これは、私がまだ『4つの海』を回っていた頃。
たまの顔見せに『女ヶ島』に遊びに来ていた時に起きた、ちょっとした出来事のお話。
「『世界美女・美少女海賊ランキング』? へー、そんなのあんの」
「お主、外界で新聞を読んでおるニョじゃろ? それなのになぜ知らぬニョじゃ?」
「全部の種類の新聞読んでるわけじゃないからね。せいぜい『世経』か、行った先の地域ローカルな奴くらいだし。……あーでも、コレは結構メジャーな方の新聞社なのか」
久しぶりに遊びに来た『女ヶ島』で、ハンコックやサンダーソニア、マリーゴールド、それにニョン婆と、楽しく雑談しながら食事をしていた時のこと。
最近遠征に出た時に奪ってきたのだという新聞をニョン婆が見せてくれた。
いやまあ、もちろんニョン婆が奪ってきたわけじゃなく、遠征に出たハンコック達が奪ってきたんだけどね? 新聞とか本とかは、ハンコック達が欲しいと思うもの以外は、基本的に島の知識人筆頭的な立ち位置であるニョン婆の家に集まるのである。
で、その新聞……私がいつも読む『世界経済新聞』ではなく、それよりは規模は劣るけどかなりメジャーな新聞社のそれに、今言ったコーナーが乗っていたのである。
『世界美女・美少女海賊ランキング』だと。大海賊時代ならではの企画……なのかな?
読者の投票に加えて、独自のルートで現役の海賊や海兵とかにもアンケートを取って決めたランキングらしい。ゴシップ系のネタとか企画に力を入れてる新聞なのかな。
ニョン婆から借りて見てみると……なるほど、有名な、そして美人な女海賊達がランキングにはずらりと並んでいる。ほとんどが私も知っている、名前くらいは聞いたことがある面々ばかりだ。
トップはやはりというか、ハンコックである。世界一の美女なんて言われてその名を知られる『海賊女帝』が、ぶっちぎりの得票数で堂々の一位を取っていた。
すごいな……海賊、海兵、一般人の全投票者部門全部で一位だったんだってさ。……海兵にさえその美しさを認められて人気ってのは、さすがだと思う。
当の本人は、『すごいね』ってほめても『当然じゃ』って余裕たっぷりの態度である。
が、ちょっとだけ口の端が吊り上がって嬉しそうに笑った感じになってるのがちらりと見えた。
とはいえ、2位以下もそうそうたる面子だけど。
“氷の魔女”ホワイティ・ベイや、『ビッグ・マム海賊団』所属の大幹部“将星”シャーロット・スムージー、『魚人海賊団』所属“海底の戦乙女”マビアナ、“冬空の料理人”フローズン・ビューティ、『百獣海賊団』の“飛び六砲”ブラックマリアや、“霧の海の亡霊”ミス・ブルーメ……
美しさと強さを兼ね備えた女海賊達が並んでいるわけだが、なんとまあ嬉しいことに……その中に、私の名前もあった。
へー……7位だってさ。結構いいとこ行ってんじゃん、私。
ていうか、私って世間的に美女って認識だったん?
……まあ、容姿にもそれなりに自信はあるつもりだけど、そんなに気にしたことなかったしなあ……ほぼほぼ執筆のことばっか考えて生きてきたから。
活字を通してどう見られるか、どう受け取ってもらえるかの方がむしろ気になってた。ずっと。
まあでも、私も女だ。美人だって言われて悪い気はしない。
ちなみに他には、私の知り合いだと……11位にバカラが、そして6位にステラがいる。……さすがにあの美魔女には負けたか。
っていうか、ステラって海賊枠なんだね。
「付き従っているテゾーロが海賊じゃからな、それと同じ扱いにされておるということじゃろう。……というか、コレ本当に最近の写真か? ステラの奴……10年ほど前から全く年を取っておらんように見えるのじゃが……」
新聞に載っているステラの写真を見て不思議そうにするハンコック。……彼女から見てもステラの美魔女ぶりは不思議に思えるらしい。
……私やハンコックだって、あのころに比べたら年齢がそれなりに外見に出てるもんなあ。
もちろん、老けたとかそういう意味じゃなく、大人の女としての色気が前面に出て来たっていう意味である。『少女』から『女』になったがゆえの変化、とでも言うべきか。
なのにステラは、あの頃のまま、ちょうど『少女』と『女』の中間のような、かわいらしさと美しさが絶妙に同居した感じの……いやホントすごいな、何度見ても。
こんなきれいで性格もいい嫁さんもらったテゾーロ、マジで勝ち組だよな……。
「そういうお主はどうなニョじゃ、スゥ? 浮いた話の1つもないようじゃが」
