大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第78話 スゥの冒険記 呪われた聖剣(3)

 

 

 こいつと私が出会ったのは、もう10年近く前になる。

 

 といっても、何か劇的な出会いみたいなものがあったわけじゃなく……ただ単に、敵同士として戦ったってだけなんだけどね。

 

 まだ『4つの海』漫遊の旅の途中だった私だけど、たまたまちょっとした用事で『偉大なる航路』に戻ってきてた。

 そんで、近くまで来てたので『エレナ』に寄って行こうと考えて……その途中、同じ方向に向かっている海賊船に遭遇した。

 それがガスパーデの船だったのである。

 

 ガスパーデは、元海軍将校という異色の経歴を持つ海賊で……海軍ではその成り立ちから『海軍史上最悪の汚点』なんて呼ばれているらしい。

 懸賞金額は9500万ベリー。通称『海賊将軍』。

 『偉大なる航路』中盤ではかなりの大物と言っていい額だから、彼を恐れ、あるいは無法者としては慕う者も多かった。それらを引き連れて、いっぱしの海賊として暴れまわっていた。

 『アメアメの実』の能力者で、体を自在に水飴状に変化させられる『水飴人間』であり、覇気をまとっていない普通の攻撃が効かない点も、その恐ろしさに拍車をかけていたんだと思う。

 

 まあそれでも、覇気を習得していた当時の私からすれば、言っちゃなんだがそこまでの強敵でもなかったので、さくっと撃退しておいた。

 

 どうも『エレナ』に向かっていた様子だったので、私のお気に入りの町に手出してんじゃねーよコラ、という気持ちを込めてボッコボコにしてやった。

 率いていた船3隻のうち1隻を沈めて、残り2隻はまあ……敗走し始めたので、まあいいかと思って見逃してやった。

 

 頭目であるガスパーデはその時に海に叩き落したと思ったんだけど、どうやら部下が助けてたらしいな。

 

 さて、ガスパーデと私のファーストコンタクトはこんな感じだったわけだが……なんでそんな奴に私がこうして、サガの治療のために連絡を取っているのかというと、話は簡単。

 私に敗走した後のガスパーデを、その海賊団ごと、パパが取り込んで傘下にしたからだ。

 今は本人の実力はもちろん、元海軍将校としての統率力その他諸々を買って、いくつかの船を任せているとのこと。

 

 もっとも、その時はまだ私はパパと出会う前だったので、そのへんのことは知らないし関わってもいなくて……後日顔合わせをしたときに『あれ、なんであんたここに?』みたいな感じになったのを覚えている。

 まあ昔はどうあれ、今は(どっちかっていうと)味方だし、覇気も覚えて前よりがぜん強くなっている。頼もしく思わせてもらってるよ。

 

 

 

「で、どうかなガスパーデ? 治りそう?」

 

「俺に聞くな、お嬢。俺が診察するわけじゃねえんだからよ……それで、どうなんだ?」

 

「は、はい。お嬢様の見立て通り、神経をやられているようですね……ですがこの程度であれば、外科手術と投薬治療の組み合わせでどうにかなる範囲かと」

 

「……っ! 本当か!?」

 

 今現在私達がいるのは、沖合に停泊しているガスパーデの船の上。

 そこで、彼が管理している船の一つである医療艦――乗っているのは主に闇医者だが、腕は確かである――にサガと、付き添いのマヤを運んで、診察してもらったところだ。

 

 ガスパーデは、言っちゃなんだが人相も凶悪だし、まさに『海賊らしい海賊』って感じなので、海賊に襲撃を受けたばかりの『アスカ島』に直接上陸させるのは、住民の心の安定その他を考えるとあまり得策じゃないと思ったからね。

 現に、サガも……ガスパーデの凶悪な顔面を見て体をこわばらせてたし。

 

 まあ、私がきちんと言い聞かせてあるから大丈夫ではあったんだけど、それでも緊張感は保ったままだった。診察中も、ずっと。

 

