さすがは『グラン・テゾーロ』。世界最大のエンターテイメントシティ。
そこのオーナーであるテゾーロが太鼓判を押すだけあって、もりあがるショーだった。
私はもちろん、途中から到着して一緒に見ていたハンコック達も楽しめていた様子だ。
「相も変わらず派手な舞台じゃのう。黄金の花火に黄金の噴水……あの男の能力でいくらでも作り出せるとはいえ、文字通り目もくらむようなステージじゃな」
「色んな意味でね。このステージだけでも、総工費いくらかかったんだろ。数百億ベリーじゃきかないだろうね」
素材になってる黄金は、テゾーロのお手製だろうから、材料費は実質タダだろうし、それを加工するのも『ゴルゴルの実』の能力でできただろうから、建設にかかる金額はそこまでじゃなかったかもだけど……これ丸々買おうとしたら……何兆ベリー? いやもっとだな。
ハンコック達も、『九蛇』の島でも、その縄張りでも、まず見ることのかなわないであろうゴージャス極まりないステージに、毎度圧倒されている様子だった。
こういうのが大好きってわけじゃないだろうけど、純粋にショーとして見ても十分楽しい構成になってるからね、テゾーロ達のステージは。
何もかもが黄金のステージなんて、ともすれば成金趣味とか、下品とか言う人もいそうなものなのに……そういう感じを微塵も見せないで、エンターテイメントに仕上げてる。
その構成や演出のセンスもまた、テゾーロがこの『グラン・テゾーロ』の王として君臨できた1つの理由なんだんだろうな。
あと、純粋に歌上手いのもあるし。
テゾーロも、ステラも……その他の歌姫や、出演者たちも。
今回がデビュー1回目だっていう、ウタちゃんもそうだった。あれは、このまま磨き上げて行けば、すごい歌姫になりそうな気がする。なんとなくだけど。
……あと、ちょっと1つ気になったことがあるんだけど……
「やぁ、楽しんでもらえたかな?」
「お待たせ、スゥ。それにハンコック達も、早く来れてよかったわ」
ステージを終えたテゾーロとステラが来て、席に着いた。
それを見計らって、聞いてみる。
「ねえテゾーロ、歌姫の1人として出てた子なんだけど……」
「ん? ウタのことか?」
「いや、その子じゃなくて……ウタちゃんもすごくよかったけどさ、別の、ほら、薄紫の髪の……カリーナって娘、いたでしょ?」
ウタちゃんの何個か後に出てきた歌姫。胸の前のところが大きく開いたセクシーなドレス着て、踊りながら歌ってた娘。
彼女もすごく上手くていい歌だったけど、でも……
「ああ、心配ない、わかってるよ。泥棒だっていう話だろ?」
「あ、承知した上で雇ってたのね」
あの娘、私、知ってるんだよね。
というか、狙われたことある。泥棒として。
『東の海』にいた頃だったんだけど……どうやらあの子、原作のナミと同じような感じで、海賊相手の泥棒みたいなのやってたみたいなんだ。『海賊専門』かどうかはわからないけど。
そんで、私も海賊だから……お金持ってると思われて、狙われたみたい。
夜の闇に紛れての、気配の消し方とかその辺はなかなかのものだったと思うけど、『見聞色』をごまかしきれなかったので、普通に気づけた。
捕まえてみたら、まだ十代前半の子供だったんだから、びっくりしたけど。
事前に防げたので被害もないし、痛い目に遭わせるのもアレだから、そのまま逃がしてあげたけど……なんとまあ、『偉大なる航路』に来てたのか。
しかも、ここ『新世界』だぞ。どうやって来たんだか……大手の商船や客船に密航でもしたか?
