冬島サバイバル生活 1日目
生存者内訳
男:7名
女:2名
オカマ:3名
ひとまず協力していくということで話はまとまった。
12名でそれぞれサバイバルするより、役割分担して各々の労力を減らして最適化した方が、互いに生き残る確率ってもんが上がるからね。
積極的にそれに賛同したのは、シェレとオカマさん達3人くらいで、残りは必要に迫られて……って感じだったけど、まあこの際仕方あるまい。
きちんと最低限、各々で仕事をやってくれるならそれで結構。多くは望むまい。
……それもできないようなら、相応の対処をさせてもらうことになるだろうが。
あるいは、勝手な行動で集団を危険にさらしたりとか、ね。
役割分担としては、この集団の中で、おそらくは戦闘能力トップ2であろう私とシェレが狩りを担当。
男性陣は、何かしらの雑事を担当。拠点の修繕とか、見張りとか、狩ってきた獣の解体とかね。
奴隷の彼以外は、それなりに戦闘もできるらしいけど……私たちほどじゃないみたいなので。
そして、残るオカマの皆さん。恐らく戦闘能力も高いけど、それ以上に料理などの家事スキルに自信があるらしいので、拠点で掃除や料理などを担当してくれるそうだ。
『花嫁修業』のたまもの、だそうだ。
それでさっそく、私とシェレは、吹雪がやや弱まったタイミングを見計らって外に出た。
適当にその辺に生えてる木を切り倒し、獣を狩る。
木は、冬島にしてはけっこう大きめなのが生えてるし、獣は運よく、のっしのっしと歩いている熊を見つけることができた。
木材の回収は私が。番傘の中に仕込んである剣を抜き出して切り倒す。
……普段は番傘のまま戦うから、この刃あんまり出番ないんだよね……久々に使ったな。
そして熊の方は、シェレが一撃で蹴り倒して仕留めていた。
その姿は、さっきまでの細身な姿ではなく……髪の毛と同じ、黒い羽毛が生えていた。足は鋼のように硬質な質感になり、つま先から鋭い鉤爪が伸びている。
「武器とか持ってないなとは思ってたけど……
「ああ。『トリトリの実 モデル:ヒクイドリ』だ。鳥だが飛行能力はない。代わりに、足には自信がある」
ヒクイドリって……たしか、ギネスブックに『世界一危険な鳥』として認定されてるやつ?
時速50㎞で走る脚力と鋭い爪を持ってて、人間なんか簡単に蹴り殺せちゃうっていう。体術が得意な武芸者には向いた能力かもね。
「そういうお前は『
「そだよ。『パサパサの実』の紙人間」
ある程度の大きさ――人が1人で抱えられるくらい――にスパスパ切り分けた木を、熊の死体と一緒に大きな紙に乗せて運ぶ。いつもながら便利だな、この『魔法の絨毯(紙)』。
私が能力を使いこなせるようになるにしたがって、運べる量、ないし重さも増えてきたし。
拠点に持ち帰ると、皆驚いていた。
出て行ってまだそんなに時間経ってもいないのに、2人ともあっさりと、しかも大物を仕留めて薪も大量に確保して戻ってきたからな。
しかし、食料……と、暖を取るための毛皮が大量に手に入ったのは素直に喜ばしいことなので、男性陣が協力して解体し、手に入った肉はオカマさん達が早速料理していく。
まあ、1頭まるごと全部は料理するには多すぎるので、いくらかは切り分けて保存するようだったけど。
冷蔵庫より気温低いから、生肉でも保存するのに困ることがないのは助かると言えば助かる。適当な空き部屋に、紙か何かに包んで置いておけばそれでいいから。
「さぁ皆できたわよ!
