大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第53話 スゥ19歳、またの名を…

 

 

 私がお尋ね者として扱われるようになって、変わった部分もあり、変わらなかった部分もあり……しかし総じて、覚悟していたほど過酷な生活にはならなかった。

 むしろ、普通に暮らしている分には、変化を実感することはほとんどないくらいだ。

 

 今までと同じ感じで、普通に飲食店に入ったり、宿に泊まったりしても、海賊だからって怖がられるようなことも、入店拒否されるようなこともほぼほぼない。

 というか、気付かれてないんじゃないかな。気付いてるけど気にしてない、って感じじゃなく、ホントに他の普通のお客さん達と態度変わんないから。

 

 私は賞金稼ぎやってたから、新聞や、海軍配布の手配書とかは逐一チェックしてたけど……ああいうのって案外、見ないで捨ててる人も多かったりするのかな? 新聞折込の、特に興味ない通販のチラシみたいに。

 それなりの大物は記事も含めて目を通してても、全部は見てない、流してるって人は多そうだ。

 

 私以外にも何人か、賞金稼ぎ時代にチェックしてた指名手配犯が店の中にいたりしたけど、その人達に対しても何も特別なリアクションなかったし、その指名手配犯達自身も、店の人や町の人に何かするわけでもなかったから。

 

 総じて……堂々としてれば、逆に、意外とばれない。

 

 なので私は今、指名手配犯になったからといって、何か特別に生活スタイルを変えたってこともなく……一般人だった頃とほぼほぼ同じ感じで生活している。

 

 変わったことと言えば、拠点を設けずに常に移動ないし、旅をしながらの生活になったこと。

 そして、不定期でやってた『賞金稼ぎ』としての活動をしなくなったことくらいだ。

 

 ただ、それとは別にたまに海賊は狩ってる。財宝とか持ってることもあるから収入源にはなるし……前までと同様、『航海日誌』とかを読んで間接的な経験の吸収もできるから。

 

 賞金首の換金は望めないので、そのまま放置してお宝だけ貰ってる。

 今や、私が賞金首だからね。海軍基地なんかに行ったりしたら、換金するどころか私が捕まっちゃうからね。

 

 あと、海軍に襲われることもたまにある。

 海を渡ってる最中に運悪くうっかり出くわしてしまうこともあれば、町に滞在してる時に誰かに通報されちゃうこともまれにある。

 さっきは『堂々としてれば意外とばれない』とは言ったけど、絶対じゃないんだよねそれも。

 

 やはりというか、そういう時は戦闘になっちゃう。

 基本、戦わずに逃げるようにしてはいるんだけど、陸の上だと人海戦術で追い込んでくるし、海でも……軍艦って意外と足早い上に、普通に大砲撃って沈めようとしてくるから。

 

 海賊である以上は、見逃す義理はない、ってことなんだろうね。

 彼らを責めることはできないだろう。職務に忠実でいるだけなんだから。

 

 無抵抗でやられるわけにはいかないので、どっちも反撃させてもらってるけど。

 なるべく殺さないように、船も壊さないようにはしているので、そこは勘弁してほしい。

 

 私、海賊になるつもりはなかったんだけどね……。

 というか今も、指名手配犯だとしても、『海賊』であるつもりはないし、そう名乗ったことも一度としてないんだけど……この世界、ほぼ『犯罪者=海賊』みたいな認識あるじゃん?

 

 加えて、私、普通に海を渡って移動してて、色んな島々を渡り歩きながら生活してるからさ。海にいる犯罪者=海賊になっちゃうんだよ。認識的に。

 否定すんのもめんどくさいし意味もないから、呼ばせてるけど。

 

 あと……賞金首になった宿命なんだろうね。賞金稼ぎに狙われることも時々ある。

 さすがに普通の市民の皆さんと違って、きっちり手配書もチェックしてる。町で見つかったりすると、一人になったり、人気のないところに行くのを見計らって襲われる。

 

 まあ、だいたい『見聞色』で察知できるので、返り討ちにしてるが。

 こちらも命は奪わず、しかし時々、迷惑料として、所持金の半分をめどにいただいている。

 

 犯罪者でも海兵でもない、市民相手の略奪と言えばそうなんだけど……命取る気で来るのなら、返り討ちになる覚悟もしておくべきだよね。

 その上で、命は助けてるんだから、このくらいのリスクは負ってもらってもいいだろう。

 『撃っていいのは撃たれる覚悟のある者だけだ』……私の好きな言葉である。

 

