大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第61話 スゥ不在中のあれこれ

 

 

 

 スゥが『偉大なる航路』を出て、4つの海を漫遊する旅を始めてから……しばらく経った頃。

 

 『偉大なる航路』の中盤、とある小さな島にて。

 

 

「“黄金爆(ゴオン・ボンバ)”ッ!!」

 

 黄金の手甲に覆われたテゾーロの拳が、海賊が振り下ろした剣を殴りつけて粉々に砕く。

 

 海賊が驚いて固まっている間に、もう片方の拳がうなり……海賊の顔面を捕らえる。

 それと同時に、金色の光と共に爆発が起こり、海賊を大きく吹き飛ばした。軌跡すらも金色の、色々な意味できれいな放物線を描いて飛び……海に落ちる。

 

「ひ、怯むな! 全員でかかればやれる!」

 

「こいつを殺せば、何億って金が手に入るんだ……野郎ども、死ぬ気で戦え!」

 

「生憎だな……確かに俺は、金なんか唸るほど、捨てるほど持ってるが……その使い道を決めるのは俺だ。俺が俺の金を使うのは、仕事を除けば……俺と、俺の大切な人のためと決めている」

 

 四方から襲い掛かってくる海賊達を威嚇するように、両腕の手甲をガキン、と打ち鳴らす。

 そして、重量のある金属の塊を腕に着けているとは思えない速さで、攻撃全てをかわし……次々に海賊達を叩き伏せていく。

 

 テゾーロの拳が海賊を打ち据えるたびに、金色の光が炸裂し、衝撃波が周囲に広がって、当たっていない海賊すら怯ませる。

 まるでショーのように、苛烈でありながら美しい、魅せるような戦い方。

 

 そしてそれは、テゾーロに限らない。

 

「だめだ、こいつ……強すぎる! おい、そっちの女を人質にしろ! 脅して……え?」

 

 海賊の1人が目を向けた先では、今まさに人質にしようとしていたその女が……残っていると思っていた、自分の仲間達を打ち倒すところだった。

 とても戦えるようには見えない細腕に、身の丈よりも長い黄金の槍を持ち、それを振り回して大の男数人をまとめてなぎ倒す。

 

 くるりと軽やかに手首を返して、残る敵が振り下ろしてきた斧――人質にするとか生け捕りとか、そういうのを気にしている余裕はないらしい。首を狙って殺しに来ている――を受け流し、さらに下から掬い上げるような軌道で振り上げて……その大男を真上に吹き飛ばした。

 

 その槍の軌道が、身に纏っている黄金の鎧が、そして……ステラ自身の金色の髪が描く、戦いの後に残る金色の軌跡が、テゾーロにもまして美しい戦いをそこに描いてみせていた。

 

 もっとも、海賊の目には、その金色の軌跡も……死神の鎌が振るうそれに見えていただろうが。

 

(ちくしょう、そんな……聞いてねえぞ!? 女の方まで、こんなに強いなんて……)

 

「さて……覚悟はいいか、なんて野暮なことは聞かない」

 

 ぽん、と男の肩に手が置かれる。

 黄金の手甲に覆われた、大きく、重い手だ。

 

 はっとして振り向いた瞬間、男が最後に見たのは、鼻先1㎝のところまで迫っていた、金色の拳だった。

 

 

 

「やれやれ、最近はこういう輩も増えたな……」

 

「そのくらい、あなたが有名になった、ってことじゃないかしら。まあ……いいことだとは言いづらいけどね」

 

 ギルド・テゾーロの名は、数年の間に『偉大なる航路』でも大きく広まり、今では海賊や裏稼業の者達をはじめとして、多くの太客を抱えるまでになっていた。

 

 闇の商人というくくりの中では、奴隷や違法な薬物などの、一部の刺激の強い品物を取り扱わないという点で、割と『大人しい』部類に入るのだが、長年のノウハウから来る販路の大きさと取引の確実性から、彼に信頼を寄せる者は多かった。

 

 一部では、世界政府加盟国の貴族や行政府にも固定客を持つほどだ。

 私腹を肥やすために利用している者もいれば、国を存続させ、豊かにしていくための『必要悪』として扱っている者もいる。

 

 そうして有名になってくれば、多くの富を稼いでいるであろうテゾーロや、その恋人であるステラの命を、そして金を狙ってくる者達が出始めるのも、ある種必然と言っていいことだった。

 しかしテゾーロは、その全てを退けてきた。

 

