大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第52話 スゥ19歳、これから(後編)

 

 

「わっはっはっは、よかったじゃないか、熱心なファンがいてくれて!」

 

 場所は、毎度おなじみ、シャッキーの店。

 エディとモルガンズの話をしたら、レイリーは大笑いしていた。

 

 まあ、一般人、ないし堅気とは思えないくらいの肝の座りようだもんね、2人共。

 ……モルガンズは正直、『堅気』とは言い切れない部分があるけども。必要に応じて平気で法のグレーゾーンを攻めるし、時には普通に破るし。

 

 ま、そのおかげで今回は助かった部分も多々あるから、何も文句はないが。

 

 エディはもちろん、ステラが新しく住む先まできっちり手配して守ってもらったからな。系列の会社の社員寮らしいけど、普通に快適に住める環境だそうだ。

 ステラは倹約家だからそれなりに蓄えはあると思うし、自立力というか生活力もある。住まいと仕事、そして安全さえきちんと確保できてるのなら、心配はひとまず要らないだろう。

 

「けど大変ね。そのつもりもなく賞金首になっちゃうとなると……そこまで神経質になる必要はないでしょうけど、多かれ少なかれ、これまでどおりの生活ではいられないわよ?」

 

「でしょうね。まあでも……もうどうしようもないことなんで、いかに慣れられるか、で考えるようにしてます。はー……本っ当に、世界政府……気軽に人の人生台無しにしてくるよね」

 

「彼らの場合、モラルハザードには平然と目をつぶるくせに、一部の事柄に対してはやり過ぎなくらいに過敏で過激な反応をとるからな。裏稼業の者達からすれば、その部分に何かあると喧伝しているようなものだが……」

 

「それも含めての徹底的な粛清なんですかね。……やられる方はたまったもんじゃないですけど」

 

 いやホントに。

 

 ……私別に、前までは、政府のこと何とも思ってなかったんだよ。

 天竜人の横暴を黙認したり、色々後ろ暗いことやってるから『嫌な奴らだな』くらいには思ってたものの……それをどうしてやろうとか、あまり深く考えることはなかったし。

 この世界は、この組織はこういうものなんだって、そこまでで終わってた。

 

 天竜人の『妻』にされた時も、バカやった主体が天竜人のバノサッカ聖だったから、政府そのものに対してどうこうは特に思わなかったんだよね。

 

 けど、今回のコレである。

 流石にさ……今言った通りだけど、ここまであっさり、何のためらいもなく、人1人の人生めちゃくちゃにするようなことされるとさ……ヘイトもたまるよね。気に食わないよね。

 

 だからって今々牙をむいたり、そういう扱いするならお望み通り海賊として悪逆非道の限りをつくしてやろうとか、そこまでは思わないよ。

 思わないけど……面白くないよ。何か機会があったら、何かしら復讐、ないし嫌がらせみたいなことはすると思う。

 

 『やられたらやり返す。倍返しだ』

 私は、この言葉をこの海に流行らせた女だ。

 

「で、元海賊の先達と言っていいお二人に聞きたいんですけど……グランドラインって、そこら中に海賊いますよね。しかも、特に隠れてなかったりするし。意外と平気なもんなんですか?」

 

 これからの身の振り方の参考にさせてもらいたいので、そう聞いておく。

 

 カウンターの向こうで、シャッキーは『そうね……』と少し考えて、

 

「こればっかりは場所によるでしょうね。海賊とバレたって特に気にもしない町もあれば、過敏に反応する町もある……けど、あえて言うなら、そこまで神経質になる必要はないと思うわ」

 

「というと?」

 

「極端な話、自分達に害が及ばなければ気にしない人は多いのよ。そのへんの酒場で食事をしてるのが賞金首の海賊でも、手を出して襲ってくるわけでもなく、それどころかお金をきちんと使ってくれるなら大事なお客さん。通報するでもなく、普通に商売人として相手をするって人は多いわ」

 

