これは、私がまだ気ままに『4つの海』を回っていた頃。
その終盤くらいで……途中でちょっと帰ってきていた『偉大なる航路』の、とある島で起こった、ちょっとした出来事のお話。
「ここが『アスカ島』……か」
『偉大なる航路』の中に存在する島の中でも、前々から気になってはいた、けれどなんやかんやあって来る機会がなかった島の1つ……『アスカ島』。
そこに私は訪れていた。
ちょうど時間あったし、この近くの島に用事があった帰り道で、ふと思い立って寄ってみた程度のことなんだけどね。
かなりマイナーな島なので、『ファイヤーワークス』や『エレナ』みたいに、どんな人が住んでて、どんな文化がある島だっていうような、事前の情報がほとんどなかった。
なので、勝手にイメージとか膨らませてて……名前が名前だし、もしかしたら日本みたいな和風の国とかがあるのかな? と思ってたんだけど……そんなことなかったな。
洋風っていうか、南国風? の、普通の島だ。家々の屋根とかがかやぶき屋根みたいに草でできて……いやでもコレを和風というのはさすがに無理がある。
どっちかっていうと、南の島の先住民っぽさが……民族衣装もそんな感じだし……いやでも、そんな中にも着物っぽいデザインとかが入ってて……
……日本のことをよく知らない外国人が、想像だけで東南アジア系やアイヌ民族や琉球王国まであれこれゴッチャにして作り上げた、アレな感じの日本のイメージ……とか言えばいいのか?
何を言っているんだかわからないと思うけど、実際この光景を目にしている私でも、これをどう表現すればいいのか困ってるくらいだから勘弁してほしい。くそ、物書きとして情けない……。
まあともあれ、そんな感じの小さな集落がいくつかある程度の島のようだ。
これといって見るところというか、観光名所・名物になりそうなものもないようで。
ただ、島のあちこちに遺跡っぽいものがあるみたいで……そこは少し見学してみたいかな、とは思うかもしれない。歴史はあるようだし……
何か、島に伝わる伝説とかそういうのないかな? 島の人達に色々聞いてみようか。
気まぐれとはいえせっかく『取材』に来たんだ。何の成果も得られませんでした、で帰るのは……できれば御免だし。
……そんな風に思いつつ歩いていたところなんだけど……
「いるのはわかってる。用があるんなら出て来て直接言えば?」
さっきから私をつけ回している、というか、警戒して見張っているような気配があったのには、『見聞色』でとっくに気づいていた。
害がなさそうだから放っといた。一応指名手配されてる身だ、気になって、ないし警戒してつけ回していたとしても不思議はないし、文句も言えない。
けれど、取材のために集落に向かって歩き出した途端に、その人から感じる警戒心とかその他の感情が跳ね上がったので、さすがに一声かけるか、と思った次第です。
で、声をかけて見て数秒後。
茂みの中から姿を現したのは……お、おおおおいおいおい!
「……この島に、何をしに来た……海賊」
出てきたのは、1人の男の人だった。
年齢は……20歳かそこらくらい? 青みがかった銀髪に褐色の肌、着流しのような服に、腰に差している1本の剣……特徴としてはこのあたりだろうか。
警戒を通り越して、敵意とも呼べそうなくらいの強い視線をこっちに向けてきている。
どうやら私が誰であるかもきちんと知っているらしい。特段、海賊と分かるような要素が見た目にはないはずの私をそう断定するってことは、手配書を把握してるってことだ。
まあ、それなら警戒されてても何も文句は言えないわけなんだが……そうだとしてもちょっと、1つ言わせてもらいたいことがあるんですが、いいですか。
「早々に立ち去れ……お前達にやるものなど、ここには、何も……」
「あの、ごめん、いきなり話ぶった切って申し訳ないんだけど……君、大丈夫?」
この人、ものっっっすごい顔色悪いんだけど。
顔青いし、息は荒いし、肩は上下してるし、足とか手も微妙に震えてるし、よく見たら服の下にちらちら包帯巻かれてるの見えるし、汗それかいてるの緊張でじゃなくて脂汗だろ?
それに、よく見ないとわからないけど……右腕、力が通ってないような……。ケガしてる? いや……動かないのか?