 時に傭兵を雇い、時に強大な国や組織の陰に隠れ……そして時には、自ら拳を振るって、襲い来る者達を叩きのめす。

 『ゴルゴルの実』の力に目覚め、スゥの協力もあって順調に能力を成長させ続けているテゾーロは、己の力を磨くことにも余念はない。この海を渡っていく上で必要不可欠な、直接的な『力』においても、かなりのものとなっていた。

 

 そしてそれは、テゾーロに限った話ではなく……生涯を彼のそばでともに生きていくことを選んだステラもまた、そのための研鑽を積んでいた。

 

 そういう荒事とは全く無縁な生き方をしてきたステラだったが、ともすればその心の強さ、意思の強さはテゾーロと同等かそれ以上。そんな彼女が、テゾーロにとって、お荷物でしかないような立場に甘んじているはずもないというのは、ある意味当然でもあった。

 

 最初こそ、護身術程度の腕がせいぜいだったステラだが、時間を見つけて相手をしてくれるスゥや、マリージョアで知り合ったハンコックら3姉妹、そして彼女達を通して知り合った『九蛇』の戦士達、あるいはそのOGの指導を受けることができたのは、望外の幸運だった。

 彼女達は商人としてのテゾーロの得意先の1つでもあり、その縁で指導をしてくれている。

 

 頻繁に会えるわけではないため、多くは自主的な鍛錬になるのだが、それでも自分にできる限りのことをして鍛え続けた。

 

 そうして2年ほどもかけて鍛え、この『偉大なる航路』の基準でも、雑兵の海賊程度であれば戦える、立派に護身できる程度の実力を身に着けた。

 

 そこに、テゾーロが力を込めた黄金の装備を身に着ければ、その攻防力はそこらの鋼鉄製の装備を身に着けるよりも高く、それでいて重さの負担はより軽いものになる。

 

 さらに、とある出来事(・・・・・・)が切っ掛けで、彼女はさらに大きく力を伸ばすことになったのだが……それについては、まだ知るものはテゾーロしかいない。

 それよりも前に、スゥは『4つの海』を漫遊する旅に出てしまったからだ。

 

 なんとなく、電伝虫で伝えるのもどうかと思ったため、次に会ったときにでも伝えよう、とステラは決めていた。

 イタズラっぽく笑っているその様子を見るに……伝えた時にびっくりするであろうスゥの顔が見たいから、という理由も少なからずあるようだ。

 

「とはいえ、さすがにこのままというのも厳しいな……今後どんどん事業を拡大していくつもりだから、それを見据えれば……そろそろ、仲間を集める頃合いなのかもしれないな」

 

「そうかもしれないけど……難しい所よね。信頼できる人を選ばないと」

 

「ああ……だが、やってみせるさ。俺は絶対に、もっと、もっと高みへ上り詰める。俺や君を不幸にした金の力で、今度はこの世で一番の幸せ者になってみせる」

 

「ふふっ、楽しみね……でも、思い詰めすぎないでね、テゾーロ。私は今でも、一日一日が十分、本当に幸せだもの。……これ以上の幸せなんて、予想つかないくらいよ」

 

「それなら結構。予想もできないような幸せって奴を、俺が手に入れてみせる。……そうだな、君だけじゃなく、スゥやハンコック達、レイリーやシャクヤクをもびっくりするような、大きな幸せをつかんでやろう!」

 

 野望に燃えながらも優しさを失わない男と、今の幸せを守るために彼と共に歩む決意をした女。

 黄金に彩られた、2人の栄光への道のりは、まだまだ始まったばかりだった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「社長! モルガンズ社長(・・・・・・・)!」

 

「何だエディ、何度も言わなくとも聞こえてるぞ」

 

 ところ変わって、こちらは今度は『世界経済新聞社』の本社。

 世界中で読まれている超大手新聞社の本拠地にて、先ごろ『社長』の座に就任した半人半鳥の男は、今日も元気に社長自ら新聞の見出しを考えているところだった。

 

 そんなモルガンズに声をかけるのは、かつて彼自身がスカウトして引き抜き、その担当作家のおかげでこの数年で大きく実績を伸ばした社員。

 『海賊文豪』スゥの担当編集者、エディである。

 

「スゥ先生から原稿届きました! こないだ連絡のあった新作です!」

 

 そして報告は、モルガンズの予想通りの内容だった。

 エディが機嫌よく持ってくる仕事の話は、9割がたスゥがらみのそれだ。モルガンズに限らず、社内では半ば常識である。

 