てか、明らかに自分のお金狙ってる娘をそばに置いてるの? 物好きな……まあ確かに、歌はすごくよかったけどさ。
「ステージの華になるし、スタッフとしても話し上手の聞き上手、盛り上げ上手で優秀だからな。それに、彼女の歌はこの『グラン・テゾーロ』でも屈指のもので……彼女目当てに来る客や、彼女を目標にして切磋琢磨する見習い達もいる」
「危険を冒して雇う価値はあると見たわけか。まあ、お主がいいなら別にわらわ達が何か言うことでもないが……寝首はかかれないようにするのじゃぞ」
「わかっているとも。まあ、『女狐』としての本性を現すようなら、その時は残念だが、きちんと対処するさ。もっとも……案外こっちに鞍替えしてくれるかもしれないがな。働きに見合った、あるいはそれ以上の賃金はきちんと出しているつもりだ」
危険を冒して泥棒やるより、普通に真面目に働いた方が稼げるから、って? まあ、確かにそういう人もいるだろうけど……カリーナはどうだろ?
あの子、泥棒自体を楽しんでるというか、ポリシー的なもの持ってる気配あったからなあ……。
「それに、少なくとも今はまだ大丈夫だと思う。ステラに懐いているし、恩も感じているようだからな」
「恩? ステラに?」
どういうこと?
気になって聞いてみたら……どうやらカリーナ、お金目当てでこの『グラン・テゾーロ』に潜り込んできたとかじゃなくて……テゾーロ達の方がスカウトというか、拾ったみたいだった。
テゾーロというか、ステラがだけど。
割と最近の話になるんだけど、テゾーロが仕事で出向いた闇取引の相手に、接待で裏カジノに連れていかれたそうだ。
規模はこの『グラン・テゾーロ』には到底及ばないそれだけど、中々に『過激』な催しがあるおかげで、割と人気で、裏社会でも名が通ったカジノらしい。私は知らないが。
言ってしまうと、そこで行われているのは……『カ〇ジ』とかであるような、人が命を賭けてる系の賭け事、ないし見世物。
そしてそのカジノには、例の爆発する首輪をつけられ、鎖でつながれている……何人もの奴隷達がいた。『出場者』として賭け事の舞台で命を張る役目の者もいれば、賭けに勝った人達への『景品』として繋がれている者もいた。
その中に、何をミスって入ることになったのか、カリーナもいたらしい。
私の時と同じように、盗みをミスって売り飛ばされたのかな? まあ……盗みに入った泥棒を、何もせず逃がしてあげるような優しい人なんて、そう居ないしな。自分で言うのもなんだけど。
よくて通報されて御用、悪ければ、法で裁かれるよりひどい目に合う……カリーナみたいなかわいい子なら、まあ後者だろう。
かわいそうだとは思えど、裏社会ではよくあることだし、下手に仏心を出してテゾーロの取引の迷惑になるわけにはいかない。
ステラも心を痛めつつ、一度は目をつぶろうかと思ったそうだ。
けど、カリーナがそこで何をしているのかを見て、考えが変わったみたい。
カリーナは自分も首輪をつけられていながらも、自分よりも小さな……恐らくはさらわれてか、あるいは売り飛ばされてここに来たと思しき、小さな子供達をかばって、代わりに危険な見世物に参加していた。
傷つき、苦しみながらも、どうにか耐え抜いて生き残って……それでいて、子供達に心配かけないように、怖がらせないように、『ウシシシシ』って懸命に笑って見せていた。
それを見たステラは、テゾーロに一言断りを入れた上で、角が立たないように、『賭け事』で勝負に出ることにしたそうだ。
普通にそのイベントに興味があるふりをして参加し……連戦連勝。カリーナがかばっていた子供達を、景品として次々手に入れていった。
周囲の参加者達はというと、それも楽しんで見ていたみたい。
カリーナが子供達をかばってその身を危険にさらしてるのは、誰の目にも明らかだった。
