大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第70話 スゥの冒険記 とある冬島(3)

 

 

冬島サバイバル生活 4日目

 

生存者内訳

男:7名

女:2名

オカマ:3名

 

 ここまで脱落者はなし。

 以前と同じメンバーのまま、こうしてサバイバル生活を続けることに成功している。

 

 それなりに住み心地も悪くない拠点と、充実した食生活のおかげで、私達は安定した生活リズムを維持することができていて……そのおかげで、当初はけっこう絶望気味だった皆の気持ちにも、多少なり余裕ができ始めていた。

 

 もっとも、それがいい方に作用するかと言われれば、その限りではないのが残念なところ。

 

「なあ、おい。いいだろちょっとくらいよ?」

 

「そうそう、こんな状況じゃストレスたまっちまうんだからさあ?」

 

 ニヤニヤと下卑た笑みを張り付けて、シェレに言い寄っている海賊2人。

 言い寄られているシェレは、心の底から迷惑そう……というか、それを通り越して、いら立ちや怒りをにじませた表情になっている。手を出すのもアレだから、どうにかこらえてるけど。

 

 ただ、向こうが手を出してきて体に触れようとして来たりしたときには、容赦なく叩いたり払いのけたりしてるけど。

 

「うるさい。そんな元気があるなら他の者の仕事でも手伝ってこい」

 

 そう話を断ち切ってさっさと歩き去るシェレ。

 海賊達は『ちっ、お高く止まりやがって……』みたいな表情になって、面白くなさそうにこちらも歩き去っていく。

 

 要するに、『このサバイバル、なんとかなりそうだぞ』って感じで心の余裕が出てきたからか……今まで無視できていた欲求的なものが、鎌首をもたげ始めたようでして。

 まあ、言ってしまえば、エロ系のね?

 

 もともと、私とシェレの2人……この拠点でたった2人の女に対して、最初から劣情の視線を隠そうともしなかったのが、あの海賊3人だからな。

 

 今までは、生き残れるかどうかって状況だったから、そういうのに目を向ける余裕もなかった。

 しかし、凍死せずに眠れて休める拠点、美味しい食事、その他色々揃って、生き残れる希望が割と持ててきた。

 

 そうしたら今度はムラムラしてきたので……前々から目をつけていた女2人に声をかけて……っていうのが、ここに至るまでの経緯である。

 シェレだけじゃない。私も声かけられてる。何度も。

 

 もちろん、全部断ってるけどね。

 

 呆れと疲れをにじませた表情のシェレがやってきて、私のベッドの上……私の隣に座る。

 

 あ、今さらだけど私、段ボールベッドの上に座ってます。

 床は底冷えしちゃうんだよね。紙とかで敷物はしても限界があるし、素直に床より高いところで座ってればまだマシ。

 

「今日はいつもより冷えるから、同じ寝床でくっついて眠ったほうが暖かいだろう、だとさ」

 

「私もさっき言われた。絶対それだけで終わらせるつもりないくせにね」

 

 海賊3人は面白くなさそうにしつつも、まだチラチラこっちの様子をうかがってる。こーれ、諦めてないな。

 また口説きに来るか、あるいは、寝込みを襲いに来るか……。

 

 後者で来たらさすがに返り討ちにする他ないが……そうなったとしても、できれば殺さずに収めたいところではある。

 

 けどそれは、可哀そうだとか、人殺しをしたくないとか、そういう理由じゃない。

 空気を悪くしたくないからだ。

 

 ここまで数日間だけではあるけど、集団生活を続けてきたことで、大なり小なり仲間意識というか、集団意識みたいなものが、多少なり皆の心の中にあると思う。無自覚であっても。

 そんな中で、今まで曲がりなりにも一緒に戦って生き抜いてきた『仲間(仮)』を殺してしまうのは……集団の中の空気が悪くなる。

 

 まあ、そいつらの方に原因があるのは言うまでもないし、女性に乱暴しようなんて考え方そのものが言語道断なのは言うまでもない。

 

