大文豪に私はなる!   作:破戒僧

65 / 306
第65話 スゥinスイートルーム

 

 

 世界最高峰の評価を誇る8つ星ホテル『ザ・レオーロ』。

 黄金の巨艦『グラン・テゾーロ』の中心にそびえたつ、ひときわ目立つ黄金の塔。この船で最高の宿泊施設であると同時に、この船のオーナーであるテゾーロの居城でもある。

 

 VIPエリアの中のさらに中心にあるそこは、衣食住、その他サービスなどの全てにおいて最高品質のものがそろえられた、まさに『世界最高峰』の名に恥じない空間。

 天竜人すら唸らせる、まさに世界中の富裕層や特権階級達にとってあこがれのホテルである。

 

 当然お値段も世界最高峰。一泊数百万ベリー、部屋によっては数千万ベリーとかになり、さらに一見さんお断りの会員専用の部屋なんかもあるという。そういう部屋はさらに高い。

 値段の桁がぶっ壊れてるんじゃないかという設定だけど、金持ちの間では、ここに泊まることがある種のステータスになってる空気すらあるらしく……さすがに満員はそうそうないが、宿泊客は途切れることはないらしい。

 

 そしてこのホテルの中には、天竜人専用の『ハイパースイート』なるエリアがある。

 『下々民(しもじみん)』とは同じ生活空間にいることが我慢できない、同じ空気を吸うことすらしたくないという性質である彼らのための、よく言えば聖域、悪く言えば隔離空間。彼らの趣味に合うような無駄に荘厳なつくりになっていて、当然、お値段設定もさらにバカ高い。

 もっとも、世界貴族様方は何の躊躇もなく支払っていく上に、さらに贅沢して金を落としていくそうなんだが。

 

 そんな『ハイパースイート』こそが、このホテルの最高ランクの部屋だとされている。

 ……そうでなければ天竜人が『わちし達よりいい部屋に泊まる奴がいるなんて生意気だえ!』とか言い出すのは火を見るよりも明らかなので、当然ではあるが。

 

 ……が、それは実は表向きの話で……実際には違ったりする。

 『トゥルースイート』という名の、テゾーロが認めたVIPしか利用できないエリアがある。

 

 何を隠そう、今、私がいるこの部屋も、その1つだ。

 

 というかこの部屋、半ばというかほぼ完全に私専用の部屋なんだよね。泊まってるんじゃなく、家として使わせてもらってるもの。

 テゾーロもぜひそうしてくれって言ってくれてるので、『偉大なる航路』における私の本拠地の一つとして使わせてもらってる。

 

 さっきも言った通り、各種サービスは最高品質。ベッドはふかふかで、食事もおいしい。

 

 普通に過ごすのももちろんいいけど、執筆の時に缶詰めになって作品を書く作業場としても最高の環境だ。

 扱いがホテルの部屋だから、掃除に洗濯、その他色々、面倒なあれこれは全部スタッフがやってくれるのがホントに楽。ルームサービスで食事も部屋まで持ってきてもらえるし。

 

 希望すれば、常駐のメイドさんや執事なんかも配置できるらしいけど、そこまではいいや。

 部屋の中に常に他人を置いとくのって……それが友達とかならともかく、あんまり落ち着かなくなりそうで。

 用があるなら呼び鈴で呼べば秒でスタッフ来るし。それで十分。

 

 なので、私の部屋に入ってくるスタッフというのは、その場その場で用があってくる、あるいは呼ぶ人を除けば……『彼女』くらいである。

 

 朝、リビングで今日の朝刊を読みながらくつろいでると、こんこん、とノックの音がした。

 しかし、ドアの方からじゃなく、お風呂場と洗面台の方からそれが聞こえてきたのに気づいた私は、誰がやってきたのかをすぐに察した。

 

「どーぞ、ハニー。いいよ、入ってきて」

 

『はーい。失礼しますわ、お嬢様』

 

 洗面台のすぐ横に備え付けられた、少し大きめの金属製のパイプ。

 声が聞こえた次の瞬間、パイプの中から薄紫色の液体が流れ出てあふれて来て……お風呂場の床にばしゃりと零れ落ちる。

 しかしそれが広がって水たまりになるなんてことはなく……数秒後にはあふれ出た液体が人の形になり……見慣れたハニーの姿になった。

 

