大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第56話 スゥ21歳とステラとテゾーロ

 

 

 ハンコック達をシャッキーの店に連れて行ってから、さらに数日。

 

 ようやく……ようやく、この2人を再会させることができた。

 

「ステラ……!」

 

「テゾーロ……。よかった、また、こうして会えて……!」

 

 女ヶ島にハンコック達を連れて行くのにはまだ時間がかかるので、先にこっちを済ませることにしたのだ。

 ステラと場所を決めて待ち合わせして――私が海賊になってからは別々に暮らしているので――そこにテゾーロを連れて行った。

 

 よっぽど待ち遠しかったんだろう。

 予定の時間よりだいぶ早くついたにもかかわらず、そこにはすでにステラが来ていて……こちらにいるテゾーロの姿を見た瞬間、その顔には泣き笑いが浮かんでいた。

 

 テゾーロの方も……こっちは感極まりすぎて、どんな表情になっていいかわからないって感じだったけど……体をプルプル振るわせて、涙があふれ出ていたから、どんな形であれ、すごく大きく心が動いたんだろうなというのはすぐにわかった。

 

 そのまま、どちらからともなく走り寄って抱擁する2人。

 

 何も言葉はなく、けれど、もう絶対に放さないと言わんばかりに、お互いをしっかり抱きしめているその様子は……なんだか、こっちまでもらい泣きしてしまいそうなくらいに、祝福したくなる姿だった。

 

 

 

 その後は、立ち話をするようなことでもないし……絶対そんなんじゃ収まらないくらいに、お互いに話したいことたくさんあるだろうから、場所を変えることに。

 

 あらかじめ予約しておいた、個室のレストラン。ここでなら、プライベートな話をしても一向に大丈夫だ。

 

「あらためて……本当にありがとう、スゥ。あなたのおかげで……私も、テゾーロも……こうして無事に、自由になれて……再び会うことができた」

 

「ああ、本当に……あんたのおかげだ。どれだけ感謝してもし足りない……本当にありがとう」

 

「そんなかしこまらなくていいって、2人とも。私だって単に、2人には幸せになってもらいたいと思ってやっただけなんだから」

 

 ひとしきり泣いて笑って、どうにか落ち着いた2人。

 運ばれてくる料理を食べながらの歓談の中で……揃って私に感謝するって言ってくれた。

 

 私としては、今言った通りで……マリージョアで知り合って仲良くなれた2人に、どうにかして幸せになってもらおうと思ってただけだからな。

 苦労も何もなかった……とは言わないけど、特別負担だったとも思ってないわけで。

 

 こうして幸せそうな2人が見れただけで、私は満足だよ。

 

 ……マリージョアにいた頃は、すぐ近くにまで行くことができても、2人そろって幸せだとは、口が裂けても言えないような日々だったからね……。

 

 テゾーロは過酷な労働の日々で……聞いた話だと、悪趣味な天竜人の命令で、『笑う』ことを禁止されていたらしい。

 ステラの方は、私の付き人的な仕事で、そこまで過酷ではなかったかもだけど……それでも、自由のない日々を過ごしていた。

 

 これから先は、今までつらい時間を過ごしてきた分も、思う存分、2人で幸せになってもらいたいもんだ。

 

「それで……これから2人はどうするの? やっぱ、2人で一緒に住むの?」

 

「私はもちろん、そうしたいけど……」

 

 そう言ってちらっと横を見るステラ。

 その視線の先では、テゾーロが何やら難しそうな顔になって、腕を組んで考え込んでいた。

 

 やっぱアレかな? シャボンディ諸島でもちらっと言ってた通り、ステラに養ってもらうことについて、男のプライドが……的な奴で悩んでんのかな?

 

 そう思って聞いてみたら、しかし、

 

「……それもなくはない。けど……他にもちょっと考えてることがあってな」

 

「? 他にも、って?」

 

 そう尋ねると、テゾーロはまた少し考えて、考え、ないし話すことをまとめてから話し始めた。

 

 

 

 テゾーロ曰く、『これから先、このまま普通に、平和に暮らすだけでいいのか』と、考えているんだそうだ。

 それも、今さっき思い付きで考え始めたとかじゃなく、マリージョアにいた頃からだという。

 

 前にも聞いた話だけど、テゾーロとステラの馴れ初めは……ヒューマンショップで売られているステラにテゾーロが出会い、そこから互いに惹かれ合っていくようになった、というもの。

 

 テゾーロはその当時、ステラを買って自由にしてあげるために遮二無二働いていた。

 ステラが負い目に思わないように、また気分を害さないように……後ろ暗い仕事でじゃなく、きちんとまっとうな仕事で稼いだお金で、ステラを買おうとした。

 

 しかし、あと一歩のところで、ふらりと町に現れた天竜人に、ステラが買われてしまう。

 それに歯向かい、天竜人に食って掛かった結果、テゾーロも罪人として奴隷にされてしまう。そしてわざわざ、ステラとは会えなくなるように居場所を振り分けられて……引き裂かれた。

 

 今はこうして、無事に2人、再会して一緒にいることができているけど……もし何かが違えば、二度と一緒にいられなかったかもしれない。

 そのくらいに、2人は一度、絶望と言っていいくらいの状況に叩き落されていた。

 

 テゾーロはここ何年もの間、『あの時自分に金があれば、すぐにでもステラを救うことができたのに』と、何度も考えていたのだという。

 あの時自分が、手段を択ばず金をかき集めていれば、すぐにステラを助け出していれば……と。

 

