前回の続き、『ねじ巻き島』編です。どうぞ。
『トランプ海賊団』と一戦交えた島から速やかに移動し、『ねじまき島』までやってきた。
そこで待っていたのは……まあ、予想通りではあるが、その『トランプ海賊団』の面々。
何十人って戦闘員達に加えて、幹部っぽいのもちらほらいるな。
「ほう……お前がハニークイーンが話していた娘でござるか」
「とても強そうには見えないでガス。ブージャック達が油断して、足でも滑らせたんじゃないでガスか?」
「そんなわけないぞな! ふん、スカンクワンもピンジョーカーも、疑うんなら信じなくていいぞな、さっさと突っ込んで痛い目にでもあってしまえばいいぞな!」
「違うでしょブージャック、痛い目見せるのはあっちの娘によ……!」
顔に傷のある道化師のような装束の剣士に、なんかもっさりしたスーツを着た痩せた男。
それに、こないだの島で戦った丸い巨漢と色っぽい金髪美女。あの後ここに戻ってたのね。
その他の雑兵というか、一般戦闘員達は……トランプそのものって感じの衣装を身にまとっている。……超絶動きづらそうなんだけど、アレでまともに戦えるんだろうか。
ここに来るまでに、一応『トランプ海賊団』とやらについては調べてみた。
幹部格は、首領である『ベアキング』とやらを含めて5人。全員が賞金首。
そして、うち4人がもうすでにそこにいる。ええと、順に……ピンジョーカー、スカンクワン、ブージャック、ハニークイーンね。……本名? コードネーム?
どうやら見張りか何かから報告が上がって、私がこの島にやってきたことが知れて……こないだの2人を返り討ちにした奴だってことで、幹部含めてこの大勢で迎撃に来たってことか。
一応、警戒はしてもらえてるわけね。……その上でなめてるようなセリフも聞こえたが。
「ふん、まあいい……ブージャックとハニークイーンが騒ぐゆえにこうして戦力を揃えたが、よく考えなくとも過剰な動員だ……鶏を割くに弓道を用いることなどない」
「それを言うなら『弓道』じゃなく『牛刀』でガス。とはいえ、ピンジョーカーの言う通りでガスね。これじゃただのリンチでガスよ……さっさと終わらせて帰るでガス」
ほらね。
ブージャックとハニークイーンの2人は、残り2人がやはり私のことを甘く見てる、と思ってる表情をしていたけど……それでも、これだけ戦力が揃っていれば、負けるとも思いはしなかったらしい。特に反論も何もなく、戦闘態勢に入った。
直後、ピンジョーカーの『やれ!』という掛け声とともに、一斉に攻撃が始まる。
トランプの兵隊たちが剣や銃を手に襲い掛かってくる。
ブージャックはトゲトゲの鎧を発動させて転がり、スカンクワンはもっさりスーツのお尻から……ガス? を出して飛び、
ハニークイーンは足の部分を液体に変えて私の背後に回り込み、ピンジョーカーは剣を抜きつつ……毒針っぽいものを懐から出して構えていた。
そして、それらの攻撃が一斉に私を狙って殺到し―――
――― ド ク ン
「……で、このザマか」
1秒後。
そこには……白目をむいて気絶しているトランプ海賊団の皆さんがいましたとさ。
雑兵だけじゃなく、幹部4人まで含めて全滅とか……よくもまあこの程度で調子に乗れたもんだ。
当初は、こないだみたいにきちんと肉弾戦なり番傘なりで相手してあげるつもりだったんだけど……なんかめんどくさくなっちゃったんだよね。
闘っても時間かかるだけで、あまりに実入りというか、得るものが何もない戦いになりそうだったから……やる気がなくなった。
それで、ちょっと
ふと見ると、遠くの方に……怯えながらこっちの様子をうかがってる、一般人と思しき人達がいた。
ああ、彼らが……圧政に苦しめられてるっていう、ねじまき島のみなさんかな?
