ステラとテゾーロは結局一緒に暮らすことになり、今はステラの借りている家で一緒にいる。
テゾーロも体力が戻り次第、働き口を見つけて……それと同時並行で、彼曰く所の『金稼ぎ』を始めるつもりだそうだ。
その手段については聞いてない……というか、そもそもこれから考えるから何も決めてないらしいんだけどね。情勢とかいろいろ鑑みて。
まあ、2人ならうまくやっていくだろうと信じて……私は今度は、もう1つの方の用事の処理に取り掛かることにした。
ハンコック達を『女ヶ島』に送り届ける……そしてそのついでに、私も初めてそこにお邪魔させてもらうっていうアレだ。
『女ヶ島』こと『アマゾン・リリー』があるのは、風一つ吹くことなく、また、大型の海王類の住処になっている『
そこに行くには、海軍が使うような、海楼石を船底に敷き詰めた船を使って海王類達の目をごまかすか、海王類すら退けるような武力で強引に突破するか、という2つの選択肢しかない。
残念ながら私はまだ、2つ目の選択肢を取れるほど強くはない。
1匹2匹ならどうにかなるかもだけど、大挙してこられるときついし、海の上での戦いはもっときつい。
かといって、海楼石をそんなに潤沢に用意できるかっていうと、それも難しい。アレ貴重だからね……値段もさ、高いんだよ。
海軍とかはよくあんだけ、鎖やら手錠やら『監獄弾』やらに使えるよな、って思う。……やっぱ税金とか、世界政府からの補助金あたりが出所なんだろうか。
それなら結局どうやっていくかって話になったんだけど……問題は簡単に解決した。
レイリーが同行して送ってくれることになったので。
頼もしさが天元突破である。もう何も怖くない。割とマジで。
そんなわけで、船は私の船を使い(無風だろうが私の能力で進めるので)、乗っていくメンバーは私、レイリー、ハンコック、サンダーソニア、マリーゴールド、そしてニョン婆の6人。
結構定員ギリギリだけど、まあなんとかなるだろ。
『偉大なる航路』からそのまま『凪の帯』に入り、途中襲ってくる海王類はレイリーが全て倒してくれたので、そのまま進む。案内はニョン婆のナビゲート任せ。
食料には困らなかった。海水から真水を作る装置があるから水はいくらでも手に入るのに加え、さっき言った通りレイリーが海王類を倒していくらでも補充できるので。
むしろ、食べる分だけ切り出してあとはリリースする毎日だった。
そのまましばらく進み……数日かけて『女ヶ島』に到着。
見張りの兵達に『何者だ!?』って威嚇されて弓を構えられたけど、すぐさまニョン婆が前に出て来て交渉開始。
彼女のことを覚えている人が何人かいて、『グロリオーサ様!?』『そんな……亡くなったはずでは』『偽物か?』『とりあえず、船長に確認しないと!』と、多少の混乱が起こり、しばし待つことに。
ほどなくして出てきたのは、今の『女ヶ島』の皇帝……すなわち、『九蛇海賊団』の船長であるらしい、若い女性。
その人が直接見てニョン婆を、先々代皇帝・グロリオーサ本人だと確認し、そのまま私達を招き入れることになった。
しかし聞いていた通り、女ヶ島は余所者は基本的に立ち入り禁止。
なので、ニョン婆とハンコック達3人はともかく、私とレイリーはやっぱり中に入れないか……と思われたんだけども、
「……ん? お前まさか……スゥじゃないか!?」
「「「えぇっ!?」」」
九蛇の戦士達の中でも、割と年上っぽい1人の女性がふとそう口走って……それを聞いて驚きをあらわにする人達、多数。
ええと、今驚いたリアクションした人達は…………わぁ、懐かしい。
「ええっと……スズナさんに、ナタネさんに……アイリスさん! あ、アンズさんにビオラさんも! うわぁ、お久しぶりです!」
「お前……やっぱりそうか! 何年ぶりだよ!」
「えっと、最後に会ったのが12歳とかそこらで、今21歳だから……9年とか10年くらい?」
「そんなになったのか……はははっ、どうりでこんなに大きくなってるわけだな!」
気付いてすぐさま駆け寄ってきた人達……皆、見覚えある。
皆、『九蛇』の船に乗ってる時にお世話になったり、その後の縄張りの島で暮らしてた時に、たびたび遊びに来てくれた人達だ。
「わ、私は? 私は覚えてる?」
「えっと……え、もしかしてリンドウ? 町にいた頃によく遊びに来てた?」
背中にごついバズーカみたいなのを背負ってる、私とそう年の変わらないであろう女の子も。
私が船を降りた後に、見習いとして九蛇の船に乗り始めた子で、年齢が近いからよく町で遊びに連れてこられてて、一緒に修行したりしてた。覚えてる覚えてる!
