海賊の襲撃にさらされている町で……私は、2人の海賊を相手に戦っている。
さっきまでここにいた、子連れの女の人を町の外に逃がすために……この2人の足止めをしているのだ。もちろん、できるようならそのまま討ち取ってしまうつもりで戦っているけど。
最初こそ海賊2人は、バカで無謀な子供を相手にするような態度でいたけど、こちらがためらいなく真剣で襲い掛かったのに加えて、そのまま急所めがけて放たれた攻撃を危ういところでかわし、本気で私が殺す気で来ていると理解してからは……向こうも剣を抜いて応戦してきた。
油断してるうちに、1人くらい仕留めておきたかったんだけど……
「くそ、このガキ……生意気な!」
「大人しくしやがれ、さもねえとぶっ殺すぞ!」
2人がサーベルで繰り出してくる大振り攻撃をかわしながら、あるいは受け流すように剣でいなしながら、慎重に立ち回る。
さっき斬った1人は、私を子供だと思って甘く見て、油断してたからこそ、そこをついて一撃で仕留めることができた。
しかし、一度警戒されてしまうと、その守りを抜くのが難しい。
ましてや、2人同時に相手をするとなると……こちらが不意の反撃を受けないように注意して立ち回るというだけで精一杯だ。
(『九蛇』の皆よりは弱いし遅いけど、それでも十分力強いし、2人同時なのがきつい……それに、私だって早く逃げないと、海賊の仲間が……)
焦ってしまいそうになる心をどうにか理性で抑えつつ、落ち着いてよく見て、敵の剣の軌道を見切り……相手が剣を振りぬいた隙をついて斬りかかる。
それは、向こうがとっさに構えなおした剣で防がれてしまう。
刃と刃がぶつかり合い、ギィン! という耳障りな金属音が鳴った。
けど、防がれるのは想定内。素早く切り返して構えなおし……繰り出す技を『突き』に変える。
予想外の私の抵抗に驚き、けどそれがすぐに苛立ちに変わったらしい海賊は、剣を横に振り回して薙ぎ払う。
しかしそれを、私は身を小さくかがめてかわしながら、低い軌道でもう一度剣を振るう。
人間は、同じ目線や高い所からの攻撃に比べて、低い位置からの攻撃には反応しにくい、って訓練で習った。子供の小さな体格を活かして……
(狙いは……足!)
降りぬいた刃は、海賊の1人の足を捉えて切り裂いた。
「ぐあぁっ!?」
「っ!? ……こいつ!」
仲間が負傷させられて頭に血が上ったらしいもう1人の海賊が、こちらもサーベルを振り上げて、私めがけて殺すつもりで振り下ろしてくる。
それも読めてた。
横に半歩移動するだけでそれをかわして……振りぬいて隙だらけのところに、構えなおした剣を……喉めがけて突き出す。
―――ドスッ!!
しかし、狙いはわずかにずれて……それとも、とっさに海賊が体をひねってかわしたのか、私が突き出した剣は、喉ではなく肩に突き刺さった。
海賊は激痛に表情をゆがめながらも、痛みを上回る怒りを顔に浮かべていた。
「ぬぐっ……!」
その形相と、向けられる怒気・殺気に、私は思わず怯んでしまう。
しかも最悪なことに、素早く飛びのいて距離を取ろうとしたけど……肩に突き刺さった剣が抜けなくて、離れることができなかった。
刺さり方がまずかったのか、それとも海賊が肉を引き締めて抜けないようにしたのか……
ここで、剣を手放してでも距離をとるべきだったんだろう。
しかし、武器を手放す、丸腰になるということを躊躇ってしまった私は、むきになって剣を引き抜こうとしてしまい……
その結果、さっき斬りつけたもう1人の方が、すぐ横まで来ていたことに気づけなかった。
「このガキィ!」
「き――あぐぁあっ!?」
しまった、と思ったときにはもう遅かった。
めりっ、と音を立てて、海賊のつま先が私のみぞおちにめり込んで……まるでサッカーボールか何かみたいに、私の体は勢いよく蹴り飛ばされた。
そのまま地面に落ちて転がる。痛い。蹴られたところも……落下で地面に打ち付けたところも、両方すごく痛い。
しかも、蹴られたのがみぞおちだったせいで、上手く息ができなくて苦しい。
蹴られた拍子に剣は手放してしまい、最悪の形で丸腰にされてしまった。
……もっとも、痛みと苦しみに耐えるので精いっぱいで、持ってたところで役に立ったとは思えないけど。
「おい、大丈夫か相棒?」
「痛てて……ああ、こんくらい平気だ。お前こそ足は平気かよ?」
「どうってことねえよ、少し歩きづれえけどな。ちっ、このガキ……生意気に噛みついてきやがって。殺してやろうか」
海賊2人がゆっくり歩いて近寄ってくる。痛くて目が開けられないけど、足音が聞こえる。
逃げないと……逃げないと、殺される! 動け、動け私の体!
