するために全てを刈り取った。

 関係ない宿泊客も、宿の主人やその妻も……そして、まだ幼いその娘も。

 

 しかしここで、彼らにとって2つ目、そして3つ目の計算外が発生する。

 

「ぅ……痛い、よぉ……。お母さん、お父さん……!」

 

 1つ目は、子供だからと力を抜きすぎたのか……宿屋の娘に、まだ息があったこと。

 

 そして、2つ目と3つ目は、

 

「……ちょっと、何コレ!? 一体、何が……」

 

 カギがかけられ、部外者が入ってくるはずのなかった宿の建物内に……新たに入ってきた者がいたこと。

 そして、殺し残しがいないか宿内を見て回っていた諜報員の1人が、その少女……スゥに遭遇してしまったことだった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 まさか本当に海賊が入ってきてたのか、と思ったけど……どうも違うようだ。

 

 まだ息があるっぽい女の子を抱き上げると……その体に、銃創みたいな穴があって……しかし、貫通してないにもかかわらず、弾丸は体の中にはないみたい。

 傷口は撃たれたばかりって感じの生々しさ。けど、室内に火薬の匂いはしないし、銃声だって聞こえなかった。

 

 傷もどちらかというと、押し広げられたみたいな痕跡に見える……これってまさか。

 

 するとその時、1回の部屋の扉を開けて……ピシッとしたスーツに身を包んだ1人の男が現れて……女の子を抱きかかえている最中の私と目が合った。少し驚いたように、わずかに目が開いたように見えた。

 

「もう1人いたのか? 気づかなかったな……それに、その子供もまだ息があるのか。やれやれ」

 

 そう言うと同時に、一切の迷いなく、ぴんと立てた人差し指を、私の首元めがけて突き出してきて……とっさにそれを私は、女の子を抱きかかえたまま回避する。

 避けられると思っていなかったのか、また驚いたようだったけど、男はさらによどみない動きでこっちをつかもうとしてきたので、飛び退って距離を取り……

 

「……“嵐脚”」

 

 直後に足をすごい速さで振りぬいて斬撃を飛ばしてくる。

 それを私は、武装硬化させた傘で打ち払って防御。

 

「……何者だ貴様。ただの市民ではないな」

 

「初手で殺そうとしながら今更何聞いてくるんだよあんたは……しかも、こんな子供まで一緒に!」

 

 今の『嵐脚』、明らかに私も、この子も巻き込んで殺す軌道で放たれていた。

 表情一つ動かさず、こいつ……恐らくは何も知らない、何も関係ない子供を殺そうとした。

 

 ていうか今の、『六式』……やっぱこいつら、政府の諜報部員!? 『サイファーポール』か!

 何番だ!? 『六式』使ったってことは……9か? 9なのか!?

 

 何でこんなところにいるのかはわかんないけど、今はそれどころじゃない!

 

「必要なことだからだ。事細かに教えてやる義理はない。“剃”」

 

 消えたように見えるほどの速さで動き、私の背後を取ろうとしてくる。

 が、『見聞色』で読んでいた私は、続けて繰り出される『指銃』……私の心臓を狙ったそれをかわしながら、出入り口に向かって跳ぶ。

 

 そのままの勢いで激突……する直前に、『武装色』をまとわせた蹴りで宿の扉を蹴破って外に出た。

 

 どうやら、宿の中にはもう……この娘以外に生存者はいないようだった。

 『見聞色』で、なんとなくわかってしまった。宿の中にあった気配は、もうどれも、殺伐とした雰囲気を漂わせていたものばかりだったからだ。

 

 ということは、宿の主人と奥さん……つまりは、この子の両親も……下手したら、目の前であいつらに……

 

「逃がすな!」

 

 短く言って、恐らくは部下達に追撃の指示を出したんであろうサイファーポール(推定)の男。

 私も多少戦える自信はあるし、能力込みなら正面からでも、少人数相手なら勝てると思うけど……この子を巻き込まないように戦うのは不可能だ。

 アイツら、全力でこの子も狙ってくるだろうし。私にとって、人質扱いになろうがなるまいが、どっちみち殺すからっておかまいなしに。

 

(どうにかして逃がすか隠すかしないと……でも、そんな余裕は……!)