しかし、そのかばっている、守ろうとしている子供達が、1人、また1人と景品として貰われ、引き離され、人の手に渡っていってしまう。
不安になって泣いてしまう子供達。泣きながら、抵抗虚しく連れていかれる景品。
それを見守ることしかできず、歯を食いしばり、ステラを睨みつけるカリーナ。
ほぼステラの一人勝ち状態だったのは面白くはなかっただろうけど、それを差し引いても、その光景が面白かったんだろうな、周囲の連中は。
ついには全員貰われていき……無力感に涙を流し、崩れ落ちるカリーナ。
そんな彼女も、ステラの最後のゲームの景品としてもらわれていった。勝負に全勝して、景品の総取りをやってのけたステラに対し、その強運を賞賛し、観客達は惜しみのない拍手を送った。
……で、ふたを開けてみたら、奴隷としてひどい扱いが待っているとかは全然なくて。
むしろ、首輪を外されて解放してもらえることになり……あっけにとられるカリーナ達。
それに感謝はしたものの、カリーナを含めて、彼女達はどこかからさらわれて、あるいは売られて、あの裏カジノに連れてこられた者達。
独力で帰ることなんてできはしないし、さすがにそこまで面倒見れない。
一部の子供たちは、海軍に引き渡して親元に返せたそうだけど、それができない子もいた。
例えば、親がすでに死んでいる子供達。海賊に襲われてとか、戦争でとか、理由は色々。
例えば、その親に売られた子供達。返しても不幸なことになるだけ。また売られる未来が目に見えている。
例えば、世界政府非加盟国からさらわれてきた子供達。非加盟国の国民には『人権』がない。海軍は何もしてくれない。
そういう子は、ステラが個人的に投資している孤児院とかに入れたり、希望する子は『グラン・テゾーロ』の下働きとして雇ったりしたそうだ。
一度首を突っ込んだんだから、できる限り最後まで面倒を見る、っていう、ステラの判断で。
そしてカリーナは……その恩返しのためにってことで、『グラン・テゾーロ』に乗ったらしい。
今でも、子供たちの一部……下働きとしてこの船に乗っている子達と、時々話して元気づけたりしてあげているそうだ。
なるほど、それなら……まあ、大丈夫そうではあるか。
身を挺して見ず知らずの子供を守り、その将来を思って涙を流せるような娘なら……恩を仇で返すようなこともない、と思いたい。
それに、テゾーロやステラの人を見る目って、何だかんだで確かだからね。大丈夫だと思うことにしよう。
「まあ、万が一何か不安なことがあったら言ってね。また私が『読んで』あげるから」
「ああ、その時は頼むよ。スゥの
「ちょっと見た目怖いけどね」
☆☆☆
その後私達は、せっかくなので、カジノで遊んだり、メインステージとは別なショーや、歌姫のステージを見たりして楽しみ……のどが乾いたら、カウンターに待機しているバーテンから飲み物をもらったりして、思う存分『グラン・テゾーロ』の夜を満喫した。
マリーとソニアは、きちんと手持ちのお金の範囲で遊んでいた。ソニアは結構勝ってたみたいだけど、マリーは負けちゃったみたい。ちょっと残念そうにしてた。
それでも、過度にのめりこまずにきちんと受け入れて『今日はここまで』って打ち切れるのは、うん、偉い。
それができないと、沼にはまっていくからね。
ハンコックは結構な大勝ちしてたな。
運もそうだけど……彼女の美しさに見惚れて、ディーラーの注意力が散漫というか、手元がアレな感じになってたのが原因では……。ま、まあ、魅力は立派な女の、というか彼女の武器だしな。
私はカジノ、というかギャンブルはあんまり興味はないので、人のを見てるだけ。
他人のギャンブルの結果、悲喜こもごもを見てれば十分楽しめる。
影響がない範囲から、賭けに勝って飛び上がらんばかりに喜ぶ人を見たり、大勝負に負けて、糸が切れた人形みたいに崩れ落ちる人を見てるのは……割と楽しい。
『安全である』という愉悦……! いや、ちょっと違うか?