 頭ではきちんと皆それがわかるだろうし、私達が責められるとかそういうことはないと思う。

 けど、昨日まで一緒にいた奴が今日はいない、全員揃って今日を迎えることができなかった、という現実が、心に影をもたらす。

 

 無意識の感情ってのはバカにできないもんなんだ……こういう状況下では特に。

 

(それに……そんな風になってるのは、必ずしも海賊達だけじゃないっていうのがね)

 

 見てると、冒険家の方の3人も……時折こっちに視線をやってるのがわかる。

 海賊達とは違って、言い寄ってきたりすることはないけど、心の中では色々思っていることだろう。彼らだって男の子だからね。

 

 あと、ほとんど1つしかない部屋で一緒に寝起きしていて……さらに、衝立越しとはいえ、同じ部屋で私達が着替えたり、体を拭いたりしてるわけだし……そういうのも刺激になるか。

 

 爆発しそうな感じではないけど、我慢してるのは確かだ。

 

 繰り返しになるけど、そういうことを考えられる『余裕』が出てきたってことが、一応は喜ばしくもあり……しかし、自覚したからこそ、それを抱え込むのがストレスになるのは困ることでもあり……だからといって行動に移してもらっちゃあ困る。

 

 今のところはどうやら、普通に我慢するか、自分で『処理』してどうにかしてるっぽい。冒険家達も、海賊達も。

 時々、トイレに行った後に、妙にすっきりしてるから。

 

 ただ、もともと欲望を我慢するのが下手な海賊達が、いつか軽はずみな行動に走ってしまわないかというのを危惧するばかりだし……冒険家達にも色々溜まってはいくだろう。精神的に。

 命の危機に瀕するとそういう本能が刺激されるって言う話もあるし。

 

 ……いよいよどうしようもなくなったら、決断しなきゃいけないかもね。私と、シェレが。

 

 当たり前だが、トラブル回避のためにこちらが折れて『相手』をしてあげるとか、そういう決断であるわけがない。

 狼藉に及んだ者を追い出したり、最悪『始末』してでも私達の身を守る、という方だ。

 

 その後、拠点の空気が悪くなったとしても……私らにだって意地も尊厳もあるんだ。妥協できる範囲にも限界はあるし、そこに文句は言わせない。

 

 ……そうならないこと、そうなる前に助かることを、まずは祈るしかないか。

 死にたくなければ、妙な気は起こしてくれるなよ、馬鹿共。

 

「……でも、今日はほんとにいつもより寒いよね。焚火だけじゃ確かに寒いかも」

 

「もう少し布団を増やすか? いや、それだとまたスゥに負担がかかるが……」

 

「負担は別に何でもないんだけど……これ以上は布団の量や厚みでどうにかできる感じでもないんだよね。要するに、自分の体が発する熱を逃がさないようにしてるだけだから、限界がある」

 

 最初に作った段ボール布団にくわえて、薄い紙を何枚も張り重ね合わせて厚くした、重ねる用のやつも追加支給してるからね。

 紙に期待できる『保温機能』で言えば、今が限界だと思う。

 

 まあ、耐え切れないって程の寒さでもないから、大丈夫だとは思うんだけど……朝起きた時に、体がしん、と冷えてて、動き始めるのに難がある目覚めは極力避けたい…………そうだ。

 

「……いっそのこと、ホントにくっついて寝よっか? 私とシェレで」

 

「? まあ、女同士だし、私は別に構わんが……スゥはいいのか?」

 

「うん。それに、シェレさ……『獣人形態』か『獣形態』になって寝てくれれば、暖かそう」

 

 羽毛(そのもの)布団、って感じで。

 シェレは『よく思いつくな』って感じで呆れてたけど。

 

 ちなみに、よくフィクションとかで、雪山で遭難したら人肌で温め合うっていう奴あるじゃん? あれ、一応効果はあるみたいなんだよね、前に聞いた話だと。

 なんだかんだで、人間って体温高いし。湯たんぽ代わりにするのは割と効率いいらしい。

 

 ただもちろん、裸である必要はないんだが。普通に服着てた方が防寒上いいに決まってる。

 

