ハンコック達3姉妹に加え、テゾーロも保護完了。
上手いこと、政府の役人にも海軍にも見つからないうちに助けることができた。
マリージョアからそこそこ離れたところの岩陰で、偶然4人とも一緒に隠れてた……あるいは休んでたので、そこから私が、いつもの魔法の絨毯風の紙で連れ出した。
そのまま夜の闇に紛れて『
そしてそこからシャッキーに電伝虫をかけて、彼女達を保護したいので連れ込んでいいか聞く。
ハンコック達については、もともと『マリージョアに捕まっていた九蛇の子』として、シャッキーに以前から話はしてあった。だからスムーズに話は進んで、すぐに許可も出た。
オマケとしてテゾーロも保護してもらえることになったし、よかったよかった。
まあ、別にこの隠れ家でもよかったんだけど、私1人だけで使うことしか想定してないから、4人だとさすがに手狭なんだよね。交通も不便だし。
シャッキーとしても、『九蛇』が絡んでる以上は他人事とも言えないわけだからって、気前よく『連れてきな』って言ってくれた。
隠れ家でひとまず休んで体力を回復させた後、私の船でシャボンディ諸島に向かう。
道中特に何もトラブルとかもなく、シャッキーの店に到着。
なお、途中ここにくるまでに適当に服を買って、奴隷みたいなみすぼらしい、目を引くような姿ではなくしておいた。
お風呂にも入ってもらって体もきれいにしてあるから、変に目立ちはしないはず。
「し、シャクヤク殿……ほ、本当に!?」
「ふふっ、今はしがないバーの店主よ。そんなにかしこまらないで……『シャッキー』でいいわ」
当然ではあるけど、ハンコック達は、シャッキーを見て驚いていた。
まあ、無理もないというか当然というか。『九蛇』の先代皇帝が、こんなところでぼったくりバーの店主やってるんだもんな。そりゃびっくりするだろう。
「アマゾン・リリーの先代皇帝……!」
「お亡くなりになったと聞いていましたが……」
「ちょっと事情があってね、現皇帝に立場を引き継いだ後は、ここで隠居させてもらっているの。もちろん、彼女もこのことは知っていて、了承してくれているわ」
色々苦労を掛けちゃってるけどね、と少しばつが悪そうに笑うシャッキー。
もう何年も前に引退したはずなのに、ハンコック達、きちんとシャッキーの顔知ってたというか、覚えてたんだな。それだけ小さいころから、海賊、ないし『九蛇』の戦士として生きてきて……そして、シャッキーにあこがれてたわけか。
さすがの未来の『海賊女帝』も、大先輩にあたる人を相手にして、すっごい緊張してるようだ。
『楽にしていいよ』って言われてはいたけど、まあ無理ないだろう。
……その後、一緒にいたレイリーの素性を聞いてもっと緊張してたけど。
マリーもソニアも一緒になってガッチガチになってた。
「………………(何も言えない)」
そしてテゾーロはそれ以上にガッッチガチになっていた。
こちらも当然と言えば当然である。一応は『九蛇』っていう繋がりがあるハンコック達と違って、テゾーロの場合は、レイリーともシャッキーとも面識も何もないわけで……かろうじて私と知り合いってだけだからな。肩身が狭いと感じても仕方ない。
ごめんねこんなとこに連れて来て。でも、アジトに1人残しておくわけにもいかなくて。
何の事前説明もなしに、『海賊王の右腕』と『九蛇の元皇帝』と同じ空間に放り込まれて……ぶっ倒れないだけよく耐えてるというべきかもしれない。
今現在、彼は店の隅っこの座席に座って縮こまっています。距離の取り方が露骨である。
いや、悪感情からじゃないことはわかってるんだが。
あ、いまレイリーがちらっと視線を向けた瞬間、びくって肩が跳ね上がるように震えた。
ああ、あともしかしたらタイミング悪かったのもあるかもな……入店当初、いつもどおりシャッキーが、支払いができないってごねるチンピラ(テゾーロの数倍ガタイがいい、多分海賊)を締め上げてたところをモロに見ちゃってたから……。