ちなみに、ここもそうなんだけど……カジノとか賭博場って、一攫千金を夢見る場所、みたいに言われて人が集まってくるけどさ、実際には確実に、経営者側が儲かるようになってるらしいね。当たる確率とか調整したり、決してイカサマじゃない形で色々仕掛けがあって。
日本のパチンコも、20人に1人が勝てるくらいのシステムだって聞いたことある。
けど、たまに豪運で勝ち進む客がいたりして……その時は、カジノが雇っている凄腕のディーラーが出て賭け金を回収したりするそうだ。
この『グラン・テゾーロ』でその役目を担ってる1人が、バカラである。
彼女は、運気を操る『ラキラキの実』の能力者で、手で触れた他人から運を吸い取ってラッキーになり、吸われた相手はアンラッキーになるという、凄まじい能力の持ち主なのだ。
これを使って、部下達からちょっとずつ運を吸い取って超絶ラッキー状態になり、イカサマも何もなしで客にボロ勝ちする、という手口。
なお、運を提供……献血ならぬ『献運』に協力した部下達には、後日ボーナスが出る。
1人1人から吸い取る運も、大して日常生活に影響がないレベルに抑えているそうなので、問題ない。むしろボーナス目当てに吸われに来る部下も多いそうだ。
そして、滅多にあることじゃないが、そのバカラでも勝てない場合なんかだと、ステラが出る。
賭け事において、彼女はバカラ以上に強い。
というか、ほぼほぼ無敗と言っていい豪運の持ち主であり……たとえ相手がイカサマをしていたとしても、それ以上の引きで勝利をかっさらっていく。
彼女が参加すると、もはやそれは勝負として成立しなくなるとすら言われる。
さっきのカリーナの話の中でも、ステラが連戦連勝でカリーナと子供達を全員救出したって話だったでしょ? あれ、ステラが出れば確実に勝てるとわかってたからこそなんだよね。
これには、バカラの『ラキラキの実』同様、悪魔の実の能力が関係している。
いつの間にか彼女が食べていて、それを聞かされた時、驚くことになったって、少し前に説明した、あれが。
それが、ステラが食べた悪魔の実の名前だ。
まさかの神様。海軍のセンゴク元帥の『モデル:大仏』と同じ、神仏系。
その名に恥じない超絶チートな能力を持っている。
『
商売とか賭け事とか、そういう『お金を呼び込む』ことにおける運気がチート級なのだそうだ。
そのチート具合は、今言った通り、バカラの『ラキラキの実』の能力をもってしても勝てないほど。
スロットマシンをやればジャックポットを確実に引き当てるレベルの運気を持ってして挑んでも、ステラの『神の運』の前には膝をつく。
以前一度だけその勝負を見せてもらったことがあるんだけど……それまで連戦連勝だったバカラが、ステラが相手になった途端に10連敗してorzになってしまっていた。
無敵具合があまりにもあからさますぎて、背筋が寒くなったくらいだ。
『えっと……ごめんね』って、ちょっと気まずそうに謝るステラの苦笑が、逆に怖かった。
ただこの能力、いついかなる時でも発揮されるわけではない。
今言った通り、『お金』関連のことでのみ発揮される。そういう意味では、戦闘だろうが何だろうがラッキーを呼び込むバカラとは違って、汎用性に難があると言えるかもしれない。
そしてもう1つ。この能力は、悪いことのために金を稼ごうとすると発動しないらしい。
他人を幸せにするために動こうとすればチート級。しかし、他人を不幸にしようとすれば、力は発揮されない……神仏だから、使う人間の『徳』が絡んでるとかそういう感じか?
邪な目的で運気を操ろうとするような輩には使えないものなのかも。
テゾーロと一緒に幸せになりたい、仲のいい人達を幸せにしたい、そんな風に純粋に思うステラだからこそ、十全に『弁財天』の力を使えた、ってことなのかな?
……けど、ギャンブルにはその権能がきっちり発揮されるのは何でだろ? 思いっきり相手から金を巻き上げてるわけだけど。
もともとお金のやり取りが発生する『賭け事』だから、それはもう自己責任、とかいう判定基準なのかな?
……悪魔の実の能力って、相変わらずアバウトというか……よくわからん。
まあ、ステラが幸せそうだし、別に何も問題はないか。
ちなみに、今日見ていた限りでは、ステラはもちろんバカラの出番も来なかったようだ。
勝者の雄叫びと敗者の悲鳴、それを見物するギャラリーたちの歓声や笑い声が響く中、カジノの夜は更けていった。
ステラにはオリジナルの悪魔の実を食べてもらいました。
テゾーロのそばにいるのにぴったりのチョイス……だといいなあ。
そのあたりのストーリーや、カリーナのストーリーも、気が向けば書くかもです。