うわぁ、もう……誰もかれも懐かしいなあ! アウェーに来た気分しないんだけど!
「ほんとにお前、大きくなったなあ……いや、時々新聞とか読んで知ってはいたんだけどさ、それでもこうして直接見ると……」
「うんうん、海賊にさらわれて売り飛ばされたなんて聞いてたから、どうなったかと……ほんと、無事でよかったよ」
「あはは……心配かけちゃったみたいでごめんなさい。皆さんも元気そうで何よりです」
「やめなってそんな他人行儀な……っていうか立ち話もなんだし入りなよ! ほら!」
「え!? いやでも私、一応余所者……」
「堅いこと言わない、男ならともかく、スゥならもう身内みたいなもんなんだから、問題ないよ! ああでも一応、船長とかに許可は取ってこよっか。ちょっと待ってて、ひとっ走り行ってくるから」
「待ってる間に色々聞かせてよ、外の世界のこととかさ」
「あ、私それよりスゥが書いた本の話とか聞きたい! どれも面白いもん!」
「え、読んでくれてるの?」
「もちろん! ここにもあなたのファン、たくさんいるのよ! かけてもいいけど、あなた絶対に歓迎されるわ。なんなら、今からでも『九蛇』の一員にならないかって誘われるまである」
「スゥのおかげで、女ヶ島で本読む人が増えて、そこから活字慣れして新聞読む奴が増えたりもしたもんね。直接会ったことない世代にも大人気よ、『海賊文豪』」
「へー……あ、じゃあスズナさんやナタネさんももう自分で新聞ちゃんと読んでるんです?」
「ちょ、ちょっと、いつの話してんのよ!」
あはははは、と昔のことを思い出しながら笑う私達。
その様子を、他の若い世代の戦士たちはちょっと不思議そうに、そしてレイリーは、微笑ましいものを見る感じの目で見てくれていた。
☆☆☆
そのあとすぐに許可は出て、『女ヶ島』の内地の集落で歓迎してもらえることになった。
ただし、私だけ。レイリーはさすがに、男だってことで許可が下りず。
島の外縁にいることは認められたので、『気にせず楽しんで来い』って送り出してくれた。
何か悪いなあ、私だけ。
それとほぼ同時に、ニョン婆が行っていた交渉もまとまったという知らせが届いた。
無事に、ニョン婆とハンコック達3姉妹は、再び『九蛇』に受け入れられることが決まったらしい。現皇帝が懐の深い人で良かった。
そして私は女ヶ島で一泊していくことになったんだけど、その日の夜は、ハンコック達の帰還と私の来訪を祝って宴が催され、美味しいものをいっぱい食べさせてもらった。
余興も色々見せてもらえた。
かつて私やハンコック達がマリージョアで踊ることになった『剣舞』や、剣とかは関係ないけど女ヶ島に伝統の踊りとか。
宴の最中に、なんか外の世界の作家として、そしてかつて『九蛇』の船に乗っていた者として、私からも一言挨拶することになったり……
そして驚いたのは、私が書いた本を元にした演劇が上演されたことだ。
結構前に書いた『クロスエンジェル』ってやつ。
被差別階級に落とされて故郷を追われた1人の女の子。
この世の不条理、理不尽を嘆きながらも、自分と同じ立場の女の子たちが集う、この世の最果てと呼べるような場所で、攻めてくる怪物達と戦い続けなければならない。
その運命を最初は呪ってはいたけど、そこでともに戦う少女達との交流を経て、心身ともに強く、逞しく成長していき、仲間達との絆も深まっていく。
やがて、その不条理な世界を作り出した黒幕の存在を知った少女達は、ゆがんで間違った世界をぶっ壊すために、剣を手に取り、かつて敵として戦っていた『怪物達』とも理解し合い、和解した末に、真の巨悪に戦いを挑む……というストーリーだ。
最初は弱くて世間知らずで、腹立たしくすらあるものの、戦いの中で成長していき、仲間達と共に命がけの戦いに身を投じる不屈の女戦士、ってところが受けたみたい。
だいぶ簡略化はされてたものの、すごく人気の演目なんだってさ。
ただ1点……原作の最後の方にあったはずの、戦いの中でボーイフレンドといい雰囲気になって結ばれるところがなくなってたけど。
なんでも、演劇に直すにあたって尺の都合と、『女ヶ島』には『男』を見たことがない人が大半だから感情移入しづらいってんで、思い切ってカットしたんだって。
まあ、楽しんでくれるなら全然いいけども。
上演後、原作者として講評とかを求められたので、素直に『すごく面白かったし、すごく嬉しいです!』って言っておいた。実際そうだったし。
どんな形であれ、こうして自分の作品が評価されて世に出てるのを見るのは、なんとも言えない達成感と満足感があるもんだ……。