 その『お客さん』に普段、法外な飲食代を請求して、結構な割合で血まみれ&泣きべそかかせて帰らせているシャッキーが笑ってそう言う。

 もちろん、彼女の場合は逆の意味でのイレギュラーだとわかってるので、参考にはしません。

 

「名乗りさえしなければ、海賊だなんて気づかずに接してくる人も多いわよ」

 

「私の現役時代の経験から話すと……万人が使う港に堂々と海賊船で乗り入れたりすれば、流石に騒ぎになる。だが、人目につかない入り江に船を止めるなりなんなりして、身一つで町に入れば……意外と普通に過ごせるものだ。その者自身の知名度にもよるがね」

 

「なるほど」

 

 ……私、別に海賊旗自体掲げるつもりもないからな……そのへんは気にしなくていいか?

 そもそも『賞金首=海賊』ってわけでもない。

 まあこの世界だとほぼほぼそうなんだけど。例外的にギャングとか山賊もいるけどさ。

 

 髪型変えて帽子を深めにかぶって、メガネでもかけちゃえば、割とごまかせるかも。

 服も一応、あまり今まで着てこなかった、体の線があんまり出ないものを選んで着るのもいい。体型から推測されにくくなるし。

 ……できれば、髪色とかは手を入れたくないなあ。何気に気に入ってるし。

 

「その近くや、町自体に海軍基地があったりすればその限りではないがな。だが一方で、逆に海賊だとわかったとしても、物おじせずに普通に扱ってくる町もある」

 

「そういう町は、無法者の巣窟だったり、海賊が暴れても対処できる私兵とかの戦力がそろってる場合が多いから、別な意味で危険だけどね」

 

 色々な町があるんだなあ……日常的に『海賊』というものに触れて、それぞれ独自に発展してきた(あるいはその途中で淘汰された)結果生まれた島々であるがゆえか。

 

 総合して……そんなに気にする必要もない、ってことかな?

 

「そういうことだな。まあ、平和な町で海賊だとバレたりすると……通報されるか、あるいは通報されなくとも、露骨に犯罪者とか化け物を見る目で怯えられたりするが……そのあたりはお尋ね者の宿命と言う奴だ。結局、気にしても仕方ないさ」

 

 宿命だと思って受け入れてるっぽい、シャッキーやレイリー。

 けど、望んでその『お尋ね者』になったわけじゃない私からしたら、『気にしない』で済ませられるかっていうと……うーん……。

 

 今までだとむしろ逆で、海賊とかを退治して市民の皆さんに感謝されたり、子供達が笑ってくれたりした時に、気持ちよかったり達成感あったりして嬉しかったんだけど……これからはその真逆の反応が待ってるかもしれないのか……。

 

 海賊……もとい犯罪者だって気づかれて、『近づくな極悪人!』って罵られたり……

 

 家族を守るために決死の覚悟で私と家族の間に立ちはだかる父親……

 その背中に隠れつつも、怯えながらも私を責めるような目つきを、あるいは『ひどいことをしないで』と懇願するような目つきを向けてくる子供……

 

 ……うぅ……私何も悪くないのに心が痛い……

 

「また何か想像している顔だな」

 

「私は何かしらのストーリーが頭の中で組み上がってると見たわ」

 

 おっと、また悪い癖が。

 

「はぁ……とりあえず、あちこち渡り歩きながら、どこか腰を落ち着けられそうなところを探そうと思ってます。……ついでに聞くんですけど、シャボンディ諸島って拠点にいいと思います?」

 

「まあ、賞金首がうろついていたところで特段気にもされん場所ではあるが……おすすめはできんぞ? それ相応に危険でもあるからな」

 

 ですよね。人さらいいっぱいいるし、『人間屋』で公然と奴隷売られてるし、結構な頻度で天竜人も下りてくるし。

 私もいきなり見つかって、何の前触れもなく『妻』にされんだったっけなそういや。

 

 加えて、島のどこにいるかにもよるけど、その他の犯罪も横行し、全体的に治安がよろしくない。

 

 一応海軍基地もあるから、見つかって騒ぎになる可能性も0ではない。

 ……普段はいちいち目くじら立てたりしないし、そもそも奴隷商人とか黙認してるんだが。

 