 彼女は自然(ロギア)系『トロトロの実』の液体人間。体を蜜のような液体に変えることができ、その性質を利用して、狭い所も素早く移動できる。

 仕事の時なんか、彼女専用の通路となっているパイプを通って、このグラン・テゾーロのあちこちに駆けつけることもできる。今みたいに。

 

「おはよう、スゥお嬢様。今日のスケジュールの確認しに来たんだけど、よろしかったかしら?」

 

「いいよー、一息ついてたとこだし。でも、今日って何かあったっけ?」

 

 私、昨日この船に到着したとこで……ぶっちゃけ何も予定とか入れてなかったと思うんだけど。

 

「ええ、予定として定まってるわけじゃないんだけど……本日、あるいは近日中にお会いしたい、あるいは電伝虫でいいのでお話ししたい、っていう申し出が何件か」

 

「誰から? 私に直接話を持ってこないってことは、テゾーロとかハンコックじゃないよね?」

 

 いつも通りの口調の私に対して、ハニーもある程度砕けた口調で返してくれる。

 お仕事モードの時とか、他に人の目がある時はきちんと敬語なんだけど(コンシェルジュとして私に同行するときは大体そう)、2人きりとか普通に親しい人しかいない時は、割と砕け気味の口調で話してくれる。

 

 その方が私的にも、気が楽でいい。

 

「ええ、『海賊文豪』としてのお仕事先よ。ちなみに、うち1件がモルガンズ」

 

 私の『海賊文豪』として、つまりは作家としてやっている仕事は、この数年でさらに増えた。

 

 以前はモルガンズが社長(出世したなー)を務める、『世界経済新聞社』の系列の出版社での仕事くらいだったんだけど、今ではそのほかの出版社からも色々オファーが来る。

 こんな話を書いてくれとか、この雑誌に連載を、あるいはコラムを書いてくれとか、色々。

 

 その時、海賊である私に直接オファーをしたり、金銭のやり取りをしたりすると、場合によっては海軍とかに睨まれかねないので、間にいくつか段階をはさんでくることが多いのだ。

 具体的には、私が表向きに外部との交渉役に設置している、この『グラン・テゾーロ』のオフィスを介したり、とか。

 

 モルガンズは割と怖いものなしで、普通に直接私と会ってやり取りしたりすることも多いけど、1つの会社を背負う身だけあり、あれでも割といろいろ細々としたことには気を配ってる。

 なので、彼もこのラインを使うことは結構ある。今回はそれのようだ。

 

 なお当然だが、このラインで仕事を持ち掛けられたとして、全部にうんと答えるわけではない。

 

 もう何度か言ったと思うけど、私は自分が書きたいと思ったものしか書けないし、やりたいと思った仕事しかできないからね。

 そういう意味で『ご縁がなかった』相手には、きちんと丁重にお断りしている。

 

 仕事が忙しくなるのは嬉しい。受ける受けないはともかく、それだけの人が私に期待してくれて、私の書いた物語を読んだり、()()()してくれてるってことだから。

 

 ……とはいえ最近は、ますます件数増えたよなあ。割と選んで弾かなきゃいけないくらいに。

 

「モルガンズのは、既に話が通ってるアレだからいいとして……新規の依頼で、お嬢様が嫌いそうなのは先に弾いといたわ。残ったのは6件……内4件が『脚本』の依頼ね」

 

「あー……そっちも増えたな」

 

 そうだ。それもだ。

 『作家』として求められるのは、物語とかコラムくらいがせいぜいだったんだけど、最近は……舞台やらミュージカルの『脚本』を書いてくれって言われることも多くなった。

 

 一回依頼を受けて、試しにやってみたんだけど、結構面白くて……しかも、それを使って上演されたのが好評だったから、また次も、ってなって。

 そんで、その噂を聞いた他の劇場とか劇団からもオファーが来て……って感じで。

 

 一番人気の『君の名前は、』に始まり、『レンとリリコの神隠し』や『天空の城ラピュタ』。

 

 子供向けやファミリー向けだと、『おとなりのトトロ』や、『おおかみこどものレインとスノウ』なんかも人気だって聞いた。

 

 後、ここ数年で何作か、小説として発表していて、半ばシリーズ化している『マスクドライダー』シリーズの舞台版も。

 いや、これは『脚本』っていうよりは……『原作』か? 私の立ち位置は。

 