ハンコック達は、強い戦士にあこがれる価値観があるから、それを見てもむしろ尊敬してる感じになったし、私はいつものことだからもう何も逆に感じなかったけども。
さて、それで……シャッキーの店にハンコック達を連れて来たわけだけど、このままここにずっと置いておくわけにもいかないし、そもそもそんなつもりもない。
この後どうするかについては、実はもうシャッキー達に相談して、事前に決めてあるのだ。
まず、ハンコック達に関しては、普通に故郷に帰すことにした。
『九蛇』の本拠地である、『女ヶ島』こと『アマゾン・リリー』に。
これに関しては、シャッキーと……もう1人。『女ヶ島』の先々代皇帝である、ニョン婆ことグロリオーサが、送り届ける役目を担うことになってる。
ニョン婆とは、私も実はもう知り合いである。時々シャッキーの店に来るから。
シャッキーが前々から、一時期『九蛇』の船に乗せていた娘として話してくれていたのに加え……ニョン婆、作家としての私のファンでもあったので。
店で会ったりすると、新作の本の感想とか聞かせてくれるから、話してて楽しい。年齢はだいぶ離れてるけど、友達、っていう感覚であり……自意識過剰じゃなければ、娘とか孫みたいに扱ってくれることもあるし。
さすがは元・女帝というだけあって、割と軽くて親しみやすい雰囲気の中にも、威厳みたいなものが……ないこともない感じの人だったな、と覚えている。
まあ総じて、シャッキーと同じで特に堅苦しいやり取りをするような関係でもなく、普通に付き合えてる感じだ。
ニョン婆は自身もこれを機に女ヶ島へ帰るつもりだそうで、ちょうどいい機会だと思ってるんだそう。
そんで実は、その帰省の時に、よかったら私も来ないかって誘われてるんだよね。
定住するわけじゃなく、遊びに行く感じで。
女ヶ島には、まだ戦士として現役かどうかはともかく、私が船に乗せてもらってた時のメンバーも何人もいるし、『海賊文豪』である私のファンだっていう人もいるんだって。
本来はよそ者は入ることができない島なんだけど、用事があってついでに行くわけだし、それに加えて、ニョン婆達の口利きがあれば大丈夫だとのこと。
前々からシャッキーに聞かされて、『機会があれば』とは思ってたものの、今まで行くことがなかった場所なんだが……ようやく機会が巡ってきたかも。
そして、もう1人。
シャッキーの店に連れてきたのは、一応『ついで』という扱いになっている、テゾーロに関してだが……彼の場合は、どこか適当な島に送り届けて、そこで自立してもらうことになりそうだ。
奴隷になる前は、もともとはいろいろな商売やって稼いでたみたいだし、色々ノウハウは持っているだろう。生活力はあるだろうし、心配はいらないと思う。
ただ、それより何よりまず先に……テゾーロの場合は、ステラと会わせなきゃ。
何せ4年前、私がステラを『マリージョア』から連れ出して以来、2人は会ってないのだ。
ステラも、テゾーロは無事で、元気でやってるかって、事あるごとに心配してたし……もちろんその逆もそうだった。テゾーロも、ステラのことを思わない日は1日もなかったってさ。
テゾーロが解放された(というか逃げ出した)ことについては、既にステラにも伝えてある。
予想通り、いつものステラからは想像もできないような勢いで『会いたいです!』って言ってきたので、近いうちに会わせてあげる予定である。
私としては、2人想い合ってるんだから、そのまま一緒に2人で仲良く暮らせばいいだろうと思うし、ステラ自身そうしたそうにしてたけど……テゾーロの方がちょっと微妙みたいなんだよな。