これからトランプ海賊団による凄惨なリンチが始まるかと思った矢先に、何が起こったかもわからないままに海賊達が全員気絶したから、あっけにとられてる……ってとこか。
さて……悪いけど説明とかは後回しにさせてもらおう。
さっさと頭も潰すとするか。ベアキングとか言ったっけ……確か、この島の一番高いところにある居城に住んでるんだよね。あのバカでかいネジの上か。
よし、行くか。
で、まあ、こうなると。
「ぐぉお……ば、バカな、俺のカチカチの肉体が……こんな小娘に……!?」
私の目の前には、熊の被り物っぽい王冠?を頭に付けた巨漢が、ボロボロの状態で倒れ伏していた。
言うまでもなく、トランプ海賊団の頭目『ベアキング』その人である。
……もう倒したけど。
いやまあ、懸賞金額1000万ベリーちょいの奴に苦戦する方が難しかったとしか。
体が鋼鉄になる『カチカチの実』の能力者らしいが、鉄レベルに硬い体を持ってる奴なんて、別に珍しくもない。
『動物系』の能力者だって鍛えれば鋼並みに頑丈な肉体になるし、海軍とかサイファーポールは『鉄塊』使って能力もなしに鉄の硬度になるし。
鉄の硬度を保ったまま動けるっていう点では、攻防一体の有能な能力なのかもしれないけど……ぶっちゃけ鋼鉄程度の防御力で無敵になったと思ってる時点で論外だ。
鉄が斬れる奴とか、殴って鋼鉄を砕いたり凹ます奴とか、『偉大なる航路』……特に『新世界』では割とそのへんにいる。覇気使いならなおさら。
ただ1つ、腕を赤熱させて殴りかかってきたのはちょっとびっくりしたけどね。
私、熱とか炎は弱点だから。
まあ、よけりゃいいだけの話で、そのあと一方的にボコボコにしたわけだけど。
そんで……戦ってる最中に気づいたんだけど、そこにある奴が『ダイヤモンドクロック』か……世界一高価なからくり時計。
なるほど、見た目も荘厳な感じで、使われてるダイヤモンドも大きくてきれいだ。からくりアイテムとしての精度も高いんだろうな。
……ただ、文字盤ちょっと読みにくそうだけど。普段使いには向かない、かな。
しばし眺めて楽しんだ後、ベアキングを拘束して、エレベーターでふもとの村に戻った。
そこからは後始末。
村の皆さんに事情を説明して、後のことをお願いするだけだけど。
一身上の都合によりトランプ海賊団を壊滅させたので、海軍を呼んでここに来てもらって、こいつら逮捕してもらってね、と。
あまりにも突然の解放に驚いてたけど、すぐに皆、喜んで抱き合ったり涙を流したりしていた。
それに加えて、トランプ海賊団の財宝は、私別にいらないので全部置いてくから、好きに使ってくださいと伝えたところ、めっちゃ感謝された。
お礼として、村というか島の名産である様々なからくりアイテムをもらった。
あと、さすがに有料にはなるけど、依頼があればお望みのアイテムも作るので気軽に相談してください、とも言われた。
技術力はかなり高そうな島なので、いいパイプができたかもしんない。
その後は、海軍が来る前に島を脱出。
いやあ、変な連中に喧嘩売られたり色々あったけど、色々面白いものを見れたり、もらえたりしたし……概ね満足のいく結果になったかな。
☆☆☆
そして、そのさらに数か月後のこと。
私はちょっと用事があって、一時的に『偉大なる航路』に戻ってきていた。
その時に立ち寄った島に、なんというか……変わり果てた姿のハニークイーンがいた。
暇つぶしも兼ねて川で魚釣りして、取れた魚を焼いて食べようとしてた時に、物陰から視線を感じてさ。
てっきり、魚を狙ってる動物か、あるいは盗み食い目当ての泥棒かな、と思って確かめてみたら……どこかで見覚えのある金髪美女だった。
ただし、豪華な服の代わりにぼろ布みたいな粗末な服……というか、最早服の形をしてない布そのものってかんじだったそれを着て、髪の毛もぼさぼさでセットどころか満足に散髪や洗髪もできてない感じ。当然お化粧もなくてすっぴん。お風呂も入ってなくて汚れだらけという有様。
ぶっちゃけ、ハニークイーンだと気づけたのが奇跡と言えるくらいに変わってしまっていた。
あまりの変わりように私があっけにとられてる間に、向こうも私が、あの時『トランプ海賊団』を全滅させた相手で……さらに言えば自分が喧嘩を売った相手だとわかって、腰を抜かしていた。
そしてそのまま実にスムーズに命乞いにシフト。何でもしますから助けてください殺さないでくださいお願いしますどうか許してください見逃してください(以下略)。
まあその時はもう別に私、怒りも何もしてなかったし――ぶっちゃけほとんど忘れかけてたってのが正直なところである――とりあえず話を聞いてみたところ、まあ色々と苦労したみたい。
なお、めっちゃお腹減ってるみたいだったので、魚は1匹あげた。
涙を流しながら、はぐはぐと魚にかぶりついて食べながら、事情を話してくれた。
彼女がこの『偉大なる航路』にいたのは、海軍の監獄船で護送される途中に脱獄したから。補給のために港に立ち寄った時にどうにか脱出したんだって。
けれど、助かったと思ったのもつかの間。
そこは『偉大なる航路』。4つの海とはレベルが違う連中がゴロゴロしている魔境である。
そこから彼女は、生きた心地がしない日々を送っていたそうだ。
海賊や人攫いに襲われそうになり、命からがら逃げまわる日々。
捕まったら終わり。殺されるか、嬲られるか……あるいは、売り飛ばされて奴隷にされるか。