 

 しかし、運は私を見放していなかった。

 偶然かもしれない……いやほぼ間違いなく偶然だろうが、私がちょうど走っている先に、つい数分前に見たばかりの人のシルエットがあった。

 

 さっきは怖かったけど、今は……ものすごく頼もしい!

 

 

 ☆☆☆

 

 

「……ん? あの少女は……」

 

 海賊達の討伐を完了し、後始末を……経験を積むのも兼ねて海兵達に任せたゼファー。

 彼は今、念のために町を見回ってみているところだったのだが……その途中、前方から結構な勢いで近づいてくる者がいるのに気づいた。

 

 みるとそれは、先ほど港で出会った少女で――その時は自分の不注意、ないし『勘違い』から、失礼なことをして怖がらせてしまった――しかしよく見ると、いやよく見なくても、何やら切羽詰まった様子で走っているのがわかった。

 しかも、その手に抱えているのは、まだ幼い、さらに小さい少女で……さらには怪我をしている様子とくれば、ゼファーもさすがに『ただ事ではない』と察する。

 

 その走っている少女……スゥは、ゼファーに向けてすがるような目を向けると同時に……抱えている小さな少女を自分の上着で覆い隠すようにした。

 そして、ゼファーの横をすり抜けるようにして、そのまま走り去っていった。

 

 それを背後から、明らかな殺気をたぎらせて追いかけようとする者達が、3名。

 

 とっさにゼファーは、その3人の前に立ちはだかってそれを止める。

 

「まて、何者だ貴様ら。なぜあの子を追う?」

 

「! これはこれは……元・海軍大将、『黒腕』のゼファー殿……お目にかかれて光栄です」

 

「質問に答えろ……貴様ら、海賊の仲間か? あの子達に何の用だ?」

 

 言いながら、ゼファーは相対している3人のスーツ姿の男たちを軽く威圧する。

 先程まで、海兵よりも率先して戦い、自分の教え子達と、その後ろにいた市民達を守ってくれていたスゥに対し……彼女自身をよく知っているわけではなかったとはいえ、ゼファーは彼女に感謝していた。

 それゆえに、彼女に明らかに害をなそうとしている、得体の知れない男達を通すつもりもない。

 

 老齢ながらも衰えを感じさせない『黒腕』の威圧感に、さすがのサイファーポール達も、一歩たじろいでしまうが……すぐに、まとめ役と思しき男が背筋を正し、

 

「申し訳ございませんが、それにはお答えできません。政府用命につき、詮索は無用に願います。任務遂行の妨げになる行為もご遠慮ください」

 

「政府? ……貴様ら、サイファーポールか。何の目的があってあの子を狙う? それに、抱えていたのは一般人の少女だろう……一体彼女達に何の問題があったというのだ?」

 

「お答えできません、と申し上げました。海軍の領分にございませんゆえ……行くぞお前達」

 

「おい! まだ話は……」

 

「……ゼファー殿」

 

 ゼファーの言葉に割り込んで制する形で、まとめ役の男は言う。

 

「いかに海軍の英雄のお一人とはいえ、我々は政府の意向を反映し、将来の禍根を未然に抜去する目的で動いております。その仕事の邪魔をされては困ります……ご理解ください」

 

「っ……罪もない市民を害するのを見逃せとでも……?」

 

「ご安心を、海軍に一切のご迷惑はおかけしません。それに……罪ならあります。政府の害になる()()()()()()、という罪がね」

 

「……ッ……!」

 

 では、と一言断って、3人の諜報部員はその場から消えるような速さで走り去っていった。

 

 ゼファーはそれを止めることができず、見送る形となったが……彼らの姿が見えなくなった後、道の端の方に歩いていき……その場にしゃがみこむ。

 そして、何かを探るように、壁のあたりに手を伸ばし……

 

 そこにあった、大きな紙を取り払う。

 

 一見すると壁にしか見えないようになっていたそれは、実は壁に見せかけた絵の描かれた紙であり……その下に、先ほどスゥが抱えていたはずの少女が隠されていた。

 そして、ゼファーがはぎとると、壁のような模様の描かれていた紙は、白地の大きいだけの普通の紙に戻ってしまった。

 

(何かの能力か、あの子の……。そしてこの少女、犯罪に手を染めるような年齢ではない……政府の諜報部員に狙われているということは、何かを見てしまった、ないし、巻き込まれたが故……か)