 雪山に限った話じゃなく、海難事故とかでもそうだけど……汗とか水(雪が解けたもの含む)で濡れた服をそのまま着てると、逆に体温を奪われ続けるから、それなら脱いで裸になった方がいい。その上で、服がなくて寒いから裸同士でくっついて暖を取るのがいい。

 その間に焚火なりなんなりで服をきちんと乾かして、乾いたらまたきちんと着ればいい。

 

 雪山で遭難したら人肌だの裸だのってアレは、この話からエロ部分だけを抜き取って作られた話……っていう説が有力だって前に聞いた。

 ほんと、人間という生き物の妄想力は逞しいな……。

 

 

 

 まあ豆知識はこのへんにして……ひとまず今日の夜は、私のアイデアを採用した上で、一緒にくっついて寝ることにした。

 

 段ボールベッドを連結させてダブルベッドサイズにし、シェレが変身して羽毛を生やし……それで私を包み込む感じにしてくれた。

 その上からさらに、私も紙でベッドごと私達2人を包み込んで……あ、いいコレ。あったかいわ。

 

 私とシェレは、昼、狩りをして働く関係上、夜の間の見張りのシフトには組み込まれていない。だから、邪魔さえされなければぐっすり寝られる……はず。

 

「ちっ……見せつけてんのかよ、あの2人……」

 

「ああくそ、ヤっちまいてえ……」

 

「いっそ襲っちまうか? 寝てるところを抑えつければ、女の1人や2人くらい……」

 

 ……邪魔さえなければ、ね。

 

 しかし、まあ海賊3人は予想通りとしても……

 

「っ……お、俺、ちょっとトイレ……」

 

「おいおい……まあ、気持ちはわかるけどな」

 

「刺激強いよな、実際……2人とも美人で、ただでさえ華もあるし……」

 

「……尊い……」

 

 他の男性陣もなんだか、それなりにたまってるんだな、と察せられる声が聞こえてくるようだ。

 

 …………あと気のせいじゃなければ変なの混じってたな。誰だ今の?

 

「……一応、警戒はしておいた方がよさそうだな」

 

「そうだね。……私も、ちょっと予防線はっておくよ」

 

「? 予防線?」

 

「……“折神・警叫鶏(アラームコッコ)”」

 

 気付かれないように、私とシェレの寝るベッドの周りに、紙で作ったしもべである『折神』を仕込んでおく。鶏型で、敵意を持った者が接近すると警告・威嚇し、立ち去らない場合は絶叫してその存在を知らせる奴を。

 同じ奴は、この拠点の入り口にも設置してる。幸い今のところ、出番が来たことはないけど。

 

 結論から言うと、これまた幸いにも、その夜は狼藉者が私達を襲ってくることはなかった。

 

 

 

 ところで、『吊り橋効果』ってものをご存じだろうか?

 

 吊り橋の上とかで男女が2人きりになると、高いところでゆらゆら揺れて怖くてドキドキしてるのを、相手に恋してるんだと勘違いして親密になる……というアレである。

 ほぼほぼ都市伝説といっていい話だけど、全くのでたらめってわけでもないんだよね。

 

 極限状態に置かれた者達が、それを乗り越えるために力を合わせて立ち向かった際、強い仲間意識をはじめとした特別な感情を互いに抱くことは、実際にある。

 

 戦場で生死を共にした兵士なんかには特に多い話だ。あるいは、遭難状態になったり、災害に巻き込まれた時の生き残りとかにも同じことが言える。勘違いじゃなく、本当に特別で強い絆が生まれる、ってパターンだ。

 それが異性であれば、互いを思い合う感情に発展して特別な仲に……なんてこともあるだろう。

 

 もっとも、当然と言えば当然だけど、これは誰にでも起こるわけじゃなく、そう感じる人も感じない人もいる。

 そして、そこに生じる温度差が、後々のトラブルに発展しかねない危険というのもある。

 