 あと実際出くわしたことはないんだけど、数年か十数年に1回くらい、短気起こした海賊とかが天竜人に手を出して、海軍大将が襲来したりするらしい。

 手を出した張本人はもちろん、そのへんにいた海賊とか賞金首も巻き添えで一斉検挙されるんだってさ。怖えーよ。

 

 シャッキーやレイリーがここに住んでるのも、住めるだけの力があるから、なんだろうな。

 

 ひとまず私は、あちこち放浪しながら、腰を落ち着けられる場所を探そうっと。

 

 ……はぁ。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 スゥがシャッキーの店で、これからのことを考えてため息をついていた頃。

 

 遠く離れたとある場所で、同じようにため息をついている者がいた。

 

「……ハァ」

 

 その男の名は、ゼファー。

 通称『黒腕のゼファー』。元海軍大将にして、現在は海軍本部の指導教官として辣腕を振るっている英傑である。

 

 その手にあるのは、まだ年若い少女の写真が載った手配書。

 その顔は、つい最近、ゼファー自身が目にしたもので……しかしその時はまだ賞金首などではなく、むしろ市民を守る善良な協力者ですらあった。

 

「……気にするなとは言えないけどね、ゼファー。あまり自分を責めるのはおよし。あんたにだって何もできることはなかったよ。ただ……運が悪かっただけさ」

 

「わかっているとも。……ただ、運が悪かった……その程度のことで、善良な市民がいとも簡単に汚名を着せられてしまう世の中なのだと、そういうことも含めて、な」

 

 横に座って彼を慰めるように言うのは、彼の海兵としての同期であり……『大参謀』とまで呼ばれる重鎮である、中将・つる。

 彼女は、ゼファーが意気消沈している理由について、他ならぬ彼自身から聞かされて知っていた。

 

 とある島で、海兵たちの遠征演習中に起こった、海賊による襲撃事件。

 その襲撃自体は、善意の協力者として海軍に手を貸してくれた、とある賞金稼ぎの少女の助力もあって、犠牲者もほとんど出すことなく終結していた。

 

 しかし、それとは全く無関係にではあるが、その島で同時に行われていた、政府の暗部が絡んだとある裏取引。

 正確には、潜入捜査の類として、世界政府の諜報機関『サイファーポール』が関わって行われたそれだったのだが……それに、運悪くその町の市民と、その協力者の少女が巻き込まれた。

 

 結果、サイファーポールは口封じのため、その建物内にいた無辜の市民を全員殺害し、協力者の少女をも殺そうとした。

 

 その際、その少女の奮戦により、ただ1人生き残った市民……幼い少女をゼファーが保護することに成功。少女自身もどうやったのか、無事に逃げ伸びることができた。

 しかしその一件で少女自身は政府に目をつけられ、こうしてあらぬ罪を着せられて賞金首となってしまった。

 

「こういうことが起こるたびに、俺はいつも……自分の中の正義が揺らぐのを感じる。果たして、政府のために戦うのは本当に正しいことなのか……誰かを守る一方で、誰かを傷つけ、後ろ脚で砂をかけているのではないか……とな」

 

「そんなのは皆同じだよ。どこかで折り合いをつけなきゃやっていけない……それがある種の開き直りだとわかっていても。それが組織ってもんさ。英雄だの大参謀だの、御大層な呼び方をされていても、私らも心臓1つの人間1人、できることとできないことがある」

 

 つるの話を聞きながら、ゼファーは手配書を机に置く。

 

 そして、それとは別な1枚の紙を取り出した。

 

 それは、1枚の手紙だった。

 差出人は……他ならぬ、指名手配犯にされてしまった少女・スゥだ。

 

 例の事件の翌日、彼女が指名手配される直前に届けられたもの。

 どうやって届けたのかはわからない。郵便屋の類を通したわけではなく、気付いたら届いていた……と部下(というか、生徒)から聞いた。

 