 

 意識はないようだが、息はある。

 ゼファーはその少女を抱え上げ……サイファーポールが戻ってくる前に、その場から足早に立ち去った。

 

 この少女を目の前で、ゼファーにしか見えない、わからないように隠し……自身が囮となってサイファーポールを引き付けるために走り去った少女……スゥの働きを無駄にしないために。

 託されたこの少女を、なんとしても助け、守るために。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 ここ数年の間に新たに使えるようになった、私の『パサパサの実』の新能力。

 

 体から出した紙を広げ、その表面に……私が望む光景を投影する。

 見えているものの質感や遠近感まで再現できる……超上質な写真、あるいはカラーコピーみたいなものだ。

 

 ただし、それには相当に鮮明なイメージが必要で……今の私ができるのは、実際に今見ている景色を投影するくらいのことだけ。まだまだ能力に私の力が追いついていない感じだな。

 

 それでもできることは多いから、便利に使えるけど。

 今回みたいに、忍者の『隠れ身の術』的に人を隠して逃がしたりね。

 

 というか、これ、『紙』に関する能力と言える……のか?

 カラーコピーだから、紙っちゃ紙だけどさ。

 

 いや、気にしても仕方ないか……悪魔の実って、こういう実はこういうことができるっていう範囲、割とアバウトだからな。

 

 新世界編で、ブルックがいきなり『黄泉の冷気』なんてものを使いだして氷・ゴーストタイプになったり、中将になったスモーカーが煙を変化させて拳を増やしたり(煙を拳みたいに使うんじゃなくてホントに拳が増えてた)、割と何でもありだったもんな。

 

 個人的には、一番わけわかんないのは『オペオペの実』だと思ってるけど。

 手術の範囲に収まらないようなことまで起こしまくってるしさ……物理的に『改造自在』なのはともかく、体と心を入れ替えるとか、衝撃波とか電撃とか……オカルト入ってるよね。

 

 使い手の想像力や成長次第で、いくらでも強くなる……どころか、できることすら増えていく。そういう感じに解釈しとけばいいか。

 

 話が脱線しちゃったけども、私はこの能力を『薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)』と呼んでいる。

 元ネタは言うまでもなく、某狩人マンガのマッドピエロの能力だ♠。まんまだしね。……あのマンガ、連載再開したのかな?

 

 ともかく、その能力を使って女の子を隠して逃がした。

 多分、今頃ゼファーさんが保護してくれてると思いたい。後ろの3人には見えず、ゼファーさんにだけ見えるように隠したから。

 

 そしてその後、私も『薄っぺらな嘘』を駆使して逃げることに成功した。

 

 どうやったかというと、適当な空き家に入り、窓に『薄っぺらな噓』を発動した紙を張り付ける。

 そこに書いてあるのは、隠れてじっとしている私の姿だ。さっきは言わなかったけど、見えていない光景でも、自分の姿だけは鮮明に投影できるんだよね。

 

 これを張っておけば、この家の中に私が隠れようとしている……ように見えるはず。

 屋内で薄暗いし、くすんだ窓ガラスごしだから、質感については余計にごまかしやすいだろう。

 

 上手く引っかかってくれればいいな、くらいに考えて、すぐにその空き家からさらに逃亡。

 

 しばらくすると、追ってくる気配がいなくなっているのに気づけた。

 どうやら、あの罠が役に立ったのか……それとも、普通に撒けたのかはわからないけど、振り切ることに成功したらしい。

 

 ……けど、これで安心、というわけにはいかないんだよな……。

 

 恐らくだけど、連中、私をこのままにはしてくれないだろう。

 

 原作のエニエス・ロビー編の後、ガレーラの面々が、政府の諜報部員の顔とか知ってるにもかかわらず、普通に放っておかれていた。

 ああいう感じで『一市民ごときに何もできまい』って忘れてくれれば最善だけど、もしそうでない場合は……最悪の可能性を考えて動かないと。

 

 とりあえず、知り合い達に連絡と……拠点に戻って、持ち出せるものを持ってこないと。

 

 こうなっちゃった以上は初動が勝負だ。嘆いている暇も惜しい。

 やることは多い。動け!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、

 

 現在に至ると。

 

「5500万ベリー……立派に賞金首かあ。はぁ……これからどうしよう」

 

 

 

 

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