 『偉大なる航路』を離れ、諸国漫遊の旅に出てしまったスゥ。

 物理的に大きく距離が開いてしまったがゆえに、原稿のやり取りも大変になってしまったが、裏に表に手を回せば、届ける手段はいくらでもある。

 

 今なおスゥは、これまでとほとんど変わらない、あるいはこれまで以上のペースで新作を書き上げてはここに送ってきていた。エディは毎度、楽しそうに忙しそうにそれらを処理している。

 

「ほう、来たか! もう読んだか、どんな話だった?」

 

「えっと……結構ギリギリな内容ですね。『忠臣グライド』……アコー王国という架空の国を舞台にした歴史小説です。宮中の権力闘争からの不当な裁きで君主を失った家来達が、一番の忠臣である騎士グライドを筆頭に、仇討ちのために討ち入りをして仇の貴族を討ち果たし、その後は罪から逃れることはなく全員で法の裁きを受け入れ、その生き様と死に様に人々は心打たれることになる……って感じですか。派手なアクションとかはないですけど、結構重厚な読み味です」

 

「なるほどなるほど、政府や権力に喧嘩を売る内容ではあるが、その後革命や国家転覆にはつなげず、むしろ自分達から進んでそれを罪として受け入れる結末か……ややダークだがメッセージ性のある作品だな、面白い!」

 

 エディから原稿を受け取って流し読みしていくモルガンズ。

 一通りさっと目を通すと、すぐさま系列の出版社の編集部に電伝虫をかけて本社に呼び出した。出版会議にかけることが彼の頭の中ですでに決まったようだ。

 

「スゥは今……確か、『南の海(サウスブルー)』だったか?」

 

「ええ、多分。南、西、北、東の順に回るって言ってましたね……あ、でもちょいちょい用事とかあったら『偉大なる航路』にも帰ってくるかもって」

 

「ふむ。作中に出てくる国家の社会構造を見るに……おそらく今、セントウレアあたりにいるな。あそこも貴族中心で、不条理な裁判やら何やらがまかり通る、中々にクソな国だったはずだ。そこを取材して書きたくなったんだろう」

 

 さらりと世界政府加盟国を『クソ』呼ばわりするモルガンズだが、この男には割と日常よくあることなので、エディも含め社員達は誰も気にしない。

 面白ければもっとヤバいことでも、それこそ新聞の誌上でやってのけるのがこの男だ。

 

「あぁ……先生、結構取材先でインスピレーション沸き上がってきて、その勢いのままに書くこと多いですもんね」

 

 彼女が『海賊文豪』になる前、何度か取材にも同行しているエディ。

 その行った先での体験で『きた!』とこぼしたスゥが、宿に帰った後に猛烈な勢いで執筆をはじめ、翌朝までに作品を1つ書き上げた……そんなことが何度もあった。

 

 超感覚型、勢い最重視の作家。それが、その時からエディの中にあるスゥに対する印象だった。

 

「彼女にとって小説とはそういうものだからな。どんな話を書こうと思って物語を組み立てていくんじゃない、先に『こんな話を書きたい』というイメージが浮かんできて、そこに勢いそのままに肉付けしていくのが彼女の書き方だ。そうだ、確か以前こんな風に言っていたな。頭の中でキャラ達が勝手に動いて物語を作ってくれる、自分はそれを書いているだけ……だったか」

 

「こうも言ってましたね。自分にとって作家っていうのは、自分の中の素晴らしく楽しい幻想を、活字を通して読む人達皆におすそ分けする仕事なんだって。あと、だからこそ自分は、自分が楽しい、面白いと思えない作品は絶対に書けない、とも言ってました」

 

「彼女らしいな。まあ彼女の場合、書きたくない、書いても面白くない話は、書けない以前に自分の信条として書かんからな。多分、死んでも書かん。そういう趣味人だよ」

 

「だからこそ先生の作品は、ジャンルを問わず心にクる物語が多くて面白いんですよね!」

 

 作家としての彼女の最大の理解者であり、また最大のファンであることを自負するエディは、満面の笑みで言い切りながら、モルガンズに原稿を返してもらう。

 彼女も彼女で、きたる会議のために必要な資料その他を用意しに移るのだろう。

 

 ウキウキした様子を隠しもせずに退室していくエディ。

 その背中を、『ああ、原稿来たんだな』と、もうすっかり慣れている他の社員たちは見送る。

 