作家やってて、よかった。
☆☆☆
そして翌日、
「スゥ……今回は本当に世話になったな。そなたがいなければ、きっとわらわ達はここに……故郷に無事で帰りつくことは難しかったじゃろう」
出発間際、見送りに来てくれたハンコック達との会話。
昨日まで着ていた間に合わせの服から、『九蛇』仕様のワイルドな服に着替えたハンコック、マリーゴールド、サンダーソニアの3人から、それぞれに感謝の言葉を贈られた。
あと、ニョン婆も、彼女達の少し後ろに立って見守ってくれてる。
彼女は今後、長く生きたが故の経験を活かし、相談役としてこの島で皇帝の役に立つ立場になる……という感じでやっていくそうだ。
「いや、私もハンコック達が無事に故郷に帰れて嬉しいよ。気になんかしないで」
「そうはいかん。これほどの大恩を忘れることなどできようものか。スゥ、もし何かあればいつでも声をかけてくれ。わらわたちは可能な限り、そなたの力になろう」
「……うん、わかった。頼もしいよ、ありがとう。それで……ハンコック達はやっぱり、これからまた『九蛇』の戦士を……海賊を目指すんだよね」
「ええ、鈍っていた分、修行して取り戻さなきゃ」
「もしかしたら、同じ海賊として、どこかの海で会うこともあるかもしれないわね。……ああ、でもスゥは海賊のつもりというか、自覚はないんだったかしら」
「あははは、まあね。どっちかっていうと作家業にやっぱり力入れたい。昨日の宴で、『女ヶ島』の人達も、私の本を楽しんでくれてるってわかったから」
「なら、そっちも期待させてもらうとしようかニョう。お主の書く物語は、これまでになく斬新で見ていて心が躍るものばかりじゃ」
と、ニョン婆も、『作家』としての私も含めて激励してくれる。
「それとスゥ、コレをそなたに」
ハンコックはそう言って、1枚の紙きれを渡してくる。
あれ、これってもしかして……
「ビブルカード?」
「うむ、わらわのじゃ。レイリーに頼んで、ここに来る前に作ってもらっておいた。そなたに渡しておこうと思っての」
「そっか……わかった、ありがとう。……そういや私、ビブルカード作ってないな。ごめん、今度渡すね」
渡すような相手がいなかったからなあ。わざわざ私を探して尋ねてくるような人は。
レイリーもシャッキーも基本的にシャボンディ諸島にいて、私が訪ねる側だし……しいて言うならモルガンズやエディちゃんだけど、普通に電伝虫で事足りてたから。
ステラとテゾーロのこともあるし……作っておいたほうがいいかな、やっぱ。
逆にもらったことはあるけどね。レイリーとシャッキーのを。
そんなことを思いながら、私はハンコックのビブルカードを、体の中に入れる。
性質は特殊ではあるものの、コレも紙には変わりない。『紙人間』である私は、こうして同化して体内にしまっておける。
そして実は私、『ビブルカード』に関してはちょっとしたおまけ的な能力が1つあったりする。
「使い方はわかるじゃろ?」
「うん。……といっても私の場合、そうする必要もないんだけどね?」
「? それは……どういう意味じゃ?」
不思議そうに聞き返してくるハンコックに、簡単に説明する。
実は私、『紙人間』という性質からか、ビブルカードを取り込むと……それだけでその人がいる位置(方角)を把握できるのだ。
わざわざ『平らな面に紙片を置いて動くのを待つ』というプロセスを踏まなくても、体内のビブルカードが感覚で私にそれを教えてくれる。
位置だけでなく、状態もね。その人の生命力が弱まったりして、ビブルカードが縮むと、それも見なくても把握できる。
ごく最近、レイリーとシャッキーのビブルカードを体内に取り込んだ時に判明した能力だ。
「相変わらず多芸な能力じゃのう……まあよい。近くまで来たらいつでも遊びに来るがよい、歓迎しよう。もしその時、わらわがこの『九蛇』の皇帝になっていれば、なおさら、島を挙げてな」
「あははっ、ハンコックならいつかきっとなれるよ! ……じゃあ、元気でね」
「うむ、ではな」
こうして私は、ハンコック達と別れ……レイリーと一緒に、『女ヶ島』を後にした。
これで、マリージョアから助けた知り合い、4人とも、いるべき場所に届けたぞ、っと。
いやいや、大仕事だった。でも……いい『経験』できたな、今回も。
明日はちょっとリアルの都合により更新できないかもです。
それと、作中に出てくる九蛇の戦士の皆さんの名前ですが、リンドウ以外は適当です。植物の名前から選んで並べました。
え、ジムリーダー? HAHAHA、何のことやら。