這ってでも逃げようとして、必死に手足を動かして……しかし、ほとんど動くことはできなくて。
……しかし同時に、なぜかいつまで経っても、海賊からの追い打ちが来ない……それどころか、近づいてくる足音さえ聞こえてこないことに、ふと気づいた。
不思議に思いながら、ようやく痛みが引いてきた体を動かして起こすと……さっきまで私が戦っていた海賊2人は、私……ではなく、私の後ろの方に、そっちにいる『何か』に視線を向けているようだった。
振り向いて後ろを見ると、そこに立っていたのは……身長3mは有りそうな、禿頭の巨漢。
いかにもな悪人面を不機嫌そうにゆがめて、私を見下ろしていた。その威圧感に、ひゅっ、と私の喉が変な音を鳴らしてしまう。
「おい、てめえらこんなガキ相手に何遊んでやがる」
「す、すいません船長……このガキ、思ったより乱暴というか、手こずっちまって……」
「い、今すぐふん縛っちまいますから!」
私だけじゃなく、海賊2人もこの男――彼らの船長らしい――には恐れおののいているのがわかる。機嫌を損ねないように、さっさと私を捕らえにかかるようだ。
けど、2人が動揺している今が最後のチャンスだ。あの2人……女性と子供はもうとっくに逃げたから、私が逃げても問題ないはず。
私は、まだこわばっている体と、いまいち動きの悪い肺を酷使しながら立ち上がって走り出す。
海賊2人と、その『船長』……その両方から離れるように。目指しているのは、今いるこの裏路地の、さらに奥に続く細い路地の入口だ。
すごく狭い道だから、子供ならまあスイスイ進めるけど、大人の場合は、中肉中背の普通の体格でも、1人通るのがやっとだ。体格のいい海賊がそこから先に追ってくるのは無理だろう。
後ろから『あっ、待て!』なんて声が聞こえるのを無視して走る。あそこに入ってしまいさえすれば、逃げられる。そう考えて必死に走って……
しかし、次の瞬間、
―――ドゴォッ!!
「がっ……は、ぉ゛っ……!?」
突然、横から何かがすさまじい勢いで激突してきて……私の脇腹に直撃した。
あまりの衝撃に、私は体を『く』の字にして吹き飛ばされ、地面に転がされた。
肋骨がきしむほど痛かった上に、肺の中の空気がほとんど全部抜けた気がする。上手く息ができない……苦しい、動けない。
そもそも今の、一体何が起きたんだと思って、苦しいのをこらえながら、何とか目だけ動かして見ると……その理由はすぐに分かった。
海賊の『船長』。その姿が……さっきまでとは大きく変わっていた。
全身毛むくじゃらになり、体は二回りくらい大きくなっている。口元から除く歯は、まるで野生の獣の牙のように鋭く、顔はもう人間のそれじゃなくなっていた。
この姿……ゴリラ? というか、これって明らかに……
「出た! 船長の『サルサルの実 モデル:マウンテンゴリラ』!」
「相変わらず、あんなにでけえのに速ぇし強ぇ……!」
(っ……やっぱり、『
巨大なゴリラと化した『船長』の、腕を振りぬいた……というより、虫でも払ったみたいな体勢を見るに……あの腕の一撃で今、私は吹き飛ばされたんだろう。
「かっ、は……ぅぐう……っ!」
しかも最悪なことに……お腹の方が痛すぎて気づけなかったけど、地面に落ちた時、頭を打ってしまったらしい。ズキン、と今頃頭に鋭い痛みが走り、意識が遠のいていく。
体に力は戻ってこないままに、目の前が真っ暗になっていく。
―――ふん、こんなガキにてこずりやがって。
―――すいません船長。こいつ思ったよりすばしっこくて……
―――もういい。さっさと運んじまえ。見た目はいいし、売っぱらえばいい金になりそうだ。
―――それと、その後はさっさとこの町の金品を回収しちまえ。
―――わかりやした!
海賊達が何か話しているのが聞こえていたけど、何を話しているのかまではわからない。
聞こえてはいるっぽいんだけど、頭に入ってこない。
襟首のあたりをつかんで持ち上げられるような、奇妙な感覚をわずかに感じたのを最後に……私の意識は、そのまま深く沈んでいった。