「熊肉入りスパイシーちゃんこ鍋! 冷え切った体もすぐ温まるわ! たくさん食べてねん♪」
「う、うおぉぉおおっ!? す、すげえ美味そう!」
「なんだこの、匂いも、見た目も、たまらねえ……い、いただきます!」
出来上がったオカマさん達の料理は……男性陣が驚愕している通り、見た目からしてものすごく美味しそうだった。
オカマさん達がもともと持っていたらしい調味料を使って味付けをしたらしいそれは、寒い冬島にはぴったりの鍋料理。
見た目も匂いも、ものすごく食欲をそそる出来栄えだ。スープ自体の透明度は高いけど、その分具材がよく見えた。
食べやすい大きさに切られ、硬くならないように下処理もされた熊肉が、トロトロになるまで煮込まれてちりばめられている。ついでに取ってきた山菜やキノコっぽいものも一緒だ。
さらにスープには、肉から染み出たのだろう背脂的なのが浮いていて、味が濃そう。けど疲れた体にはそれがまた、たまらなく美味しそうに見える。
コトコト煮込まれ、漂ってくる湯気の熱気が、寒さをやわらげ安心感を与えてくれる。
順番に食器によそって、皆に配るところまでオカマさん達がやってくれた。
なお、食器はさすがに人数分はなかったので、私がさくっと木を削って作りました。
うまい、うまい、と皆絶賛して食べていく。
もちろん私も。いや、ホントに美味しい……しかも、一口食べるごとに体がポカポカ温まってきて、力がみなぎってくる感じがする。
隣にいるシェレも驚きながらも、手が止まらないみたい。
そういえばさっき『
つまりこれ、原作でサンジが2年間修業して身に着けた『攻めの料理』か! うわ、思わぬところですごいもん食べちゃった。
ふと見ると、皆が鍋を食べている中で……1人だけ、壁際にうずくまったままでいる奴隷の男の子が、物欲しそうな目でこっちを、というか、鍋を食べる皆を見ていた。
こっち来て一緒に食べればいいのに、と思って……ふと気づく。
……そうか、奴隷って……主人と一緒に食事とかはさせてもらえないことが多いからな。身の程をわからせる的な意味で、区別されて。
あの子もそういう扱いだったのかも。自分はそれを食べられない、食べさせてもらえないんだろうなって、最初からあきらめていて……けど体はそれを求めている。見ていることしかできない。
そんな彼に、スープも具材もたっぷり入った器を持って、オカマさんの1人が近づいていく。
「さあどうぞ、あなたの分よ。熱いから火傷しないように、ゆっくり食べてね」
「え……? でも、僕は奴隷で……」
「いいのいいの、そんなこと気にしなくて。お腹がすいたら悲しいし苦しいのは人間誰でも一緒なんだから。そんな状態じゃ、体だけでなく心も冷え切ってしまうわ」
奴隷の子の小さな、冷え切って震えている手。
それをオカマさんは、自分の手で包み込むようにして温めながら……落とさないようにしっかりと器を持たせてあげていた。
「まずは食べて、あなたの心と体を大事にいたわってあげなさい。考えるのはその後よ」
奴隷の子は、自分の手の中にある器と、にっこりと笑うオカマさんの笑顔を交互に見る。
そして……自分で気づいているかどうかもわからないけど、ぽろぽろと涙を流し始めた。
オカマさんの優しい視線を受けながら、彼はしっかりと器とスプーンを持って、料理を食べ始めた。
スープを飲めば涙が流れ、肉を噛みしめれば体が震え、キノコと山菜を口に含めば嗚咽が漏れて鼻水を啜る音が響く。一口一口、味わって食べ進めていく。
気が付けば、涙を流しながらも彼は料理をかきこんで――
「こぉら」
「うぉわ!?」
突如横からどアップで視界に移りこんできた、別なオカマさんの顔に、驚いてのけぞってしまう私。
なんとか手に持っていた料理はこぼさないように死守したけど、び、びっくりした……何!?