怪我? 病気? どっちにしてもすっごく具合悪そう。
左手で腰の剣に手をかけて抜こうとしてるけど、見た感じあんた割と絶対安静レベルの重傷では? だめだろこんな出歩いて……しかも戦闘なんかしようとしたら! なんならもう腰に下げてる剣すら重そうだし!
引っ張ったけど抜けなくて、もうちょっとちょっと力入れて、でもやっぱ抜けなくて鍔のとこカタカタカタカタ言ってんじゃん! 無理すんなって!
「うるさい……俺は……ハァ……ハァ……」
ほら立ってるだけで精一杯じゃん! そんなんで向かってこられてもこっちがなんか申し訳なくなっちゃうってば! 島を守ろうとして必死に立ち向かおうとしてるのは察するけども。
ごめんね海賊で。いや海賊のつもりというか自覚もないんだけどさ私。
……あ、いつの間にか後ろの方の茂みから、濃い青色の髪の女の子が心配そうにこっち見てる。
彼女さんかな? ほら、心配かけちゃいけないからさっさと帰……
「…………(ふらっ、ばたり)」
「「ああっ!!」」
ほら言わんこっちゃない!
まだ戦ってもいないのに、というか話し始めてから1分も経ってないのに勝手に限界にきてぶっ倒れたその青年を、彼女さん(推定)と私が同時に駆け寄って助け起こす。
……意識もうろうとしてるな。むしろよくこんな状態で立ち向かおうと思ったもんだ。仮にも海賊……無法者だとわかってる相手に対して。
相当な正義感や義侠心の持ち主なのか、それとも……あーもーどっちでもいいや。
お嬢さん、この近くに病院ある? 運ぶから案内して!
☆☆☆
場所は変わって、
「すいません、彼がご迷惑を……それに、ここまで運んでいただいて……」
「いやいや、気にしないで。……私が海賊、っていうか指名手配犯なのはホントだし、それで警戒させちゃったのは半ばこっちのせいだからね」
気絶してしまった青年……サガを、いつもの『魔法の絨毯(紙)』で運び、近くの集落の病院へ。
そこで私は、さっき隠れて私達の様子を見ていた娘さん……マヤという名前の彼女から、そうして感謝を述べられていた。
お医者さんがサガの手当てをしている間、とりあえずマヤには、私は指名手配されてるけど、特に何か悪いことをしにこの島に来たわけではないことと、数日かけてあちこち見学ないし取材した後は、迷惑かけずに帰るつもりであることを伝えておいた。
恩人と言っても多少不安な部分があったんだろう。それを聞いて、一応はマヤはほっとしていたようだ。
「よかった……実は、この島は数日前にも海賊に襲われていて……それで、サガはもちろん、皆、不安になっていたところだったんです」
「……ひょっとして彼、その時に怪我を?」
数日前の傷なら、まだ安静にしている必要がある期間でもおかしくない。
サガは立ち姿は中々様になってたから、一応戦える人ではあるんだと思う。それなら、その時に立ち向かって負傷してこういう状態になってしまったのかも。
具合悪そうなのもそうだけど、どうやらやっぱり動かない様子の右腕も?