 万が一を考え、内容物は改めたとのことだが、問題なさそうだという理由でゼファーの元に回ってきたそれを……ゼファーは幾度となく目を通して読んでいた。

 

 そこには、島で会った時には言えなかった、スゥの気持ちや言葉が簡単につづられていた。

 

(律儀なことだ。海兵が市民を守るのなんぞ、当然のこと……それも、10年以上も前のことを)

 

 覚えていないだろうが、自分がまだ幼い頃、当時まだ『大将』だったゼファーに救われたことがある。もう1秒遅かったら、海賊の凶刃に命を奪われていたというところで。

 あの時命を救ってもらえたからこそ今の自分があり、こうして、あなたの生徒達の力になる形でではあるが、少しでも恩返し出来てよかった。

 海兵という道を選んだわけではないが、その手で多くの市民を救い、また多くの海兵を育てて世に出してきたあなたのことは、1人の人間として尊敬している。

 私は運悪く、政府(多分)の闇の部分に触れてしまったらしい。

 この後私は、口封じに殺されるか……生き延びたとしても、表の社会では生きていけなくなってしまうかもしれない。

 せめて、あなたに隠して託した女の子は、守ってあげてほしい。父親も母親も殺されてしまったけれど、彼女はきっと何も知らない、その場にいただけの子供だろうから。

 最後に、これからもあなたの正義を信じて、貫いて、罪のない人々を守ってあげてください。

 かつてあなたに救われた1人の市民として、ご多幸・ご健勝をお祈り申し上げます。

 

 他者に中身を見られることを考慮してか、色々と言い回しを工夫してあったが、要約するとこんなところだ。

 

 ゼファーは、何度も目を通したそれを改めて読むと……丁寧にたたんで封筒にしまい、デスクの引き出しの中にしまった。

 

(……あの時の女の子か。立派になったものだ)

 

 スゥは『覚えていないだろうが』と書いてはいたが……実はゼファーは、彼女のことを覚えていた。

 

 15年前のあの時……ゼファーは、遠征に出ていたその帰路で救難信号を受け取り、海賊が襲っていた島に駆けつけた。

 そこで救ったのが、スゥ。手紙にある通り、今にも海賊の凶刃にかかりそうになっていた少女。

 間一髪で海賊を殴り飛ばし、まだきょとんとしていた――今自分が殺されそうになっていたのをわかっていたのかも微妙なほどに小さかった――彼女に呆れながら、部下に引き渡したのを……やけに鮮明に覚えていた。

 

 そしてもう1つ、これはスゥも知らないことなのだが、ゼファーがその一件を覚えている……結果的にその理由となった事件がある。

 その遠征の最中、ゼファーへの恨みから襲撃してきた海賊によって、ゼファーの家族……妻と娘が殺されてしまっていたのだ。

 

 当時ゼファーは、自分が恨みを買っていたから家族が殺された、自分が遠征に出ていたから家族を守れなかったと激しく己を責め、己の中にあった『正義』に対して迷いが生じすらした。

 しかしそんな時、遠征の中で救った、1人の白い髪の少女のことを思い出した。

 

 あの子は、自分がいなければあの場で殺されていた。

 自分は確かに、あの小さな……自分に死が訪れようとしていたことすらわからなかったであろう、1人の少女の命を救っていたのだ。

 

 だから自分の家族は守れなかったことは仕方ない、などと言うつもりはもちろんない。家族の命と市民の命、その2つを比べるようなことはしないし、できない。

 ただ……自分のやったことに意味はあった、たしかに守ったものはあったのだと、少女の顔を思い出すたびに、その事実を噛みしめて……彼は、家族の死を乗り越えたのだ。

 

 そんな少女のことを、今度は自分は守れなかった。

 彼女の言う通り、生き延びたとしても、政府は彼女を『犯罪者』にするだろうとゼファーも思ったし……事実その通りになった。

 

 しかし、手紙にはそのことを恨むような文言は一切なく、つづられているのは感謝と激励のみ。

 

 これで自分がいじけるようなことをしてしまっては、彼女にも、家族にも、合わす顔がない。

 