 あとは……ちょっとした理由で危険だから、名前を出せない作品もいくつか。

 例としては、サバンナを舞台にライオンが出てくるやつとか。……これ以上は許して。

 

 なお、実はこの『グラン・テゾーロ』の劇場で上演されてる演目の一部も私の脚本だ。

 ここでは客層が客層だから、さすがに子供向け演目はほとんどないけどね。

 

「まあそれは後で検討するとして……済ませるなら事前に話の通ってるモルガンズの件からかな。もう渡すもんはできてるし」

 

「3徹して書き上げたものね」

 

 ちょっぴり呆れたような視線と共にそんなことを言ってくるハニー。

 仕方ないじゃん。私の場合、火がついてる時にぶっ続けで思いっきり書くのが一番いい作品ができるんだよ。

 

 ちなみに今回モルガンズに渡すのは、私には珍しく『こんな話を書いて』ってある程度テーマを指定されたタイプの仕事である。

 といっても、とある物語のスピンオフ版を、っていう程度の指定だけどね。

 

 その物語っていうのが、『海の戦士ソラ』。

 『世界経済新聞』に連載されている絵物語で、海の上を歩ける主人公のヒーロー『ソラ』が、相棒のカモメと巨大合体ロボを従えて、悪の軍団『ジェルマ66』と戦う勧善懲悪もの。

 

 ただ見方によっては、海軍や政府にとって都合のいい正義のヒーロー像を作り上げて浸透させるためのプロパガンダ教材としても機能しているとかなんとか。

 ストーリーは世界政府や海軍の英雄達の実話がもとになってるそうだし……カモメって海軍の旗のモチーフだもんね。言われてみれば。

 

 そんな作品のスピンオフ――しかも劇場化とか絵物語化も最初から視野に入れてくれ、とか注文来た――ってことで頑張らせてもらった結果、関係各所と調整の上、こんな話になりました。

 

 

 

 タイトルは『海の戦士ソラ 紫毒姫の涙』。

 

 毎回毎回ソラに成敗されるジェルマ66。

 実は彼らには、まだ戦いに投入したことのない秘密兵器と呼べるメンバーがいた。

 

 その名は『ヴェノムパープル』。

 『ポイズンピンク』と同じ毒使いの、まだ10歳の小さな少女。

 

 しかしその力は『ポイズンピンク』よりもはるかに強力。あまりにも強過ぎるその毒は、制御を誤れば島1つを簡単に滅ぼしてしまうと言われるほどだ。

 

 まだ小さく幼い少女であること、そして能力を制御できずに味方すら巻き添えにしてしまうことを理由に、彼女が戦いに投入されたことはまだ一度もない。だがもう少し成長して力を制御できるようになれば、その力は必ずジェルマを世界の覇者にしてくれると期待されていた。

 

 しかし、ヴェノムパープルは本当は心優しい少女であり、人々を苦しめる悪いジェルマはきらいだった。彼らのために力を使いたくなんかなかった。平和に、皆と仲良くくらしたかった。

 

 だが、彼女の力は……その毒は、強力過ぎる。

 彼女が花に触れれば、花は枯れて、崩れて散った。

 彼女が子猫を抱きしめれば、子猫はたちまち弱って動かなくなった。

 彼女が人に触れれば、その人は苦しむことになった。

 

 彼女に優しくした者も、彼女を助けようとした者も、皆、傷つけて不幸にしてしまった。

 

 彼女が一緒にいられるのは、毒が効かないポイズンピンクと、彼女を利用しようとするジェルマだけなのだ。

 悲しくて、寂しくて流す、その涙すら、ひとしずくで簡単に人の命を奪ってしまうのだから。

 

 

「私は……幸せになっちゃいけないの? 生まれてきちゃ、いけなかったの?」

 

「そんなことない! 君に平和を愛する心があるなら、僕が絶対に君を救ってみせる!」

 

 

 世界に恐れられ、正義に嫌われ、悪に愛され……自分自身の力に、平和と未来を奪われた少女。

 

 悪として生まれながら正義と平和を愛し、闇の中で涙を流し助けを求める、紫色の猛毒の姫。

 

 

「だめ……私に近づいたら、あなたも不幸になっちゃう」

 

「大丈夫! ヒーローは……負けない!」

 

 

 海の戦士と彼女が出会う時、世界を変える何かが起こる。

 

 その毒は、全てを救うヒーローすら不幸にしてしまうのか。

 ソラは、心優しい毒の姫を救うことができるのか。悲しい毒の涙を止めることができるのか。

 

 正義と愛が起こす奇跡を、あなたは目撃する……!