「いえ、彼のこの腕はもともとで……ああいえ、もともとと言っても生まれつきじゃなくて、この島に来た時にはそうだったと言いますか……」
マヤが話してくれたところによると、マヤはこの『アスカ島』で生まれ育った身の上だけど、サガは違うらしい。
数か月前、この島にふらりとやってきた旅人?なのだそうだ。
その時には彼は、すでに右腕が動かない状態だったそう。
なんでも、そのさらに少し前に不慮の事故に遭ってしまったそうで……医者に見せた結果、腕が不随になっているとの診断だった。治る見込みはない、とも言われたそうだ。
どんな事故でそうなったのかまではわからないし、マヤさんも知らない……というか、当のサガにも詳しくは聞かされてないみたいだけど、そのせいでサガは、島に来た当時、既に半ば自暴自棄というか、失意の只中にあった感じだったそう。
そもそも何か目的があってこの島に来た感じじゃなく、ふらふらと放浪してたら流れ着いた、って感じだったそうだから。
けれど――ここからはマヤの話だけじゃなく、途中で話に割り込んできたそのへんのおばちゃん達の証言が混じってきます――そんなサガを放っておけなくて、マヤは何かと世話を焼くようになった。
最初は疎ましがるように『放っておいてくれ』とか冷たい態度だったサガだけど、献身的に彼を慰め、支えてくれるマヤの優しさを受け、少しずつ心を開いていき……最近ではすっかり、笑顔を見せて言葉を交わすようになっていたんだそうだ。
島ではすっかり2人は恋人同士だとみられていて、『このまま一緒になるんじゃないか』『むしろ早くくっつけ』くらいに思われているそう。
周りの人がそんな風に言ってるのを聞かされて、マヤが照れ臭そうにしてた……けど、気のせいじゃなければまんざらでもなさそうである。
「そ、そんなわけでして、サガはそのまま島に住んでくれることになったし、いざという時には自警団の皆と一緒に戦う、とも言ってくれたんです。サガは……右腕は動かないですけど、それを補って余りあるくらいの剣の腕があって……実際、自警団の人達も誰もかなわないんですよ」
「そうなんだ? それはすごいね……」
いやでもまあ、『ふらりと流れてきた』ってところから察するに、1人でこの『偉大なる航路』を旅し続けてきたようだしな。それも、片腕が動かなくなってからも。
なるほど、それなり以上には戦えるのか……案外、賞金稼ぎでもやってたのかも? 私の顔も、賞金首としてきちんと認識して知ってたし。
「けれど、この間の海賊の襲撃で怪我をして……幸い、きちんと治療はしましたし、あとはしばらく安静にしていれば塞がって治るはずの傷だったんですが……見張りの人から、スゥさんが島に入ってきたのを聞いて……」
「それで、海賊だとわかって追い返すために、ベッドから抜け出して剣持って出てきたと……」
マヤはもちろん、村の人達も皆、『無茶だ!』って止めたらしいんだけど、聞く耳持たず。
とても戦えるような体じゃないのに、このまま海賊と戦いになったりしたら……って、皆、心配していたそうで……マヤは心配しすぎて居ても立っても居られなくなり、ついてきてたそうだ。
「その……こんなこと言うのも失礼なんですけど、スゥさんがいい海賊でよかったです」
「あはは……とりあえず、お大事にね。私はその……さっきも言ったけど、何か悪いことをするつもりもないからさ。ただ、2~3日くらいこの島で観光というか、色々見て回って取材させてもらえればそれで……あ、何だったら監視とかつけてもいいよ? 心配だろうし」
「それは、ありがたいですけど……小さな島ですし、特に何も、見ていて面白いようなものもないですよ? 遺跡ならあちこちにありますが、ただ古いだけの建物ですし……」
「あーそうなんだ。んーでもまあ、何もせずに帰るのも損した気分になっちゃうから……とりあえず何もなくても、見るだけ見て帰ろうかなって」
そう言うと、なぜか彼女達(マヤ&近所のおばちゃん達。まだいた)は困ったような顔になり、顔を見合わせたりひそひそ話したりしている。
……? 何もないって言ってたけど、何か見られたら困るようなものでもあるのかな?
見聞色を使うまでもなく、困っているというか、どうしたらいいか戸惑って迷っている様子なのが見て分かるが……ふいに、マヤの後ろから、腰がめっちゃ曲がって杖を突いたおばあさんがでてきた。
「スゥ殿、といったかの。お主を話の通じる善人と見込んでの頼みがあるのじゃが……できるならば、余計な好奇心は出さずに、早々にこの島を立ち去ってはくれぬか」
「お、おばあちゃん……」
あら、マヤのおばあちゃんなのこの人? ……似てないな。年齢のことを差し引いても。
「これは、お主の身の安全を慮ってのことでもあるのじゃ……脅すような言い方になってすまないが、この島には……あまり誇れるようなものでもない、よくない言い伝えがあってのう。こうして頼む以上は正直に言わせてもらうが……ある、呪われた財宝が、この島には眠っているのじゃ」
…………ほう、続けて?