 そしてモルガンズはというと、彼は彼でこの後の会議の準備を進めつつも……ふと、今日の朝、刷り上げたばかりの自社の新聞を手に取る。

 そこには、昨今活動を活発化させつつある『革命軍』なる者達について書かれている。

 

 今はまだ、新聞の1ページの端に名前が載る程度の、思想こそ危険だが、そこらの海賊と同程度にしか見られていない団体。

 思想こそ危険なれど、そこまで注目はされていない。これまでも何度も世界に現れてきた、政府に楯突き、そして鎮圧され消えていった者達と同じだろうと見られている。

 

 しかしモルガンズの勘は、近い将来、この『革命軍』が世界中に大きな嵐を巻き起こす存在となる……そう訴えていた。

 

 だが、今モルガンズの脳裏に浮かんでいるのは、その記事の『革命軍』そのものについてではなく。

 

「そう考えると、政府も的外れな認識を抱いているもんだ。まあ、そういう系の作品もスゥは沢山書いているから、無理もないといえばそうなんだろうが」

 

 言いながら、机の横のボードに張ってある、1枚の手配書に視線を移す。

 他でもない、『海賊文豪』スゥの手配書がそこにはあった。

 

「我々は彼女がただの趣味人であり、彼女が書く物語は、徹頭徹尾、自分と読者のためだと知っている……が、政府はそれを知らないし、知ったところで信じないのだろうな。……彼女を、反政府の『扇動者』になり得る存在として危険視し始めているくらいだ」

 

 スゥの本は、海賊による著作でありながら、一般市民や貴族、海兵の一部にすら愛読者を持つ。

 その事実は、決してバカにできるものではない。作家としての彼女には、老若男女を問わず自分の言葉を届けることができる『影響力』がある。それは、たとえ欲しても得難い、大きな力だ。

 

 もし、その世界中に届く『声』によって、よからぬ思想を広げられるようなことがあれば。

 彼女が犯罪者である以上、政府としては、その可能性を考えないわけにはいかないのだろう。

 

「ま、彼女自身にそのつもりがないとはいえ、実際革命軍も彼女に興味を持ち始めているとも聞くし、全く的外れな懸念とも言えんか。だがまあ……万が一そうなったとしても、ある意味自業自得な気がするがな」

 

 そもそもが、彼女を『犯罪者』にしたのは、外ならぬ世界政府である。

 政府に都合が悪いことを知った、あるいは知った可能性があるという理由で、彼女は『海賊文豪』にされてしまった。

 

 彼女自身には、そんなつもりは微塵もなかったにも関わらず。

 むしろ、賞金稼ぎとして海賊を狩り、一応、治安維持に貢献すらしていたというのに。

 

 政府にとって危険、あるいはそうなる『可能性』に対する反応としては正しいのかもしれないが、結局自分で蒔いた種に違いはない。

 憶測交じりに勝手に敵を作った挙句、それを怖がって懸命に追い立てようとしている。

 

 そう考えると、モルガンズには政府のやっていることが、自分の尾を懸命に追いかける犬か何かのような、滑稽なものに思えてきていた。

 

「にしても……クワハハハ、考えてみれば可哀そうな話だ。毎度彼女が書いてくる傑作を、そんな風にしか見れんとは。政府上層部の連中は、純粋に物語を楽しむ余裕もないわけだ」

 

 だが、『別に今考えることでもないか』と思い直したモルガンズは、思考を切り上げて仕事に戻る。

 今自分がやるべきことは、スゥが望む形で、彼女が書いた物語を、読者達へきちんと届けることだけだ。

 スゥの望みは相変わらずそれだけだし、自分もそれで楽しいし、儲かる。

 

 今はまず、それだけだ。

 

 ……しかし、もしも……

 

(もしも、スゥが本当に、世界政府が危惧するような、ハードでセンシティブなものを作って出してくれるようになれば……それはそれで面白そうではあるな! きっと、彼女が彼女のまま、こちらの予想も何もぶっちぎったものを披露してくれそうだ……クワハハハ!)

 

 そしてそうなった時には……自分もまた、ためらわずそれを世に送り出すだろう。

 

 モルガンズの中には、既にそんな確信があった。

 ……いつかそんな日が来てくれれば面白い。そんな期待と共に。

 

 

 

 




今回で本章は終了になります。
また次の章に移るまでに、少しお時間いただくかもしれません。

『3D2Y』みたいに一気に時間飛ばすか、それとも4年間のことを順番に書いていくか、まだ悩み中でして……

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
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