 そんな発破をかけるような意図でこの手紙を出したのではないことは明白だが、ゼファーにとっては……あの日の思い出と同様に、この手紙は1つの支えになっていた。

 

(俺が信じる正義を貫くことで、海兵であり続けることで、守れるものがあるのなら……俺はこれからも、『黒腕』であり続けるさ)

 

「……ああ、わかっているとも、俺は、歩みを止めることはせん」

 

「? 何か言ったかい、ゼファー?」

 

「いや、何でもない」

 

(……だが、もしこれ以上、俺が海軍や政府に失望するようなことが……彼らが掲げる正義や大義に、意味を見出すことができなくなってしまうことがあれば…………その時は……俺は……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこで終わっていれば、1人の少女との出会いを通して、ゼファーという男は、これからも正義を貫き続ける決意を新たにした……という、それだけの話だった。

 

 しかし、

 

「本当かい? ……あんた、ガープと同じで結構熱くなりやすい上に、1人で抱え込んで自分を追い詰めやすいところがあるからねぇ……あんまし無理すんじゃないよ」

 

「おいおい、おつる……ガキじゃないんだ、そのくらいきちんと自分の中で整理をつけられるさ。というか、流石にガープと一緒にするのは勘弁してくれ」

 

 自分達の同期である、『海軍の英雄』と呼ばれる同僚……しかしその実態は、どこまでも自由……を通り越して奔放な男のことを思い出して苦笑するゼファー。

 

 それについては、言った張本人も少し悪いと思ったのか、同じように苦笑しつつも、

 

「どうだかねえ。あんた、今回の一件でもそうだったそうじゃないか」

 

「? 何の話だ」

 

「新兵の子が聞かせてくれたんだよ。島に残って防衛に当たっていた自分達を心配するあまり、ゼファー先生が熱くなりすぎて……危うく協力者の女の子に殴りかかるところだった、ってさ」

 

「……! ……」

 

 その瞬間、ゼファーは……表情こそ変えなかったものの……ふと、頭の中に思い出していた。

 

 おつるが言ったその場面……危うく、防衛に協力してくれていたスゥに対して、海賊の仲間だと思い込んで殴りかかろうとしてた時のことを。

 

 あの時……ゼファーが熱くなっていたのは確かにそうだ。

 作戦だったのかたまたまだったのかはわからないが、自分がいない間の島に攻め入って、自分の生徒達を傷つけている海賊達に、怒りを覚えていた。

 

 だがそうだとしても……明らかに海賊達と戦って、海兵の味方をしていたはずのスゥに対して……ほとんど姿もよく見えない位置から敵意を丸出しにして襲い掛かってしまった。

 

 そのことに一番困惑していたのは……妙な話だが、ゼファー自身だった。

 

(あの時、俺はとっさに、あそこで戦っていた彼女を『倒さなければならない』と思った……まだ顔もよく見えず、男か女かの判別すらあいまいだった距離で…………なぜだ?)

 

 妙な話だが、海兵として戦って来た自分の『直感』のようなものが働いた……そういう感覚だったのを覚えている。

 しかし、近づいてみればそこにいたのは、殺気をむき出しにした自分を見て怯えてしまっている女の子が1人。

 

 海賊でもなく、なんなら海兵の味方をしてくれていた彼女を怖がらせてしまったことを後悔したゼファーだったが……ずっと不思議だった。

 何を思って自分は、あの小さな少女を、よく見えもしない位置から『敵だ』と思ってしまったのかと。

 

 その後の一連の騒動や、この手紙を受け取ったことで、そのことに対する罪悪感は割増しになることとなったが……それはそれとして、未だに疑問は頭の中に残っていた。

 

 うっすらと思い出せるのは、遠目に見た彼女の姿。

 海賊を相手に、飛ぶように身軽な動きで――実際に飛んでいたのだが――両手に剣……いや、片方は傘を持って戦っていた。

 

 その姿が、長年海兵として戦って来た彼の中の『何か』に触れた、ということになるのだが……

 

(俺はあの時……彼女に、何を見たんだ?)

 

 

 

 

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