いや、もちろんステラを嫌いになったとか、距離を置きたがってるとか、そういうわけじゃなく……あれだな。ただ単に、男としてのプライドみたいなものが邪魔してるんだろう。
今現在、ステラは立派に就職して自分で稼いでて、借家だけど家も持ってる。
対してテゾーロは、マリージョアから逃げ出してきたばかりで、身一つ。しかも、ちょっと栄養失調気味で体力も戻ってない。住む家も仕事もない。
なので……今2人を一緒にすると、高確率で、ステラがテゾーロを養う形になる、と思う。
そのへんが、テゾーロ的にはプライドがアレなんだろう。
いや、実際一時的にはそういうのも仕方ないと思うんだけどね……力とか健康を取り戻すまでの辛抱だろうし、ステラだって気にしない、むしろテゾーロと一緒にいられればそれで幸せ、って感じだろうから。
けど、それで納得できないのが男の子という生き物なんだろう。
ま、これについては今後色々考えて解決策、あるいは妥協案を探っていくだろう。
どう転ぶにせよ、まずは2人ともとにかく『会いたい』と思ってるのは同じだから……やはり、近いうちに機会を用意してあげないとだ。
そんな感じで、ハンコック達とテゾーロについては近々、行きたいところ、行くべきところに連れて行き、会いたい人に会わせてあげる……ってことになった。
それと、もう1つ。
シャッキー達の方から、私達に……というか、私に話して聞かされたことが1つある。
はっちゃんのことだ。
「そうですか。やっぱり、海賊に」
「ええ。……やっぱり、ということは……知っていたの?」
「いいえ、今聞きました。でも……タイガーさんのことをすごく慕ってる感じだったので、もしかしたら……とは思ってました」
「ハチらしいといえば、そうなのだろうな」
マリージョア襲撃事件の犯人として、タイガーは世界政府から追われる身となった。
それ自体はタイガー自身覚悟していたことであるし、事件後、タイガーは生まれ故郷の『魚人島』に迷惑がかからないように、島に戻ることなく去ることになった。自らが解放した、魚人や人魚の奴隷達を連れて。
しかし、タイガーを慕う魚人島の荒くれ達はそれを良しとせず、『魚人の英雄を見捨てることはできない』として、普段は馬が合わずに対立すらしていた者達まで含めて団結し、彼の元に集まり……タイガーを船長とした海賊団を結成することになったらしい。
名前とかはまだ決まってないそうだけど……後の『タイヨウの海賊団』だな。
そして、はっちゃんもそれに参加することになったからって、数日前にシャッキー達にあいさつに来たんだそうだ。
『もう前までみたいにちょくちょく、気軽に会いに来ることはできないかもしれないけど、今まで世話になった』って。
「スゥちゃんにも謝ってたわ。『魚人島に連れて行って案内してやるって約束してたのにごめん』ってね」
そんな、気にしなくていいのに。
『魚人島』に行けないでいたのは、単に私の都合が合わなかったのと、魚人島の人達が『人間』に対する苦手意識をなくすまでまだかかるかな、って思って慎重になってたのが理由なんだし。
白ひげが魚人島をナワバリにして、魚人島での人攫いはほぼなくなったとはいえ、それまで海賊達が好き勝手やってた傷は深かっただろうし。
……あと、『今行ったらアーロンとかいるかも』って思ってちょっと怖かったのもあるな。
ともかく、はっちゃんは海賊になったわけだ。
これから会う機会があるかどうかはわからないけど、武運長久を祈らせてもらうとしよう。
……魚人島には、いつか自力で行こうかな。
海底にあるところに行くのは、ちょっと怖いけど……いい『経験』になりそうだし。
さて、じゃあこれからしばしの間、忙しくなりそうだ。
『女ヶ島』はそこそこ遠いから、ニョン婆やシャッキーとのスケジュールその他の調整を考えると、もうしばらく行くのは後になりそうだし……先にステラとテゾーロの方を済ませるか。