賞金稼ぎにも狙われたそうだ。780万ベリー(某山賊より下だな)程度とはいえ、彼女も賞金首だから。
そして襲ってくるのは、これも4つの海とはレベルの違う、『偉大なる航路』の賞金稼ぎ。2000万とか3000万の首を普通に狩る奴らもゴロゴロしてる。
あとは当然だけど、海軍も狙ってくる。
そりゃあね、海賊だからね。捕まえようとするし、それがだめなら殺そうとするよね。
どいつもこいつも、ハニークイーン程度の戦闘能力じゃ話にもならないレベルの強者達ばかりで……『東の海』でイキってた頃の自信は完全に喪失。
人目を避けるようにして必死に逃げ回り続けたそうだ。
幸いだったのは、彼女が『
『偉大なる航路』とはいえ、前半の海であれば、覇気使いはほとんどいないし、海楼石製の武器なんて持ってる奴もいない。
後者は特に、そんなの『新世界』クラスのさらにごく一部だ。貴重なうえに加工が難しいからねアレ。
なので、ほとんどの攻撃を受け流して無効化できる『自然系』は、前半の海ではほぼ無双できるくらいの存在なわけだ。
……そのままのテンションで『新世界』に行くと、野生の覇気使いに出会ってすぐ死ぬけど。
誰が言ったんだったかな。『自分を不死身と勘違いした『自然系』は寿命が短い』って。
その『自然系』の特性のおかげでハニークイーンは生き残れていたわけだけど……彼女の場合、その能力も全然使いこなせてなかったからなあ。
本来、『自然系』の能力者は、服もふくめて全身を変化させられるはずなのに、彼女は体だけ液体に変わって、服はブージャックに運ばせてた。
あれってそういう仕様の能力なのかと思ってたんだけど、単に錬度不足だったみたい。
そのおかげで、逃亡生活の最中、どうにか服を調達しても、賞金稼ぎや海賊に斬られ、撃たれ、燃やされ、潰され……体は液体になって回避できても、服が毎度おじゃんになって。
結果、今こうして着てるのは、その残骸と言うしかないぼろ布ってわけ。
宝の持ち腐れ、この上ないな……せっかくレアな『自然系』なのに。
聞いてるうちに何か可哀そうになっちゃったので、私が利用してる宿に案内してあげて、ご飯とお風呂、それに一晩の宿を貸してあげた。
比喩表現抜きに泣くほど感謝された。大の大人が涙も鼻水もぽたぽたたらして……いやでも、ホントに必死だったみたいだからな、笑いはすまい。
でもその後、調子に乗って……ってわけじゃないな、単にチャンスに必死にしがみつこうとしたんだろう。『いかないで、置いてかないで』って引き留められた。
このまま私と別れたら、自分だけじゃまた放浪生活に逆戻りだからって。
何でもするから助けてくださいって、土下座して懇願された。
しかも、その話をしたのがお風呂場だったので、必然的に全裸土下座である。
男の人だったらよだれを流して喜びそうな光景だったけど、女の私からすれば普通に痛々しい。いろんな意味で。
しかし、放浪生活中にプライドとかそのへんに捨てて来たらしい彼女には、女同士だからって点を差し引いても、恥じる様子は微塵もなし。
代わりに、生きるためなら何だってする、と言わんばかりの、ある種の気迫が感じられたくらいだ。……コレ、成長といえば成長……なのかな。
結論から言えば、私は彼女を助けた。
中途半端に助けてその後は放置ってのもアレだったし……彼女、見た目はいいからね。働き口の斡旋くらいならできるかな、と思って。
で、試しにテゾーロに相談したら、雇ってくれるっていうので、そこに任せた。
名前を『ハニー』に改め、グラン・テゾーロの下働き職員として再スタートを切った彼女は、命の危険がない上に衣食住保証されている職場で、生まれ変わったつもりで一念発起。
職業訓練、戦闘訓練、その他いろいろな勉強に必死で打ち込み、この『偉大なる航路』で生きていくための力を、技を、知識を、貪欲に身につけていった。
それに加えて、悪魔の実の能力の訓練も本格的に行っていき……みるみるうちにその実力を確かなものにしていった。
すぐにきちんと服も液体にできるようになり、さらには液体の体を操っての様々な技も使えるようになった。
時々私も彼女の戦闘訓練の相手するんだけど、今の彼女なら……だいたい4000万ベリーくらいの実力はあるんじゃないかな。
いやあ、やればできるもんだ。人間の可能性ってすごいね。
とまあ、ハニーと私の出会いからここにいたるまではそんな感じである。
今では立派に『グラン・テゾーロ』の上級コンシェルジュを務めるまでに出世した。
メイクとか服装も、あの頃よりも清楚かつセクシーで、全体的に上品な感じに仕上がってるし……個人的には今の彼女の方が魅力的だと思ってたりします。
バリバリ仕事に精を出して働いてる姿も、割とかっこいいしね。
「? お嬢様、どうしたの? そんなにこっち見て」
「ううん、何でもない。さ、ハニー、今日のスケジュール教えて」
「……? まあいいか。ええ、了解。今日は10時から……」
今後もこんな感じで、『そういえば以前こんなことがありました』的な感じで、ちょいちょい過去話的なストーリーを入れていく予定です。
原作キャラ出てくるかもしれないし、特にそういうのはない雑談みたいなストーリーかもしれないです。その時その時で。
スゥがいったいいつどこで『覇王色』なんぞ身に着けたのか……それについても、今後どこかで『振り返って』書くつもりです。
今後ともよろしくお願いいたします。