 で、サガの腕に話を戻すが……問題なく回復するであろう見込みだとのこと。

 神経の傷だから、さすがに時間はかかるだろうけどね。

 

 詳しい説明を行った後、サガの同意を得てそのまま手術を行うことになった。

 というか、準備はもうすでにできていたので、むしろそのまま始まった。

 ささっと手術室にサガを運び込み、麻酔を注射して眠らせ……手術中は私やマヤは外に出てたので、どんなふうにやったのかまではわからないが、割とすぐ終わった。

 

 いやホントに早いな。まだ1時間どころか、30分経ってないよ。もう終わったんか。

 

 しかもどうやら、腕だけじゃなくて他の傷とかもついでに治したっぽいし。全身あちこちに包帯が巻かれて、消毒液みたいな薬品臭が漂ってくる。

 

 さすがは元とはいえ、『医療大国ドラム』の医者だ。外科方面も腕は確かだな。

 

 ……そういえば原作でも、ほぼギャグシーンだったとはいえ、ワポルがドルトンさんに斬られて怪我した時にその場で、しかも屋外で外科手術なんかやって秒で完治させてたしな。

 

 1時間後には麻酔が切れて目を覚まし、包帯だらけになった上でガッチガチに固定された右腕を不思議そうに眺めているサガがそこにいた。

 

 マヤ立ち合いの元、執刀医の先生から今後の治療についての説明を聞く。

 

「え、じゃあ……入院とかもしなくてよくて、このまま島に戻ってくらして大丈夫なんですか?」

 

「ええ。もちろんきちんと治るまでは動かしてはいけませんので、ご自宅で安静にしてもらうことになりますが。まだ若くて体もすばらしく丈夫なようですし、そこまで時間はかからないと思いますよ」

 

 よほど普段から鍛えていらっしゃるんですね、と感心したように言う先生。

 

「大体の目安ですが……3~5日もあれば手が動くようになるでしょう。2週間後には日常生活を送る程度でしたら問題なくできるようになります」

 

「そんなに早く……」

 

「信じられん……前に医者に見せた時は、一生動かないと言われていたんだが……」

 

「その医者が腕が悪かった……というわけではありませんよ。自画自賛ですが、私の祖国はかつて『医療大国』とまで呼ばれていて、世界でも屈指の医療技術を持っていた国だと自負していますからね。それに、画期的な新薬などもいくつも備えていますから」

 

(ガスパーデ、その『新薬』って多分、未認可の奴だよね?)

 

(そうだが、効果は確かだし安全性も確保してあるそうだから安心してくれていい。傷が治る代わりにやばい副作用があったりとかそんなことはねえよ)

 

 小声でガスパーデに確認。ならよし。

 まあ、海賊が開発したものだし、世界政府の認可なんて降りるはずもないしね。

 

 あ、そうだついでに確認。

 

「先生、サガって剣士なんだけど、剣の稽古とかできるようになるのはいつぐらい?」

 

「剣、ですか……そうですね。あまり激しくない程度のものであれば、リハビリも兼ねて、3週間後くらいから始めてもらって大丈夫ですが……鍛錬はどのようなことを?」

 

「いつもやってるのだと……重石に岩を背中に乗せて腕立て伏せとか、岩を括り付けた鉄の棒で素振りとか、島一周泳いで心肺機能を鍛えたりとか……」

 

「………………」

 

 医者の先生がわかりやすく絶句しております。

 いや、そんなことやってたんかい。……どっかの海賊船の三刀流の剣士みたいなことを……

 

「ま、まあ、あなたの体の頑丈さならそういうのも可能なのかもしれませんが……最低でも3週間は見てもらいたいですね。それを超えたら徐々に負荷を大きくして、様子を見ながらトレーニングを行っていけばいいかと。大丈夫だとは思いますが、もし腕……特に、骨に痛みや違和感があるようだったら、直ちに中止して様子を見てくださいね」

 

「ああ……ありがとう、感謝する」

 

 サガのその短い言葉の中には……わかりやすく喜色がこもっていた。

 このやり取りの中から、また自分は剣を振るえるようになるんだっていう実感が確かにわいてきたのかもしれない。その時が今から待ちきれない、のかも?