 

 

 

 ……っと、ちょっと感情入れて語っちゃったけど、まあこんな感じです。正直、自信作。

 読者の皆、楽しんでくれるといいな。

 

「その用事を済ませた後は……まあしばらくはここに滞在するとして、その後はまたどっかに取材に行きたいな。ねえ、最近のグランドラインで、何か面白そうなところとかあった?」

 

「取材のおすすめスポットね、ええと……ちょっと待ってて」

 

 バインダーに挟んである色々な資料をぺらぺらとめくって調べるハニー。

 

 ……今更だけど、彼女ほとんど私専属だし、コンシェルジュっていうより秘書だよね。冒険にもついてきてくれるし。

 

 『ハニークイーン』だった頃と違って、過度なメイクや無駄に派手な衣装やら何やらはなく、今の彼女は割と清楚系?な見た目である。素材がいいから、きちんとしたメイクでまとめればすごく輝くだろうと思った私の目は間違ってなかった。

 そんなことを、できるキャリアウーマン的に書類を彼女をめくる彼女を見ながら思う。

 

「最近だと……あ、こんなのどうかしら? 『前半の海』にある、『アラバスタ王国』についての話なんだけど」

 

「アラバスタ?」

 

「なんでも……ここ最近、首都『アルバーナ』以外で、全然雨が降らなくなっちゃったんだって。あそこは砂漠の国だから、元々雨が少ない気候だけど、こんなことは初めてだって話題になってるみたいよ」

 

 だから何があるってわけでもないんだけど、と付け足すハニー。

 

 しかしそれを聞いて私は、原作であった1つの事件を思い出していた。

 

 王下七武海の1人、サー・クロコダイルが社長を務める秘密犯罪結社『バロックワークス』。

 アラバスタ王国の乗っ取りを画策する彼らが、『ダンスパウダー』を使ってかの国を混乱に陥れたあの事件が……ついに動き出したんだな、と。

 

 その他にもいくつかハニーは『取材』の候補地を並べて、しかし付け足す形でこう言った。

 

「どこに行くにしても気を付けてね、スゥお嬢様。『新世界』の危険度は元々だけど、最近は『前半の海』で、いつも以上に賞金稼ぎとかの活動が活発みたいなの。ま、あなたが負けるとは思わないけど……行くなら行くで、私や他に護衛とか付き添いもちゃんと数人つけることを忘れないこと」

 

 賞金稼ぎ、か……それももしかしたら、バロックワークスの活動の一環が表面化して噂されてるのかもね。

 

 はいはい、と生返事を返しながら、手元の新聞に目を戻す。

 と、そのページをめくったと同時に、挟まれていたらしい手配書が落ちた。

 

 それを何の気なしに拾って見た私は……

 

「……どうかしたの、スゥお嬢様? その海賊が何か気になった?」

 

「え? あ、いや……何でもない」

 

 そう言って私は、挟まっていた手配書を無造作にテーブルに置いてしまう。

 しかしその瞬間、今一度私はその手配書を……そして、その中心にでかでかと乗っている写真を見ていた。

 

 

WANTED

ポートガス・D・エース

懸賞金 5000万ベリー

 

 

 肩書がまだ『スペード海賊団船長』で……懸賞金額も、前半の海の中堅どころ程度。

 それでも……ワンピース原作における超がつく有名キャラの活動、それを目にすることになった私の脳裏には……そろそろ、時代が大きく動き出す頃なんだな、という思いがよぎっていた。

 

 

 

 




★★どうでもいい裏話★★

『海の戦士ソラ』は、主人公の性格とか口調とか何も全然わからないので、適当に考えました。
イメージとしてはしいて言うなら、『ヒロアカ』のデクと壊理ちゃん、とかかも。
違和感あったらすいません。

あとついでに、スゥの原作知識はドレスローザ編までなので、『ジェルマ66』が実在する軍隊であることも、ヴィンスモーク家の三男が誰であるかも知りません。
普通に絵物語の中の設定として考えてました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。