「んー……まあ、旅してばっかだと出会いと呼べるもんもなくてねー。相変わらずというか、そういう相手は影も形もないよ。今のところは仕事が恋人って感じ」
「スゥ、それ10年前も言ってた気がするんだけど」
「そして10年後も言ってそうよね……」
呆れた感じで言ってくるマリーとソニア。
いいじゃん別に、特段そういう願望とかも今のところはないんだしさ、私。
それにそんなこと言ったら、あんた達やハンコックだって全然そういう話ないし、なんならその気も全然ないでしょうが。
「わらわ達は『九蛇』の戦士、男とは関わらず、気を許さずの掟を掲げて生きる身じゃ。何の問題もなかろう。……別にスゥとて、特に望むのでもないのであれば、男などと仲良くする必要もあるまい。友としてなら、テゾーロやレイリー、それとあの……なんだ、鳥がおろうしな」
鳥……ああ、モルガンズね。
そしてハンコックは相変わらずだな。『九蛇』の掟としてって以上に、そもそも彼女って奴隷時代の経験から『男』って生き物を嫌ってるし。
例外と言えば、恩人であるフィッシャー・タイガーや、私との共通の知人であるテゾーロくらいのもの。それ以外は近づかせるどころか、視界に入れるのすら嫌がるとかなんとか……。
「まあ、急げとも無理にとも言うつもりはニョいが……さりとていつかそういう日が来んとも限らニョいぞ。恋というのは落ちる時はあっという間じゃからの。東の海にはこんな諺もあるという……『恋はいつでもハリケーン』!」
「は……下らぬ。わらわが男などという野蛮な生き物に惚れる時など、未来永劫来るはずもない。かようなことを考える必要などないわ」
「まー私も、ハンコックほどとげとげしく嫌ってるつもりもないけど、やっぱ自分が誰かと……ってのは想像つかないかな」
いや実際、全然イメージできないんだよね。自分が誰か男の人に惚れて、その人といい仲になって……なんていう未来。
全く来る気がしないし、想像したとしても特に憧れも何も感じないというか……割とホントに、私一生独身なんじゃない? とか思ってしまう。そしてそれを特に嫌だとも怖いとも思わない。
少なくとも、今のところはね。
……数年後には、原作通りならハンコックは実に鮮烈な恋をすることになるんだろうけど……果たしてこの世界でもその通りになるのやら?
私の存在から来るバタフライエフェクトがどこまで仕事するか、だな。
そんな感じで女子トークしつつ、またしばし雑談というか歓談というか。
あらかた料理を食べ終えて、デザートのチーズケーキが運ばれてきたあたりで……ふと思い出したようにハンコックが切り出した。
「ところでスゥ、お主まだその『4つの海漫遊の旅』とやら続けるのか? もうそろそろ6年になるし、土産話を聞いている限りだと、あらかた国やら島やら回り終えたと思うが」
「んーそうかもね。けど今、『東の海』をまだ回ってる途中だから、もうしばらく続けるかな、あの海、海賊や海兵の強さ的には確かに最弱なんだけど……妙に面白いスポット多いんだよ。もう少しじっくり見て回りたいかも。まあでも、あと1年かそこらで終わると思うけどね。その後は……」
「その後は?」
「とりあえず『偉大なる航路』に戻って……それから先は考えてないかな。まあ、今までと同じように、冒険しつつ執筆していくことに変わりはないんだろうけど」
実際、『執筆』っていうライフワークを除けば、何をするために旅をしているとか、そのへんの具体的な目標みたいなものはないんだよね、私。
その場その場の思い付きで目的地を決めて、そこを楽しめるだけ楽しんで、満足したら次に行くか、足を止めてペンを取るか……って感じの日々だ。ここ数年、ずっと。
単純な繰り返しに思えなくもないけど、それでもすごく充実した日々だとも思っている。
今のところ、この生き方を変えるつもりも理由もない、かな。多分これからも、冒険する場所や規模が変わったりする程度で、同じように生きていくだろう。
この旅の間にさらに成長して強くなれた気もするし、そろそろ『新世界』を本格的に行動範囲に入れるのもあり、かもな。
「……ふむ……」
そんな私の話を聞いている間、ハンコックは何やら思案するような顔になっていた。
そして、話が終わった後、しばし黙って何やら考え込んだかと思うと、
「……のう、スゥ。今日は実はな……お主に話そうと、というか、相談ないし提案しようと思っていたことがあるのじゃ」
「ハンコックが私に相談……珍しいね。何を?」
「単刀直入に言うのじゃが……スゥ、お主……わらわの配下になる気はないか?」
…………はい?