 

 まあでも、それにはきちんと傷を完治させることが肝要である。

 私の迎撃に出て来た時みたいに、無理して余計に体調を悪化させるようなことがないように……マヤにはきちんと見ていてもらわないとだね。

 

 それこそどっかの海賊狩りみたいに、まだ治り切ってないのに過酷な訓練とか始めたりしたら、今度こそ笑えないことになりそうで怖いもの。

 

「ちなみにその……治療費とかは?」

 

「お嬢の紹介だから無料でいい。今回だけだがな。ああそれと……お嬢から言われてたものも持って来てあるぞ」

 

「おっ、ホントに? ありがとガスパーデ」

 

 思い出したようにガスパーデは、そのあとすぐに、部下に言って『それ』を持ってこさせた。

 

 運び込まれたのは、1本の刀だった。

 最近ガスパーデが交戦して沈めた敵の海賊船から奪ったものの1つで、自身は剣を使わないし、かといって『業物』だし、雑兵に使わせるにももったいないので死蔵してたものだそうだ。

 

 これを、サガにプレゼントします。

 

「いいのか? ありがたいが、しかし、コレ……相当な名刀じゃ……」

 

「いいのいいの、こっちも『七星剣』もらっちゃったしね。えーとガスパーデ、ちなみにコレは?」

 

「業物『獅童』……だそうだ。俺自身は詳しくないんで、部下に調べさせたんだがな」

 

 サガは、その刀の感触を確かめるように柄をぐっと握ってみて……やる気に満ち溢れた笑みを浮かべていた。

 ……おーおー、待望の玩具を買ってもらった子供みたいに嬉しそうな表情しちゃってまあ。

 

 わかってるかー? それを振っていいのは最低でも3週間後だからな?

 

 今もちょうどその横で、微笑ましいのと呆れてるのが半々くらいになってるマヤに、きちんと見ていてもらわないとだね。ほんとに。

 

 ひとまずコレはマヤに預かっといてもらって、と。

 

「あんたにはでかい借りができたな……俺の腕だけじゃない、島のことや、マヤのこと……それに、あの妖刀のことも。今後何か、俺が役に立てることがあったら言ってくれ、全力で力になる」

 

「本当に……ありがとうございました」

 

 2人そろって頭を下げてくれた。

 『いーっていーって』とあくまで軽い感じに返しておく。こっちももらうもん貰ったし、色々と面白い話も聞けて取材も楽しくさせてもらったしね。

 

 とまあ、そんな感じで、サガを島に送り届けた後……せっかくなのでガスパーデに乗せてもらって、私はそのまま『アスカ島』を後にした。

 

 思わぬお宝も手に入ったし、いや、中々楽しかったな。

 

 ……ああそうだ、後でこの『七星剣』……刀鍛冶か何かに見せて、どの程度の名刀なのか調べないとね。

 装飾は和風だけど、両刃だし、鮮やかなヒスイ色の刀身からして、西洋の剣にも見えるっていう不思議な剣だ。……位列とか持ってんのかな?

 

 まあ、どうだったとしてもうかつに他人に渡すわけにはいかない刀なのに変わりはないだろうけどな……それなりの覇気使いじゃなきゃ、持っただけで呪われるんじゃ、危なっかしくて人にあげるわけにもいかない。

 

 やっぱり当面は、私が体内に収納しておくことにしよう。

 

 出番は来ないと思うけどね。私にはこないだハンコックにもらった『浮雲』があるし。

 まあでも、何かあった時のスペア武器くらいには……なるかな?

 

 

 

 


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