なんだろう、すごく私好みの、伝説とかそういう系のお話が聞けそうな空気になってきたぞ。
☆☆☆
で、聞いてみたところ、
「なるほど……『七星剣』、ですか」
「左様。この島には、かつて人々を災いから守るための守護の剣として祀られ……しかし、人の欲望による醜い争いの結果として、その剣そのものが災いをもたらす存在となってしまった、呪われた聖剣が存在するのじゃ」
「一部では、島の外にもその噂は語られているらしくて……『世界で最も美しい剣』なんていう噂もあるみたいなんです。それを聞いて、時たま海賊がやってきて……先日の海賊も、それの噂を聞いて、『七星剣』を奪おうと襲ってきたみたいなんです」
「しかも、単にオカルトな言い伝えがあるだけの普通の剣ってだけじゃなく、ガチでヤバい呪いのかかった……特級呪物だと」
「トッキュ……が何かはわからんが、まあ、危険なものであることは確かじゃ。3つの宝玉の力によってその呪いは抑えられておるが、それでも……ひとたび『七星剣』を手に取ったものは、無敵の力を手に入れられるが、その代償として、あくなき力への渇望に心を支配され、戦いと悲劇を広げるためにその力を振るうようになってしまうとされておる」
そんな剣が、この島の遺跡には安置されていると。
だから近づくな、ってことね。万が一にも手に取って、その呪いを受けて暴力の化身になってしまったら……私も、島の皆も危険だからって。
……困ったな。そんな話聞いちゃうと……
(欲しい、とは言わないまでも……ガッツリ取材したくなっちゃったんだけどどうしよう? できるなら、現物見てみたいし、写真とか取りたい)
「……あの、物は相談なんですけど」
「ダメじゃ」
「まだ何も言ってないんですが!?」
「言わんでも分かるわい。お主ちょっと鏡か何かで自分の顔見てみい、『面白そう』『見たい』『詳しく聞きたい』『欲しい』ってめっちゃ書いてあるぞ」
「『欲しい』以外は全部当たってるのでお見事です。……正直、取材対象としてはすごく魅力的な話を聞いてしまったので……えーと、見るだけでもダメですか?」
「それは、その……」
「遠慮してもらいたい。言い伝えの中には、一目見ただけでその剣の輝きに魅入られ、呪いの影響を受けるようになった者もいたとすらあるのじゃ。『七星剣』を守る一族の者として、この島を危険にさらすことはできんのじゃよ、理解してはもらえぬか」
静かな口調ではあるけど、意思を曲げるつもりはなさそうだって言うのも伝わってくる口調だった。
これは……無理かなあ。
本音を言えば、こっそり忍び込んででも見せてもらいたいくらいには気になっちゃってるんだけど……『悪いことするつもりはない』ってさっききちんと言っちゃったしなあ。
これは……今回はあきらめるしかないか。マヤ達を不安にさせるわけにもいかないしね。
「わかりました。だったら……そういう言い伝えとか、こう言っちゃなんですけど、面白そうな話みたいなのがあったら、他にも聞かせてもらったりすることはできます? 私、そういうのも結構大好物なんで、そっちを取材することにします」
「そのくらいなら、まあ、構わんじゃろう。無駄に歴史だけはある島じゃからな、その手の話は、色々と伝わっておる。眉唾なものも含めてな」
「ありがとうございます。遺跡はまあ……立ち入ってほしくなさそうなので、外からちょっと眺めるくらいならいいですか?」
それも了承されたので、ほっと一息。
さて、じゃあ……
「このくらいなら納得してもらえる……というか、安心してもらえるかな? サガさん?」
「…………気づいてたのか」
さっきから意識を取り戻し、しかし黙って寝たふりをしながら私達の話を聞いていた彼……サガが、ゆっくりと目を開きながら起き上がった。
他の人達は、マヤも含めて驚いてる様子なので、気づいてなかったみたい。
私もまあ、『見聞色』でこっちをうかがう気配と感情を悟って気づけたんだけどね。
今の話で、一応、私がホントにこの島の人達に害はないことはもちろん、おばあさん達が言ってた話で、触れてほしくない、近づいてほしくない部分……『七星剣』関連のことについても、荒らすつもりはないってことを理解してもらえたかなと思ったんだけど……
しばし、こちらを睨むように見てくるサガ。
自然体でその視線を受け止める私。
そのどっちもを交互に見ながら、ハラハラしている様子のマヤ。
少しして、小さく息をついてからサガが、
「……何か妙な真似をしているようだったら、すぐにでも追い出すからな。覚えておけ」
「はいはい、肝に銘じますよ」
よし、滞在許可は下りた。
さーて、やれることは限られちゃったけど……取材開始だ。