「えっと、それは……どういう意味で?」
「今言った通りじゃ。いや、まあ……どういった形で、というのは様々あるがの。以前一度尋ねた話ではあるが、『九蛇海賊団』に入るか……あるいは、『九蛇海賊団』としてではなくとも、スゥが個人としてわらわの傘下に、という形でもいいのじゃが」
元々話すことを考えてあったかのように、すらすらと口から言葉が出てくるハンコック。
しかし、それを聞いてまだなんとなく私は、今の状況を理解しきれていない感じがした。
なので、もうちょっと詳しく、というかなるべく正確に意図を説明してくれるように頼むと、
「理由としては……大きく3つある。1つ目は、単純にお主と一緒に海賊ができれば楽しいだろうと思ったからじゃな。マリーやソニアがいるとはいえ、肩肘張らずに素のままのわらわで話せる相手がいると、やはり気が楽でいい」
あら、そんな風に思ってくれてるんだ。嬉しい。
さっきまで食事してた間も、そもそもの雰囲気的に凛とした感じではあったものの、同時に穏やかで柔らかい感じの空気もあったからな。
私が、あんな感じでハンコックが楽にしていられる相手として認識してもらえてるんだというのは、うん、普通にうれしいし、光栄かも。
「2つ目は……打算的な話じゃが、スゥの能力が、『九蛇海賊団』にとって有用だからじゃな。戦闘の実力はもちろんのこと、世界中を旅して様々な情報や知識を持っているという点は大きい。女ヶ島はどうしても、外からの情報が入ってこない分、世情に疎い部分があるからの」
なるほど、それは確かに。
この島で外の世界の情報を知るには、遠征に出た時に調べたり、新聞を買ったり奪ったりするくらいしかないからね。
『凪の帯』ってのはそういう場所だ。外からの侵入者が来ないが、その他必要なものも来ない。
だからこそ、『九蛇海賊団』として出稼ぎ同然に外界に略奪に出るのが重要になる。
そして3つ目は……
「今更言うまでもないことじゃが、わらわは今『王下七武海』の座にいる。そして、七武海及びその配下の海賊であれば、立場による恩赦によって海賊行為が合法化され、また海軍などに追われることもない。……スゥ、そなた以前から『海軍や賞金稼ぎに狙われるのがうざい』とかこぼしておったろ? その解決策になるかとも思っての」
ああ、なるほど……それは確かに。
ハンコックの……『王下七武海』の配下っていう立場があれば、ひとまず海軍や政府からは追われることはなくなるな。
賞金稼ぎは……どうだろ? 『七武海』になると懸賞金は解除されるけど、その傘下の海賊まで解除ってされてたか……?
(まあ、そのへんはおいおい確認する、ないし思い出すとしても……ハンコックの配下、かあ)
多分だけど、ハンコックも……配下とか部下にするとしたって、私を手下としてこき使うようなことを考えてるわけじゃないと思う。
こうして話を持ち掛けられている今も、真剣ではあるものの、雰囲気は変わらず、友達としての私に向けてくれる、柔らかい感じのそれのままだから。
名目上は『配下』だとしても、普通に友達感覚で一緒に海賊やろう、みたいな感じに扱ってくれるんだと思う。……まあ、他の船員達への示しみたいなものとして、きちんと船長として指示したことには従うとか、そのへんの最低限のけじめは必要だろうけどね。
私としても、ハンコックとは付き合いも長いし、一緒にいるのは楽しいから……彼女と一緒に遊ぶないし戦うのは嫌とかじゃ全然ない。むしろ楽しそうだ。
ただ、もう20年以上前に、当時の『九蛇』の船長だったシャクヤクさんの誘いを断った時にも思ったことなんだけど……私別に、海賊がやりたくてやってるわけじゃないし、海賊行為を積極的に楽しんで行うつもりもないんだよなあ。
『九蛇』みたいに、商船とか非加盟国相手の略奪とか、そのあたりをしたいとは思わないし……むしろどっちかって言うと、そういうのはぶっちゃけしたくない、というのが本音だ。
そもそも『海賊』を名乗った覚えもなく、なるつもりもなかったわけなので。
そしてこの話は、以前既にハンコックにも話して聞かせてあるんだけど……それでもこうして勧誘みたいな話を、改めて持ってきてくれたというのは……それだけ私のことを認めてくれている、買ってくれている、という認識でいいのかな。
うん……それはやっぱり、ホントに、嬉しい。
けどなあ……本格的に海賊になるのはやっぱりなあ……
……という感じのことを考えていたんだが、そんな私の思考に割り込むように、ハンコックが追加で話しかけて来た。
「まあ、スゥの言わんとすること、迷っていることはわかる。以前すでに聞かされておるからな。別に海賊がやりたいと思っているわけでないことも、それもあって『海賊』としての活動そのものを忌避しているきらいがあることもな」
「あ、うん」
「じゃが、その点を理解した上でなお、わらわは……わざわざこうして言葉にさせてもらったことであるし、正直に言わせてもらうが……お主が欲しい、と思っておる。海賊としても……友としても、じゃ」
おう、結構熱烈にアプローチしてくれるね。
まあ、その気持ちは純粋に嬉しいかも。
そしてハンコックは、真剣なまなざしのまま……『そこで、じゃ』と、少しタメを作るようにしつつ、続けて言ってくる。
「1つ、わらわからお主に提案したいことがある」
「提案? 何を?」
「スゥ、お主―――
―――わらわと『一騎討ち』をしてはくれぬか?」
途中で出てきた女海賊達の名前のうち、ホワイティ・ベイ、スムージー、ブラックマリア以外は即興で考えた適当な奴です。
今のところ本編内で出すつもりとかもありません。