 某国民的RPGでも似たような仕様だったはずだし、問題ない問題ない。

 

 そんな感じで賞金首として生活してる私だが……作家としての活動は、相変わらず続けている。

 

 以前、モルガンズ達と相談して事前に決めた通り、『世経』系列の出版社に原稿を持ち込ませてもらっている。その上で、面白い内容であれば出版してもらってる感じだ。

 出版社が変わっただけで、前と同じ、ってことだな。

 

 ただ、その際のやり取りは今までとちょっと違う形にしてるけど。

 

 いくら怖いものなしのモルガンズ(の、会社)とはいえ、海賊と普通に原稿やらお金をやり取りするとまずいことになる。海軍に睨まれるようなことになってもおかしくない。

 裏でやろうにも、その後普通に出版してるんだから関係性は隠しようがないし。

 

 しかし、そこは洋の東西裏表を渡り歩いていて、裏社会すら1つの縄張りにしているモルガンズ。きちんとやり方を、しかもいくつも考えてあった。

 

 例えば、一方的に作者(私)が原稿を送りつけてきて、何も請求されてはいない……という形にする。『私の原稿を使え!』みたいな形で、自己主張の激しい犯罪者、的な感じ。

 それにより、会社と犯罪者の間に『営利的な関係』を発生させず、出版はあくまで会社の判断でしている、犯罪者に利益を還元してるわけじゃない、という、すげーグレーな状態にしたりとか。

 

 もちろん、原稿料その他は裏から相応の額で受け取ってるけど。

 

 あるいは、『世経』そのものが、やばいものを出版したりするときに使うペーパーカンパニーをいくつも持ってるので、そこから出版したり。

 内容そのものがヤバい、政府や海軍に睨まれそうなものの場合はそうしている。……この方法を使って、こないだ『プリズンブレイク』も出版した。

 

 モルガンズ曰く、めっっっっちゃ人気でて、刷る端から飛ぶように売れてるって。

 おおっぴらに売るのは難しい内容だから、ブラックマーケットですら一部取引されてるけど……そこでも結構な利益を生み出してるそうだ。

 

 しかし……あれが人気出てるってことは、やっぱ世界政府の統治機構に窮屈さを感じてる人や、刺激的なものを求めてる人って多いのかな?

 『シーズン2早よ』って、結構頻繁にせっつかれてるし、ファンレターもものすごい数届くし(モルガンズ経由で渡してもらってる)。

 

 ……いつか、さっきちらっと言った格言が出てきた作品も……今の世界風にアレンジして、世に出したいもんだ。

 『プリズンブレイク』以上に世界政府とかから睨まれそうな内容だから、まだ温存してるんだよね……タイトルに思いっきり『反逆』って入ってるし。

 『撃っていいのは撃たれる覚悟のある者だけだ』……この世界でも流行らせたいなあ。

 

 もう、何も忖度したり遠慮したりする必要も、義理もなくなったからな。いつか書いてやろ。

 

 なお、そういう感じで出版する際、私は、名前を変えて匿名的に出版するようなことは一切していない。今まで通りの名前で出している。

 

 作家『ベネルディ・トート・スゥ』が海賊になったことで、離れていってしまったファンも少なからずいる。心無い言葉のかかれた手紙をもらったこともある。

 

 けど、もともといたファンの多くは、そのまま私の本を読んでくれている。ファンレターも変わらず送ってくれているし、『何かの誤解だって信じてます!』とか『世間の声なんかに負けないでください!』とか言ってくれる人もいる。

 

 あと逆に、海賊になった後に増えたというか、ファンになってくれた人もいる。

 

 単純に本が面白いからファンになった新規の読者。

 

 賞金首になった後に『遠慮する必要もないし』ってことで書くようになった、ちょっとダークな内容の本を面白く思って、新たになった人達。

 

 それに……『自分海賊だけどファンです』『マフィアです。ボスに薦められて読んではまりました』『監獄に差し入れられた本を読んでファンになりました』なんていう、ちょっとコメントに困る、けどやっぱり嬉しいファンの人までできた。

 

 中には『作中で出てくる手口が色々参考になりました』とか書いてくる人も……ええと、実際にその手口で何かやったわけじゃないよね? ダメですよ? 