「よそ見してないでちゃんと味わって、集中して食べてちょうだ~い? せっかく作ったのに、お姉さん悲しいなぁ~?」
そう言いながら、ずいずいとこっちに身を寄せてくるオカマさん。
顔面が顔面なのでかなり圧がすごく、思わず後ずさりしてしまった。
けど……
「す、すいませ……」
「今は何も見ないで、何も言わないで、そっとしておいてあげなさい」
「……!」
小声でそんなことを言われて、はっとする。
このオカマさんが私の前に出てきた目的に気づいて。それは、食事の態度じゃなく……
「男の涙を見ないでおいてあげるのも、いい女の条件よん♪」
ウインクしながら、そう言ってくるオカマさん。
ふと見ると、奴隷の彼を見守っていた方のオカマさんも、『まだまだあるから、おかわりいっぱいしてね』と言い残して、その場を後にしていた。
……原作でも確か、『カマバッカ王国』のオカマさん達について語る時に……食事は逞しい肉体と優しい心を作る、って感じのことが言われてた気がする。
無論、食事だけが全てじゃないんだろうけど……その力の一端を垣間見た気分だ。
(料理も上手いし、男を立てることもできる……私なんかより女子力よっぽど上だな。これは『カマバッカ王国』が、第二の女ヶ島なんて呼ばれてるのも……あながちギャグじゃないんじゃない?)
食べてるものも温かい、目にした心も暖かい。
本当に、心も体も暖かくなった晩餐だった。
☆☆☆
サバイバル食とは思えないくらいに充実した食事を堪能した後。
もうやることないので、後は寝るだけなわけだが……当然、寝てる間も寒いわけで。
一応、部屋の中できちんと焚火し続けるけど、それだけで寒くなく寝られるほどに部屋が温まるかっていうと、それはさすがに否。
なので、きちんと防寒しっかりした上で寝ることになるわけだが……
「せっかくさっきの鍋で心も体も暖かくなったのに……」
「言ってやるな、予想できたことだ」
私とシェレが呆れた視線を送る先で、海賊達と冒険家達が、熊の毛皮を奪い合っていた。少しでも寒くないようにして眠るために。
大きいとはいえ、さすがに熊1頭分じゃあ、全員分の毛皮は確保できなかったんだよね。形的に切り分けるのが難しかったりもしたし。せいぜい3人分くらいにしかならなかった。
それを奪い合ってるわけだ。
なお、奴隷の彼は最初からはじき出される感じで争いにも加われず、オカマさん達は『私達はいいから皆で使って』って自分達から辞退した。ええ人や……。
最終的に、苛立った海賊達が武力をちらつかせ始めたあたりで、さすがに怖くなったらしい冒険家3人が諦めた。
ニヤニヤと得意げに笑う海賊達を、悔しそうな目で見ながら、こっちに歩いてやってくる。
そんなに絶望的な顔しなさんな、ちゃんと毛皮の代わりになるもの、用意してあるから。
「? 毛皮の代わり……とは?」
シェレの問いに、私は言葉の代わりに実演して見せる。
『パサパサの実』の能力で体から紙を出し、それを重ねてくみ上げて……
「“
あれよあれよという間に、紙製の寝具一式が出来上がった。
紙製だからと侮るなかれ。知ってる人は知ってると思うけど、段ボールベッドってかなり頑丈な上に、上にも段ボールを布団代わりに敷けば結構暖かいんだよ。
組み立ても簡単だし、運びやすいし、災害対策グッズとしても注目されてるんだから。
しかし、同じ『紙』とはいえ、『段ボール』も作れるようになるとは……『パサパサの実』、やっぱ便利でいいな、この能力。
……紙ではあるものの、全然『パサパサ』って感じはしないけど……まあそれはいいでしょ。
このベッドを、海賊3人も合わせた全員分作る。
布団は、海賊3人以外の9人分作る。
これに焚火の暖かさを組み合わせれば、なんとか、最低限寒さをしのいで寝れるはずだ。
見張りも兼ねて焚火には番を交代で置いて、絶やさないようにするから、凍死はすまい。
……あ、でも焚火の火が引火しないようにだけ注意ね。燃えます。
そして、事前に時間を区切って見張りの順番を決めたうえで、その日は終了。
各自、思い思いの場所に段ボールベッドを置いて、就寝。
翌朝、きちんと誰一人欠けずに目覚めることができた。
ちなみに、毛皮を奪い取った海賊達3人についてだが……翌朝、気分は最悪だったみたい。
まあ、毛皮って適切な処理をして、乾燥とか加工とかして時間も置かないと、獣臭とか血の匂いとか残ってて、とても寝具になんかできたもんじゃないんだよねえ……。
そんなのに全身包まれて寝たら……多分だけど、服や体にも匂い、ついちゃったんじゃないかな? あーあ、ご愁傷さまだ。