 もちろん、そうしなかったからこそ、こんな風に私達は知り合うことができたわけだし、その他にも色々と知れたこと、巡り合えたこと、色々あったから……ステラと共に奴隷として数年の月日を過ごした、今の自分達の在り方とかを否定する気はないそうだ。

 

 それでも……もし今後、似たような危機が襲ってきたら。

 その時また自分は、潔癖に生きた結果として金を用意できなくて、また、愛するステラを守れずに、傷つけることになってしまうのだろうか。

 そのくらいの悲劇は……この『大海賊時代』、どこにでも転がっているし、どこからでも襲い掛かって来そうだ。

 

 そうなった時、今度こそステラを自分の手で守るために。力が要る。

 闘って守る力はもちろん……金や地位、権力によって守る力も。

 

 だからこれからは、ステラと一緒に暮らしつつも……そういった強さを求めていきたい、と考えていたのだと……テゾーロは明かしてくれた。

 

「もちろん、平和に生きている人を不幸にして金を巻き上げるような……昔の俺みたいな腐ったことをやるつもりはない。ただ、それでも……歪んだ考え方かもしれないが、俺は金が欲しい」

 

 少し言いづらそうに。

 しかし、きちんと私やステラの目を見て言う。

 

「聞きかじりの言葉になるんだが……金っていうのは、この世界において、暴力や権力と並んで、最もわかりやすくて信頼できる『力』だ。それでいて、金そのものに善悪はない。持っている奴の方が、持っていない奴よりも、多くのことができる……そこに間違いはない」

 

「…………」

 

「それがなかったせいで、大切な誰かを守れない、救えないなんてこと……俺はもう、二度と経験したくない。だから……手段を選ばずとは言わないまでも、俺はこれから、金を稼いでいく。まだ俺がろくでなしだった頃に、多少培ったノウハウがあるから、それを応用してな。ステラ、できることなら君と一緒に行きたいが……もし君が、そういう生き方を望まないのなら、俺は……」

 

「テゾーロ」

 

 遮るようにステラが言う。

 そして、テーブルの上に置かれていた、テゾーロの手の上に、自分の手をそっと重ねた。

 

 よく見るとわからない程度にだけど、テゾーロの手は震えていた。……きっと、ステラの口から返答を聞くのが怖くて。

 それを、自分の手のぬくもりを伝えてなだめるようにしながら、ステラはまた口を開く。

 

「前に言ったよね、私……そう、売られちゃう時だったかな。私は今、世界で一番幸せだ、って」

 

 それを聞いてテゾーロは、あの日のことを……ステラと引き裂かれてしまった、絶望の日のことを思い返していた。

 その時にステラが、自分を心配させまいする必死の笑顔と……その目の端に浮かんだ涙も。

 

「私、本当にあの時、すごく幸せな気持ちだったの。ううん、今だってそうよ。こんなにも私のことを思ってくれて、私のために真剣に、必死になってくれる人がいるんだもの」

 

「…………」

 

「私はあなたが、本当は優しい人だって知ってる。人間だもの、間違えてしまうこともあれば、人に迷惑をかけることだってある……まっすぐ歩けなくなることだってある。私も、そういうの……いくつも見てきたし、私自身、人のお手本になれるような人間じゃないわ」

 

「君が? いや、そんなことは……」

 

「色々あったもの。それこそ、あなたと出会う前……奴隷商に来る前にね」

 

「ギャンブル狂いのお父さんの借金のカタに売り飛ばされた、って聞いてるけど……」

 

「その父が、色々と人に言えないようなこともやっていてね……私はそれを、家族として見て見ぬふりをしてきた。父がそういう商売で稼いだお金で食べて、暮らしてきた。父のせいで泣いている人達の姿から目を背けて、悲痛な声から耳をふさいで。そんなだったから、私や父がその泣く側になった時に、誰も助けてなんかくれなかったし、それを当然だと思った。自業自得だ、って」

 

 でも、と続ける。

 

「だからこそ……あなたにああして大切にしてもらった時、すごくうれしかった。もう二度と、人として扱ってもらえる機会なんてないと思ってたから。そんな時に、子供みたいに目をキラキラさせて、自分の夢を語っていたあなたに……私を助ける、と言ってくれたあなたに……どれだけ救われたか……。だから、テゾーロ」

 

 今一度、ステラはテゾーロの目をまっすぐ見て……笑顔で、しかし真剣に言った。

 

「あなたは何も負い目に感じることなんてないし、怖がりだってしなくていい。むしろ……私の方こそ……今の話を、今の今までできなかったこと、ずっと悪いと思ってた。……だからテゾーロ、もし、今の話を聞いても……あなたが、私とこれから歩んでくれるというのなら……!」

 

 一拍、

 

「私は、あなたと一緒に行きたい。こんな私でも、これからの人生、一緒に生きてくれますか?」

 

 テゾーロがなんて答えたかって?

 そんなの、言うまでもないし、想像するまでもないでしょ。

 

 あえて言うなら……私より5つも年上の大の男が、ああまで涙を流して喜んで……でも、それをちっとも『みっともない』なんて思えなかった。

 むしろ、こっちがもらい泣きしそうになっちゃったくらいだもの。本日2度目だよもう。

 

 よかったね、お2人さん。どうか、末永くお幸せに。

 

 

 

 

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