 誰だこのル・フェルドって人。『闇金タウロスくん』を気に入ってくれたみたいだけど。

 

 結果的に見ると……モルガンズの予想、大当たり。

 以前まで以上に自由に書くようになった結果、私のファン、かえって増えた。

 

 本の売り上げも、以前までの出版社で出してた時に比べて、刊行物自体が増えたことを差し引いても爆発的に上がってるそうだ。

 

 少し前に、著作物に関する権利の一部を買い戻したいって、前の出版社から打診が来たらしい。当然、『今更遅いから』って門前払いになって、悔しそうに帰っていったとか。モルガンズとエディちゃんが、2人共大笑いしてた。

 ……うん、正直私もちょっとスカッとした。

 

 そして、どうやらそういう評判が反映された結果だと思うんだけど……世間一般での私の呼び名も決まったみたいだ。

 『麦わらのルフィ』とか、『赤髪のシャンクス』とか、『道化のバギー』とか……名前とセットにされて呼ばれる奴。

 

 私のそれは―――

 

 

 ☆☆☆

 

 

「いたぞ、こっちだ!」

 

「見つけたぞ……もう逃がさん!」

 

「大人しくしろ、海賊め!」

 

 少女は、町にいた時から、監視されていることには気付いていた。

 誰かが通報したのか、それとも運悪くパトロールの海兵にでも見つかってしまったのか……そこまではわからない。

 

 それを知っていて、少女は、挑発するような小走りでその場から離れ……あえて人のいない、戦いの邪魔にならないような場所までやってきた。

 人もいない、建物もほぼない、町はずれの空き地。そこで、何人もの海兵が自分を取り囲む。

 

 海賊としては絶望的なそんな状況に置かれても、余裕の笑みを崩さない。

 

 何人かの海兵は、それを見て『馬鹿にされている』と思ったのか、苛立ちを露わにする。

 しかし、それで油断していい相手ではないということは、彼女の首にかかった、5500万ベリーという懸賞金額が物語っている。

 

「情報によれば、能力者だ。『監獄弾』は?」

 

「到着までしばしかかると……」

 

「ならば、それまで持たせるぞ! 総員……かかれっ!」

 

 海兵達が剣や銃を抜き、一斉に連携して襲い掛かってくるのを見て……少女・スゥもまた、手に持っていた番傘をすっと構え―――

 

 

 

 

 

 ―――そして、わずか数分後。

 応援部隊が、『監獄弾』を含む武器を手に駆けつけた時には……全ては終わっていた。

 

 海兵は全滅。

 負傷者多数なれど、死者はなし。

 

 もちろん、賞金首の姿はどこにもなし。

 

 応援部隊の指揮官だった本部少佐は、取り逃がしたことを苦々しく思いつつも……部下達が誰1人命を奪われなかったことについては、内心安堵していた。

 

 懐から1枚の手配書を取り出し、倒されつつもまだ意識があった部下に見せて問いかける。

 

「戦ったのは、やはりこの女で間違いないか?」

 

「はい、間違いありません……申し訳、ありません、少佐……みすみす、逃げられ……」

 

「いい、もう気にするな……よく戦ってくれた」

 

 自分を責める部下をなだめ、労をねぎらいながら、本部少佐はあらためて自分も手配書を見る。

 

 最近、海賊として手配され始めた、大型ルーキー。

 しかし、略奪などを行ったという報告は今のところ1つとしてなく、襲うのは海賊か、襲って来た海兵や賞金稼ぎに対しての反撃のみ。

 

 元々は賞金稼ぎ兼『作家』という異色の経歴を持つ海賊。指名手配となった今でもなお、『作家』としての活動は続けているという。

 その著作は、人々の心を打つ物語が多く発表されており……海賊でありながら、多くの市民や、同じ海賊、さらには一部の海兵にまでファンを持つ。

 

 『七武海』などの立場があるわけでもないのに、市民に大きな人気がある彼女のことを、一説には、海軍上層部もどう扱ったものかと困っているらしい。

 

(それでも……我々は海兵だ。貴様が海賊であるならば、捕らえねばならない! 『絶対的正義』の名の元に……!)

 

「礼など言わん……次会った時は必ず、捕まえてみせるぞ。首を洗って待っていろ―――」

 

 

 

 

 

「―――“海賊文豪”スゥ……!」

 

 

 

 

 

 

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