 例えば、さっきの『戦場の兵士』の例でいえば……2人の兵士のうち、1人は、今回が初めての戦場で、死ぬほど怖い思いをした。

 そして今の例え話通りに、ともに命の危機を乗り越えた相手に、強い仲間意識を抱いたとする。

 

 けどもう1人は、バリバリにベテランの職業軍人で、死闘なんて何度も乗り越えてきたから、今更その程度で心を動かされたりはしない。

 仲間意識も特に生まれない。『大変だったな、お疲れ』くらいの認識である。

 

 この二人が後から再会して、『俺達親友だよな!?』『いや別に普通の同僚だけど……』みたいな感じで食い違いが起こり、結果、トラブルになったり、余計に大きな溝ができたり……ということもあるわけだ。

 これが男女の間で起こるともっとひどい。仲間意識が恋愛感情、あるいはそれを通り越して『命の危機を共に乗り越えた、彼(彼女)こそ運命の人だ!』なんてことになって、美談が一転、ストーカー被害者と加害者、あるいは性犯罪の……まあ、うん、そういうわけ。

 

 実のところ、こういうパターンも私は同じくらい警戒していた。

 

 オカマさん達はメンタルがものすごい頑丈さだから大丈夫かもしれないが、冒険家の3人とか、メンタル的に元々弱ってた奴隷の子とか……安心し、持ち直す段階で『特別な感情』が芽生えて……私達に向くんじゃないかって。

 いや、自意識過剰かもしれないのはわかってるし、なんならそうであってほしいよ。

 

 けど、この懸念が万が一現実になっちゃうとシャレにならないでしょ? 人間関係的にさ。

 思い込みもそれだけ強くなるから、それが叶わないと悟った時によからぬ暴走をすることになる可能性も、決して低くはないわけで……

 

 ストーカーがそうなると『君を殺して僕も死ぬ!』とか起こるじゃん。

 いや、殺されるつもりはなくて、100%返り討ちにしてみせるけど。

 

 

 

 さて、長々とそんな話をしてしまったわけだけど……私がいきなりこんな話を始めたのはなぜかというと、だ。

 

 吊り橋効果とか、その亜種云々に関しては……ぶっちゃけ大丈夫だと思ってたんだよね。

 冒険家3人然り、奴隷の子然り、そういう雰囲気は感じない。せいぜい、純粋にこっちに劣情を――それもどうかとは思うけど――感じてるにとどまってるから。感情の方が暴走している気配はない。今のところは。

 

 海賊の方は、こちらも感情じゃなくて劣情の方……それも、他の人達より大きい。

 でも、わかりやすいからきちんと拒否して、警戒しておけばこれも大丈夫。

 

 オカマさん達は大丈夫。彼女達の心は乙女だ。この安心感。

 というか最近、オカマさん達を『彼女達』と呼ぶことにもう抵抗がない。

 

 だから、大丈夫。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………そう、思っていたんだけども。

 

 

 

「……ね、ねえシェレ? ちょっとその……くっつきすぎじゃない?」

 

「いや、ほら、その方が暖かいから……な?」

 

「それはそうだけど……ひゃっ!? ちょ、ちょっと、手が変なところに……」

 

「す、すまん。どういう体勢ならもっと気も……密ちゃ……あー……暖かいかを探っていてな」

 

「まあ、確かにあったかいけど……っていうか、今何か別なこと言いかけなかった?」

 

「……すぅー……はぁー……」

 

「シェレ? ねえ、何で私の首元で深呼吸するの? 汗臭いでしょ? 体はふいてるけど、もう何日もお風呂入れてないんだから」

 

「大丈夫だ、問題ない。ほら、もっと羽毛で包んでやるから……声が漏れないように」

 

「う、うん、ありが……待って? 声が、ってそれ……声が出るような何かをするってこと―――」

 

「大丈夫だ。女同士ならセーフだ!」

 

「何がッ!?」

 

 

 

 ……極限状態って、怖いね。

 

 

 

 




なお、色々とギリギリなところまで行ったものの、年齢制限がかかるようなラインはどうにか死守した模様。

あ、冬島編、一応次ラストです。多分。

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